中国における農家人口の基礎構造と出稼ぎ

未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
中国における農家人口の基礎構造と出稼ぎ
――農家調査の個票データに基づく――
Population, Labor and Migration in Rural China:
An Empirical Analysis Based on Rural Household Survey
やん
厳
しゃんぴん
善平
はじめに
Ⅰ
農家調査および個票データの概要
Ⅱ
農家人口の構造
Ⅲ
農家労働力の就業と収入
まとめ
はじめに
2000 年代以降、沿海部の大都市を中心に農村からの出稼ぎ労働者(以下、
「農民工」と略
称する)の供給が減速し、いわゆる民工荒1の現象が一部で見られている。背景に青壮年を
中心とする内陸農村の余剰労働力がなくなりつつあることが挙げられている(蔡
2007a;2007b)。それと相俟って、沿海都市の最低賃金は年々引き上げられている。上海市
では最低賃金(月給)は 2001 年の 490 元から 07 年の 840 元へと 6 年間で 71%も増えた。
都市部の賃金上昇を根拠に、中国経済はすでに労働力の絶対的過剰から相対的不足への転
換点(turning point を通過し、ルイス的二重構造2から脱出したという指摘もある3。もし
この判断が正しいとすれば、安価で豊富な労働力によって支えられてきた中国経済の高度
成長は今後困難な情勢になるのであろう。
ところが、そうした転換点通過説と異なり、内陸農村には依然として多くの余剰労働力
1
農民工が供給不足であること。2004 年 5 月 19 日に『新華時報』は珠江デルタ、長江デ
ルタで農民工が不足していることを初めて報じ、社会に大きな衝撃を与えた。無制限に供
給できる安価な労働力が不足に転じるかもしれないと思われたからである。同年8月に労
働保障部は農民工の需給に関する実態調査を行ったが、農民工に対する制度差別の深刻化、
それに起因する低賃金、低福祉が供給不足を招いた主因であると結論づけた。それを受け
て、9月9日に『人民日報』は初めて農民工の不足現象を報道した。
2 二重経済論のエッセンスおよびそれを援用した実証分析の名著として南(1970)が挙げら
れる。
3 大塚啓二郎「中国、農村の労働力が枯渇」
『日本経済新聞』2006 年 10 月 9 日。
1
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が存在し、都市部の賃金上昇や一部で見られる農民工の供給不足は農民への制度差別が主
因だとする研究成果も多い。例えば、厳(2006b)は、上海市の農民工および都市民に対する
アンケート調査の分析結果(厳 2006a)を基に、目下の労働力不足は主として都市労働市場
における農民工への就業差別に起因しており、中国経済の二重構造がすでに解消したとい
う指摘に否定的な考えを示した。Meng(2007)は、農村人口の年齢構造、実質賃金の推移、
農村就業者・農民工・都市民の賃金格差について実証的に分析し、戸籍による都市労働市
場の分断は農民工の供給不足をもたらした主因だと主張する。また、丸川(2008)は農業の
生産関数を計測し、労働の限界生産力が農業収入を大きく下回ったことを明らかにし、そ
れを根拠に中国経済がルイス的転換点を迎えたとはいえないと分析する。さらに、厳(2007)
と田島(2008)は、新しい農業政策が実施されてからの中国では、農家の収入が増え続け、
それに伴う労働供給の状況変化が都市労働市場の賃金上昇に強い影響を与えている事実4
を明らかにし、農民工の賃金が上がったことだけではルイス的転換点の議論を行うのは妥
当ではないと論じた。
そうした転換点論争と併行して、農民工の就業と社会保障(鄭・黄 2007)、農民工の都市
への融合(莫ほか 2007、銭・黄 2007)、労働市場の一体化(左・朱・王 2007)、労働の供給
不足と制度欠陥(劉・万 2007;蔡定剣 2007)、等などについても、大規模なアンケート調査は
沿海地域の都市部を中心に継続的に実施されている。それらの調査研究によれば、就業、
社会保障、移住、子どもの学校教育などで、農民工が著しく不利な状況に置かれ、それは
結果的に農村からの労働供給を萎縮させたのだという。農民工の需要サイドに関する基本
状況やその規定要因はいまや解明されつつあるといってよい。
それに較べて、農民工の供給サイドである農村または農家の人口分布や労働力の利用状
況に関する調査は近年少なくなっており、農家労働力の就業や潜在的供給可能性に関する
理解は必ずしも十分ではないように思われる5。1990 年代後半、中国の政府系研究機関か
ら農家調査に基づいた優れた研究成果が幾つか発表された(杜・白編 1998;庾・張編 1999;
張・周編 1999;白・宋編 2002)。日本でも農家固定観察点や農家調査の個票データを利用
した研究が多くあった(南・牧野 1999;馬 2001;田島編 2004;辻井・松田・浅見編 2005)。と
厳(2007)によれば、上海市の最低賃金と全国の1人当たり農家純収入は 2001 年以降ほぼ
同じ伸び率で増えている。
5 農村労働市場の形成、教育と移動、人的資本の収益率等に関する供給サイドの研究成果
が多く出されている。たとえば、Brauw et al.(2005;2006;2008)、Song(2008)、Zhang et
al.(2008)が挙げられる。
4
2
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ころが、転換点論争以降(2004 年以降)、農家調査に基づく類似の研究は皆無に近い6。
筆者は毎年中国農村の現地調査を実施している実感から、農村の労働力が枯渇し、二重
経済がすでに転換点を超えたというような指摘に対して、若干の疑問を感ずる。内陸農村、
地方の町ではやることのない若い人が目に余りほど見られるからである。
農民工の供給源である内陸農村にいったいどれぐらいの余剰労働力が存在しているのか。
余剰でいながら出稼ぎに行かない理由に何があるのか。個人、家族および村・地域の諸要
因がどのように労働力の地域間移動を規定しているのか。いうまでもなく、これらの問題
はいずれも大変難しく、簡単にその回答を得られるわけではない。しかし、農家人口の基
本構造や農家労働力の利用状況をミクロ的に分析することは諸問題への理解を深めるのに
必要不可欠であろう。
上述した問題意識を踏まえて、筆者は 2008 年 2 月に全国各地で「農家の人口および労
働力の利用状況に関する調査」を実施し、657 世帯、2477 人の個票データを集めることが
できた。本稿では同個票データを利用し農家の人口および労働力の利用状況をミクロ的に
分析し、それでもって、農民工の供給サイドの全体像を浮き彫りにする。これが本稿の基
本的目的である。
論文の構成は以下の通りである。第1節では農家調査の実施概要およびデータの信憑性、
代表性について検討する。第 2 節では人口学の視点から農家人口の基本構造(年齢、性別、
教育など)を明らかにする。第3節では農家の就業構造、就業行動および収入の決定要因を
実証的に分析する。最後に本研究で明らかになった事実を整理する。
1.
