簡易粒径計測システムの開発 - 機械工学系

簡易粒径計測システムの開発
(第 1 報:開発の経緯とシステムの概要)
Development of A Simple System of Drop-sizing
(Part 1: Development Story and Outline of The System)
鈴木 孝司
斉藤
藤松
孝裕
林田
和宏
(Akira SAITO)
(Takahiro FUJIMATSU)
(Kazuhiro HAYASHIDA)
豊橋技術科学大学
富山商船高等専門学校
鈴鹿工業高等専門学校
北見工業大学
(Toyohashi University
of Technology)
(Toyama National College
of Maritime Technology)
(Suzuka National College
of Technology)
(Kitami Institute
of Technology)
1.はじめに
近年,液体微粒化に関する実験・計測技術は目覚しく
進歩した.例えば,パルスレーザー光源で噴霧の構造を
詳しく観察できるようになり,レーザー計測装置により
噴霧内部での粒径や速度の分布を詳しく調べることが
できるようになった.反面,これらの機器が高価である
ことも手伝って,新たに微粒化研究を始めようとする人
や関連分野の研究者や技術者にとって,微粒化の実験研
究は敷居の高い存在となりつつあるように思われる.
周知のとおり液体微粒化は基盤要素技術であり,さま
ざまな分野で利用されている.しかし,それらの多くで
は微粒化は多くのプロセスのうちの1つにすぎず,微粒
化が目的ということは稀である.換言すれば,微粒化の
部分が最終的な製品の品質や機器の性能に大きな影響
を及ぼしていることは容易に推察されても,それ以外に
も多くの影響因子があって,研究・開発の初期段階から
微粒化特性の測定や評価のみに傾注することが躊躇さ
れることも少なくなかろう.
新しい計測技術の開発や諸特性の詳細な測定・分析
(必要に応じ専用計測器を利用)が当該分野の学術的進
展のために重要であることは言うまでもない.しかし一
方で,微粒化の関与する問題に取り組む研究者が気軽に
(あまり経費をかけずに)微粒化の部分について研究で
きるような環境を整えておくことも,この分野の裾野を
広げて研究活動を活性化するためには有効であろう.
このような観点から日本液体微粒化学会・研究部会で
は,微粒化の実験・計測法に関する研究分科会を設置し
て,いわゆる枯れた技術を含めて微粒化の実験・計測法
に関する技術的情報の収集と分析を行っている.そこで
の議論も踏まえつつ,著者らは噴霧の平均粒径を測定す
る低価格で必要最低限のシステムを意図して,簡易粒径
計測システムの開発を進めてきた.制約は多いものの,
ある程度は使用に耐えるレベルに達したと思われるの
で, 大学・高専などの研究者向けに公開することと
し,本稿にて開発の経緯を交えつつ測定原理などを紹
介する.なお,本システムによる噴霧などの測定結果(適
用例)については,別途報告する予定である.
原稿受付:2007年
朗
(Takashi SUZUKI)
7月28日
2.背景と開発経緯
2.1 各種の粒径計測方法
液体微粒化の研究では,噴霧液滴径の頻度分布ならび
に平均粒径の測定・評価が重要な位置を占めることが多
い.噴霧液滴径の計測方法としては,液浸法などの受け
止め法と位相ドップラー法やレーザー回折法などの光
学的な方法が広く知られている(1).
このうち受け止め法は,光学的計測法による測定を検
証する目的では最も有効な方法の1つであろうが,液滴
の採取にある程度の熟練が必要なうえ,採取した液滴の
径を1つ1つ測定する必要があって煩雑である.効率的
に測定するには顕微鏡のほかデジタルカメラや画像解
析ソフトウェアなど(総額 50 万円以上)が必要になっ
て(2),誰にでも気軽に薦められる方法とは言い難い.
一方,位相ドップラー法は,噴霧内部での粒径と速度
を局所的に測定でき,しかも比較的濃い噴霧にも適用可
能であることから,微粒化装置の研究・開発などに広く
利用されている.しかしながら,市販の計測システムは
高価であって,装置を自作するのも非現実的である.
レーザー回折法も,同様に計測システムが市販されて
おり,微粒化の研究・開発に広く利用されている.市販
システムは自動焦点調整や多重散乱補正などの機能が
組み込まれていることも手伝って必ずしも安価ではな
いが,計測器を自作して研究を進めた例も見られるうえ,
日本工業規格 (3)に原理や留意すべき事項がまとめられ
ているなど,装置の開発に関する情報が豊富である.
これら以外にも拡大瞬間写真画像を解析する方法や
干渉画像法などに基づく計測システムが市販されてい
るが,いずれもパルス光源や高解像度の CCD カメラ,
特殊なレンズ系など高価な部品が必要であって,装置を
製作するにも相応の経費が必要になる.
2.2 レーザー回折法の原理
ここで,レーザー回折法による粒径計測の原理につい
て簡単にまとめておく.粒子に平行なレーザー光を照射
すると,回折現象により光散乱が生じる.空気中の水滴
からの散乱光の強度分布の一例を図 1 に示す.図は文
献(4)のプログラムライブラリーを利用して散乱光強度
図 1 水滴まわり散乱光強度分布
図 2 各種粒径の水滴に対する散乱光強度の角度変化
図 3 レーザー回折装置の基本構造
図 5 多重散乱のイメージ
図 4 市販の計測システムの受光部
(マルバーン社製の古い計測システムのもの)
図のように測定用のレーザービームの光軸上にフーリ
エ・レンズ(凸レンズ)を設置し,その焦点距離 f の位
置にスクリーンを置くと,レーザービームはスクリーン
の中央の点に集光する.レーザービーム上に粒子がある
と,粒子からの散乱光のうちθ 方向への光は集光点を中
心とする半径 r(θ )の円環に達する.レーザービーム上に
複数の粒子が存在する場合,それぞれの粒子からの同じ
角度方向への散乱光は,粒子の位置や直径によらず,必
ず同じ半径の円環に達する.この半径 r はθ が小さい場
合には近似的に
を計算した結果である(以降の散乱光強度分布も同様).
図のように散乱光の強度 I は散乱角θ (元のレーザー光
の方向となす角)に依存し,前方への散乱光が最も強い.
r = f ×θ
(1).
