第 83 回日本心身医学会東北地方会 回日本心身医学会東北地方会

第 83 回日本心身医学会東北地方会
プログラム・
プログラム・抄録集
会
長
佐々木大輔 医療法人社団斗南会
介護老人保健施設ラ・フォーレ天童
日
時
2016 年(H28 年)9 月 3 日(土)9 時 55 分~14 時 30 分
(12 時 00 分~12 時 30 分
会
場
第 83 回日本心身医学会東北支部役員会)
天童市市民プラザ内
パルテ 2F ギャラリー1-2
天童市本町 1-1-2
事
務 局
介護老人保健施設ラ・フォーレ天童
天童市大字道満 193-1
TEL:023-653-8211 FAX:023-653-8663
共
催
山形県医師会
後
援
天童市東村山郡医師会
-0-
<ご案内>
1.
一般演題は、発表 7 分、討論 3 分です。時間厳守でお願いします。
2.
受付で参加費 2,000 円を納入して下さい。会費未納の方は併せて納入して下さい。
学会に未入会の方は、受付で入会手続きを行ってください。
3.
日本心身医学会認定医更新のための単位認定が必要な方は、
「心身医学セミナー受講票」
をお持ち下さい。地方会参加は 5 単位、特別講演受講は 3 単位となります。それぞれ
参加費納入時と特別講演終了時に受付にて捺印致します。
4.
日本心身医学会認定医療心理士更新の必要な方は受付までお申し出下さい。
5.
会場近辺の地図は下記のとおりです。会場には駐車場がありますが、有料となります
のでご留意下さい。
会場案内図
◎天童駅周辺
会場
●JR天童駅より 山形新幹線・JR奥羽本線(山形線) 東側連絡通路より 徒歩 3 分
●JR山寺駅より JR仙山線 タクシーで約 25 分
●山交バス
仙台駅前のりばより約 70 分…天童バスターミナル下車徒歩3分
山交バスのホームページ、高速・都市間バスの時刻表をご参照下さい
-1-
◎天童市市民プラザ(パルテ)
パルテ3F
パルテ2F
学会場
パルテ1F
役員会場
-2-
9:30
9:30~
30~
9:55
9:55~
55~10:
10:00
受
付
開会の辞
会長 佐々木大輔
<一般演題>
10:
10:00~
00~10:
10:30
座長 庄司知隆(東北大学病院心療内科)
庄司知隆(東北大学病院心療内科)
1.不安軽減が症状改善・体重増加につながった回避・制限性食物
摂取症の一例
東北大学医学部 1、東北大学病院心療内科 2、東北大学大学院
医学系研究科行動医学 3
○重田 惟 1、佐藤康弘 2、町田貴胤 2、遠藤由香 2、庄司知隆 2、田村太作 2
町田知美 2、福土 審 2, 3
2.腎細胞癌を合併した成人の回避・制限性食物摂取障害の1例
総合磐城共立病院心療内科 1、同 消化器内科 2、同 泌尿器科 3
○岩橋成寿 1、國井啓子 1、駒澤大輔 2、勝又有記 3、嶋田修一 3、徳山 聡 3
3.肥満症患者の脳形態委縮と心理行動傾向の関連
東北大学大学院行動医学 1,東北大学学際科学フロンティア研究所 2,
岩手医科大学糖尿病代謝内科 3,国立精神・神経医療研究センター精神保健
研究所 4,東北大学大学院糖尿病代謝内科学 5,福島県立医科大学医療-産業
トランスレーショナルリサーチセンター6,自治医科大学看護学部 7,
東北大学病院心療内科 8,東北大学加齢医学研究所 9
○村椿智彦 1,鹿野理子 2,1,石垣 泰 3,関口 敦 4,澤田正二郎 5,近藤敬一 5
事崎由佳 6,佐々木彩加 7,森下 城 1,金澤 素 1,8,片桐秀樹 5,川島隆太 9
福土 審 1,8
-3-
10:
10:30~
30~11:
11:00 座長 齋藤小豊(岩手医科大学呼吸器・
アレルギー・膠原病内科)
4.診断に苦慮した機能性ディスペプシアの 1 例
弘前大学大学院医学研究科 消化器血液内科
〇佐竹 立、佐藤 研、櫻庭美耶子、福田眞作
5.エスシタロプラムが効果的であった機能性ディスペプシアの
1例
東北大学病院心療内科 1、東北大学大学院医学系研究科行動医学 2
○田村太作 1、町田貴胤 1、町田知美 1、庄司知隆 1、遠藤由香 1、佐藤康弘 1
福土 審 1, 2
6.シナプス蛋白合成阻害による内臓痛誘発性恐怖記憶の阻害
東北大学大学院医学系研究科行動医学分野 1、東北大学病院心療内科 2
○土屋恵美子 1、村椿智彦1、中谷久美 1、福土 審 1, 2
11:
11:00~
00~11:
11:30 座長 灘岡壽英(三友堂病院 心療内科)
7.不注意行動や会話の脱線がアトモキセチン塩酸塩の投与後に減
少した一経験例
盛岡友愛病院心療内科
〇加藤明子、西園千春、星野 健、千葉太郎
8.認知の再構成によるアプローチで改善した複雑性悲嘆の 1 例
弘前大学大学院医学研究科 消化器血液内科
〇佐藤 研、佐竹 立、櫻庭美耶子、福田眞作
9.内面を伝えるために箱庭を使った高校生の一例
内科板倉医院心療内科
臨床心理士 1、内科板倉医院心療内科 2
〇庄司好美1、板倉康太郎2
-4-
11:
11:30~11:
11:50 座長 佐竹 立(弘前大学大学院医学研究科
消化器血液内科)
10.緩和ケア病棟開設からの1年間と今後の展望
盛岡友愛病院看護部 1、盛岡友愛病院心療内科 2、盛岡友愛病院外科 3
○畠山 弥生 1, 高橋 美穂子 1,星野 健 2, 藤井 祐次 3,千葉 太郎 2
