1 臨床スポーツ医学,24(11):1217-1227,2007 【総説】 水球競技の

臨床スポーツ医学,24(11):1217-1227,2007
【総説】
水球競技のスポーツ医学
高木英樹 1),渡部厚一 1) ,金岡恒治 2),吉沢剛 3)
1)筑波大学大学院人間総合科学研究科
2)早稲田大学スポーツ科学部
3)緑園ゆきひろ整形外科
連絡先
〒305-8574
茨城県つくば市天王台 1-1-1
筑波大学体育科学系
高木英樹
TEL:029-853-6330
FAX:029-853-6507
E-Mail: [email protected]
1
はじめに
水球競技を対象としたスポーツ医学的研究は,古くは豊田ら 1)による報告があるが,
日本国内での「水球」の認知度は低く,競技人口も限られているため,他の競技スポ
ーツに比べると,スポーツ医学の分野で研究対象とされることは少なかった.
水球は,水泳競技の一種目として,オリンピックや各種国際大会の開催種目として採
用されている.プールで実施される競技ということでは,他の競泳や飛込,シンクロナイ
ズド・スイミングと同様に水中運動的特徴を共有する.しかし,水球はボールゲームで
あり,さらに 1 対 1 でのコンタクトが多いなど,他の種目と異なる点が多い.
よって水球競技で発生する外傷や障害も競泳などとは異なることが予想されるが,
実際には水泳競技の一種目として取り扱われるケースが多く,スポーツ医学的見地か
ら水球に関わる症例研究や障害予防に関する知見を網羅してまとめた文献は見当た
らない.
そこで本報告では,水球競技を対象とした様々なスポーツ医学分野における研究報
告をとりまとめ,指導現場で有用と思われる情報を精選して提供すること,さらに今後
研究を進める上での課題を明らかにすることを目的とする.
水球競技の概要と特性
1)競技ルール
水球を端的に説明すれば「ハンドボールを水中で行う」ゴール型球技と言える.試合
は 6 名のフィールドプレーヤーと 1 名のゴールキーパーによって行われ,水面上に浮
んだゴール(幅 3m,高さ 0.9m)にボール(周径 68~71cm)をシュートして得点を競い
合う.試合は 8 分のピリオドを 4 回行い,ロスタイムや休憩時間を入れると試合時間は
約 1 時間弱におよび,その間選手は足の届かないプール(水深 2m 以上でコートは縦
30m,横 20m)の中で立泳ぎあるいは各種泳法を用いて,泳ぎ続ける事になる.
2)泳距離・泳速度および運動強度
泳距離は 1 試合平均で約 1600~2000m に達し、泳速度の平均は約 0.6~0.7m/s
とされる 2).最も頻度が高いのは 0.4m/s 以下の泳速で,主に立泳ぎによるものと考え
られる.一方,一番長い距離を泳ぐのに用いられる速度帯は 1.2~1.4m/s(100m 泳
に換算すると 70~80 秒に相当)であり、強度的にはそれほど高くない。しかし最高泳
速は、約 2.4~2.7m/s に達しており、瞬間的には 50m 自由形世界記録を大きく上回
る速度となる 3).
試合中の運動強度を推定すると,泳速度が 0.4m/s 以下の立ち泳ぎをしている時間
が最も長いため,泳速度と心拍数の関係から推定すると,強度が過小評価される可能
性がある.実際には立ち泳ぎをしている間も相手とのコンタクトがあるため,運動強度
は相当高く,最大心拍数の 80%以上で運動している時間が全ゲーム時間の 62.6%
を占める 4).また試合中は,間欠的に 2.5m/s を超える高強度の泳運動を繰り返し行っ
ており,血中乳酸値は約 8mM 以上に達するとされる 5).
3)シュートおよび水中動作
シュートした際の初速度は,成人男子の平均で約 20m/s 前後であり,世界トップクラ
スの選手では 24.5m/s に達する 6).これはハンドボールにおけるスタンディングシュー
ト速度(17.2m/s~23.6m/s)とほぼ等しい 7).足場のない水中でこれだけのシュート速
度を達成できるのは驚異的とも言える.
1
水球選手がシュートやパスを行う際,水中では巻き足動作を行い,下半身の安定を
図っている.巻き足とは,股関節を外転,屈曲し,膝関節の外旋,外反屈曲位から膝
関節を交互に伸展位にむけて,内反,内旋させる独特の動作をさす 8).巻き足動作は,
水球では頻繁に用いられるが,他のスポーツには見られない非常に特異的な動作で
ある.その他,移動にはフロントクロール(顔を上げたクロール)を多用し,競泳とは異
なる泳動作を用いることも多い.
水球選手のスポーツ障害の実態と対処法
1)水球選手の障害発生割合と好発部位
水球選手にみられるスポーツ障害に関する文献を整理すると,一般的な症例およ
びその主な発症原因を報告した文献 9-15)と特定の大会における水球競技参加者を対
象とした受傷部位や頻度に関する調査報告 8),16- 26)に分類することができる.
これらの文献のうち,1985 年に神戸ユニバーシアードに出場した男子日本代表選
手を対象とした武藤のアンケート調査結果 16)によれば,出場選手 13 名中,過去に障
害を経験したものは 12 名(92.3%)で,大会の時点でも障害を抱える選手が 11 名
(84.3%)いた.その障害経験者の中で治療経験のある者が 11 名(91.6%)存在したと
報告している.この結果から,水球においては障害経験者の割合が極めて高率で,な
おかつ障害を抱えながら競技に参加している実態がうかがえる.
