沖縄におけるエンタテイメント産業振興の可能性 「(CG、アニメーション

沖縄におけるエンタテイメント産業振興の可能性
「(CG、アニメーション)クリエーター育成機関設置」
――概要――
1. 調査報告の意図
〇アニメーションは、世界に通用する日本の有力コンテンツ
現在、世界の劇場やテレビで放映されているアニメーションの6割は日本製の作品だとい
われている。平成15年度の経済産業省の調査では、キャラクタービジネスを含むアニメ
ーション産業の市場規模は約2兆円と概算されている。
(億円)
2000
1860
1611 1588 1637 1651
1500
1327
1408
1519
1593
1069
1000
500
26
0
120
46
261
1970 1975 1980 1985 1990 1992 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
(年)
[電通総研「情報メディア白書2001」、(財)デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書2002」より]
〇CG およびアニメーション・ビジネスの広がり
国内でも地上波デジタル放送やブロードバンド配信などメディアの多様化に伴い、さらな
る需要の拡大が想定される。キャラクターやビデオ販売などの版権ビジネスを含むと、そ
の広がりは計り知れない。
BS、CS放送
地上波放送
ゲーム
キャラクター
映画
アニメ作品
商品化
海外番組
出版
ビデオ、DVD
CM、イベント
インターネット配信
1
〇文化的価値
経済的価値のみならず、日本のアニメーションは文化的にも世界に与える影響は大きい。
1993年
大友克洋監督「AKIRA」
アニメは子供向けとの概念を変えた伝説的な作品
2003年
宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」
ベルリン映画祭・金熊賞受賞、米国アカデミー賞受賞
〇CG、アニメーション産業へ沖縄の参画はありえるか
このように大きな期待がかかる CG、アニメーション産業だが、国内における制作が東京に
集中しているため、他地域からの参画はきわめて困難な状況となっている。そこで、沖縄
ではどのような取り組みが有効かを検討するのがこの調査の目的である。
〇日本の CG、アニメーション制作の現状と問題点
〇沖縄県内の CG、アニメーション制作への取り組み
沖縄が取り組むべき方向性と可能性
〇CG、アニメーションの高等教育機関を、沖縄に設置
日本のアニメーション作品が量質とも世界を凌駕しているにもかかわらず、その人材育成
に目を向けてみると、日本国内には高等教育機関と呼べる施設は一つも存在しない。制作
現場で仕事を通じて直接覚えるのが業界の通例となっている。つまり、人材育成が制作会
社にゆだねられているのである。しかし、商業活動を担う制作会社での人材育成には資金
的、時間的に限界がある。
一方、ヨーロッパ各国では、国立もしくは商工会議所などの運営による半官半民の高等教
育機関があり、近年、韓国や中国にも国立の教育機関が設立され、高度な教育が行われて
いる。アジア諸国が、国家的な取り組みによって日本の「下請け」を脱して日本を脅かす
までに成長を遂げる現在、日本の将来像は必ずしも安泰ではありえない。そこで、沖縄県
が担うべき役割は何か?
