大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 超高層建物における閉鎖型解体工法 「テコレップシステム」の騒音伝搬性状 山口 晃治*1・増田 潔*1・宇津木 淳一*2・長田 篤佳*2・市原 英樹*3・梅津 匡一*3 Keywords : demolition method, high-rise building, enclosed, noise propagation, energy integral equations 解体工法,高層建物,閉鎖型,騒音伝搬,エネルギ積分方程式 1. はじめに 2. 音圧レベル測定 近年,都心部では,大規模再開発などに伴って高さ 屋根や側面養生足場に設置されている防音パネルの 100m を超える超高層建物の建て替えが行われており, 遮音効果を求めるために,解体作業を行っている閉鎖 今後,超高層建物の大型解体案件が増加するものと考 空間の内部と外部における音圧レベル測定を実施した。 えられる。超高層建物は都市部に密集している場合が 測定点は,図-1 に示すように,閉鎖空間内上部に 1 多いため,これらを解体する場合は近隣への配慮が必 点(測定点 1),屋根上部に 3 点(測定点 2-1,2,3) ,側 要となる。その一つとして,解体作業における発生音 面の養生足場に設置した防音パネル外側に 3 点(測定 の近隣への伝搬が考えられる。従来の超高層建物解体 点 3-1,2,3) ,養生足場内側に 2 点(測定点 4-1,2)の計 工法(以下,従来工法)は,解体階付近の全外周部に 9 点とした。 養生足場と養生材(防音パネル等)を設置しているが, 上部が解放されているため,解体騒音が近隣に伝搬し てしまう。その対策として,屋根を設けて閉鎖空間化 して解体作業を行うことで,近隣への騒音を低減でき る超高層建物閉鎖型解体工法「テコレップシステム」 (以下,本工法)を開発した。 本工法の騒音伝搬性状を把握するために,解体現場 における各種測定と数値シミュレーションを行った。 まず,閉鎖空間の内外における音圧レベルを測定し, 仮設外周部材の遮音効果を求めた。さらに,閉鎖空間 内の残響時間を測定し,平均吸音率を求めた。次に, 拡張エネルギ積分方程式法 1) を用いた騒音伝搬シミュ レーションを行った。そして,予測結果と測定結果を 比較することで,数値シミュレーションにおける境界 条件設定の妥当性を検証した。さらに,屋根がない従 来工法と屋根を設けた本工法の騒音低減効果をシミュ レーションにより比較した。 *1 技術センター 建築技術研究所 環境研究室 *2 環境本部 環境計画部 *3 技術センター 建築技術開発部 建築生産技術開発室 Fig.1 28-1 図-1 測定点位置 Position of the measurement points 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 音源は,閉鎖空間内における解体作業とし,各測定 3. 平均吸音率を求めるための残響時間測定 点において 5 分間の同時連続測定を行い,63Hz~8kHz 帯域(オクターブバンド)における等価音圧レベルの 分析を行った。 閉鎖空間内の残響時間測定を測定し,平均吸音率を 求めた。図-4 に示すように,音源スピーカは2台,測 閉鎖空間内における解体作業発生音の周波数特性を 確認するため,閉鎖空間内上部の測定点 1 の値を A 特 定点は閉鎖空間内に 4 点を設置し,測定点高さは全て 1.2m とし,5 回の残響時間測定を行った。 性音圧レベルで基準化した結果を図-2 に示す。閉鎖空 各測定点で得られた残響時間の平均値と空間の最大 間内の解体作業時の A 特性で基準化した発生音の卓越 値及び最小値を図-5 に示す。また,この結果を基に空 周波数は 1kHz 帯域である。 間の容積等から求めた平均吸音率を図-6 に示す。閉鎖 また,各測定点の測定結果を基に,閉鎖空間内上部 空間内における周波数帯域別の平均吸音率は 0.11~ の測定点 1 を基準にして音圧レベル差を求めた結果を 0.43 であり,解体作業音の卓越周波数 1kH 帯域での平 図-3 に示す。閉鎖空間内上部の測定点 1 と屋根上部に 均吸音率は 0.20 であった。閉鎖空間内の表面の多くは おける 3 点(測定点 2-1,2,3)より,屋根の遮音効果と コンクリート面であるが,コンクリート打放しの吸音 して A 特性音圧レベルの差をみると,約 17dB であっ 率が 0.04(1kHz 帯域)であることを考えると,閉鎖空 た。また,同じく側面養生足場に設置した防音パネル 間内の解体材や側面養生足場の存在により等価吸音面 外側の 3 点(測定点 3-1,2,3)の結果より,防音パネル 積が大きくなったと考えられる。 の遮音効果は約 23dB であった。