次に 13 年間にわたって,オーストラリアの一流男子水球選手,のべ 77 名を対象とし
て 278 件の外傷・障害について調査した Annett18)の結果を図 1 に示す. 278 件のう
ち, 73.4%がスポーツ外傷, 26.6%がスポーツ障害と診断され,スポーツ障害の割
合が高かった.さらに全受傷ケースのうち, 79.5%が 6 ヶ月以内に完治したが,
20.5%は治療に 6 ヶ月以上を要し,特にオーバーユースが原因と認められる場合は
47.3%と慢性化する割合が高かった.
また実際の試合中(2004 年アテネ・オリンピック全競技対象)に傷害の起こる割合を
示した Junge et al.26)の結果を表 1 に示す. 1 試合あたりの平均受傷件数は,男子
水球の場合 0.4 件で,サッカー(2.4 件)やハンドボール(1.2 件)よりもかなり少なく,バ
スケット(0.6 件)と同程度である 26).一方,試合時間 1000 時間あたりの受傷件数でも,
男子水球(63 件)は,サッカー(73 件),ハンドボール(89 件),バスケット(96 件)より
発生件数は少ない 26).つまり水球競技では,試合中に外傷をおう割合は少ないといえ
るが,慢性的な痛みや障害を抱えるケースが多いと推察される.
成人ではなく,小学生男女,中学生男女,高校生女子を対象とした小林ら 25)の報告
よれば,『大会前の 1 年間で痛みのある部位はあるか』という質問に対して「はい」と答
えた割合は,小学生男女 49%,中学生男子 63%,中学生女子 59%,高校生女子
65%であった.年齢が高くなるにつれ,「痛み」の発生割合が増加する傾向を示した.
さらに他の競技におけるジュニア選手と比較しても水球の受傷率はかなり高いと報告
している 25).近年,ジュニアの水球人口は増加傾向を見せており,競技力も年々高ま
っている.練習においても,より専門的なトレーニングを早期から始める傾向が見受け
られ,これが「痛み」を引き起こす要因とも考えられる.
次に水球選手の外傷および障害の好発部位に関するこれまでの報告 8),16),18),20),2426)をもとに発生部位毎にその割合を表 2 にまとめて示す.
表 2 より,障害の好発部位として,手部,肩関節,腰部,膝関節があげられる.水球
2
の指導現場における実感としても,これらの4部位における外傷・障害により,トレーニ
ングや試合出場に支障をきたす場合が多い.特に肩関節,腰部,膝関節は慢性の疼
痛を訴える割合が高い 8).ジュニア選手を対象とした小林ら 25)の調査結果においても,
障害が発生した部位として,肩関節が小・中高校生とも一番多く,2 割以上を占めたと
報告している.
2)部位別の外傷・障害発生原因と対処方法
加藤の報告 15), 20), 21)をもとに,部位別の外傷・障害とその発生原因および対処法を
表 3 に示す.特に障害の好発部位である,肩関節,腰部,膝関節については,以下に
詳しく述べる.
a)肩甲帯および肩甲上腕関節
水球における障害の中で,最も発症割合の高い部位が肩関節である 12).その肩関
節の障害発生に関しては,主に2つの原因が考えられる.まず第一に競泳と同様に,
泳動作に伴い肩関節を含む肩甲帯に慢性的な負荷がかかることにより,関節や軟部
組織に障害が生じるいわゆる「水泳肩」によるものである.
発生機序としては,肩の挙上や回旋動作により,慢性的に棘上筋腱や上腕二頭筋
腱が烏口肩峰靭帯や肩峰前部などに衝突して(インピンジメント)擦れることにより,軟
部組織に損傷が生じるとされる 20).
技術的要因としては,泳動作中のローリングが不十分な状態で肩関節の外転・内転
を繰り返すと,棘上筋腱や上腕二頭筋腱に過度の伸張が生じ,有痛性の障害を生じ
やすい.特に水球では状況判断をしながら移動するために,顔を上げたままクロール
や背泳ぎを行う.顔を上げて泳ぐとローリング動作が制限されるため,肩関節への負担
がさらに増すと推察される.また身体的要因としては,肩関節に多方向の不安定性
(ルースショルダー)を有することや肩関節可動域の減少などが誘因となる 14) .
治療に関しては,一般的な対処法に加え,練習を継続しながら次のような対処をす
ることで痛みの緩和を図ることができる.①練習終了後,ただちに烏口肩峰靭帯付近
のアイシングを行う.②プル(腕のみ)の練習量を減らしてキックの練習量を増やし,ス
トローク回数を制限する.
予防法に関しては,入水時における過度の肩内旋の是正や正しいローリング動作の
励行,リカバリー時の極端なハイエルボーの矯正などを実施すべきである.また肩関
節の可動域が減少するとインピンジメントの誘因となるので,ストレッチングを励行し,
柔軟性を高めることも重要である 14).
肩関節障害発生の第二の原因は,投球動作に伴い肩関節の外転・外旋運動が強
制されるため起こる三角筋炎や腱板損傷,いわゆる「投球肩」によるものである.
Pacelli 10)は,米国高校レベルでは,オーバーユースによる腱板損傷が多いと述べて
いる.
発生機序としては,シュート時の最大テイクバックからボールリリースまでのコッキング
および加速期において,肩関節は外転・外旋運動が強制されるため、肩の前方が引き
伸ばされて三角筋前部や上腕二頭筋長頭腱は牽引され、逆に棘上筋は収縮する.こ
れによって三角筋炎・棘上筋炎や上腕二頭筋長頭腱炎、インピンジメント症候群、腱
板損傷が発生し易くなる.
