Available Information Report for Corporate Management 経 営 情 報 レ ポ ー ト 第 11 号 プロジェクトマネジメントの 概要と推進ポイント 1 プロジェクトマネジメントとは何か 2 プロジェクトの範囲を定める ∼スコープ(範囲)∼ 3 プロジェクトの効率かつ効果的な運営を図る ∼時間・コスト・品質∼ 4 人的資源を有効に活用する ∼組織 ・ コミュニケーション∼ 5 プロジェクトを成功裡に完了させる ∼リスク・調達∼ 6 プロジェクトの全体最適を実現する ∼統 合∼ 森田 務 公認会計士事務所 プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 1 プロジェクトマネジメントとは何か >>>プロジェクトマネジメントが重視されてきた背景 プロジェクトマネジメントは、1960 年代にアメリカ国防省で、軍事対策や宇宙開発分野 で研究されてきました。その後民間企業へ広まり、現在はプロジェクトマネジメント団体 であるPMI[Project Management Institute]が組織されており、日本にも下部組織があ ります。そしてその団体がプロジェクトマネジメントをPMBOK[Project Management Body Of Knowledge]として体系的に整理しており、プロジェクトマネジメントの世界標準 として運用されています。 日本でも経済産業省を中心にPMBOKなどに準拠したプロジェクトマネジメントの体 系付けが進められてきました。 こうした背景には、プロジェクトの短期化・低予算化に加えて、プロジェクトを取り巻 く環境の不確実性が増してきた中で、計画通りにプロジェクトを運営することが困難にな ってきていることが要因として挙げられます。 多くの企業でも、プロジェクトチームが当初の計画通りの期間・予算で、経営課題の克 服に結びつくアウトプットをいかに出せるかという点で苦戦しております。プロジェクト マネジメントは、プロジェクトの成功を 100%保証するものではありませんが、確率や完 成度は向上できますし、その後の企業内の組織力や人材育成の面で非常に大きな効果があ ります。 本レポートでは、そのプロジェクトの成功と企業の組織力強化・リーダー育成に焦点を 当てながらPMBOKの定義に沿って解説していきます。 >>>成功するプロジェクトの事例 事例1 : 日産自動車(株)のクロスファンクショナルチーム(CFT) 有名なCFTというプロジェクトチームの事例ですが、プロジェクトチームが経営課題 の解決のために一定のアウトプットを出し、しかもプロジェクトメンバーの人材育成の面 でも成果のあった事例です。 1999 年、カルロス・ゴーン社長就任当時の日産自動車は抜本的な経営体質の改善に迫ら れていました。ゴーン社長はコスト削減、品質向上、リードタイム短縮といった特定の経 営課題に対し、社内の各部門から検討メンバーを人選し、CFTを結成して彼らに集中し て議論させました。 1 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント CFTでの議論を通じてメンバーは部門を超えたコミュニケーションが深まり、相互理 解や課題の共有が進み、顧客に対して本来あるべき企業の姿や、全社レベルでのコスト削 減プランなどがアウトプットとして経営委員会に答申され、CFTと経営委員会の双方向 のやり取りが繰り返され、「日産リバイバルプラン」が完成されたのです。 この事例では、部門を超えたプロジェクトチームによる議論というものが、いかに重要 なものであるかを示唆しています。 事例2 : プロジェクトマネージャーの資質 プロジェクトを統括するプロジェクトマネージャーの資質によってもプロジェクトの成 功は左右されます。以下の表は、2人のプロジェクトマネージャーがプロジェクトメンバ ーに対して行った発言です。 プロジェクトマネージャーA プロジェクトマネージャーB ●「時間がないのでプロジェクトに関す ●「時間がないので前に渡した資料の補 るこの資料を読んでおいて」 足と質疑から入るよ」 がら聞くように」 「このプロジェクトのスケジュール プロジェクト ●「細かいことはプロジェクトを進めな ●「まずこのプロジェクトの目的は・・ ・」 チーム発足時 とマイルストーンは・・・」 ●「慣れれば大丈夫」 ●「キックオフミーティングをやるの 初期の緊張感 ●「問題があれば後で相談して」 のあるミーテ ィング で、そこで私の案と、皆さんからの質 問を受けよう」 ●「ミーティングが終わったら皆で一杯 やろう。 」 ●「遅れているとは、どういうことなん ●「遅れた理由は何だろう?」 スケジュール だ!!」 ●「どうすれば遅れを挽回できるか に遅れが生じ ●「土日も出勤して遅れを取り戻すよう な?」 た場面 に!」 2人のプロジェクトマネージャーを比較していかがでしょうか。