第26回CEEシンポジウム エネルギー需要を科学する 2016/11/21 電力システムから見た需要部門 に対するニーズとHEMSの役割 東京大学 生産技術研究所 岩船由美子 1 はじめに • 電力システム(エネルギーシステム)から見 た需要部門に対するニーズ – 省エネとデマンドレスポンス(DR) • HEMSの役割 – エネルギーマネジメント • 省エネ • 再エネ増加に伴う、需給制御の困難化への対応、需要 の役割拡大 – QOL(生活の質)向上・維持 2 省エネルギー目標 (長期エネルギー需給見通し) 最終エネルギー消費[10^6kl] 400 350 380 369 365 361 377 326 300 250 200 輸送 150 家庭 100 業務 50 産業 0 ・2030年省エネ目標(家庭):2013年比較で、27%のエネルギー削減、 19%の電力削減目標 ・省エネ目標を達成するためには、電気料金47.5%以上の上昇が必要とい う試算も(星野他、長期エネルギー需給見通しで想定された省エネ対策コ 3 ストの推計、電力中央研究所ディsカッションペーパー、2015) 家庭用エネルギー消費国際比較 アメリカ('09) カナダ('10) 33 17 6 39 2 64 フランス('10) ドイツ('10) 11 8 53 イギリス('10) 14 6 50 13 10 47 95 18 18 102 暖房 70 72 冷房 70 給湯 日本('11) 10 1 韓国('08) 14 18 1 23 0 20 43 16 13 40 照明・家電・その他 53 60 80 100 120 世帯あたりエネルギー消費量[GJ/世帯・年] 出典)「家庭用エネルギーハンドブック」住環境計画研究所(2014) 注)※アメリカ:その他には、調理、照明と家電が含まれる。 ※韓国:その他には、家電とその他が含まれる。 4 長期エネルギー需給見通しにおけ る家庭部門省エネ対策 新築住宅における省エネ基準適合の推進 既築住宅の断熱改修の推進 高効率給湯器の導入 高効率照明の導入* トップランナー制度等による機器の省エネ性能向上* HEMS/スマートメータを利用したエネルギー管理* 国民運動の推進 0 100 200 省エネ量[10^4kL] 300 400 *は電力に関する対策、世帯当たり3つ合計で1000kWh/年・世帯を越える削減量 (現状の消費量:戸建て4,800kWh/集合3,500kWh程度) (出典:環境省家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査 試験調査2015) 5 家庭の省エネは可能? • 家庭部門に対する省エネニーズは大きいが、そも そも日本の家庭は省エネであり、全体に効く対策 は限定的。 – 躯体の性能向上 • 住宅セグメントを絞れば、省エネ余地はある – 集合住宅のオーナーテナント問題 – 単身世帯の3点機器省エネ化 • 冷蔵庫(非インバータタイプ)、給湯機(非潜熱回収型)、 エアコン • エネルギーシフト(電化)による再エネ利用拡大、とい う展開はある – 電気自動車、給湯(単身用エコキュート)、暖房 6 電力システムから見たニーズ • 再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系 統の柔軟性向上ニーズ – 局所 • 電圧問題 – 広域 • 低需要期に需給バランス(周波数制御)の確保が 困難 – 急激な変動対応 • バックアップ電源の経済性悪化 – アデカシー問題 7 系統の柔軟性向上 建物需要・電気自動 車需要におけるエネ ルギーマネジメント 風力・太陽光発電 の出力抑制・発電 制御 分散型電力 貯蔵の活用 既存電源(火力・水力)の運用 高度化・調整力向上 揚水発電の調整力向上 送電線・系統連系拡 充・運用高度化 8 九州のダックカーブ(2016年5月4日) 九州電力、九州本土における再生可能エネルギーの導入状況と優先給電 ルールについて(2016年7月21日) 9 家庭におけるデマンドレスポンス (DR) • メリット – – – – 電化との相性のよさ 屋根置きPVとの連携 緊急時対応の可能性 未踏の分野だけに、大きなポテンシャルもある • デメリット – 一つ一つが小さく、多数で運用コストが高くなり やすい – オプトイン(ユーザー側の参加の意思表明が必 要)だと効果が限定的 10 家庭用DRの種類 • インセンティブ型 – DR参加、DR発動に対して報酬を支払う • 料金型 – 変動型時間料金によるマニュアル調整 – 変動型時間料金によるオート調整 ・再エネ対応DRは、ニーズが発動す る時間・量が毎日変動 ・料金型オートDRが必要になる 11 DRの種類 ディマンドリスポンスについて ~ 新たな省エネのかたち ~ 平成26年10 月21日 資源エネルギー庁 新産業・社会システム推進室 12 米国におけるDR実施状況 ディマンドリスポンスについて ~ 