身体的要因としては,「水泳肩」と同様にルースショルダーやインナーマッスルとアウ
3
ターマッスルのインバランス,あるいは肩関節可動域の減少などがあげられる.技術的
要因としては,コッキングおよび加速期において肘関節を伸ばしたままリリースを行うと
肩関節前方への負荷が高まり,障害が起きやすい.水球の場合,通常ボールを握るこ
とができないので,ボールを落とさないようにするために,コッキング期においては,野
球やハンドボールより肘の屈曲度が小さい傾向にある.よって肘が伸びたまま,なおか
つ体幹の捻りが先行する状態(いわゆる体が開く状態)で,肩関節の伸展と内転動作
を行うと,極めて大きなストレスが肩関節に作用することになるため,投球フォームに留
意する必要がる.
予防方法としては,投球動作の改善が重要である.日本では水球の投球動作を指
導する際,肘関節を伸展し,肩関節を垂直近く外転させたままテイクバックを行い,主
に肩関節の伸展,内転動作によりボールを投げるよう指示することが多いが,前述の
ごとく肩へのストレスが大きく望ましくない.そこで理想的には,肘関節は約 90 度屈曲
させ,肩関節はいわゆる「ゼロポジション」を保ったまま,体幹の捻りによってテイクバッ
クする.リリースに向けては体幹より肘を先行させながら,肩甲平面(Scapular Plane)
上で肩関節の伸展と体幹の捻り戻し動作を行い,肩関節の内旋ではなく肘関節を伸
展させながらボールを投げるのが望ましい.さらにフォロースルーに関しても,右利き
の選手の場合には,手部が左肩前方まで,矢状面を斜めに横切るように肩関節の伸
展と内転動作を行うよう心がけた方が良い.
b)腰部
腰部は水球競技において肩関節に並んで障害の頻度が高い部位である.水球で
は前述のごとく状況判断しながら移動するために顔を上げたままフロントクロールを行
う.この動作によって腰椎は過度に伸展され,腰部障害をきたしやすい.主な障害とし
ては,筋・筋膜性腰痛症(いわゆる「腰痛症」)と脊椎分離症があげられる 14).
筋・筋膜性腰痛症の原因は,腰椎が持続的に伸展位を強制させられるため,あるい
は投球動作時に体幹の捻転動作を繰り返し行うことで,腰背部の筋肉が疲労して痛み
を発するためである.
身体的要因としては,股関節の柔軟性の低下や脊椎支持筋である腹筋群の筋力
低下,さらには背筋群の過緊張があげられる.技術的要因としては,過度に腰椎を伸
展した姿勢でフロントクロールを行ったり,巻き足が未熟で下半身の安定が保てない
状態で,上半身だけで投球動作を行ったりすると,腰部への負荷が高まることになり,
障害を起こしやすい.
対処法としては,指圧・マッサージ等の徒手療法により有痛性疲労部位の筋硬結を
改善したり,超音波や直流電流を用いた物理療法により,痛みを緩和させる方法が一
般的である.予防のためには,腹筋の強化や腰背部から下肢(腰背筋,腰殿部側面,
腸腰筋,膝屈筋群,下腿三頭筋,アキレス腱)の柔軟性を高めるストレッチングが効果
的である 14).また体幹捻転の可動性を改善すると共に,体幹部の筋力強化をあわせ
て行うとよい.
次に脊椎分離症に関しては,先天的要素のある場合を除いて,脊椎に屈曲-伸展
位動作が反復されることによって椎弓の関節突起間部に疲労骨折をきたすことによっ
て発症するものである.特に脊椎骨格が未成熟なジュニア期(12 歳~16 歳)に密度の
高いスポーツ活動を行うと脊椎の分離が起こりやすいことが報告されており 27),ジュニ
4
ア期の選手に対する指導に際しては,注意が必要である.
脊椎分離症は椎弓の疲労骨折が原因であるので,身体的要因や技術的要因もさる
ことながら,発症確率は練習の頻度,時間,強度に大きく依存する.水球の場合,泳
動作,投動作,コンタクトプレーなど,脊椎に繰り返し機械的なストレスをかける動作が
複合されているので 11),長時間のハードなトレーニングを行う際は,各選手のコンディ
ションを常にモニターしながら行うことが重要である.
治療法に関しては,分離早期であれば,コルセットなどの装具を装着して安静を保
ち,分離部の癒合を図るのが一般的である.しかし保存療法を継続しても改善が見ら
れず,分離が進行して偽関節型を呈するような状況では,手術療法も選択肢となる.
予防法として特にジュニア期の選手に対しては,脊椎に大きな負担をかけるようなバタ
フライやフロントクロールなどの練習メニューの割合を抑制し,練習前後のストレッチン
グを励行する.
c)膝関節
膝関節においては,平泳ぎ選手に多く見られる,いわゆる「平泳ぎ膝」と同様に,立
泳ぎによって膝関節内側部に繰り返し負荷がかかることによる「使いすぎ症候群」の発
症割合が大きい.
水球の立泳ぎには,平泳ぎと同様の「蹴り足」と股関節を大きく外転し,膝関節を中
心に下腿を左右交互に回旋させる「巻き足」の 2 種類がある.特に試合中は巻き足の
頻度が高く,パスやシュート時,あるいはポジション取りをする際のコンタクトプレー時
に巻き足を行う.この巻き足を繰り返し行うことで,膝蓋骨内側周囲,内側側副靭帯,
内側関節裂隙,鵞足部,内転筋付着部および脛骨粗面などの膝関節内側部に過度
の機械的なストレスがかかり,炎症を起こすものと思われる.
身体的な要因として若吉ら 8)は,障害者群には膝関節の前後方向の動揺が少ない,
いわゆる「硬い膝」を有するものが多く,膝伸展筋群が弱い傾向が認められたと報告し
ている.また技術的要素として,熟練者は股関節を大きく外転させ,膝関節を中心に
下腿をスムーズに回旋させて揚力(鉛直上向きの力)を効率よく発揮させている 28).し
かし未熟練者の場合には,膝関節と股関節の単純な屈曲-伸展動作による往復運動
の場合が多く,十分な揚力を得られない.よってそれを補うために過度の屈曲・伸展を
繰り返すことになり,膝蓋靭帯や内側支帯を中心とした疼痛が惹起されるものと思われ
る 8).
