価値割引パラダイムを用いた先延ばしの測定―回避・衝動性の観点から

価 値 割 引 パ ラ ダ イ ム を 用 い た 先 延 ば し の 測 定 ― 回 避 ・ 衝 動 性 の 観 点 か ら ― HP24-0070E 金子美帆
専修大学人間科学部心理学科・大学院文学研究科心理学専攻「人を対象とした研究倫理
委員会」の承認を経て実施した研究は, 「ものごとの取り組みと気分との関連(15-S004-3)」
です。本研究にご参加いただいた方へのフィードバックとして, 研究の目的と, 結果から得
られたことについて以下に簡潔に記載しております。以下の内容に関して, 疑問点やより詳
細な内容についてのご興味などがございましたら, 指導教員の国里愛彦まで, お問い合わ
せください。
問 題 ・ 目 的 やらなければならないことを後回しにする先延ばし(procrastination)は殆どの人が経験
する。先延ばしは抑うつや不安と関連を示し(小浜・松井, 2007)、精神面、行動面にネガテ
ィブな影響を及ぼしている。先行研究では、先延ばしは特性として捉えられ、質問紙を用い
て測定されている。しかし、先延ばしに関して一貫した知見が得られていないのが現状であ
り、小浜・松井(2007)は先延ばしを単一的に捉えていることがその原因と指摘している。
Van Eerde(2000)は先延ばしを回避、衝動性、状況という枠組みから捉えられることを言
及し、さらに実験的な先延ばし研究が殆ど無いことを指摘している。そこで本研究では、回
避・衝動性の指標となる価値割引を用いて先延ばし傾向を実験的に測定できるかどうか検討
した。仮説 1 として、課題に関する価値割引について、より割り引く人ほど先延ばし傾向
が高くなるとした。仮説 2 として、価値割引をより割り引く人ほど抑うつや不安が高いと
した。
方 法 実験参加者 72 名(男性 19 名、女性 53 名) を対象として課題と金銭に関する価値割引課題
を行わせた後、各質問紙への回答をさせた。実験課題は価値割引課題(課題、金銭)×報酬/
負荷量(大・小)の 4 条件であった。課題の価値割引を回避の指標とし、金銭の価値割引を衝
動性の指標とした。Decreasing Adjustment Algorithm (e.g. Du et al., 2002) を参考に課題
の価値割引課題を作成した。実験課題の妥当性検討のために、General Procrastination
Scale (GPS)日本語版(林, 2007)を使用して先延ばし傾向を測定した。また、抑うつの測定に
PHQ-9 日本語版 (村松・上島, 2009)、不安の測定に GAD-7 日本語版 (村松他, 2010)を用いた。
結 果 と 考 察 価値割引の指標として、割引く人ほどその面積が小さくなる曲線化面積を使用した。各
条件の曲線化面積、GPS 日本語版、PHQ-9 日本語版、GAD-7 日本語版に関して相関分析を行
った。その結果、課題小条件と GPS 日本語版間に有意な弱い負の相関がみられ、仮説 1 は
支持された。これより、価値割引を用いて実験的に先延ばしを測定し得ることが示された。
また、課題大条件と PHQ-9 日本語版間に有意傾向な弱い負の相関がみられ、課題条件と GAD-7
日本語版間には相関がみられなかったことから、仮説 2 は一部支持された。後者について、
先延ばしと関連する不安は課された課題を遂行できるか否かに対する不安(Solomon & Rothblum, 1984)と考えられる。本研究の実験課題では「課題をいつ始めるか」に焦点を当
てたため、課題遂行の可否については考慮されず、従って不安との相関がみられなかった
と考えられる。 本研究の展望として、今回の実験課題は探索的に作成した部分があったため、今後は汎
用性を高めていくために実験課題の改善、検討がなされることが望ましい。