この前方散乱の光強度分布は図 2 に示すように粒子の
直径 d に強く依存する.したがって,何らかの方法で
散乱光強度のθ 分布を測定すれば,粒子の直径がわかる. 要するに,スクリーン上での光強度の半径方向分布
この原理に基づく計測装置の基本構造を図 3 に示す. IM(r)は,レーザービーム上に存在する全ての粒子からの
散乱光強度の θ 方向分布を合成したものに対応してお
り,これを分析することによって粒径頻度分布が得られ
る.また,この分布から平均粒径などを算定することが
できる.ちなみに,市販の計測システムでは,同心円状
の複数の光検出素子を持つセンサー(図 4 参照)をス
クリーンの位置に設置して光強度分布を測定している.
この原理に基づく粒径計測で注意すべき点は,結果が
空間平均(レーザービーム上)である点もさることなが
ら,多重散乱の影響とされている.図 5 に示すように,
1つの粒子からの散乱光が他の粒子にあたって再び散
乱を起こすことがある.これを多重散乱という.噴霧粒
子の数密度が低い場合には大過はないが(但し,粒子が
極端に少ない場合は散乱光が微弱で精度が低下する)
,
噴霧粒子の数密度が高い場合には,この影響が顕著に表
れて光強度分布 IM(r)が変化する(r の小さい範囲で光強
度が減少し,r の大きい範囲で光強度が増加する).結
果として,小径粒子の頻度が高いと誤認され,平均粒径
が過小評価される.なお,市販の計測システムの中には,
多重散乱の影響を補正する機能(ソフトウェア)を有す
るものもある.
この方式では電子回路を製作する必要があるうえ,必要
な電子部品が近い将来,入手難となる可能性が高いこと
などから(電子工作に適したパッケージ形状の半導体素
子の多くが生産完了品)
,この方式の採用は躊躇された.
つぎに,後者に基づいて図 3 のような光学系を試作
し,スクリーンの背面から散乱パターンを観察してみた.
多数の中実円がプリントされたレチクル(光洋㈱,スプ
レー小滴 NG-30)をレーザービーム上に置くと,その
直径に対応したパターンが観察され,この方法の有効性
が確認された.さらに,光源として安価な半導体レーザ
ーが利用できることも判明した.しかしながら,このま
まではフーリエ・レンズとスクリーン,接写レンズを暗
箱で覆ったうえで光軸上に固定する必要があり,光学系
が大型となる.また,散乱光のパターンを通常のデジタ
ルカメラで撮影すると,中央部では露光過多,周辺部で
は露光不足となって粒径分布を逆算するのに必要な情
報が十分得られないなどの問題があることも判明した.
そこでまず,光学系の小型化を図るため,スクリーン
の位置にカメラの受光部を置き,ND フィルターで減光
した散乱光を受光部に直接入射させて散乱光のパター
ンを記録することとした.また,写真撮影用のクローズ
2.3 開発の経緯
アップレンズをフーリエ・レンズとして用い,光路を覆
以上の事柄を踏まえて,レーザー回折法を基本計測原
う暗箱として接写用のベローズアタッチメントを用い
理として粒径計測システムの開発を目指すこととし,表
る(光学レールを兼ねる)ことによって,光学系を大幅
1のような開発のコンセプトを設定した.
に小型化することができた(図 6,図 7 参照)
.
当初は,この分野の初期の研究にならって,フォトダ
一方,カメラについては,対数曲線の感度特性を持つ
イオードを多数並べてセンサー部を構成することを検
カメラを試してみたが,光量のダイナミックレンジがま
討した.しかし,センサー部が大きくなるため焦点距離
だ不十分であり,また出力の値から入射光量を必ずしも
の長い大口径レンズが必要になる(装置が大型になる) 正確に逆算できないなどの問題もあって,有効とは言え
と試算され,この案については断念せざるを得なかった. なかった.高階調(出力 Bit 数の多い)のカメラの採用
この分野のベテラン研究者の方々に相談したところ, も検討したが,この種のカメラは割高なうえ,受光部が
林茂氏から「普通の噴霧の平均粒径が知りたいだけなら, CCD であることから,スミアやブルーミング(5)によっ
数個のフォトダイオードを並べるのみで十分で,複雑な
て中央の輝度の高い領域の上下に縦筋状の輝線が出る
受光部は必要ない.信号処理回路も簡単で済む.
」旨の
可能性があるので採用は見合わせた.産業用の C-MOS
助言を頂いた.また,中山満茂氏から「微小角前方散乱
カメラならば,比較的安価で,入射光量に比例した出力
の散乱光のパターンを磨りガラスに映して裏面から観
が得られ,かつ CCD のような輝線は出ない(輝度の高
察(撮影)すれば,粒径計測は可能である.しかも原理
い領域の周囲に白にじみが生じ,特に輝度の高い部分は
の理解に好適である.
」旨の助言を頂いた.
黒抜けする)が,前述のようにダイナミックレンジ不足
まず,前者について検討してみた.図 2 のような散
である.試行錯誤の末,露光時間を変えて撮影した複数
乱光強度分布を基にシミュレーションしてみたところ, の画像を合成して,階調数の大きい画像(擬似 24bit)
粒径分布がある特定のかたち(例えばロジン・ラムラー
をつくることとした.これにより,粒径頻度分布の逆算
分布の分布定数β 一定)であると仮定すれば,半径の
に必要な光強度の半径分布が得られるようになった.ま
異なる数点における散乱光強度の測定値から平均粒径
た,C-MOS カメラを制御して画像を取得・合成し,そ
などを推定することは可能と判断された.しかしながら, れから得た光強度分布をもとに粒径の頻度分布を求め
る一連のプログラム(詳細は後述する)を開発した結果,
表1 簡易粒径計測システムの開発コンセプト
レチクル上の中実円の径などをほぼ適切に測定できる
(1) レーザー回折法の原理に基づき平均粒径を測定
ようになった.
このようにして製作した簡易粒径計測システムのプ
(粒径分布も大まかに測定する)
ロトタイプを豊橋技術科学大学・教育研究活性化経費
(2) 一般に入手可能な安価な汎用部品のみで構成
(高専連携)により共同研究者に配布し,平成 18 年 10
(部品代は50万円程度以下に抑える)
月以降,約 8 ヶ月かけてシステムの試用(噴霧などの
(3) 必要最低限の機能のみに限定
測定を含む)と結果の分析,ならびにそれらに基づくシ
(定常噴霧のみ,多重散乱補正などは無し)
ステムの改良(主にプログラム部分)を重ねた.併せて
(4) 粒径の測定範囲は 5µm~700µm 程度
導入説明書などの整備も進めた.光学系の主要部品と最
(5) 自由に改良できる余地を残す
終的なシステムの仕様をそれぞれ表 2,表 3 に示す.
