MODERN ARCHITECTURAL THEORY

MODERN ARCHITECTURAL THEORY
A Historical Survey, 1673-1968
2012/5/16 近代建築理論研究会
伊藤研 光永理人
HARRY FRANCIS MALLGRAVE
3.British Theory in the Eighteenth Century・44
1.The Legacy of Jones and Wren・44
2.The Palladian Movement・47
3.The Origins of the Picturesque and the Sublime・51
4.The Scottish and Irish Enlightenment・55
5.Picturesque Theory・59
6.John Soane・63
このレジュメでは第3章「18 世紀におけるイギリスの理論」の後半部の 3 項を扱う。
「4. スコットランドとアイルランドの啓蒙運動」では、
美や taste についての相対主義、
主観主義の発展の流れの中でエドマンド・
バークに焦点を当て、さらに崇高という概念の発達について述べている。また理論を実践した同時代の建築家のアダム兄弟を
取り上げ、その独自のスタイルを紹介している。
「5. ピクチャレスクの理論」では、18 世紀後半以降のピクチャレスクの理論の発達を、レプトン、プライス、ナイトの一人ず
つに多く筆を割いて追っている。同時に、ピクチャレスクの理論が建築にどう適応されたかについても適宜論じている。
「6. ジョン・ソーン」では、独自の位置づけにいる建築家ジョン・ソーンを取り上げている。彼の著作や講義を素材として、折
衷、キャラクター、ピクチャレスクといった観点から彼の建築理論に迫っている。ソーンを一様に定義するのは困難であると
したうえで、18 世紀の最後の主たる建築家であるという考えを筆者は示してこの章を終える。
4. スコットランドとアイルランドの啓蒙運動
1750 年代、イギリスにおける建築理論の変遷…フランス等に比べて穏やか
アラン・ラムゼイ(Allan Ramsay 1713-84、スコットランド出身の芸術家)
"Dialogue on Taste"(1755)
セレクト・ソサイエティ(1754 年設立の、エディンバラの討論クラブ。芸術や科学を論じる)の為に執筆された
taste の相対主義を主張
ゴシックへの敬意…アダム兄弟と共有
デイヴィッド・ヒューム(David Hume 1711-76、スコットランド出身の哲学者)
初期のテクスト "On the Delicacy of Taste and Passion" など
美は心情から引き起こされ、訓練によって高められると指摘
"Of the Standard of Taste"(1757)
主観主義を唱える
「美は物そのものの中にある性質ではなく、単にそれらを知覚する精神の中にある。それぞれの精神は異なる美を知覚する。」
その精神のため、訓練等を必要とする→ taste の主観と普遍性の双方を熟考
エドマンド・バーク(Edmund Burke 1729-97、アイルランド出身の哲学者、政治家)
『崇高と美の観念の起源』"A Philosophical Inquiry into the Origin of our Ideas of the Sublime and Beautiful"(1757)
従来の感覚論に加えて、身体の神経的反応から美の観念を主張
taste の判断は「不変で確実な法則」をもとにする cf. ヒューム:一部の優れた想像力を持つ人々が taste を判断できる
→崇高と美の観念から古典的な要素を除き、互いに対応し補足的な美学の範疇として考える
崇高について、概念的な修正を加える
崇高という言葉…17 世紀よりヨーロッパに流布(
「言葉の威厳」を表す文学的意味→あらゆる感情の激しさを表す)
アディソン…「美」から「偉大 Great」を区別(1714)
アレクザンダー・ジェラードの定義:「対象は量 (quantity)、広さ (amplitude)、単純さ (simplicity) を結合してもつとき崇
高である。」ex. アルプス、ナイル、大洋、空(An Essay on Taste, 1759)
↓
バーク…崇高と美を分離
beautiful 「愛やそれに類する情熱をそれによって喚起する身体におけるその性質あるいはそれらの性質たち」
:
sublime :「苦痛や危険の観念を刺激するあらゆることと調和するいかなるもの、つまり、ひどいこと、恐ろしいことと
結びつくこと、恐怖と類似した手法を扱ういかなるもの」
(
『崇高と美の観念の起源』
)
建築にとっての崇高 sublime
…大きさ、困難さ、光に関わる
光について "Light in BUILDING" で言及→チェンバーズ、ソーン、フランスにも影響
プロポーションについて
古典から離れる…美の根拠とはなりえないと主張(良いプロポーションが自然や人体に由来しえなかったため)
ex. ダ・ヴィンチの図についての批判的意見 cf. ケイムズ:プロポーション相対主義に対立