11. 緩和ケア病棟における認知症患者の検討
三友堂病院 心療内科 1、緩和ケア科 2
〇灘岡壽英 1、加藤佳子 2、川村博司 2
11:
11:50~13:
13:00 休 憩
12:00~12:30 第 83 回日本心身医学会東北支部役員会
(於:1階 イベントホール3)
13:
13:00~
00~13:
13:20 総 会
<特別講演>
13:
13:20~
20~14:
14:20 座長
本郷道夫(公立黒川病院
本郷道夫(公立黒川病院)
(公立黒川病院)
心身医学の新たな挑戦
東北大学大学院医学系研究科行動医学 1・東北大学病院心療内科 2
福土 審 1, 2
-5-
14:
14:20~
20~14:
14:25
閉会の辞 佐々木大輔
14:
14:30~
30~ 施設見学
医療法人社団斗南会 介護老人保健施設 ラ・フォーレ天童
医療法人社団斗南会温泉利用型健康増進施設
ラ・フォーレ天童のぞみ
-6-
抄
録
-7-
集
特別講演
心身医学の新たな挑戦
東北大学大学院医学系研究科行動医学 1・東北大学病院心療内科 2
福土
審 1, 2
心身医学の社会的必要性はかつてなく高まっている。その根拠は、以下の点にある。ま
ず、現代の社会情勢の変化に伴い、種々の健康状態におけるストレスの影響が非常に高く
なって来ている。次に、ストレスそのものの概念が身体の病理学的形態変化から明確化さ
れたことからも判るように、ストレスの影響ははじめから精神疾患単独の形態で生体に影
響するとは限らず、寧ろ、まず脳機能、自律神経内分泌、身体各臓器機能の変化として出
現する頻度が圧倒的に高いため、心理社会的ストレスを体験した後に身体の不調を自覚し
た段階で、早期に国民が受診でき、問題を解決できる医師が必要である。更に、ストレッ
サーの負荷から生体機能の変化、脳機能の変化、身体諸臓器の変化、心理的変化までの病
態生理を正しく診断し、薬物療法、身体疾患への治療、心理療法を体系的に実施し得るの
は心身医学の専門家である。このようなストレスによる機能的変化と心理的変化の背景に
は、検出方法を工夫すれば、器質的変化が存在する。換言すれば、心身医学においては、
機能的変化と器質的変化の差異は程度の問題に過ぎず、生体の変化の精密・定量的な測定
が鍵となる。重度ストレスはグルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域のメチ
ル化を招き、corticotropin-releasing hormone (CRH)のネガティブフィードバック機構を
障害して視床下部-下垂体-副腎軸の病的活性化を招く。心身症は遺伝子環境相関の面でも注
目され、有力な候補遺伝子が CRH 受容体遺伝子も含め同定されつつある。心身症に対する
治療法は、薬物療法と心理療法の根拠が高水準になり、先進的なニューロモデュレーショ
ンが開発されつつある。心身症においては、分子生物学と脳科学からストレスと心身相関
の法則を得るとともに、認知行動療法を中心とする心身医学的治療法を日常診療に応用す
ることが臨床医の重要な役割になり、これは他領域に応用可能なモデルになると予言する。
これらの情報には医療側よりも寧ろ一般社会の方が高い関心を示しており、需要と供給の
齟齬が非常に大きい。このような情報を若手医療者に行き渡らせる必要がある。専門医制
度を強固にし、多施設共同研究により多数例のデータに基づくエビデンスを得て、診療報
酬を費用対効果により見合うものにする。活発な活動を継続し、心身医学を更に活性化し
たい。
-8-
福土 教授 履 歴・略歴
最終学歴: 東北大学医学部医学科卒業(昭和58年)
東北大学医学部医学科卒業(昭和58年) 医師免許:医師(免許番号:273820
医師免許:医師(免許番号:273820)
273820)
学位: 医学博士(大学名:
医学博士(大学名: 東北大学)(
東北大学)(1990年)
1990年)
1983年 東北大学医学部附属病院心療内科入局、十和田市立中央病院内科研修
1987年 東北大学助手、アメリカ・デュ−
東北大学助手、アメリカ・デュ−ク大学医学部 行動医学教室留学
1993年 東北大学医学部附属病院心療内科医局長
1997年 東北大学講師、医学部附属病院心療内科副科長
1998年 東北大学助教授
1999年 東北大学大学院医学系研究科 教授(現職)
2000年 東北大学病院心療内科 兼担
2007年 東北大学脳科学グローバル
東北大学脳科学グローバル COE メンバー
2010年 東北大学創生医学応用研究センター脳神経科学コアセンター病態脳科学
プロジェクト長
2011年 東北大学病院心療内科科長
受 賞:
1987年 日本心身医学会第 1 回石川記念賞
1994年 アメリカ心身医学会1994年 Early Career Award
2004年 東北大学沢柳賞
2006年 文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)
2009年 アメリカ消化器病学会 The Masters Awards in Gastroenterology
2012年 国際神経消化器病学会 The Most Cited Award
特記活動・審議会等:
2002年 機能性消化管障害国際 Rome III 委員会委員