図 6 簡易粒径計測システムの光学系の構造
図 7 簡易粒径計測システムの光学系の外観
光学レール
表 2 簡易粒径計測システムの光学系の主要部品
ベローズアタッチメント(Nikon 製 PB-6 および PB-6E,暗箱を兼ねる)
レーザー光源
半導体レーザー(キコー技研製 MLXA-A12-635-5,コリメーター付き)
フーリエ・レンズ系
光センサー
クローズアップレンズ(ケンコー製 MC No.10, 52mm-焦点距離 100mm)
〔大きな粒子を測定する場合はケンコー製 AC No.5, 52mm-焦点距離 200mm〕
ND フィルター(ケンコー製 MC-ND400, 52mm および Pro-ND8, 52mm)
C-MOS カメラ(EPIX 製 SV9M001 Monochrome,インターフェイス付き)
表 3 簡易粒径計測システムの仕様
測定原理
レーザー回折(Mie 散乱)
光源
半導体レーザー(635nm, 5mW, φ5.5mm)
測定対象
大気中の定常水噴霧など(球状粒子)
但し,散乱光強度の時間変動が無いこと
測定項目
粒径分布(質量基準)ならびに
各種の代表粒径,平均粒径
測定時間
約 20 秒
光学系の寸法
約 500×200×150(標準ベンチ)
光学系の重量
約 2kg(標準ベンチ)
粒径測定範囲
MC No.10 レンズ使用時-約 8~450µm
AC No.5 レンズ使用時-約 16~900µm
制御と演算
PC(Windows XP)による
3.測定原理(制御・演算プログラムの概要)
以上により開発した簡易粒径計測システムについて,
制御・演算プログラム(Ver.2.4, 平成 19 年 7 月現在)
を中心に説明する.プログラムは大きく分けて,次の3
部から構成されている.①画像の取得と合成,②乱反射
による光ノイズの除去と半径方向の光強度分布の算定,
③光強度分布からの粒径頻度分布の逆算および各種の
平均粒径・代表粒径の計算.以下,それぞれの部分にお
ける処理について原理や理由などを交えつつ記述する.
3.1 画像の取得と合成
本システムでは,前述のように図 3 のスクリーンの
位置にカメラの受光部を配置して,露光時間を変えて撮
影した複数の画像を合成し,得られた高階調の画像から
粒径分布の逆算に必要な光強度分布を得る.
光センサーとして使用する EPIX 社製の C-MOS カメ
ラは,ローリング・シャッター方式のモノクロ 10bit
階調(0~1023)である.このカメラの入射光量と出力
の関係を調べた結果を図 8 に示す.図は受光素子に一
様な光をあて,露光時間を変えて輝度出力を調べたもの
である.図のように,輝度出力が ThH (=880)以下の範
囲では,出力は光量に比例して増加している.しかし,
出力が ThH’ (=960)を超えるような光量では出力が飽和
し始め,直線性が損なわれている.一方,図 8 では明
瞭ではないが,輝度出力が低い範囲(30 程度以下)で
は C-MOS センサーのノイズが無視できない.ここで,
C-MOS センサーのノイズは,毎回同じ場所に同じ強さ
で現れる固定パターン・ノイズ(Fixed Pattern Noise)
と場所と強さが変動するランダム・ノイズ(Random
Noise)に大別される(5).このうち後者については,同じ
露光時間で 10 枚(後述する露光時間最長のもののみ 5
枚)の画像を取得し,それらを平均化することによって
低減した.一方,前者については,事前に無光状態で取
得して同様に平均化処理した画像を差し引くことによ
って補償した.このようなノイズ対策の処理の流れを図
9 に示す.また,センサーに微弱な光を一様に入射した
1000
Pixel Value
Sensor Outputs
without Light Input
ThH' (= 960)
ThH (= 880)
800
場合を例にとって,対策の効果を図 10 に示す.
ところでこのカメラでは,ピクセル・クロック周波数
を 60MHz(確実に作動する上限)にすると露光時間を
最短で 0.0254ms に設定でき,
この周波数を 25MHz
(下
限)にすると露光時間を最長 437ms に設定できる.図
6 の光学系においてレーザービーム上に粒子が存在し
ない状態で,これらの最短と最長の露光条件でカメラに
記録された画像の一例を図 11 に示す.図は,露光時間
最長の条件で最外周部での輝度出力が 4 程度以上とな
るよう ND フィルターの減光度ならびにレーザー光源
の出力を調整したうえで撮影したものである.図(b)に
示すように最長の露光時間では,周辺部では光の強弱が
判るが中央の広い領域で露光過多である.一方,最短の
露光時間でさえ,図(a)に示すように中央のレーザービ
ーム集光点まわりの半径 4 画素程度の領域では出力が
飽和している.このため,後述するようにレーザービー
ムの透過率の評価などに工夫が必要となった.
これらのことを踏まえて本システムでは,露光時間を
約 32 倍ずつ(5bit 相当,露光時間が最長のものは画質
が必ずしも良くないことから約 16 倍)4 段階に変えて
画像を記録し,それらを合成することとした.
Images of
Diffraction or Background
Noise-0
Image-0
600
SV9M001
(Monochrome)
Pixel Clk Frame Period
25 MHz 64.09 ms
25 MHz 436.7 ms
48 MHz 33.38 ms
48 MHz 227.5 ms
400
200
0
図8
0
10
20
30
40
Exposure ms
50
C-MOS カメラの入射光量と輝度出力の関係
Time Averaging
(Eliminate Random Noise)
Time Averaging
(Eliminate Random Noise)
Subtract Noise-0
−
+
(Eliminate Fixed Pattern Noise)
Compensated
Image
図 9 C-MOS カメラのノイズ対策
図 10 C-MOS カメラのノイズ対策の効果(センサー左上端の 20×20 画素の輝度)
図 11 C-MOS カメラに記録された画像の一例(レーザービーム上に粒子が存在しない状態)
図 12
画像の取得から合成までの処理
画像の取得から合成までの処理の流れを図 12 に示す.
for Z1 ( x, y ) > ThH
⎧= Z 0 ( x, y ) × G01
⎪= Z ( x, y )
図の上段に示すような順序で 4 種類の露光時間で画像
for Z 0 ( x, y ) < ThL
⎪
(2)
Z ( x, y ) ⎨ 1
を繰り返し取得し,それぞれを平均化して固定パター
= Z 0 ( x, y ) × G01 × C + Z1 ( x, y ) × (1 − C )
⎪
ン・ノイズ成分を差し引いた後,各画像のうち輝度出力
⎪⎩
for other cases
が ThH 以下(露光時間最短の画像のみ ThH’ まで許容)
⎛
⎛ Z ( x, y ) − ThL × G01 ⎞ ⎞
で,
かつ ThL (=10)以上(量子化誤差が無視できる範囲,
(3).
