中心市街地でストリート・パフォーマンス(Art 編)

中心市街地でストリート ・ パフォーマンス (Art 編)
{消費者視点からみる中心市街地活性化(8)}
1. はじめに
都市研究センター
研究員
久繁
哲之介
⑤ 不法な投棄物、広告物
注)④と⑤の法は道路交通法である。
ストリート(みち)を足 早 に歩 く都 市 居 住 者
は、「ストリートを歩くことが楽しい」事を忘れて
これ ら の「 人 為 的 に 発 生 する バ リ ア」 に 接
しまったか、知 らないように見 える。しかし、後
触 して、怪 我 やトラブルに巻 き込 まれた都 市
述するストリート・パフォーマンスに多くの人が
居 住 者 の事 例 は多 数 報 道 されている。例 え
集 い、賑 わいを創 造 している事 象 より次 の仮
ば 、 日 本 経 済 新 聞 (2003.10.26) で 紹 介 さ れ
説を導くことができる。
た「2002 年 度 の自 転 車 対 歩 行 者 の事 故 件
数」は 1941 件である。これは 10 年前の 4.2
仮 説 :都 市 居 住 者 はストリートを歩 く楽 しさを
倍 である。交 通 事 故 全 体 の同 期 間 伸 び率 が
知り、求めてもいるが、都市には楽しく安全に
35%であることを考 慮 すれば、自 転 車 を暴 走
歩けるストリートが非常 に少ない。それ故、都
する者 は確 実 に増 加 しており、ストリートの歩
市 居 住 者 はストリート・パフォーマンスに足 を
行安全性は急激に悪化している。また、日本
運 ぶ。よって、都 市にストリート・パフォーマン
経済新聞社が 2003 年 10 月に 20 歳以上の
スを創 造 すれば、そこは楽 しく安 全 に歩 ける
非喫煙者 1000 人を対象に実施したアンケー
ストリートに再 生 され、そこに多 くの消 費 者 が
ト「全面禁煙にしてほしい場所」の上記 3 箇
集い、活気と賑わいが生まれる。
所 は以 下 のとおりである。ストリート(路 上、横
断 歩 道 )の安 全 で快 適 な歩 行 は、都 市 居 住
事 実 、都 市 の「ストリート」は車 に占 拠 され、
者の切実な願いであることが垣間見れる。
歩 道 には「人 為 的 に発 生 するバリア」が溢 れ、
それらは消 費 者 の安 全 で快 適 な歩 行 を妨 げ
図表1 全面禁煙にしてほしい場所
ている。「人 為 的 に発 生 するバリア」とは、段
アでなく、ストリートを利 用 する「人 」に起 因 す
順位
1
2
3
るバリアで、主要なものは次の5つである。
出典)日本経済新聞(2003.11.29)
差 など建 築 物 や公 道 の構 造 に起 因 するバリ
場所
路上
横断歩道付近
鉄道のホーム
回答者数
753人
370人
279人
注)回答者 1000 人による複数回答のうち上
① 放置自転車、自転車を暴走する者
位3箇所である。
② 火を外側に向けて喫煙する歩行者
③ 携帯電話の画面に夢中な歩行者
④ 不法に地べたに座りこむ者、横たわる者
本 稿 前 号 では、中 心 市 街 地 ストリートにお
ける「 人 為 的 に 発 生 す るバ リ ア」 の現 状 と 発
生 原 因 を考 察 し、それを抑 制 かつ中 心 市 街
生 するバリア」に罰 則 を課 すペナルティ施 策
地 に賑 わいを創 造 する手 法 として、ストリート
を打 ち出 しているが、それが生 まれる背 景 や
を消 費 者 が自 由 に主 体 的 に参 加 できる「パ
消 費 者 意 識 が考 慮 されていない施 策 には、
フォーマンス空 間 」として再 生 することを提 案
都 市 居 住 者 が示 す反 感 ・無 反 応 は容 易 に
した。この「パフォーマンス空 間 」は大 きく2つ
想像できる。
に分 類 できる。一 つは街 路 市 やフリーマッケ
そこで解 決 策 としては、ストリートの位 置 付
ット、屋台・露店など「Shop 系パフォーマンス
けを通 行 機 能 だけに特 化 された「通 行 空 間 」
空 間 」であり、これは前 号 で取 り上 げた。もう
から、市 民 がストリートを汚したり素 通りできな
一 つはダンスやミュージック、大 道 芸 や祝 祭
いほど愛 着 と関心をもてる「パフォーマンス空
など「Art 系パフォーマンス空間」であり、これ
間」に再生する仕組みが必要である。
は今号で取り上げる。
この「パフォーマンス空 間 」は欧 米 では、ス
