会議記録 - 都市農山漁村交流活性化機構

平成27年度
学校給食等地場食材利用拡大モデル事業(農林水産省)
学校給食における地場食材活用セミナー(青森会場)開催要領
~地場食材の加工と工夫で、子ども達の味覚を育む~
一般財団法人 都市農山漁村交流活性化機構
■日
■場
程:平成 27 年 11 月 18 日(水)セミナー・11 月 19 日(木)現地研修
所:青森県観光物産館「アスパム」
●主催者挨拶
一般財団法人都市農山漁村交流活性化機構
専務理事
山 野 昭 二
この事業は今年が2年目。昨年度より文部科学省の「スーパー食育スクール」が始まり、農林
水産省も学校給食等地場食材利用拡大事業を開始した。昨年度より当機構が全国推進事業を担当
し、昨年度はこのようなセミナーを全国6カ所、地産地消コーディネーター育成研修を1カ所で
開催した。昨年度事業を進めた中で、学校給食での地場食材の利用も自校方式やセンター方式の
違い、都市部や農村部という立地でも異なることを実感した。本日の青森のような東北地方や雪
国でも事情が異なる。
学校給食に関わる関係者は非常に多い。行政も農政サイドと教育委員会サイドがある。給食関
係者としては栄養士、栄養教諭、調理員、保護者、子ども達などが関わる。農業関係者はJA、
生産者、直売所、納入業者など、それぞれに様々な方々が関係して成り立っている。1番難しい
のが、関係者の合意をどのように形成していくか。すでに先駆的に何十年も地産地消の学校給食
を進めている所では、子ども達への教育効果があり、地域社会も良くなったと実証されている。
昨年度1年間の事業を通じてこれを確信したところだ。
食と農の距離を縮める地産地消の動きは、ヨーロッパでも進んでいる。フランスの農業会議所
が今1番力を入れているのは生産者と消費者の直接取引だ。出来るだけ間に中間の流通業者を入
れず、生産者と消費者を結びつける事に力を入れている。フランスでは教育ファームも充実し、
味覚教育も発達している。これはイタリアでも同様で、食を通じた五感の教育が保護者や生産者
を巻き込みながら大きく展開されている。日本における地場産物を取り入れた学校給食は、子ど
も達への食育や味覚教育の機会となり、地域振興にも貢献してきている。
本日のセミナーが皆様に意義のあるものとなり、今、取組まれている学校給食での地場食材の
活用がさらに進む事を期待している。
●農林水産省挨拶
農林水産省東北農政局 経営・事業支援部
地域食品課地産地消推進係長
横 山 真 人
日頃より農政の円滑な推進にご協力を賜り、御礼申し上げる。学校給食での地場産物の利用
は、子ども達が食べる食材を供給する事で生産者のやりがいとなり、給食に安定供給すること
で経営の安定にも繋がる。また、子ども達には食材の生産者や生産過程を知ることで、地域の
食文化や地域産業への関心が生まれ、感謝の気持ちも芽生え、食育効果も高まることが期待さ
れている。
これらの事から、地場農産物の利用を進めるため学校給食法の改正や食育基本計画において
学校給食における地場産の利用率を27年度までに30%にするという目標を掲げて進めてきた。
25年度の調査結果では全国で25.8%の利用率、東北では青森と秋田が30%を超えているが、岩
手、宮城、山形が20%台の利用率になっている。
農林水産省としても、学校給食における地場食材利用拡大モデル事業として支援している。
28年度からも一部内容を変更の上、給食における地場食材の活用支援を続ける。例えば、市町
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村推進協議会において地場食材の利用拡大の取組み方針や目標を県単位で設定してもらい、そ
の目標に向かい進める地場食材の調査や研修会の開催、給食メニューや加工品開発、学校給食
における新メニューの導入実証などに支援する予定だ。
本日のセミナーで紹介される地場食材を利用する取組みが、皆様の地域でのヒントやきっか
けとなり地場食材の利用拡大と定着が図られることを期待している。
【話 題 提 供】
●青森県学校給食会が進める地場野菜等の商品開発
公益財団法人青森県学校給食会 物資課長
坪 田 博 幸
青森県学校給食会は、昭和31年に青森県教育庁内に設置され、平成24年4月に「公益財団法
人青森県学校給食会」として新たにスタートし、今年で60周年目を迎える。
学校給食用米穀は全て県産米を供給している。青森県学校給食用米穀安定供給検討会議を設
置し、各市町村の要望に応じて地元産米を供給し、地産地消を推進している。
現在、学校給食を実施する県内40市町村のうち、36市町村で米飯給食を実施している。この
うち給食会が米穀を供給するのが34市町村。数量ベースで県全体の99%供給する。
34市町村のうち地元産米を使用しているのが31市町村。特に地元産米の指定がない市町村が
3市町村で、地元産米を使用する割合は数量ベースで89.7%。他にも夜間定時制高校、特別支
援学校、国立大学付属小等に米を供給している。
給食会の供給が多い理由は、米の価格が高騰した際の価格補填をしていることによる。さら
に、学校給食施設の衛生管理の支援、学校給食管理システムの無償提供、全国単位の講習会へ
の給食関係者の派遣などを通じ、給食現場との連携も進んでいる。
しかしながら、県内の米飯給食実施回数は全国平均を下回り、東北でも低いため、JA全農
あおもり、県農林水産部とともに実施回数の少ない教育委員会には実施増加を依頼している。
2014年産の米の食味ランキングで「青天の霹靂(へきれき)」が青森県産米初の最高評価「特A
」を獲得した。この米を県内の児童・生徒に味わってもらうため、給食会では27年11月9日か
ら25日までの間、県内35市町村の小中学校、県立特別支援学校、国立大学付属小・特別支援学
校など438校に「青天の霹靂」を提供している。子ども達からは「いつも食べている米より甘
く、モチモチしておいしかった」という感想も得たところだ。
学校給食用パンについて。小麦粉パンの主原料は県産小麦「ゆきちから」50%、外国産小麦
50%を使用する。「ゆきちから」は作付面積が増加し、年間安定的に供給できる収量が見込ま
れることから、「ゆきちから」100%、さらに減塩したパンの商品開発を行い、28年度から新た
な小麦粉パンとして供給を開始する予定だ。
米粉パンは、使用普及拡大のために米粉の原料代を給食会で負担し、小麦粉パンとの価格差
の軽減を図っている。主原料は、県産米粉50%、「ゆきちから」50%とし、どちらも県内産で
賄える。それに地産地消の観点から、県産雪にんじんのペーストを混ぜ、脱脂粉乳を取り除い
た乳アレルギー対応の「雪にんじんパン」を商品化し、平成26年10月から供給している。
給食会における一般物資やおかずでの地場産活用商品は、昭和57年に八戸産イワシを使用し
たソフトハンバーグに始まる。平成10年度には県農林水産部、県教育委員会、生産者団体と連
携し、生果リンゴを供給した頃より県産品の消費拡大の取組みがスタートした。平成18年度か
らは食育の一環で「生きた教材」として、特産品の「りんご」
「ほたて」
「牛肉」「長いも」等
が活用されるよう、県農林水産部、農協、漁協など連携を図り、商品開発に努めている。
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平成24年度からは、県農林水産部が「攻めの農林水産業」の取組み方針の中に、学校給食に
おける県産品の利用促進に向けた「学校給食県産食材消費拡大事業」を掲げ、県産冷凍カット
野菜、県産水産品や畜産品の商品開発を進めている。また、県が26年度から実施する「味感を
育む『だし活』事業」にも参加し、県産食材を使用した「だし商品」の開発・普及に向けた取
組みも進める。
県産冷凍カット野菜の開発について。県産野菜の利用率向上を図るため、県内で生産される
野菜を収穫後すぐ加工し、年間を通して安定供給できるように給食会では「冷凍カット野菜」
の開発にも取組む。原料調達にあたっては、生産情報を聞き取り、給食会が直接農協や生産者
団体などへ足を運び、加工用原料の生産・提供をお願いしている。生産された原料はすべて給
食会が買い取ることを保証するなど、生産者に負担がかからない仕組みにしている。
冷凍カット野菜の加工は、収穫量により県外の大規模加工場や県内の加工場へ製造を依頼し
ている。加工場と給食会が直接契約し、製造コストを抑え、国産品と同価格程度で供給できる
ようにしている。国内産野菜より高くならないように、給食会が生産者、加工業者の配送など
の手配すべてを行う。また、収穫数量が予定より上回っても、規格が不揃いであっても、全て
買い取る方針で、生産者に協力をお願いしている。
平成24年度より農協、生産者団体などの協力を得て、「ほうれん草」「小松菜」「アスパラガ