この事例は極端な例で すが、Bさんの方がプロジェクトをうまく進められそうな雰囲気です。AさんとBさんの 違いをまとめてみると、次のようなBさんの特性がわかります。 Aさんは最初のミーティングでいきなり資料を渡しているが、B さんは前もって渡してお り、時間を効率よく使っている Bさんはプロジェクトの目的などをきちんと説明している Bさんはプロジェクト初期の緊張感を和らげる試みをしている Bさんは遅延を責めずに冷静に原因分析し、メンバー全員に対策を考えさせている 2 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント Bさんのように、メンバーを動機付けて建設的な議論をさせ、途中のトラブルをメンバ ー全員で乗り越えていくことが、プロジェクトマネジメントを通じて経営層が期待するも のでもあるのです。 これらの2つの事例では、プロジェクトチームという存在の経営に対する役割が決して 小さくないこと、プロジェクトマネージャーの資質によってプロジェクトの成功が左右さ れることがわかります。そしてこのプロジェクトマネジメントは前述のPMBOKでその 手法が体系的に整理されています。 >>>PMBOKが定義するプロジェクトマネジメント プロジェクトマネジメントは以下のように9つの要素に区分されており、①から⑧の要 素を管理し、⑨で全体最適をチェックするという構造になっています。(図 1-1) ①スコープ プロジェクトの定義、目標の明確化 ②時 スケジュール作成とプロジェクトの進捗管理 間 ③コ ス ト プロジェクトの予算管理 ④品 質 経営者が期待するアウトプットのレベル確保 ⑤組 織 プロジェクトメンバーの動機付け ⑥コミュニケーション プロジェクトの利害関係者との調整 ⑦リ ス ク 予想されるリスクの洗い出しと対処方法 ⑧調 達 外部経営資源の活用 ⑨統 合 全体最適化 図 1-1 PMBOKによるプロジェクトマネジメントのフレームワーク ①スコープ ④品質 ③コスト ②時間 ⑨統合 ⑧調達 ⑦リスク ⑥コミュニ ケーション ⑤組織 3 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 2 プロジェクトの範囲を定める ∼スコープ(範囲)∼ >>>発足時のプロジェクトマネージャーの責務 スコープの定義は、プロジェクトのアウトプット(経営に対する答申・経営から与えら れたミッションの遂行)やそれに向かう個々のプロセス、即ち、何をどこまでやるのかと いうスコープ(範囲)を明確にすることです。 またこれだけではなく、スコープはプロジェクト期間を通じて必要に応じて見直され、 プロジェクトの終了時点でアウトプットを保証するステップでもあります。 このステップはプロジェクトチームを発足させる際に避けては通れないステップで、こ れが曖昧なままでは、プロジェクトの運営も一貫性がなくなり、アウトプットの品質も低 下します。 このプロセスにおけるプロジェクトマネージャーの心構えとしては、 プロジェクトの目標やアウトプットなどについて、経営層との共通認識を図る。 さらにプロジェクトメンバーへの周知を徹底する。 プロジェクト期間中は常に経営層およびプロジェクトメンバーとの双方向の意 思疎通を図る。 という点が挙げられます。 このスコープのプロセスを押さえておくことで、時間管理やコスト管理、アウトプット 品質など、その後のプロジェクト運営において一貫性を保つことができ、途中の様々な阻 害要因にも迅速かつ的確に対処することができるのです。 具体的には、プロジェクトの基本事項(目的、目標、アウトプット、予算など)や、プ ロジェクト期間中の経営層への報告のタイミング、ミーティングの開催頻度、マイルスト ーンなどが該当します。 4 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 3 プロジェクトの効率かつ効果的な運営を図る ∼時間(D) ・ コスト(C) ・ 品質(Q)∼ >>>効率かつ効果的な運営とは PMBOKではプロジェクトの時間・コスト・品質という旧来のプロジェクトマネジメ ントの要素についてもそれぞれ定義しています。この3要素はプロジェクトの効率的かつ 効果的な運営を図るためで、小さなインプットで大きなアウトプットを得ることを前提と しています。(図 3−1) 図 3-1 QCDで効率的かつ効果的なアウトプット 品質 [Quality] インプット メンバー ミーティング ブレスト 社内調整 アウトプット コスト [Cost] Cost] 時間 [Delivery] プロジェクトの成果 ・・・・・・など プロジェクトメンバーが通常業務と兼務している以上、無駄な時間やコストはかけられ ません。