ここで、中 心 市 街 地 ストリートを「パフォー
トリートにおいても、商業施設やテーマパーク
マンス空 間 」として再 生 する目 的 と効 果 を確
内 の歩 行 空 間 においても、そこにあって当 た
認 しておきたい。一 昔 前 、街 のストリートには
り前の景色 のように定着している。特にパリで
多種 多 用 なパフォーマンスが見 られた。大人
は、ストリートカフェや朝 市などの「Shop 系パ
にとっては会 話 等 を 楽 しむ「 社 交 場 」であっ
フォーマンス空 間 」は、パリの重 要 な観 光 資
たり、子供にとってはメンコやベーゴマ等を楽
源 であり、都 市 の顔 でもある。また、パリでは
しむ「遊び場」としての機能がストリートには存
ストリートでの営 業 を許 可 する事 業 者 から道
在した。市 民はそのような「交流機 能」を有す
路占 用料 など利 用 料を徴収 しているが、この
るストリートに愛 着 をもち、特 別 な目 的 がなく
利 用 料 収 入 は市 税 収 総 額 の約 8%を占 める
てもストリートをゆっくりと散 策 ・徘 徊 する楽 し
と言われる。このような背景から、中心市街地
みがあり、そこには出会いや発見があった。
ストリートにパフォーマンス空間を推進 する効
しかし、現 在 のストリートは大 量 の車 に占
果として、次の3つを期待できる。
拠 され、それを高 速 かつ効 率 良 く移 動 させる
ことに囚 われた道 路 政 策 の影 響 も受 け、歩
行者がストリートをゆっくりと散策・徘徊する楽
しみは何 時 の間 にか奪 われてしまった。その
結 果 、現 在 のストリートは、「出 発 点 から目 的
地 へ単 に移 動 するルート」にしか過 ぎず、都
市 居 住 者 はそこに愛 着 も関 心 も持 っていな
①「人 為 的 に発 生 するバリア」抑 制 の総 合 的
な施策となる。
②中 心 市 街 地 に賑 わ いと 魅 力 を 生 む ソ フト
的な施策となる。
③パフォーマンス利 用 料 収 入 が自 治 体 の財
源を豊かにする。
い。したがって、都 市 居 住 者 は「単 に移 動 す
るだけの行 為 」には少 しでも時 間 短 縮 を図 り
2.ストリート・パフォーマンス空間の効果
たく、自 転 車 を暴 走 ・放 置 することに繋 がる。
また、煙草や携帯電話 でも手にしないと退屈
公共空間を利用して市民参加型まちづく
でしかたがない。昨今、自治体では条例等で
りを推進するという観点から、ストリート を「パ
放 置 自 転 車 や路 上 喫 煙 等 の「人 為 的 に発
フォーマンス空間」とすることの効果を考えた
い。都市公園など屋外公共施設で開催され
号にて取り上げた「高知市の日曜市」は 1 日
る行事・スポーツに参加・観戦する「劇場空
400円 (日 曜 市 以 外 の平 日 市 は290円 )、
間」、公民館など屋内公共施設で開催される
「徳 島 市 のパラソルショップ」は1日 3千 円 で
会議・音楽会に参加する 「インドア着席空
出店できる。
間」と比べると、「ストリート・パフォーマンス空
これは市 民 にビジネスチャンス(雇 用 機
間」は都市居住者の参加・参入障壁がほと
会 )を与 え、ここで成 功 した市 民 が正 規 に店
んどない。その点で、「ストリート・パフォーマ
舗 を構 える段 には、商 店 街 等 の空 店 舗 に入
ンス空間」の推進は市民参加型まちづくりに
居 してもらえる効 果 さえある。また、道 路 占 用
適している。
料 など出 店 費 用 の過 半 は自 治 体 の純 益とな
都市居住者が「劇場空間」や「インドア着
席空間」に参加する場合、場所や時間、参
る効果もある。
一方、サービス受 益 者 (消費 者)は参加 す
加資格が限定されることが多い。特に参加資
ることに費 用 も制 約 もなく、既 存 の商 業 施 設
格は居住者限定、招待者限定、高額チケッ
では得ることのできない楽しみを享 受できる。
トを購入できる消費者限定など参加・参入障
例 えば、掘 り出 し物 を探 す楽 しみ、おまけや
壁は高い。「劇場空間」と「インドア着席空
値 引 を 交 渉 して得 る楽 しみ、 普 段 出 会 えな
間」は予約なしに、気軽に立ち寄り、つまみ
い人と交流する楽しみ等がある。
食い(興味のある部分、都合の良い時間帯
にのみ参加)することは非常に難しい。
4.Art 系パフォーマンス空間について
これに対して、「ストリート・パフォーマンス
