平成22年度事業報告書(摘要)(PDFファイル / 244KB)

2010年度(平成22年度)事業報告
(摘要)
自 2010年(平成22年)4月 1日
至 2011年(平成23年)3月31日
一般社団法人CRD協会
〒103-0022
東京都中央区日本橋室町4丁目3番18号
TEL (03)6225-5081
FAX (03)6225-5086
Ⅰ.事業概要
2008年(平成20年)後半以降の世界規模での金融危機の影響を受け,急激な落ち込みを示し
ていたわが国経済は,累次の経済対策等による下支え効果もあり,全体としては,持ち直しつつあ
った。しかしながら,2011年(平成23年)3月11日,東北地方太平洋沖地震の激震と大津波に見
舞われ,さらに,福島原子力発電所事故による広範囲に及ぶ影響にも曝されることとなった。この
ような,東日本大震災による生産設備の毀損,サプライチェーンにおける障害,電力供給の制約等
は,わが国経済の先行きを,不確実性の高いものとしている。
中小企業を巡る金融情勢をみると,2008年(平成20年)10月の制度発足以来,累次の拡大延
長が図られた緊急保証制度に加えて,同年11月に発表された,貸出条件緩和が円滑に行われる
ための措置や2009年(平成21年)12月に施行された「中小企業者等に対する金融の円滑化を図
るための臨時措置に関する法律(以下,この事業報告において,「中小企業金融円滑化法」と略称
する。)」をはじめとする,中小企業金融の円滑化に向けた諸措置の効果もあり,デフォルト動向等
には落ち着きが見られるようになっている。しかしながら,中小企業の財務状況は,総体として,悪
化傾向が止まらず,CRD会員である信用保証協会及び金融機関のいずれにおいても,高い信用
コストが発生しやすい,不確実性の高い状況にある。今後についても,東日本大震災の影響により,
わが国中小企業の経営を巡る環境の厳しさには,計り知れないものがある。
このように厳しい環境の下で,CRDとしても,『CRD会員の信用リスク管理業務の的確な運営に
貢献することを通じて,わが国中小企業に対する円滑な金融の実現を図る』という,本来の責務を
果たすことが求められている。
このような認識に立ち,CRDは,2010年度(平成22年度)においても,従前に引き続き,① C
RDデータベースの内容・品質の維持・改善,② CRDモデルの品質の確保,及び ③ 会員との
緊密なコミュニケーションの下での会員ニーズに対応したサービスの提供,という 3つの実践的
課題に取り組むこととし,以下のように,事業を展開した。
なお,CRDは,中小企業信用リスク情報データベース(CRD)運営協議会が,2001年(平成13
年)3月28日に創立されてから,2011年(平成23年)3月で,10周年を迎えた。このことに鑑み,
CRD創立以来の歩み,信用リスク管理に係る今後の課題等を取り纏めて,記念誌を作成し,CRD
会員をはじめ,これまでCRDを支援して頂いた方々に配布した。
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2010年度(平成22年度)の業務運営を総括すると,次の通りである。
1.CRDデータベースの内容・品質の維持・改善
CRDサービスを生み出す付加価値の源泉が,会員から提供されるデータであることは言うま
でもない。CRDが,今後,「会員に役立つサービス提供」に一層の努力を傾注するに際しても,
蓄積データの内容・品質の維持・改善のための不断の努力が,大前提となる。
このような認識の下,会員が適切なデータ提供を行うことが出来るよう,会員の取組みを支援
するとともに,会員とのコミュニケーションを深めることにより,蓄積データの内容・品質の維持・
改善に努めた。
2011年(平成23年)3月31日現在,CRDデータベースは,債務者数(名寄せ後,法人及び
個人事業主)が約279万件,決算書数が約1,527万件となっている。
1.1.インターネットを使用したデータ伝送によるデータ提供の受入れ
データ提供に伴う会員負担を軽減・効率化するために,CRDでは,2008年(平成20年)12
月以降,インターネットを使用した,データ伝送によるデータ提供を受け入れている。
データ伝送によるデータ提供を行っている会員数は,2011年(平成23年)3月31日時点で,
57会員となっている。データ伝送の利用を検討している会員も,なお,多数あり,データ伝送に
よるデータ提供は,今後も増加する見込みである。
1.2.提供データに対するモニタリングの強化
CRDデータベースの内容・品質の維持・改善のため,会員からの提供データの状況をモニタ
リングするとともに,その結果を踏まえて,必要の都度,データ提供を行う会員に対する支援を
行っている。
2.CRDモデルの品質確保に向けた取組み
CRDでは,2007年(平成19年)8月に「CRDモデルの品質管理に関する指針」を策定し,同
