ベットサイドで見極める 標準的嚥下評価法 大石歯科医院(千葉県)大石善也 地域において摂食・嚥下リハビリテーションを実施するにあたり、誤嚥の有無を確定する 画像診断を適時に利用できる要介護者は少ない。さらに、透視X線装置の設置場所に搬送 することが難しい場合や、嚥下内視鏡検査実施において、鼻腔に挿入した状態での嚥下機 能評価の問題点や挿入できない方が多いことも事実である。しかしながら、このようなケ ースにおいても誤嚥リスクの評価や安全性の確認をしながら、食べるという機能を維持・ 回復させることは尊厳あるケアのなかで重要な要素であり医療者の使命でもある。 現在、各職種内で詳細な評価表は確立されているが、今後は、職種間の役割も重複が大 きく交換性が高いことより、どの職種においても標準的に嚥下リスクや食形態を判定する ことが必要となる。そのためには、簡便であり、かつ根拠のある 1 枚の共通評価法と検査 方法を実施し、それぞれの立場から食塊の咽頭部通過環境(誤嚥リスク)を主治医に提出 して、十分なリスク管理下のもとでチームアプローチを実践することが望まれる。 そこで、どの職種も 1 度のセミナーにて、現在の食形態が安全であるか?経口摂取が可 能かどうか?を把握する標準的な評価表と頚部聴診検査の習得が必要となる。今回、嚥下 造影所見の誤嚥に対するオッズ比や脳卒中ガイドラインを参考にし、最低限度必要な評価 表を作成し、頚部聴診法を実施することで、ベットサイドにて 10 分ほどで簡便に誤嚥リス クを評価し、各職種の専門的な考察欄(意見)を挿入した標準的評価表を作成した。 Ⅰ.ビデオ嚥下造影所見における誤嚥に対するオッズ比 103 名 脳卒中患者 《口腔相》 口唇閉鎖 : 口唇閉鎖不全 2,82 舌の突出 2,33 時間延長・残留 : 口腔内残渣 1,77 口腔通過時間の遅延 1,70 咀嚼・食形態 : 食塊形成不全 1.67 咀嚼機能の減弱 1,25 1,20 嚥下動作前の食塊の咽頭流入 《咽頭相》 誤嚥 : 喉頭挙上の低下と喉頭蓋閉鎖不全 4,22 鼻咽腔閉鎖不全 : 鼻腔への逆流 4,10 咽頭残留 : 梨状陥凹への食塊残留 3,20 嚥下後の咽頭壁への残留食塊の付着 2,93 喉頭蓋谷への食塊残留 2,75 嚥下反射惹起遅延 2,98 咽頭通過時間の遅延 1,18 嚥下の繰り返し 1,82 嚥下反射遅延 複数回嚥下 : : 第 14 回 Tai Ryoon Han 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会 招聘講演 Seoul National University College of Medicine リハビリテーション科 医師 Ⅱ.嚥下のメカニズム Fig.1 認知期(先行期) :食物の認識 認知期は何をどのくらい、どのような方法でどれ くらいのスピードで食べるか(ペーシング)とい う意思決定をする段階です。主に認知症患者が問 題となり、食べている事を忘れたり、口に含んだ まま飲み込まない等様々な問題が生じます。この 時期のポイントは、見た目(視覚) 、におい(嗅覚) と記憶です。 Fig.2 捕食期:口への取り込み 脳卒中術後等にて、口唇に麻痺があると口唇で食 物を取り込むことが困難となり、こぼしたり、ま た、無理に飲み込もうとしても口腔内圧を上昇す ることが出来ず、丸呑みになり誤嚥・窒息の危険 があります。口唇部位は随意運動ですので、口唇 のリハビリにて回復が望めます。 Fig.3 咀嚼期(準備期) :咀嚼と食塊形成 食物は顎・舌・歯・頬の協調運動にて唾液と混ぜ られ、咀嚼して飲み込みやすい形態となり『食塊 (しょっかい)』が形成されます。そして、舌の上 のくぼみに食塊がのせられ、飲み込む準備が整い ます。