スコットランドとロンドンの旅(3) 柴田健次郎(FC 事務局員) ロンドンへ―「旅は……、世は情け」 24 日のクリマスイヴ。ロンドンの中心部に近 いパディントン駅に予定より早く着いた。ホテル は以前泊まったホテルに近く、少し土地勘があっ たので、おおよその見当で歩き始めた。ところが どうしてどうして。何度も道をたずねる羽目に陥 った。真っ赤なコートをきた小柄な婆さんが、道 端に車を止めている人にホテルまで乗せていっ てやれと掛け合ってくれた。その人が用事にでか けている間に、身の上話が始まり、アイルランド から16歳のときにやってきて、ポーランド人と 結婚した、アイルランドの英語はなまりが強くて …。車は荷物が多くてゆとりがなく無理というこ とになり、道順を教えてもらい別れた。それらし いところに出た時(4 時ごろ)は薄暗くなってい たので、店の前にいたレストランの若い店員に尋 ねたら、年配の店員を奥から連れてきた。彼はホ テルに携帯電話で確かめてくれた。言われたよう に行ったが見当たらない。またまた、通りすがり の男性に尋ねたら、ホテルまで一緒に歩いてやる という。こうして目指すホテルにかろうじてたど り着いた。彼はエジプト人で近所に住んでいると のこと。くたびれた様子の東洋から来た老夫婦に 同情してか、とにかく、みんな親切この上ない。 ロンドンのクリスマス―教会でミサを体験 クリマスはロンドンを避けるようにとガイド ブックに書いてある。翌 26 日のボクシング・デ ーも含めて、博物館や美術館などはすべて休むか らだ。しかし、キリスト教国ではクリスマスやイ ヴをどのように過ごすのか、興味をそそられる。 イヴにはホテルの近くにある小さなカトリック 教会(写真は祭壇)へ出かけた。ミサは、きれい な歌声の聖歌隊のクリスマスキャロルがあり、神 父がキリスト降誕を祝う説教を行ない、会衆も賛 美歌を合唱し、全員が一体となってつくるセレモ ニーだ。最後にホリーコミュニオン(聖体拝領: 神に捧げたパンとブドウ酒を神の血と肉として 食べる儀式)があり、募金袋が回されておひらき になる。約 1 時間。神父の説教の中では「世界の 平和」への祈りの言葉が何度も繰りかえされ、パ ンのかわりに薄いせんべいが出された。 イギリス政府観光局のホームページから、いろ いろリンクして調べたら、25 日、クリマス当日 は地下鉄やバスなど公共交通機関は全てストッ プすることがわかった。その徹底ぶりは見事なも のだ。街を走っているのはタクシーと観光バス、 マイカー、ほかに、時間限定で、ロンドンの主な 場所を循環するバスだけである。 仕方がないので、ホテルからテムズ川沿いにウ ォーキングをすることにした。あいにくの雨の中、 傘をさしてウォーキングに出かけた。ホテルの近 くにあるケンジントン宮殿(チャールズ皇太子と 故ダイアナ 妃が住んで いた)の前を 通ると、教会 の尖塔が見 え、音楽が聞 こえてきた。 音楽にひか れて教会に 向かった。教 会の名は聖 マリヤ・アボ ット教会(写 真) 、イギリ ス国教会に属する。音楽は丁度クリマスのミサが はじまる合図だった。大聖堂には及ばないが、か なり大きな教会だ。中に入ると、数人の聖職者が いて、ミサのプログラムと、群読するための祈祷 書が用意されていた。プログラムには子どもたち を祭壇の前に集めて牧師が直接語りかける説教 もあった。流れは、前夜のカトリック教会のミサ とほぼ同じだが、教会が大きいことや聖職者・会 衆が多いことなど、格段の違いがあり、荘厳さは 比較にならない。ホリーコミュニオンでは、酒盃 が牧師から渡され、ごく少量のブドウ酒を回し飲 みする。それが終わると、牧師が席を巡って会衆 の一人ひとりと握手を交わした。ここでも牧師か ら、世界の平和への祈り、とりわけ、紛争地域の 平和への祈りが捧げられた。 ミサは、周りの人との握手で終わる。ぼくらの ような飛び入りの異教徒の外国人でも区別しな い。隣に座っていた女性が懐かしそうに日本語で 東京にいたことがあると話しかけてきた。出口で 牧師からチョコレートを貰って外へ出た。 (続く)
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