したがって、限られた時間の中でいかに経営層が満足するアウトプットを出すこ とができるか、いかに限られた予算の枠内でプロジェクトを実行していくかが、プロジェ クトチームに与えられた使命の一つであり、プロジェクトマネージャーはプロジェクト期 間中、常に舵取りをしていかなければなりません。 >>>時間(タイムマネジメント) プロジェクトマネージャーは、プロジェクト開始前に必要な作業やミーティングなどを 洗い出してスケジュールを作成し、予定と実績を管理する必要があります。また、プロジ ェクト期間中、スケジュールは常に最新のものに更新され、メンバーや必要応じて経営層 で共有しなければなりません。 ここでプロジェクトマネージャーが注意しなければならない点を挙げておきます。 最初から完璧なスケジュールをつくる必要はない。 予定との乖離が生じたら速やかに適切な対応をとる。 5 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント プロジェクトマネージャーはプロジェクトの本来の目的を見失わず、凝り過ぎず、不確 実性に対して柔軟に対応していくことがプロジェクト成功のポイントです。 具体的なスケジュール管理のツールとしてはガントチャートが一般的です(図 3-2) 。ガ ントチャートは、時間を横軸に取って各作業の日程計画や実績を記入したチャートのこと で、プロジェクトのスケジュールを一目で確認することができ、計画と実績の差も明確に なります。 図 3-2 ガントチャートの例 第1週 第2週 第3週 第4週 第5週 第6週 第7週 第8週 キックオフ ミーティング 環境分析 方向性の選択肢の 絞込み 定量シミュレーション 協力会社の選定 計画 実績 >>>コスト プロジェクトにはコストが発生します。プロジェクトの性格や運営方法によって発生す るコストは様々ですが、どんなプロジェクトでも共通して発生するコストはメンバーの人 件費です。人件費は基本的には固定費なのでプロジェクトチームを発足させたからといっ て人件費が増加する訳ではありません。しかし、ミーティングでメンバーが拘束されたり、 職場でプロジェクトの準備をすることによって、機会費用が発生します。 機会費用とは、選択されなかった最善の選択肢を選んだときに得られるべき利益のこと です。ここでは、プロジェクトに関わることで、本来の通常業務を通じて会社に貢献すべ きものが失われたことを意味します。プロジェクトマネージャーはこのことを常に意識し てプロジェクトの費用対効果を考えていく必要があります。 もちろん、ミーティングの場所代や事務用品費などの節約に努めることは言うまでもあ りません。 6 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント >>>品質 プロジェクトチームにとって顧客は経営者です。顧客、すなわち経営者が満足する答え を期限までに用意しておかなければなりません。期限を守ってもコストを抑えても、経営 者がプロジェクトチームの出した結果に満足しなければ意味はないのです。このことは企 業活動においても同様のことが言えます。 では、経営者が満足する答えはどのようにすれば用意できるのでしょうか。プロジェク トマネージャーやメンバーのレベル向上は加味せず、プロジェクト発足の段階で次に挙げ る事項に留意することで的外れな答えを防ぐことができます。 プロジェクトマネージャーの理解を正しく経営者に伝える。 経営者の隠れた要求を引き出す。 経営者がプロジェクトチームに期待していることをプロジェクトマネージャーが正しく 理解しているかどうかでスコープ(範囲)の設定が左右されます。プロジェクトマネージ ャーは自分の理解度を経営者に再度伝えて、双方の認識のギャップを取り除く必要があり ます。 また、経営者の隠れた要求とは、例えば「こんなことくらい言わなくても分かっている だろう」などというような経営者の思い込みや、そもそも経営者の頭が整理できていない ために、真の要求すべきことが発言されないというような場合に起こることです。 プロジェクトマネージャーは、経営者の要求に対して自分なりに可視的に整理したもの を再度確認しなければなりません。 具体的には次のような投げかけをするのが効果的です。 「今回のご指示は、○○と認識しておりますが宜しいでしょうか」 「プロジェクトの概要を図にまとめて参りましたので、食い違う点がないかどう かご確認ください。 「今後プロジェクトチームに対して色々なご要望があると思いますが、プロジェ クトの進捗状況をリアルタイムに把握できる情報共有システムを整備しました ので、こちらのメッセージボードを通じてご指示いただいても結構です」 ポイントは、プロジェクトマネージャーが経営層の頭を整理させる図式を活用したり、 経営層との双方向のコミュニケーションツールを活用するという点です。 