2003年 国際機能性消化管障害財団組織委員
2008年 機能性消化管障害国際 Rome 委員会 International Liaison Committee 委員
2012
2012 年 機能性消化管障害国際 Rome IV 委員会委員
日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン(IBS)
日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン(IBS)作成委員会委員長
(IBS)作成委員会委員長
専門医:日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、内科指導医、日本消化器病学会専門
医、日本心身医学会心身医療専門医、心身医療指導医、心療内科専門医、AGA
医、日本心身医学会心身医療専門医、心身医療指導医、心療内科専門医、AGA Fellow
専門分野:内科学、心身医学、行動医学、消化器病学、脳内臓相関、殊に消化管生理学を中心
とする脳腸相関の病態生理学、ストレス病学、ストレスによって発症・増悪する疾患の研究
所属学会等:日本心身医学会(
所属学会等:日本心身医学会(理事長)
理事長)、日本内科学会、日本消化器病学会、日本心療内科学
会、アメリカ心身医学会、アメリカ行動医学会、アメリカ消化器学会、アメリカ神経消化器学会、
会、アメリカ心身医学会、アメリカ行動医学会、アメリカ消化器学会、アメリカ神経消化器学会、
日本神経消化器病学会、消化器心身医学研究会、大腸肛門機能障害研究会、日本行動医
学会、Editorial
学会、Editorial Board: Gut (IF 14.66), Neurogastroenterology and Motility (IF 3.58),
Biopsychosocial Medicine (Chief Editor)
-9-
一般演題1
不安軽減が症状改善・体重増加につながった回避・制限性食物摂取症の一例
東北大学医学部 1、東北大学病院心療内科 2、東北大学大学院医学系研究科行動医学 3
○重田 惟 1、佐藤康弘 2、町田貴胤 2、遠藤由香 2、庄司知隆 2、田村太作 2、町田知美 2、
福土 審 2, 3
【背 景】回避・制限性食物摂取症
(Avoidant Restrictive Food Intake Disorder; ARFID)
景】
は DSM5診断基準において初めて定義された新たな摂食障害の概念である。食物摂取に伴
って嘔気・嘔吐、腹痛といった不快な状態が発生することを恐れるなどの理由で極端な食
事制限を行い、低体重に至る。神経性やせ症患者のようにやせ願望、肥満恐怖、ボディー
イメージのゆがみを訴えることはない。今回我々は不安の軽減から症状改善・体重増加に
つながった ARFID の一例を経験したので報告する。なお、発表に際しては本人より口頭で
同意を得ている。
【症 例】19
【主 訴】悪心嘔吐恐怖、心窩部痛
例】 歳 女性【主
訴】
【現病歴】X-4
年、中学 3 年時に教師が厳しく不登校となった。X-3 年、高校に入学したが
【現病歴】
なじめず中退した。X-1 年夏、体重 50 ㎏。特に誘因なく食後不快感・吐気が出現した。食
物を口に入れると不快感で嘔吐するのではないかという恐怖感があり、摂食量が減少して
体重減少を来した。やせ願望肥満恐怖はなかった。同年 12 月、体重 40kg まで減少、心窩
部痛が出現し近医内科受診、心因性と考えられてスルピリドなどを処方されたが改善せず、
体重減少は続いた。X 年 3 月、市中病院心療内科受診、摂食障害と診断されて当科に紹介
され、体重 33.4kg(BMI 13.3)で初診し、精査加療目的で入院した。
【検査結果】白血球
2900 /μl↓、TBil 2.2 mg/dl、free T3 1.97 pg/ml↓、ChE 170 U/l↓、
【検査結果】
K 42 U/l↓
【心理検査】SDS
80。STAI I 70 II 80。エゴグラム CP8, NP 16, A 12, FC 12, AC 20。
【心理検査】
MMPI Hs 81 D 105 Hy 81 Pd 75 Pa 83 Pt 97 Sc 91 Ma 59 Si 75
【入院経過】当初患者は食後の症状再燃に対する不安を強く訴えた。診断は ARFID とした。
心窩部痛に対してスルピリド、ドンペリドンを処方し、不安にはロラゼパム頓用とした。
体重増加に合わせて行動範囲を拡大する行動療法を導入した。趣味の刺繍、読書により、
不安軽減が可能であることを自覚すると経口摂取量は増加した。また自らの認知の偏りを
自覚し、脱却しようと心掛けるようになった。食べることへの不安・恐怖は、体重増加に
より軽減され、不安軽減するとさらにカロリー摂取できる、という好循環に入り、1 日
1900kcal 以上を安定して摂取できるようになった。
【結 論】ARFID
は新しい疾患概念である。エビデンスに基づいた治療法は確立されてい
論】
ない。しかしながら、不安の強い ARFID 患者に対する認知行動療法の有効性は報告されて
いる(King et al., Eat Behav. 2015)。本症例においても不安の軽減が症状改善と体重増加
