大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 グローバリゼーションとジェンダー 世界は今 グローバル化の時代を生きる ・前回の授業と共通の問い グローバル化の時代におけるジェンダーの変 移について 第12回 ジェンダーの変移(2) 常田夕美子 2008年6月30日 前回のフィリピンの事例 • 近年におけるフィリピン単身女性の移動の増大 • Transnational mothering (インターネットや電話など をつうじて)にみるように、母親の役割は女性の親 族ネットワークが担い、男性がかかわることが少な い。 → 国民国家体制のなかで形成されてきたジェ ンダーが、グローバリゼーションによっていか に変容・再編しているか 理由? 国民国家におけるジェンダー • 国民国家とは? • 女性の家庭内の規範はあまり変わらない(情緒不 安定の子供がいる場合は、母の不在が理由とされ、 父の不在は理由とされない)。 • → 女性の単身移動は、既存のジェンダー役割や関 係には変化を及ぼしていないのでは? • 「想像の共同体」としての国民国家(アンダー ソン:時間と空間の均一化) • 国民国家と国民文化 • アイデンティティとナショナリズム • ナショナリズムと伝統文化 • 伝統文化とジェンダー • インドの場合:伝統文化を担う女性 自己紹介:インドでの滞在歴 http://www.lib.utexas.edu/maps/india.html インド • 1991年4月から1992年11月 オリッサ州 プリー県 ゴロマニトリ村(人口: 3,555 in 1992) ・1995年12月から1997年12月 年 月から 年 月 オリッサ州 プリー市(人口: 125,000 in 1991) ブバネーシュワル市(人口: 411,500 in 1991) ・2000年4月から2002年3月 オリッサ州 プリー市 1 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 オリッサ州・ブバネーシュワル 2008年3月 2 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 3 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 4 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 写真からみえる男と女の違い • 男は町をブラブラしているが、女性はブラブラ しているように見えない。 • これは、適切な女性のふるまいと関係してい る。 グローバリゼーションとインドの 地方都市 • 1990年代からのインド経済自由化 • 大都市(デリー、コルカタ、ムンバイ)と地方都 市(オリッサ州・ブバネーシュワル)の違い • 地方都市 地方都市の中間層女性と大都市の上層女性 中間層女性と大都市 上層女性 の違い • 植民地期の歴史とジェンダー 植民地期におけるジェンダー区分 • • • • ウチ/ソト 家/世界 伝統/近代 女/男 • ナショナリスト:男性の領域であるソト社会に おいては、物質的に優っている外国勢力が植 民地支配をおこなっているが、女性の領域で ある家では内的な精神文化を維持するべき である。 植民地インドの歴史とジェンダー • インド植民地期:1857年(インド大反乱)~ 1947年(独立) • 英国側:インドを文明化(近代化)する使命 • 文明化にともなう女性の地位向上 • インド側:インド版の和魂洋才 • 女性こそインドの伝統を担う存在 現代のポスト植民地期インドにお けるジェンダー区分は? • 植民地期において、女性はナショナリストに よって、インドの精神的アイデンティティを守 る責任があるとされた。 • その状況はポスト植民地期においても継続す るが、現代のグローバル化においては「新し いインド女性」のありかたが注目される。 5 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 新しいインド女性 • 新しいインド女性は、ウチとソトの分断を媒介 する • アンケートの質問:「理想のインド女性」とはど うあるべきですか? • What is an ‘ideal Indian woman”? How does she live and behave? What does she wear? • 答え:状況に応じて判断する能力;伝統と近 代を両方大切にする;自己犠牲;良い母であ ること(adjustする能力) 外を知りつつ、内面をもつ • 女性たちは家の外に出かけて自分の仕事を するし、またただ単に伝統を守るのではなくて、 近代的な状況に適応している。 • 女性は家に閉じこもっていてはだめで、外を 知る必要があるという。これは教養(self development)のためにも経済的発展のため にも必要。 • しかし単に外のものに影響を受けるだけでは だめで、自分で考え、何が正しくよいものなの かを選択し判断できなければならないという。 現代のグローバル化における インド地方都市の中間層女性 • アンケートの質問:グローバリゼーションにつ いてどう思いますか? • Please give your opinion regarding globalization • 答え:全世界が家族やコミュニティになる;競 争によってビジネスチャンスが増える;いろん な考え方に触れる機会;人々が利己的になる ;地域経済や文化を破壊する 「自由」と「自分勝手」の違い • 新しいインド女性は、外に出かけて外の知識 を持つことが求められており、同時に、個の 内面の価値観を確立するべきことが語られる。 しかしこれは あらゆるジェンダー区別を無視 しかしこれは、あらゆるジェンダ 区別を無視 して、個人の意志や独自の考えを持つことと は異なる。 • アンケートに繰り返し出てくる答え:自分たち は「西洋の」「西洋化された」「近代化された」 女性のように「自分勝手」ではない。 「スマート」であること マスメディアの問題 • 女性は、服装や立ち居振舞いにおいて、女性 らしくあることが要求される。 • TPOにあわせるのがもとめられる。 • 現在、テレビや雑誌などで、商品の宣伝のた め外見が若々しく美しい女性のイメージが氾 濫している中、女性の美学は消費文化の論 理に巻き込まれる可能性がある。 • 1990年代のインド経済においては、都市の中 間階層の高学歴女性が消費者のターゲットと して注目されており、メディアはおしゃれな消 費者としての女性たちをスマートな女性の代 表に仕立て上げようとしている。 • 都市生活 都市生活の現実に適応し、さらに文化的な美 現実に適応し さらに文化的な美 学に応じてふるまえる女性を「スマート」であ るという。 • 「スマート」であることと外見。外見だけが重 要なのではない。 6 大阪大学全学共通教育科目「世界は今」 2008.06.30 常田夕美子 結論 リアクションペーパーの課題 • 本講義では、地方都市の中間層という、グロ ーバル化による社会変化の影響がもっとも著 しい集団に属する女性に対象を限定し、その なかで女性たちにとっての「理想の女性像」 や「グローバリゼーション」についての考え方 グ を紹介した。 1. グローバル化によって、「女らしさ」や「男らし さ」についての考えや実践は変化したと思い ますか? • 現代グローバル化のなかのインド地方都市 の中間層女性にとっての理想像は、植民地 歴史、国民国家形成、ナショナリズムの問題 と密接に関係している。 2. 日本でもマスメディアにおける「理想の女性・ 男性」や「理想の生き方」の表象はあると思 いますか?もしあるとすれば、それはあなた の生活にどのような影響を及ぼしています か? 3. 写真の中で、グローバリゼーションについて 特に考えさせるものはありましたか? 参考文献 • アンダーソン、ベネディクト 1987 『想像の共 同体―ナショナリズムの起源と流行』白石隆・ 白石さや訳 リブロポート • Y. Hayami, A. Tanabe & Y. Tokita‐Tanabe eds. 2003 Gender and Modernity: Perspectives from Asia and the Pacific. Kyoto and Melbourne: Kyoto University Press and Trans Pacific Press 7
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