, 1⎟⎟, 0 ⎟
C = max⎜ min⎜⎜ 1
⎜
⎟
露光時間最長の画像では下限なし)の部分を合成した.
⎝ ThH − ThL × G01
⎠ ⎠
⎝
この際,重複する部分は重みを付けて平均化した.例え
このような手順により 4 種類の画像を合成して擬似的
ば,Image-0’と Image-1’の合成では,それぞれの輝度
に約 24bit 階調(輝度 0~15,100,000)の画像とした.
Z0(x,y), Z1(x,y)を重み C と露光時間の比 G01 から,
図 15 光ノイズマスクのパターン
(白い部分を光強度半径方向分布の計算から除外)
得・合成した画像より(Gx,Gy )からの半径 r と輝度 Z の
関係を求め,それらを区間ごとに平均化したもので,半
径 r は式(1)により散乱角θ に変換してある.図より,
輝度は総じてθ の約−2.5 乗に比例して減少しているが,
分布の随所に小さなピークがみられる.これは,
図 11(b)
に示すように,レーザービームの集光点以外にも画像上
図 13 半径方向光強度分布の評価における
で周囲よりも輝度の明らかに高い点(光ノイズ)が複数
光ノイズマスクの効果
存在しているためである.これらの光ノイズは,図 14
に示すように,レーザー集光点で乱反射した光が
C-MOS センサー上面のカバーガラスに反射して再び
センサーに入射するために発生したものと推察される.
これらの光ノイズ部での輝度はレーザー集光点での光
強度にほぼ比例しており,粒子が多数存在してレーザー
ビームの透過率が低下すると輝度が低下すると考えら
れる.しかし,これらの位置で本来検出されるべき粒子
図 14 光ノイズの発生原因(想像図)
からの散乱光の強度は,粒子が多数存在して透過率が低
下するような状況ではむしろ増大するはずである.した
3.2 光ノイズの除去と光強度分布の算定
がって,光強度の半径方向分布を計算するにあたり,こ
次に,前節の手順で得られた合成画像から,光強度の
れらの光ノイズ部を除外しないと,粒子の散乱による光
半径方向分布を求める手順について説明する.
強度分布の変化を正しく評価できない.
半径方向分布を計算するためには,まず,合成画像上
そこで,合成画像中の光ノイズと思われる部分にマス
でのレーザービーム集光点の位置(中心)を求める必要
クをかけることとした.以下,マスクの作成方法を簡単
がある.本システムでは前述のように最短の露光時間の
に述べる.光強度の半径方向分布は前述のようにθ の約
条件でも中心近傍でセンサーが飽和してしまうので,輝
−2.5 乗に概ね比例しているので,各画素の輝度 Z(x,y)
度が最も高い点の位置をもって中心とすることはでき
にθ 2.5 をかけると,その値は全面でおおむね一定になり,
ない.そこで,合成画像の輝度 Z(x,y) が最大値の 1/10
以上の領域内における輝度の重心を中心(Gx,Gy )とした. 光ノイズ部では高い値をとる.そこで,この Z(x,y)×θ 2.5
の面内分布をアンサンブル平均によりスムージングし
⎛ ∑ x ⋅ Z ( x, y ) ∑ y ⋅ Z ( x, y ) ⎞
た上で,平均値の 5 倍以上の部分を光ノイズと見なし
⎟⎟
G x , G y = ⎜⎜
,
(4)
てマスクし,さらにそれらの周囲 2 画素幅の領域もマ
∑ Z ( x, y ) ⎠
⎝ ∑ Z ( x, y )
スクした.作成したマスクの一例を図 15 に示す(図 11
for Z ( x, y ) ≥ Z max 10
に示した画像の合成画像について作成したもの)
.
なお,複数回にわたる測定では,途中で光学系がわずか
このような光ノイズマスクを用いて計算した輝度の
ながら変形する可能性もあるので,その影響を抑えるよ
半径方向分布を,図 13 中に実線で示す.図のように,
う画像の中心は合成画像を取得する度に再計算した.
分布上のピークが抑えられている.なお,光ノイズ検出
式(4)で求めた中心(Gx,Gy )をもとに,輝度の半径 r 方
の閾値などの調整で分布をさらに滑らかにすることも
向分布を計算した結果の一例を図 13 中に破線で示す. できるが,本システムではマスキングは必要最低限に留
これは,レーザービーム上に粒子の存在しない状態で取
めた(画像全体に占めるマスク部分の割合は 10%程度).
(
)
図 16
同心円状の領域への光センサーの分割
表 4 同心円状領域の半径と散乱角,対応する粒径
(焦点距離 f =100mm,公比 h =10 1/12,P =1.5 の場合)
番号 半径 Ri (pixel) 代表散乱角 対応粒径 di (µm)
i 代表(内径−外径) Θi (rad.) 代表(最小−最大)
-
0
5.0 (4.5−5.6)
2.60E−04
そこで図 16 に示すように,光センサーを複数の同心円
状領域に分割することとして,それらの半径 Ri を公比
h =10 1/12 の等比級数とすることとした(オプションで
h =10 1/24 とすることも可能).また,各領域で平均の輝
度を得るため,光強度の半径方向分布が前述のようにθ
の−2.5 乗に概ね比例していることを利用して,
1 15.0 (13.6−16.5) 7.80E−04
410 (373−452)
2 18.2 (16.5−20.0) 9.45E−04
339 (308−373)
3 22.0 (20.0−24.2) 1.14E−03
280 (254−308)
4 26.7 (24.2−29.4) 1.39E−03
231 (210−254)
5 32.3 (29.4−35.6) 1.68E−03
190 (173−210)
r = ( x − Gx ) 2 + ( y − G y ) 2
(6)
6 39.2 (35.6−43.1) 2.04E−03
157 (143−173)
7 47.4 (43.1−52.2) 2.47E−03
130 (118−143)
Ri = f × Θi , r = f × θ
(7).
