ポリアミド酸微粒子の調製、 ヒドロキシアパタイトの積層とポリイミドへの転化 【緒論】 骨や歯の主成分であるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2、HAp)は、細胞接着性、タンパ ク質吸着能、生体親和性などを有することから、化粧品素材、細菌やタンパク質吸着・分離剤、人工骨・歯 などに応用されている。その利用範囲を拡大するために高分子とミクロレベルで複合化させることが行われ ており、この手法としてバイオミネラリゼーション法が開発されている。プロトン解離性の官能基を持った 高分子をヒトの細胞外体液の組成を真似た擬似体液(SBF)に浸漬させることで、その表面にナノオーダー の粒子状 HAp を積層させる方法である。我々はこれまでに、ポリイミド(PI、IV)の前駆体であるポリアミ ド酸(PAA、III)がカルボキシル基を有することに着目し、この手法を用いて PAA フィルム表面に HAp を 積層させること、並びに生成した HAp/PAA 複合体を PI に転化させることについて検討してきた。PI はその 特異な合成法から主にフィルムとして供給されているが、最近、サブミクロンオーダーの粒子状 PI を作製す る方法が開発された。HAp の優れた特性である物質吸着性をより有効に活用するためには、複合体をこれま でのフィルム状から微細で大きな比表面積を持った微粒子形態とすることが望ましい。本研究では、沈澱重 合法を用いた PAAIII 微粒子の調製、HAp との複合化、並びに PIIV への転化の一連の過程について、それぞ れ検討を加えた。 O O C C O C O I O + O C O H2N O NH2 II O HNC CNH HOC COH O HAp C N O O CaCl2 O III -H2 O C O O C O N C O IV n n 【実験】 一例として、無水ピロメリット酸(I)2 mmol と 4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(II)2 mmol をそれぞれアセトン 50 mL に溶解させ、この両者を混合させた後、超音波照射下、室温で 10 分間反応させ た。この過程で PAAIII の微粒子が析出し、懸濁したので、これを遠心分離とアセトン洗浄の操作を繰り返 して精製し、PAA 微粒子 IIIa を得た。これを所定量の SBF に浸漬させ、36.5℃に保持して複合化させた。 並行して、IIIa を 1.5M 濃度の塩化カルシウム水溶液に 1 時間浸漬させて表面処理したもの IIIb、IIIa をトル エン中で 24 時間還流させ、50%までイミド化処理したもの IIIc、加えて IIIb 、IIIc と同様の両処理を加え たもの IIId についても同様にして浸漬実験を試みた。 【結果・考察】 アセトンを溶媒に用いることで、粒径 700 nm 前後の粒径の揃った PAA 微粒子を 90%前後 の収率で得ることができた。溶媒としてアセトフェノン、酢酸エチル、2-ブタノンの使用も試みたが粒径の いくらか小さな微粒子(300-400 または 600 nm 前後)が得られたものでも、収率(80-90 または 60%前後) はいくらか少なかった。SBF に浸漬させた各 PAAIIIa-d 微粒子についてはエネルギー分散型 X 線分光分析を 行った。元素分析(Ca/P の組成比)を求めることで、概ね次のことが明らかとなった。 :1)IIIa 自体に HAp 様物質は積層するが、浸漬時間が長くなると理論組成と比べてカルシウム比が増す。即ち、不純物が増す;2) IIIb では、IIIa と比べて HAp 様物質の積層量は増すが、長時間の浸漬では不純物も増す;3)IIIc にも HAp 様物質が積層し、不純物も少ない;4)IIId に積層した物質の Ca/P 組成比は 6.7/3 で、HAp の理論値 5/3 に最 も近い。現在、これらの積層実験の再現性の確認、並びに複合体のイミド化について進行中である。
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