指針に基づき,「CRDモデル第三者評価委員会」を設置,モデルの精度検証にいち早く努めて
きた。
2010年度(平成22年度)においても,「CRDモデル第三者評価委員会」を軸として,モデル
の品質管理に取り組むこととし,2010年(平成22年)10月1日に開催された「第20回CRDモ
デル第三者評価委員会」において,提供モデルの品質評価を,代表理事会長から依頼した。
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2010年度(平成22年度)における,CRDモデルの品質に係る定期検証に関する,「CRDモ
デル第三者評価委員会」における評価結果の概要は次の通りである。
① 法人モデル3(期間1年),モデル3-aの品質に関しては,AR値が安定しており,推計PDの
過小推計問題についても,モデル3-aのリリースにより手当済みであることから,問題はな
いとの評価となった。
② 法人の信用保険・保証料率の算定に用いられている,モデル3(期間3年)の品質に関しては,
AR値の水準が概ね安定しており,推計PDが実績代弁率を上回る保守的な推計となってい
ることから,AR値水準の評価を巡る前回検証時の検討結果も踏まえて,「その利用について
留意が必要ではあるものの,品質に問題はない」との前回検証における評価を維持する。
③ 累次の経済対策や中小企業金融の円滑化に向けた諸措置によるデフォルト抑制効果の影
響については,今後,ある時点でデフォルト率が急上昇する可能性も否定できない,非常に
不確実性の高い状況にあることについて,モデルユーザーに注意喚起を行う必要があると
の評価となった。
④ 個人事業主の信用保険・保証料率の算定に用いられている,モデル4 BSモデルの品質に
関しては,今次検証において,品質に新たな問題が生じているとは言えないことから,料率
弾力化等に同モデルを引き続き利用することには,実務上の支障はないとの評価を維持す
ることとした。なお,前回検証時に「今後,当面,一層注視していく」とされた説明変数の合理
性については,PLモデルと合わせて,別途幅広い観点から慎重に検討を行った。
⑤ 今次検証から評価対象としたモデル4 PL1,PL2モデルの品質に関しては,推計PDと実
績デフォルト率の一致状況については,保守的な推計となっているものの,特にPL2モデル
において,AR値に経年劣化が見られ,PL2財務モデルでは,2008年データによる検証の
結果,半数以上の説明変数で有意性が失われるといった問題点が明らかとなった。しかしな
がら,データ制約が大きいPLモデルに関しては,現在のモデル精度が必ずしも高くないから
といって,直ちに,モデルの利用を問題視するとの結論には至らなかった。
⑥ 個人事業主モデルの試作結果からは,BSモデルに関しては,法人モデルと比較しても,遜
色のない精度のモデル構築が期待される。なお,今後,今以上に,データの蓄積が進むこと
で,より安定的な,精度の高いモデルを構築することも可能であろう。同様に,PLモデルにつ
いても,現行の個人事業主データをフルに活用することにより,モデルの精度を向上させる
可能性が示唆されている。
⑦ 今後,事務局において,会員からのモデルに対する要望を取り入れた結果,個人事業主モ
デルの改訂に取り組むという段になった場合には,BSモデル,PL1モデル,PL2モデルか
らなる,モデル4の基本構造の変更や,新たなデータ収集によるモデル精度の向上等も視野
に入れて検討することを推奨する。
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「CRDモデル第三者評価委員会」を通じた一連の取組については,会員訪問の際に,CRD
事務局担当者から説明するとともに,セミナーを開催し,会員に情報発信した。また,「CRDモ
デル第三者評価委員会」における評価結果については,『CRDモデル3・モデル3-a・モデル4
の品質に係る定期検証に関する評価報告書(平成23年3月28日)』として,会員に配布した。
3.会員との緊密なコミュニケーションの下での会員ニーズに対応したサービスの提供
リーマンショック以降の急激な経済活動の落ち込みに伴う実績デフォルト率の急上昇により,スコ
アリングモデルにおいては,PDの過小推計や,そのことに伴う信用リスク量の過小計量等の問題
が生じた。その後,緊急保証や,中小企業金融円滑化法等,様々な対策が講じられると,これらの
対策によるデフォルト抑制効果を巡り,高い信用コストの発生しやすい,不確実性の高い状況にあ
ることが指摘されるようになった。
このように,激しく変化する環境の下で,スコアリングモデルや格付に係る精度評価や,ストレス
テストを含めた信用リスク量計測を巡り,様々な問題が生じている。
このような状況の下で,CRDには,会員から,内部格付制度に係る格付マッピング分析や格付検
証,格付に係るAR値の算出とその変動要因に係る分析,内部格付制度の再構築,ストレスシナリ