に有効であったと考えられた。
- 10 -
一般演題 2
腎細胞癌を合併した成人の回避・制限性食物摂取障害の1例
総合磐城共立病院心療内科 1、同 消化器内科 2、同 泌尿器科 3
○岩橋成寿 1、國井啓子 1、駒澤大輔 2、勝又有記 3、嶋田修一 3、徳山 聡 3
【はじめに】DSM-5
から摂食障害の診断名に、回避・制限性食物摂取障害(ARFID)が加
【はじめに】
わった。体重減少と吐気を主訴に受診し、腎細胞癌を合併した成人の ARFID と考えられた
症例を経験したので報告する。
【症 例】55
例】 歳、女性。主訴:体重減少、吐気。既往歴:中学 2 年生時に A 大学病院に神
経性無食欲症(AN)のため 3 ヶ月間入院。現病歴:5 年前から B 医院に、逆流性食道炎と
甲状腺機能低下症の診断で通院していた。X 年 4 月頃から微熱が続き体重減少が進んだた
め、同年 5 月 27 日に当院消化器内科に紹介された。左腎癌(転移なし)を診断され 6 月
23 日に入院した。入院時に身長 156cm、体重 34.6kg (BMI 14.2)
。AN の既往があるた
め 6 月 24 日に当科に紹介された。患者はやせ願望の存在を否定し、自己誘発性嘔吐や下剤
の乱用、過食エピソードはなく AN は診断されなかった。中心静脈栄養(TPN)により体
重を増加させ、左腎癌の治療を優先する方針とした。体重が 40.4kg まで増加後に泌尿器科
に転科し、9 月 25 日に左腎摘除術が施行された。
術後も経口摂取量は増えず、同年 10 月 13 日に体重 38.2kg(BMI 15.7)で当科に転科し
た。SDS:64 点、TEG:N 型、イエスマン、殉教者タイプ。MMPI:神経過敏、極度に統
制過剰で感情表出ができない、対人関係は受動的で従順、依存的。心理社会的には、再婚
した夫と関係が疎遠で、離婚を考えていた。栄養療法は、TPN(820kcal/日)を継続し、
径管栄養(750kcal/日)を併用した。デュロキセチンとオランザピンによる薬物療法とカウ
ンセリングを行った。患者は、
「食べたいのに、食べると胃がもたれて痛く(苦しく)なる
から食べられない」と執拗に訴えて経口摂取量は 600〜900kcal に限られた。径管栄養を増
量して TPN を中止することは拒否した。食後に歩き回る行動が見られたが、隠れ食いや食
物を捨てる行動は認めなかった。経過中に、最高値 1506 IU/l の高 ALP 血症を認めて精査
したが、骨転移は否定され、後天性骨軟化症が疑われた。X+1 年 2 月 2 日に体重 45kg(BMI
18.5)で退院した。
【結 語】
“食べると胃がもたれて痛くなるから食べられない”と訴えて摂食量が限定され、
ARFID に該当すると考えられた。軽度の過活動を認めたが、過食と排出行動は認めなかっ
た。
- 11 -
一般演題3
肥満症患者の脳形態委縮と心理行動傾向の関連
東北大学大学院行動医学 1,東北大学学際科学フロンティア研究所 2,岩手医科大学糖尿
病代謝内科 3,国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 4,東北大学大学院
糖尿病代謝内科学 5, 福島県立医科大学医療-産業トランスレーショナルリサーチ
センター6,自治医科大学看護学部 7, 東北大学病院心療内科 8,東北大学加齢医学研究 9
○村椿智彦 1,鹿野理子 2,1,石垣 泰 3,関口 敦 4,澤田正二郎 5,近藤敬一 5,
事崎由佳 6 ,佐々木彩加 7,森下 城 1,金澤 素 1,8,片桐秀樹 5,川島隆太 9,福土 審 1,8
【目 的】
これまで肥満患者の心理行動傾向として衝動制御の困難,固執的な行動と認知,現実検
討力の低さが指摘されている。BMI と脳形態の関係はこれまでに報告になされているが,
肥満症患者における心理行動傾向と脳形態異常の関係の報告は少ない。我々は,肥満症患
者における脳形態委縮が食行動異常や報酬反応性,衝動性の高さと関連する,という仮説
を検証した。
【方 法】
肥満症患者 14 名(44.4±10.6 歳,35.5±3.6kg/m2),健常者 26 名(38.6±7.9 歳,21.4
±1.8kg/m2)を対象に MRI 検査および心理行動検査(Dutch Eating Behavior
Questionnaire,Behavioral Inhibition System/Behavioral Activation System scales,
Barratt Impulsiveness Scale,Toronto Alexithymia Scale)を行った。脳形態解析は
voxel-based morphometry により灰白質容量(GMV)を群間比較した。次に有意差を認め
た領域の GMV を従属変数,BMI,年齢,性別,心理行動指標を独立変数とした重回帰分
析(強制投入法)を行った。脳画像解析は年齢,性別,総脳容量により補正し,有意水準
は k > 90 かつ Puncorrected < 0.001 とした。行動データ解析は有意水準を P < 0.05 とした。
【結 果】
肥満群は健常群に比べて左の島皮質,前帯状皮質(ACC)の GMV が有意に低値であっ
た。
左 ACC の GMV は,