沖縄が担うべきは、日本のクリエーター人材育成
〇制作は東京、人材育成は沖縄
本調査は、沖縄に日本初のCG、アニメーションの高等教育機関を設立することによって、
2
人材育成の視点から日本のエンタテイメント産業に貢献し、沖縄がアジアも含めた「クリ
エーター人材育成の拠点」になる可能性を検討し、報告するものである。デジタル技術の
導入によって世界の制作現場が大きく変わろうとする「いま」がチャンスと考える。
沖縄に、日本初の
CG、アニメーション高等教育機関を設置
2.日本のアニメーション制作における人材育成
現時点における日本の CG、アニメーション制作現場の実情を把握することを目的に、関係
者にインタビュー調査を実施した。
1)インタビュー調査要約
期間
平成 15 年10月29日∼11月3日
質問内容
・CG、アニメーション業界の現状
・クリエーターの人材育成への取り組みと意見
・教育機関に関して
・上記項目に関しての現状分析と課題
《質疑応答抜粋》
竹内孝次氏
所属
㈱テレコムアニメーション・フィルム代表取締役社長
http://www.telecom-anime.com/telecom/profile/index.html
・竹内氏は、インターネットによる通信教育「アニメ塾」の創始者であることから、その
実施に関して
インターネットを使って自宅でアニメの動画を学べる教育システムで、地方でアニ
メーションを学びたい人のために開設したが、東京、大阪の受講者が多い。インタ
ーネットの普及率格差の理由によると考えられる。
アニメ界の重鎮、大塚康生氏が考案した課題により、動画の基本的な動きを自分の
ペースで習得することができる。
・アニメーション制作の現状
生産過多で作品のクオリティが落ちている。低予算の作品を大量に作ることによっ
て動画枚数を減らさざるをえないので、絵がどんどん動かなくなっている。
「アニメ
塾」を始めた理由は、そこにもある。
「アニメ塾」では、アニメ本来の絵を動かす技
術を徹底的に学んでもらう。
・人材育成に関して
日本にはアニメーションを理論的に教育する教育システムがない。情緒的な教育の
3
傾向が強い。理屈や議論が苦手な日本人の特徴もあるかもしれないが、アニメーシ
ョンには多分に数学の知識が必要である。
教師、指導マニュアルの不備も深刻な問題だ。
個人的には、教育ということでは、
“読み、書き、そろばん”のような基本的な理解
力という点で、小中学校の教育にまで遡る必要性を感じている。
・沖縄でのアニメーション制作の可能性
一定の作業量と質を保証できる受注者であれば、地方であっても仕事は出せる。イ
ンターネットで結べば、東京とダイレクトにやりとりができる。アニメのデジタル
化が模索されている今という時期を逃せばもはや割り込む余地はないと思う。
徳永元嘉氏
所属
ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン(株)代表
・企業での人材育成に関して
海外では学校で人を育てるが、日本ではスタジオにまかされている。しかし、人材
育成はコストがかかりすぎて企業には負担である。コストに見合うほど、人は育た
ない。ディズニー・ジャパンを設立して 14 年間で、100人くらいが入社してきた
が、優秀なアニメーターは10人もいない。
・国内の教育システムについて
韓国やカナダ、フランスでは国が援助している。輸出文化として国が援助し、人も
育てる。日本の場合、アニメーションの専門学校はビジネスで、教育機関とはいえ
ない。
講師にも問題がある。教育とは考え方を植えつけることだが、生産性優位に陥りが
ちだ。
・制作体制も変わる
何百人で作っていたのが、これからは何十人で作れるようになるかもしれない。そ
うなると、トップクラスの厳選された人材が必要になる。
・沖縄でのアニメーション制作に関して
地理的にはアジアの国々の中心だから、その環境を活かしたアニメーション制作が
十分考えられると思う。
竹内一義氏
所属
ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン(株)
アニメーター
・アニメーションとの出会い
大学のサークルでアニメーションを自主制作した。卒業後、「竜の子アニメ研究所」
のアニメーター要請講座に通い、アニメ技術の基本中の基本を習った。6ヶ月の間
に10個の課題があり、1つ1つ解決して前に進んでいくのだが、6 人の研修生の間
4
で少しずつ差がついていき、自分は 3 ヶ月で本番に入ったが、入れなくて辞めてい