オの検討を含めた信用リスク量の分析,CRDデータと自機関データとを用いたポートフォリオの構
成や実績デフォルト率等の比較分析など,多様なサポート要請が寄せられている。
さらに,信用リスク管理の一層の高度化を図ろうとする会員からは,回収率関連データの分析や,
デフォルト相関(共倒れリスク)に係るパラメータ算出,住宅ローン債権のリスク管理に係るコンサ
ルティングやデータ分析など,リスク管理全般に亘って,実務に即したサービス提供が,求められ
ている。
これに対し,CRDにおいては,CRD顧問を務める学識経験者や提携先の外部ベンダーとも協
力しながら,会員からの相談に応じると共に,分析メニューや分析手法の見直し,分析結果の掘り
下げ等に注力している。
信用リスク管理の枠組み,CRDモデルの構造や使い方,データベースを活用した分析の結果等
について,会員の許に赴いて説明する,個別セミナー・研修会の要請も増加しており,CRDとして
も,会員からの要請には積極的に対応することとしている。また,その際には,出来るだけ分かり
易い説明を心がけている。
CRDが有する豊富なデータの有用性にも目が注がれている。
自機関モデルの再構築や,外部データによる拡充ポートフォリオの構築とこれを用いた推計PD
の精緻化等に取り組む会員からは,これらのプロジェクトを遂行するに当たり,CRDの豊富なデー
タを活用すべく,サンプルデータ提供に対するニーズも寄せられ,CRDでは,このような会員から
の要請にも積極的に対応している。
CRDサービスを円滑に利用頂けるよう,CRDでは,会員側のシステム環境の整備についても
サポートしている。
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特に,スタンドアロンシステムや中小企業経営診断システム(MSS)については,入力データの
作成支援を中心にサポートを実施している。これは,決算書データの入力の手間を省き,利用者の
負荷を軽減することにより,CRDサービスの一層の活用を図って頂こうとの趣旨によるものであ
る。
また,スコアリングサブルーチンについては,会員側のシステムへの組込みを円滑に進めるた
めに,組込みを担当するシステムベンダーからの仕様に関する質問にも対応している。
さらに,データ提供のインターネット伝送への切り替え等,会員側システムの運用切り替えに際し
てもサポートを行っている。
このように,CRDは,会員との緊密なコミュニケーションを保つことによって,会員がCRDサービ
スを十分に活用出来るようサポートすると共に,会員が信用リスク管理業務を遂行する中で抱える,
様々な悩みを解決することに貢献出来るよう,努めている。
4.CRD業務運営体制の整備
4.1.CRD業務運営体制の整備
CRDでは,会員ニーズの多様化,高度化,深化に対応するために,信用リスク管理や統計的
データ分析に係る,スタッフの専門能力の醸成を図るとともに,業務ノウハウの蓄積・充実を進め,
より付加価値の高いサービスを会員に提供出来るよう,努力している。
2011年(平成23年)3月31日時点のCRD事務局は,常勤役員2名,職員20名の体制となっ
ている。
CRDスタッフに対しては,「行動規範」や「就業規則」に定められたことを基本動作として身に
つけることや,会社法における「業務の適正を確保するための体制の整備」に準拠した「内部統
制に関する基本方針(2007年(平成19年)7月策定)」等のCRD業務における基本文書や,「C
RDサービス提供契約」等の会員との間で締結した契約を遵守すべきことを,徹底している。
特に,「CRD情報資産」については,会員共有の価値ある資産であり,適切に保護する必要が
あることに鑑み,従来の「機密情報等管理規則」を全面的に改訂し,2010年(平成22年)4月以
降は,「CRD情報セキュリティ関係規程類」に基づき,組織的・体系的な情報セキュリティ管理に
遺漏なきを期することとしている。
また,CRDサービスにおいて,住宅ローン債権管理に取り組む金融機関会員を支援する機会
が増えたことに伴い,従来は「匿名情報」を取り扱ってきたCRDにおいても,「個人情報」に該当
する情報の取扱いが増えている。このようなことに鑑み,CRDにおいても,個人情報保護法に対
応して,個人情報保護体制を整備することとした。このため,助言型外部監査における指導を踏
まえて,「CRD個人情報保護のための取扱方針」を制定し,2011年(平成23年)4月より運用を
開始している。
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4.2.会員数の状況
2011年(平成23年)4月1日時点での会員数は,新規加入・退会を含め,前年同期と同じ19
3先となった。
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