農家調査および個票データの概要
1.1 調査の目的と方法
広範囲、大規模の農家を調査対象とし、農家における人口構造と労働力の利用実態をミ
クロ的に把握することは本調査の主な目的とされた。2008 年2月の旧正月を故郷で過ごす
ために、一時帰省する JJ 学院の若手教員、他大学の学生等を調査員に、それぞれの故郷で
無作為に抽出される農家に対して対面調査が実施された。
旧正月の期間を選定したのは農家の構成員が出稼ぎ先から戻り、全員の実態がもっとも
6
陳光輝編(2008)は農家調査をベースとした最新の研究成果ではあるが、農家の人口およ
び労働力の利用に関する分析の視点がほとんどない。
3
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把握されやすいと考えたからである。また、調査員が生まれ育ちの故郷で調査を行うこと
でそれぞれが現地の感覚を活かし被調査者の情報を正確に引き出せると期待される。
サンプル数が限られる中、なるべく調査結果から中国農村の全体像が描けるよう内陸と
沿海の各地域から調査地の選定が行われた。
調査項目は農家および所在村落の客観的状況を表す指標に重点を置き、意識に関する設
問が省かれた。すなわち、第 1 部分は調査地(自然村または組)の概況(人口、労働、立地等)、
第 2 部分は農家の住居、農業生産資料と耕地、耐久消費財、そして、第 3 部分は全構成員(戸
籍人口)の属性(年齢、性別、教育等)と 16 歳以上人口の就業や収入等、である。
こうして集められた個票データは同類の調査と同じように、記入ミスや入力ミスも見ら
れるが、全体として多くの貴重な一次情報を確保することができた。また、質問項目の中
身によっては個々のデータの質が異なる。年齢、性別、教育といった設問への解答はほと
んど事実と考えてよかろうが、収入のような指標となると、かなりアバウトにならざるを
得ない。被調査者が意図的に不正確な数字を申告するか、記憶が不確かで誤った数字を言
ってしまう、の両方があると考えられる。年間の就業時間数についてもそういう問題があ
ろう。さらに、調査員の理解不足で被調査者の回答を正しく判断して選択肢をマークでき
ず(たとえば、働く業種の分類)、被調査対象全員を網羅しなかったりすることも考えられ
よう。要するに、個票データを利用するに当たって、論理的にありえない値(年齢や性別と
整合性を有しない回答)、平均値から大きく外れた値(正しい場合もある)を除去し(データ
クリーニング)、個々の指標に対する深い注意を払う必要がある。
1.2 調査地域(県・村・農家)の全体像
調査対象は東部の江蘇省と福建省、中部の安徽省、湖南省、湖北省、江西省と河南省、
西部の内モンゴル自治区(以下、省自治区の表記を省く)と広範囲に及ぶ。第 1 部分の調査
項目につき 64 村組のデータが得られ、
これらの村組の平均像は表 1 に示された通りである。
①対象村組の総世帯数は 2590 戸、1 戸当たりの人口数が 4.2 人となっている。
②農家人口のほぼ5人に1人が県外へ出稼ぎに外出している。これは、国家統計局によ
る全国農家家計調査の平均水準とほとんど同じである。
③1割の農家世帯または1割の農家人口が実際村に住んでいないことはこの調査ではじ
めて分かった。戸籍ベースの農家世帯数が公表されている『中国統計摘要 2008 年』によれ
ば、2007 年末の農家世帯数は 2 億 5223 万戸に上り、改革開放の 30 年間で 45.4%も増えた。
4
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ところが、常時離村し近くの町等に移り住んでいる不在村世帯を考えれば、農家世帯数が
2500 万戸も減少する。これは農地の使用権が農家間で流動し大規模経営が一部で可能とな
っていることを意味するものである。
表1
省区別にみる調査対象村の基本状況
単位:%
1世帯当たり 県外出稼ぎ 大学・短大 不在村人口 不在村世帯 集計対象の 集計対象の
省区
戸籍人口数 者の人口比 生の人口比 の人口比
の世帯比 組・自然村 世帯数・戸
安徽
4.2
24.6
2.4
7.8
9.8
32
829
湖南
4.1
25.8
1.5
3.6
4.5
2
67
湖北
4.4
40.1
2.0
23.2
17.7
6
311
江西
4.2
21.1
1.1
8.0
8.7
19
858
江蘇
3.9
7.5
3.0
4.7
4.7
3
448
内モンゴル
4.7
7.4
0.5
2.2
3.9
2
77
全体平均
4.2
22.1
1.9
9.0
9.2
64
2590
注:河南省、福建省の調査対象が行政村(それぞれ2つの村1560戸、1村1800戸)となっており、数
字が正確さに欠けると判断されたため、集計対象から外された。
④1世帯当たりの戸籍人口数を除けば、各指標の地域間に大きなばらつきが見られる。
たとえば、中部地域の出稼ぎ者が際立って多いこと、内モンゴルにおける現役大学生の人
口比が低いことが挙げられる。全国の大学・短大の在校生数が 2007 年に 1885 万人と総人
口の 1.43%を占めること7を考えると、今回の調査対象地域における高等教育の進学状況
は全国平均より高い水準にあるといえる。
表2 調査対象農家の地域分布および調査地の概況
単位:%
常住人口の 非農業戸籍 都市人口
省区
県市区
世帯数・戸 対象者数・人
構成比
戸籍人口比 人口割合
割合
宿松県
51
187
7.5
81.7
10.9
13.8
安徽省
太湖県
29
64
2.6
88.4
9.1
12.8
含山県
142
489
19.7
91.0
17.6
18.8
河南省
偃師市
19
84
3.4
100.1
10.3
21.3
湖南省
湘陰県
27
97
3.9
94.6
13.4
14.3
仙桃県
24
157
6.3
99.8
14.8
35.2
湖北省
武穴市
23
105
4.2
99.9
18.3
40.9
奉新県
30
116
4.7
96.4
23.0
24.9
永豊県
27
118
4.8
92.3
14.3
15.8
瑞昌市
45
190
7.7
95.4
20.1
33.2
江西省
万年県
30
128
5.2
92.0
15.9
14.5
撫順臨川区
26
101
4.1
97.2
28.3
35.1
萍郷湘東区
25
97
3.9
90.4
19.9
35.8
22
62
2.5
118.7
47.8
72.1
九江庐山区
新沂県
5
15
0.6
101.6
19.9
29.6
江蘇省
靖江市
51
189
7.6
96.5
31.0
39.5
内モンゴル 翁牛特旗
30
74
3.0
94.0
9.9
11.8
福建省 福清市
50
204
8.2
97.9
12.8
32.0
合計
657
2477
100
96.0
n.a.
28.4
出所:国家統計局ほか編『2000年人口普査分県資料』中国統計出版社、「2008年農家人口と労働力利用状況
調査」。
『中国統計摘要 2008 年』による。以下、全国に関するデータの出所が明記されない場
合、すべてが同資料に基づくことを断っておく。
7
5
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他方、調査対象農家の分布および所在地域の基本的社会経済状況について表2に基づい
て述べる。この調査では 657 戸の有効サンプルが得られ、その総人口数が 2477 人に上る。
これらのサンプルは 8 省区の 17 県市に分布するが、安徽の含山県、江蘇の靖江市、福建
の福清市では村組のほぼ全農家を対象に調査が行われたのに対して、他では調査員の判断
で実家またはその周辺の村組からそれぞれ数戸ないし十数戸を無作為に抽出して調査が実
施された。統計学的手法による厳密なサンプリングではないものの、広範囲、大標本、無
作為という原則が貫かれたので、調査データから得られる情報の代表性およびそれに基づ
く分析結果の有意性は基本的に保障されると考える。
調査地の概況について常住人口8の戸籍人口比などでみると、以下の特徴が指摘できよう。
①調査対象県市のほとんどが出稼ぎ者を送り出している人口の純移出地である。たとえば、
2000 年に安徽の3県市のいずれにおいても1〜2割程度の人は県外へ6ヵ月以上離れて
いる。②経済発展水準と関係する都市人口および非農業戸籍人口の割合は地域によって大
きく異なり、これらの指標の値が高いほど、県外へ移出する人の割合が低下する傾向にあ
る(それぞれの相関係数が−0.81、−0.71)。③2000 年における全国平均の非農業人口およ
び都市人口の割合はそれぞれ 25.4%、36.2%にも達するが、調査対象県市のそれらは全体
として低い。今回の対象地域は経済発展の遅れた農村的中国であるといってよい。
2.