治療法としては,痛みがある場合にはまず安静を保ち,膝関節内側部のアイシング
を行う.合わせて経皮消炎鎮痛剤を用いることもあるが,疼痛が強い場合にはステロイ
ド薬の局所注射を行うこともある.予防法としては,大腿四頭筋などの膝伸筋群と膝の
内旋を行う縫工筋や内側屈筋の強化を図り,あわせて膝関節および股関節のストレッ
チを行うのが効果的である.
水球に関するスポーツ医学的研究動向
1)肩関節障害に関する研究
Rollins et al.29)は,米国男子ナショナルチームを対象として,スポーツ障害に関す
る調査を実施した結果,対象者の 38%が肩の障害を訴え,その原因の 36%が腱板
損傷と考えられ,加えて肩鎖関節に異常が認められた選手が 2%いたと報告している.
またイタリアのナショナルチームを対象として,肩の疼痛を訴える選手に,X 線検査,
5
MRI 画像検査等の臨床検査を行った Giombini et al. 37)の報告においても,腱板の
関節包側の不全断裂が障害の主な原因であると結論付けている.
他の球技の場合,バスケットボールでは 3.5%,バレーボールでは 25%,そしてハン
ドボールでは 40%が腱板損傷によるとされており 31),水球における腱板損傷の発症割
合(36%)は,投球動作が類似しているハンドボールとほぼ同等であると言える.
一方,日本の男女大学水球選手を対象とした鈴木ら 32)の報告では,肩関節障害が
認められたのは全体の 41.9%で,Rollins et al.29)の米国での結果(38%)と同程度
であった.疼痛部位は肩関節前・外側に集中し,シュート時のテイクバック局面とリリー
スに至る加速局面で疼痛を訴えるケースが多いと指摘している.シュート動作を分析し
た Feltner et al. 33-35)の結果によれば,テイクバックからリリースに至る加速局面おい
て,内旋および屈曲運動に伴うトルクは,最大 80~100Nm に達し,野球の投手 34)と
ほぼ同様の値である.このような大きなストレスがシュート時に繰り返し肩関節に加わる
わけであるから,投手と同様に運動前後のケアーをおこたれば,障害につながりやす
いと推察される.
次に肩関節の内転/外転,内旋/外旋動作時の等速性筋力を測定した
McMaster et al.36)の報告によると,水球選手は両動作とも一方が有意に大きい(内
転>外転,内旋>外旋)傾向を示した.McMaster et al.36)はこのアンバランスが障害
に結びつく可能性を示唆し,内転や内旋と比較して筋力の劣る外転および外旋時の
筋力強化の必要性を唱えている.一方 Witwer and Sauers37)は,利き腕側と非利き
腕側の肩甲骨上方回旋角度や内旋/外旋可動域のアンバランスに注目して調査した
結果,利き腕側の肩の最大外旋角度は,非利き腕側の肩より有意に大きな角度を示
し,内外旋動作の可動域も同様の傾向を示した.このような現象は,野球の投手にお
いても認められ,Mihata et al.38)によれば,投球動作による繰り返しの外力が肩関節
包を弛緩させ,それにより利き腕側の肩関節動揺性と外旋可動域の増加が起こると説
明している.しかしこのような利き腕と非利き腕の可動域に関する差は,スイマーには
認められず,水球選手の特徴であると指摘している 37) .
その他,肩関節の柔軟性と障害との関連について Elliott 39) が検討しているが,両
者間には有意な相関は認められなかったと報告している.
2) 腰部および膝関節障害に関する研究
今村ら 40)は,腰部障害経験のある水球選手を対象としてアンケート調査およびシュ
ート動作分析等を行った結果,圧痛点は L3~L5 および傍脊柱筋に集中し,障害が
完治する割合は 19%に過ぎず,慢性化する傾向にあったと報告している.また有痛者
は無痛者と比較して,腰部の屈曲伸展運動の範囲が大きく,大きなストレスが繰り返し
腰部に作用することにより,腰部障害が引き起こされると推察している.
Mosler et al.41)は,股関節への徒手マッサージ(40 分×8 回,4 週間)を行うことで,
内外旋動作範囲や外転動作範囲の有意な拡大が認められた.しかし動作範囲の拡
大と巻き足パフォーマンスとの関連を検討した結果,巻き足による最高到達点や持続
時間に関しては,介入群とコントロール群の間に有意な差は認められなかったと報告
している.
次に膝関節障害に関して,高木ら 42)は女子大学水球選手を対象として,巻き足動作
との関連を検討した.その結果,膝関節障害の受傷率は 51%に達し,その原因の大
半(76.9%)は,使い過ぎによるものと思われる.また膝障害のおこる原因として,巻き
6
足動作において,特に熟練者は膝関節を過度の屈曲・外旋・外反させた状態から下
方に伸展・内旋・内反動作を行うため,膝関節内側部に繰り返し大きなストレスがかかり,
これが障害の原因となると報告している.
一方,男子大学水球選手を対象とした若吉ら 8)の報告によれば,障害経験者場合,
圧痛点は,膝蓋骨内側周囲,内側々幅靭帯,内側関節裂隙などの膝関節内側部に
集中し,膝蓋骨上端の骨変化や前十字靭帯付着部の脛骨顆間隆起の先鋭化などが
観察されたとしている.
しかしながら,巻き足動作は水球独特の動作であり,障害の予防法に関しては,こ
れまでほとんど議論されていない.よってさらにデータを積み重ね,巻き足による膝関
節障害を予防する方法を検討する必要がある.
