2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 乙女ゲームユーザーの分析 静岡大学 工学研究科 事業開発マネジメント専攻 谷川未沙樹 目次 1. はじめに 2. 研究目的 3. 研究内容 1. アンケート調査・結果 2. 因子分析 3. 考察 4. 今後の課題 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 2 はじめに 乙女ゲームとは何か? 家庭用携帯ゲーム機やスマートフォン を中心にリリースされている女性向け 恋愛シミュレーションゲーム 具体的にどんなゲーム? 1. 2. 3. 4. ゲームの主人公の少女を操作 物語の中で様々な男性キャラ クターと出会う 恋愛したいキャラクターとの 会話やイベントを成功させ, 両想いを目指す(※1) 恋愛成就(ゲームクリア) 図1:様々な機器で展開する乙女ゲーム 主人公 恋愛成就 男性キャラクター 図2:乙女ゲームの流れ ※1その中でも、キャラクターとの会話中に選択肢が現れるものをアドベンチャー形式, 主人公を魅力的な人間に成長させるものをシミュレーション形式という 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 3 市場推移 乙女ゲーム市場 1994 家庭用ゲーム全販売本数において 占める割合が年々上昇 本数 1,400,000 % 1,200,000 1,000,000 2002 いわゆるオタク文化の一種 で, テレビゲーム好きの女性を中 心に楽しまれる 小規模なヒットが始まり, 認知度が上がり始める 2011 800,000 2 2001~2011年 販売本数 1.6 全体に 占める割合 1.2 600,000 0.8 400,000 0.4 200,000 0 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 0 図3:2001~2011年に発売した乙女ゲームの年間本数と 発売したゲーム全体における割合 このCMは,昼夜を問わず様々な 時間帯に流れた メディアミックスや大々的な 広告により,ゲームをしない 人にも知られる機会が急増 2013 ユーザーが増加、市場が拡大 停滞傾向にある家庭用ゲーム市場に おいて上昇傾向にある希少な分野 図4:2013放映 ボルテージによる恋ゲームのCM 図5:2013,渋谷109に巨大広告 ブロッコリー『うたの☆プリンスさまっ♪』 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 4 メーカーと傾向 メーカー概要 定期的なリリースと綺麗なイラストで支持される アイディアファクトリーが市場シェア1位 その後を新規参入したばかりながらも成功したブロッコリーが追う 昔から市場にいるメーカーは3位以下に並び押され気味 家庭用乙女ゲームを2作以上制作 している会社は現在約40社 ブランドの種類は50以上に及ぶ 制作傾向 キャラクター,イラスト,出演声 優に力を入れている 市場シェア4割のアイディアファ クトリーが最も評価されている点 は,女性好みの綺麗なイラスト 近年はゲームソフトの他にも,ド ラマCDやキャラクターソング, グッズ展開,イベント・ライブ開 催など,手がける範囲は幅広い アイディア ファクトリー 0% 20% ブロッ コリー 40% コーエー テクモ コナミ HD 60% D3P Honey Bee 他 80% 100% 図6:2010,2011年メーカー別市場シェア 表1:乙女ゲームメーカーとそれぞれ注力している要素 メーカー 注力分野 アイディアファクトリー キャラクター,イラスト ブロッコリー キャラクター,イラスト コーエーテクモホールディングス 世界観,ストーリー コナミデジタルエンタテインメント ストーリー,動作性 ディースリーパブリッシャー 世界観,ストーリー Honey Bee キャラクター,イラスト 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 5 研究目的 現在の市場の問題点 ユーザーが増え 市場が拡大し, 顧客ニーズが多様化 メーカーが 顧客ニーズに 対応しきれていない 多様化する ユーザーの嗜好を 把握できていない 顧客ニーズの元になるユーザーの嗜好や特性を把握できないだろうか? 研究目的 嗜好から乙女ゲームのニーズを明らかにする 研究手順 第1回本調査として大学生にアンケートを実施. 結果からユーザータイプの分析を行い,タイプごとのニーズを考察 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 6 アンケート調査 予備調査 第1回本調査 第1回本調査の前に実施 表2:予備調査内容 期日 対象 2013/6/7 2013/6/14 T大学 大学院生 人数 20人 回数 2回 都内大学生に対し「ゲームのプレイスタイル についてのアンケート」を実施 目的 大学生のタイプ傾向と恋愛シミュレーションゲーム(以降SLG と表記)の認知度を調べる 質問内容 プレイ頻度,所持機器,重要視する要素,恋愛シミュレーショ ンの認知度,始めたきっかけなど チェック項目 設問のわかりやすさ・答えやすさ レイアウト 回答時間 改善項目 設問数の減少 設問表現の変更 表3:第1回本調査 簡易結果 期間 2013年6月~7月 対象 大学1年生を中心とした大学生 回答数 333人 男女比 男:女 = 209:124 文理比 文:理 = 186:48 平均年齢 男:18.9歳 女:18.4歳 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 7 N=333 有効回答率:99.4% 調査結果① 恋愛SLG 認知度 0% 50% 100% 男性 「恋愛シミュレーションゲーム(※1)」を 