ニワトリ骨格筋ミオシンの加熱ゲ

北畜会報
4
2:7
7
8
1,2
0
0
0
研究ノート
ニワトリ骨格筋ミオシンの加熱ゲル形成能における 2価金属の影響
辰保・前田尚之・石下真人・鮫島邦彦
金
酪農学園大学酪農学部,江別市
0
6
9
8
5
0
1
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f
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Jin-boKIM,NaoyukiMAEDA,MakotoISHIOROSHI,Kunihil
王oSAMEJIMA
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e,RakunoGakuenU
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1
・
キーワード:ミオシン,加熱ゲル化,
2価金属,架橋
Keyw
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s
l
i
n
k
i
n
g
要
pHや塩濃度によって変化するが,筋肉の部位(種類)
議
句
によって著しく異なることが報告されている (MOR-
ニワトリ胸筋と脚筋ミオシンの加熱ゲ、ル形成能に及
ITA,1
9
8
7;SAMEJIMA,1
9
8
9
)
. これはミオシン異性体
ぽす 2価金属の影響を調べ,さらにこれら 2価金属で
のゲソレイじ能の違いによるものと考えられるが,詳細は
起こる分子間相互作用の違いを 1
E
t
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3
(
3
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明らかではない.
開
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)
c
a
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b
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d
i
i
m
i
d
e(EDC)による架橋で検
一般にタンパク質のゲル化は,分子聞の凝集反応に
討した. ミオシンのゲル強度はいずれの 2価金属を添
よる三次元網目構造の形成によって起こる.ゲル化に
加しても上昇したが,その程度ならびに最大の強度を
おいて 2価金属の存在は,豆腐におけるカルシウムの
与える 2価金属濃度はそれぞれ異なっていた.またゲ
ように直接ゲル化を引き起こしたり,ホエータンパク
ル強度の上昇は脚筋よりも胸筋ミオシンで大きかっ
質 (KUHN
,1
9
9
1
)において報告されているような,ゲ
た. ミオシンはモノマーの状態 (
0
.
5M NaCl)では
ル強度を高める作用を有している.食肉タンパク質に
EDCの濃度に比例して架橋され,フィラメントを形成
,1
9
9
1
)や
おいても,筋原線維の加熱ゲル強度 (XIONG
する塩濃度 (
0
.
2M) では, EDCの添加とともに架橋
ソーセージの物性 (
I
S
H
I
O
R
O
S
H
I, 1
9
9
4
) が 2価金属の
は急激に進行した.胸筋と脚筋でミオシンの架橋に差
添加により高められることが報告されている. 2価 金
は認められなかった.塩化カルシウムは架橋に影響せ
属がミオシンの加熱ゲル強度をどのようにして高める
ず,塩化鉄と塩化亜鉛では,添加濃度の上昇とともに
かが判明すれば,食肉製品の物性改善に大いに役立つ
架橋形成が進行した. 2価金属によりミオシン分子に
と考えられるが,その機構は明らかではない.
ミオシン分子聞の相互作用が強めら
本研究は食肉製品の物性の改善を目的として,ニワ
れ,その結果ゲル強度が上昇したと考えられる. しか
トリの胸筋と脚筋ミオシンの加熱ゲル形成能が 2価 金
し,金属の種類による影響の程度は異なっていること
属の添加によってどのような影響を受けるのか,さら
が示唆された.
にゼロ長架橋剤 (EDC) を使用して加熱に伴う分子間
構造変化が生じ,
凝集反応を検知し,これに対する 2価金属の影響につ
緒 量
いて調査した.
食肉の加工特性の一つに結着性がある.結着性は,
実験材料および方法
特にソーセージのようなエマルジョンタイプの食肉製
品において品質を左右する重要な因子である. ミオシ
実験材料
ニワトリは酪農学園大学の実験鶏舎で飼育された白
ンの加熱ゲソレ形成能はこの結着性の発現に主要な役割
を果たしており,
色レグホン種を使用し,胸筋および脚筋からそれぞれ
ミオシンの加熱ゲルに関しては多く
の研究が行われている. ミオシンの加熱ゲル強度は
ミオシンを調製した. EDCは NACALAI社より,
PIPESと DTTは SIGMA社より購入した.その他の
受理
2
0
0
0年 1月 1
1日
試薬は特級品または電気泳動用を使用した.