3) 内科,眼科,歯科などに関する研究
水球選手の心肺機能に着目した調査もいくつか行われている 43-46) .その中で,
Zakynthinos et al.45)は,ギリシャの水球ナショナルチームを対象として,心エコー検
査を実施し,拍動リズムおよび伝導の異常に関する調査を実施した.その結果,等張
性運動と等尺性運動が混在する水球を行う選手の心臓は,通常の収縮機能を維持し
ながら,左心室に肥大が認められた.さらに徐脈や呼吸性不整脈や洞停止などの所
見が得られたと報告している.
次に女性水球選手に着目した研究もいくつか報告されている 47-51).今村ら 47-49)は,
日本の女子水球選手を対象とし,トレーニング強度と骨密度や月経異常との関連を考
察している.その結果,女子の水球選手とハンドボール選手の腰椎における骨密度を
比 較 し た 場 合 , ハ ン ド ボ ー ル 選 手 ( 1.33 ± 0.08g/cm2 ) が 水 球 選 手 ( 1.29 ±
0.08g/cm2)を有意に上回り 49),陸上と水中という運動環境の差によって違いが生じた
と推察している.またトレーニング強度の増加に伴い,女子水球選手に月経異常をき
たす被験者が 10 名中 4 名認められ,骨塩濃度も低下していた.そしてオフ期に入り,
月経が回復すると骨塩濃度も増加する傾向を示したが,正常月経者と比べると骨密度
は依然低いままに留まっていたと報告している 47, 48).その他,水球,バスケットボール,
陸上,体操,競泳,シンクロを専門とする女性アスリートを対象として,種目特性と卵巣
周期との関連を Sambanis et al.51)が検証している.その結果,種目間で初経時期や
月経周期に差は認められなかったが,競泳や水球などの水中の種目を専門とする選
手は,他の陸上の種目を専門とする選手よりも,月経前や月経中に頭痛を訴える割合
が少なく,これは水と言う運動環境による効果ではないかと推察している.一方,アメリ
カの高校女子水球選手 10 名を対象として,1.5 時間の通常練習後に採血を行い,炎
症性サイトカイン,成長ホルモンおよび白血球などに対する運動の影響を検討した
Nemet et al.50)の報告によれば,水球の練習後,先行研究では報告されていない
CD62L や CD54 などの接着分子の有意な増加が認められた.また思春期の女子が
水球のような激しい身体運動を日常的に行った場合,炎症性サイトカインの顕著な増
加や白血球および接着分子の変化を伴う同化メディエーターの減少が認められ,これ
らの変動が発育発達にどのように影響するのか,さらに検証を重ねる必要があると指
摘している.
水球競技では,眼鏡やゴーグルの使用がルール上禁止されているので,視力矯正
法の選択がなく,視力低下者は水中でのコンタクトレンズを使用している場合が多い
52).水球選手のコンタクトレンズ使用に関する実態や問題点に関しては,小森ら 52-57)
7
が数多く報告している.それらの報告を要約すると,中学,高校,大学,社会人を対象
として調査をした結果,日常生活で視力矯正を行っている割合は 43.38%で,水中で
もコンタクトを使用して矯正をしている割合は 30.14%であり,日常矯正者に対する水
中矯正者の割合は 69.23%であった.また水中矯正で用いられるのは,すべて使い捨
てコンタクトレンズであり,水中矯正者は他の選手と比較して眼障害を発症する割合が
高かったとしている.板垣ら 58, 59)は水球選手のコンタクトレンズ装用に関する長・短所
として次のような点を上げている.長所として,プール中でのコンタクトレンズの装用に
より,塩素による角結膜障害を防ぎ,視機能を高レベルに保つ可能性がある.しかしコ
ンタクトレンズ装用眼の角膜厚増加率が高かったことから,安全性が十分に確立され
ているとは言えない状況にあるとも指摘している.特に眼障害に関しては,田村ら 60)に
よれば,使い捨てのコンタクトレンズを洗浄,滅菌を行わずに 6 週間使用した水球選手
がアカントアメーバ角膜炎を発症した例を報告しており,コンタクトレンズの適切な取り
扱いが重要であると示唆される.
最後に口腔内の怪我を防止するためのマウスガード使用に関する報告がされている.
竹内ら 61)によれば,水球では軽度ではあるが,選手の口腔外傷経験率は 85%と高率
である.渡辺 62)よる報告においても,試合中の口腔粘膜裂傷の例が報告されており,
口腔傷害の発生率は高いと言える.障害防止の方策としては,マウスガードの使用が
考えられるが,水球は水中で競技を行うため,他の陸上で行う競技より,口渇による不
快感が少なく,マウスガードの装着が容易である.さらに装着によって軽度口腔外傷
の防止に効果があるとの報告があり 58),今後現場での導入が期待される.
まとめ
水球に関するスポーツ医学的研究をレビューし,以下のような知見を得た.
1) 試合中における水球の外傷受傷率は他の球技に比べると低い.
2) 水球における障害で最も発生率が高いのは肩関節で,腱板損傷が主な原因と考え
られる.
3) 肩関節の障害予防方法として,投球動作の改善,筋力のバランスの取れた強化,
あるいはアフターケアが重要である.
4) 膝関節の障害に関しては,巻き足という特異的動作が原因と考えられるが,予防方
法に関しては,ほとんど議論されておらず,検討する必要がある.
8
文献
1) 豊田章ら: 水球競技の医学的研究. 東京教育大学体育学部紀要, 2: 179-186,
1962.
2) 高木英樹: 水球競技における研究動向と競技力向上を目指した科学的サポート
の現状. トレーニング科学, 14(3): 139-146, 2003.
3) 高木英樹: 水球のゲーム分析-泳距離と泳速度について-. 筑波大学体育研究
科修士論文集, 9: 93-96, 1987.