く人もいた。
その後、「東京ムービー」(現「トムス・エンタテイメント」)というプロダクション
に入り、実践で仕事を覚えていった。
・技術の習得には何が重要か
自分の仕事を客観的に見ること。理解力。理想を高く持つこと。一番大事なのは審
美眼。理想を高く持ち、審美眼を鍛える、この二点だと思う。
・日本のアニメ教育に関して
画一化している。即戦力を鍛える学校はあるが、人を育てる学校がない。若いうち
にエネルギーを使い果たして育たない。個性的な人材を見つけ、育てる学校が必要
だ。
学校のいいところは、同じ目的を持った人と知り合えるということ。飛びぬけた才
能を持っている人が一人でもいれば、その周りは確実に変わる。
・企業の人材育成
人が育たないのは、業界の使い捨てという要因もある。仕事はきつい、ギャラは安
い。その結果、余裕がなくていろいろな要求に対応する力がつけられなくて応用の
利かないアニメーターになってしまう。企業には余裕がないから、人材育成に手が
回らないのが現状だ。制作本数が多すぎる。もっといい作品を作りたいが、アニメ
ーターが足らなくて一人が二、三本の作品を掛け持ちしている。
・教える側に関して
先生を集めるのはじひじょうに難しいと思う。どんなシステムを作っても、動かす
のは人だから。教育において大事な点は、アニメーションを文化と見なすかどうか
というところだと思う。
中村亮介氏
所属
㈱マッドハウス
演出部勤務
http://www.madhouse.co.jp/
・ 会社の新人研修システムについて
「マッドハウス」では、3 ヶ月の研修カリキュラムと動画 1 年が研修期間。研修終
了後、2、3人で一人の原画、動画検査について、動画の仕事を実際にやることを
通じて指導を受ける。その後、原画テストを行って適性が判断される。
昔より動画から原画になるのが早くなっているが、残念ながら動画の収入では生活
していけないというのが現実なので、早く経済的に自立させるという意向もあるの
だと思われる。
・ 日本の教育機関
専門学校が貧弱すぎると思う。初歩的なことを知るにはいいが、会社に入って仕事
をやりながら技術を身につけたほうが上達は早い。学校運営には、学校でないとで
きないことは何か、という考え方をするべきだと思う。
5
・ 専門学校に通った経験から
大学在学中から東映によるアニメ学校「東映アニメーション研究所」へ通った。当
研究所は専門学校の中ではよいほうだが、もっとがんばってほしいという気がした。
現役のクリエーターのレクチュアが一番役にたった。
情報が古くならなくてよい。
・ アニメーション専門学校への要望
専門学校に望みたいことは、一時期、アニメ漬けにするような濃密な時間を過ごさ
せてほしいということ。アニメをやるためにはアニメのことだけを知っていればい
いのではない。学生の間に見ておくべき実写映画、アニメーション、読まなければ
いけない書物や文献、コンピュータ・ソフトの知識、カメラやレンズの知識や撮影技
術、デッサンやスケッチなど、将来アニメ制作に従事するための準備で途方もなく
忙しくさせる。そういう濃密さが欲しい。
米林宏昌氏
所属
(株)スタジオジブリ
アニメーター、作画監督
http://www.ntv.co.jp/ghibli/
・アニメーションの技術をどのようにして身につけたか
子供の頃から絵を描くのが好きで、大学のデザイン科に入り、在学中にアルバイト
でアニメーションを作った。アニメ制作に関しては経験も技術もなかったので手探
りで制作した。その経験がアニメの道に進むきっかけになった。アニメの技術は会
社に入ってから研修で学んだが、自主制作の経験があったので習得は早かった。
・会社の研修
3 ヶ月間の研修期間が設けられていた。実技と同時に講義もあり、アニメ制作全般に
わたって理解できるようになっている。さらに実地研修に進み、先輩についてより
実践的な技術を身につけていく。研修終了後、2 年の動画期間を経て、原画テストに
合格して原画になった。
大塚康生氏
アニメーター、作画監督
(株)テレコムアニメーション技術顧問、「アニメ塾」塾長
・現在の日本のアニメーション業界の現状
いま、日本国内では週に 130 本以上のアニメ作品が制作されている。これは異常な
制作量。過剰生産、供給過剰、いわばバブル状態である。その結果、絵の動きが少
ない粗悪品が出回っている。作品の多くは視聴率2、3パーセントで、そのうち視
聴者から見放されるのではないか。商品化による利益、海外販売、再放映などの収