8 57.5 (52.2−63.3) 2.99E−03
107 (97−118)
9 69.6 (63.3−76.6) 3.62E−03 88.4 (80.3−97.3)
10 84.4 (76.6−92.8) 4.39E−03 73.0 (66.3−80.3)
11
102 (93−112)
5.31E−03 60.2 (54.7−66.3)
12
124 (112−136)
6.44E−03 49.7 (45.2−54.7)
13
150 (136−165)
7.80E−03 41.0 (37.3−45.2)
14
182 (165−200)
9.45E−03 33.9 (30.8−37.3)
15
220 (200−242)
1.14E−02 28.0 (25.4−30.8)
16
267 (242−294)
1.39E−02 23.1 (21.0−25.4)
17
323 (294−356)
1.68E−02 19.0 (17.3−21.0)
18
392 (356−431)
2.04E−02 15.7 (14.3−17.3)
19
474 (431−522)
2.47E−02 13.0 (11.8−14.3)
20
575 (522−633)
2.99E−02
10.7 (9.7−11.8)
21
696 (633−766)
3.62E−02
8.8 (8.0−9.7)
以上により光強度の半径方向分布を得ることが可能
になったが,後述するように実際の計算に算入すること
ができるのは,粒径頻度分布(ヒストグラム)の区間の
数と同数の半径位置における輝度のみである.また,頻
度分布の粒径軸を対数で表示するためには,これらの半
径も対数で等間隔となるように定めた方が有利である.
I i = Θi− 2.5
1
∑ Z ( x, y) ⋅θ 2.5
n
⎛ Ri
⎞
⎜⎜
≤ r < Ri h ⎟⎟
⎝ h
⎠
(5)
ここで,r は画素の半径位置,Θi は Ri に対応する散乱
角,n は領域内の画素数(マスク部分は除く)である.
これらに加え,測定用レーザービームの透過率を評価
するための領域が必要である.前述のようにレーザー集
光点まわりの半径 4 画素程度以内ではセンサーの輝度
出力が飽和しているため,この領域#0 を半径 R0=5 画
素の円環とした.さらに,上記の同心円状領域うち最も
内側の領域#1 が主に受け持つ粒径粒子からの散乱光
(詳細は後述する)の影響を領域#0 がなるべく受けな
くなるよう,領域#1 の半径 R1 は R0 の 3 倍とした(7
倍以上が理想的だが,粒径の測定範囲が狭くなるため実
用上許容できる最小の値とした)
.このようにして定め
た各領域の半径 Ri と対応する散乱角Θi を表 4 にまとめ
る.表は焦点距離 f =100mm のレンズを用いた場合の
ものであり,f =200mm ではΘi の値は表の 1/2 となる.
なお,プロトタイプの段階では,受光系にレーザービ
ームを少し傾けて入射させて集光点を光センサーの隅
に位置させることによって,光強度分布を測定する半径
の範囲を拡大(粒径測定範囲の下限を拡張)していた.
しかし,前述の光ノイズのパターンが非対称になってマ
スクの作成や中心座標の算定が難しくなったため,これ
による測定範囲の拡張は断念し,以降,レーザービーム
をレンズやセンサーに垂直に入射させることとした.
図 17 光強度の半径方向分布の一例
(中実円が多数プリントされたレチクルを測定)
3.3 粒径分布の計算
前節までの処理により得られた光強度の半径方向分
布の一例を図 17 に示す.図には,レーザービーム上に
粒子が存在しない場合の分布 IBG と,中実円が多数プリ
ントされたレチクル(直径 125µm,250µm)をレーザ
ービーム上に置いた場合の分布 IM を併記してある.図
中には,参考のため前節で定めた同心円状領域の半径
や輝度のフルスケール F.S.も参考のため記してある.
図より,レーザービーム上に粒子が存在する場合の光
強度分布 IM は,粒子が存在しない場合の分布 IBG の実
数倍と図 2 に示したような各粒径の粒子からの散乱光
強度分布の実数倍とを式(8)のように重ね合わせたもの
に相当する(ベクトルの線形結合のかたち)
.ここで,
T は測定用レーザービームの透過率,Fi は直径 di の粒
子の個数頻度(相対的な数),I (di ; Θj )は直径 di の粒子
からの角度Θj 方向への散乱光の強度である.
この式を何らかの方法で逆演算すれば,レーザービー
ム上に存在した粒子の粒径頻度分布 Fi がわかる.最外
周の領域番号 N と頻度分布(ヒストグラム)の区間の
数を一致させれば式(8)は正方行列の連立一次方程式と
なるので,求解可能である.しかし,式(8)をそのまま
解いても必ずしも良好な結果は得られない.例えば図 2
において,直径 10µm の粒子からの散乱光強度分布と
直径 100µm の粒子からの散乱光強度分布を合成したも
のは,30µm の粒子からの散乱光強度分布に良く似た分
布形状となるので,様々な粒径の粒子がビーム上に存在
する場合,それらの頻度を精度良く逆算することが困難
である.また,実際に得られる光強度分布 IBG,IM には
小さな誤差が含まれることが多いが,式(8)の解はそれ
らの影響を受けやすい.さらに,小さな粒子からの散乱
光は大きな粒子からの散乱光に較べて著しく弱いので
(図 2 では散乱光強度を液体の単位体積あたりに変換
してある)
,式(8)をコンピューターで解く過程で数値誤
差を生じやすく,十分な精度は期待できない.
そこで,従来の研究に倣って,各粒径粒子からの散乱
光強度分布 I (di ; Θj )にΘj のべき乗をかけ,さらに,散
乱光強度を液体の単位体積あたりに変換する(頻度を体
積基準とする)ことによって,式(8)を数値計算による
求解がより容易な式(9)に変換することとした.
⎛ I (d N ; Θ0 ) ⎞
⎛ I (d i ; Θ0 ) ⎞
⎛ I (d1 ; Θ0 ) ⎞
⎛ I BG (Θ0 ) ⎞
⎛ I M (Θ0 ) ⎞
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
(
;
)
(
)
(
)
I
d
Θ
I
d
Θ
I
Θ
I
Θ
(
;
)
⎜ I (d N ; Θ1 ) ⎟
⎜
⎜
⎜ BG 1 ⎟
⎜ M 1 ⎟
1 1 ⎟
i
1 ⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
M
M
M
M
M
⎟
⎟ + L + FN ⎜
⎟ + L + Fi ⎜
⎟ + F1 ⎜
⎟ = T⎜
⎜
⎜ I (d N ; Θ j ) ⎟
⎜ I (d i ; Θ j ) ⎟
⎜ I (d1 ; Θ j ) ⎟
⎜ I BG (Θ j ) ⎟
⎜ I M (Θ j ) ⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
M
M
M
M
M
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜ I (d ; Θ ) ⎟
⎜ I (d ; Θ ) ⎟
⎜ I (d ; Θ ) ⎟
⎜ I (Θ ) ⎟
⎜ I (Θ ) ⎟
i
N ⎠
N
N ⎠
⎝
⎝
⎝ 1 N ⎠
⎝ BG N ⎠
⎝ M N ⎠
(8)
⎛ J (d N ; Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ J (d i ; Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ J (d1; Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ I BG (Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ I M (Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜
⎜ J (d N ; Θ1 ) ⋅ Θ1P ⎟
⎜ J (d i ; Θ1 ) ⋅ Θ1P ⎟
⎜ J (d1; Θ1 ) ⋅ Θ1P ⎟
⎜ I BG (Θ1 ) ⋅ Θ1P ⎟
⎜ I M (Θ1 ) ⋅ Θ1P ⎟
⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜
M
M
M
M
M
⎟ (9)
⎟ + L + Fv ⎜
⎟ + L + Fv ⎜
⎟ + Fv ⎜
⎟ = T⎜
⎜
1
i
N
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
1
M
j
j
BG
j
j
j
j
i
j
j
N
j
j
⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜
M
M
M
M
M
⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
1
N ⎠
N ⎠
N
N ⎠
i
N
N ⎠
N
N
N ⎠
⎝
⎝
⎝
⎝ BG N
⎝ M N
J (d i ; Θ j ) =
1
1
d i3 Θ j h − Θ j
h
∫
Θj h
I ( d i ; θ ) dθ
Θj
(10)
h
式(9)中の Fvi は直径 di の粒子の頻度(体積基準)であ
り,J (di ; Θj )は式(10)のように j 番目の同心円状領域に
対応する散乱角範囲にわたって平均した直径 di の粒子
から散乱光強度(液体の単位体積あたり)である.
