嫌悪感受性からみた触覚イメージと感情の関係

嫌悪感受性からみた触覚イメージと感情の関係
○岩佐和典 12・田中恒彦 2(非会員)
(1 就実大学教育学部・2 滋賀医科大学地域精神医療学講座)
キーワード:触覚イメージ,感情,嫌悪感受性
An influence of disgust sensitivity on the relationship between tactile imagery and emotion.
Kazunori IWASA12 and Tsunehiko TANAKA2
1
( Faculty of Education, Shujitsu University, 2Department of Community Psychiatric Medicine, Shiga University of Medical Science)
Key Words: tactile imagery, emotion, disgust sensitivity
目 的
感覚イメージと感情との関係については,既に多くのエビ
デンスが蓄積されているものの,その多くは視覚イメージに
関するものであり,触覚イメージと感情とのつながりについ
ては未だ十分な検討が行われていない。本研究では,触覚イ
メージと感情の関係について,特にイメージ形成に伴う感情
価(valence)に注目して検討した。その際,嫌悪的な対象へ
の接触回避を症状に含む「汚染恐怖」の病態理解に寄与する
知見を提供するために,汚染恐怖や嫌悪感受性の影響も考慮
に入れて,触覚イメージと感情との関係を検討した。
まず,触覚イメージの感情価を規定する要因を明らかにす
るために,触覚イメージの鮮明性や,対象物との接触頻度と
いった触覚イメージ関連の変数や,状態不安などの感情状態
の指標,さらには嫌悪感受性や汚染恐怖傾向といった個人内
変数を説明変数とした重回帰分析を行なった。
さらに,汚染恐怖の病態理解と,汚染恐怖における触覚イ
メージに焦点化したイメージ曝露療法の発展に向けた基礎的
な知見を得ることを目的として,触覚イメージの感情価や,
イメージ形成の抑制といった現象を,嫌悪感受性と汚染恐怖
傾向から説明するモデルを構築し,その適合度を検証した。
方 法
調査対象者と調査手続き:日本各地の一般大学生と,一般の
地域住民を調査対象とした。大学の授業時間内,もしくは地
域住民を対象とした学術講演会において調査票を配布し,調
査への協力を依頼した。調査に協力した 491 名のうち,過去
1 年間に精神科・心療内科への受診歴が無いと報告した者,
改訂嫌悪尺度日本語版の除外基準を満たさなかった者,414
名(男性 212 名,女性 202 名)を分析対象とした。分析対象
者の平均年齢は 20.30 歳であった(SD = 3.77, Range = 18-64)。
調査内容:調査票には以下の質問紙尺度が含まれていた。
1. 改訂嫌悪尺度日本語版(DS-R):改訂嫌悪尺度の日本語版
(岩佐・田中, 2013)を用いた。DS-R 日本語版は 19 項目 3
因子(中核嫌悪,動物性嫌悪,汚染嫌悪)と,回答の信頼性
を確かめるための「釣り項目」2 項目を含む尺度であり,回
答者には 5 件法で回答を求めた。本研究では,3 下位尺度を
合計したものを嫌悪感受性の指標とした。
2. Padua Inventory 日本語版(PI):強迫性障害の症状を測
定するための 60 項目の 5 件法尺度である。5 因子のうち,
「汚
染」因子を汚染恐怖傾向の指標とした。
3. 触覚イメージ鮮明性尺度(VTIS)
:20 個の刺激語に対する
触覚イメージの鮮明性(5 件法)と,それにともなう感情価
(7 件法:1 が快,4 が中性,7 が不快)を測定する尺度であ
る。刺激語は,ポジティヴ語 10 語(子犬,クッションなど)
,
ネガティヴ語 10 語(クモ,血など)からなる。各刺激との接
触頻度(5 件法)を加えて実施した。
4. 状態不安尺度(STAI-S):状態的な不安を測定するための
20 項目 4 件法尺度である。
5. PANAS 日本語版:ポジティヴ・ネガティヴな感情状態を測
定するための 20 項目 6 件法尺度である。
結 果 と 考 察
1.触覚イメージの感情価の規定因:触覚イメージの感情価を
目的変数とした重回帰分析を行った結果,嫌悪感受性と汚染
恐怖傾向が感情価に正の影響を及ぼし,イメージ鮮明性と接
触頻度が負の影響を及ぼすことが示された(表 1)。本研究で
の感情価は,不快であればあるほど点数が高くなる変数であ
る。よって,嫌悪感受性と汚染恐怖傾向が不快感を高めるが,
鮮明なイメージを形成できたり,対象物との接触経験が多か
ったりすると,その不快感が低くなることがわかった。一方
で,状態不安などの感情状態は,触覚イメージの感情価を規
定する要因とはいえないことが示された。
2. 嫌悪感受性と汚染恐怖からみた触覚イメージのモデル検
証:1.嫌悪感受性と汚染恐怖が不快な感情価を高める。2.
感情価が不快になるほど接触頻度も下がる。3.感情価が不快
になると鮮明性が抑制され,接触頻度が多いと鮮明性が向上
するといった仮説をモデルにまとめ(図 1),構造方程式モデ
リングによるパス解析を行った。その結果,モデルの適合度
は極めて良好であった(たとえば,AGFI = .99,RMSEA = .03)
。
引用文献
岩佐和典・田中恒彦(2013)
.嫌悪尺度改訂版(DS-R)の日本
語版作成の試み(1) 日本心理学会第 77 回大会発表論文
集,3PM-111.
(Iwasa, K. & Tanaka, T.)