ス」など9種の野菜加工品を供給している。「じゃがいも」と「たまねぎ」は27年度中に商品
化を検討しているが、1次加工から一括して製造できる工場が県内にない中、製造コストの面
で商品化が難しい状況にある。
「たまねぎ」は冷凍カットではなく、乾燥たまねぎに変更して
県内で加工し、この2学期から供給を開始した。明日の青森市給食センターのカレーにも乾燥
たまねぎが使用されている。
水産品と畜産品の開発について。県の学校給食における県産食材使用量の調査結果では、給
食食材の中でも水産加工品と畜産加工品の県産食材利用率が伸びていない事がわかった。24年
度より農林水産部、学校給食関係者、加工事業者、流通業者と連携し、給食現場のニーズ調査
を基にした加工品開発も行う。現場から地域や市町村単位での地産地消型商品開発の要望を伺
う事もあり、特産品を使用した加工品開発も積極的に検討している。
行政、栄養士、メーカーなどの協力を得て、24年度には県産「いわし」「いか」「さけ」の加
工品を開発。26年度は「とびうおハンバーグ」や「青森シャモロック(地鶏)」を使用した「チ
キンカツ」「餃子」などを開発・供給している。他にも、地域の要望で「倉石牛」「アピオス」
などを使用した加工品開発を行ってきた。
県産食材を使用した「だし商品」の開発について。青森県は平均寿命が男女とも全国最下位
で生活習慣病による死亡率が高いとされる。そのため、「だし」を使用した県民の減塩対策と
して給食や家庭でも減塩を推進している。さらに、だしの素材に県産食材を使用し、地産地消
の推進と生産者の所得向上を図る事を目的に進めている。
給食会も県、栄養教諭、県内メーカーなどの協力を頂き、「できるだし」3品を開発した。
27年3月から販売を開始し、給食関係者へサンプルを提供し「できるだし」を活用したレシピ
も給食会で作成し、普及・啓発に努めている。
「学校給食献立コンクール」作品の商品開発について。地場産物を活用した食に関する指導
の充実に向け、学校給食に対する児童・生徒の関心を高め、給食献立の質的向上を図るために
教育委員会と共催で「学校給食献立コンクール」を開催し、食育推進の支援も行う。このコン
クールに出展された作品が学校給食の献立として活用されるように、メーカーの協力を頂き、
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商品開発の検討を行う。これまで作品の中から4つを商品化した。現在も昨年のコンクール作
品の中から「ほたてのつみれ」など3品の商品開発を検討しているところだ。
今後の取組みについて。給食会で取扱っている県産品は175品目ある。農産物が105品、畜産
物が27品、水産物が43品。このうち88品が県外の工場で加工されている。27年度当初の給食会
一般物資取扱品目数は1,087品目なので、県産品の取扱い割合は品目数ベースで約16%。今後
少しでもこの割合が増えるように努力したい。
今後の課題として、地産地消の推進、安全・安心の観点から、本県の地場産物を地元で加工
し、供給できる体制の構築を期待する。現状は県内加工場の処理能力などの限界があり、県外
工場へ頼らざるを得ない状況もある。だが、県外工場は輸送費、製造ロットなどのコスト面で
割高となっている現状だ。
また、冷凍カット野菜の原料は、現在は露地栽培で生産されているため、虫害、雑草繁茂や
天候の影響で安定した収量確保が難しい状況にある。虫害については、現在農林水産部の加工
用野菜実証実験として生産指導をしてもらっている。
オリジナル商品を開発した場合、安定供給するための量の確保と製造後の在庫などを抱える
リスクもある。生産と消費のバランスは難しい。大手メーカーが出来ない小規模で受注生産で
きる工場、肉類・卵類・デザート類など色々な加工食品を製造できる加工場が県内にあれば良
い。我々の商品開発では、食物アレルギーに対応した物資を積極的に進めたいと考えている。
青森県学校給食会は学校給食の実施と食育の推進を支援する公益法人として、今後とも皆様
方の支援と協力を得て、本県の農林水産物を年間通して学校給食に活用してもらえるよう、直
接現地に足を運び、県産品の商品開発など地産地消の推進に積極的に取組んでいきたい。
質疑応答
質問①
「アピオス」とはどんなものか
回答①
「アピオス」はマメ科の植物で「ほど芋」と呼ばれる。青森県の生産が多く、給食で
はコロッケやかき揚げなどの加工品として食べられている。
質問②
青森県の米飯給食は週3.05回で全国平均を下回っているのはなぜか。
回答②
平成25年度の県内の米飯給食実施回数が週3.05回で、26年度は3.18回。それでも全国
平均の3.30回を下回る。青森県では家からご飯を持参する米飯給食の形態もあり、それは米飯
給食の実施回数に含まれない事で平均を下回っていると思われる。
大きい自治体では委託米飯で、自分達の給食センターや自校で炊飯せずに炊飯工場から入れ
ている形式もある。コスト的には委託米飯の方が高いため、回数を増やせない状況もあるよう
だ。宮城県が週に3.5回位、山形が4回位、東京都は3.3回位。米の生産地でもある青森県が大
消費地の東京都より回数が少ないことを懸念し、米飯給食の回数を増やすと全体として米の消
費拡大につながるだろうと、週3.5回程度には上げていきたい。
質問③
平成24年度より農協、生産者団体などの協力で、野菜加工品を開発・供給していると
いう事だが、この野菜加工品の日持ちはどれくらいに設定されているのか。
回答③
1年半から2年の賞味期限の設定だ。常温ピューレのトマトは1年。給食会に冷凍倉
庫、冷蔵庫、常温倉庫があり、そこに製造されたものを一度に納め、受注に応じて供給する。
一部、県外の工場に製造する商品はその倉庫に預かってもらい、必要に応じて送ってもらうこ
ともあるが、基本的には給食会の倉庫に保管されている。
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【話 題 提 供】
●青森県による学校給食への地場産食材活用推進の取組
青森県農林水産部 総合販売戦略課 地産地消グループ 主査
黒 瀧
和 幸
青森県が取組んでいる学校給食への地場産食材活用の推進について紹介する。
青森県では、毎年、学校給食における県産食材の使用状況調査を行っている。文部科学省で
も毎年6月と11月に1週間ずつ品目数のサンプリング調査を行うが、それとは別に県が独自に
調査している。1年間を通して使用した食材を重量と金額について調べている。
直近の25年度の結果について。対象は県内で完全給食、補食給食(主食以外)の全小・中学校
約250校について、1年間調査している。
使用した食材を「地元市町村産」「地元以外の県産」「青森県以外の国産」「その他(輸入等)」
に区分し、使用量(重量)と金額を調査している。
結果は重量ベースで、地元市町村産が1,245t(11.6%)、地元市町村産を除く県産が
5,664t(52.7%)、合計青森県産が64.3%。金額ベースでみると総金額45.4億円のうち地元市町
村産が5.7億円(12.5%)、その他県産が17.8億円(39.3%)、重量ベースよりは若干率が落ちま
すが51.8%(23.5億円)が県産である。
これを食品群別に分類して数字を出すと、主食・牛乳(ご飯、パン、麺)は県産が96.7%、地
元市町村産が16.9%。牛乳などは県内1カ所に集められ、工場で青森県産になっているため、
市町村産の数字は上がりにくいのが現状。
野菜・いも類は県産が28.1%、地元市町村産が5.9%。県産だけ見ると、豆類が23.6%、果
実が49.0%、畜産物が31.2%、水産物が19.0%、その他が9.5%県産という状況。県産品の利
用率が高い品目は米の99.7%。ただ、麺の日に冷凍おにぎりなどを補助的に出している場合が
あるため100%にはならない。牛乳は100%県産。牛乳は弘前と岩手の2社から入るが、岩手の
業者も青森県産原料を使う条件で契約するので100%となる。他に、ながいも、ごぼう、にん
にく、食用菊なども地場産率が高い。
青森県の食料自給率は全国第4位。食料自給率はカロリーベースのためカロリーが高い米が
生産される都道府県の自給率は高い。青森県の特徴は、カロリーの高い米だけでなくカロリー
の低い野菜、水産物、果実、畜産物がバランスよく生産された上で自給率が高いこと。県とし
て特定の品物に偏っておらず、色々な物が生産されている。青森県はリンゴのイメージが高い
が、金額では畜産の方が高い。
それにも関わらず、食品群別では県産率が低い品目がある。野菜28.1%、豆類23.6%、果実
49.0%、畜産物31.2%、水産物19.0%。総合の生産量はあるのに数字が低い状況にある。それ
は、加工品の割合が高い事。野菜は生鮮が多いが、豆類は97.7%が加工品。果実は67.6%、畜