農家人口の構造
中国農村の全体像については、人口センサスや国家統計局による全国家計調査の集計資
料から把握することができるので、ここでは、個票データの特性を生かして集計資料では
分からない側面について分析する。
2.1 人口ピラミッドと従属人口
前述したように、人口センサスでは常住人口に対する登録が行われる。そのため、農村
部の戸籍人口がどのような年齢分布をしているかについては必ず明白ではない。2005 年全
8
人口センサスでは、戸籍登録地から半年以上離れて他地域に住んでいるかを基準に人口
登録が行われる。戸籍がありながら、もし他の地域に半年以上移住していれば、戸籍の所
在地ではなく現に居住する地域で登録が行われる。したがって、各地域では戸籍人口と常
住人口が一致しない。前者が多ければ、当該地域は人口の純移出地となり、逆であれば、
純移入地になる。
6
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国 1%人口抽出調査によれば、農村人口の年齢階層別分布(人口ピラミッド)は図1a のよう
になる。20〜34 歳人口の全体比は男女を問わず著しく低い。これは青壮年人口の多くが常
時農村から離れ、都市部へ出稼ぎに行っているためである。
戸籍人口をベースに見る人口ピラミッドはどうなるか。657 戸の戸籍人口 2477 人を対象
に描いた人口ピラミッドは図1b であり、2007 年に出稼ぎ等で半年以上離村していた者を
除いた場合のそれが図1c である。
本来、図1c の形状は図1a に近いものと期待されたが、
かなり異なっている。標本の数が足りないためか、代表性そのものに問題があるかについ
て課題は残るが、戸籍人口と常住人口の年齢分布がここまで異なるということは驚くべき
事実である。
図1a 全国農村の人口ピラミッド(2005)
100+
95-99
90-94
85-89
80-84
75-79
70-74
65-69
60-64
55-59
50-54
45-49
40-44
35-39
30-34
25-29
20-24
15-19
10-14
5-9
0-4
男性
6
4
図1b 調査対象農家の人口ピラミッド(2008)
男性
女性
2
0
(%)
2
4
図1c 調査対象農家の在村人口ピラミッド
(2008)
女性
80+
75-79
70-74
65-69
60-64
55-59
50-54
45-49
40-44
35-39
30-34
25-29
20-24
15-19
10-14
5-9
0-4
6
150
100
50
0
(人)
50
100
150
120
80
40
0
(人)
40
80
120
注:全国農村は2005年1%人口調査の常住人口、調査対象農家は戸籍人口である。
表3 調査地域における従属人口比率および世帯員数
単位:%、人
年少従属人口 従属人口 高齢従属人口 世帯員数① 世帯員数②
安徽省
17.3
26.5
9.2
3.47
3.89
河南省
10.1
21.7
11.6
4.42
3.95
湖南省
26.0
32.9
6.8
3.59
3.67
湖北省
11.9
19.6
7.8
4.60
3.93
江西省
23.5
32.3
8.8
3.96
4.15
江蘇省
11.3
36.0
24.7
3.71
3.34
内モンゴル
14.5
34.5
20.0
2.47
3.82
福建省
55.8
58.1
2.3
4.08
3.91
20.8
30.8
10.0
3.77
調査地域①
調査地域②
32.0
47.0
15.0
全国農村
34.1
55.5
21.3
3.76
全国
29.0
48.3
19.3
注:(1)各省区および調査地域①は戸籍人口、調査地域②および全国農村(2005年)は
戸籍登録地から半年以上離れた者を除いた常住人口をベースとしている。(2)従属人口
割合はそれぞれ14歳以下、65歳以上人口の対15-64歳人口比である。(3)世帯員数②
は2006年の農村人口を農家戸数で割ったものである。(4)空欄は非該当。
出所:国家統計局『全国2005年1%人口抽様調査資料』、中国農業信息網「全国農村
統計摘要」より。
調査対象農家の代表性について表 3 に示された本調査と全世帯の平均的世帯員数(農村
7
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人口数を世帯数で割った戸籍人口ベースのものであり、家計調査の常住人口と異なる)の比
較を通して検討してみたい。まず、1世帯当たり世帯員数は本調査では 3.77 人であり、全
国農村平均の 3.76 人とほぼ同じである。次に地域別では本調査と当該地域全世帯の平均に
若干の相違がみられるものの、内モンゴルを除く他の地域ではその違いが大きなものでは
ない。したがって、調査対象農家が著しく偏った特性をもつものではないことが裏付けら
れる。
14 歳以下または 65 歳以上の従属人口の基本状況からも対象農家の代表性を見てみたい。
人口学では、14 歳以下は年少従属人口、65 歳以上は高齢従属人口、15〜64 歳は生産年齢
人口と呼ばれ、年少および高齢従属人口の生産年齢人口比が社会扶養係数と定義される。
表 3 のように、調査対象農家では戸籍ベースの従属人口比が全体として 30.8%(年少 20.8%、
高齢 10.0%)しかなく、全国平均より著しく低い。地域別に見てもほとんどが同じ傾向に
ある。ところが、常時離村している出稼ぎ者等を除いた調査地域②を見ると、従属人口比
は 47.0%に上昇し、全国農村の同指標の 55.5%に近づく。とくに、年少従属人口比に関し
ては調査対象地域と全国農村はほぼ同じレベルである。比較的低いのは高齢従属人口の生
産年齢人口比だけである。こうしてみると、本調査では 65 歳以上人口が十分把握されな
かった可能性がある。ただし、本研究の主題である労働力の利用状況との関連からして、
高齢従属人口に関する情報の不完全さが課題解明に及ぼす影響は限定的であろう。
2.2 農家人口の属性(教育、性別、戸籍、政治的身分)
以上の分析結果を受けて、ここでは調査対象の農家人口のもつ属性を考察し、それでも
って中国農村人口の全体的イメージを描いてみる。
2.21 農家人口の教育
第1に、農家人口の教育状況について 16 歳以上非在校生を中心に検討する。表 4 にある
ように、該当者数 1881 人の平均教育年数9は 7.5 年となっておるが、年齢階層別では大き
な格差が見られる。若い世代ほど平均教育年数が長くなる傾向にあり、20 歳代以下の9割
以上は中卒以上の教育を受けたことになっている。これは改革開放以来教育事業が飛躍的
発展を遂げたことを意味するだけでなく、農村労働力の素質が大きく向上し、それによっ
て高度経済成長が実現されたということもできよう。
調査では最終学歴を答えてもらったので、それを以下の基準で年数換算した。未就学 0、
小学 6、中学 9、高校・中専 12、大専以上 15。
9
8
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第2に、16 歳以上在校生の教育を見る。同表のように、高校以上が圧倒的多数を占め、
平均教育年数は 12.3 年に達する。大学教育が近年大衆化の段階に入ったことは農家調査の
結果からも窺われる。それとは対照的に、義務教育の年齢(7〜15 歳)でありながら「非在
校生」と答えた人は 13 人いて、同年齢人口 269 人の 5.1%を占める。
表4 年齢階層別教育水準別構成
0-9歳
16歳未
10-15歳
満
小計
16-19歳
20-29歳
16歳以 30-39歳
上非在 40-49歳
校生
50-59歳
60歳以上
小計
16歳以 16-19歳
上在校 20-29歳
生
小計
小学以下
98.8
53.1
66.7
8.8
15.9
31.9
46.9
61.4
85.2
41.7
1.8
0.0
1.3
単位:%、人、年
中学 高校以上 合計人数 平均教育年数
1.2
0.0
82
2.3
42.3
4.6
194
7.2
30.1
3.3
276
4.7
72.5
18.7
91
9.2
56.7
27.4
383
9.4
56.8
11.3
461
8.0
39.3
13.8
392
7.4
29.6
9.0
365
5.9
12.2
2.6
189
4.3
44.1
14.1
1881
7.5
20.2
78.1
114
11.6
4.9
95.1
41
14.4
16.1
82.6
155
12.3
第3に、農家人口の平均教育年数を地域別にみると、図 2 が示すような結果が得られる。
内モンゴルと河南を除く各調査対象地域では、16 歳以上在校生または 16 歳未満人口の平
均教育年数はほぼ同じ水準にあるのに対して、16 歳以上非在校人口のそれが沿海で長く、
内陸で短いという傾向が見て取れる。
図2 地域別平均教育年数
(年)
16
14
12
10
8
6
4
16歳未満
2
16歳以上非在校生
16歳以上在校生
0
内蒙
湖北
安徽
江西
湖南
江蘇
福建
河南
全体
第4に、農家人口の教育に地域的特性があるだけでなく、世帯主やその配偶者など世帯
員間にも有意な相関関係が見出される。表 5 には 16 歳以上人口を世帯主を基準とした配
