3 人間関係の形成 (1) 他者とのかかわりの基礎に関すること 人に対する基本的な信頼感をもち,他者からの働き掛けを受け止め,それに応ずることができるよ うにすることが大切であることを意味している。 状 態 像 具体的指導内容例と留意点 人に対する認識がまだ十分に育ってお ・ 抱いて揺さぶるなど幼児児童生徒が好むかかわり らず,他者からの働き掛けに反応が乏しい を繰り返し行って,かかわる者の存在に気付くこと 重度の障害がある場合 ができるようにする。 ・ 身近な人と親密な関係を築き,その人との信頼関 係を基盤としながら,周囲の人とのやりとりを広げ ていく。 他者とのかかわりをもとうとするが,そ ・ 直接的に指導を担当する教師を決めて,教師との の方法がまだ身に付いていない場合(自閉 安定した関係を形成する。 症) ・ やりとりの方法を大きく変えずに繰り返し指導す る。 ・ 相互にかかわり合う素地をつくり,方法を少しず つ変えていく。 ・ 言葉だけでなく,具体物や視覚的な情報を与える。 相手の顔が見えない,見えにくいため ・ 相手の声が聞こえてくる方向に向ける。 他者とのかかわりが消極的,受動的にな ・ 相手との距離を意識して声の大きさを調整する。 る傾向がある場合 ・ 一緒に活動している友達や周囲の状況が変化した 場合は,必要に応じて,近くにいる友達に援助を求 めたり,他の友達のところへ連れて行ってもらった りする。 (2) 他者の意図や感情の理解に関すること 他者の意図や感情を理解し,場に応じた適切な行動をとることができるようにすることが大切であ ることを意味している。 状 態 像 具体的指導内容例と留意点 言葉や表情,身振りなどを総合的に判 ・ 相手の言葉や表情などから,立場や考えを推測す 断して相手の心の状態を読み取り,それ るような指導を通して,相手とかかわる際の具体的 に応じて行動することが困難な場合(自閉 な方法を身に付ける。 症) 相手の表情を視覚的にとらえることが 困難である場合(視覚障害) ・ 聴覚的な手掛かりである相手の声の抑揚や調子の 変化などを的確に聞き分けて,話し相手の意図や感 情を的確に把握する。 ・ その場に応じて適切に行動することができる態度 や習慣を養う。 視覚的な手掛かりだけで判断したり, 会話による情報把握が円滑でないため自 己中心的にとらえたりしやすい場合(聴覚 障害) ・ そこに至るまでの状況の推移についても振り返り ながら,順序立てて考えるなど,出来事の流れに基 づいて総合的に判断する経験を積ませる。 ・ 聴覚活用や読話等の多様なコミュニケーション手 段を場面や相手に応じて適切に選択し,的確に会話 の内容を把握する。 (3) 自己の理解と行動の調整に関すること 自分の得意なことや不得意なこと,自分の行動の特徴などを理解し,集団の中で状況に応じた行動 ができるようになることが大切であることを意味している。 状 態 像 具体的指導内容例と留意点 過去の失敗経験等の積み重ねにより, ・ 本人が容易にできる活動を設定し,成就感を味わ 自分に対する自信がもてず,行動するこ うことができるようにして,徐々に自信を回復しな とをためらいがちになることがある場合 がら,自己の理解を深めていく。 (知的障害) 経験が乏しいことから自分の能力を十 ・ 自分でできること,補助的な手段を活用すればで 分理解できていないことがある場合(肢体 きること,他の人に依頼して手伝ってもらうことな 不自由) どについて,実際の体験を通して理解を促す。 状況にそぐわない行動をすることがあ ・ 状況に合わせて行動することが自分は不得意であ るために友達に受け入れられず,集団参 ることを理解し,行動する前に周囲の状況を観察し 加が難しい場合(ADHD) たり,状況を理解するゆとりをもつようにしたりす る態度を身に付ける。 ・ ロールプレイのように,できるだけ具体的な状況 を設定して指導する。 特定の光や音などにより混乱し,行動 ・ 光や音に対して少しずつ慣れたり,それらの刺激 の調整が難しくなることがある場合 を避けたりすることができるように,感覚や認知の (自閉症) 特性への対応に関する内容も関連付けて具体的な指 導内容を設定する。 (4) 集団への参加の基礎に関すること 集団の雰囲気に合わせたり,集団に参加するための手順やきまりを理解したりして,遊びや集団活 動などに積極的に参加できるようになることを意味している。 状 態 像 具体的指導内容例と留意点 目で見ればすぐに分かるようなゲーム ・ あらかじめ集団に参加するための手順やきまり, のルールなどがとらえにくく,集団の中 必要な情報を得るための質問の仕方などを指導し に入っていけないことがある場合(視覚障 て,積極的に参加できるようにする。 害) 場面や相手によっては,行われている ・ 背景を想像したり,実際の場面を活用したりして, 会話等の情報を的確に把握できにくいこ どのように行動すべきか,また,相手はどのように とがある。日常生活で必要とされる様々 受け止めるかなどについて,具体的なやりとりを通 なルールや常識等の理解,あるいはそれ して指導する。 に基づいた行動が困難である場合(聴覚障 害) 友達との会話の背景や経過を類推する ・ 日常的によく使われる友達同士の言い回しや分か ことが難しく,そのために集団に積極的 らないときの尋ね方などを,あらかじめ少人数の集 に参加できないことがある場合(LD) 団の中で学習する。 遊びの説明を聞き漏らしたり,最後ま で聞かずに遊び始めたりするためにルー ルを理解していないことや,ルールを理 解していても,勝ちたいという気持ちか ら,ルールを守ることができないことが ある場合(ADHD) ・ ルールを少しずつ段階的に理解できるように指導 する。 ・ ロールプレイによって適切な行動を具体的に学習 したりする。 ・ 遊びへの参加方法が分からないときの不安を静め る方法を学習する。
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