空間」は、参加する資格・費用・場所・時間
もう一 つのストリート・パフォーマンス空 間 で
はフリーであることが多く、自分の都合・興味
ある「Art 系 パフォーマンス空 間」を定 義 して
に合わせて気軽に参加できる。つまり、予約
おきたい。「Art」は癒 し、安 らぎ、感 動 など心
なしに、気軽に立ち寄り、つまみ食いが可能
の豊 かさを求 めるものである。よって、狭 義 の
である。この参加・利用形態は、コンビニエン
芸 術 には囚 われず、消 費 者 の心 を癒 し、感
ス・ストアへ毎日のように立ち寄る現代の都
動を与えるパフォーマンスは全て「Art 系パフ
市居住者には非常にマッチしている。
ォーマンス空 間 」 と する。 国 内 外 ストリ ートで
多く見られる「Art 系パフォーマンス」は、ダン
3.Shop 系パフォーマンス空間の効果
ス、ミュージック、大 道 芸、祝 祭である。これら
の効 果 や「Art 系 パフォーマンス空 間 」を推
前号にて取り上げた「Shop 系パフォーマン
進 す るた め の対 応 策 を 探 る た め、 本 稿 で は
ス空 間 」 とは、街 路 市 、フリーマッケット、屋
次 章 以 降 にて、次 の「Art 系 パフォーマンス
台 、露 店 等 の商 取 引 をストリートで行 うことで
空間」を取り上げる。
ある。これにサービス提 供 者 (販 売 者 )として
参加するには、道路 占 用料等の参 加費用 が
① ベネチア「カルネヴァーレ」
必 要 となる。しかし、この参 加 費 用 は商 業 施
② 四国「お遍路」
設 に出 店 することに比 べると格 安 である。前
③ 柏市「Street Break」
④ 全国展開される「よさこい祭り」
ベネチアはハード面の魅力、つまり歴史的
建 造 物 やそれを生 かした中 世 の街 並 みが優
5.ベネチア「カルネヴァーレ」
れている。それに加え、車の無い安全で快適
な歩 行 が約 束 されているソフト面 での魅 力 が
5−1.車の無いストリート
人 を惹 きつける。ドイツのフライブルグも同 様
である。フライブルグでは、黒 い森 や中 世 の
ベネチ ア では街 中 の ストリ ート 全 てに 車 が
街 並 み等 ハード面 の魅 力 を生 かすために、
進入できない。これには物理的な理由と都市
市 街 地 への車 の乗 り入 れを禁 止 するというソ
経 営 的 な理 由 がある。ベネチアは人 工 的 に
フト施策にも力をいれている。
創られた約120の狭い人工島の集積であり、
日本でも、2003 年 9 月末時点で450市町
各 島 は車 で移 動 するほど広 くなく、そこには
村 が景 観 条 例 を制 定 し、景 観 の維 持 ・整 備
長 さ・幅 が十 分 なストリートは無 い。或 るのは
を推進している。また、2004 年には「景観法」
水路と路地裏レベルの狭く曲がりくねったスト
の制 定 が予 定 されており、建 物 などハード面
リートである。かって、ベネチアは海 洋 国 家 と
での形 ・高 さ・色 彩 を整 備 ・統 一 する流 れは
して栄華を極めたが、国力が衰えたのを機に
一 層 加 速 されるであろう。ハード面 の整 備 が
観 光 都 市 への変 貌 を図 った。車 の乗 り入 れ
進 み、外 観 的 に美 しくなる日 本 の街 並 み・ス
禁 止 は、その重 要 な都 市 経 営 的 戦 略 と位 置
トリートに消 費 者 を惹 きつけるには、ベネチア
付けられている。つまり、中世の街並み・雰囲
やフライブルグの例 で明 らかなように、ソフト
気を保存し、街を魅力的に見せるために、生
面の推進も求められる。
活 の足 であり観 光 の足 ともなる車 を排 除 した。
ソフト整 備 を「自 動 車 排 除 」という点 から観
これはベネチア市民にも観光者にも大きな代
れば、日 本 都 市 では自 動 車 の完 全 排 除 は
償ではあるが、見返りにベネチア市民は観光
困 難 である。しかし、場 所 や時 間 にゾーンを
収入を、観光者は感動を得ることができる。し
設けた「歩車分離」、「歩行者優先」は進めた
たがって、ベネチア市 内 の移 動 手 段 は、水
い。事例としては、歩車分離を明確にした「コ
上交通を除くと「歩く」しかない。このベネチア
ミュニティ道路」や「歩行者天国」は既に各都
に年 間 約 1200万 人 の観 光 客 が訪 れる。彼
市で普及している。また、国土交通省が推進
らはベネチアへ何 かを求 めて「わざわざ歩 き