9
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
偶者とその子女、さらに全員の平均教育年数の相関係数が示されているが、興味深い特徴
として3つの点が挙げられる。①夫婦間の教育水準はある程度の相関関係を有するものの、
強いものではない。②親と子の教育年数の相関度も低いが、子女に対する夫婦間の相関関
係を媒介した間接効果を考慮すると、世帯主と配偶者の子女との相関係数はそれぞれ
0.405、0.391 に上昇する10。しかし、③16〜59 歳全員の平均教育年数は世帯主または配偶
者、子女平均とも強い相関関係をもつ。
表5
16歳以上人口教育年数のPearson相関係数
世帯主
配偶者
子女平均
全員
世帯主
1
613
378
636
配偶者
0.449
1
360
602
子女平均
0.288
0.262
1
378
全員平均
0.632
0.644
0.672
1
注:(1)右上と左下はそれぞれケース(人)と相関係数。(2)す
べての相関係数は1%水準で有意 (両側) である。
以上の3点から何が言えるのだろうか。従来、世代間における教育の継承が多く、教育
を媒介する形での階層固定化が問題視される。高い学歴の所持者同士が結婚し、その間に
生まれる子もまた高い教育を受ける傾向があるからである。しかし、今の中国農村ではそ
うした関係は顕著でない。つまり、子女の教育は親の学歴から強い影響を受けず、逆に子
女の教育水準の向上によって世帯員全体の教育水準が向上したのである。背景には現段階
の学校教育が義務教育を中心としており、制度上、子供が親の学歴や経済的状況に関係な
く就学できるという事実がある。
2.22
農家人口の性比・政治的身分等
まず対象農家人口の性比(女性を 100 とする男性比)をみる。中国では人口の性比が高く、
特に農村人口のそれが異常に高いのはかねてから指摘されている問題である。1人っ子政
策による出産制限の下、多くの人は男子に対する偏向意識をもち、生育過程で性別に対す
る選別を行う(これはもちろん違法行為だが)ケースもある。2005 年全国 1%人口抽出調査
によれば、全人口および農村人口(常住)の性比はそれぞれ 102.2、103.4 であるが、29 歳
以下では 105.9、108.9 に高まる。
本調査でも、このような性比のアンバランスが観測される。全対象人口 2470 人の性比
は 118 と高く、「子女」の身分でいる 922 人のそれは 170 人と異様な高さである。なかで
も、10 歳代前半および 20 歳代の性比が際立つ(200 超。図 3)。これは中国農村の全体像を
世帯主と子女は 0.288+0.449*0.262=0.405、配偶者と子女は 0.262+0.449*0.288=0.391、
という計算だ。前者は直接効果、後者は間接効果である。
10
10
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
表すものかどうか、若干疑念は残る。もしこれこそが本当の姿としたら、大変な問題は近
い将来起こるだろうと予想される。
図3 「子女」の性別年齢階層別分布
50-54歳
男性
女性
45-49歳
40-44歳
35-39歳
30-34歳
25-29歳
20-24歳
15-19歳
10-14歳
5-9歳
0-4歳
-150
-100
-50
0
50
100
150
次に、農家人口の政治的身分と戸籍について考える。本調査では、共産党員数が 61
人、非農業戸籍者が 83 人いるが、それぞれが全人口の 2.5%、3.4%しかない(図 4)。年
齢階層別では 20 歳代人口の非農業戸籍者は 9.2%にも上る。大学等の進学で戸籍転換を
果たした者はこの年齢層に集中したからであろう。また、共産党員の割合は 40 歳代以
下では低く、50 歳代以上の半分程度に過ぎない。市場経済化が進み、若い人たちが出稼
ぎのため常時農村から離れていることも影響して、農村地域における新しい共産党員の
育成が難しくなっているのではないかと思われる。
図4 年齢階層別にみる共産党員、非農業戸籍者の割合
(%)
10
非農業戸籍
8
6
9.2
共産党員
10-19歳
20-29歳
40-49歳
50-59歳
3.4
2.5
0-9歳
2.1
3.7
1.5
3.1
30-39歳
0
1.1
2.6
2.6
2.1
2.6
2
3.0
5.7
4
60歳以上
合計
11
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
2.3 世帯規模と家族関係
本調査では、生計が一緒になっている世帯員から構成される世帯をひとつの単位として登記さ
れた。したがって、子供をもっていても独立して暮らす老夫婦のような場合、子女に関する情報が
調査票には反映されない。
表 6 は世帯員数別の世帯数およびその構成比を示している。前出の通り、中国農村の世帯規
模は平均で 3.77 人と小さい。3〜5 人の世帯が全体の 8 割近くを占めるのに対して、6 人以上の
大家族も2人以下の小家族もその割合が低い。その結果、親子二世代のいわゆる核家族は全世
帯の 68.6%を占め、三世代家族の 19.0%をはるかに上回っている(アンケートの集計結果)。
表6 世帯員数別戸数および構成比
世帯員数 世帯数・戸 構成比・%
1人世帯
11
1.7
2人世帯
73
11.1
3人世帯
188
28.7
4人世帯
236
36.0
5人世帯
100
15.2
6人世帯
32
4.9
7人世帯
9
1.4
8人世帯
7
1.1
合計
656
100
農家世帯の中に世帯主を基準とした世帯員間の関係について表 7 の構成比から分かる。
全人口に占める世帯主および配偶者の割合は 51.9%、その子女の同比は 37.4%、ほかの地
位にいる世帯員は合わせて 1 割弱と少ない。子女の割合が比較的高かったのは一組の夫婦
で1人以上の子供が生まれたためであろう。実際、世帯主が 20〜30 歳代、40〜50 歳代で
ある世帯において子女の人数はそれぞれ 1.5 人、1.7 人となっている。農村部では 1 人っ
子政策が柔軟に執行されていることはこの調査結果によって裏付けられる。
表7 世帯主から見る世帯員の所在地分布
単位:%
在村者
不在村者
合計・人
構成比
世帯主
65.0
35.0
666
26.9
配偶者
77.7
22.3
620
25.0
子女
72.1
27.9
927
37.4
孫
93.6
6.4
110
4.4
父母
100.0
0.0
74
3.0
祖父母
100.0
0.0
1
0.0
その他
64.9
36.4
77
3.1
全体
73.1
26.9
2476
100
注:出稼ぎで県外へ6カ月以上外出した者を不在村者とし、残りを
在村者とした。
ところが、上述の世帯規模も家族関係も戸籍人口に基づいており、出稼ぎで常時離村し
ている人は考慮されていない。ここでは、6カ月以上留守となっていた人を不在村者とす
12
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
ると、全人口のほぼ4人に1人11、世帯主の 35%もが村で暮らしていないことになる。
2.4 出稼ぎの有無に基づく世帯の類型化
世帯主など農家の青壮年を中心に4分の1もの者は常時田舎の実家を留守としているが、
この人達はどのような形で出稼ぎに出かけ、それぞれがどのような世帯に属しているのか。
この2点について表 8 に基づいて説明する。まず出稼ぎ世帯の類型を見る。調査対象農家
の 56.4%に当たる 370 戸から何らかの形で出稼ぎ者が出されている。具体的にいうと、1
割強の農家は全員出稼ぎに外出し、現役の出稼ぎ者だけがいる世帯が 38.7%、現役と出稼
ぎ経験者のいる世帯が 6.7%となっている。反対に、出稼ぎ経験者はいるが、現役出稼ぎ
者のいない世帯が 68 戸(全世帯の 10.4%)、両方のいない世帯は 218 戸(同 33.2%)である。
次に出稼ぎ者の組み合わせによる世帯の類型をみる。子女だけの出稼ぎ世帯は最も多く、
全対象農家の2割強に当たる 140 戸に上る。それに次ぐものは夫婦だけの出稼ぎ世帯、世
帯主だけの出稼ぎ世帯となっている。つまり、夫婦両方またはどちらかが留守となってい
る世帯は調査対象農家の 45%にも達する。
表8 出稼ぎ労働者の有無等による世帯の類型化および当該者数
世帯数・戸 構成比・% 該当者数・人
出稼ぎ歴なしの非出稼ぎ世帯
218
33.2
出稼ぎ歴ありの非出稼ぎ世帯
68
10.4
一部が現役出稼ぎ者の世帯
254
38.7
415
44
6.7
64
出稼ぎ経験者と現役が併存の世帯
全員が現役出稼ぎ者の世帯
73
11.1
158
合計
657
100
637
非出稼ぎ世帯
286
43.5
世帯主だけの出稼ぎ世帯
82
12.5
82
配偶者だけの出稼ぎ世帯
9
1.4
9
夫婦だけの出稼ぎ世帯
95
14.5
190
夫婦と子女の出稼ぎ世帯
28
4.3
92
配偶者と子女の出稼ぎ世帯
16
2.4
43
子女だけの出稼ぎ世帯
140
21.3
221
合計
656
100
637
3.