唾液のような液体においても舌の上の中央 に置いてから、嚥下が始まります。 Fig.4 口腔期:咽頭への送り込み 食塊は舌の運動にて、口の中~奥舌~咽頭に送 り込まれます。この時舌の先は上の前歯の後ろ からスタートして、その後舌を口蓋に押し付け ることで、食塊が咽頭に送り込まれます。同時 に鼻咽腔が閉鎖されることも重要です。ALS、 パーキンソン病や、舌の運動制限がある場合は、 舌を上に持ち上げることが出来ないため、送り 込みが不十分となります。舌を下方に圧迫した り、舌を動かすリハビリが効果的です。 Fig.5 咽頭期:咽頭通過、食道への送り込み 咽頭に送り込まれた食塊は、一連の嚥下反射と して、一瞬のうちに食道に送りこまれます。水 などの液体がむせやすいのは喉頭蓋のすきまを 通過しやすいからです。アイスマッサージや意 識して唾液を飲み込むことや、液体はトロミ剤 等を加えたり、食形態の判定が必要となります。 Fig.6 食道期:食塊の食道通過 食道に食物が送り込まれると逆流しないよう に、食道入り口部が瞬時に閉鎖して、蠕動運動 にて胃に運ばれます。食道入口部の通過障害に はバルーンで拡張する方法があります。 《 咽頭通過時の環境(誤嚥リスク)に影響を与える主な部位と要因 口腔・咽頭通過 時間の遅延 口唇・鼻咽腔 閉鎖不全 舌・頬・顎に よる送り込み 口内・咽頭部の 食塊の残留 》 ベットサイドで見極める ―標準的な嚥下評価― 医療者用 患者名 : ○ ● 男・女 No 年齢 歳 原疾患 : 複数あれば記入 病歴 : 発症日から入院既往歴や摂食に関する経過 肺炎の既往歴 : 過去 2-3 年間 ( ) 摂食状態 □ 絶食 ( 年 月より) □ ペースト・ミキサー食 □ キザミ食 □ トロミ剤有り □ むせ □ 水分のむせ □ 咽頭残留 □ 食べこぼし □ 咽頭違和感( ) □かすれ声 □ 時間(45分) 《嚥下評価:問題点をチャックし状態を記入 記録日: 年 月 日 時》 □ 指示 : 開眼・開閉口・離握手の指示 (□ 覚醒 □ 認知 □ 理解) 指示が入らない場合は、1mlトロミ冷水や飴なめにより判断する。 □ 麻痺 : 舌出し・カーテン兆候・前額部 (□ 運動 □ 知覚 □前額部) 口内と口蓋垂の偏位を観察する。前額部の麻痺側にしわを寄せることも確認。 □ 送り込み : 舌出し (□ 可動域 □ 前後 □ 左右) 口唇から1cmくらい舌を突出できるか確認。口腔・咽頭通過時間の遅延。 □ 弁閉鎖 : 口唇閉鎖と姿勢 (□ 座位: °□ 頚部安定) 口唇を閉鎖し、えくぼをつくるくらいしっかり出来るか?首のすわりが可能か? □ 弁閉鎖 : 頬ふくらまし (□ 鼻咽腔閉鎖 □ 嗽の可否) 頬をふくらまし、鼻から息がもれないかテッシュ等で 2 回確認する。 □ 呼吸 : □ 口腔ケア □ 呼吸(□ 口腔乾燥 Spo2 %) 平常時の呼吸・口腔ケア時の唾液嚥下で呼吸に乱れないか頚部聴診する。 □ 食形態 : □ 咀嚼様顎運動 □ 食塊形成不全 摂食時に丸呑みしていないか?咀嚼(顎をモグモグと横に動かしているか?) □ 構音 : □ 咽頭残留(アー) □ パタカラ行の発音 頚部聴診しながらアーと発音して咽頭残留を確認。パタカラ行を 1 語づつ確認 《各職種の意見 :担当者名 》 □ 家族 □ 介護者 □ 看護師 □ST □ PT・OT □ 栄養士 □ 歯科 各職種が家族の意見を踏まえて、専門的な意見を記入する。例えば、看護師は 肺雑音や全身状態、PT・OT は姿勢や呼吸リハ、栄養士は食形態等の問題等。 ● 改訂水のみテスト:頸部聴診による確認 (指示から嚥下までの時間 8秒) □ 唾液嚥下 □ 1ml トロミ冷水嚥下 □ 現在の食事( ペースト食) □ 冷水 3ml □ フードテスト (□ プリン □ ヨーグルト □ ゼラチン) 結果:現在の食事と唾液嚥下を聴診する。