大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 全学共通教育科目 世界は今 グローバル化の時代を生きる グローバリゼーションとジェンダー ・前回の授業と共通の問い ユニット ユニット2 2:移動する人間と生き方の模索 「グローバル化のなかでの理想 の生き方の模索ー の生き方の模索 ー女性の視点 から」 グローバル化の時代におけるジェンダーの変 移について → ジェンダー規範や役割が、グローバリゼー ションによっていかに変容・再編しているか 2009年6月1日 常田夕美子 前回のフィリピンの事例 • 近年におけるフィリピン単身女性の移動の増大 • Transnational mothering (インターネットや電話など をつうじて)にみるように、母親の役割は女性の親 族ネットワークが担い、男性がかかわることが少な い。 • → 女性の単身移動は、既存のジェンダー役割や関 係には変化を及ぼしていないのでは? • 今、世界の再生産領域におけるジェンダー役割規 範はどのように変わっているか? ・・・あまり変わっていない なぜ? • インドの場合:女性と伝統の関係 • 伝統文化を担う女性の役割 • 「女性と伝統」の関係は、植民地期にさかの ぼる • 「伝統」が問題になるのは、社会・文化が「近 代」と接したとき • 植民地期の歴史とジェンダーを見る必要 植民地期におけるジェンダー区分 植民地期インドの歴史とジェンダー • インド植民地期:1857年(インド大反乱)~ 1947年(独立) • 英国側:インドを文明化(近代化)する使命 文明化にともなう女性の地位向上 文明化の基準を女性の地位ではかる • インド側:インド版の和魂洋才 女性こそインドの伝統を担う存在 女性は娘、妻、母としての伝統的役割を果たす べき • • • • • 女/男 家/世界 ウチ/ソト 伝統 近代 伝統/近代 ナショナリスト(国粋主義者、愛国主義者): 男性の領域であるソト社会においては、物質的 に優っている外国勢力が植民地支配をおこ なっているが、女性の領域であるウチでは内 的な精神文化を維持するべきである。 1 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 自己紹介:インドでの滞在歴 インドのなかのオリッサ州 • 1991年4月から1992年11月 オリッサ州 プリー県 ゴロマニトリ村(人口: 3,555 in 1992) ・1995年12月から1997年12月 年 月から 年 月 オリッサ州 プリー市(人口: 125,000 in 1991) ブバネーシュワル市(人口: 411,500 in 1991) ・2000年4月から2002年3月 オリッサ州 プリー市 オリッサ州のなかのクルダと プリー県 オリッサ州・ブバネーシュワル 2008年3月 2 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 3 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 4 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 写真からみえる男と女の違い • 男は町をブラブラしているが、女性はブラブラ しているように見えない。 • これは、適切な女性のふるまいと関係してい る。 グローバリゼーションとインドの 地方都市 • 1990年代からのインド経済自由化 • 大都市(デリー、コルカタ、ムンバイ)と地方都 市(オリッサ州・ブバネーシュワル)の違い • 地方都市 地方都市の中間層女性と大都市の上層女性 中間層女性と大都市 上層女性 の違い • インド女性の多様性 5 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 インド女性の多様性 ゴロマニトリ村 2007年 現代のポスト植民地期インドにおける ジェンダー区分は? 新しいインド女性 • ポスト植民地期=ポストコロニアル=植民地 期の影響が現代においてもみられる状況 • 植民地期において、女性はナショナリストに 民 期 、 よって、インドの精神的アイデンティティを守 る責任があるとされた。 • その状況はポスト植民地期においても継続す るが、現代のグローバル化においては「新し いインド女性」のありかたが注目される。 現代のグローバル化における インド地方都市の中間層女性 • アンケートの質問:グローバリゼーションにつ いてどう思いますか? • Please give your opinion regarding globalization • 答え:全世界が家族やコミュニティになる;競 争によってビジネスチャンスが増える;いろん な考え方に触れる機会;人々が利己的になる ;地域経済や文化を破壊する • 新しいインド女性は、ウチとソトの分断を媒介 する • アンケートの質問:「理想のインド女性」とはど うあるべきですか? • What is an ‘ideal Indian woman”? How does she live and behave? What does she wear? • 答え:状況に応じて判断する能力;伝統と近 代を両方大切にする;自己犠牲;良い母であ ること(adjust=調整する能力) 外を知りつつ、内面をもつ • 女性たちは家の外に出かけて自分の仕事を するし、またただ単に伝統を守るのではなくて、 近代的な状況に適応している。 • 女性は家に閉じこもっていてはだめで、外を 知る必要があるという。これは教養(self development=自己向上)のためにも経済的 発展のためにも必要。 • しかし単に外のものに影響を受けるだけでは だめで、自分で考え、何が正しくよいものなの かを選択し判断できなければならないという。 6 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 「自由」と「自分勝手」の違い 「スマート」であること • 新しいインド女性は、外に出かけて外の知識 を持つことが求められており、同時に、個の 内面の価値観を確立するべきことが語られる。 しかし これはあらゆるジェンダー区別を無視 しかし、これはあらゆるジェンダ 区別を無視 して、個人の意志や独自の考えを持つことと は異なる。 • 女性は、服装や立ち居振舞いにおいて、女性 らしくあることが要求される。 • TPO(Time, Place, Occasion)にあわせるのがも とめられる。 とめられる • アンケートに繰り返し出てくる答え:自分たち は「西洋の」「西洋化された」「近代化された」 女性のように「自分勝手」ではない。 マスコミと「新しいインド女性」 • • • • • 都市生活の現実に適応し、さらに文化的な美 学に応じてふるまえる女性を「スマート」であ るという。 • 「スマート」であることと外見:外見だけが重要 なのではない。 Priyanka Gandhi Vadra プリヤンカ・ガンディー・ヴァドラ ラジーヴ・ガンディー元首相の娘 結婚し、現在は子育て中 将来の首相候補として注目されている • 彼女が白いシ 彼女が白いシャツと黒いズボンの装いで国会に現 ツと黒いズボンの装いで国会に現 れたときについて、世界的なインド人デザイナーで あるリトゥ・クマールは新聞につぎのようなコメントを よせている。「それがインド女性の多様性なのです。 手織り(khadi)のサリーを着せても、アルマーニのズ ボンをはかせても、かっこよくきまるのです」 [The Times of India, 2 August 2008]。 マスメディアの問題 • 現在、テレビや雑誌などで、商品の宣伝のた め外見が若々しく美しい女性のイメージが氾 濫している中、女性の美学は消費文化の論 理に巻き込まれる可能性がある。 • 1990年代のインド経済においては、都市の中 間階層の高学歴女性が消費者のターゲットと して注目されており、メディアはおしゃれな消 費者としての女性たちをスマートな女性の代 表に仕立て上げようとしている。 結論 • 本講義では、地方都市の中間層という、グロ ーバル化による社会変化の影響がもっとも著 しい集団に属する女性に対象を限定し、その なかで女性たちにとっての「理想の女性像」 や「グローバリゼーション」についての考え方 グ を紹介した。 • 現代グローバル化のなかのインド地方都市 の中間層女性にとっての理想像は、植民地 歴史、国民国家形成、ナショナリズムの問題 と密接に関係している。 7 大阪大学2009年度1学期 全学共通教育科目 GLOCOL協力科目 「世界は今 ― グローバル化の時代を生きる」 リアクションペーパーの課題 日本でもマスメディアにおける「理想の女性・男 性」や「理想の生き方」の表象はあると思い ますか?もしあるとすれば、それはあなたの 生活にどのような影響を及ぼしています か? 参考文献 • Y. Hayami, A. Tanabe & Y. Tokita‐Tanabe eds. 2003 Gender and Modernity: Perspectives from Asia and the Pacific. Kyoto and Melbourne: Kyoto University Press and Trans Pacific Press • 田中雅一・中谷文美(編)2005 『ジェンダー で学ぶ文化人類学』世界思想社 インドについて知るための文献 • 佐藤宏・内藤雅雄・柳沢遥(編)1989 『もっと知りたいインド 1』弘文堂 • 臼田雅之・押川文子・小谷汪之(編)1989 『もっと知りたいインド 『も 知り 2』弘文堂 』弘文 ・小西正捷(編)1997 『暮らしがわかるアジア読本ーインド』 河出書房新社 ・田中雅一・田辺明生(編)(近刊) 『南アジア社会を学ぶ人のために』世界思想社 8
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