農家労働力の就業と収入
中国の人口センサスでは 15 歳以上人口の就業に関する調査項目が設けられるが、労働契
約法では 16 歳以上人口が労働力とされている。本調査では労働法の規定に従って、16 歳
以上世帯員の就業およびそれに関わる事柄について調査した。本節の主な目的は農家労働
力の利用状況(就業期間、業種、出稼ぎ歴の有無、収入等)を明らかにすることである。
11
この結果は国家統計局の全国農家家計調査に基づいた推計値に近い。
13
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
3.1 調査対象農家の出稼ぎ状況
表 9 は省区別にみた農家人口の出稼ぎ状況に関する調査結果である。出稼ぎ先が明記さ
れた 16 歳以上の現役出稼ぎ者は 635 人と全体の 25.6%を占める。この数字は国家統計局
の全国家計調査に基づいた推計値とほぼ同じである(厳 2007)が、地域別では大きな相違が
みられる。出稼ぎ者の主な移出地としての安徽、湖南、湖北と江西が高い。
表9
地域別農家人口の出稼ぎ状況
単位:人、%
16歳以上の在村人口 16歳未満 16歳以上
合計
現役出稼
人口
出稼ぎ歴なし 出稼ぎ歴あり
ぎ者
合計人数
1249
155
437
635
2476
構成比
50.4
6.3
17.6
25.6
100
安徽
48.4
4.7
16.4
30.5
100
河南
84.5
0.0
8.3
7.1
100
湖南
41.2
9.3
20.6
28.9
100
湖北
46.2
6.1
11.8
35.9
100
江西
46.6
8.3
19.1
26.0
100
江蘇
76.5
8.3
10.3
4.9
100
77.0
33.3
内モンゴル
福建
4.1
3.9
12.2
35.8
6.8
27.0
100
100
また、16 歳以上在村人口のうち、圧倒的多数は出稼ぎの経験をもっていないが、経験者
も少なからずにいる。どういう理由で出稼ぎを辞めて帰郷したかについて調査では聞いて
みたが、男女間で有意な差異が検出されず、結婚、出産、親の介護などいくつかの選択肢
を用意したが、明確な傾向が観測されなかった。
どのような属性をもつ者は出稼ぎに行っているか。まず年齢階層別在村者、不在村者の
分布を示す図 5 をみよう。明らかなように、出稼ぎで留守となっている不在村者のほとん
どが 15〜54 歳に集中している。そのため、在村者のこの年齢層の形が大きく凹んでいる。
図5 在村者、出稼ぎ者の年齢階層別分布
80歳+
75-79歳
70-74歳
65-69歳
60-64歳
55-59歳
50-54歳
45-49歳
40-44歳
35-39歳
30-34歳
25-29歳
20-24歳
15-19歳
10-14歳
5-9歳
0-4歳
200
在村者
150
不在村者
100
50
0
50
100
150
注:2007年中、半年以上県外へ出稼ぎに行っていた者を不在村者とした
16 歳以上人口を現役出稼ぎ者、出稼ぎ経験なし、出稼ぎ経験者ありの地元就業者に分け
14
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
てその構成比を求めると、図 6 のような結果が得られる。20 歳代、30 歳代のおよそ半分が
半年以上離村して出稼ぎに行っている。性別では男性の出稼ぎ者比が全体平均より高く、
未婚者の同比も既婚者より高い。教育水準別で見ると、中学のそれは最も高く4割超に達
する。それに対して、高校以上は全体平均より 10 ポイント、中学の半分程度に過ぎない。
教育水準が高いからといって、必ずしも出稼ぎへの傾向が強いわけでもないようだ。この
事実は先行研究で指摘されたことと整合する(Zhao1997)。
表10 16歳以上人口の出稼ぎ状況と年齢・教育
全体
出稼ぎ経験ない地元就業者
46.1
出稼ぎ経験ある地元就業者
37.2
年齢
現役の出稼ぎ者
32.1
全体
40.7
出稼ぎ経験ない地元就業者
7.0
出稼ぎ経験ある地元就業者
7.9
教育年数
現役の出稼ぎ者
8.2
全体
7.5
60-64歳
55-59歳
50-54歳
45-49歳
40-44歳
35-39歳
30-34歳
25-29歳
20-24歳
中学
小学以下
未婚
既婚
女性
男性
全体
0
0.0
10
65歳以上
8.3
経験者
2.3
)
20
4.7
53.3
50.7
22.4
16-19歳
現役出稼ぎ者
29.9
24.3
高校以上
41.1
22.1
36.6
24.8
30
29.5
25.7
(
%
36.0
40
31.1
50
46.5
60
54.6
図6 16歳以上人口の属性別出稼ぎ状況(割合)
単位:歳、年
男性
47.3
38.6
33.0
40.8
8.0
8.4
8.9
8.3
女性
45.2
34.4
30.6
40.6
6.1
6.8
7.2
6.5
出稼ぎと年齢、教育の関係をもう少し詳しくみたのは表 10 である。16 歳以上人口の平
均年齢は 40.7 歳であり、男女間には有意な差が存在しない。ところが、出稼ぎ経験のない
地元就業者、出稼ぎ経験のある地元就業者および現役出稼ぎ者の平均年齢に大きな差が見
られ、現役出稼ぎ者が若く、経験者がそれに次ぐが、経験のない地元就業者の平均年齢が
最も高いという事実が確認できる。性別では女性はより若い年齢層に出稼ぎ者が集中し、
彼女達はまた男性より4年程早く出稼ぎを止めて帰郷している。
教育と出稼ぎの関係については出稼ぎ者とそうでない者との間には明確な教育格差が見
られない。この点は前述した高校以上人口の出稼ぎ者比と関係しよう。農村社会では、学
15
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
歴の高い人々は往々にして村の幹部や教師、医者であり、商売などを営む自営業者である。
その意味で表 10 は当然の結果といえよう。
初めて出稼ぎに外出したのはいつなのか。ここでは出稼ぎから帰郷している経験者も含
めて、各時期に何人が出稼ぎに外出したか、外出した際の教育年数、年齢および卒業して
からの経過年数について集計してみた12。表 11 はその結果である。
表11
初めて出稼ぎに外出した時期別の人数、教育と年齢
単位:人、年、歳
人数
教育年数 教育変動係数 平均年齢 年齢変動係数 卒業経過年数
1990年以前
60
7.2
0.495
21.2
0.296
8.6
1991‑95年
103
7.6
0.409
22.3
0.243
8.7
1996‑00年
258
8.1
0.352
23.8
0.338
9.9
2001年以降
344
8.6
0.369
25.5
0.417
11.0
注:①年齢は調査時年齢−初めて外出してからの経過年数、②卒業経過年数は卒業し
てからの年数。
まず該当者 765 人の外出時期別分布を見ると、78.7%もの者が 1990 年代後半以降県外へ
の出稼ぎを始めたことが分かる。これは人口センサスなど全国調査で捉えられた人口移動
の姿と重なる(厳 2004)。
第2に、外出した人の教育年数は時間の経過とともに長くなっている。これは予想通り
の結果であるが、教育年数のばらつきを表す変動係数によると、1990 年代後半以降では教
育水準の平準化が進んでいることがわかる。これは前出の中国における義務教育の普及と
も関係する結果であろう。
第3に、外出した際の年齢が徐々に高まり、出稼ぎ者同士の年齢差も増大している(変動
係数をみよ)。これは出稼ぎ者のうち、中高の新規卒者だけでなく、学校を出てから地元の
農業または郷鎮企業でいったん就職した後、再び県外への出稼ぎに転換した人が増えてい
ることを意味する。中高を卒業して何年間経過してから出稼ぎに行ったかに関する集計結
果からもこの判断が支持される。すなわち、1990 年代前半までの人は学校を出て平均 8.6
年経過して県外への出稼ぎに転換したのに対して、90 年代後半、2001 年以降はそれぞれ
9.9 年、11.0 年に伸びた。農村部では労働力の供給制約が次第に強まり、出稼ぎ予備軍の
主体は新規学卒の若い人から農業などの就業体験をもった人へ変わりつつあるということ