BMI(β = -0.61, p = 0.004),感情表出困難
(β = -0.56, p = 0.016)
,
機能的思考(β = -0.42, p = 0.042)
,外発性摂食(β = -0.36, p = 0.040),認知不安定性(β
= 0.63, p = 0.011)と有意に関連した(adj. R2 = 0.51, p = 0.010)
。左島皮質の GMV は,
BMI(β = -0.50, p = 0.030)
,男性(β = -0.40, p = 0.037)
,運動性(β = 0.59, p = 0.012)
と関連する傾向にあった(adj. R2 = 0.34, p = 0.066)。
【結 論】
肥満症患者において委縮の認められた脳領域は,刺激誘発性の摂食欲求をコントロール
ことや,まとまった思考や感情表出の困難さと関連することが明らかとなった。
- 12 -
一般演題4
診断に苦慮した機能性ディスペプシアの 1 例
弘前大学大学院医学研究科 消化器血液内科
〇佐竹 立、佐藤 研、櫻庭美耶子、福田眞作
【症 例】20
例】 代女性 【主 訴】食後の腹痛
訴】
【既往歴】特記なし【生活歴】
【生活歴】地元の看護学校卒業後、総合病院で看護師として勤務
【既往歴】
【生活歴】
【現病歴】
平成 X 年 5 月、近医にて人工妊娠中絶手術を受けた。術翌日から徐々に腹痛が増強し前
医産婦人科を受診。子宮周囲に腹水貯留が認められクラミジア DNA 陽性であったため、骨
盤腹膜炎の診断として同科入院となった。補液、抗生剤(セフォチアム、ミノサイクリン、
メトロニダゾール)投与で炎症反応の改善は認められたものの、食後の腹痛、嘔気、早期
満腹感が持続したため、同院消化器内科へ転科。画像診断上、腸管の拡張が著明であり、
腹膜炎の遷延に伴う麻痺性イレウスの診断にて加療継続となった。数日で画像所見の改善
が得られたが、食後の腹痛、嘔気、早期満腹感は改善しなかった。患者から主治医に対し
知人の多い地元での加療継続が苦痛であると訴えがあり平成 X 年 6 月初旬当科紹介され、
同日転院となった。
【経 過】
当院転院時の腹部単純レントゲン写真では腸管拡張は認められず、血液生化学検査でも
明らかな異常所見は認められなかった。また、入院時に施行した SDS の得点が 56 点であ
り軽度のうつ状態も認められた。上下部消化管内視鏡検査では器質的疾患は認められず、
胃透視検査でも異常所見は認められなかった。CT でもダグラス窩に少量の腹水を認めるの
みで症状の原因となるような所見は認めなかった。
経過および症状から機能性ディスペプシアを疑い、六君子湯の内服を開始。その後、食後
の腹痛は改善し食事量は増えたが、早期満腹感が持続したためアコチアミドの併用を開始。
内服併用後 5 日目から早期満腹感も消失し、食事はほぼ全量摂取できるようになった。そ
の後も症状の再燃を認めず、転院後 27 日で退院となった。
【考 察】
本症例は、クラミジア感染に起因する骨盤腹膜炎による麻痺性イレウスを発症しており、
食後の腹痛、嘔気、早期満腹感などの原因として Fitz-Hugh-Curtis 症候群による症状を除
外することが難しく、長期化する腹部症状の診断に苦慮した。機能性ディスペプシアの診
断にて、六君子湯、アコチアミドの内服を開始し症状の改善が得られたが、環境の変化に
よるストレスの軽減も症状の改善に影響したと考えられた。当科外来通院中であるが、地
元に戻っての生活となるため、心理社会的要因を考慮したフォローも注意深く行っていく
必要がある。
- 13 -
一般演題5
エスシタロプラムが効果的であった機能性ディスペプシアの 1 例
東北大学病院心療内科 1、東北大学大学院医学系研究科行動医学 2
○田村太作 1、町田貴胤 1、町田知美 1、庄司知隆 1、遠藤由香 1、佐藤康弘 1、福土 審 1, 2
【症 例】初診時
35 歳の男性、職業はシステムエンジニア、職場ストレスなし。
例】
【病 歴】31
歴】 歳頃から悪心、嘔吐、下痢症状が出現。仕事多忙、過労により、34 歳時、出
張先で症状増悪し入院治療。35 歳時、心療内科紹介受診。初診時 58 ㎏(体重減少-5 ㎏)
検査:上部消化管内視鏡で慢性胃炎所見。気分症状なし。初診時診断は機能性嘔吐
(functional vomiting)、薬物療法:スルピリド、エチゾラム内服にて症状改善し、通院治
療継続。その後 40 代になり仕事ストレス増大とともに、症状増悪、食後心窩部痛、腹部膨
満感、曖気、悪心嘔吐、下痢、頭痛、肩こりなど。また消化器症状に伴う不安も見られ、
予期不安、外出困難、自動車運転困難も見られた。診断再検討され、機能性消化管障害:
機能性ディスペプシア(心窩部痛症候群)、社会不安障害の診断。薬物療法:イトプリド、
トリメブチン、ラベプラゾール、ロラゼパムで改善なし。
【病態検討】本症例は仕事ストレス増大とともに消化器症状増悪し、あわせて不安症状も
【病態検討】
見られることから、消化器症状と不安症状の心身相関、消化器心身症の病態が考えられた。
【治療再検討】ベンゾジアゼピン系抗不安薬で効果不十分であったことから、SSRI、SNRI
【治療再検討】
系抗うつ薬の適応が検討され、消化器系への副作用の観点から、社会不安障害にも適応の