している「くらしのみちゾーン」では、2003 年 6
に行く」との見方ができる。ベネチアへ訪れた
月 時 点 で登 録 された42地 区 において、歩 車
観 光 客 は一 概 に、「ベネチアの街 には多 くの
分 離 や歩 行 者 優 先 などの施 策 を総 合 的 に
感 動 と驚 きが或 る」と言 う。確 かに、ベネチア
実 施 し、車 中 心 から人 中 心 のみちへの変 換
には歴 史 的 建 造 物 やそれを生 かした中 世 の
を図っている。
街並み、水 際の美観など「観光資 源」には事
欠 かない。そのハード面 での「観 光 資 源 」を
5−2.カルネヴァーレ
十 分 に生 かし、より魅 力 的 に見 せるのがソフ
ト面 での「観 光 施 策 」である。それは「カルネ
ヴァーレ」であり、自動車排除である。
イタ リ ア 語 でカ ーニ バ ルを カ ルネ ヴ ァ ーレ
(carnevale)と言 う。イタリア語 のcarne(カ
ルネ=肉)とlevare(レヴァーレ=取り除く)か
は約 30億 リラずつ運 営 資 金 を出 し、期 間 中
ら成 っており、「肉 を絶 つ」が語 源 である。カ
取 引 高 は2社 合 わせて約 130億 リラ)と言 わ
ルネヴァーレはカトリック宗 教 に係 る祝 祭 (カ
れる。
ーニバル)である。カトリック教 徒 は復 活 祭 前
ストリート・パフォーマンスは自 治 体 の負 担
の40日間 は肉 食を絶 つため、その断 食 前の
なく街 を活 性 化 でき、地 元 民 間 企 業 をも活
約 2週 間 は大 いに肉 を食 べ、酒 を飲 み、踊 り
性化させうる効果がある。
騒 ごうとの趣 旨 で祝 祭 は始 まったとされる。よ
って、カルネヴァーレは例年2月上旬から約2
6.四国「遍路」
週 間 にわたり開 催 される。カルネヴァーレ期
間 中 は年 間 で一 番 寒 い時 期 にも関 わらず、
四 国 「遍 路 」とは諸 説 あるが、 弘 法 大 師 が
約 100万 人 の観 光 客 が訪 れる。1990年 代
修行の為に四国に渡り開いた八十 八所の寺
には1日 に訪 れる観 光 客 が12万 人 に達 した
院 を巡 礼 する事 で、その行 程 は約 1100km
こともあり、ベネチア市の宿泊施設キャパシテ
であり、参 加 者 は毎 年 30万 人 以 上 である。
ィ(ベッド数 約 9万 床 ) を超 え、サンマルコ広
「巡 礼 の道 」はキリスト教 のエルサレム巡 礼 、
場 などに寝 袋 で寝 る者 が多 数 居 たほどであ
イスラム教 のメッカ巡 礼 など、宗 教 や文 化 の
る。
違い、そして時代を超越して世界中に今も多
カルネヴァーレ最 大 のイベントは参 加 者 の
数 存 在 しており、日 本 でも千 以 上 の巡 礼 地
仮 装 を競 うもので、ベネチア市 では毎 年 、開
がある。同 じ四 国 でも「三 十 三 所 観 音 巡 礼 」
催 1ヶ月 前 にその年 の仮 装 テーマを発 表 す
は「 巡 礼 」 と 言 わ れ るよ うに、 四 国 「 ( 八 十 八
る。カルネヴァーレにおける仮 装 の決 めては
所 )遍 路 」だけが「巡 礼 」ではなく、「遍 路 」と
仮 面 であり、仮 面 を付 けることで日 常 (かって
言 われる。それは四 国 「(八 十 八 所 )遍 路 」に
は階 級 社 会 における階 層 )から完 全 に開 放
は、寺 院 を巡 るのと同 じかそれ以 上 に、ストリ
されることで、自 由 に祝 祭 を楽 しむ意 図 があ
ート(路 )を巡 り歩 くことに価 値 があるからであ
る。カルネヴァーレ期 間 中 、街 のストリートや
る。したがって、四国「遍路」は宗教心の有無
広 場 は仮 装 して明 るく振 舞 う人 で賑 わう。ま
に関 わらず、誰 もが自 由 に参 加 でき、心 の豊
た、観光客も気軽にストリート・パフォーマンス
かさを十 分 に充 たせるストリート・パフォーマ
に参 加 できるよう、街 の至 る所 に仮 装 レンタ
ンスである。
ルショップが開かれる。
ストリート・ パフォーマンスの開 催 ・運 営 に
四 国 「遍 路 」が一 年 を通 して多 くの消 費 者
から支持される理由は、四国の温暖な気候と、
地 元 自 治 体 は時 間 的 にも財 政 的 にもかなり
四 県 毎 に異 なる自 然 美 と、四 国 への訪 問 者
の負 担 を負 うこともありえる。しかし、ベネチア