ができよう。そうだとすれば、先行研究で指摘される農村労働力の枯渇問題、あるいはル
イス的転換点に関する議論に一定の合理性があると思われる。
12
初めて出稼ぎに外出した際の年齢は調査時年齢−(2008 年−初出年次)、卒業後経過年数
は(初出時年齢−教育年数−7)、で算出された。
16
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
3.2 農家労働力の利用状況
ところで、農村労働力の供給制約や枯渇について総数に関する分析だけでは不十分であ
ろう。就業率(全人口に占める就業者比率)や就業状態(年間の就業日数)を細かく検討する
必要もある。
まず、年齢階層別、性別の就業率を見てみよう。図 7 には就業状況に関する回答(就業中
か否か)をしなかった者を未就業者または非労働力人口として各年齢層の総人口に入れる
場合と除外される場合の就業率が描かれている。前者だと、男女の就業率はそれぞれ8割、
7割程度だが、除かれる場合の9割強、8割強より 10 ポイント以上低い。
異なる年齢層に比較的大きな就業率格差が見て取れ、10 歳代後半のそれはすべての場合
に際立って低い。これは労働供給の潜在的可能性が依然高いことを示唆している。60 歳代
以上を非労働力人口と看做すなら、就業率は 8 割弱にも達するが、この人達を労働力人口
として考えれば、就業率は4割弱に低下する。仮にそのうちの半分位が農業などに従事す
るならば、これも労働供給の潜在的可能性の増大に寄与しよう。
いずれにせよ、就業率でみる農村労働力の供給可能性は依然大きく、供給源がすでに枯
渇しているという指摘は客観的根拠を欠いているということである。
図7 年齢階層別、性別就業率
(%)
た。 100
90
80
70
60
50
40
30
20
93.4
84.9
81.3
68.7
男性b
女性b
男性a
女性a
16-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60歳以上
合計
注:(1)就業率とは就業者数を人口数で割ったもの。(2)aは16歳以上の非在校者で、
就業に関する回答をしなかった者を非就業者とした場合の集計結果、bは就業に関
する回答を行った者のみ(分母から未回答者を除く)の集計結果、を表す。
次に、年間の就業時間を性別、年齢階層別に見ると、図 8 のようになる。16 歳以上就業
者の平均就業時間は 9.3 カ月だが、男性は女性より 1.3 カ月多く就業している。年齢階層
別では 30 歳代と 40 歳代の年間就業時間はおよそ 10 カ月と最も長く、一番短いのは 10
歳代後半の若者である。要するに、農家労働力は全体として十分な就業状態に達しておら
ず、若い人を中心に労働力の余剰が存在するといえる。もちろん、これは既存の技術体系
17
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
下の結果であり、農業機械の導入が進めば、より多くの余剰労働力があぶり出されるのは
いうまでもない。
図8 年齢階層別、性別、就業形態別年間就業時間
(カ月)
12
非農業
農業
1.0
9
2.2
3.0
1.2
2.4
2.8
4.5
6
1.2
5.9
9.0
7.8
3
7.0
5.3
6.9
7.7
5.8
4.7
2.6
0
16-19歳
20-29歳
30-39歳
40-49歳
50-59歳
60歳以上
全体
男性
女性
最後に、男女別、年齢階層別の就業内容に関する主な特徴を指摘する。①農家労働力が
農業に利用されているのは全体の4分の1強に過ぎない。これは頭人数で統計される農村
労働力の第1次産業就業者比率 39.1%13よりはるかに低い。②男性の就業時間は女性のそ
れより長いが、そのうちの農業就業時間が反対に短い。③加齢するとともに、総就業時間
は徐々に減少するものの、そのうちの農業就業時間が逆に長くなる。60 歳代以上の就業者
が農業で働く時間は非農業の2倍強に上る。④年齢階層別に男女の農業就業時間をみると、
大きな格差が存在することが分かる(図 9)。全体では年間農業就業時間は 2.4 カ月しかない
のに、女性は男性より 0.6 カ月多く農業に従事していた。50 歳代、60 歳代以上では女性
の方は 1.5〜1.7 カ月も多く就農している。言い換えれば、今の中国農村では、農業は主と
して 50 歳代以上の女性労働力によって担われているということである。
図9 年間農業就業時間の男女差(女性-男性)
(ヵ月)
2
1.7
1.5
1.5
0.9
1
0.6
0.4
0.5
0.1
0
-0.4
-0.5
16-19歳
13
20-29歳
30-39歳
40-49歳
50-59歳
60歳以上
合計
2006 年全国農村固定観察点の農家調査に基づく(農業部『農業発展報告 2007 年』)。
18
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
3.3 出稼ぎ行動の規定要因
1990 年代後半の中国では、農村から都市への人口・労働移動はほぼ自由化している。戸
籍制度による職業選択・移住の制限、子女の就学などで依然多くの難問は残っているもの
の、個々の農家およびその構成員は限られる労働力資源を地元就業と出稼ぎに配分し所得
の増大等を追及していると考えられる。本項では、農家労働力の出稼ぎ行動について個人
単位と世帯単位のそれぞれについて実証的に分析する。
3.31 個人単位でみる出稼ぎ行動の規定要因
多くの先行研究で明らかにされたように、出稼ぎという行動はすべての人にとって等し
い確率で発生するものではない。地域間労働移動に関する経済理論の考えによれば、移動
と個人の属性の関係は以下のようにまとめられる(厳 2005)。
①都市部や先進地域に移動し高い収入を獲る一方、故郷を離れて未知の生活環境に適応
し、慣れない仕事に就くことは、移動者にとって物理的な交通費負担だけでなく、精神的
苦痛(家族と離別しての生活)に伴う大きな精神的負担も発生する。
②出稼ぎ移動からの期待収入も移動しなかった場合の収入との格差も個人の属性によっ
て異なる。普通、若い年齢層ほど、教育水準の高い階層ほど、彼らが都市生活に適応しや
すく、新しい仕事のノウハウを習得するのも速い。他方、移動してから退職するまでの期
間は若い人ほど長く、精神的苦痛に由来する負担も少ないはずだ。その結果、生涯期待収
入および移動しなかった場合との生涯収入格差は若年層ほど大きい。言い換えれば、加齢
と出稼ぎ行動の間に負の相関関係が存在するのである。
③性別、婚姻状況のほかに、共産党員かどうか、非農業戸籍かといった中国固有の要因
も出稼ぎ行動に影響を及ぼすだろう(厳 2004;2006)。ただし、それぞれが出稼ぎ行動にど
のような効果をもたらすかは必ずしも明確な方向性を有しない。
表 12 は 16 歳以上農家世帯員の出稼ぎ行動を規定する要因についての分析結果であり、
対象農家全体およびサンプルの比較的多い安徽、江西の 3 つが示されている。被説明変数
は 2007 年中出稼ぎに行った者が1、他が0としたものであり、回帰分析は Logistic モデ
ルで行われた。同表より興味深い事実が指摘される。
第1に、年齢およびその2乗の回帰係数 B はいずれも 1%の水準で有意であるが、それ
ぞれの符号から以下のようなことが言えよう。つまり、若年層においては加齢すると共に、
出稼ぎに行くことの確率は出稼ぎに行かないことの確率より高い(Exp(B)は両者の比であ
り、オッズ比と呼ばれる)。しかし、一定の年齢を超えると、その関係が逆転する。加齢と
19
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
出稼ぎ行動の関係が年齢層によって異なるというわけである。
表12 農家世帯員の出稼ぎ行動の規定要因(Logisticモデル、現役出稼ぎ者=1)
Exp(B)・安徽 Exp(B)・江西
回帰係数(B) Exp(B)・全体
年齢(調査時)
0.209
1.233 ***
1.238 **
1.286 ***