産物は61.3%、水産物は79.1%が加工品。その中で豆類が全体だと23.6%、加工品23.2%とい
う事で97.7%加工品なので、加工品の県産率が低いと言える。畜産物、水産物でも同じ状況で
加工品の県産率が低いのが課題と言える。
県産品の利用率が低い品目がある要因として、野菜、いも類はかなりの量が生産されている
が、冬場に生産・供給できる品目・量が限られることによる。そのため、野菜を冷凍加工し、
常に供給していきたい。給食で多く使用するたまねぎは全国で41番目の生産量でもともと少な
い。ジャガイモは生産量があるがメーカーと契約栽培で作られているため、一般に入手できる
量が少ない。
大豆は県産もあるが、豆腐など大きいメーカーは大量に使うため、県産だけでは賄いきれな
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い。また、製造量も多く、県外でも販売している。そのため、県産だけを原料にした別な商品
を作ることは経営的にもメリットが少ないとされる。もちろん県産大豆も使われるが、県外大
豆、輸入大豆も含めてトータルで商品を製造することになるため、県産だけとはならない。
水産物・畜産物は加工品を利用する頻度が高い。魚一匹を丸ごと給食センターで調理するの
は衛生面でないため、切り身や味付きで、温めればそのまま食べられる状態の加工品が使用さ
れている。
青森県の場合、原料は沢山作られているが加工品は県外の工場で製造される場合も多く、他
県の原料が混ざった状態で県産ではなく国産表示になってしまう。一方、県内のメーカーが県
産原料にこだわった商品を作ると、大手のナショナルブランドの商品との価格差が出来てしま
うという現状でもある。
このような状況を踏まえ、青森県では26年度まで「学校給食県産食材消費拡大事業」を進め
てきた。27年度はこれを踏まえ、2つの新しい事業を進めている。
1つは、県産の水産加工品の開発。2つは、学校栄養士への地場産物に関する情報提供。
加工品開発については、平成24年度に県内の給食施設に対してニーズ調査を行った。対象は
県内で完全給食を実施し、栄養教諭・学校栄養職員がいる78施設。設問は「よく使っている水
産加工品」
、「県産の水産加工品で使いたいもの」、「施設の状況(設備、食数、給食費)」など。
よく使われていた水産加工品は、魚種別では鯖の加工品が78施設で最も多く、味噌煮や生姜
煮として使用されている。次が鮭で延べ78施設。塩焼きやフライが使用されている。続いて、
さんま、いか、あじが魚種としては多く使われていた。
加工品の調理方法で1番多かったのが「ボイル」。茹でると熱が通り調理が完了する形。ボ
イルはどの給食センターや調理施設にもある回転釜で調理できる。2番目が「揚げる」。調理設
備ではフライヤーなどが使われている。3番が「蒸す」、4番が「焼く」でこれらにはスチーム
コンベクションや焼き物機などが必要となる。その他として、非加熱もあった。
回転釜やフライヤーは大半の給食施設が持っているが、スチコンは23施設、焼き物機は16施
設に限られ、これらの設備が必要となる商品は開発しても使えない事が分かった。
次に規格について。よく使用されるのが40g×10個で、真空パックなどで商品を作る規格と
なる。他に50g×10個パック、50gバラ、40gバラがよく使われている。
価格帯については、49円以下が21.3%、50円台が16.5%、60円台が26.8%、70円台が18%、
80円台が17.4%。
給食費は66施設の平均額が小学校で256円、中学校で285円、特別支援学校で320円。現在は
消費税が上がりさらに給食費も上がっていると思われる。この給食費256円の中で、例えば委
託炊飯は40~50円かかり、牛乳は50円近い。ご飯と牛乳で90円~100円近くなると、他のおか
ずや汁物を150~160円位で作らなくてはならない。この中で、1品80円というおかず、例えば
焼き魚などの使用は厳しいことが理解できる。今後、県産水産物の新たな加工品が開発された
ら使用したいという回答も多いが、価格次第という回答もある。
今後使用したい県産の水産加工品について。県産で一番欲しいのは「イカ」で、中でも天ぷ
らが1番多かった。「いかメンチ」という郷土料理の希望もある。鯖は「竜田揚げカレー味」
が子どもに人気らしい。「たらのフライ」「ホッケの照り焼き」
「さけのチャンチャン焼き」な
ども希望も出ている。
使用したい価格帯は、49円以下が19.1%、50円台が23.8%。回答は2極化しており、安いの
があれば良いという一方、高くても良いという商品もあった。
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これらの調査結果を受け、県では加工品開発を支援している。実際に使ってもらうために製
造、流通、使用までの関係者が集まり、商品開発を検討している。実際給食に納入する流通業
者が給食会も含めた大手3社。この流通業者を核にチームを3つ編成する。流通業者が1番情
報を持っているため、そこを核に中に学校栄養士にも入ってもらい商品開発を検討している。
検討会議の現場では、学校栄養士の方から「こういう商品が欲しい」、「味はもう少しこうし
た方がいい」、
「うちの設備でボイルは出来るが焼くのが出来ない」、
「フライヤーはあっても熱
を通すのが難しく、中まで火が通らなくて外が焦げ臭くなってしまうため厚みのある商品は扱
いづらい」などとても具体的な意見をもらった。例えば、居酒屋では人気の「ジューシーメン
チカツ」は試食でも好評で価格も手頃で期待していた。しかし、家庭の電子レンジの調理では
冷めても美味しいが、ボイル対応やフライ商品にする段階でジューシーさがなくなってしまっ
た。給食では電子レンジを使用しないため、給食現場に合わせた調理法が必要だと理解した。
ここで実際に開発した商品は3年間に40品以上。このうち水産加工品は「鯖のカレー煮」「
トビウオハンバーグ」
「するめいか生姜味噌焼き」「ホタテのマリネ」「さんまみぞれ煮」
「いわ
しの香味野菜焼き」など。25年度はデザートも開発した。青森市が全国で生産量ナンバー1で
あるカシスを使った「ブルーベリー&カシスゼリー」
「米粉デザート」など。3年目には畜産
品にも取組み、
「チキン竜田」
「キャベツメンチ」「シャモロック焼き餃子」を開発した。
開発した加工品は学校の栄養士、栄養教諭、栄養職員など研修会の場で試食してもらい、改
良やPRを進めてきた。現在は給食現場でも使われ始めているが、1番の課題は通常給食で使
っている商品と同程度の値段に収めることで、これにはメーカーにも努力をしてもらった。
また、栄養士に対する県産品の情報提供・理解促進として、実際に生産する畑を見てもらい
生産者の声を聞いてもらっている。他には県産食材を使った調理講習会として、昨年度は「ア
ブラツノザメ」のレシピを料理研究家に考案してもらった。
今後一層の拡大に向けて今年から新たに進めているのが、給食会から紹介された「冷凍カッ
ト用の野菜」の生産。この原料の安定供給に向けて研究会を行っている。また、県産の様々な
加工品の普及も進める。今年の現地検討会ではマヨネーズの製造時に大量に出る白身を使用し
た乾燥卵白を原料にした商品などを検討した。地元工場で使う卵は100%県産のため、その有
効活用としてでもある。このような取組みを進め、県産食材の供給を拡大しながら、学校給食
の県産食材の割合を平成25年度の64.3%から平成30年度は67.0%を目標にして、食材の安定供
給と利用拡大に取組んでいきたい。
【話 題 提 供】
●「だし」のうま味で減塩推進、「味感を育む“だし活”事業」の紹介
青森県農林水産部 総合販売戦略課 地産地消グループ 主査
芳 賀 智 恵 子
青森県の平均寿命は男女とも全国最下位。特に男性は、約半世紀の間、全国最下位という状
況だ。原因は食塩の摂取量が高く、生活習慣病の死亡率が高いことにあると思われている。そ
のため、一日の食塩摂取量は全国平均(成人)10.5gだが、
「健康あおもり21」の計画では目標
値を8gに設定した。現在はこの目標値8gを上回る成人の割合が7割。8gを超える未成年も全体
の約5割。このような要因で平均寿命が短い県になっているのではと思われる。
例えば、長く長寿県と言われてきた沖縄には長寿を支える「沖縄の伝統食」があった。豚肉
料理、島野菜、海藻料理、豆腐料理、だし文化などの伝統食により全国で最も食塩摂取量が男
女ともに低い県であった。
沖縄も伝統食離れが進み、昆布の消費量は昭和63年の約1㎏から平成15年には約半分の546g
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に。結果として沖縄の平均寿命は下がり、女性は1位から3位へ、男性は30位に転落した。
そこで、青森県も食塩の摂取を下げるために「だしの活用」が効果的と考えた。「だしの活