を 大 切 にも てな す地 元 居 住 者 の 心 にあ ると
市 では1992年 にカルネヴァーレの運 営 を民
言 われる。四 国 「遍 路 」を取 り上 げるメディア
間 企 業 (swatch , UNITED COLORS OF
記 事 で良 く言 われるキーワードは、「お遍 路
BENETON の2社 )に委 託 し、市 は運 営 に全
には癒 しがある」、「地 元 の人 が親 切 でその
く支出をしないで済んでいる。一方、スポンサ
触 れ合 いに感 動 する」。例 えば、地 元 の人 は
ーとなった2社 はかなりの利 益 を上 げた(2社
お遍 路 さんを見 かけると、採 れたての農 産 物
をくれたり、「よう参 ってくださいました」等 と励
この流 れを知 る柏 商 工 会 議 所 青 年 部 は、
まして くれ る 。 人 と の出 会 い・ 交 流 が自 然 に
1998 年に「ストリート・ブレイカーズ」の創設を
生まれるこの光景は、現代の都市が喪失した
企 画 する。柏 市 在 住 ・在 勤 ・在 校 の18∼25
一昔前のストリート・パフォーマンスである。
歳を参加条件にメンバーを公募し、約 60 名
のメンバーで「ストリート・ブレイカーズ」を設立
7.柏市「Street Break」
した。地元の行政・市民・駅周辺商業施設関
係 者 もこれをバックアップするための組 織とし
千葉県柏市では1973年に柏駅東口市街
て「柏 駅 周 辺 イメージアップ推 進 協 議 会 」を
地 再 開 発 事 業 の一 環 として、柏 駅 東 口 に日
設 立 した。これら組 織 は、「ダブルデッキ」等
本 では先 進 的 な人 工 地 盤 によるペデストリア
に集 まるストリート・パフォーマー達 と「22 時
ンデッキ(柏 市では「ダブルデッキ」と呼ぶ)が
以降はパフォーマンスしない。パフォーマンス
完 成 した。柏 市 では、この「ダブルデッキ」を
終 了 後 にその場 を掃 除 する。」との取 り決 め
市 民 交 流 の場 として位 置 付 けた政 策 を実 施
を交わし、市民との共 生が始まる。そして、同
しており、ここへ予 想 以 上 に多 くの若 者 が集
年(1998 年)にストリート・パフォーマンスの第
まり始 める。彼 らは「ダブルデッキ」で歌 い踊
1回 目 のイベント「Street Break 1998」を「ダ
る「ストリート・パフォーマー」である。彼 らに対
ブルデッキ」にて開催した。
して、地元 市民は「煩 い」とか「街が汚れる」と
「Street Break」はその後、毎年開催され、
排 他 的 な 反 応 を 見 せ た。 ここ ま で は 日 本 全
イベント内 容 は年 々充 実 しており、それに参
国 で見 られる「動 を求 める若 者 と静 を求 める
加する者(ストリート・パフォーマーとそれに触
大人の対立 構図」であるが、両者が共生へと
れる消 費 者 の双 方 )に魅 力 あるものとなって
歩む出来事が連続して生まれる。
いる。まず、イベント分 野 が「ストリート・ファッ
まず、「ダブルデッキ」等 でストリート・ライブ
ション・コンテスト」、「モバイルフード・コンテス
を継続していた1974年生まれの地元出身グ
ト」、「ミュージック&パフォーマンス・コンテス
ループ「サムシングエルス」がプロ・デビューを
ト」と多岐にわたり、若者のストリート・カルチャ
果 たすなどブレイクする。彼 らは1993年 から
ー分 野 の大 半 は網 羅 している。また、これら
「ダブルデッキ」等でストリート・ライブを開始し、
イベントの審査員にはマスコミやレコード会社
以後約 3 年間ほぼ毎日ストリート・ライブを続
関 係 者 も含 まれ、若 きパフォーマーにはメジ
ける。1995年 、「ダブルデッキ」でのストリー
ャー・デビューのチャンスがある。更 に、受 賞
ト・ライブが芸 能 関 係 者 の目 に留 まり、プロ・
者 は柏 市 をホームタウンとするプロ・サッカー
デビューを果 たす。彼 らはプロ・デビュー後 も、
チーム「柏 レイソル」のホームスタジアムでの
「ダブルデッキ」等でストリート・ライブを継続し、
公 式 戦 ハーフタイムにパフォーマンスを披 露
彼 ら目 当 てに200人 以 上 のファンが、「ダブ
できる等 、より注 目 される舞 台 が用 意 されて
ルデッキ」に集まるに至る。彼らのサクセス・ス
いる。そして何よりも、他都市では「煩い」等と
トーリーを見聞したアマチュア・ミュージシャン