7 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 4 人的資源を有効に活用する ∼組織 ・ コミュニケーション∼ >>>プロジェクトを推進するのは「人」である PMBOKでは、 「人」は重要な要素として位置付けられており、9つの領域のうち「人」 と関連の深い領域は「組織」と「コミュニケーション」の2つです。 プロジェクトはプロジェクトマネージャーを始めとして「人」が運営します。プロジェ クトマネージャーは、経営層とのパイプ役をしながら、メンバーへの動機付けや情報共有 などを行わなければならないため、 「組織」と「コミュニケーション」に関するプロジェク トマネジメント上のポイントを押さえて運営する必要があります。 >>>「組織」をマネジメントする 組織マネジメントは「プロジェクトに関与する人々を最も効果的に活用するために必要 なプロセス」です。プロジェクトマネージャーはメンバーだけではなく、プロジェクトを 取り巻く利害関係者を効果的に活用することが求められます。利害関係者とは、メンバー のほか、経営層、関係部門、関係する社外取引先などが該当するため、プロジェクトマネ ージャーは常にプロジェクトを多角的に客観視する必要があります。 組織マネジメントのポイントは以下の通りです。 プロジェクトチームにおける意思決定ルールや、利害関係者との調整・報告など のルールを取り決める。 プロジェクト推進に必要な経営資源を明確にし、調達・活用する。 メンバーに自主性を持たせるような動機付けを行う。 特に3点目に指摘したメンバーの自主性については、具体的には「問題点を隠さず自ら 進んで発見しようとする」、「発見された問題や改善点を押し付けあうのではなく、互いに 積極的に解決しようとする」ということです。 では、どうすればこのような意識を持たせられるのでしょうか。効果的な方法として次 の3点が挙げられます。 8 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 問題を発見したことを褒め、他の問題の発見も促す。 問題が解決したらどんな良いことがあるのかを、メンバー自身にイメージさせ る。 メンバー自身に解決方法を考えさせる。 これらはコーチングスキルそのものです。つまり、プロジェクトマネージャーはコーチ ングスキルを駆使しながら組織をマネジメントしていく必要があるのです。 >>>「コミュニケーション」をマネジメントする プロジェクトで発生する問題は、コミュニケーションの悪さに起因する場合も少なくあ りません。相手に伝えたことが正しく理解されているかということを、プロジェクトマネ ージャー自身が常に意識することが必要です。 また、プロジェクトチーム内でもメンバー間が正しく「伝達 ⇔ 確認」のキャッチボ ールを行えているかどうかについても同時に気を配る必要があります。 「恐らく正しく伝わっていないだろう」という意識を持つ。 過度な疑念は逆効果となるので、常識的なレベルに留める。 また、コミュニケーションの悪さから意見が対立した場合には、5つの対処方法があり ます。(図 4-1) 図 4-1 対決・対峙 問題の対処方法とその結果 当事者同士が相対して解決の道を探る 当方 先方 Win Win 妥協 折衷案を落としどころにする 鎮静 一時的に目をつぶり争いを小さく扱う Lose Lose 強制 上司命令などで強制的に解決する Win Lose 撤退 状況が消え去る・好転するのを待つ Lose Lose ? 9 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント この図から分かるように、 「対決・対峙」が双方にメリットをもたらす最も良い対処方法 です。双方の信頼関係がある場合や互いの能力を認め合っている場合に極めて効果的です。 一方、その他の対処方法は、本質的な解決にならなかったり、新たな火種となったりす るなど、積極的に採る方法ではありません。 ただし、実際のプロジェクト運営の場では対立の構図は様々であり、すべて「対決・対 峙」のスタンスで臨むことは不可能です。しかし、どのような場合でも図 4-1 のフレーム を念頭に置いた上で、臨機応変に対処することの方がむしろ重要です。そしてこれはプロ ジェクトのみならず、様々なビジネスの場においても応用できます。 また、プロジェクトチーム内のコミュニケーションを円滑にするミーティング手法とし て、アイデア発散型のブレーンストーミング(図 4-2)とアイデア収束型のKJ法(図 4-3) があります。プロジェクト期間を通じて、これらを組み合わせて活用することは有効です ので、プロジェクトマネージャーは積極的に活用すべきでしょう。 図 4-2 ブレーンストーミングでアイデア発散 飛躍アイデア 大歓迎 批判厳禁 他人のアイデア アレンジOK アレンジOK 質より量 ブレーンストーミングでは、とにかくどんどんアイデアを出し合う ブレーンストーミングでは、アイデアを数多く出させるようにプロジェクトマネージャ ーは次の4点に配慮してミーティングを進行させる必要があります。 