知っている大学生は,男性60%,女性 62%でともに6割超え 女性 知っている 知らない わからない 図7:大学生の恋愛SLG認知度 ※1 恋愛シミュレーションゲームとは,乙女ゲーム(女性向け恋愛SLG)に限らず,男性向けの 恋愛SLGである「美少女ゲーム」も含んだ,『異性と恋愛するゲーム』というジャンルを指す 0% 乙女ゲーム 認知度 「乙女ゲーム」を知っている大学生は, 男性39%,女性38%でともに4割程度 50% 100% 男性 女性 知っている 知らない わからない 図8:大学生の乙女ゲーム認知度 恋愛SLG プレイ経験 回答者333人の内,恋愛SLGをプレイし たことがあるのは,54人(16%) 0% 50% プレイしたことがある 100% プレイしたことがない 図9:恋愛SLGのプレイ経験 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 8 調査結果② 恋愛SLG プレイ経験 家庭用乙女ゲームをプレイしたことが あると回答した人20人(24%) モバイル用乙女ゲームをプレイしたこ とがあると回答した人18人(22%) 恋愛SLG プレイきっかけ プレイするきっかけは「友達に勧め られた」が46%を占める 口コミから始める人が圧倒的に多い 自主的にプレイするきっかけは 「ネット広告」によるものが多い 出演声優の ファン 4% モバイル 用乙女 ゲーム 22% 家庭用 乙女 ゲーム 24% N=54 有効回答率:15.9% 好きな作品が 恋愛ADV化 5% 家庭用 美少女 ゲーム 42% モバイル 用美少女 ゲーム 12% 図10:恋愛シミュレーションゲームのプレイ内訳 アニメ系 ショップ 2% 雑誌 4% アニメ原作 が恋愛ADV 13% 友達に勧め られた 46% ネット広告 26% 図11:恋愛シミュレーションゲームのプレイきっかけ 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 9 調査結果③ N=54 有効回答率:15.9% 恋愛SLG プレイ本数 調査結果まとめ プレイ本数:6~7本・8~9本は少ない コアユーザーよりライトユーザーが多い 大学生の恋愛SLGユーザー像 8~9本 2% 6~7 本 4% 10本以 上 19% 4~5本 21% 1本 28% 最初は友達に勧められてゲーム を始める 実際にプレイして面白く感じた 場合,もう少しプレイしてみる という場合が多い 2~3本トライアルしてみて,面 白かった場合自主的にプレイし 始める 2~3本 26% 図12:恋愛シミュレーションゲームのプレイ内訳 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 10 N=36 有効回答率:11.1% 因子分析 恋愛SLGを継続してプレイする理由 『2本以上プレイしたことがある』と答えた回答者のみに質問を行った この回答を用いて「ユーザーはどのような共通因子を持っているのか」をSPLUSを利用した因子分析で明らかにし,分類を行う 「その他」の回答も選択肢にあるが,自由記述のため分析からは除外した 表4:恋愛シミュレーションゲームを継続してプレイする理由の集計結果 あてはまる ややあてはまる ややあてはまらない あてはまらない Q1.好みの異性と恋愛できるから 8 12 7 10 Q2.憧れのシチュエーションを体験できるから 9 8 11 9 Q3.狂おしいほどに愛してくれるから 2 3 10 22 Q4.気軽に恋愛できるから 2 5 11 19 Q5.違う自分になれるから 2 6 9 20 Q6.1人で恋愛できるから 1 5 10 21 12 9 5 10 7 0 0 1 Q7.色々な恋愛を体験できるから Q.8その他(自由記述) 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 11 分析結果 分析実行 分析結果 Factor1 手法 因子数を3つと想定 因子数の抽出法は 最尤法を使用 回転法はバリマックス 回転を使用 表5:因子の寄与量 Factor2 Factor3 1.8486007 1.6076014 1.3571845 表6:寄与率,累積寄与率 Factor1 SS loadings Factor2 Factor3 1.8486007 1.6076014 1.3571845 Proportion Var 0.3081001 0.2679336 0.2261974 Cumulative Var 0.3081001 0.5760337 0.8022311 表7:因子負荷量(0.1以下は空白) 過程 因子負荷量の低い変数 (Q7)を削除 Factor1 Factor2 Factor3 Q1.好みの異性と恋愛できる 0.911 Q2.憧れのシチュエーションを体験できる 0.982 0.179 Q3.狂おしいほどに愛してくれる 0.123 0.169 0.457 0.262 0.965 Q4.気軽に恋愛できる 0.152 Q5.違う自分になれる 0.150 0.876 0.203 Q6.1人で恋愛できる 0.123 0.839 0.387 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 12 因子解釈 パス図 分析結果を受け,観測変数と潜在変数の間にこのような関係があると解釈 潜在変数をユーザーの恋愛シミュレーションゲームに対するスタンスとした 好みの異性と恋愛できる 憧れのシチュエーションを 体験できる 違う自分になれる 第1因子 現実的 第2因子 逃避的 1人で恋愛できる 狂おしいほどに愛してくれる 第3因子 願望的 気軽に恋愛できる 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 13 因子解釈の説明 現実的 きちんと現実で生活している.現実と創 作を混合しない.