入を当て込んで制作されているが、こういう異常な状況は長くは続かないだろう。
また、年々絵が複雑化する傾向にあり、アニメーターはまだ 1 枚/何円で生活して
6
いるので能率が落ちてついていけなくなっている。韓国や中国を下請けにしてしの
いでいるが、新しい才能を育てる土壌が失われつつある。
・制作現場の問題点
工程の「仕上げ」「美術」は効率化が進み、ペイできるようになっている。「作画」
が赤字。
「動画」の CG 化を考える必要がある。
「アニメ塾」には、手描きのコンピュ
ータ化の目的もある。全国どこに住んでいても、パソコンで「動画」の中割りから
始めて「原画」として育てるという試みである。
・アニメ教育に関して
たとえば、仕事をしながら自宅で学べるのが「アニメ塾」だが、続けるにはある程度
の忍耐を必要とする。最近の若い人は辛抱するのが苦手。早く上手くなろうとする
ので、プロダクションに入ったほうが早いということになる。
専門学校では即戦力として役に立つ技術しか教えていない。もっと長期的な視点に
立って基本から教えるべきだが、流行の真似で終わっている。就職できるかどうか
ということもあるので悪循環になっている。
また、日本は欧米とちがって理論が苦手。理論的に整理して教える教育がない。こ
れは大きな問題だ。
・沖縄でアニメ制作をするには
地方で採算がとれるアニメーション制作は極めて困難だ。しかし、文化的、実験的
な創作としてなら、アニメーションは地方でも十分制作できる。沖縄には独特の音
楽や文化があるので、それらとリンクして独自性を発揮し、地元の視聴者の心を掴
むといったことも考えられる。僕だったら、シーサーをキャラクターとして動かし
てみたい。
中島
興氏
映像ディレクター・美術家
武蔵野美術大学造形学部映像科講師
・人材育成に関して
企業の人材育成ではアニメ兵を大量に養成しているようなもので、監督、作画監督、
脚本家、演出家、プロデューサーなどの高度なポジションに人材が育成されていな
い。企業が効率主義、大量消費主義になるのはしかたがないが、企業は自社に必要
な人材しか養成しない。
自主制作しているクリエーターは、教育アニメなどの仕事をし、そのお金を貯めて
自分の作品を作っては企業や放送局に売り込んでいる。最近は個人アニメの作家が
少なくなり、アニメおたくは大勢いるが、作家になる人が育っていない。社会の意
識にも原因はある。社会が良質の作品を求めていない。誰もが企業人間になって、
自分の作品は自分で作るという、個人作家の独立心や意識が社会全体に薄れてきた
のかもしれな。
・日本のアニメ業界の現状
7
ジャパニメーション産業は大きな産業に育ってきているが、企業と個人
との対立があると思う。アニメ産業の成長は配給会社や出版社、機材メーカーのメ
リット(儲け)を作り出すことには貢献しているが、制作者にはあまり還元されてい
ない。
・映像教育、教育者、カリキュラムの問題
日本はハード寄りのものを作る傾向がある。機材の開発には企業が関係するのでお
金をかけるが、ソフト制作にはハードほどのお金をかけない。
同様に、日本は教育にお金をかけない。だからよいカリキュラムもできない。日本
の映像教育には満足なカリキュラムやマニュアルがないのが実情である。当然、参
考書や副読本がないのできちんとした講義ができない。
教育者の問題は、美大や専門学校の先生が作品を制作しないことにもある。制作現
場に接していない人間に教育できるのかどうか疑問だ。
・海外の教育現場
アムステルダムでは幼稚園からアニメの授業がある。フランスの国立教育機関では、
物語性、ストーリー、絵の技術、メカニックの操作、スタッフとの協調性などの素
質を持っている生徒を選んで高度な教育を行っている。動きにはそれなりの構造、
システムがあり、その動きがどこから出てくるのか、かなり科学的に見る能力が必
要である。
・アジア諸国の動き
アジアの国々では、アニメや漫画を国の文化戦略に位置づけて国家政策として取り
組んでいる。日本がアニメで数兆円も稼いでいることを知っているからだ。中国は、
中学、高校にアニメ科を作っている。インドは小学校から中割をやらせている。そ
の内にアジアはアニメビジネス戦争になるかもしれない。
城戸孝夫氏
所属
(株)ディ・ストーム取締役
http://www.dstorm.co.jp/
スキップシティ事業運営部スーパーバイザー
私立東京工業大学アニメーション学科非常勤講師
・埼玉県新産業拠点「SKIP シティ」の運営に関して
中核施設である「彩の国ビジュアルプラザ」には、スタジオ、映像