年齢2乗/100
-0.400
0.671 ***
0.649 ***
0.645 ***
教育年数
0.033
1.034
1.304 ***
0.921
教育年数2乗/10
-0.084
0.920 **
0.850 **
0.952
性別ダミー(男性=1)
0.782
2.185 ***
1.573 **
1.586 **
婚姻ダミー(既婚=1)
-0.345
0.708 *
1.461
0.423 ***
戸籍ダミー(農業=1)
0.127
1.135
0.472
5.257 **
政治ダミー(党員=1)
0.108
1.114
0.177 *
2.557
Nagelkerke R^2
0.241
0.390
0.311
観測数
1874
556
610
注:(1)***、**、*、+はそれぞれ1%、5%、10%、15%の有意水準を示す。
(2)16歳以上の非在校者を対象とした計測の結果である。
第2に、他の条件が同じである場合に、女性に比べて男性の出稼ぎに行く確率は 1.182
倍高い。既婚者と未婚者の出稼ぎに行く確率のオッズ比が 0.670 と低い。既婚者が出稼ぎ
に行きにくいことは改めて実証された形である。ところが、非農業戸籍の出稼ぎ行動に対
する影響はプラスであるものの、顕著ではなかった。彼らは地元でも比較的高い収入を得
ており、就業環境のよくない都市部等にあえて出かけていく必要が低いと考えられる。
第3に、教育の出稼ぎに対する影響については、全体とサンプルの比較的多い安徽、江
西とでは若干異なる結果が得られる。全体では教育年数が長いほど、出稼ぎへのプラス効
果があるものの統計的有意性が低い。それに対して、教育年数2乗の回帰係数は有意でマ
イナスとなっている。これは一定の教育年数以上の高学歴者が出稼ぎに行きたがらないこ
とを物語る。こうした現象は安徽の調査村では特に顕著である。普通、高い教育を受けて
いることは人的資本も多くもつことを意味し、市場経済では高い人的資本を多くもつ人は
高い収入を得ることができる。しかし、中国の農家人口ではそのような関係は明確に検出
されなかった。理由としては都市労働市場における農民差別が存在し、農業戸籍をもつ人
の人的資本が正当に評価されないことが挙げられる14。
最後に、共産党員という政治的身分の出稼ぎに与える影響もプラスではあるものの、統
計的有意性が低い。党員の割合が非常に低いこともあって、断定的な結論は出せないが、
共産党員というこれまでの中国研究で重要視されてきた要素の有意性が低下したことは興
味深い15。
14
厳(2008)では上海市の労働市場が二重構造化され、農民を主体とする出稼ぎ労働者の人
的資本(教育)が非常に低く評価されている実態を実証的に分析している。
15 厳(2004;2006a;2008)では、共産党員を個々人のもつ社会資本人とみなし、それが人的
資本と同じように人々の就業行動や収入に影響を与えていることを実証的に分析した。
20
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
3.32 世帯単位でみる出稼ぎ行動の規定要因
農家では、個々人の就業や消費行動は個人単位というよりも世帯単位で行われ、世帯の
総収入または総効用の最大化が図られるのは一般的だと考えられている(寶剣 2000)。つま
り、育児等の家事、家族農業、地元での非農業兼業、出稼ぎといういくつかの選択肢の中
で、男性と女性、青壮年と老年、異なる教育水準の人々はそれなりに合理性的に配置され
るというわけである。
2つの問題を検討したい。ひとつはどのような属性をもつ世帯から出稼ぎ労働者が出さ
れているか、もうひとつは個々の世帯から出された出稼ぎ者の数が何によって決定される
か、である。ここでは、現役出稼ぎ者をもつ世帯であるか否か(Yes=1、No=0)、現役出
稼ぎ者が何人いるか(ない場合は0とする)、を被説明変数とし、世帯数員、世帯主の教育
水準、非農業戸籍者がいるか(いる場合は 1 とする)、1人当たり耕地(水田、畑)面積、6
歳以下の児童数、7〜15 歳義務教育期の生徒数(いない場合は0とする)を説明変数とする
回帰分析を行ってみる。
表 13 は出稼ぎ者の有無と出稼ぎ者の人数の規定要因をそれぞれ Logit モデル、Tobit モ
デルで計測した結果であり、各説明変数の回帰係数、限界効果および有意水準が示されて
いる。この表から少なくとも以下の点が指摘できよう。第1に、農家における出稼ぎの有
無、そして出稼ぎ者の多寡は世帯員数と有意性の高い相関関係をもつ。世帯員数が1人増
えたのに応じて、出稼ぎ世帯になる確率は 11.3%に上昇し、
出稼ぎ者数は 0.097 人増える。
他の条件が同じ場合、比較的人数の多い世帯から出稼ぎ者が生み出されやすいというわけ
である。
第2に、世帯主の教育水準と出稼ぎの間に正の相関関係が見出される。世帯主の教育年
数が長い世帯ほど、出稼ぎ者が送り出される確率が上がり、出稼ぎ者数も増える傾向にあ
る。これは、比較的高い教育水準をもつ世帯主自身の出稼ぎ指向が強いことと、子女等を
収入の高い出稼ぎに促していたこと、の両面を含んでいると考えられようが、いずれにし
ても、世帯主の属性が世帯全体の出稼ぎ行動に強い影響を与えていることは確かな事実で
ある。
第3に、農業経営の基礎条件である耕地面積の出稼ぎに対する影響については水田と畑
とでは異なった結果が現れた。他の条件が同じである場合に、1人当たり水田面積の多い
世帯ほど、出稼ぎになる確率が低下し、送り出される出稼ぎ者の人数も減少する。それに
対して、1人当たり畑面積の多い世帯ほど、出稼ぎになる確率が上昇する。このようにな
21
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
った理由については更なる検討が必要であろう。
表13 農家世帯の出稼ぎ行動の規定要因
出稼ぎ者の有無(logitモデル)出稼ぎ者人数(tobitモデル)
回帰係数
dy/dx
回帰係数
dy/dx
定数項
‑3.504
世帯員数
戸主教育年数
0.704
0.113
0.061
0.010
0.359
0.057
‑0.640
‑0.102
0.973
0.156
‑0.578
‑0.092
‑0.275
‑0.044
あり
0.352
非農戸籍ダミー
1人当たり水田面積
1人当たり畑面積
6歳以下人数
7〜15歳人数
調査地域ダミー(19)
‑0.560 ***
***
*
**
***
***
+
‑0.803
‑0.163 ***
0.479
0.097
0.047
0.010
‑0.302
‑0.061
‑0.239
‑0.049
0.170
0.035
‑0.440
‑0.089
‑0.274
‑0.056
あり
***
***
+
*
***
***
R‑Squared
‑727.565
Log likelihood
注:***、**、*、+はそれぞれ1%、5%、10%、15%の有意水準を示す
第4に、児童数および義務教育期の生徒数と出稼ぎの関係についてほぼ予想通りの結果
が得られた。養育や教育に手間のかかる子供がいる世帯では、出稼ぎに出かけたくても物
理的な制約があり、あるいは一部の世帯員しか出稼ぎに出されないような状況がある。具
体的にいうと、児童または生徒が1人増えると、出稼ぎになる世帯の確率がそれぞれ 9.2%、
4.4%下がり、また、出稼ぎ者数もそれぞれ 0.089 人、0.056 人減少するということである。
ところが、これらの数値が示すように、児童や生徒が世帯にいることは出稼ぎ行動にマ
イナスの影響を及ぼしている。しかし、それは非常に小さなものに留まっている。実際、
子供を故郷に残し常時出稼ぎに行っている出稼ぎ者が多く、農村にはいわゆる「留守児童」
が大勢いて、それが社会問題化していることもよく指摘される事実である。
3.4 農家の出稼ぎと収入
農家労働力は年齢や教育水準等の属性によって地元就業か出稼ぎに使い分けされている。
教育水準の高い世帯主は出稼ぎへの傾向を強める一方、高校以上の教育を受けた人が強い
地元就業の指向を有するという捻じれた現象も見られる。どうしてだろうか。ここでは、