他人のアイデアの批判はしない。 飛躍したり的外れなアイデアも歓迎する。 質より量を重視する。 他人のアイデアに便乗したりアレンジすることも許される。 10 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント ブレーンストーミングでアイデアが出尽くしたら、次はそのアイデアを絞り込みます。 KJ法は川喜多二郎博士が考案した収束技法で、図 4-3 のように、ブレーンストーミング で出たアイデアを付箋に転記し、同類のアイデアをグルーピングしてボードに貼り付けて いくことで、問題の本質を浮き彫りにさせます。 図 4-3 KJ法でアイデア収束(小売業の収益改善策の例) グループタイトル 客単価増加 客数増加 回転率向上 同類のアイデアを グルーピング ブレーンストーミングで出たアイデアを付箋に転記し、ボードに貼付け 11 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 5 プロジェクトを成功裡に完了させる ∼リスク・調達∼ >>>高まる不確実性と限られた経営資源 環境の不確実性が高まったからこそ、経営者だけの判断ではなくプロジェクトチームで 集中的に経営課題へ取組むことの有効性が指摘できます。 また、多くの企業ではコスト削減に取組み、無駄な経営資源を省いた筋肉質な経営体質 への転換を進めてきました。特に固定費削減への寄与が大きい人件費がクローズアップさ れ、最小限の人員で事業が展開されてきています。 不確実性が高いということはそれだけ「リスク」も高いということを意味します。経営 資源が限られているということは外部資源の「調達」の必要性を意味します。 (図 5-1)本 章では、 「リスク」と「調達」について解説し、プロジェクトを成功裡におさめるポイント を押さえていきます。 図 5-1 高まる不確実性と限られた経営資源 不確実性をカバーする 経営資源が不足 現在 将来 >>>リスクマネジメント リスクとは既に起こった事象ではなく、今後起こるかもしれない不確実な事象のことで、 次のような事前予防的なマネジメントをいいます。 12 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 不確実な事象が顕在化する前に把握し、プロジェクトにマイナスの影響を与える 事象が発生しないよう未然に対処する。 発生した場合でも、その影響を最小限に留める。 リスクは経験に基づいた直感によって予測される場合が少なくありません。ベテランの プロジェクトマネージャーであれば、直感的に自分の頭で判断し、メンバーに指示したり 関係部門に働きかけたりするでしょう。しかし、プロジェクトマネージャーは万能ではあ りませんし、本人不在時のリスクマネジメントができなくなってしまいます。 重要なことは、 「直感的なリスクマネジメント」から脱却し、プロジェクトメンバーや関 係部門と、可視的に整理したものを共有することです。可視的に整理するためには、リス クの洗い出しとリスクへの対応方法の2つの項目を明確にする必要があります。 リスクの洗い出しには、次のような方法を複数組み合わせて行うのが効果的です。 プロジェクトチーム内でのブレーンストーミング 経験者や外部コンサルタントへのヒアリング チェックリストの作成 前提条件が崩れていないかどうかのモニタリング また、リスクへの対応については一般的に図 5-2 のように区分されていますので、洗い 出されたリスクがどのレベルに該当するのかを整理するのに活用し、具体的な対応を検討 していきます。 図 5-2 リスクの分類 <例> 回避 リスクの発生する要素を排除 危険な材料を使用しない 軽減 損失の低減、発生確率の低減 シミュレーションを行う 移転(転嫁) 損失を第3者と共有 3者と共有 受容 PL保険に加入する 損失を認知し、損失対応へ体制整備 13 代替案を準備しておく 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント >>>調達マネジメント プロジェクトを進めていく上で、どうしてもプロジェクトチーム外の協力、すなわち外 部資源の調達が必要になる場合があります。外部資源としては、システム開発における協 力会社やマーケティング調査機関、部品の外注などが一般的なケースであり、外注マネジ メントと通じるものがあります。 本レポートでは外注管理の仔細は割愛しますが、期間や予算が限定されているプロジェ クトでも、社外の外部資源にも十分に配慮する必要があります。 外部資源の調達には、調達の準備をしてから実際に調達されるまでの間、タイムラグが 生じるのが普通であり、プロジェクトのスケジュールに影響を与える要素にもなります。 したがって、調達に必要な手続きや調達先の候補選定などについて、計画策定の時点で想 定しておきます。 