用」はうま味の活用であり、上手く活用することで減塩になる。しかし、家庭や給食で毎回だ
しをとるのは手間がかかるため、「だしの活用」のハードルを下げる商品が必要と考えた。
青森県には魚介をはじめ、海の物、山の物、陸の物など様々なだしの素材がある。
※会場でだしの試飲(ききだし)
①ごぼう
②昆布
③焼干し
④煮干し
青森独特の「焼干し」とは、カタクチイワシの頭と内臓を取って天日で干した後に串に刺し
て炭火でゆっくり焼いたもの。通常の煮干しより手間がかかり価格も高いが、煮干しよりもう
ま味が強い。このようなだしは単体で使うよりも、動物性と植物性を合わせる事でうま味の相
乗効果で美味しさが深まる。また、未利用農林水産物の付加価値向上にもつながる。減塩は子
どもの時からはじめるのが大切なので、家庭と学校の食事が同時に変わっていく仕組みで進め
る事が大事だと考えている。
だし活事業では、①だし商品の開発と販売支援、②だし活給食の実施に向けたセミナー等の
開催、③だしの需要開拓を進めている。だし活に向けた企画会議も開催した。ここには学校の
栄養教諭、大学教授、メーカー、流通関係者などが参画した。この中では、「県内で生産され
た農林水産物の重量割合が原材料のうちで最も高いこと」というルールを決めた。100%にし
なかった理由は、海の物は年によって取れ高が変わるためによる。今年は100円で提供出来て
いた商品を次の年に200円にする事は出来ない。このように様々な方面の協力で勉強会や研修
会を進めてきた。学校や店でのPRのためパンフレット、歌、ダンスも作った。
栄養教諭向けのセミナーだけではなく、実際に給食を作る調理士にだしの活用方法を理解し
てもらうため東京の著名な料理人に来てもらい、調理研修も進めた。栄養教諭の皆様には学校
給食だよりや校内放送の原稿にだしを使った減塩のPRをしてもらった。また、だしの需要開
拓のためにレシピ集も作成している。
だし活事業は健康関連の先進事業としても着目され、厚生労働省が主催の「第4回健康寿命
をのばそう!アワード」で健康局長自治体部門優良賞を頂いたところです。このように青森県
の活動が少しずつ認められ、県民も自分達が頑張ろうという気持ちになれば良いと願います。
今を変えれば未来は変わるという事で進めている。
【活動紹介】
●「自然のめぐみを活かす、学校給食における地場産活用のあゆみ」
青森県五戸町立五戸小学校
栄養教諭
うわ
の
上 野
留美子
五戸町は自然豊かな町。特産物としてアピオス、紅玉(りんご)、倉石牛、蜂蜜、長芋、サク
ランボ、にんにくなどがある。紅玉は酸っぱい品種だが10月に2回も給食で使った。サクラン
ボは高価だが五戸町の地産地消費で購入出来た。サクランボは毎年収穫時期が異なるので、給
食だよりには載せず、生産者と相談しながら1番美味しい時に出している。
平成19年4月に完成した「五戸町立学校給食センター」はオール電化施設。東日本大震災は
金曜日だったが月曜日から給食を出すことが出来た。安全・安心で、美味しい給食を完全ドラ
イシステムで提供する。食数は約1,300食。調理は15名が6時間勤務で従事する。米飯給食推進
のため、米は週4回、麺・パンは隔週1回。小学校は給食日数が195日で給食費は1食270円、
中学校は190回で1食290円。
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五戸町では行政・学校・地域が協力しながら食生活の改善や地産地消の推進など食育に関す
る取組みを進めてきた。「五戸の自然のめぐみに感謝して、美味しく楽しく食べよう」をスロ
ーガンに、健康づくりに重要な役割を担う食の大切さを再認識し、食に関する知識と選択する
力を学び実践できるようになることを目的に「五戸町食育推進計画」を作成し、学校および給
食センターを含めて食育の推進に努めている。
地場産食材を学校給食に取入れる意義について。
1つめは、新鮮で安全な農作物を子ども達に提供できること。2つめは、子ども達が地域の農
林水産物に触れ、地場産物の理解を通して郷土への愛着を育むことが出来ること。3つめは、
新鮮な野菜本来の旬の味を知ることが出来ること。4つめは、流通の短縮で地球環境に優しい
社会を守る事を学ぶことができること。5つめは、生産者とのふれ合いや農業体験を通じて子
ども達が地域に目を向け、食べ物を大切にする心を育てることが出来ること。
本日は、平成12年から主任栄養士として勤務した青森県福地村での地場産食材活用の取組み
から、現在勤務する五戸町の取組みを通じて地産地消の重要性について紹介する。
はじめに、福地村立学校給食共同調理場での地産地消の取組みについて。福地村は八戸駅か
ら約13分。児童生徒数は小学校3校、中学校2校の806食。この食数は色々な事が出来るし、
非常に動きやすい地域だった。
まずは、福地村学校給食の重点目標を決めた。1.安全・安心な美味しい給食を目指す
養バランスのとれた食事内容の充実
れ季節感を大切にする
3.手作りの料理を心がける
2.栄
4.伝統食・郷土食を取り入
5.地元の産物を活用しながら地域との連携を大切する、の5点。
初めに、学校給食の県産品利用状況を調べたところ、必要とする食材がない、数量が足りな
い、価格が高いという回答が多かった。農産物で規格の良いものは関東に大量に売り出すとい
うのが県全体の方針でもあった。
そんな状況下で「青森いのち育む食の県民運動」が始まり、地場産物導入の気運が高まった
。続いて「青森食といのちのネットワーク協議会」が立ち上がった。生産者・関係団体・有識
者による100人ほどの協議会。体験学習推進部会、健全な食生活推進部会、地産地消推進部会
の3つの部会が出来た。私は地産地消推進部会に入り、JA女性部の方、産直施設の方との交
流が生まれた。こうして学校給食へ地場産物をという気運が高まっていった。平成14年には中
国産野菜の残留農薬問題も起こり、それ以降、地元のJAが納入業者に入った。
平成16年度にモデル地域推進協議会が設置された。学校給食、保育所、病院、福祉施設など
公的機関への給食に地元食材を取り入れる事を目的とした組織だ。この組織の発足で、地元に
おける問題点が把握できるようになり、需要者と供給者の互いの情報が不足している事が分か
った。需要者が必要な時期・食材・量について、供給者の提供出来る時期・食材・量について
、お互いの状況や事情、抱えている問題点について把握できた。
この協議会を設置して需要側と供給側の調整を行った結果、実現可能な食材を選定すること
ができた。これまで県外産を利用していたものも地元で生産されていることがわかり、次年度
からは地元産を使用することにつながった。
少しずつやれるものから進めたところ、リンゴは61%から100%に、福地ホワイト6片種(
ニンニク)は高価だが使用量は限られるため100%になった。また、物によっては生産者側で
加工やカットが可能だと分かり、活用拡大へ繋がる可能性も出てきた。
学校栄養士協議会が主催で進める「ふるさと産品給食の日」では「青い森スクールランチ
イン・ふくち」を1週間実施した。献立は「ご飯、せんべい汁、長芋とめかぶの和え物、ホタ
テフライ、りんご」
、
「ご飯、けの汁、煮こごり、鮭塩焼き、味付けコンブの郷土料理」
、
「リン
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ゴパン、パンプキンポタージュ、鶏肉のハーブステーキ、和梨」など。
子ども達は、福地村で沢山の野菜や果物を生産している事にびっくりしていた。そして、地
域の方が心を込めて栽培した食材を残さず食べようという態度が見られ、食べ残しも減った。
例えば、「こんなに福地村産が美味しいと思わなかった」
「作っている人のことを考えると残す
と悪いと感じた」「残さずに全部食べよう」などの感想だった。「食べ物が作られている場所の
うち安全・安心と思う順に並べてみましょう」という質問では、福地村産が1番安全・安心と
全員一致した回答だった。
生産者との交流会では、ネギ・りんご・ゴボウを栽培している方に自分の生産物を持参して
頂き、紹介してもらった。また、生産者、給食センター、保護者、教職員との意見交換会も進
めた。生産者からは「福地村産を学校給食に提供したい」「加工した物の納品を検討したい」
など。給食センターからは「年間計画に基づく安定供給を望む」。保護者からは「低農薬を希
望」
「野菜の栽培が分かって良かった」など。教職員からは「家庭に帰って実践できる食育が
望ましい」という意見が出た。
学校では食に関する年間指導計画を作成し、「生きた教材」として献立を作成した。旬の素
材・地元食材の利用、郷土料理などの試食を実践、給食だよりでの情報提供、バイキング給食
の実施、放送資料の作成、食の出前授業の実施などを行ってきた。