ホール、インキュベート施設、映像ミュージアム、映像公開ライブラリーが整備さ
れている。映像の制作から編集、発表まで一貫して行うことができる施設だが、完
成したモデルかというとまだまだである。優秀な人材が集まらなければ、感性を伴
ったデジタルワークは難しい。施設を利用しながら人材育成も行っていきたい。
・デジタル化に伴う人材育成に関して
人材育成は難しい問題で、デジタルという新しい環境が発生してさらに複雑になっ
ている。デジタル化で享受できるもの多いが、やはりここでもデジタル機能を適切
8
に活かしていく人材の不足と育成の問題がある。
・大学でのアニメーションの人材育成に関して
アニメーション基礎とコンピュータ基礎の二つのカリキュラムを同時に指導する。
コンピュータが嫌いにならないような指導を心がけている。
2)インタビューのまとめ――制作現場に何が起こっているか
1.制作工程の一部がアジア諸国へ流出
制作工程の「動画」、「仕上げ」が人件費の安い韓国、中国などアジア諸国へ発注され
るようになり、その発注量は年々増加している。制作工程の一部が空洞化することに
よって国内の仕事量が減少し、人材も減りつつある。
一方、アジア諸国がアニメ制作の技術を習得し、自国で一から制作するほどの力をつ
けて日本を追い上げている。
2.人材育成の空洞化
日本国内にアニメーションおよび CG の高等教育機関と呼べる施設は1つも存在しない。
人材育成は各プロダクションの自主性にまかされている。人材育成にも空洞化が起こ
っている。
3.クリエーターの厳しい労働環境
長時間労働、低賃金。2兆円規模のアニメーション産業だが、その利益は制作現場に
はほとんど反映されない。クリエーターの労働環境の改善には、行政の対策と同時に
各企業がビジネス環境を確立するなど企業努力も不可欠。
国家の重要産業、文化資産と位置付けた対策が望まれる
↓
・公の高等教育機関の設置
・クリエーターの労働環境の改善
3.沖縄県内の CG、アニメーション制作と人材育成について
1)沖縄県による失業対策としての取り組み
沖縄県では、平成10年度より、
「沖縄県マルチメディアアイランド構想」に基づき、県内
の情報通信関連企業の集積と振興に取り組んでいる。当構想は、情報の産業化を推進し沖
縄の経済的自立を目指すことを目的としているが、その一環としてアニメーション制作お
よびクリエーターの人材育成が行われている。
9
〇事業概略
平成12年∼13年、フロム沖縄推進機構へ業務委託して、受講者を公募し、アニメーシ
ョンに関する講義が行われた。平成14年からはフロム沖縄への補助事業として実施され、
講義とともに技術研修が行われた。平成15年度は、緊急地域雇用創出特別事業として県
産業振興公社へ委託の上、沖縄県内のスタッフによるオリジナル短編アニメーション(タ
イトル/「海が大好き」)が実際に制作され、沖縄県産業祭で上映された。
〇上記事業の目的
・ コンテンツ制作の一ツールとして
・ 情報化に伴う人材育成
・ 若年層向けの失業対策として
〇今後の計画
沖縄県が主体になる事業は平成 15 年度で終了。今後は各市町村が中心となって推進してい
ってほしい。沖縄県は市町村の動きをバックアップする。
2)沖縄市の取り組み
沖縄市では、台湾のアニメーション制作会社との提携による CG アニメーション制作が行わ
れている。インキュベート施設「沖縄市 IT ワークプラザ」に入居する CGCG スタジオ、シ
リコンスタジオと沖縄テレビの3社が、以下2点に賛同し、テレビ・シリーズ「ジェイコブ
の屋根」を制作、放送した。
1.沖縄県 e-island 構想の1つであるコンテンツ産業の集積、育成を図るためには、企画、
脚本、演出から制作に至るまでコンテンツ制作のすべてを沖縄で行い、より多くの視聴者
の評価を得ることが大切である。
2.沖縄においてコンテンツビジネスを継続的に発展させるためには、第1に、日本国内
のみならず世界においても十分な競争力を有する作品を企画演出できる人材の発掘と発表
の機会の提供が大切である。第2に、沖縄に既に存在するさまざまなコンテンツ制作用施
設を有効活用することによりローコスト名生産体制が構築でき、より多くの収益が獲得で
きる可能性のあるライツビジネスが展開できるコンテンツ領域としてデジタルアニメーシ
ョンが有望である。
「ジェイコブの屋根」は1話3分のフル3Dアニメーション、全10話。平成14年10
月より約3ヶ月間にわたって放送された。
3)問題点と課題
10