ロバート・アダム(Robert Adam1728-92、スコットランド出身)
、弟ジェームズ(James 1732-94)
ラムゼイ、ヒューム、ケイムズらと知己
ロバート・アダム、ラムゼイと南方へグランドツアー(1754-57)
ローマで社交イベント。クレリッソー、ピラネージらと交流
クロアチアへの小旅行、ディオクレティアヌス帝の宮殿遺跡の調査
→ "Ruins of the Palace of the Emperor Diocletian at Spalatro in Dalmatia"(1764、fig.1)
cf. スチュアートとレヴェット『アテネの古代遺跡』"Antiquities of Athens" (1762)
「アダム・スタイル」の成功 (fig.2)
高度に洗練された構成。イギリスにそれまで見られなかった類いの装飾スタイル
幾何学的空間、内部の柱や円柱のスクリーン、グロテスク模様、化粧しっくい、絵画、多色彩の大理石彫刻や模造金箔
エトルリア、ポンペイ、ヘルクラネウム、ルネサンス、パラーディオ主義、ヴァンブラのモチーフまで参照範囲を拡大
作品集 "The Works in Architecture of Robert and James Adam"(1773-1882、3 巻本 )
動的効果 (movement)…「構成におけるピクチャレスクを大いに増やすために、建築の様々な部分において、他の形態の 多様性とともに、上昇や下降、前進や後退の効果を表す」
ヒューム的な美学…taste は完全に主観的であるが、その最高の水準においては鍛錬と経験を通じてのみ獲得される
ローマ人は建築の知識をギリシア人と接触する以前にエトルリア人から得ていたというピラネージの視点を肯定
fig.1 Ruins of the Palace of the Emperor Diocletian at
Spalatro in Dalmatia
fig.2 ceiling of music room of Sir Watkin Wikkiams Wynn
fig.1
fig.2
5. ピクチャレスクの理論
18 世紀後半のイギリスの建築…新古典主義よりもピクチャレスクにもとづく
ランスロット・「ケイパビリティ」・ブラウン(Lancelot "Capability" Brown 1716-83、造園家)
イギリスで当時最も人気を博した造園家
自然の要素を取り入れる ex. 曲がりくねった道、芝生の起伏、人工湖
トーマス・ウェイトリー(Thomas Whately 1726-71、議員)
『現代造園論』Observations on Modern Gardening(1770)
理想的・倫理的なキャラクターの特質によって引き起こされる感覚・連想の観念を重要視
→ル・カミュ・ド・メジエールのカラクテール理論にも影響
ウィリアム・ギルピン(William Gilpin 1724-1804、聖職者、教育者)
ピクチャレスクの定義:「絵画において好ましい美の独特の類いのものを表現する語」("An Essay on Prints" 1768)
『ワイ紀行』Observations on the River Wye(1782)
ドローイングと文章によるガイドブック
ピクチャレスクの美の原則による調査
→レプトン、プライス、ナイトによるピクチャレスク理論の発展
ハンフリー・レプトン(Hamphry Repton 1752-1818、造園家)
ブラウンを参考にした造園家(はっきりとした思索者や理論家ではなかった)
卓越した水彩画の技術をもつ
『造園のためのスケッチとヒント集』Sketches and Hints on Landscape Gardening(1795、fig.3)
21 の「風景の造園における悦楽の根源」
「連想 (association)」:「喜び−古代の遺跡のような場所の出来事によって、しかし十分に知られた対象への個人的な愛
着によってより著しく刺激される−の最も印象的な源」
」
「ピクチャレスクの効果」:「造園家に広がりや光と影を供給し、集団、輪郭、色彩、構成の均衡、また時には時間・年月の
効果粗々しさと腐朽による利点も形成する」
ピクチャレスクの定義:絵画的、野性的、自然の無骨さ…ギルピン的意味。自然の扱いは未だいくぶん伝統的
→対照的に、建築におけるピクチャレスクの効果は、プランや構成の輪郭の確かな不規則性を意味し、デザインの特徴を高
める。
『造園の理論と実践についての考察』Observation on the Theory and Practice of Landscape Gardening(1803):
レプトンのデザインの特徴とは対極的
ギリシア建築より、ゴシック建築を好む
↓
プライス、ナイト…ピクチャレスク理論の首尾一貫を目指す
fig.3 View of the Welbeck Estate, Sketches and Hints on Landscape
Gardening (London, 1794). PML 46448. Gift of Henry S. Morgan and
Junius S. Morgan, 1954. Photography, Graham Haber, 2009.