次の「南部町立学校給食センター」には8ヶ月しか勤務していない。福地村は平成18年に南
部町、名川町と合併した。平成21年8月に福地村学校給食共同調理場が廃止され、新たに南部
町立学校給食センターが新設された。最大の特徴は自分のセンターで炊飯ができること。私は
とにかく炊飯施設をセンターに設けて欲しいと願っていた。教職員からも温かいご飯を1人1
人に合った量で食べさせられるから良いと言われた。
続いて、現在勤務する「五戸町立学校給食センター」での取組みについて。センターではバ
イキング給食、食に関する指導、試食会の開催、地場産物の活用、給食だより等による啓発、
食物アレルギーへの対応を行う。五戸町も地域の農林水産業や食文化に対する理解を深め、地
場産物の活用に努めた。
五戸町は県内有数の野菜産地だが、給食使用頻度の高い人参、ネギ、キャベツの生産が少な
いため、これらの作付け拡大をお願いした。人参は月400キロほど使うが、それまで納品され
ていなかった。人参は難しいという話だったが、農家のプロ達が次の年に作ってくれた。
給食食材供給の体制は、給食センターから入札をかけ、JA直売所、カマラードの家(地元
生産者組織)、一般納入業者が野菜を収める。見積入札では最低の所が落札するが、地元産を
優先するためJAとカマラードの家から出れば、単価が高くともそこに発注する。また、特に
使いたい品目が生じれば、この3者とは別にその生産者に直接交渉して発注し、納品する。
子ども達の朝食アンケートで、普段からパンや肉類中心の傾向があったため、給食では和食
や郷土料理を積極的に取り入れている。
五戸町は県の学校給食地場産物活用率の目標である65%(重量ベース)を超えているが、まだ
埋もれている食材があるため、マッチング会議で掘り起こしを行うなど活用の推進に努めてき
た。この会議で出た食材として、長芋の漬物、たたきごぼう、干柿、寒大根、豆乳入り玄米、
椎茸、粟など。寒大根は地元の新聞記事で作っている記事を見つけ、生産者に電話をして給食
でも使いたいと交渉し、今では毎年使っている。これは毎年3月頃に商品が出来上がり、6月
頃まで味噌汁や煮物に入れて使っている。
当センターには殺菌水生成装置があり、手軽で安全で衛生的な処理をすることで、長芋、ミ
ニトマト、果物、胡瓜などの地場産野菜をたくさん食べてもらえる。
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給食だよりでは、年間目標に沿った献立や、食べ物の生産や給食に携わる人、地元の食材な
どの情報を一口メモや放送資料として発信する。特に6月と11月はふるさと産品消費県民運動
月間で、食材の多くに地元産や県内産を使用する。この給食だよりは地元のスーパーにも毎月
掲示し、家庭や地域への食の通信手段として活用している。地域の方々や保護者からは「夕食
メニューの参考になる」、
「今こんな給食を食べているのか」、
「是非食べてみたい」などの意見
をもらっている。
「三戸郡ふるさと元気給食」は6町村で進める。例えば、「ご飯、牛乳、銀鯖の竜田照り焼
き、長芋のそぼろ煮、ふのりと大根の味噌汁、ゼネラルレクラークのジュレ」の献立。これは
地産地消100%の給食。11月16日も100%の地場産で「五戸サンキューデー」
。「ご飯、牛乳、
倉石牛コロッケ、大根サラダ、元気汁(だし活)、名産のなんばん味噌」による献立など。
家庭科の授業で「夕食の献立作り」を行っているが、冬休みの宿題として作った献立を学校
給食に取り入れた。総合的な学習の時間には農業体験を行い、地域の方々の指導で米作り、コ
ンニャク作り、野菜作り、りんご作りの栽培体験学習を行う。さつまいもが沢山出来た時はセ
ンターに持ってきてくれ、それをさつま汁にした。保護者、老人会、教職員、福祉施設などの
方々の協力で、農業体験に興味・関心を持つことができ、その後の学習に意欲的に取組むこと
ができた。収穫祭や料理実習で大切に育てた米や野菜を食べる事で、苦労して育てた事を振り
かえり、食べ物や生産者などへの感謝の心を育んでいる。
9月には「和食メニューのバイキング給食」を実施した。煮物、生野菜、行事食であるちら
し寿司や赤飯では、和を醸し出すために学校給食会から寿司桶を借り、赤飯のお重も自分達で
用意した。うどんは「だし活」でかつおとコンブでだしを取って麺つゆを作り、冷やしうどん
にした。焼き物は鶏肉の香味焼き、県産の焼きホタテ、焼きししゃも。揚げ物はイカの竜田揚
げ、かぼちゃの天ぷら。五戸名産の長芋の漬物とたたきごぼう、デザートは郷土料理のなべっ
こ団子に果物など。児童の感想では、
「バイキング給食で1番美味しかったのはなべっこ団子
です。今度は十和田のバアバに作ってもらって食べたいです。」というものがあった。若いお
母さんはこういう郷土料理はあまり作らないため、給食で出していかなくてはと感じた。
招待給食・交流給食として、銀杏の袋詰め、草取り作業をして下さった方や生産者の方々に
お礼と感謝の気持ちを伝えるためにお招きする。一緒に食べることで子ども達に食事の姿勢や
箸の使い方を指導してくれたりもする。
地場産物活用の成果として、使用割合は平成21年の56.3%から70.3%に伸びた。バイキング
給食の感想では子ども達からは「嫌いな物が食べられるようになった」、保護者からは「日頃
不足している野菜を沢山頂いた」
、「家でも作ってみようと思った」などの感想をもらった。
地元で採れた食材を使った料理を食べる事により、地域の食材や旬の食材を理解し食べ物を
大切にする心やふるさとを愛する心が育まれた。また、生活改善の意欲、授業や給食の時間の
指導により食に関する理解が深まり給食を残さず食べる児童生徒が増えたなど、食生活改善へ
の姿勢や意欲を高める事ができた。残食もだんだん減少してきている。
「三つ子の魂百まで」のことわざのように、幼いうちに舌で覚えた味覚は、一生の基礎とな
る。大切な幼少期から学童期に冷凍食品やインスタント食品、総菜などに頼っているのが現代
の実情。この時代こそ、地元食材を使い、食材の旬を大切にし、手間暇をかけた心のこもった
地域密着型の学校給食を継続していかなくてはならない。私の献立の特徴は、豆が多く、キノ
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コが多く、海藻が多く、野菜が多く、和食が多い。本来児童や生徒にあまり好まれにくい食材
を多く使っている。だが、指導する教職員に献立の意図を理解してもらい、美味しい給食を作
れば必ず子ども達は好き嫌いなく食べてくれると思っている。
学校給食における地場産物のさらなる利用拡大に向けて、行政、学校、生産者との連携を深
め、地域の活性化に努めていきたい。バイキング給食を食べた中学生から、「バイキング給食
で普段給食では出ない赤飯、なべっこ団子、ちらし寿司、かぼちゃの天ぷらなどが出てとても
うれしかった。毎日だし活で美味しい給食を作ってくれて有難うございます。私も将来栄養管
理をしてあげられるような仕事に就きたいです」というとても嬉しい感想をもらった。
【活動紹介】
●地域との連携で拡げた、給食センターでの地場農産物の活用
兵庫県学校給食・食育支援センター
食育支援専門員
とう
じ
田 路
永 子
(元、宍粟市立学校給食センター・宍粟市立千種小学校 栄養教諭)
宍粟市は「宍」(いのしし)が沢山いる山の中で、「粟」は粟しか出来ない土地という意味も
ある。森林ばかりの山の中で、鳥取県と岡山県に面した兵庫県の西の端に大きな面積を有する
市だ。旧の山崎町、一宮町、波賀町、千種町の4町が合併して宍粟市となったが、人口は4万
人で過疎化は進んでいる。
旧・山崎町は平成5年まで学校給食がなかった。遅い時期から開始する給食なので、町長は
「地場食材を沢山使いたい」「手作りの給食を進めたい」と目玉を考えた。そこに私が最初の
栄養士として配置された。その方針に沿い、カット野菜や加工品は使用せず、ダシもかつお節
、煮干、昆布、鶏ガラ、牛スネなどからとるような手作り給食を始めた。町長と農協トップの
話し合いも良く出来ていたので、周囲のバックアップもあった。
トップの理解がなければ、担当者が忙しく「学校給食では儲けにならない」と言われるとこ
ろを、町長が最初に全体に号令をかけてくれたので動きやすかった。
そのノウハウを次の赴任先でも活かし、いよいよ宍粟市として合併した時には、旧の2町が
地産地消の給食をすでに進めていたので、宍粟市全体で取組もうという流れになった。
宍粟市には栄養教諭が5人いる。平成5年に開設した「山崎学校給食センター」は当時4千
食。これを全部手作りし、地元の野菜を沢山使った。野菜の約80%を地場産にして、当時は大
変注目を浴びた。だが、今は食数が2,500食に減少している。一宮町、波賀町にもそれぞれ給
食センターがあったが、合併後に1つのセンターとなり1,200食。私が最後に勤めた「ちくさ