沖縄県ならびに沖縄市 IT ワークプラザを拠点とする CG、アニメーション制作を取材した結
果、以下の問題点と課題が考えられる。
1.県内の雇用創出
人材育成事業で技術を身につけても県内に就労の場がない
2.自立を促す支援体制
自立を支援するバックアップ体制がない
3.人材不足
コンテンツ制作の技術を持つ人材の不足
プロデューサー、マネージャーなどの専門的な能力を持つ人材の不足
高度な機材を操作するオペレーターなどの不足
4.各地インキュベート施設の有効活用
インキュベート・マネージャーの人材不足
施設間の連携の促進
4.沖縄県内インキュベート施設
県内各地には、地域の情報化、コンテンツ制作、企業誘致の拠点としてインキュベート施
設が建設されている。CG、アニメーション制作の拠点としても期待される以下の施設を取
材した。
・沖縄市 IT ワークプラザ
・名護市マルチメディア館
・嘉手納町マルチメディアセンター
・北谷町美浜メディアステーション
・宜野湾ベイサイド情報センター
現状を把握するためには、現場の視察と同時に現場の意見を聞くことが不可欠と考え、施
設見学と同時に担当者のヒアリングを行った。その結果、各施設が直面している主要な問
題点と課題が共通していることがわかった。
1.人材不足
と
2.施設間の連携
1.人材不足について
・施設を運営するプロデューサー的な人材
・入居企業のビジネスサポートができるマネージャー的な人材
・高度な機材を操作できるオペレーター等の技術者
人件費、人材育成等の予算がとれない、人材育成のノウハウを持っていない等の理由
による。
2.施設間の連携について
11
各担当者全員が連携の必要性を感じているが、各施設が単独で運営されている。連携し
て相互の機能を補完することによって施設本来の機能をより高めることができると考
えられる。
連携には、光ファイバー敷設などのインフラ、役所間のシステムの整備等の課題が残さ
れている。
5.フランスの CG、アニメーション教育機関について
昨今、国際的なコンペティションで受賞が目立つフランスの CG、アニメーション教育機関
の取材を行った。フランスは、アメリカや日本の商業アニメーションとは一線を画した芸
術性、個性の際立った作品で高い評価を得ている。フランスではどのような教育がなされ
ているのか、またクリエーターにはどのような環境が必要なのかを視察するため、教育現
場の見学を実施した。
〇取材期間
平成 15 年 6 月 22 日∼7 月 4 日
〇取材内容
・各学校の概要
・関係者インタビュー
・資料収集
・最終学年生の卒業作品審査参加
〇取材先
1.アールデコ大学(パリ)
美術大学にアニメーション科が設置されている。1 学年の定員約 15 名。技術より芸
術性重視の教育が行われている。
2.ゴブラン映像高等教育学校(パリ)
フランスでトップレベルと言われるアニメーションの専門学校。創立 30 年の歴史が
ある。パリ市の商工会議所によって運営されている。徹底した技術教育が行われて
いる。
3.シュパンフォコム(ヴァランシエンヌ)
ベルギー国境に近いヴァランシエンヌという工業都市にある3Dアニメーションの
専門学校。ゴブランと並ぶトップクラスのレベルと評価され、定員25から30名
に、フランス中から700名以上の入学希望者が受験する。
4.アングレームの IT 化
中世の町並みを残す南部の中堅都市だが、「漫画」をキーワードに IT 化を推進して
いる。フランスでは、漫画といえばアングレームである。
・毎年、国際漫画フェスティバルが開催される。
・国際漫画映像センターが設立されている。
・LIN、EMCA などの CG、アニメーションの専門学校がある。
・町の建物に漫画の壁画を描き、観光客を楽しませている。
12
〇フランスのCG、アニメーション教育の共通点
・地元の商工会議所が母体となっている
・生徒数が少ない(一学年定員20∼30名)
・入学時に生徒を厳選している
・現役のクリエーターを教師に迎えている
・著作権に匹敵するカリキュラムを確立している
・徹底した技術教育が行われるが、技術者ではなく、
創造性に富む人材を育てようとしている。
CG、アニメーションを国家資産として位置づけた高度な教育を実施
6.沖縄はどのように取り組むべきか
・ アニメーション制作の現場は東京に集中しているので、他の地域からの参画は困難と考
えられる。
・ 国内にアニメーションの高等教育機関は存在せず、将来の制作体制が危ぶまれる。
そこで、沖縄が取り組むべきは、クリエーターの人材育成