4) Hollander, A. P., et al.: Physiological strain during competitive water polo
games and training. In Medicine and Science in Aquatic Sports,
Miyashita, M., Mutoh, Y. and Richardson, A. B. (Eds.), Karger, 178-185,
1994.
5) Rodorigues, F. A.: Physiological testing of swimmers and water polo
players in Spain. In Medicine and Science in Aquatic Sports, Miyashita,
M., Mutoh, Y. and Richardson, A. B. (Eds.), Karger, 172-177, 1994.
6) Darras, N. G.: Maximum shooting velocity in water polo direct shot and
shot with faints of the international level athletes participating in the
10th FINA world cup. In Biomechanics and Medicine in Swimming VIII,
Keskinen, K. L., Komi, P. V. and Hollander, A. P. (Eds.), University of
Jyvaskyla, 185-190, 1999.
7) Gorostiaga, E. M., et al.: Differences in physical fitness and throwing
velocity among elite and amateur male handball players. Int J Sports
Med, 26(3): 225-232, 2005.
8) 若吉浩二ら: 水球選手の運動障害について-膝関節障害を中心として-. 体力
科学, 36: 85-94, 1987.
9) Dominguez, R. H.: Water polo injuries. Clin Sports Med, 5(1): 169-183,
1986.
10) Pacelli, L. C.: Water polo's benefits surface. The Physician and
Sprtsmedicine, 19(4): 118-123, 1991.
11) Brooks, J. M.: Injuries in water polo. Clin Sports Med, 18(2): 313-319,
1999.
12) Colville, J. M. and Markman, B. S.: Competitive water polo. Upper
extremity injuries. Clin Sports Med, 18(2): 305-312, 1999.
13) Agosta, J.: Biomechanics of common sporting injuries. In Clinical sports
medicine, Brukner, P. (Eds.), McGraw Hill, 74-75, 2002.
14) 長谷川伸ら: 水泳のスポーツ障害と予防のためのバイオメカニクス. 臨床スポー
ツ医学, 18(1): 33-42, 2001.
15) 加藤知生: 水泳選手の体力特性. 理学療法, 22(1): 271-276, 2005.
16) 武藤芳照: 水泳の医学Ⅱ. ブックハウス・エイチディ, 111-139, 1989.
30
17) 園田昌毅ら: 第 12 回アジア競技大会(広島)水泳競技メディカルスタッフ報告. 臨
床スポーツ医学, 13(1): 70-78, 1996.
18) Annett, P., et al.: Injuries to elite male waterpolo players over a 13 year
period. New Zealand Journal of Sports Medicine, 28(4): 78-83, 2000.
19) 金岡恒治,岡田知佐子: 第 9 回世界水泳選手権福岡チームドクターレポート. 臨
床スポーツ医学, 19(4): 467-472, 2002.
20) 加 藤 知生: 上肢の スポーツ 障害リ ハ ビリ テーショ ン実践マニ ュアル 水泳.
Monthly Book Medical Rehabilitation, 33: 84-92, 2003.
21) 加 藤 知 生 : 水 泳 選 手 に 対 す る ス ポ ー ツ 理 学 療 法 . 理 学 療 法 , 18(12):
1130-1134, 2001.
22) 渡部厚一: 第 21 回ユニバーシアード大会(北京)水泳チーム帯同医事報告. 臨
床スポーツ医学, 19(9): 1088-1093, 2002.
23) 渡部厚一ら: 第 11 回世界水泳選手権(カナダ・モントリオール)帯同医事報告. 臨
床スポーツ医学, 23(3): 316-322, 2006.
24) 吉沢剛: 世界選手権に関する報告書(日本水泳トレーナー会議資料). 1-10,
2005.
25) 小林大祐ら: ジュニア水球選手における傷害の実態調査. 2005 年日本水泳・水
中運動学会年次大会論文集, 64-67, 2005
26) Junge, A., et al.: Injuries in team sport tournaments during the 2004
Olympic games. AM J SPORT MED, 34(4): 565-576, 2006.
27) 河野左宙: スポーツとの関連における脊椎分離発生過程の追及. 日整会誌, 49:
125-133, 1975.
28) 松井敦典ら: 立ち泳ぎにおける下肢の動作と推力発生のメカニズムに関する研
究. 東京体育学研究, 11: 1984.
29) Rollins, J., et al.: Waterpolo injuries to the upper extremity. In Injuries to
the throwing arm, Zarins, B., Andrews, J. R. and Carson, W. G. (Eds.),
WB Sauners, 311-317, 1985.
30) Giombini, A., et al.: Posterosuperior glenoid rim impingement as a cause
of shoulder pain in top level waterpolo players. J Sports Med Phys
Fitness., 37(4): 273-278., 1997.
31) Gohlke, F.: Instability and impingement of the shoulder of the high
performance athlete in overhead stress. Sportverletzung Sportschaden,
7: 115-121, 1993.
32) 鈴木茂廣ら: 水球の投球動作による肩関節障害について. 体力科学, 39: 60-68,
1990.
33) Feltner, M. E. and Nelson, S. T.: Three-dimensional kinematics of the
throwing arm during the penalty throw in water polo. J Appl Biomech,
12: 359-382, 1996.
31
34) Feltner, M. E. and Taylor, G.: Three-dimensional kinetics of the shoulder,
elbow and wrist during a penalty throw in water polo. J Appl Biomech,
13: 347-372, 1997.
35) Feltner, E. and Dapena, J.: Dynamics of the shoulder and elbow joints of
the throwing arm during a baseball pitch. International Journal of Sport
Biomechanics, 2: 235-259, 1986.
36) McMaster, W. C., et al.: Isokinetic torque imbalances in the rotator cuff of
the elite water polo player. Am J Sports Med, 19(1): 72-75, 1991.