収入関数を計測し、現役出稼ぎ労働者、出稼ぎ経験のある地元就業者および出稼ぎ経験の
ない地元就業者の教育収益率を比較してその理由を探ってみたい16。
16
現役出稼ぎ労働者、出稼ぎ経験のある地元就業者および出稼ぎ経験のない地元就業者を
職場の形態別(土地請負者、行政機関等、国有企業、集団企業、自営業、私営企業、外資系
企業、その他)でクロス集計し、その残差分析を行った結果、現役出稼ぎ労働者は集団企業、
私営企業と外資企業に、出稼ぎ経験のない地元就業者は家族農業か行政機関等に、出稼ぎ
経験のある地元就業者は自営業に、それぞれ顕著に多く分布していることが判明した。
22
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
表14 農家労働力の収入関数(2007年)
現役出稼ぎ労働者
回帰係数
有意水準
6.116
***
0.014
-0.023
0.030
***
0.279
***
0.291
**
-0.189
0.190
***
0.044
***
出稼ぎ歴ある地元就業者 出稼ぎ歴ない地元就業者
回帰係数
有意水準
回帰係数
有意水準
(定数)
3.679
***
5.022
***
年齢
0.141
***
0.010
年齢2乗/100
-0.200
***
-0.018
+
教育年数
0.045
***
0.012
+
性別ダミー(男性=1)
0.294
***
0.318
***
政治ダミー(党員=1)
0.195
0.104
戸籍ダミー(農業=1)
-0.141
-0.389
***
婚姻ダミー(既婚=1)
-0.210
0.149
*
年間就業月数
0.045
*
0.095
***
あり
地域ダミー
552
127
460
観測数
0.44
0.42
0.54
調整済みR^2
注:(1)月収100元未満(3人)と10000元以上(28人)を外れ値として除外した。
(2)***、**、*、+はそれぞれ1%、5%、10%、15%の有意水準を示す。
表 14 は収入(家族農業からの収入を含まない)の自然対数を被説明変数とし、年齢、教育
年数、性別ダミー(男性=1、女性=0)、政治ダミー(共産党員=1、その他=0)、戸籍ダミー(農
業戸籍=1、非農業戸籍=0)、婚姻ダミー(既婚=1、未婚者=0)、年間就業時間(カ月)を説明変
数とする回帰分析の推定結果である。調整済み決定係数の値から、いずれのモデルの説明
力も比較的高いことが分かるが、主な特徴点として以下のようなことが挙げられる。
第1に、収入は加齢とともに増えるが、一定の年齢を過ぎると減少に転ずる傾向が見ら
れる。ただし、現役出稼ぎ者または出稼ぎ経験のない地元就業者では回帰係数の統計的有
意性が低く、年齢(就業経験の代理変数としても考えられる)と収入の関係が明らかでない。
都市部で働く出稼ぎ労働者を対象とした厳(2008)では、収入と加齢のそうした関係が統計
的に有意となっているが、その違いの究明は今後の課題としたい。
第2に、収入と教育の関係について全体として有意性の高い相関関係が見出される。教
育収益率(他の条件が同じ場合に、学校教育が 1 年間増えるのに伴う収入の増加率)は出稼
ぎ経験のある地元就業者が最も高く 4.5%に達する。それに対して、現役出稼ぎ者のそれ
が 3.0%と低い。出稼ぎ経験のない地元就業者では教育の収益率がわずか 1.2%にすぎず、
しかも、有意水準が低い。
これまでの分析で分かったように、高卒以上の農家労働力が出稼ぎよりも地元で就業す
る傾向が強い。教育に対するリターンは出稼ぎよりも地元の方が高いという厳然たる事実
があるからである。これは出稼ぎという体験が新しい何かをやる際に重要な人的資本とな
り、収入の増加にプラスに作用していることを意味するかもしれない。また、現役出稼ぎ
者の教育収益率は出稼ぎ経験のない地元就業者のそれよりはるかに高い。この事実に基づ
23
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
いて考えれば、農家労働力の就業行動は所得の増大をもたらしており、その意味において
経済合理的である。
第 3 に、ほかの属性と収入の関係については有意性の低いものもあるが、おおむね以下
の傾向が読み取れる。①すべての就業パターンにおいて男性が女性より高い給与を得てい
る、②共産党員という身分は現役出稼ぎ者に限ってプレミアムが確認できる、③地元で働
く出稼ぎ経験のない非農業戸籍者の収入が著しく高いが、他の就業パターンではそれが確
認できない、④現役出稼ぎ者および出稼ぎ経験のない地元就業者において既婚者の収入が
未婚者より有意に高い、⑤収入は就業時間から強く影響を受ける(すべては他の条件が同じ
場合での比較)。これらの点はこれまでの記述統計に基づく分析からの結論とほぼ整合して
いる。
まとめ
本稿では、全国 8 つの省区から無作為に抽出された 657 戸の農家を対象に行われた「農
家の人口および労働力の利用状況に関する調査」の個票データを用いて、①農家人口の人
口学的諸特徴、②農家労働力の利用実態、および、③農家就業行動の規定要因、について
定量的または計量的に分析した。明らかになった事実は以下のように整理しよう。
①本調査対象農家の世帯規模、年齢構成などを全国農村の平均値と比較しながら、各地
から集められた標本が母集団から著しく偏っていないことが確認できた。
②戸籍人口と(留守中の不在村者を除いた)常住人口の年齢階層別分布(人口ピラミッド)
に大きな違いがあり、青壮年の多くが田舎を離れ、農村には年少者と高齢者が取り残され
ている姿が浮き彫りとなった。
③義務教育の普及に伴い、農家人口の教育水準は若年層ほど高く、世帯主から見た子女
の教育水準は必ずしも親の教育から強い影響を受けていない。学校教育を通して体化され
た人的資本の蓄積により、質の高い出稼ぎ者が沿海部の労働市場に供給され、ひいては高
度経済成長が実現されたのである。
④農村では男女比のアンバランスが極めて深刻化していること、核家族化が進んでいる
こと、世帯主または夫婦両方が常時離村している世帯が多いこと、などが明らかになった。
⑤農家労働力の出稼ぎ行動は性別、年齢、婚姻状況などと深く関係し、女性より男性、
既婚者より未婚者、20 歳代、30 歳代の出稼ぎ者比が高いという傾向がみられる。小学以下
24
未完成原稿のため引用等はご遠慮願います(著者)。
に較べて、中学卒者における出稼ぎ者比は顕著に高いが、教育水準が高いほど出稼ぎへの
指向は必ずしも強くならない。高卒以上における出稼ぎ者比は中学卒者のそれよりも低い
のである。
⑥出稼ぎ者の圧倒的多数は 1990 年代後半から移動を始めたが、移動者の主体は新規学卒
の若い人を中心とする状態から、ほかの就業体験をもった人も巻き込まれる形へと変化し
つつある。労働力の絶対的過剰から相対的不足への転換が進行しつつあることが窺われる。
⑦農家労働力の利用について、女性、若年層の就業率が比較的低く、それぞれの年間就
業時間も少ない。農村には潜在的余剰労働が依然多く存在する。また、性別と就業内容の
関係について、男性が主に非農業、女性とくに高齢の女性が主に農業、という傾向が観測
される。
⑧農家の出稼ぎ行動の規定要因について個人単位と世帯単位の両方から計量的に分析し
てみたが、いくつか暫定的な結論が得られた。すなわち、個々人が出稼ぎに行くかどうか
はそれぞれの性別、年齢、婚姻状況などの属性と深く関係し、また、世帯単位で出稼ぎ者
を出すか、何人を出すかも世帯主の属性、世帯の基本状況(ライフサイクル、農業経営など)
から強い影響を受ける。農家は個人だけでなく、世帯全体の基本状況を考慮して就業行動
を取っているのである。
⑨地元で就業するか、出稼ぎに行くかという就業選択が行われる際、教育収益率はどう
やら重要な判断基準になっているようだ。出稼ぎ経験をもつ地元就業者の教育収益率が高
く、出稼ぎ経験を有しない地元就業者のそれが低く、現役出稼ぎ者が両者の中間に位置す
るという統計的事実は明らかになったからである。
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