を通じて日本のエンタテイメント産業に貢献すること
〇とくに、以下4つの理由から「シュパンフォコム」が沖縄における学校運営のモデルに
なりえると考える
1.失業対策の職業訓練校としての出発
シュパンフォコムがあるヴァランシエンヌ市は、かつて鉄鋼の町だったが約20年前
に鉱山が閉鎖、失業率が30%に上った。そのとき、地元の失業対策として職業訓練
校が設立され、その一つがシュパンフォコムだった。設立以来15年を経た現在、フ
ランスで最も入学が難しい高等教育機関の一つに数えられるほどの成功を収めた。
2.地域振興の起爆剤
学校の成功を起爆剤に、地元の商工会議所が中心となって企業誘致を促進した。その
結果、ヴァランシエンヌは鉄鋼の町から IT 推進都市へと復活をとげ、現在、失業率も
10%以下に回復している。学校の波及効果を行政に取り入れて地域振興に取り組ん
だ成功例である。沖縄県内でも、地域の IT 化、振興を促進する触媒として学校運営を
位置づけた展開を検討したい。
3.洗練された高度なデジタル技術
シュパンフォコムでは高度なデジタル技術で3Dアニメーションの教育が行われてい
13
るが、一見2Dに見える自然でリアルな表現に定評がある。あたかも画家の絵筆、あ
るいは職人の道具の延長線上にあるようなコンピュータの使い方・・・このようなコン
ピュータ表現は世界でも貴重な技術教育と思われる。この教育を日本に導入すること
は、今後ますます盛んにデジタル技術の導入が予想される制作現場に多大な貢献が期
待される。
4.一兵卒ではなく、指揮官を育てる高等教育
現在の日本の人材育成は、技術者の大量育成の傾向にある。しかし、今後のコンテン
ツ制作、ライツ・ビジネス等においては高度な分野の人材の圧倒的な不足が懸念される。
シュパンフォコムをはじめフランスの教育機関では、技術指導だけでなく、テーマ、
物語の創作から演出、シナリオ、デジタル技術、実際の制作まで一貫して作品を制作
できる人材養成が行われている。生徒数を限定すること、美術史、映画批評から実技
までを網羅するカリキュラム、第一線の現場で活躍する人材を教師に招いていること、
この3つのポイントが高度な教育を実現している。
7.「シュパンフォコム日本校」設立の可能性
国内に例のない高等教育機関の設置となると、ゼロから着手するのは並大抵のノウハウで
は成功しない。しかし、日本にいながらにしてフランスのトップクラスのカリキュラムが
学べるとなると、日本中からの受講者が期待される。そこで、沖縄とシュパンフォコムと
の提携の可能性を考えてみたい。シュパンフォコムのマリー・アンヌ・フォントニエ校長
およびヴァランシエンヌ市商工会議所のイヴ・ロゼ会頭との協議の結果、以下を報告する。
〇なぜ、シュパンフォコムなのか?
・フランスでトップクラスの高等教育機関
・トップクラスの人材を育成する教育方針、カリキュラム、教育者陣
・高度で芸術的なデジタル技術の表現力に特徴
〇沖縄との共通点
・立地が中心(パリ、東京)から離れている
・ヴァランシエンヌ市は失業率が高い
・職業訓練校(失業対策)としてのスタート
〇海外での学校展開はあり得るのか
・世界中からオファーがきている(とくにアメリカと台湾が熱心)
・外国への学校設立および海外の大学との提携を考えている
〇提携の条件は何か
・カリキュラムは著作権のようなもの。ロイヤルティ・フィーが発生する
・学校運営は一種のブランド。海外展開の場合もブランドのカラーは維持する
〇シュパンフォコム日本校を沖縄に設立するのは可能か
14
・沖縄を一番乗りと見なす(平成15年11月現在)
・2年くらいの期間内に設立を具体化する
・事業計画の提出が必要
〇設立準備の現状
・地域振興の一環と位置づけた学校設立のためには何らかの公的機関の参加が不可欠
と考え、設立準備組織の必要性を県内の市町村、商業団体、大学に働きかけている
8.学校設立の波及効果
〇地域活性化、振興の触媒として機能
〇人材育成事業から日本のエンタテイメント産業に貢献
〇エンタテイメント人材育成と交流において沖縄がアジアの拠点に
〇タイム・ラグを利用した試み(海外との提携による時差を利用した 24 時間体制のコ
ンテンツ制作、サテライト・システムによる双方向授業等)
9.設立スケデュール案
契約交渉
印刷物
入学 試 験
告知 P R
学生 募集
研修
設立 に 伴う 事 の 手 続き
教師確 保
15
フラ ン ス 現 地 見 学
建 設 予 定地
設立 準 備 室
事業 計 画
契約
開校
9月
16