fig.4 Blenheim Palace
ウヴェデール・プライス(Uvedale Price 1747-1829、庭園理論家)
『ピクチャレスク試論』Essays on the Picturesque(1794)
ハーフォードシアで実践も行う←風景画の知識(クロード・ロラン、ニコラ・プッサン、ジャン=アントワーヌ・ワトー)
造園を芸術形態にまで高めようと試みる(ジョシュア・レイノルズの影響)cf. レプトン:二つの違いを強調
ケントやブラウンへの批判、自然における時間や偶然性の重視を主張
バークの「美」と「崇高」に、「ピクチャレスク」を加える
ピクチャレスクの定義:不規則性に結びつけられる粗々しさ、急激な変化に由来する。経年、腐朽、非対称にも言及
⇒廃墟を賛美
バークの神経学的説明を承け、崇高と美の中間にピクチャレスクを位置づける(説明は簡潔にとどまる)
美:身体の緊張した神経繊維を通常の状態の下方に和らげる(バーク)
崇高:逆に同じ繊維を通常の上方へ引き伸ばす(バーク)
ピクチャレスク:弛緩と緊張の間の自然な状態を生み出す(プライス)
"An Essay on Architecture and Buildings"(1798、『ピクチャレスク試論』の補遺のうちのひとつ)
:
ピクチャレスクの概念を建築に応用
ヴァンブラを評価…風景画と建物をともに研究し、両者に絵画の原理を応用した建築家として
Blenheim Palace…ピクチャレスク・デザインのための価値ある基準(
「ギリシア建築の壮麗」と「ゴシッ
クのピクチャレスク性」を統一する「大胆で困難なデザイン」
。
「様々な高さの様々
な大胆な投影」
「輪郭の多種性」
「ルール違反」
「純粋性の軽視」
「新しく著しい効果」
不規則な増築や新しい計画の奨励 (fig.4)
ゴシック建築が最もピクチャレスクであると評価→ 19 世紀に多大な影響
リチャード・ペイン・ナイト(Richard Payne Knight 1750-1824、学者)
ハーフォードシアに小塔や胸壁を備えた城 Downton(fig.10) を建設
古代美術品の収集と文献学研究の生活
『分析的研究』Analytical Inquiry into the Principles of Taste(1805)
ヒューム流の思考アプローチ
ピクチャレスク定義:視覚の刺激によって慣らされた観念による⇒後天的に獲得、向上する能力
ルール欠如⇒分析不可能、プロポーションとも無関係
「スカルプチャレスク」「グロットエスク」のようなキャラクターと並んで存在し、様式性を備えている
現代の建築を批判…ギリシアやゴシックの模範への固執において「あまりに堅い」
ゴシック建築…ギリシア、ローマの堕落したもの。エジプト、ペルシャ、ムーア式、サラセン式が混合したものとの認識。
しかし、混合ゆえに評価
→ギリシアとゴシックの混合を提案 ex. イタリア土着の建築、クロード、プッサン
Downton の城を、折衷とピクチャレスクから語る(
『分析的研究』
)
「不規則でピクチャレスクな建物のための現在用いられうる最良の建築様式は、クロードやプッサンの建物を特徴づけるような
混合様式である。それは多くの連続する時代の間に、また複数の異なる国にばらばらに建てられた模範から得られ、いかなる
制作の手法や装飾の種類によっても識別されない。単純な壁面やバットレスや最も粗いメーソンリーから、最も精巧なコリン
ト柱にいたるまでのまったくのごた混ぜを認め、公然と多方面にわたる様式である。そのような相違は、どんなうそいつわり
もなく喜びを損なうことのない高度な美的趣向を要するのである。
」
(
『分析的研究』
)
…ピラネージと近しい立場
ヴァンブラのみが成功したと評価(すぐのちのジョン・ソーンも同意見)
6. ジョン・ソーン
ジョン・ソーン(John Soane 1753-1837、建築家、fig.5)
初期の経歴