また、プロジェクト期間中に急遽外部資源の調達が必要になる場合もありますが、これ もリスクマネジメントの段階で準備しておくことが必要です。このようにプロジェクトマ ネージャーは、計画を策定する時点で、外部資源の調達が必要になる場合を想定しておく ことが重要です。 14 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 6 プロジェクトの全体最適を実現する ∼統 合∼ >>>プロジェクトマネージャーは「影の経営者」 プロジェクトマネジメントは企業経営に通じる要素が少なくありません。プロジェクト には様々な利害関係者が関わり、プロジェクト期間中には対立や葛藤、突発的な修正、方 針転換など、計画時点では想定できない事態も発生します。しかしプロジェクトの根本的 な使命は、経営者の期待するアウトプットを期日までに目に見える形にし、所定の予算内 で経営課題に対処していくことです。 まさに、これは企業経営そのものであり、プロジェクトマネージャーは社長業でもある のです。したがって、プロジェクトマネージャーには全体を俯瞰する習慣と様々な利害関 係を調整し、全体最適へ向けてバランスを調整する能力が求められます。 そして、この全体最適へ向けたマネジメントが、「統合」マネジメントです。 プロジェクト全体を常に俯瞰する。 プロジェクトに関わる全ての相反する利害を調整する。 全体最適の視点を持つ >>>統合マネジメント PMBOKではプロジェクトマネジメントを9つの要素に分解しています。本章で述べ る「統合」以外の8要素の中で、ある要素に変更が発生したら、それが影響する要素を識 別し、その要素についても適切に対処していくことが必要になります。図 6-1 の例は、シ ステム開発のスコープにおいて、受注機能を追加するという変更が、他の要素に影響を与 えているものです。 例えば、受注管理機能を追加すると、機能追加のためのスケジュールを確保しなければ ならないため、当初のスケジュールが遅延したり、機能追加のために追加人員で人件費が 増加したり、あるいはメンバーのモチベーションが低下したり、様々な形で波及してきま す。プロジェクトマネージャーはこれらの問題について全体最適の視点でバランスを取っ ていかなければなりません。 15 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 図 6-1 スコープ変更が与える影響(ソフト開発の例) スコープ 受注管理機能の追加 時間 コスト 品質 スケジュール遅延 開発要因増加による 人件費負担 他プログラムとの 相互干渉 組織 コミュニケーション リスク 調達 メンバーの モチベーション低下 利害関係者への 説明・調整 スコープ変更が与える 影響の洗い出し 新たな協力会社の 選定 これまで解説してきたようにプロジェクトマネージャーは、PMBOKのフレームワー クを常に念頭に置き、常に漏れなく全体を捉えていく習慣を持つ必要があります。 また、利害関係者全員が 100%満足する調整は不可能です。重要なことはプロジェクト マネージャー自身が明確な答えと根拠を持ち、利害関係者とコミュニケーションを行って いくことです。 >>>おわりに プロジェクトの重要性は益々大きくなってくるものと考えられ、それに比例してプロジ ェクトマネージャーの役割も重要になってきます。これまで解説してきたように、プロジ ェクトマネージャーは、プロジェクトに関するあらゆる課題や困難を克服し、チームをゴ ールに到達させなければなりません。この点については企業経営においても同様のことが 言えます。 さらに、プロジェクトマネージャーはプロジェクトの推進を通じて、組織運営に関する 様々なスキルを習得していきます。 したがって、プロジェクトマネージャーになるということは、将来のリーダーの育成に も有効であり、メンバーを中心として組織の活性化にもつながります。プロジェクトマネ ジメントは、プロジェクトを成功に導くための手法であるとともに、将来の幹部候補を育 成するための重要な手段でもあるのです。 16 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 企業経営情報レポート プロジェクトマネジメントの概要と推進ポイント 【著 者】日本ビズアップ株式会社 【発 行】森田 務 公認会計士事務所 〒630-8247 奈良市油阪町456番地 TEL 0742-22-3578 第二森田ビル 4F FAX 0742-27-1681 本書に掲載されている内容の一部あるいは全部を無断で複写することは、法律で認められた場合を除き、著 者および発行者の権利の侵害となります。 17 企業経営情報レポート
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