-77-
金
辰保・前田向之・石下真人・鮫島邦彦
ミオシンとミオシンサブフラグメントの調製
〆
;
¥
一
.
、
5
ミオシンとミオシンサブフラグメントは鶏胸筋およ
(伺角同一括)同{剖凶
ta
l
.(
1
9
5
5
) および、 WEEDSand
び脚筋から PERRY e
POPE (
1
9
7
7
) の方法によりそれぞれ調製した.
EH 封切-00
ゲル強度の測定
ミオシンの加熱ゲノレ強度は, YASUIe
ta
l
.(
1
9
7
9
)の
帯型粘度計を用いて測定した.測定条件はタンパク質
濃度 5
.
0mg/ml,0
.
2M または 0
.
5M NaCl,2
0m M
PIPES(pH6
.
0
)および所定の濃度の 2価金属 (
C
a
C
12,
FeC12 および ZnC12) とし, 6
5Cで 2
0分間加熱後,ゲ
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2
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0
。
ル強度を測定した.
。
s
10
15
20
FeC12Concentration(mM)
ミオシンの架橋
.
5
ミオシンの架橋の条件は,タンパク質の濃度を 0
1
9
9
9
) の方法に従って
mg/mlとした以外は,吉田ら (
千
子
い
, SDS-PAGEゲルから BIO-RADGS-700デン
シトメーターによりタンパク質バンドを測定し,架橋
されたミオシンの相対量を算出した.
結果および考察
図 2 ニワトリ骨格筋ミオシンの加熱ゲル強度に及ぼ
すF
eCI2 の影響
所定の濃度の FeC12 を含むミオシン溶液 (
5
.
0mg/ml,
0
.
5または 0
.
2M KCl,pH6
.
0
) を6
5C20分 間 加 熱
後,ゲル強度を測定した.
(0) ;胸筋 (
0
.
5M KCl), (・) ;胸筋 (
0
.
2M KCl),
(ム) ;脚筋 (
0
.
5M KCl
)
, (
企) ;脚筋 (
0
.
2M KCl
)
0
ニワトリ胸筋および脚筋ミオシンの加熱ゲ、ル強度に
s
及ぼす 2価金属の影響を図 1から 3に示した. ミオシ
(FE)aH 凶同MAwhm-00
ンのゲル強度はいずれの 2価金属を添加しでも上昇し
たが,効果の程度ならびに最大強度における 2価金属
濃度はそれぞれ異なっていた.ゲル強度の上昇は
FeC12 添加で最も大きく ,ZnC12 は非常に低い濃度で
効果を示した.また,一般にゲ、ル強度の上昇は脚筋よ
剖
り も 胸 筋 ミ オ シ ン で 大 き か っ た .MORITA e
ta
l
.
5
ω
(
4
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0
.
1
ZnC12Concentration(mM)
3
図 3 ニワトリ骨格筋ミオシンの加熱ゲル強度に及ぼ
す ZnCI2 の影響
所定の濃度の ZnC12 を含むミオシン溶液 (
5
.
0mg/ml,
0
.
5または 0
.
2M KCl,pH6
.
0
) を6
5C20分 間 加 熱
後
, ゲノレ強度を測定した.
(0) ;胸筋 (
0
.
5M KCl), (・) ;胸筋 (
0
.
2M KCl),
(ム) ;脚筋 (
0
.
5M KCl), (企) ;脚筋 (
0
.
2M KCl)
。
ω主的
ω
-
弘一括)岡山日凶ロ
4
2
0
5
10
15
20
(
1
9
8
9
)の報告によれば,ニワトリ胸筋と脚筋ミオシン
CaC12Concentration(mM)
の加熱ゲル形成の性質はかなり異なっており,胸筋の
図 1 ニワトリ骨格筋ミオシンの加熱ゲル強度に及ぼ
す CaCI2 の影響
所 定 の 濃 度 の CaC12 を 含 む ミ オ シ ン 溶 液 (
5
.
0mg/
.
5または 0
.
2M KCl,pH6
.
0
)を 6
5C20分間加
ml, 0
熱後,ゲ、ル強度を測定した.