37) Witwer, A. and Sauers, E.: Clinical measures of shoulder mobility in
college water-polo players. J Sport Rehabil, 15(1): 45-57, 2006.
38) Mihata, T., et al.: Excessive humeral external rotation results in
increased shoulder laxity. Am J Sports Med., 32(5): 1278-1285, 2004.
39) Elliott, J.: Shoulder pain and flexibility in elite water polo players.
Physiotherapy, 79(10): 693-697, 1993.
40) 今村まゆみ ら: 女子水球選手の腰部障害. 体力科学, 37(6): 729, 1988.
41) Mosler, A. B., et al.: The effect of manual therapy on hip joint range of
motion, pain and eggbeater kick performance in water polo players.
Physical Therapy in Sport, 7: 128-136, 2006.
42) 高木英樹ら: 女子水球選手の膝関節障害に関するバイオメカニクス的研究. 三
重大学教育学部研究紀要(自然科学), 42: 155-164, 1991.
43) Spirito, P., et al.: Morphology of the "athlete's heart" assessed by
echocardiography in 947 elite athletes representing 27 sports. Am J
Cardiol, 74: 802-806, 1994.
44) Vertommen, L., et al.: Body measurements and heart morphology of
water polo players. In Swimming III, Terauds, J. and Bedingfiels, E. W.
(Eds.), University Park Press, 307-319, 1979.
45)
Zakynthinos, E., et al.: Echocardiographic and ambulatory
electrocardiographic findings in elite water-polo athletes. Scand J Med
Sci Sports, 11(3): 149-155, 2001.
46) Petridis, L., et al.: A swim-test and echocardiographic results on male
junior water polo players. Physical Education and Sport, 1: 1-10, 2003.
47) 今村まゆみ ら: トレーニングによる月経異常と骨塩量の変動. Jpn J Sport Sci,
11(3): 218-222, 1992.
48) Imamura, M., et al.: The effect of water polo training on bone mineral
content. Jpn. J. Phys. Fitness Sports Med., 41(2): 200-205, 1992.
49) 今村まゆみ ら: スポーツ選手の骨量. 計測と制御, 31(3): 409-412, 1992.
50) Nemet, D., et al.: Effect of water polo practice on cytokines, growth
mediators, and leukocytes in girls. Med Sci Sports Exerc, 35(2): 356-363,
2003.
32
51) Sambanis, M., et al.: A study of the effects on the ovarian cycle of athletic
training in different sports. J Sports Med Phys Fitness, 43: 398-403,
2003.
52) 小森康加ら: 水球競技におけるコンタクトレンズの使用実態. 慶應義塾大学体育
研究所紀要, 37(1): 21-29, 1998.
53) 小森康加: 水球競技と視覚. Japanese Journal of Biomechanics in Sports &
Exercise, 3(4): 308-310, 1999.
54) 小森康加,河野一郎: 水球競技におけるコンタクトレンズの使用実態 II. 日本体
育学会第 54 回大会号, 528, 2003
55) 小森康加ら: 水球競技におけるコンタクトレンズの使用実態-大学男子選手を対
象とした 5 年間の比較-. 日本体育学会第 49 回大会号, 48, 1998
56) 小森康加ら: 水球競技におけるコンタクトレンズ使用が視覚機能と眼障害に与え
る影響. 体力科学, 54(6): 698, 2005.
57) 小森康加ら: 水球選手における競技中の視力矯正方法に関する研究-コンタク
トレンズ使用からみた年代別比較-. 体力科学, 56(1): 2007.
58) 板垣秀夫ら.: 水泳時におけるコンタクトレンズ装用の角結膜に及ぼす影響. 日
本コンタクトレンズ学会誌, 36: 190-195, 1994.
59) 板垣秀夫ら: 水球選手におけるソフトコンタクトレンズ装用の現状と問題点. 日本
コンタクトレンズ学会誌, 37(4): 38-44, 1995.
60) 田村智則ら: 水球選手に生じたアカントアメーバ角膜炎の 1 例. 眼紀, 49(9):
780-782, 1998.
61) 竹内正敏ら: 女子水球選手へのカスタムメイドマウスガード普及の取り組み. スポ
ーツ歯学, 6(1): 51-55, 2003.
62) 渡辺厚一: ユニバーシアード大会 2003 テグ日本水泳チーム帯同医事報告. 臨
床スポーツ医学, 21(5): 581-586, 2003.
33
表1 各球技における試合中の受傷件数
1試合あたりの受傷 試合時間1000時間
種目
件数
あたりの受傷件数
サッカー
2.4
73
ハンドボール
バスケットボール
水球
1.2
0.6
0.4
34
89
96
63
表2 水球選手における外傷・障害の発生部位とその割合
発症割合(%)
若吉(1987) 武藤(1989) Annett et al. 加藤(2003) 吉沢(2005)
小林ら
*1
*2
(2000)*3
*4
*5
(2005) *6
頭部および顔面
7.3
15.5
頸部
7.4
4.7
7.0
肩および肩甲帯
8.5
18.5
24.1
40.0
22.9
22.8
上腕部
4.8
2.1
肘関節
6.9
3.7
11.5
6.3
4.8
前腕部
3.4
手・手関節
31.5
7.4
19.7
2.9
20.8
16.3
体幹
3.6
2.1
2.0
腰部
11.3
37.0
4.3
23.4
20.8
15.3
股関節および臀部
7.1
2.9
4.2
5.3
大腿部
10.5
4.2
7.5
膝関節
13.3
25.9
3.6
8.3
12.3
下腿部
4.0
0.5
足部
1.7
4.2
8.0
表中の太字で示した数字は最高値を示す
*1:1983年関東学生リーグ戦水球大会に出場した男子大学生へのアンケート調査結果
*2:1985年神戸ユニバーシアード大会出場日本代表選手へのアンケート調査結果
*3:Australian Institute of Sportにおける男子水球選手の13年間にわたる症例調査結果
*4:2001年福岡世界選手権,94年広島アジア大会開催期間中の合計症例(39症例582部位)
*5:2005年モントリオール世界選手権開催期間中の男子日本選手の傷害調査
*6:2005年JOC杯夏季大会出場小学男女・中学男女・高校女子学生対象へのアンケート調査結果
*7:2004年アテネオリンピック開催期間中の男子水球選手の傷害調査
部位
35
Junge et al.