学校給食センター」は300食。小さいからこそ出来たこともあるが、ここからの話はほぼ宍粟
市全体で進める取組みとして理解して頂けるものだ。
はじめに、地場農産物(旬のもの)の良いところについて。
第1に、安い。中間業者を通さず、配送費もかからないため、安くあがるはずだ。実際に突
き詰めて計算していないが、おそらく安く買えている。給食費は小学校220円、中学校245円。
この中でやっていけるのは地元の方の協力があるから。
第2に、新鮮。市場や問屋や小売店を経由しないため、農産物が新鮮なうちに届く。
第3に、美味しい。自分の地域で作られた食材は、美味しく感じるのは子ども達も一緒だ。
第4に、栄養価が高い。収穫したての農産物は、栄養価も落ちにくい。
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第5に、感謝の気持ちが育つ。生産者の顔が近くに見える。自分達が外で遊んでいる時に見
たものが食材として給食に入ってくる。あのおじちゃんの野菜が給食に使われているのを子ど
も達は知っているため、自然に感謝の気持ちが育つ。
第6に、環境保全。近距離の輸送でのため、流通過程で出るエネルギー消費(CO2)の排出
が軽減される。また、細々と田畑を守るお年寄りは、給食で使われるならば少量でも作り続け
ようと思ってくれる。こうして田畑が守られることは環境保全につながる。
第7に、子ども達が地場産業や農業を知り、郷土愛が育まれる。
第8に、安心・安全。世界に誇る日本の品質がある。日本の農産物の安心・安全レベルは世
界でも高いと思っている。出来るだけ日本の農産物を使いたいというのが、私の1番最初の地
産地消を始める動機だった。現在、宍粟市の給食はほぼ100%国産。まず、国産から始め、出
来るだけ近い方が良いと、県内産、地元産と拡げていった。
次に、宍粟市の学校給食の献立について。宍粟市は3つの給食センターがそれぞれ3つの献
立を立てるが、月2回だけ同じ献立の日がある。
1つが「食育の日」
。毎月19日はご飯と味噌汁だけの献立だが、宍粟市産100%だ。栄養価を
満たすため、中学生は一人当たり約1合分のご飯となる。味噌汁はお椀いっぱいに200cc以上
。ご飯に旬の食材を入れ込み、だいだい炊き込みご飯になる。ご飯と味噌汁ならば嫌いなおか
ずはないため、子ども達はほぼ100%完食する。栄養価も90%以上は文科省の基準を満たして
いるが、ビタミンCはやや足りない。
もう1つが「ふるさと献立の日」。この日は兵庫県内産100%で食材を揃える。
毎月この2日は3つのセンターで同じ献立にし、他は各町で使いやすい食材でたてる。
実は私の献立は魚が多い。宍粟市は山の中で魚はあまり食べないが、和食には魚がつきもの
だ。兵庫県は北に日本海、南に瀬戸内海があり、県内に海の恵みも沢山ある。山の子ども達は
魚に馴染みが少ないため、給食にはあえて魚を多く使用した。
3月の献立のハタハタは、城崎で全国2位の漁獲量がある。アマゴは宍粟市内で養殖されて
いる。タラもサワラもフグもバイガイも城崎で獲れる。シタビラメは瀬戸内で獲れる。サケだ
けは北海道や岩手のもの。
年度末に使用した和風サイコロステーキは、宍粟市で育った但馬牛だ。それを業者が子ども
達のためにと安く仕入れてくれている。
続いて、地場食材の仕入れルートについて。
山崎町のセンターは特別栽培米の契約をJAと結んでいる。実は同じ市内でも山崎町と他3
町はJAが異なる。山崎町は兵庫西農協で、他の3町はハリマ農協のため、それぞれで対応し
てもらう。米は1年分の栽培契約をし、1~2日分ずつ七分づきに搗精してセンターに納めて
もらい、常に新しいお米を食べている。
大豆はJAハリマ農協で作ってもらっている。兵庫県内は丹波黒が沢山作られており、白大
豆はなかなか作ってもらえなかった。しかし、3年かけてお願いし、給食用に大豆を作っても
らえるようになった。農薬をかけず、草も取らず、台風の時は草に守られて豆が倒れないくら
いの大豆畑だ。この豆を給食センターで煮豆や豆料理にする。
給食センターでは味噌も仕込む。さらに、センターから豆腐屋に大豆を持ちこみ、豆腐、油
揚げ、厚揚げに加工してもらってから給食に納品してもらっている。地元の大豆で作った豆腐
を使いたいと思い、初めに豆腐屋組合で1回の豆腐づくりに使う量、月に使う量、年間量を聞
き出し、納品の形など相談した。そして、年間使用量を計算して農協に掛け合い、1年間に何
tの大豆が欲しいが作ってもらえるかと直接相談したことからスタートした。
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センターでの味噌の仕込みは、初めは栄養教諭だけで行っていた。麹も地元の米で仕込み、
大豆を炊くところから調理員に手伝ってもらえる。5年ほど前からは宍粟市全体で進めること
となり、今では調理員が大勢出て来て仕込んでくれる。1番大きい山崎のセンターでは全量を
賄えないが、約80%はこの味噌で給食が出来る。他のセンターでは全部を賄えている。
小麦は兵庫西農協から1年分購入している。小麦は6月に出来るが、農協から製粉屋に持っ
ていく。宍粟市は週5回米飯のため、パン用の小麦は必要ない。使用するのは、天ぷら、フラ
イ、カレーやシチューのルーに使う小麦。製粉後は製粉所に預かってもらい、都度注文し、約
1か月単位で納品してもらう。
野菜について。山崎のセンターでは、地元の営農組合と栽培契約して玉ねぎやキャベツを納
入してもらう。その他、地元のJA、魚菜市場という地元の市場からも入れる。この市場は生
産者が直接持ち込む場所なので、市場に生産者と連絡・調整をとってもらった上で、生産者か
ら給食センターに直接納めてもらう形とした。納品してくれる時に生産者と話ができるため、
順次使用品目や量を増やしていく事ができた。本当はホウレンソウを100㎏欲しかったが、生
産者が朝収穫して洗って持ってきてくる量はせいぜい5㎏。最初はこの量から始まった。徐々
に生産者の数を増やし、2年目に10㎏となった。
現在の宍粟市では、地域の営農組合とハリマ農協内にある給食納入生産者グループから野菜
を入れている。このグループとは毎月交流会を行う。その場で、どんなものが欲しいか、どう
いう規格の物を作って欲しいか話し合い、ハリマ農協が集荷し、納入してくれる。農協職員が
核となりセンターと生産者の取りまとめをやってくれている。農協にもない時は、魚菜市場や
別の直売所から調達する場合もある。国産がないゴマも営農組合にお願いし、耕作放棄地の段
々畑で作ってもらった。和食はゴマを多く使うが、国産のゴマは手に入らなかったため、地元
で給食用に作ってもらっている。
野菜を保管するストックヤードについて。山崎給食センターの敷地内にあるストックヤード
では、玉葱8t、ジャガイモ8tを保管できる。玉葱は5~6月に収穫すると、2~3月まで
使用できる。ジャガイモも収穫してすぐ倉庫に運ぶと、芽がでず2~3月まで使える。この倉
庫の管理は給食センターが行い、担当者は所長。玉葱やジャガイモが腐っていないか所長が見
に行く。腐ってきたり、芽が出れば、コンテナに書いてある生産者名に連絡する。
私の退職後に、北部のハリマ農協敷地内に同じようなストックヤードが出来た。これらの倉
庫にある農産物は、買い取りをしているわけではなく、生産者が置いている形になっている。
そのため、傷んだものや傷みやすそうなものは、生産者に速やかに撤去してもらう。実際に給
食に使った日に、初めて購入の形になる。支払いは魚菜市場を通す形としている。
川魚は市内で養殖しているので、鮎やアマゴなど、年2回は川魚を出す。
牛肉は但馬牛を育て、餌の管理もしっかりしている地元の肉屋から購入する。
鶏肉・鶏卵は平飼い鶏舎のニワトリを使用する。この養鶏家のところには体験学習として子
ども達も訪問している。また、地元に食文化がある鹿肉についてはあまり使用していなかった
ところ、県の補助金で安く買えることになったので使用を検討した。だが、安くは買えるが、
流通経路に困り、地元の肉屋にお願いしてジビエの解体処理施設を建ててもらった。現在は給
食用だけではなく、この肉屋でもジビエを販売している。
給食センターの職員は毎日子ども達と顔を合わせる事は出来ないため、教室あてに手紙を書
いている。そのことで、子ども達も給食や食材への愛着がわく。生産者とのふれあいも進めて
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いる。野菜の生産者は市内全幼稚園において栽培指導をしてくれる。子どもと一緒に農協に苗
を買いに行くところから始まり、その苗を一緒に植える。幼稚園は給食を食べていないが、早
くから食育を進めたいと考えている。
生産者との「ふれあい給食」では、その日に使用した食材の生産者に来てもらい、教室で一