散乱角θ のべき乗をかけると,図 18 に示すように,
粒子からの散乱光強度分布はその直径に対応した θ で
極大値をとるようになるので,光強度分布からビーム上
に存在した粒子の直径を推定することが容易になる.
図 18
粒子からの散乱光強度半径方向分布(θ のべき指数 P の影響)
しかしながら,このべき指数 P の値によって,式(9)の
解きやすさや結果として得られる粒径分布が少なから
ず変化するので,その値は試行錯誤で決めた.
P =2.5 とすると,ビーム上に粒子が存在しない状態
での光強度分布(Background)が,図 18 (b)に示すよ
うに平坦になるので,透過率 T の見積もりが比較的容
易である.そのため,本システムのプロトタイプでは
P =2.5 としていた.しかし,粒子からの散乱光強度分
布に複数のピークがあり,しかもそれらの高さが同じオ
ーダーであることから,式(9)を解く過程で粒径の誤認
が起こりやすい(例えば,粒径 500µm の粒子が存在す
る場合,
粒径 250µm の粒子も存在すると計算される)
.
一方 P =1.5 とすると,図 18 (a)に示すように,各粒径
の粒子からの散乱光強度分布の包絡線が,左右ほぼ対称
になるので,後述する緩和法による式(9)の計算におい
て解が収束しやすくなる.
そこで本システムでは P =1.5 とすることとし,事前
に文献(4)のプログラムライブラリーを利用して各粒径
の粒子からの散乱光強度 J (di ; Θj (式(10)参照,
)
1 ≤ i ≤ N,
0 ≤ j ≤ N , N は最も外側の領域の番号)を計算してデー
タ・セットとして与えることとした.ここで粒径 di (各
領域が主に受け持つ粒径)は,各領域の半径 Rj に対応
する散乱角Θj おいて I θ P が極大となるように選ぶと,
⎛ I BG (Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ I M (Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⎛ δ0 ⎞
⎛
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜ ⎟
⎜
P
P
⎜ I BG (Θ1 ) ⋅ Θ1 ⎟
⎜ I M (Θ1 ) ⋅ Θ1 ⎟
⎜ δ1 ⎟
⎜
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜ M ⎟
⎜
M
M
⎟ + [Fv ]k ⎜
⎟ + [T ]k ⎜
⎜ ⎟ = −⎜
1
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜δ j ⎟
⎜
j
j
⎟
⎜ BG j
⎟
⎜ M j
⎜ ⎟
⎜
M
M
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜ M ⎟
⎜
⎜
⎜δ ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜ I (Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎝
⎝ N⎠
N ⎠
N ⎠
⎝ BG N
⎝ M N
[E0 ]k
∑ {δ
N
=
j =0
j
(
− ∆T × I BG (Θ j ) ⋅ Θ j P
)}
2
(13a)
式(9)が解きやすくなる.P =1.5 のとき近似的に
( B = 0.32 ×10
θ ≈ Bd
−6
)
(11)
m/rad.
において,直径 d の粒子からの散乱光の I θ P 分布が極
大となるので,この関係から di を決定した.表 4 の右
端に di を示す.等比級数となるよう Rj を定めているの
で,当然のことながら,di も等比級数である.
上記のように定めたデータ・セットとビーム上に粒子
が存在しない場合の光強度分布 IBG とを用いて,測定さ
れた光強度分布 IM から透過率 T および頻度分布 Fvi
(1 ≤ i ≤ N )を求める.ここで注意するべきことは,実
際に得られる光強度分布 IBG,IM には小さな誤差が含ま
れており,かつビーム上に測定範囲外の粒径の粒子が存
在することもあるため,式(9)を通常の方法(ガウスの
消去法など)で解くと頻度 Fvi の一部が負(非現実的)
になることがある.したがって,式(9)をそのまま解く
のではなく,Fvi が負にならないよう拘束条件を課して,
式からのずれが最も小さくなるような T と Fvi の組を
求める必要がある.
このことから本システムでは,緩和法の繰り返し計算
で T と Fvi を徐々に目標に収束させた.以下,計算の過
程を簡単に述べる.式(9)の左辺を移項して式(12)とする.