邪魔者扱いされがちな「ストリート・パフォーマ
が、「ダブルデッキ」を中 心 とした柏 に集 まり、
ー」に、「柏 のストリートに行 けば温 かく迎 えて
ストリート・パフォーマーは益々増加する。
くれる」との期待感を与える。
このような期 待 感 が充 ちた柏 のストリートに
が 代 表 例 で あ り、 ストリートでの メ イン・ イ
は、他 都 市 からも含 めて多 くの「ストリート・パ
ベントは「踊り」である。踊りのスタイル、音
フォーマー」とそれに触 れたい消 費 者 が集 ま
楽 、服 装 にはその都 市 の歴 史 や風 土 に
る。まさに、ストリート(・パフォーマンス)は、ブ
基づく厳格な決まりごと(制約)がある。
レイク(夢を実現)する場となっている。
③ 戦後に、地域活性化のイベントや観光政
策 と して創 造 されたも の で、 代 表 例 には
8.全国展開される「よさこい祭り」
「よさこい祭 り」がある。 ストリート で のメイ
ン・イベントは「踊 り」ではあるが、踊 りのス
8−1.都市祝祭としての「よさこい祭り」
タイル・音 楽 ・服 装 は現 代 的 で自 由 であ
る。前 者 ( ②)と比 べると「 踊 り」と 言 うよ り
日 本 には現 在 、約 240の「よさこい祭 り」が
ある。本 家 は勿 論 、50年 の歴 史 を有 する高
は、「ストリート・ダンス」、「ストリート・ミュー
ジック」という位置付けである。
知 県 高 知 市 が開 催 する「よさこい祭 り」である。
祭 りの由 来 は1953年 に、高 知 商 工 会 議 所
都 市 祝 祭 は発 生 時 期 、発 生 ルーツ、ストリ
職 員が隣県 の徳 島 市で開 催される約400年
ートでのメイン・イベント内 容 に違 いはあれ、
の歴 史 を有 する「阿 波 踊 り」を見 て、1954年
現代では全ての都市祝祭が、地域活性化や
に高 知 市 の地 域 活 性 化 を主 目 的 として都 市
観 光 政 策 の色 合 いが濃 くなっている。したが
祝祭を企画したとされる。
って、多くの消費者を集めることができる都市
多 くの都 市 祝 祭 のなかで、「よさこい祭 り」
祝 祭 は、他 都 市 から(模 倣 の)引 き合 いがあ
がストリート・パフォーマンスとして高い効果が
り、それが可 能 なものはどんどん他 都 市 へ展
あることを検証するため、ここでは都市祝祭を
開 される。その代 表 例 が約 240都 市 に展 開
「発 生 時 期 」、「発 生 ルーツ」、「ストリートでの
されている「よさこい祭り」である。
メイン・イベント内容」により次の3つに分類す
る。
「よさこい祭 り」が全 国 に普 及 している理 由
は、「踊 り」の自 由 さにあると言 われる。都 市
祝 祭 を「踊 り」という観 点 でみると、先 の分 類
① 1000年 前 後 に疫 病 が流 行 した等 の時
でわかるように、神 事 である①には踊 りはなく、
世 か ら、 宗 教 的 な 背 景 よ り 生 ま れた も の
②と③は「踊 り」主 体 の祭 りである。しかし、②
で、代表 例 は日本 三 大 祭 りの京都「祇園
は踊 りのスタイル・音 楽 ・服 装 にその都 市 の
祭 り」、大 阪 「天 神 祭 」である。ストリートで
歴 史 や風 土 に基 づく厳 格 な決 まりごと(制
のメイン・イベントは、神 輿 や鉾 など神 に
約 )がある。これは(他 都 市 で模 倣 する)汎 用
相 当 するものが行 進 するなど厳 格 な神
性に欠ける。一方、「よさこい祭り」の踊りの決
事・儀式である。
まりごとは手に鳴子をもつ等に限られ、踊るス
② 上 記よりも階 級 社 会が進 んだ1300∼17
タイルも音 楽 も服 装 も全 て自 由 である。ロック、
00年頃、民衆のエネルギー・ストレスを表
サンバ、ラップ、パラパラまで何でもありで、祭
現 (発 散 )する場 として生 まれ、現 代 の
りを他 都 市 へ展 開 する汎 用 性 は高 い。また、
「盆踊り」という形に発展した。「阿波踊り」
この自 由 度 は踊 り手 にもあり、踊 り手 はほぼ
同 じ踊 りで複 数 都 市 のよさこい祭 りに参 加 で
まりごと(制 約 )のもとで、それを頑 なに守 り伝
きるメリットもある。事 実 、約 240都 市 に展 開
承 していくことに価 値 を置 いている。したがっ
された「よさこい祭 り」はほぼ毎 週 、日 本 の何