緒に食事をとる。10月をその月間とし、1日に1人だけ招待する。朝、納品した生産者が昼に
子どもたちと一緒に給食を食べることになる。これらの生産者には総合学習の時間に農業体験
もさせてもらう。中学生は伝統野菜や地場野菜も学ぶ。生産者の指導で特産の胡瓜を栽培し、
給食でも使用している。
次に、宍粟市産100%の「食育の日」の献立について。
4月の畑はまだ雪の下で農作物は何もない。そのため、お揚げを甘辛く炊いた「きつね」を
小さく刻んでご飯に混ぜた「こぎつねご飯」とした。5月はフキが採れるので「フキご飯」。
6月は実えんどうが出来るので「えんどうごはん」。7月は但馬牛が入った「牛肉ご飯」
。9月
は「しそご飯」
。10月は黒豆の「枝豆ご飯」。11月は「さつまいもご飯」。12月は「もみ
じご飯」として鹿肉が入る。1月はゆかりの舞という「古代米のご飯」。2月は「黒豆ご飯」。
3月が「大豆と大根のご飯」。どれもご飯の量が多いので、子どもたちは手袋をはめておにぎ
りにして沢山食べている。
兵庫県産100%の「ふるさと献立」では、「ぼたん汁」というイノシシ汁やアユなども使う。
献立は栄養士みんなで考えるため、色々な種類が増えてきた。鹿肉献立も増えてきた。鹿肉と
いうと言葉では抵抗があるかも知れないと「ジビエ」や「もみじ」という表現にしている。
これらの宍粟市の話は私が現職だった時の話だが、ほぼ今も変わっていないはずだ。
最後に今勤める給食会の活動について。安全・安心な学校給食用物資の供給は給食会の大き
な仕事。最近は地産地消を含めた食育支援活動の推進も行い、この2つが活動の柱となってい
る。現在の自分の仕事は体験学習会の実施。学校に出向いて子ども達と魚を3枚おろしにした
り、薪割りをして火をおこしてかまどで炊飯するご飯塾、手打ちうどん体験など。かまぼこ屋
に協力しもらい、ちくわを焼く機械を教室に持ち込み、すり身を竹棒につけてちくわを焼いた
り、様々な体験を進めている。今年からは、しめ縄作り、餅つき、パン作りも始めた。また、
田植えから稲刈りまで行い、かまどで炊飯する親子教室、地引網の親子体験も企画している。
食育教材のレプリカや紙芝居の貸し出しも担当している。
職員になってまだ半年で、学校や給食現場からは離れて1年経つが、またこのような仕事に
関われることになったので、今後も各地の学校給食や食育を見守っていきたい。
■全体意見交換
「地場食材の加工と工夫で使用拡大を進める方策について」
コーディネーター
福 山
佐賀県唐津市立浜玉中学校
栄養教諭
福 山
隆 志
このセミナーは非常に意味のある集まりだ。学校給食で地産地消をどう進めていけば
良いか、こだわりを持って取組まれている方ばかりの集まり。このような機会が重なれば、日
本の学校給食の地産地消の取組みや日本の農業そのものが変わっていくだろうと、昨年度から
関わってきた。今日も有意義な交流の場にしたい。
初めに、私の話を少ししたい。事例報告された先生方と同年齢なので、これまで取組んでき
た歴史はほぼ同じ。地域の食べ物が有効に活用されてない実態を知り、地場産物をもっと活か
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せば学校給食はもっと良くなる、給食費のコストも下がる、地域力も高まるという思いで取組
んできた。
「へ」、「し」
、「く」の字に曲がったキュウリやナスを市場の人が「給食に使えない
だろうか」と持ってきて、調理員さんが「包丁入れる手間を1つ、2つ増やせば大丈夫」と受
入れてくれたことが思い出される。
地産地消は地域の方の教えや協力が欠かせない。これが共通認識。学校給食で地産地消を進
める事で地域との信頼関係が深まる。学校教育を進めるには、地域の支援、地域の人材活用が
欠かせない。学校給食で進める食育活動を通じ、地域の方々に学校へ来てもらうことにも繋が
る。学校給食の地産地消が学校教育のさらなる充実、子ども達のより良い育みにつながる。
平成27年4月より今の唐津市立浜玉中学校に異動したが、3月まで武雄市立若木小学校で文
部科学省指定の「スーパー食育スクール」を1年間進めた。ここで、子ども達を食でどう変え
ていくか、食で育ちをどう広げていくかを進めたが、求められたのは「エビデンス」。食の教
育で子ども達がどう変わったか数値で表すことを求められた。地産地消を進めることは大変良
いことだが、これからは地産地消を進めて子ども達がどう変わったのか、地域農業はどう変わ
ったのか、どんな効果があったのかを数値で求められてくるだろう。
今後は全てデータで社会に報告する事が求められてくる。「スーパー食育スクール」ではタ
ニタ食堂のタニタと連携し、ICTを活用した。武雄市では小学生全員にタブレットを配布し
て、食事調査、運動調査、1日の活動調査を行った。タニタと進めて、学校教育がこれから歩
んでいく方向が少し見えた。学校教育はこれまで公の立場だけでやってきたが、これからは民
間活力、地域人材を取り入れていく事も社会の共通理念になっていくだろう。地産地消の取組
みでは、地域の人材を早くから学校教育の中に導入したので、今後も地域の力添えを得て、学
校給食の地産地消を進めていく必要がある。
地産地消を進めるなかで良く言われたのは、「学校給食はよくわからない」と言うことだ。
第三者から見ればブラックボックスのようだったため、これをホワイトボックス、クリアボッ
クスに変える事で、学校給食の地産地消がもっと進むと思う。情報発信のあり方、外部に説明
する方法も含め、私たちは進んでいかなくてはならない。誰もが「地場産食材を給食で使いた
い」という想いを持っている。ただ、生産者側は給食で食材がどのように使われているかわか
らない。そのためにも生産者を学校に招き、話をしながら給食現場の様子を示すのが大事だ。
そのことで生産者は調理員が野菜をどう洗い、どう刻み、どのような時間帯で加熱・調理して
いるのかという実態を承知してもらえる。これには給食現場の動画を町の広報を兼ねて映像記
録として撮ることも有効だ。「百聞は一見に如かず」で、言葉だけでは伝わらないので、映像
やデータで示すことで多くの人に理解してもらえるだろう。
最近は給食現場で加工品の需要も多い。給食現場で一次加工した食材を有効に使う流れもあ
る。給食センターで加工品を作る取組みについては、私はやや疑問がある。給食センターは調
理については専門的立場から衛生管理ができるが、加工品を作る設計になっていない。加工は
冷凍したり、缶詰にしたり、ドライにしたり色々あるが、センターで加熱調理し、加工するこ
とのリスクは高い。センターに瞬間冷凍機や検査キットが整っていて、メーカーが指導に来て
くれれば良いが、加工などは本業の専門家に任せることも大事だと思う。その意味では、青森
県の連携事例は食品衛生の原則に立った取組みとして素晴らしい。
地場産物の1年間の安定供給は難しい。1年間でどれくらいの食材を、どのように使うかに
ついては生産者も知らない。過去の献立の資料やデータはあっても実際に献立を作るのは今の
栄養教諭か学校職員だ。そのため、献立を作る人間と生産者が交流できる場を作ることが大事
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だ。武雄市では6名の栄養教諭、生産者、流通関係者、教育委員会、JA等が集まる献立調整
会議を毎月開催した。定例化することで生産者の支持や信頼を得てきた。共通の場を作り、情
報公開することで食材の安定供給に繋がった。
農業は後継者がいないと言われる。あらゆる産業に通じるが、後継者がいないのは利益が上
がらないから。だが私は、学校給食は利益が出る業態として見てもらいたい。今年生まれた子
どもは6年後もその自治体の子どもとして95%以上はそのままいるはず。つまり、6年後の
需要について概算でも数字を作る事が出来る。例えば1,500人の子どもがいて、米やじゃがい
もや玉ねぎはどれくらいの量がいるというのを数字として出せる。学校給食は決して大きな利
益は出ないが、確実に未来が保証されたマーケットだ。自治体の人口統計を扱う部署と農林部
が連携し、数年後の学校給食物資の必要量を推定することが出来るはずだ。
また、地元にコーディネーターの立場の人がいればありがたい。現在、多くの学校給食の現
場では地産地消コーディネーターは栄養教諭や学校栄養職員がその職を果たしているだろう。
我々のような年齢になれば畑の事も、給食献立の事もわかるようになるが、若い先生は畑や農
業の事はまだわからない。栄養教諭を養成する大学は農学系ではなく医療系か科学系のため、
学生時代に農業の勉強を進めるのは困難だ。そのため、地域の皆様には栄養教諭を育ててもら
いたい。生産者や行政の方から見れば、栄養教諭は自分の妹や娘のような年齢だろう。栄養教
諭は99%が女性だが、彼女達は何も知らないという前提で進めてもらうのが1番良い。地産
