何度でも訪れたくなる身も心も温まる健康ランド アクセスのよい県下最大級の健康ランド いさわ JR新宿駅から中央本線の特急で約一時間半。石和温泉駅から車で五分、温浴 施設を併設したホテル「石和健康ランド」に到着する。二四種類の風呂、五種類 の岩盤浴をはじめ、さまざまなボディケアやリラックスルーム、遊興施設を備え た山梨県下で最大級のリラクゼーション・スペースである。 もとより石和温泉は東日本でも有数の温泉郷で、首都圏からのアクセスもよく、 多くの観光客を集めているが、石和健康ランドは日帰り入浴客に加えてビジネス や観光の宿泊客も多く、年間三〇万人(のべ)が利用している。 運営する株式会社クア・アンド・ホテルは、長野県塩尻市に「信州健康ランド」、 静岡市清水区に「駿河健康ランド」も展開しており、トータルでは年間一二〇万 サービスが提供され飽和状態ともいえ る健康市場において、これだけの集客 を維持するのは容易ではない。その秘 訣はどこにあるのだろうか。 稼働率を高めたホテルと温浴施設 の融合 クア・アンド・ホテルの創業は、昭 みつ もり りょう いち 和五十四年にさかのぼる。 創業者である三森 良 一初代社長が ビジネス客の利用を見込んで「有限会 社甲府プリンスホテル」を設立(平成 六年に株式会社クア・アンド・ホテル に社名変更)し、甲府駅前に「甲府プ 2 3 人を超える利用者数にのぼる。景気の低迷を受けホテルや旅館などの宿泊施設が 格安で泊まれる甲府 プリンスホテル朝日館 (ビジネスホテル) 厳しい経営環境に置かれているなか、また健康ブームとはいえさまざまな施設・ クア・アンド・ホテルは、石和(山梨県) 左上、信 州 (長野県)左下、駿河(静岡県)中央の3カ所で 健康ランドを展開している 何度でも訪れたくなる身も心も温まる健康ランド リンスホテル朝日館」をオープン。当時、甲府市内には高層建築物はまだほとん どなく、六階建てのビジネスホテルはひときわ目を引き、多くのビジネス客を集 めたという。 その後、名古屋で流行していた日帰りの温浴施設を視察した創業者が、ビジネ スホテルと温浴施設の融合事業の構想に至る。ホテル事業の最大の課題は、その 稼働率である。ビジネスホテルの場合、稼働率が高いのは平日の夜で、昼間や休 日はどうしても設備を遊ばせることが多くなる。一方、日帰りの温浴施設は、昼 間や休日の利用客が多い。そこで、これを融合させることでトータルの稼働率を みつ もり あたる 高め、経営の安定化が図れると見込んだのである。 その構想を実際に具現化したのが、後継者の三森 中 である。昭和六十三年に 社長に就任、翌平成元年に、甲府駅から二駅目、電車で六、七分の石和温泉に「石 和健康ランド」をオープンする。 ホテル事業と温浴事業の融合には、施設の稼働率のアップだけでなく、人員を 効率的に配置できるというメリットがある。また、宿泊客にも温浴施設を利用し てもらうことで客室内のユニットバスの設置が不要となり、余剰スペースを客室 増につなげたり、メンテナンスの手間と費用を削減することにも成功した。 ただ、実際にスタートしてみると、運営はそう簡単ではなかった。ビジネスホ テルと健康ランドでは、お客様の層や利用目的がまったく違う。接客の仕方や相 手のニーズのつかみ方、業務の流れや安全・衛生の確保など、ビジネスホテルの ノウハウはあっても、健康ランドの分野は蓄積がなかった。また、石和健康ラン ドは宿泊施設付き健康ランドの先駆けでもあったため、モデルにする事業者もな かった。社長の三森はじめスタッフ全員が試行錯誤を繰り返しながら、手探りで 進んでいくしかない状態であった。 お客様の声に勇気づけられて 三森の肩に重くのしかかっていたのが、石和健康ランドのために投じた一〇億 4 5 何度でも訪れたくなる身も心も温まる健康ランド 円という多額の投資だった。 資金繰りを心配し、業務フローも未完成だった石和健康ランドを支えたのは、 当時のお客様とスタッフだった。 宿 泊 施 設 付 き 健 康 ラ ン ド は お 客 様 に と っ て も 初 め て の 体 験 で、 多 少 の 不 備 が あっても寛容だった。むしろ、指摘された点を忠実に改善していくことで、喜ば れたり評価が高まったりしていった。 こうしたお客様からの声が、暗中模索の日々を送っていた三森の力の源となっ てゆく。 「お客様に喜んでいただくことが、これほどまでに自分に力を与えてくれるの か 」 三 森 は そ う 痛 感 し た。 そ れ は 共 に 働 い て い る ス タ ッ フ も ま っ た く 同 じ 思 い だ っ た。こうして、石和健康ランドに、「お客様の声を聞き、それに応えて改善 する」という仕事のやり方、職場の風土が形づくられていった。 開業から二十年以上を経て、 それはお客様の声を吸い上げる徹底した「しくみ」 として進化を遂げている。 お客様の声がすべての原点 代表的なものに「モニター制度」がある。これは、石和・信州・駿河三カ所の 事業所ごとに約一〇名のモニターを募集し、半年間施設を体験利用してもらい、 さまざまな視点から評価してもらうというものである。 一般の利用客からも、日々、客室や食堂、施設のあちこちにアンケート用紙を 用意し、意見や感想の収集に努めているが、モニター制度ではさらに踏み込んだ 内容の質問をしたり、定期的なモニター会議を持ったりすることで、通常のアン ケートではくみ取れない深いニーズの掘り起こしに役立てているという。 一方、日々の終礼時には、その日お客様から寄せられた苦情や要望などが挙げ られ、管理日誌にまとめられる。また、ネットアンケートやハードリピーターへ のダイレクトメールアンケートなども実施し、多様な観点からの意見を集めるよ 6 7
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