て、地 元 から選 ばれた成 人 男 性 のみが神 輿
処かで開かれている。
を担ぐことができる等、参加者が限定されるこ
「よさこい祭 り」が全国展 開される過 程に触
とが多 い。また、その参 加 者 のパフォーマン
れよう。1954年 、750名 の参 加 者 (踊 り子 )
スは決まりごとを忠実に表現するに止まり、自
で始まった「よさこい祭り」は、1983年には参
由 度 はほとんどない。しかし、「よさこい祭 り」
加者が1万 人を超え、1989年には1.5万人
は誰 もが自 由 に参 加 でき、パフォーマンスを
を超えるまでに成長した。「よさこい祭り」の他
自由に表現できる。
都市展開一番手は、その3年後の 1992 年に
仙台市の 「みちのく YOSAKOI まつり」も
札幌市で開かれた「YOSAKOI ソーラン祭り」
前 例 と同 様 に、本 家 の「よさこい祭 り」を見 た
である。そのきっかけは、1991 年 にすっかり
仙 台 市 の大 学 生 が1997年 に、よさこい祭 り
著 名になった「よさこい祭 り」を北海 道 大学 の
を仙 台 にも展 開 したいと企 画 し、翌 1998年
学 生 が高 知 市 で見 て、北 海 道 でも同 じことを
10 月から毎年開催されている。
やりたいと思い、地元大学生を中心に
このように、「よさこい祭り」の全国展開は行
「YOSAKOI ソーラン祭り実行委員会」を設立
政 主 導 でなく、市 民 の(特 に若 者 の)自 発 的
した。翌年の1992年 6 月から「YOSAKOI ソ
好 奇 心 や 熱 意 に よ っ て次 々 に 生 まれた「 市
ーラン祭り」は毎年開催されている。
民主導型地域活性化」である。
「YOSAKOI ソーラン祭り」とは、本家となる
高 知 の 「 よ さこい 祭 り」 と 、 北 海 道 に 古 くか ら
伝承されている民謡「ソーラン節」が融合した
8−2.札幌市の道路整備政策と「YOSAKOI
ソーラン祭り」の地域経済波及効果
ものである。よって、踊 りのルールは2つであ
る。まず、本 家 「よさこい祭 り」と同 じく手 に鳴
YOSAKOI ソ ー ラ ン 祭 り は 、 参 加 者 ( 踊 り
子を持って踊ること、そして曲のどこか一部に
手 )数 、観 客 動 員 (観 光 客 )数 とも今 や本 家
「ソーラン節 」を入れることである。これは今 後、
「 よ さこい祭 り」 を 凌 ぐ規 模 に 成 長 し ている。
全 国 展 開 されていく「よさこい祭 り」の伝 承 基
札 幌 市 にはストリート・パフォーマンスが普 及
盤となる。つまり、踊りのルールは本 家「よさこ
する土 壌 がハード面 、ソフト面 ともにあった。
い 祭 り 」 の ル ー ル( 手 に 鳴 子 を 持 っ て 踊 る こ
まず、幅 員 105mの大 通 り公 園 通 りに代 表 さ
と)と、その都 市 に古 くから存 在 する民 謡 なり
れる立 派 な道 路 (ハード)の存 在 、そしてロマ
踊りを一部に取り入れることの2つである。
ネット計画等の道路政策(ソフト)である。
「YOSAKOI ソーラン祭 り」の企 画 ・運 営 で
札 幌 市 では、「札 幌 都 心 部ロマネット(ロマ
注 目 される点 が二 つある。まず、行 政 が関 与
ンチック・ストリート・ネットワーク)計 画 」等 の
していない点 であ る。 そして、 観 光 客 も飛 び
道 路 整 備 政 策 により、ストリート毎 の空 間 活
入 り参 加 で踊 れる「ワオドリソーラン」を設 ける
用 方 策 が明 確 にされている。まず、道 路 を大
等の「自由度と開放度の高さ」である。
きくトラフィック機 能 (自 動 車 )優 先 とアクセス
戦 前 に誕 生 している都 市 祝 祭 は多 くの決
機 能 (歩 行 者 )優 先 に分 類 する。アクセス機
能 を例 にとると、それは更 に、観 光 ・商 業 ・歓
ォーマンスを自 由 に表 現 できるソフト的 な魅
楽・交流などに機能分類される。そして、各ス
力を有している。
トリートは「大 通 りシンボルロード」、「開 拓 使
ストリートのソフト面 整 備に向 けて、「ソフト」
の道 」、「開 墾 と美 術 の道 」などと命 名 され、
の概念を解り易くするため、「ハード」と対比さ
個 別 に自 然 ・歴 史 ・文 化 などを体 感 できる整
せて例 示 しよう。ハードを建 物 に代 表 される
備 を行 う。なかでも、「多 様 なイベントに対 応