地消をただ栄養教諭に丸投げしても、絶対に進まない。生産者の丁寧な説明や流通業者の導き
が欠かせない。一緒に育ててもらうことを栄養教諭の私からもお願いしたい。
次に、経費やコストの問題について。学校給食に国の補助金はない。自治体の補助も地域格
差がある。それはこれからも変わらないだろう。給食費を適切な額に変えることも必要。本日
報告された先生方の学校の給食費は全国平均からするとやや高い。私の学校は小学校245円
で委託炊飯。つまり、ご飯と牛乳で100円近くかかり、残り150円でおかずをやりくりす
る。この金額で文科省が示した栄養価の確保や地域食材を使った献立が出来るのかとも思う。
給食費はそれだけ厳しい状況にある。
TPPの問題もあり、生産者を支援するためにも流通にかかる補助金を出すなど、何らかの
経済的支援をやらないと学校給食も地産地消も厳しい。学校給食に補助金を出すことは日本の
将来の国民を育てていくことにつながる。子ども達の未来に投資する事をもっと肯定的に捉え
て欲しい。そのことにより子ども達の地域への理解や愛情が育まれる。保護者からもらう給食
費をさらに子ども達の力にするためにも、行政・財政サイドからの支援は必要だと思う。
<質疑応答>
質 問①
田路先生は地元の農家をよくご存じで驚いた。コーディネーターは地元の中でどの
ような立場の方が適任なのか。栄養教諭が勉強してやるべきなのか。誰が担うべきか。
福 山
全国的にJAや行政や公社が雇用する地産地消コーディネーターが出てきている。栄
養教諭は学校の外へ1日中出かけることはなかなか出来ない。例えば、長野県塩尻市では、農
家や農地を知る地元の農業公社に専任のコーディネーターが配置されている。
上 野
五戸町の栄養教諭は1人なので、なかなか外には出られない。これが2~3人体制に
なれば栄養教諭もコーディネーターとしてもっと外に出られるだろう。うちの場合は栄養士が
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納品してくれる会員を取りまとめ、連絡・調整をとり納入してもらっている状況だ。
質 問②
給食に納入することはハードルが高い。地元には加工施設がない。食材を県外に移
動して加工するとコストがかかる。しかし、市内の業者は給食用の加工設備を持っていない。
このような加工設備を導入するための国の助成金はあるか。
農水省
学校給食だけに向けた補助金ではないが、「6次産業化ネットワーク活動交付金」が
6次産業化を考えている農業者や加工業者が使えるものだ。事業者が加工するための機械を入
れたいと考えた時、6次産業化の計画を立て、それが認められれば機械を導入することに支援
が出来るもの。交付金自体は28年度も継続する事業なので、是非活用頂きたい。
質 問③
学校給食で地産地消を促進するには、給食現場と生産現場の交流が大切だ。これま
で学校給食に納入のなかった農家には、農産物の売り先の1つとして学校給食を認識してもら
いたい。これまで納入してきた農家には、さらに交流することで給食現場からの「もっとこう
いう品目や規格が欲しい」という要望を受けることは生産の指標にもなる。一方の給食現場は
、生産者を知る事で相互理解につながる。この相互理解が学校給食における地産地消には何よ
りも重要だと感じた。各先生方は何が1番重要と考えられているか。
田 路
地元の生産者があってこそ、地場産物の利用につながる。生産者にどんどん給食現場
に来て欲しい。特に若い担い手生産者の方。宍粟市は兼業農家が多く、若くても50代。80
歳を過ぎても生産者として働かれているので、地元の農産物を長く使って行きたい。
上 野
地域に密着しなければ上手く進まない。栄養士も地域を知らなくてはならない。生産
者と給食センターの信頼関係も大切。生産者が信頼してくれる形でないと農産物を出してくれ
ない。一律の価格入札だけでなく、柔軟に地元産を優先して使うなどしないと長続きしない。
福 山
価格だけが条件の入札では地元の生産者は負ける。市場経由の方が安い場合もある。
そのため、入札の条件に「地場産」や「地域の生産者が関わっている」ことを入れ、地域の生
産者を守っていく形もある。このような条件がない限り、地元の生産者は価格競争について来
れないこともある。
意 見④
今日のセミナーを通じて自分の考えをまとめると、生産者、流通業者、給食現場の
情報交換が出来ていないという事が現状だと感じた。これらを解消するためにも「食育の日」
の取組みなど、栄養教諭の先生方も様々な工夫をされていることが判った。そのような日を設
けて、意識的に地場食材を使いながら生産者、流通業者とともに話し合い広げていきたい。コ
ーディネーターの存在も大事だが、それがすぐに出来ない場合もあるので、まずは意識的に食
材を使う日を設けることも大切だと感じた。
意 見⑤
生産者とのつながりについて考えさせられた。当地ではJAとの入札のやり取りが
なく、野菜は市内の野菜業者から入札で買っている。当地のような大規模の場合でも、直接生
産者の任意団体と契約すべきか、市場から仕入れる業者を経由しながら生産者を探していくべ
きなのか、考えさせられた。
福 山
学校給食はあらゆるルートを持っておくべき。物が入らないから給食が作れないとい
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う事は絶対に言えない。市場が良くない時は地元の生産者から仕入れなくてはならないし、地
元に災害などがあれば市場から引っ張ってきてもらわなくてはならない。大きい給食センター
は特に手間がかかっても複数の取引先を用意しておかなければならない。地元のJAにも是非
声掛けをされた方が良いだろう。
田 路
宍粟市ではJAは入札に参加していない。生産者から納品してもらうための調整機関
としてある。生産者も交えた話し合いでは規格や品目について相談し、価格はJAと生産者の
間で相談してもらう。地元野菜を最優先で取ることが決まっているため、入札にJA、地元公
設市場(魚菜市場)
、直売所、営農組合は参加していない。一般業者には地元産のものは無い
が、入札をしてもらいそれで落札した(最安値)の値段が決定する。毎月入札価格は変わるが
、営農組合の値段は入札の最安値、市場はその日の競り値、直売所とJAはこれらの値段を考
慮し、給食にも生産者にも無理の無い値段を出して生産してもらうようになる。コーディネー
ターは農協の営農課、直売所・市場の責任者、営農組合の代表になっている。一般業者の中で
地元のものを入れてくれるところがあれば、誰が運ぶか、コーディネーターを誰がやるかとい
う問題も無くなるかもしれない。
上 野
五戸はJAも入札に入る。当町では地元産は多少高くとも落とす。実際にはJAの方
が安い場合が多い。私はJAも入札に入った方が上手くいくと思う。特に、食数が多い自治体
については、多少とも競争させた方が良い物が入ってくるのではないだろうか。
意 見⑥
メーカーから商品を仕入れ、給食センターに商品を届ける仲卸会社。地産地消の開
発商品も給食センターに納める。地場産原料の加工品を使う上での1番のネックが予算。給食
センターも食数により様々で、食数が多くなるほど加工品を使用する。だが、県産品の加工品
の製造では、地元には小ロットで加工できる工場やメーカーが少なく、県外に出すとナショナ
ルブランドの商品より値段が高くなる。我々としても県産品で素晴らしい商品ができたと案内
するが、「限られた給食費の中では今は使えない」「年度末に予算が終わってから使おう」「ふ
るさと産品の月だけ使う」などの反応が多く、製造メーカーもリスクが高い。例えば、県全体
で地産地消商品を使った給食には補助金を統一して出して欲しい。現在は自治体ごとに補助金
も異なる。勤務する自治体によって栄養士や栄養教諭が地産地消に取り組む姿勢も変わる。例
えば、1年間で地産地消食材をこれくらい使ったら補助金を出すということは出来ないか。
質 問⑦
農業関係部署で食育活動を進める農家女性グループの支援を行っている。とても熱
心に食育活動や食文化を広めている。栄養教諭の若い先生は畑や農業について知らないという
話が出たが、栄養教諭等に対し、農家グループが農業や食について研修会を企画すれば、皆さ
ん参加してくれるものだろうか。需要はあるだろうか。
福 山
大成功すると思う。栄養教諭は学ぶ機会が少ないので是非研修の場を作って欲しい。
事例発表から意見交換会まで話を進め、課題解決の糸口が見えたかと思う。本日のセミナー
だけで地産地消が進むものではないが、今後も情報交換を重ねてもらえれば、この会を開催し
た意義がある。今後の各地における地産地消の土台作りにつなげて欲しい。
(閉
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会)