(0) ;胸筋 (
0.
5M KCl), (・) ;胸筋 (
0
.
2M KCl
)
,
(ム) ;脚筋 (
0
.
5M KCl), (企) ;脚筋 (
0
.
2M KCl)
0
加熱ゲル強度は脚筋よりも高いが,アクチンのゲル強
度を高める効果は脚筋のみで認められる.このような
違いはミオシン異性体に由来するものと考えられ,
ミ
オシン異性体の生化学的な特性の違いがゲル形成能に
も反映されているのであろう.
-78-
タンパク質の加熱ゲル強度が塩化カルシウムの添加
骨格筋ミオシンの加熱ゲ、ル形成能
によって高められることはホエータンパク質で報告さ
結果である .EDCはタンパク質分子聞の接触した部位
,1
9
9
1
)
. これに関
れている (KUHNandFOEGEDING
にあるアミノ基とカルボキシル基との聞にアミド結合
1
9
9
4
) は,ホエータン
して ]EYARAJAHandALLEN (
を形成して,タンパク質を架橋する.アミノ基とカル
パク質の成分である β -ラクトグロプリンがカルシウ
ボキシル基は静電的に相互作用していると考えられ,
ムと結合し,その結果として疎水性領域に構造変化が
これらを直接共有結合で結ぴ,それ自身は架橋の中に
生じて,蛍光スペクトルが変化することを報告してい
残らないため, EDCの分子量は SDS-PAGEパターン
S
H
I
O
R
O
S
H
IandSAMEJIMA (
1
9
9
4
) もカノレシウム
る. I
,1
981;山田, 1
9
9
1
)
.図
に影響を与えない (MORNET
による同様の変化をウサギの骨格筋ミオシンで観察し
4から明らかなように EDCの濃度が上昇するととも
たと述べている.筋肉タンパク質の加熱ゲル化に関し
に
,
ミオシン重鎖のバンドが薄くなっている.これは
て
, XIONGandBREKKE (
1
9
9
1
) はニワトリ筋原線維
ミオシンが架橋によって凝集し,ゲルの上段に認めら
の加熱ゲル強度が塩化カルシウムおよび、塩化マグネシ
れたり,ゲルに入らなくなったことを示す.この電気
ウムの添加で上昇すると報告している.彼らはこの原
泳動図から,デンシトメーターによりミオシン重鎖の
因としてタンパク質ータンパク質相互作用とタンパク
量を測定し,架橋されたミオシンの相対値を算出して,
質の抽出性の変化を挙げている.本実験では精製した
).
それぞれの EDC濃度に対してプロットした(図 5
ミオシンを使用しているので,タンパク質抽出性の変
架橋のパターンは NaCl濃度の違いで大きく異なって
0
.
5
ミオシン分子がモノマーの状態 (
化が加熱ゲル強度の上昇と関係しているとは考えられ
いた.すなわち,
ない.カルシウムがミオシンに結合するという証拠は
M NaCl) では EDCの濃度に比例してミオシンは架
2価金属でミオシン分子の疎水性
0
.
2M)では,
橋され,フィラメントを形成する塩濃度 (
今のところないが,
ミオシン分子聞の相互作用が
EDCの添加とともに架橋は急激に進行した.ミオシン
生じて,その結果ゲル強度が上昇したと考えるのが妥
分子の状態(モノマーとフィラメント)に静電的相互
当であろう.
作用が大きく関与していることがわかる. ミオシンの
領域に構造変化が生じ,
胸筋と脚筋ミオシンの加熱ゲル形成能の違いとそれ
S
lと Rod)で同様の実験を 0.5M
サブフラグメント (
に及ぽす 2価金属の影響について, EDCを使った分子
NaClで、行ったところ, S-lは全く架橋されず, Rodの
聞の架橋形成量を調べた.図 4は加熱前のミオシンを
みが架橋された.また, S-lと Rodを混合すると Rod
種々の濃度の EDCで処理し, SDS-PAGEで分析した
のバンドだけが減少し, S-lは変化しなかった(図 6
).
B
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Le
gm
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C 0
.
10
.
30
.
50
.
71
.
01
.
21
.