さらに,養生足場内 側にある測定点 4-1 では A 特性音圧レベルの差は約 2dB であるが,測定点 4-2 では約 9dB であり,解体階 より下まで養生足場を設置することで,減衰すること がわかった。 この結果より,本工法は,閉鎖空間を構築すること で外部への騒音伝搬を大きく低減できることを確認し 図-4 音源スピーカ及び測定点位置 Position of the measurement points and speakers Fig.4 0 10 -10 -20 残響時間 (s) 基準化A特性音圧レベル (dB) た。 -30 -40 63 125 250 500 1k 2k 4k 8k A オクターブバンド中心周波数 (Hz) 最大値 平均値 最小値 図-2 閉鎖空間内における解体作業音の周波数特性 Fig.2 Frequency characteristic of the demolition work in enclosed space 0.1 63 -20 -30 2k 4k 8k 0.5 平均吸音率 0.4 吸音率 -10 1k 図-5 残響時間測定結果 Fig.5 Reverberation time 2-1 2-2 2-3 3-1 3-2 3-3 4-1 4-2 0 125 250 500 オクターブバンド中心周波数 (Hz) 10 音圧レベル差 (dB) 1 0.3 0.2 0.1 -40 63 125 250 500 1k 2k 4k 8k A オクターブバンド中心周波数 (Hz) 0.0 63 図-3 各測定点における音圧レベル差 Fig.3 Sound pressure level differences in each measurement point Fig.6 28-2 125 250 500 1k 2k 4k オクターブバンド中心周波数 (Hz) 8k 図-6 閉鎖空間内の平均吸音率 Average sound absorption coefficient in enclosed space 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) k,I(x)は要素内 x 点における入射インテンシティ,i, 騒音伝搬シミュレーションにおける境界 条件設定の検証 4. i は要素の吸音率および透過率,,’,s,l は節点 を含む要素の法線方向ベクトルを基準とした入射角度, r,rs は x 点および音源と節点 j との距離である。また, 屋根を設けて閉鎖空間化して解体作業を行う本工法 の騒音伝搬を精度よく予測するには,閉鎖空間内部に Dl は l 番目の回折経路のエネルギ伝達率,Ldiff は回折経 おける多重反射や,閉鎖空間内外の音響透過を考慮で 路数である。実際の数値計算では,(1)式の要素内の積 きる予測手法が適している。そこで,多重反射を考慮 分は内挿関数を使用して節点における入射インテンシ できるエネルギ積分方程式法に,音響透過や多重回折 ティで近似する。(1)式の第 1 項は要素から節点への拡 を考慮できるように改良を加えた拡張エネルギ積分方 散反射,第 2 項は要素から節点への透過,第 3 項は音 程式法を用いて予測を行った。 源から節点への直接音および回折音の計算である。 具体的には,音場の境界面を幾つかの要素に分割し, 全ての節点に対して(1)式を適用して連立方程式を構 それら要素間でのエネルギ収支に関する連立方程式を 築し,節点入射インテンシティを算出する。 構築して各要素の入射インテンシティを先に求め,そ 音源は,音圧レベル測定時と同様に閉鎖空間内にお の結果から受音点での音圧を求める。要素間でのエネ ける解体作業とし,音源パワーレベルは,解体作業を ルギ収支を関連づける係数を計算する際に,反射・回 近傍で測定した結果より設定した。計算上の境界条件 折・音響透過などの波動現象をエネルギレベルで近似 となる各部材の音響透過損失及び吸音率は,閉鎖空間 的に考慮している。 内部と外部の音圧レベルと閉鎖空間内の残響時間を測 図-7 に示すような音場において,要素節点 j 上の入 定した結果より設定した。予測点は,図-1 に示す測定 点と同じ計 9 点とした。各予測点における予測結果と 射インテンシティ Ij は次式で与えられる。 N 1 i cos cos I j I ( x i ) dSi S i r2 i 1 N cos cos dS k I ( x k ) i 2 S k r k 1 Q cos s Ldif W QDl cos l 2 l 1 4rs 測定結果の相対音圧レベルを図-8 に示す。 (1) ここで,W は音響パワー,Q は指向係数,N は全要素 図-7 拡張エネルギ積分方程式 Fig.7 Extended energy integral equations 数,ΔSi は要素 i,ΔSk は要素 i の裏側の同一形状の要素 10dB 測定点3-1 相対音圧レベル (dB) 測定点2-1 10dB ◆予測結果 ○測定結果 2k 4k Fig.8 10dB 測定点4-2 ◆予測結果 ○測定結果 オクターブバンド中心周波数 (Hz) 測定点4-1 測定点3-2 測定点2-2 63 125 250 500 1k 測定点3-3 測定点2-3 相対音圧レベル (dB) 相対音圧レベル (dB) 測定点1 8k A ◆予測結果 ○測定結果 63 125 250 500 1k 2k 4k オクターブバンド中心周波数 (Hz) 8k A 63 125 250 500 1k 図-8 予測結果と測定結果の相対音圧レベル Relative sound pressure level of measurement results and predicted results 28-3 2k 4k 8k オクターブバンド中心周波数 (Hz) A 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) まず,閉鎖空間内部の測定点 1 や養生足場内部の測 図には A 特性音圧レベルの等値面を示している。本 定点 4-1,2 における予測結果と測定結果を比較すると, 工法は,従来工法と比較して,音の拡がりが小さくな 概ね一致しており,吸音率の設定が妥当であると考え り,外部への騒音伝搬が低減していることがわかる。 られる。 さらに,低減量を把握するために,図-11 に示すよう 次に,屋根上部の測定点 2-1,2,3 や側面防音パネル外 に,側面養生足場に設置した防音パネルから水平距離 側の測定点 3-1,2,3 における予測結果と測定結果を比較 10m,解体階スラブ面より上空 10m離れた予測点にお すると,概ね一致しており,屋根や防音パネルの音響 ける従来工法と本工法の音圧レベル差を図-12 に示す。 透過損失設定が妥当であると考えられる。 本工法は,従来工法より A 特性音圧レベルで約 19dB これらにより,騒音伝搬シミュレーションの境界条 小さい値となった。 件設定が妥当であり,解体作業を行っている閉鎖空間 屋根を設けた本工法は,屋根がない従来工法と比較 内部での伝搬や,屋根面と側面養生足場の防音パネル して,外部へ騒音が拡がりにくく,近隣への解体騒音 による減衰を精度良く予測できていることを確認した。 が低減できていることをシミュレーションによって確 認した。 5. 本工法の騒音低減効果 上記結果を基に,外部に伝搬する騒音について従来 工法と本工法の騒音伝搬シミュレーションを行った。 音源 音の拡がりを示した結果を図-9(従来工法),及び図10(本工法)に示す。 予測点 10m 10m 図-11 予測点位置(モデルは従来工法) Fig.11 Position of the predicted point 50 音圧レベル差 (dB) Fig.9 従来工法―本工法 40 図-9 従来工法の騒音伝搬予測結果 Noise propagation prediction of conventional demolition method 30 20 10 0 -10 63 125 250 500 1k 2k 4k 8k A オクターブバンド中心周波数 (Hz) Fig.10 図-12 従来工法と本工法の音圧レベル差 Fig.12 Sound pressure level difference of conventional demolition method and enclosed demolition method 図-10 本工法の騒音伝搬予測結果 Noise propagation prediction of enclosed demolition method 28-4 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 6. まとめ 事の卓越周波数 1kHz 帯域における平均吸音率は 本工法の騒音伝搬性状を把握することを目的として, 0.20 であった。 解体現場における各種測定を実施し,騒音伝搬シミュ ③ 拡張エネルギ積分方程式法を用いた騒音伝搬シ レーションによって従来工法との比較を行った。以下 ミュレーションによって,境界条件の妥当性を にまとめを示す。 検証した上で,本工法が従来工法と比較して上 ① 音圧レベル測定結果より,仮設外周部材の遮音 効果は,屋根が A 特性音圧レベルで約 17dB,側 空や近隣への解体騒音の影響が少ないことを確 認した。 面防音パネルが約 23dB であり,外部への騒音を 参考文献 大きく低減できることを確認した。 ② 残響時間測定結果より,閉鎖空間内の周波数帯 域別の平均吸音率は 0.11~0.43 であり,解体工 28-5 1) 増田潔:拡張エネルギ積分方程式法による騒音伝搬予測, 大成建設技術センター報,第 36 号,46,2003.
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