「 物 」 と す れ ば 、 ソ フ ト は Art に 代 表 さ れ る
し、 人 々が 集 う交 流 の 場 」 と 位 置 付 けられる
「心 」である。また、ハードを景 観 に代 表 され
「大 通 りシンボルロード」には、「雪 祭 り」に次
る「視 覚 」とすれば、ソフトは「五 感 のうち視 覚
ぐビッグ・イベント出現が期待されていた。
に依存しない聴覚・嗅覚」である。
週 刊 東 洋 経 済 (2001.6.30)によると、200
ストリートを含め、これまでの公共空間整備
1年に開催された「第11回 YOSAKOI ソーラ
は、 ソフトが 軽 視 されたハード偏 重 志 向 で、
ン祭 り」の地 域 経 済 波 及 効 果 は約 300億 円
「目 に見 えてしっかりと存 在 する物 」の整 備 を
である。「第11回 YOSAKOI ソーラン祭り」の
重 視 してきた。見 方を変 えれば、公 共 空 間を
参 加 者 (踊 り子 )は4.1万 人 、期 間 中 に約 2
整 備 する者 は、公 共 空 間 を歩 行 する者 の
0 1 万 人 の観 光 客 が 札 幌 を 訪 れ、 約 2 05 億
「目にみえない感 覚や心に留まる」ソフト面 の
円 を消 費 し、他 に100億 円 近 い間 接 効 果 が
重要性に気がつかなかった。ストリートを含む
あったとしている。
公共空間整備には、このソフト面の重要性に
気 がつく経 験 ・転 機 こそ必 要 である。例 えば、
9.おわりに
本稿にて取り上げた「Art 系ストリート・パフォ
ーマンス」事例でわかるように、車と歩行喫煙
従 来 のストリート(道 路 )整 備 施 策 の多 くに
者の無いストリートは、それだけで喧騒と悪臭
は、地 域 活 性 化 や集 客 を目 的 とした観 光 施
から開 放 されて都 市 居 住 者 には心 が安 らぐ
策 ・景 観 施 策 と共 通 した誤 解 が散 見 される。
経験となる。そして、喧騒と悪臭によって機能
それは、「観 光 はハード(観 せる名 所 )を整
しなかった都 市 居 住 者 の聴 覚 と嗅 覚 は本 来
備 ・充 実 すれば集 客 できる」、もしくは「景 観
の機 能 を取 り戻 し、その街 の歴 史 や生 活 感
はハード(建 物 など目 に見 える物 )の形 ・高
が漂 う匂 い、流 れる音 を感 じとることができ
さ・色 彩 を整 備 ・統 一 すれば美 化 できて、そ
る。
れが観 光 資 源 になる」との誤 解 と同 じように、
ストリ ートを 都 市 居 住 者 が 車 と 「 人 為 的 に
「ストリートはハード(植 樹 やオブジェ、ベンチ
発生するバリア」による被害・ストレスを受けず、
など設 置 される物 )を整 備 ・充 実 すれば集 客
安 全 で快 適 に歩 行 できる空 間 に再 生 しよう。
でき、安 全 で快 適 な歩 行 空 間 になる」との誤
それは公 共 空 間 整 備 の発 想をハード偏 重 か
解 である。いずれにも、消 費 者 の心 を捉 える
らソフト面も重視 する発 想へ転換する第 一歩
ソフト面の整備・充実が欠落している。一方、
となる。それには、誰 もが自 由 に主 体 的 に参
本稿にて取り上げた「Art 系ストリート・パフォ
加 ・交 流 できるストリート・パフォーマンスを推
ーマンス」の4事 例 は全 て、誰 もが自 由 に参
進することが重要な転機となる。
加でき、参加者は Art に向かうかのようにパフ
【参考資料・WEB】
イタリアのまちづくり(学芸出版社)
巡 礼 と文 明 (聖 心 女 子 大 学 キリスト教 文 化 研 究 所 )
週刊東洋経済(2001.6.30)
日本経済新聞(2003.11.29、2003.10.26)
ストリート・ブレイカーズ WEB
( http://www.streetbreakers.org )
TOSHIBA EMI 公式 WEB
( http://www.toshiba-emi/co.jp )
柏市 WEB
( http://www.city.kashiwa.chiba.jp )
高知市 WEB
( http://www.city.kochi.kochi.jp )
札幌市 WEB
( http://www.city.sapporo.jp )
YOSAKOINET( http://www.yosakoi.net )
YOSAKOI ソーラン祭り公式 WEB
( http://www.yosanet.com )