52.0mMEDC
O.5MNaCI
図 4 EDCにより架橋したニワトリ骨格筋ミオシンの SDS
・PAGE図
ゲルの上の数字は EDCの濃度を示す.
-79-
金
辰保・前田尚之・石下真人・鮫島邦彦
いによる影響を調べた.図には示さなかったが,塩化
カルシウムは架橋に影響せず,カルシウム濃度が上昇
してもミオシン重鎖のバンドは全く減少しなかった.
塩化鉄と亜鉛では,添加濃度の上昇とともに架橋は進
).したがって,これらの 2価金属はミオ
行した(図 7
シンの静電的相互作用に影響していることが予想き
れ,ゲル強度を高める効果がカルシウムとは異なる機
構で生じていると考えられる.また鉄と亜鉛でもそれ
ぞれの濃度と架橋の程度にはかなりの違いがある.こ
の原因を明らかにする手懸りは今のところないが、一
つの可能性としてこれら金属のイオン半径の違いが考
。
えられる.本実験で使用した金属の中で Feのイオン
2
1
.
5
0
.
5
EDCConcentration(mM)
半径は最も短く
(0.5~0.6Å) ,次いで Zn
(
0
.7~
0
.
8A),Ca(
1
.3A)の順である。 2価金属は先に述べ
図 5 ニワトリ骨格筋ミオシンの架橋に及ぼす EDC
濃度の影響
図 4の SDS-PAGE図よりミオシン重鎖バンドの量を
測定し,架橋されたミオシンの量を算出した.
(0) ;胸筋 (
0
.
5M KCl
)
, (
・) ;胸筋 (
0
.
2M KCl),
(ム) ;脚筋 (
0
.
5M KCl
)
, (
企) ;脚筋 (
0
.
2M KCl
)
たタンパク質の構造変化とともに,イオン半径の違い
がミオシンの加熱ゲル強度に対する効果や EDCによ
る架橋に影響しているかもしれない.このようにカル
シウムと他の 2価金属あるいは 3者間で,
ミオシン分
子の構造に対する影響は異なり,それが架橋やゲル強
度の上昇効果に関係していることが示唆された.
EDC
ミオシンのゲル化には疎水性相互作用の関与が示唆
されていたが, EDCの利用により静電的相互作用を検
出できることが判明した.今後は,加熱によりこの相
互作用がどのように変化するか,胸筋および脚筋ミオ
主~
シンで違いがあるのか,さらにこれに 2価金属がどの
ように影響するのかについて調べ,筋肉部位によるミ
オシンの加熱ゲル形成能の違いや 2価金属の効果の原
因を追求したい.
1
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朗
三
2
図 6 EDCにより架橋した胸筋ミオシンサブフラグ
メントの SDS-PAGE図
S-l (上図)および S-lと Rodを 1:1 (重量比)で混
合し(上図),架橋は 0
.
5M NaClで、行った.ゲルの上
の数字は EDCの濃度を示す.
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.
0
6 0
.
0
8 0
.
1
ZnC12Concentration(mM)
0
.
2M NaClでも S-lは架橋されなかった.これらの
結果は,ミオシンの架橋は尾部間でのみ起こっており,
頭部聞はもちろん頭部と尾部聞の間にも架橋は起こら
ないことを示す.しかも,胸筋と脚筋ではこれらのミ
図 7 ミオシンの架橋に及ぼす 2価金属の影響
オシンの架橋形成能に差は認められなかった.した
ミオシン (
0
.
5M KCl)は 0.3mMEDCで架橋した.
がって,胸筋と脚筋ミオシンの加熱ゲル形成能の違い
(0) ;胸筋 (
Z
n
C
lz), (・) ;胸筋 (
F
e
C
lz),
は静電的相互作用が関係していないと考えられる.
(ム) ;脚筋 (
Z
n
C
lz), (企) ;脚筋 (
F
e
C
lz)
次いで、 0.3mMEDC存在下, 2価金属を添加して
0
.
5M NaCl)の架橋形成に及ぼす金属の違
ミオシン (
-80
骨格筋ミオシンの加熱ゲル形成能
文
献
SAMEJIMA,K.,K. KUWAYAT
叫ん K
. YAMAMOTO,A.
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