あるエスシタロプラムが選択された。エスシタロプラム 5 ㎎から開始し 10 ㎎に増量した。
1 か月後の外来にて、症状改善が見られ、消化器症状改善し食欲、体重も回復、仕事にも行
けており、不安症状の軽減も見られた。
【治療考察】本症例ではエスシタロプラム内服により不安軽減され、さらに消化器症状の
【治療考察】
改善、ストレス対処へとつながったものと考えられ、エスシタロプラムが心身両面に対し
て効果的であったと考えられた。本症例はその後もエスシタロプラム内服継続し症状安定
しており、仕事継続している。
【文献的考察】オーストラリアの
Koloski らの研究では、機能性消化管障害が不安障害・う
【文献的考察】
つ病の新規発症リスクを高めると報告されている。本症例はまさに機能性消化管障害と不
安障害の病態上の関連性の高さを示した実例である。
【結 語】エスシタロプラムが心身両面に効果的であった、機能性ディスペプシア症例を
語】
経験した。機能性消化管障害患者では、不安で表現される神経機能が病態に関与すると考
えられ、心身両面からの治療が望ましい。
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一般演題6
シナプス蛋白合成阻害による内臓痛誘発性恐怖記憶の阻害
東北大学大学院医学系研究科行動医学分野 1、東北大学病院心療内科 2
○土屋恵美子 1、村椿智彦1、中谷久美 1、福土 審 1, 2
【背 景】過敏性腸症候群(IBS)は、脳腸相関の異常を呈し、不安障害と高率に合併する。
景】
その合併の機序については恐怖条件付けの可能性が高い。しかし、内臓痛と聴覚の連合に
関する基礎的研究はほとんどない。anisomycin を用いると、シナプス蛋白の合成が阻害さ
れ、恐怖記憶の形成も阻害されるが、その実験は体性感覚に限定されている。そこで、本
研究では、以下の2仮説を検証した。1. 聴覚と内臓刺激の連合によって聴覚誘発性内臓痛
を誘導できる。2. 聴覚誘発性内臓痛は anisomycin の投与によって減弱する。
【方 法】5週齢の雄性
Sprague-Dawley ラットを用いた。ラットの腹壁に筋電図電極を
法】
逢着し、回復させた後、ポリエチレン製バロスタットバッグを装着したカテーテルを経肛
門的に直腸-遠位結腸に挿入した。バロスタット装置を用いてバッグに 80 mmHg の圧伸展
刺激を加え、刺激時の筋電図を導出することにより、内臓知覚を定量化した。動物を 3 群
に分けた。対照群: 音を他の2群と同回数聞かせるのみで内臓刺激を加えなかった。条件付
け群: 初日に音を 30 秒間聴取させ、同時に内臓刺激を加えた。刺激は 30 秒間隔で 10 回提
示した。2日目、生理食塩水を投与した後、音を前日同様に5回提示し、記憶再活性化を
行った。anisomycin 群: 条件付け群と同じ操作を実施したが、生理食塩水の代わりに
anisomycin を投与した。以上の3群とも、3日目に音刺激のみを5回提示し、再活性後記
憶試験を行った。行動は、筋電図反応にて内臓痛、高架式十字迷路にて不安を測定した。
統計は SPSS v21 を用い、二元配置分散分析と Bonferroni による多重比較を行った。
【結 果】筋電図周期では有意な群の主効果を認めた(p=0.017)
。多重比較では、条件付
果】
け群が対照群に比べ有意に高値であり(p=0.020)
、anisomycin 群と対照群に有意差はなか
った。筋電図振幅では有意な群の主効果(p=0.029)、時間の主効果(p=0.005)、群 x 時間
交互作用(p=0.027)を認めた。高架式十字迷路開放腕進入回数では有意な群の主効果を認
めた(p=0.026)
。
【考察・結論】仮説
1 が支持された。仮説 2 は部分的な支持にとどまった。本研究は内臓
【考察・結論】
痛による恐怖条件付けの初の動物実験である。LeDoux は聴覚刺激と体性痛の連合による恐
怖条件付けの実験系を確立し、扁桃体基底外側核において聴覚信号をコードするニューロ
ンと体性痛をコードするニューロンのシナプスが形成されることを明らかにした。一方、
内臓痛の信号は直接扁桃体中心核に至る割合が高く、恐怖条件付けのニューロンの形態変
化も不明である。今後、本実験系における扁桃体や海馬のシナプス蛋白合成を軸とした研
究が必要である。
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一般演題7
不注意行動や会話の脱線がアトモキセチン塩酸塩の投与後に減少した一経験例
盛岡友愛病院心療内科
○加藤明子、西國千春、星野健、千葉太郎
【症 例】初診時
33 歳 女性
例】
【病 歴】中学時代から意欲低下する時期が時々あった。21 歳で働き始め、23 歳時「うつ病」
の診断で1か月休業。29 歳で結婚、31 歳で第 1 子出産。産休・育休後、X-1 年 10 月より復
職したが同年 12 月に不眠・焦燥・食欲不振のため神経科クリニック通院を始め、X 年2月に
当院転医。うつ状態と診断し2か月休業。復職したが次第に「草取りをしたら7時間経って
いた」「『テンションが高すぎる』と注意された」など、軽躁状態ともとれる状態を呈した。
抗うつ薬パロキセチンを減量中止し気分調整薬ラミクタール処方変更したが、その後も会