新たな省エネのかたち ~ 平成26年10 月21日 資源エネルギー庁 新産業・社会システム推進室 13 Price Responsive Demand(PRD) • 価格に応じて提供されるDR資源 • 予測が可能で、リアルタイム市場で電源と同様 に取り扱えるDR資源 • 卸売り電気料金に応じて消費者が電力消費をコント ロール • PRDアグリゲータが消費者をとりまとめ、系統運用者 と契約 • スマートメータ、卸売電気価格と連動したダイ ナミック電気料金制の導入、自動応答型のDRが 必要 • PJM市場で、メニュー化されているが実績なし 14 PRDによる需要削減に基づくDispatch Price Responsive Demand Net Energy Metering Senior Task Force、 PJM February 27, 2012 15 インセンティブ型家庭用DRの事例Opower & BG&E 2 Notify Customers All residential customers notified via preferred channel (e-mail, phone, SMS, web) within 3 hours 3 1 0 Customer Education Overnight calculate up to 1.1M baselines in Oracle MDM Call Event Based on market conditions Prior to summer season 7 Provide Feedback • Savings Summaries provided via preferred channels (e-mail, phone, SMS, web) within 2 days • Paper versions provided to maximize engagement Day of event Day after event Up to 30 Days after event Behavioral Feedback and Reinforcement 4 Customers Take Action! Credit Bills 6 Day before event Calculate Baselines 5 Calculate Rebates kWh Reduction X $1.25 16 直接制御:電気温水器 • 最も安い貯蔵要素として期待 • 負荷シフト、周波数調整まで • 電熱(抵抗器)型(5kW消費電力)が主 • 電力会社等によるレンタルプログラムあり • DOEによる55ガロン(200L)以上の電熱型製品の廃止案があったが、 2015年4月撤回(米電気温水器:約5000万台) 17 料金型DR事例 ComEd Residential Real-Time Pricing • 卸売価格と連動する電気料金を提供するプログラム(リ アルタイム価格が適用) • 高い料金のアラートをメールや電話で受けられる • 平均15%の電力料金削減 • 2014の大寒波で市場価格高騰時にプログラムの負の効果 が発生 18 日本のヒートポンプ給湯機DRポテ ンシャル 35 HP運転(TOU) 1,800 HP運転(DP) PV 総需要 DP 1,600 25 1,400 1,200 20 1,000 15 800 600 10 400 5 5/12 12:00 5/12 0:00 5/11 12:00 5/11 0:00 5/10 12:00 5/10 0:00 5/9 12:00 5/9 0:00 5/8 12:00 5/8 0:00 5/7 12:00 5/7 0:00 5/6 12:00 200 0 ダイナミックプライス(円/kWh) 30 5/6 0:00 HP消費電⼒量、PV発電、需要(万kWh/h) 2,000 0 九州電力管内の単身等除く290万世帯(電化率57%)へヒートポンプ給湯機を導 入したときの最大ポテンシャル 約200万kWの需要創生ポテンシャル 19 DR対象候補家電の電力需要パターン 食器洗い乾燥機 (5月平日) ガス併用住宅 オール電化住宅 洗濯・乾燥機 (5月平日) ガス併用住宅 オール電化住宅 20 DRに関する今後の検討 • 可制御負荷の抽出、リソースの把握 – 変えられる需要の見込み • EV/エコキュート/食洗器/洗濯・浴室乾燥機/ エアコン△ • IOTで機器直接制御の可能性 • 緊急時、ランプダウン/ランプアップ対応に何が使 えるか 冷蔵庫は? • DR実施の系統における価値の試算 21 HEMSの役割 • エネルギーマネジメント – 宅内エネルギー管理(省エネ) – 全体システムとの協調(DR) • QOL向上・維持 – 裕福な人のQOLニーズ拡大 • ガジェット好き・環境意識高い(太陽電池・バッ テリー・電気自動車・燃料電池) • 利便性向上(家電等の自動制御、遠隔制御) – 一般の人のサービスの質を保つ • 高齢化、過疎化 22 スマートホーム事業への参入 • アップルHomeKit – iPhoneなどのiOSデバイスを利用して、家庭内の様々な機器 類のコントロールを可能にするプラットフォーム – IOS10搭載予定「Home」 • HomeKit対応のIoTをまとめて操作できるリモコン的なア プリ。 • 例えば「おはようセット」を作ったら、「カーテンが 開いて、目が覚めそうなBGMが流れて、照明がつく」 という朝の一連の操作をまとめて登録 • Siriで音声操作に対応 WWDC2016(2016/6/14) 23 スマートホーム事業への参入 • グーグルHome(129$、2016年10月予約開始) – スピーカー、マイク内蔵 – Google傘下のソフトウェアNestを含む、スマートホー ム対応の家電をコントロール可能 – Google Assistant • 自然言語処理を応用した技術で、ユーザの発言を学習するこ とで進化し、対話できるようになる音声アシスタント 24 遅れる日本企業の対応 • 2016年夏開催のアップルの会議で、72社 がアップルのIoT技術に対応すると表 明 – 米GE、オランダフィリップス、イタリアデ ロンギ、中国のハイアールなど – 72社の中に日本メーカーは含まれず 日経産業新聞2016年9月1日付 25 エネルギーデータの活用による他 の問題への貢献 • 見守り(高齢者、防犯、子供、シッター、 ペット、別荘管理) • マーケティング(スーパー、クーポン) • 機器開発・保証(家電効率の担保、機器劣化 検出、故障診断、使われ方に適した機器開発 へのフィードバック) – 集計データ?個別データ(世帯と紐づくか) ? – データの鮮度は? 26 他のデータの活用によるエネル ギー問題への貢献 • エネルギーデータの価値を上げるデータ – 属性データ(住宅種類、面積、家族構成、保有機 器、休日、在不在) – 環境センシングデータ(室内温湿度、CO2濃度、 照度、空気質、窓開閉状態) – 行動センシング(機器使用設定・使用履歴、在不 在) – ヒトセンシング(心拍、動作、体温、発汗量) – 外部情報(天気、外気温湿度、電力供給情報、花 粉、PM2.5) 27 総合的な住宅・生活の管理へ • HEMSというプラットホーム上での様々な情 報管理 – エネルギー管理 – 資産管理 • • • • • 住宅(住宅図面、改修履歴) 住設・家電機器(購入時期、スペック、保証期間) 太陽光発電システム(発電履歴) 燃料電池システム(ガス消費量、発電履歴) 蓄電池(仕様履歴、劣化) – 健康管理 等 28 HEMS→Home & Energy Management System • 高齢化社会 – 65歳以上人口27%、75歳以上人口12.8%(15歳未満より多 い) – 65歳以上単身・夫婦世帯1767万世帯、一般世帯の1/3を占め、 65歳以上人口の6人に1人が一人暮らし (27年国勢調査) – 2035年には3人に1人が65歳以上に • 過疎化 → 住宅の果たす役割が拡大(QOLの維持) – 病院にアクセスできない • 遠隔診療、在宅医療、健康管理の重要性 – セキュリティの確保、見守り • 防犯、防災 • セイフティネットとしてのHEMS • 住宅とエネルギーの総合管理へ 29 家庭用需要に関して、何がわかって いて何がわかっていないのか • • わかったこと – 世帯類型別のエネルギー消費構造(ある程度) • 検診データに基づくアンケート調査(環境省家庭用CO2統計調査の 実施) • 電力消費の内訳(HEMSデータの分析、数千件規模) • 将来の見通し(需要構造モデルの精緻化、大阪大学下田研) – エネルギー消費を規定する要因(ある程度)(HEMS,統計) – CPP等を用いたマニュアルDRによる夏季、冬季におけるピークカット効 果(4地域実証) – エネルギー診断による省エネ効果(電力部門) – DRポテンシャル(特定の機器に関して、ある程度) わからないこと – 省エネポテンシャル(セグメント別、深掘り) – DRポテンシャル(物理的な可能量、制御可能量、受容可能量) – 省エネ・DRを進めるためのドライブ、費用対効果 – そもそも家庭でやることが合理的か 30 家庭用需要に関して、これから何が 明らかにされるべきか • これから実現したいこと(私が) – 需要が伸びちぢみできる価値を示す • 定常時/緊急時のDR価値の定量化 • 各種DRリソースの探索 – データ分析に基づくコスパの良い省エネ政策の提示 • これから必要なこと – DRなど需要サイドのリソースを組み込む市場・運用 設計 – 家庭用需要をDRとして取り込むための制度設計 – HEMSデータ、スマートメータデータの活用を円滑に 行う仕組み(グリーンボタン) – HEMSの利用の多角化(エネルギーにとどまらない活 用の探索) 31
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