⎛ J (d i ; Θ0 ) ⋅ Θ0 P ⎞
⋅⎞
⎛
⎟
⎜
⎜
⎟
P
⎜ J (d i ; Θ1 ) ⋅ Θ1 ⎟
⋅⎟
⎜
⎟
⎜
⎜
⋅⎟
M
⎟ + L + [Fv ]k ⎜
⎟ + L + [Fvi ]k ⎜
N
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⎜
⋅⎟
i
j
j
⎟
⎜
⎜
⎟
⋅⎟
M
⎟
⎜
⎜
⎜
⎜ J (d ; Θ ) ⋅ Θ P ⎟
⋅ ⎟⎠
⎝
i
N
N ⎠
⎝
[Ei ]k
∑ {δ
N
=
j =0
j
(
− ∆Fvi × J (d i ; Θ j ) ⋅ Θ j P
)}
2
⋅⎞
⎟
⋅⎟
⋅⎟
⎟
⋅⎟
⎟
⋅⎟
⋅ ⎟⎠
(12)
(13b)
∑ {δ j × (I BK (Θ j ) ⋅ Θ j P )}
∑ {δ j × (J (d i ; Θ j ) ⋅ Θ j P )}
N
∆T =
j =0
∑ (I BK (Θ j ) ⋅ Θ j
N
j =0
[T ]k +1 = [T ]k − α ⋅ ∆T
図 19
)
P 2
N
(14a)
∆Fvi =
j =0
∑ (J (d i ; Θ j ) ⋅ Θ j
N
j =0
(15a)
測定された粒径頻度分布(体積基準)の一例
ここで,[T ]k,[Fvi ]k はそれ以前の収束計算で得られ
た T ならびに Fvi の近似値(あるいは初期値)であり,
こ れ ら の 値 が 式 (9) を 完 全 に 満 し て い れ ば , 残 渣 δj
(0 ≤ j ≤ N ) は全てゼロとなる.しかし,収束前はゼロで
はないので,δj の列を IBG(Θj )・Θj P や J (di ; Θj )・Θj P の
列(0 ≤ j ≤ N )で近似する.すなわち,まず透過率 T につ
いて,式(13a)に示す誤差の 2 乗和を最小化するような
補正量∆T を式(14a)から計算し,これに緩和係数α を乗
じて[T ]k から差し引いた値を新たな近似値[T ]k+1 とす
る.続いて各粒径 di の頻度 Fvi について,i の小さいも
のから順次,式(13b)に示す誤差の 2 乗和を最小化する
ような補正量∆Fvi を式(14b)から計算して,同様にこれ
に緩和係数 α を乗じて[Fvi ]k から引いた値を新たな近
似値[Fvi ]k+1 とする.この際,[Fvi ]k+1 の値が負値とな
らないように拘束条件を課する.また,δj は T や Fvi
の値が修正される度に更新する.全ての i について Fvi
を修正したら,次は i の大きいものから順に Fvi を修正
する.このような手順をδj が十分小さくなるまで繰り返
す.なお,計算の安定性を確保するため不足緩和とし,
α =0.3 とした.なお,拘束条件を課しているのでこの
計算は連立一次方程式として過条件であり,無限に計算
を繰り返してもδj が完全にゼロとなることはない.その
ため実際の計算では,N 2 回で繰り返しを打ち切った.
ちなみに,式(12)の計算では,測定範囲外の微小粒子
からの散乱光は主に最小径の粒子 dN の散乱光分布で近
似し,測定範囲外の粗大粒子からの散乱光は主に最大径
(14b)
)
P 2
[Fvi ]k +1 = [Fvi ]k − min ([Fvi ]k , α ⋅ ∆Fvi )
(15b)
の粒子 d 1 の散乱光分布と IBG で近似することになる.
プログラムでは,このようにして得られた粒径の頻度
分布 Fv を正規化して出力する.この際,頻度があらか
じめ設定した閾値よりも低い部分は無視する(正規化前,
正規化後とも)
.粒径頻度分布の一例を図 19 に示す.
この図は,図 17 に示した中実円が多数プリントされた
レチクルをレーザービーム上に設置した場合の光強度
分布から算出したものである.レチクル上の中実円の直
径に一致する粒径において頻度が高く,ほぼ妥当に粒径
を測定できているものと考えられる.
プログラムではこれに併せて,粒径が小さすぎる場合
や大きすぎる場合は警告を表示する.また,粒子からの
散乱光が弱すぎる場合や,透過率 T が低く多重散乱の
影響が無視できない可能性がある場合にも警告を表示
する.ここで,文献(3)によると T の値が 0.65 以下(D32
≦20µm では 0.85 以下)の場合には,多重散乱の影響
が無視できなくなるとされる.本システムで評価する T
は光センサーの中心での光強度に基づくものではない.
そこで念のため次式で定義される散乱光の相対的な強
度 S も併せて計算・表示することとした.
N
S=
⎧
⎛
∑ ⎨I M (Θi ) × ⎜⎝ Ri
i =1 ⎩
−
h−
Ri
⎞ ⎫
⎟ Ri ⎬
h⎠ ⎭
I M (Θ0 ) × R0 2
N
⎧
⎛
⎞ ⎫
∑ ⎨I BG (Θi ) × ⎜⎝ Ri h − Ri h ⎟⎠ Ri ⎬
⎭
i =1 ⎩
I BG (Θ0 ) × R0 2
(16)
この S は,同心円状領域#1~#N の総受光量を領域 0
の半径と光強度で無次元化し,その光散乱による変化を
計算したもので,光路上にガラス板を設置した場合など
透過率 T が意味をなさない状況でも目安と成り得る.
これまで調べた範囲では,S の値が 2 程度以上の場合
には多重散乱の影響が見受けられるようである.
プログラムではさらに,粒径頻度分布から,次式によ
り粒子群の体表面積平均粒径 D32,体積平均粒径 D30,
面積平均粒径 D20,長さ平均粒径 D10 を計算・表示する.
D32 = ∑i Fvi
∑i Fvi ⋅ d i −1
1/ 3
D30 = {∑i Fvi ∑i Fvi ⋅ d i −3 }
1/ 2
D20 = {∑i Fvi ⋅ d i −1 ∑i Fvi ⋅ d i −3 }
D10 = ∑i Fvi ⋅ d i − 2 ∑i Fvi ⋅ d i −3
(17)
また,粒径頻度分布を累積頻度分布に変換して,その
10%径 Dv10,50%径 Dv50,90%径 Dv90 ならびに粒径の
均一度 Span =(Dv90-Dv10 )/Dv50 を計算・表示する.
本システムの制御・演算プログラムにおける一連の処
理の概要を表 5 にまとめる.ちなみに,プログラムは
Microsoft Visual C++で記述されており,Windows の
コマンド・プロンプト画面上で動作する.
表 5 制御・演算プログラムにおける処理の流れ
(1) 設定定数の読み込み
(2)
データ・セットの読み込み
(3)
画像取得条件などの設定
(環境の調査,各画像の露光時間の決定)
(4)
固定パターン・ノイズ成分の読み込みと平均化
(5)
粒子が無い状態(Background)の画像の取得
(画像取得,ノイズ除去,合成,中心の計算)
(6)
光強度の半径方向分布を解析する準備
(センサーを同心円状に分割,マスクを作成)
(7)
粒子が無い状態での光強度分布 IBG の計算
(8)
状態を表示,問題があれば(5)からやり直し
(9)
式(9)の連立 1 次方程式の係数行列の作成
(10)
測定:粒子からの散乱光を含む画像の取得
(画像取得,ノイズ除去,合成,中心の計算)
(11)
光強度の半径方向分布 IM の計算
(12)
式(12)を緩和法で解き,頻度分布 Fvi を求める
(13)
頻度分布の正規化,各種平均粒径の計算・表示
(14)
粒径測定範囲の上限付近の頻度分布にノイズ
が見られる場合には,それを無視して再計算
(15)
終了の指示があるまで,(10)から繰り返す
以上のように、表 1 のコンセプトにそった簡易粒径
計測システム(噴霧の平均粒径を測定する低価格で必要
最低限のシステム)を開発した.現状ではまだ問題も多
いものの,噴霧粒径の頻度分布や平均粒径を大まかに測
定するうえで,ある程度は役に立つものと考えている.