話が脱線しやすい傾向があった。
一方で「作業時間が皆の 3 倍かかる」「『身なりがダメ』『気が利かない』と注意された」
「私には電話対応を任せられないと、別の人がやることになった」など、気配り・柔軟性・対応
力の拙さが目立ち、うつ状態が改善していないとも思われた。「寝過ごして遅刻」も何度かあ
り、第 2 子・第3子出産後も同様な状態が続き、主治医として、症状を改善できない不全感を
持った。また患者の状態像を把握しきれていない、腑に落ちないもどかしさがあった。
X+9 年 2 月「片づけができない」という話をきっかけにアトモキセチン塩酸塩の処方を開
始したところ、数週間後「優先順位を考え仕事に集中できるようになった」「ミスが減った」
「筋道立てて話すように気を付けている」「周りを観察するようになった」と、変化が現れた。
X+9 年 7 月、診察のはじめに「今日は 2 つ話があります」と前置きし「話し方の勉強をして
いる」「家の片づけは収納アドバイザーの助けを借りている」と述べる等、本人が自身の短所
を意識して工夫するようになった。
X+9 年 8 月頃より、口渇・末梢冷感・発汗・不眠・動悸を訴えたため、アトモキセチン塩酸塩
の副作用を疑い、120→80mg まで減量。だが頻脈・発汗が続き、副作用なのか不安緊張に伴う
自律神経症状なのか、鑑別が困難であった。また、アトモキセチンの薬効は確かに実感でき
たとはいえ、やはり不注意・勘違い・忘れ物・対人関係トラブル等が次々に生じるため、診察
時間が長引く状況は続いている。
発表では、治療過程を振り返り、反省点や課題を考察する。
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一般演題8
認知の再構成によるアプローチで改善した複雑性悲嘆の 1 例
弘前大学大学院医学研究科 消化器血液内科
〇佐藤 研、佐竹 立、櫻庭美耶子、福田眞作
【緒 言】
複雑性悲嘆では、身体的、精神的な様々な症状が持続して QOL 障害が強く、生活、社会
機能が低下する。また、発症の危険因子として、故人との関係性と世話役割、突然の死、
不安定な愛着などが挙げられている。母親との突然の死別を契機とした、複雑性悲嘆の1
例を経験したので報告する。
【症 例】
40 代女性、主訴は抑うつ気分、心窩部痛、食欲不振。既往歴は特記なし。
X 年5月、実母の急死をきっかけとして、 X 年6月頃から、抑うつ 気分、不安、心窩部痛、
食欲不振、不眠、全身倦怠感、背部痛などが出現。近医を受診し、器質的疾患の除外診断
を受けるも異常は指摘されず。不眠、食欲不振が増悪して3kg の体重減少、抑うつ症状の
増悪、発汗過多、不安感などの症状があり、X 年7月に心療内科外来に紹介となった。
食事がほとんど摂取できず、初診時には不安と混乱でどうしていいかわからない状態であ
り、まずは休職の上、近医入院にて休養できる環境を調整するとともに、週1回程度の外
来受診にて加療を開始した。母親は病気療養中で遠方で生活していたこともあり、故人に
対する罪悪感を背景として、本人を思いだすようなことは避け、想起することで不安が強
かった。故人との関係や自分との距離、故人への思いが強いからこそ悲嘆が強くなること、
故人に対する思いこみなどの心理的背景や認知にアプローチを行うとともに、1カ月程度
経過し消化器症状が落ち着いてから SSRI を導入した。徐々に悲嘆の統合、受け入れが進み、
X+1年 3 月には職場復帰となった。
【結 語】
複雑性悲嘆による身体的、精神的症状のため、日常生活への影響も大きい症例であった
が、悲嘆の統合が進み、社会生活へ復帰した。
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一般演題9
内面を伝えるために箱庭を使った高校生の一例
内科板倉医院心療内科
臨床心理士 1、内科板倉医院心療内科 2
〇庄司好美1、板倉康太郎2
当院のカウンセリング室には、砂の入った木箱と箱庭用具ほかミニチュア玩具などが常
に棚に並んでいます。過換気症候群の高校生が、箱庭療法をきっかけに自らの情動を表現
し、気づき、そして統合させていった例を経験しました。
【症 例】初診時
16 歳(高校1年)
、女性
例】
【主 訴】過換気発作
訴】
【家族状況】父方祖父母の家で父親、弟、叔父と同居。母は小2時に離婚別居しており、
【家族状況】
交流は断絶。その後伯母、従弟二人も同居。
【経 過】高1の夏に初めて過換気発作を起こしたようです。契機は不明。日に何度も、
過】
睡眠時にも起こるようになり、地域の中規模病院を受診。各種検査に異常所見はなく、当
院心療内科を受診しました。薬物療法(ロラゼパム→その後セルトラリンに変更)とほぼ
同時に、カウンセリグを開始しました。まもなく過換気発作は消失しました。
【初回時の医師の診断】過換気症候群
【初回時の医師の診断】
【心理面接経過】疎通性は良い。饒舌で、学校や友達のことなど話が広がり、終わりませ
【心理面接経過】
ん。症状とそのコントロールについての心理教育の後、本人がストレス因と自覚している
勉強や交友関係に対処する内容のカウンセリング(SST を含む)を開始しました。室内の
箱庭用具に興味を示し、箱庭療法を導入。その後たびたび自発的に箱庭用具や絵を用いて、
