為替ファクターリターンを活用した投資戦略

為替ファクターリターンを活用した投資戦略
年金積立金管理運用独立行政法人
投資戦略部投資戦略課 渡辺桂士
本稿は、証券アナリストジャーナル誌の許可を得て、同誌平成 28 年 7 月に掲載された論
文を元に概要をまとめたものです。詳細版は上記ジャーナル誌をご参照ください。(なお、
本研究は個人の見解によるものであり、GPIF の投資判断を示すものではありません。)
為替の構造的な 3 ファクターを対象に、2 種類のモデルについて分散共分散行列の予測精
度の分析を行った。また、3 種類のポートフォリオ構築手法の違いによるパフォーマンスの
比較分析を行った。その結果以下の2点が分かった。まず、ローリングアプローチと比べ
cDCC-GARCH を用いることで分散共分散行列の予測精度が改善した。次に、cDCCGARCH による分析の結果、等リスク寄与度戦略は、リスク・リターン効率が高く最大ドロ
ーダウンが低く抑えられ、より安定的な投資戦略となることがわかった。
概要
外国株式や外国債券に投資を行う際、投資家は為替のエクスポージャーを必然的にとる
こととなる。その際、為替変動はポートフォリオの価値変動の一つの要因となる。この時、
投資家は、為替変動をそのまま享受するという投資判断、完全に為替変動をヘッジするとい
う投資判断、為替市場の構造的な収益の源泉に対して投資を行う投資判断が可能である。
そこで本研究では、為替市場の構造的な収益の源泉に対する投資戦略を研究するため、利
用可能及び実現可能なデータを用いて、実務的、学術的に為替のファクターとして広く認識
されているキャリー、トレンド及びバリューの 3 ファクターに焦点をあて、その統計的性
1
質、リスク及び相関の時変性、為替ファクターポートフォリオ戦略に関する実証分析を行っ
た。なお、リスク及び相関の時変性には cDCC-GARCH モデルを用い、為替ファクターポ
ートフォリオの構築には、平均分散モデル、最小分散モデル、等リスク寄与度モデルの 3 つ
のモデルを用いることとした。データの観測期間は 1999 年 12 月~2015 年 7 月、ポートフ
ォリオ構築の起点は 2003 年 1 月~2015 年 7 月、リバランスの頻度は 4 週間毎とし、基準
通貨は円とした。
各ファクターリターンの基本統計量及びリターンの時系列推移を表1及び図1に示す。
表1及び図1からわかるように、キャリーファクターはリスクが最も高いファクターであ
り、最大ドローダウンは 2009 年 1 月において - 29.1%と非常に高い数値を示している。バ
リューファクターはリスク・リターン効率が最も高いファクターであるが、ドローダウンに
関しては、興味深いことに、2009 年 6 月から 2011 年 8 月にかけてボラティリティが落ち
着いている中、緩やかなマイナスのリターンが続き、この時 - 16.8%を観測している。トレ
ンドファクターはリターンが最も低いが、リスクは他のファクターと同程度の水準のファ
クターである。
為替ファクターポートフォリオ戦略の基本統計量及びリターンの時系列推移を表2及び
図2に示す。表2及び図2に示すように、等リスク寄与度戦略は、最もリスク・リターン効
率が高く、単一のファクターで一番効率性が高いバリューファクターと比較しても、同等の
効率性を示しつつ、最大ドローダウンは半分程度に収まる結果となった。
本研究では利用可能及び実現可能なデータを用いて、実務的、学術的に為替のファクタ
ーとして広く認識されているキャリー、バリュー及びトレンドファクターを用いた投資戦
略等について実証分析を行った。等リスク寄与度戦略は、リスク・リターン効率が高く最
大ドローダウンが低く抑えられ、結果として単一ファクター投資よりも安定的な投資戦略
となることがわかった。
2
表1:為替ファクターリターンの基本統計量
キャリー
トレンド
バリュー
リターン
4.4%
1.4%
4.8%
リスク
10.3%
9.2%
7.8%
0.43
0.15
0.62
-29.1%
-17.7%
-16.8%
シャープレシオ
最大ドローダウン
表2:為替ファクターポートフォリオのリスク・リターン特性
平均分散
最小分散
等リスク寄与
リターン
2.7%
2.4%
2.9%
リスク
6.8%
4.9%
4.8%
シャープレシオ
0.40
0.49
0.61
-19.8%
-9.5%
-8.6%
最大ドローダウン
図1:為替ファクターリターンの時系列推移
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
99/12
02/12
05/12
08/12
Carry
11/12
Trend
14/12
Value
図2:為替ファクターポートフォリオリターンの時系列推移
160
140
120
100
80
03/1
05/1
07/1
平均分散
09/1
11/1
最小分散
3
13/1
等リスク寄与
15/1