しかしながら本システムは,
・ 粒子は球状で,その直径が測定範囲内であること
・ 散乱光の強さ(粒子濃度)が適切な範囲にあること
・ 測定用レーザービームの特性が変化しないこと
・ 測定の過程で光軸がずれないこと
など,レーザー回折法による粒径計測における一般的な
前提条件に加え,
・ 散乱光の強度やパターンに時間変動がないこと
(噴霧の粒径やパターンが時間的に変動しない)
を前提としている.また,本システムは市販システムよ
りも粒径の測定範囲が狭いうえ,市販システムの多くに
組み込まれている以下の機能(6),(7)は付加されていない.
・ 多重散乱の補正
・ 光軸の自動調整
・ 蒸気等による測定用レーザービームのゆらぎ補正
したがって,測定の原理などを理解したうえで,十分に
注意して使用する必要がある.
本システムに関してもう一つ心配な点は,使用部品の
入手の問題である.本システムは所詮,機械屋の手作り
計測器であって,汎用部品類をそれぞれの機能・性能の
制約の下で何とか上手く組み合わせたものに過ぎない.
これらの部品類は,関連業界の技術革新の速さを考慮す
れば,いずれ(さほど遠くない将来)入手困難になると
考えられる.仮にカメラが入手困難になった場合,プロ
グラム中のカメラ制御の部分を新たなカメラに対応す
るよう修正したうえで各部分の調整を取り直す必要が
あるので,相応の手間と時間が必要になる.したがって,
本システムの導入を検討の方は,前倒しで部品類を調達
することをお勧めする.ちなみに,本システムに必要な
部品類の総額は約 28 万円(PC を除く)である.
4.おわりに
本システムを大学・高専などの研究者向けに公開しま
す.導入をご希望の方は第 1 著者までお申し出くださ
い.部品リスト付きの導入説明書や必要なファイル類
(有償ソフトは除く)をお送りします.ただし,以下の
点にご注意願います.バグや不具合等については,ご指
摘いただければできるかぎり対応しますが,サポートに
は自ずと限界があります(基本的に本稿および導入説明
書の説明をもってサポートの限界とします)
.また,本
システムによって発生した逸失損益などについて一切
責任を負いかねます.あらかじめご承知おきください.
皆さんからの試用報告をお待ちしています.
謝
辞
本システムの開発に先立ち,元国士舘大学教授・中山
満茂氏ならびに(独)宇宙航空研究開発機構・林茂氏から
有益なご助言をいただいた.システムの試用・検定では,
豊橋技術科学大学,富山商船高等専門学校,鈴鹿工業高
等専門学校ならびに木更津工業高等専門学校の学生諸
君の協力を得た.各校へのシステムの配布は豊橋技術科
学大学・平成 18 年度教育研究活性化経費(高専連携)
によった.ここに付記して感謝の意を表す.また,日本
液体微粒化学会の微粒化実験・計測法に関する研究分科
会の委員各位にも感謝する.
文
献
(1) 日本液体微粒化学会編,アトマイゼーション・テク
ノロジー,pp.47-68,2001,森北出版.
(2) 日本液体微粒化学会,微粒化研究会「液浸法をマス
ターしよう!」テキスト,2006.
(3) JIS Z 8825-1,粒子径解析-レーザー回折法-第 1
部:測定原理,(2001),日本工業規格.
(4) 伊藤正行,微粒子計測のための高速・高精度ミー散
乱計算プログラムライブラリーの開発,RC114 最適
噴霧制御技術の確立とスプレイテクノロジーの体
系化に関する調査・研究分科会―研究成果報告書
(最終)
,(1994),pp.260-290,日本機械学会.
(5) 瀧澤義順,イメージ・センサの基礎知識,トランジ
スタ技術,42-485(2005-2),pp.116-122.
(6) 東日コンピュータアプリケーションズ㈱,粒度分布
測定装置 LDSA-1500A・カタログ.
(7) シスメックス㈱,スプレー専用レーザー回折式粒度
分布測定装置スプレーテックシリーズ・カタログ.
鈴木 孝司
豊橋技術科学大学
機械システム工学系 准教授
〒441-8580
愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘 1-1
TEL:0532-44-6667
FAX:0532-44-6661
略歴:1991 年 東北大学大学院工学研究科博士後期
課程修了(機械工学専攻),同年 豊橋技術科学大学・
助手,1996 年 同講師,2000 年 同助教授,2007 年
より現職.主に気液界面流動や複合対流伝熱など熱・
流体工学分野の研究に従事.
藤松 孝裕
鈴鹿工業高等専門学校
機械工学科 講師
〒510-0294
三重県鈴鹿市白子町
TEL:059-368-1783
FAX:059-368-1770
略歴:1991 年 山梨大学大学院工学研究科機械工学
専攻修了,同年 鈴鹿工業高等専門学校助手,2004
年より現職.主に気液界面現象ならびに液体微粒子
の粒径測定に関する研究に従事.
斉藤 朗
富山商船高等専門学校
商船学科(機関コース)准教授
〒933-0293
富山県射水市海老江練合 1-2
TEL:0766-86-5226
FAX:0766-86-5110
略歴:1985 年 バブコック日立(株)呉工場 火力設計
部 熱計算 Gr 配属(大型事業用ボイラの熱計算に従
事)
,1990 年 富山商船高専 講師,1996 年 同助教
授,2002 年 博士(工学)現東京海洋大学,2007 年よ
り現職.自然対流伝熱やマイクロバブルの船舶応用
の研究に従事.
林田 和宏
北見工業大学
機械システム工学科 准教授
〒090-8507
北海道北見市公園町 165
TEL:0157-26-9206
FAX:0157-26-9206
略歴:2003 年 群馬大学大学院工学研究科博士後期
課程修了(生産工学専攻),同年 木更津工業高等専
門学校・助手,2007 年より現職.主に燃焼のレーザ
分光計測,ディーゼル機関に関する研究に従事.