カウンセラーに気持ちを伝えるようになりました。
【考 察】経過中のある時の体験について、クライエントは「こういう気持ちが(自分の
察】
中に)あることに気づいた。ここに来るずっと前からあった気持ち。話すと気持ちあふれ
てしまいそう」と話しました。
絵や箱庭用具を用いた心理面接の中で、クライエントはカウンセラーとともに、表現し
た内面の気持を実感し、意識に統合していく営みを繰り返していたのでしょう。複雑だか
ら扱えないと思っていた人間関係、タブーと思い込んでいた気持ち、交錯するいくつかの
感情もそのまま認め始め、日常生活の中でも、少しずつ感情を素直に表現していくことが
できるようになっていきました。
当日は、表現した箱庭作品等を写真で示しながら、クライエントが言葉にしていった過程
を検討します。
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一般演題 10
緩和ケア病棟開設からの1年間と今後の展望
盛岡友愛病院看護部 1、盛岡友愛病院心療内科 2、盛岡友愛病院外科 3
○畠山 弥生 1,、高橋 美穂子 1、星野 健 2,、藤井 祐次 3、千葉 太郎 2
緩和ケア病棟が 2015 年 6 月当院に開設され、1 年を迎えた。1 年間の緩和ケア病棟での
医療を振り返るとともに、今後の展望をまとめた。
入院患者の内訳としては、1 年間で入院患者数 77 名、お看取り 104 名、自宅退院 16 名、
平均在院日数 14 日であった。
緩和ケア病棟では、多職種チームで患者の症状を緩和し、患者が望む日々を提供し、患
者・家族を支えることを目標として医療を提供してきた。
病棟開設当初のスタッフは患者を身体的苦痛の改善に焦点を当ててしまい、毎日大きな声
を出す患者、訪室する度に怒鳴る患者などの対応に苦慮していた。患者の苦痛は何か、ど
のように対応をすれば良いのかについて多職種間でカンファレンスを行い、個々のスタッ
フが対応を自問自答しながら自らの辛さや怖さを勇気に変え、患者のそばに 30 分でも 1 時
間でも居続けた。
イベントを毎月ラウンジで行い、苦痛に耐えている患者がバイオリンの演奏に涙され、
その日を機に食欲が増すこともあった。このように病棟行事などの取り組みを通じて、患
者のみならず家族と会話をする場面が増え、家族背景や、家族で大切にしていることを聞
き出せるようになった。そのため患者・家族からの無理難題に対して、多職種間でのカン
ファレンスを重ね、真摯に患者・家族に向き合うことで信頼関係が築かれ患者・家族の苦
痛の緩和につながり、スタッフの達成感につながっている。
2 年目の当病棟では、患者に対してより質の高い医療を提供するために、緩和ケアの基
礎となるエビデンスを理解したうえで患者に接していきたいと考えている。そのためには、
緩和ケアの知識・技術に関しての学習会を段階的に充実させ、患者・家族の意思決定を支
援できるように訓練を積んでいくことを目標としていきたい。
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一般演題 11
緩和ケア病棟における認知症患者の検討
三友堂病院心療内科 1、緩和ケア科 2
〇灘岡壽英 1、加藤佳子 2、川村博司 2
【緒 言】
我が国の人口の高齢化に伴い、医療現場では認知症患者の占める割合も増加している。
三友堂病院では 2005 年に緩和ケア病棟を開設し、2013 年から緩和ケアチームの活動を開
始しているが、認知症患者の増加を実感しており、その対策を考える必要性に迫られてい
る。そこで今回、緩和ケア病棟に入院した認知症患者についてその問題点を検討してみる
ことにした。
【方 法】
対象は 2015 年 4 月から 2016 年 3 月までの 1 年間に三友堂病院緩和ケア病棟に入院した
患者であり、そのカルテから後方視的に調査を行った。
【結 果】
1 年間に入院した患者数は 105 名(男性 64 名、女性 41 名、平均年齢 76.7±10.7 歳)で
あり、そのうち認知症と診断されたのは 22 名(21%)であった。その内訳は、男性 9 名、
女性 13 名で平均年齢 83.0±8.0 歳、癌の種別は、大腸癌 6 名、胃癌 4 名、泌尿器系癌 4 名、
肺癌 3 名、その他 5 名であった。認知症病名はアルツハイマー病 8 名、混合性認知症 4 名、
レビー小体型認知症 1 名、アルコール性認知症 2 名、脳転移 3 名で診断が確定していない
もの 4 名である。せん妄が発生したのは 8 名(38%)であり、認知症でない癌患者(16 名、
19%)に比べ優位に多かった。転帰は自宅への退院が 11 名、施設への退院が 5 名、死亡退
院が 6 名であり、施設へ退院するものが多い傾向が見られた。緩和ケア病棟における入院
期間には認知症でない患者群との間で明らかな差は見られなかった。
【結 語】
今回の調査では明らかな問題点は抽出できなかったが、多くの認知症患者が緩和ケア病
棟へ入院する時点で緩和ケアに対する自分の意思が表明できない状態であり、できるだけ
早い時期に自らの終末期に関する考えを周囲の人間に伝えておく必要があると思われた。
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