(2006) *7
52.9
5.9
5.9
17.6
11.8
5.9
表3 部位別の外傷・障害とその発生原因および対処法
部位
疾患
脱臼
手指
骨折
腱板損傷
肩関節脱臼
麻酔をかけずに徒手整復によって外れた肩を
投球動作時に相手のブロックを受け,肩の挫傷
元に戻す、元に戻らないときには伝達麻酔ま
を生じる場合もある.また肩関節脱臼あるいは
たは全身麻酔下にて徒手整復を行う。整復後
外傷性の亜脱臼に移行することもある.(加藤,
は約3週間ぐらい三角布でつり、体に包帯で固
2003)
定する。
腰痛症
立泳ぎや投球動作に伴い①腰椎-骨盤リズム
の破綻,②腸腰筋や大体四頭筋,ハムストリン
グス,股関節内・外旋筋の短縮,③肩関節可
動制限による代償動作,④腹背筋の筋力低
下,⑤背筋の過緊張,などの身体的要因によ
る腰痛症をきたす(加藤,2001)
腰部
腰椎分離症
腰椎捻挫
腰椎間板ヘルニア
指圧・マッサージの施行により,局所の筋硬結
や有痛性疲労部位の改善を図ると共に,腹
筋・背筋の強化、軟部組織の柔軟性獲得を目
指した補強運動およびストレッチングを行う.
泳動作や投球動作に伴い,腰椎に繰り返し大
1)コルセットの装用、2)消炎鎮痛薬や筋弛緩
きな負荷が加わることにより,疲労骨折を起こ
薬の使用、3)温熱療法で末梢の血液循環をよ
して椎弓の部分で腰椎が分離したり,腰椎椎間
くする、4)神経に局所麻酔薬を注射する
板の変性が生じる
半月板損傷
平泳ぎ膝
平泳ぎキックによる膝内側への慢性的機械刺
ギプスや内側側副靭帯用サポーターの装着を
激により,内側側副靭帯炎の浅層脛骨部に炎
して安静を保つ
症をきたす(武藤,1989)
頸椎捻挫
打撲(四肢,顔面)
その他 肋骨骨折
鼓膜損傷
1)保存的治療を優先し、痛みに対しては非ス
テロイド系抗炎症剤を処方,2)リハビリテーショ
ンとして温熱療法や腱板のストレッチング、筋
力強化訓練を行う
水球では巻き足(股関節を外転,屈曲し,膝関
節の外旋,外反屈曲位から膝関節を交互に伸
展位にむけて,内反,内旋させる)動作を多用
するため,膝への負担が大きく,内側半月板損
傷を損傷するケースも多い
タナ障害
頸部
対処法
水中の不安定な状況で投球動作を行うため,
肩への負担が増加し,いわゆる「投球肩」が多
く,腱板損傷やインピンジメンと症候群を生じる
が,「水泳肩」と混在することもある(加藤,
2003)
肩関節
膝関節
原因
パスやシュートブロックの際にボールや相手の
応急処置として,局所の安静・冷却・圧迫・患
手が当たって,手指のいわゆる「突き指」をきた
肢の高挙に努め,早期に整形外科を受診し,
す.靭帯断裂や剥離骨折を合併することがあ
手術療法等の治療を行う
る.(加藤,2003)
応急処置として,局所の安静・冷却・圧迫・患
肢の高挙に努めるが,ロッキングを起こした場
合には、早期に整形外科を受診し,手術療法
等の治療を行う必要がある
保存的治療を中心に行い,痛みがひどい場合
巻き足等で膝を酷使することによってタナが慢
には非ステロイド系抗炎症剤を処方することも
性的機械刺激を受け、タナが肥厚、硬化し、膝
ある.リハビリテーションとして温熱療法も有効
蓋骨と大腿骨の間に挟まれて炎症を起こす
である.
1)頸部の安静のために頸椎カラーを装用,2)
水球では相手選手とのコンタクトプレーが多く,
非ステロイド性消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、神経
頸椎への大きな運動負荷がかかった場合に頸
賦活薬などの使用,3)温熱療法により血行を
椎椎間板に変性をきたす
促進し筋肉のこりや痛みを軽減する
応急処置として,局所の安静・冷却・圧迫・患
肢の高挙に努めるが,ロッキングを起こした場
相手選手との接触プレーでの打撲,切創(加
合には、早期に整形外科を受診し,手術療法
藤,2003)
等の治療を行う必要がある
相手選手のラフプレー等により肋骨を蹴られ,
骨折の対応と同じ
骨折にいたる
耳痛、耳鳴り、難聴などの症状がある場合に
水中に沈んだ状態で耳を強打されると,水圧の は,できる限り早く専門医の診察を受け,穿孔
影響で鼓膜を損傷することがある
を和紙などでふさぐ
加藤(2001,2003)をもとに筆者が加筆,改変
36
慢性化率
47.3%
スポーツ外傷
スポーツ障害
27%
のべ77名
総数278件
73%
慢性化率
11.3%
選手一人当たり 7.95ヶ月に1件
1年間に1.5件受傷
6ヶ月以内に完治
21%
のべ77名
総数278件
治療に6ヶ月以上
79%
図1 オーストラリア水球選手を対象とした外
傷・障害発生調査結果
37