特集 ◎ 勝ち続ける組織 岸本 義之(きしもと よしゆき) ([email protected]) この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィス ご確認ください。 のディレクター・オブ・ストラテジー。20 年以 上にわたり、金融機関を含む幅広い ク ラ イア ント と 共 に、全 社 戦 略、営 業 巻頭言 マー ケ ティング 戦 略、グロ ーバ ル 戦 略、 組 織 改 革 な どのプ ロジェクト を 行 って 「勝ち続ける組織」とは きた。 岸本 義之 同じ業界の企業の中で業績に差がついてしまうのはなぜだ つかない。それも、 「型」や「素振り」ではなく、実際に人とぶつ ろうか。一つの重要な要素は、戦略的ポジショニングの巧拙で かり合わな け れ ば ならな い ので あ る。ボクシング で 言 えば ある。他社が参入しにくい分野を選択したり、他社と比較して スパーリングである。本稿では、コンタクト型スポーツ(格闘技 優位にある強みを生かしたポジションに陣取ることができれ やラグビーなど)に喩えて、リーダーシップ 育成の方法を論じ ば、好業績を持続できる可能性が高い。もう一つの重要な要素 て い る。つ まり、同 僚との 接 触 機 会を 多く持 ち、同 僚 から の は、経営資源の差である。財務的に優位にある企業や、人材面 フィードバックを受け、改善点を自覚した上で、コーチからの で優位にある企業が好業績を持続できる可能性が高い。ただ フォローアップを受けることが、スポーツのみならずビジネス し、同じような人材資源であっても、能力を高めあう好循環を でも重要なのである。 実現できる企業もあれば、逆に停滞の悪循環に入る企業もあ 三つ目の「ピラミッド の底 辺の富」 ( 初 出 2002 年)は、昨 年 る。この差を生み出すのは「組織」の優劣にあると考えられる。 逝去した C・K・プラハラード氏(「コア・コンピタンス」などの 世界的経営コンサルティング会社であるブーズ・アンド・カン コンセプトを生み出した経営学者)らによる論考である。従来 パニーでも、長年にわたって戦略と組 織の問題について探求 の 発 想で先 進国の富裕消費 者のみを相手にするビジネスの を続けており、英語版の 季 刊誌「 strategy + business」でも 延長上で は なく、全く異 なる発 想を持 てば 世 界 の 大 多 数 を 1996 年 の創 刊 以 来、15 年にわたって多くの 論 考を掲 載して 占める貧困層でもビジネスは成り立つということを提唱した きた。日本 語版「マネジメント・ジャーナル」の本号では、その 画 期 的 な 主 張である。この 論 考 の 初 出 時からは 状 況 が 変 化 傑作選の中から紹介する。 し、現在の新興国では貧困層よりも収入がやや多い都市型の 一つ目の「組織DNAの4 要素」 (初出2003 年)は、組織の特徴 「新 中 間 層」が消 費を 牽引するようになってい る。それでも、 を生み出す要素を特定するアプローチを、ゲイリー・ネイルソン 先進国型の発想で徐々にレベルを下げるという手法ではこの らが述べている。自社の固有の強みや弱みに関して「わが社の 市場には対応できず、底辺に対応する発想からレベルを上げる DNA は……」という比喩的表現が用いられることが多い。これ 手法の方が有効性が高い。こうした手法を実際に展開するには を 体 系化し、企 業 の もつ 本 質 的 な強 み の 構 築に役 立 てよう 先進国の本社組織ではなく、現地組織の能力を活用するしか というのが本稿である。本家の DNAとは異なり、組織 DNA は ない。新たなレベ ル の グ ロ ーバ ル 化へ の 進 化 が 求めら れる 変化させることが可能であり、4 要素を正しく理解して修正を のである。 図っていけば、組織能力が進化するのである。同じ著者が組織 もう一つの論考は、ブーズ・アンド・カンパニーが毎年行って DNAをより詳細に論じた書籍の訳書『最強企業が最強であり いる「グローバル・イノベーション1000」 (研究開発に関する世界 続けるための組織デザイン』 (日本経済新聞出版社)も、参考に 1000 社調査)である。今回の調査では研究開発における日本 していただきたい。 企 業 の 落ち込 みと中 国・インド企 業 の 活 発 ぶりが目に付く。 二つ目の「リーダーシップはコンタクト型スポーツである」 今回の調査で特に重視されているのが「一貫性」 (Coherence) (初 出 2004 年)は、組 織 能 力に重 大 な影 響 を与えるリー ダー という概念である。多種の事業分野に研究開発の資源を分散 シップの育成に関して、エグゼクティブ・コーチングの世界的な させるのではなく、自社が柱とする領域に集中することが、より 第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏が述べたもので 成果につながりやすい。 「選択と集中」という言葉を掲げながら ある。戦略論や組織論は座学である程度身につけられるとし 総花的な事業展開を続けがちな日本企業も、いよいよ再考を ても、リーダーシップ だけは、実 際に動 いてみなけ れば身に 迫られているのかもしれない。 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 3
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