現実を見ているから, 心の癒しとして実在しないものを求める 逃避的 ゲームに 依存しない いわゆるゲームオタクの イメージはこれ 現実に対し否定的.ゲームで別人になる ことで心を満たす 願望的 ゲームに 依存する 傾向 恋愛に対して様々な願望を持つが,現実 では実現不可能なことが多い 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 14 因子得点 ユーザー分類 逃避的 -2 -1 0 1 20 1 1 23 29 28 3 5 24 22 15 34 10 14 16 4 9 8 0 F3.4 6 F3.3 19 32 11 17 F3.2 F3.1 0 26 35 36 27 30 2 25 7 21 13 現実的 -1 1 18 -1 他のタイプより 多い (人) 20 F3.5 F3.6 31 Factor2 因子得点を使い,ユーザーを3つ のタイプにに分類した その結果,大学生のタイプ別ユー ザー数は『現実的』が最も多く, 他の2つは同程度に留まった -2 15 33 -2 願望的 10 12 5 -2 -1 0 1 Factor1 0 現実的 逃避的 願望的 図13:ユーザータイプ別人数 図14:因子得点の散布図 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 15 タイプ別 項目重要度 重視するゲーム要素 因子得点を利用して,ユーザーを3タイプに分類 それぞれ何のゲーム要素を重要視するか,該当調査項目を見,ニーズを考察 重要視する要素 現実的 キャラクター イラスト 逃避的 ストーリー 世界観 願望的 キャラクター ストーリー タイプごとの顧客ニーズ わかりやすい,とっつきやすい 魅力を持つキャラクター 好みに寄らない ストーリーの面白さ 自分好みの キャラクターとストーリー 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 16 タイプ別ニーズ 企業注力度 顧客ニーズとメーカー タイプごとに求められているニーズは,現在どのメーカーが注力しているのか? スライドP5で示した市場シェア上位6社で当てはめた メーカーと本調査ユーザーの特徴 合致 している 顧客ニーズと制作傾向が 近いメーカー アイディアファクトリー 現実的 メーカーが最も多い 大学生ユーザーも最も多い 逃避的 メーカーが2番目に多い コアユーザーが多い コーエーテクモホールディングス コナミデジタルエンタテイメント 願望的 メーカーが1番少ない ユーザー数が少ない ディースリーパブリッシャー ブロッコリー Honey Bee 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 17 まとめ 第1回本調査と分析を終えて 大学生に最も多いのは『現実的』なタイプのユーザー 学業をこなしつつ,息抜きに恋愛SLGをプレイして癒されている人が多い このタイプは『魅力を持つキャラクター』がいるゲームのニーズが高い 市場が全体的に『キャラクター,イラスト,出演声優』に力を入れ, バラエティに富んだキャラクターを作ろうとしている また,個別のメーカーの制作傾向と合致している ユーザーとメーカーの方向性は一致しているように見えるが… メーカーがキャラクター重視のゲームを作るから,それを重 視する『現実的』タイプのユーザーが増えたのか? 『現実的』タイプのユーザーが,キャラクターを重視してい るから,それを重視するゲームをメーカーが作るのか? わからない 『逃避的』『願望的』タイプの数は『現実的』の影響を受けている可能性 があり,正確な数は不詳 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 18 今後の課題 次回の調査に向けて 今回の結果を踏まえたうえで,ゲームイベント会場等で乙女ゲーム ユーザーに実施する調査のアンケート作成を行う.まとめにて課題と なった部分を明らかにしていく 第1回本調査の回答者である大学生たちに追跡調査を行う.その調査 にて、回答者の生活傾向(恋人の有無,恋愛に対する価値観)などを 実生活における項目を調べ,比較していきたい 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 19 参考文献・引用元 主要参考文献 [1] エンターブレイングローバルマーケティング局,「ファミ通ゲーム白書 2012」エンターブレイン, 104-147, 2012 画像引用元 [図1左] コナミデジタルエンタテイメント,『ときめきレストラン』 [図1右] アイディアファクトリー,『AMNESIA』 [図4] ボルテージ,『復讐のキスをあなたに』 [図5] 2IS,『『うたプリ』渋谷に超巨大広告出現「PRINCE SUMMER!」 キャンペーンがスタート』http://www.2is.jp/news/2013/08/29/18535/ (最終閲覧日:2013/10/29) 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 20 Appendix 補足 因子分析プログラム factanal(x = ~ F3.1 + F3.2 + F3.3 + F3.4 + F3.5 + F3.6, factors = 3, method = "mle", data = `otome_data`, scores = TRUE, type = "regression", rotation = "varimax", na.action = na.omit, control = list(iter.max = 20, unique.tol = 0.0001)) 2013年 S-PLUS 学生研究奨励賞 22
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