1768 ころ 15 才でジョージ・ダンスの事務所に入る
1771 ロイヤル・アカデミー入学
1776 設計競技で金賞 (fig6.)、グランドツアーへ
1780 イギリスに帰国、以後 10 年間で数多くの増改築の仕事
1788 イングランド銀行建設総督
"Design in Architecture"(1778、挿絵本 )、"Sketches in Architecture"(1793、水彩画 )
実験的な趣向、エロティシズム、奇妙なデザイン
"Plans, Elevations, and Sections of Buildings"(1788)
カントリーハウスのデザインの記録
ウィトルウィウス、Martial、Horace、Pliny、アルベルティを引用
「装飾は慎重に導入されなければならない。それらはその状況に単純明快に、適応するように、特徴的にのみ用いられるべ
きである。それらは規則性を備えてデザインされなければならず、その輪郭において完全に明瞭でなければならない。」
ゴシックを賞賛
ロイヤル・アカデミーでの講義(1810-36)(1806 年にダンスの後を継いで建築教授に就任)
折衷について論じる(ルソー、ディドロ、ダランベール、ペロー、ロジエ、ブロンデル、
、
、プライス、ナイト etc.)
ヴァンブラの神格化…ソーンの折衷的な視点の象徴
美の定義:内在的な美と相対的な美が合成されたもの
内在的な美:円や正方形や多角形のような「確かな形態とプロポーション」
相対的な美:用途やキャラクターによって要求される「dimension」
"taste, good sense, and sound judgement"…建築家の精神を導くもの
古典:装飾は厳格な規則に支配されなければならない
ピクチャレスク:アダム兄弟によって紹介された「装飾の明るく魅力的な様式」
→ソーンは自身の装飾を追求
キャラクターの概念…ソーンの思考の中核。フランスの理論の影響
「大きくても小さくても、単純でも優雅でも、全ての建築は、絵画のように、見る人に対して明瞭に語りかけねばならない。
それぞれが、建てられた目的や使用法を指摘するのに十分なほど固有の良いキャラクターを持っていなければならない。こ
れは建築にキャラクターが不足していては達成されえない。アテネの演説家は彼の演説の技術に不可欠なものは何かと問わ
れ、アクション、アクション、アクションと答えた。だから、建築の構成の特有の美を担うものは何かと問われれば、キャ
ラクター、キャラクター、キャラクターと答えよう。
」
(ロイヤル・アカデミーでの講義)
キャラクター…表現に富む操作、自然光、ディテールのなかにあるもの ex. ソーン自邸 (fig.7-9)
キャラクターの視点からも、ヴァンブラやゴシックを評価
ピクチャレスクの建築家としての古典主義者
…古典の言語、誇張されたプロポーションへの嗜好、不意の空間の移行、演出された光の効果
一方、ナイトの Downton Castle(fig.10) のゴシックとギリシアの結合を許容せず
fig.5 John Soane painted by Thomas Lawrence
fig.6 A Triumphal Bridge. One of several versions of the design with which Soane won the Gold
Medal of the Royal Academy in 1776.
fig.7 Sir John Soane's Museum, the Dining Room from the Library
fig.9 Sir John Soane's Museum,
drawing by George Baily, 1810
fig.10 Downton Castle
fig.8 Sir John Soane's Museum, View of the Dome