呼吸の乱れとむせは必ず記入。 ● リスク管理に対する意見とVF・VEの必要性: 上記の評価から、リスク面の意見や VF・VE の必要性について記入する。 ベットサイドで見極める ―飲み込み障害の様子― 患者さん用 患者名 : ○ ● 男・女 年齢 歳 原疾患 : 病歴 : 肺炎の既往歴 : 過去 2-3 年間 ( ) 現在の全身状態: 食事の状態 □ 絶食 ( 年 月より) □ ペースト・ミキサー食 □ キザミ食 □ トロミ剤有り □ むせ □ 水分のむせ □ ノドの残留 □ 食べこぼし □ ノドの違和感( ) □かすれ声 □ 時間( 分) □ 食事の様子: 《飲み込み状態:問題点をチャックし状態を記入:記録日: 年 月 日 時》 1、意識障害:目覚めていますか? □ 刺激なしでも開眼している⇒□ だいたい清明 □ 時・人・場所が解らない □ 刺激で開眼する □ 刺激しても開眼しない 2、理解度:指示は入りますか? □ 全く理解できない □ 理解してなんらかの返答ができる □ 理解出来るが返答のサインは無理 ⇒ □ 開眼できる □ 口を開閉が出来る □ 握手が出来る (健側・麻痺側) 様子: 3、麻痺:舌をまっすぐ出した状態は? □ まっすぐ出せる □ どちらかに偏位する(左 ・ 右側) ⇒ 手足の麻痺状態 □ 手 (左 ・ 右麻痺) □ 足 (左 ・ 右麻痺) 4、舌の運動機能 □ 舌をまっすぐ出しても唇を越えて出せない □ 舌をまっすぐ出して唇から1cmぐらい出せる □ 舌で上・下の唇をグルリとなめることが出来る 5、身体を起こすことはできますか? □ 水平状態 □ 30°位 □ 45°位 □ 60°位 □ 90°起こせる⇒□ 1 人で座ることができる □ 座ると首も安定している 6、唇の閉鎖機能 □ 唇を閉じることが出来ない □ 唇を閉じることが出来る □ よだれが垂れることが多い □ よだれは垂れない 7、頬とノドの機能 □ 頬を膨らますことが出来ない □ 嗽が出来ない □ 頬を膨らますことが出来る □ 嗽が出来る 8、呼吸の様子 □ 呼吸はいつも安定している □ いつもゼロゼロしている □ 時々ノドがゴロゴロする □ 食事中に呼吸が乱れる □ 舌を上あごにつけて息を止められる 様子: 9、口腔ケア □ いつもはしていない □ 毎日している⇒回数は? ( 回) □ 専門的な口腔ケア指導を受けたことは?⇒□ ある □ ない □ 入れ歯を装着している⇒□ している □ していない 10、食べている時の様子 : □ 丸呑み状態で食べている □ 舌でつぶして食べている □ 歯ぐきで食べている □ 顎をモグモグしている 様子: 11、発音状態 □ 発音できない □ アーと言った時、声がかすれている □ 食事中にごっくんした後に、アーと言った時、声がかすれたりゴロゴロする ○ はっきりと言えない音にチェックしてください パ行: □ パ □ ピ □ プ □ ペ □ ポ タ行: □ タ □ チ □ ツ □ テ □ ト カ行: □ カ □ キ □ ク □ ケ □ コ ラ行: □ ラ □ リ □ ル □ レ □ ロ 様子: 《本人と家族の希望や意見 :記入者と患者との関係 》 《記入者の連絡先 :住所・TEL&FAX》 《その他の質問》 (社)柏歯科医師会 附属 歯科介護支援センター Tel&FAX 04 (7162) 6480 評価からの嚥下リハビリプラン ―脳卒中・認知症・中等度神経筋疾患の場合― □ 指示 : 開眼・開閉口・離握手の指示 (□ 覚醒 □ 認知 □理解) 指示が入るかどうかで以下の評価やリハが訓練か介助のいずれかとなる。 □ 麻痺 : 舌出し・カーテン兆候・前額部 (□ 運動 □ 知覚) 指示が入らない場合は、舌だし・口唇の非対称・流涎・鼻唇溝の消失・口角下垂や顔面 上部の前額部にしわから判断する。 □ 送り込み : 舌出し (□ 可動域 □ 前後 □ 左右) 口腔ケア後に少量の蜂蜜や飴を舌から口唇の各部に塗布することで、舌の可動域判定や リハビリを実施。また1mlトロミ冷水の嚥下が可能かどうか?口腔残留等で評価する。 《舌のストレッチ:舌を意識して出し可動域を広げる》 舌を前方に突き出す 舌を上あごにつける 舌を左右に出す 舌先で口唇をなめる スプーンなどを舌に乗せる。下向きに力を入れて押し、それに抵抗して舌を持ち上げてもらう。 押す→休む、を2~3秒ずつ繰り返す。 □ 弁閉鎖 : 口唇閉鎖と姿勢 (□ 座位: ① 口唇の運動:「イー」と「ウー」の口の形を繰り返す 「イー」首に張りを感じるまで口角を広げる °□ 頚部安定) ② できるだけ大きく口を開ける 「アー」次に閉じる「ンー」 「ウー」口唇をすぼめる 口唇を閉じし、えくぼをつくるくらいしっかり閉鎖すると、舌の先がうわあごに付き、嚥下のスタート状態となる。 腹式呼吸 肩甲骨を上げる 肩甲骨を下げる 首の回旋運動 首の回旋運動 身体のリハビリと並行して、ギャッチアップ 30°⇒60°⇒90°と段階的に起こしていき、端座位 がとれた場合は、首のすわりを確認する。 □ 弁閉鎖 : 頬ふくらまし (□ 鼻咽腔閉鎖 □ 嗽の可否) 頬をふくらまし、鼻から息がもれないかテッシュ等で 2 回確認することで、口唇と鼻咽腔閉鎖を確認する。 頬をしっかりふくらます 息を吸うように口をすぼめる 鼻咽腔閉鎖不全の方は、食形態にトロミを付けたほうが良い。上を向いたガラガラ嗽は避けるようにする。 水を入れたコップをストローで吹いたり、口をすぼめて複式呼吸するリハビリを促す。口唇閉鎖にも効果。 □ 呼吸 : □ 口腔ケア □ 呼吸 (□ 口腔乾燥 Spo2 %) 経口摂取開始の基準には、Spo2 が 90%以上必要である。実際の摂食現場では 95%以上の方が対象とな り、摂食中に 5%の低下を認めた場合は中止する。口腔乾燥が重度の場合は、誤嚥・肺炎リスクが高くなる。 腹式呼吸は、最初に息を吐きながらお腹をへこますと、続いて吸気で自然にお腹が膨らみ、横隔膜が上方に 押し上げられる。このことで、酸素濃度と肺血流が増加します。窒息の予防や咽頭残留物の喀出にも効果が ある。この呼吸をしながら、口をすぼめることで口唇の筋力が増強するとともに、気道に予備圧力が働き、気 道を広くして、息切れが楽になり、鼻咽腔閉鎖不全のブローイング練習にもなる。 口をすぼめて息をゆっくりと吐きます。お腹からしぼりだす感じで吐きます。その後鼻からゆっくり息を吸うと 自然にお腹が膨らみます。口をすぼめて息を吐く時は、30㎝前のローソクの火を消す感じで実施します。 呼吸運動だけは バイタルサインの 中で唯一、随意的 に制御できる □ 食形態 先行期 : □ 咀嚼様顎運動 □ 食塊形成不全 : 食物の見た目、においや声かけに注意して介助する。ペーシングを確認し、手づがみ(おに ぎり・ポテトフライ)で食べさせてみる。咽頭残留の確認(アーと声をだしてもらう)をする。 捕食期 : 口唇閉鎖が不十分な場合は、介助しながらスプーンを水平に入れて、水平に抜く。 食べこぼしが多い場合は、ペーストよりもムース状のほうが良い。リハで回復が可能。 口腔・準備期 : 咀嚼機能の低下(歯・義歯があるか・食べている時にもぐもぐと顎を横に動かしているか?) を観察し、食塊形成不全があればソフト食にする。キザミ食(極刻み等)は、咽頭でバラバラ となり、嚥下障害者には不適な食材である。施設等では軟刻みトロミ食とし、刻んだ食材が 舌やスプーンでつぶせるかどうか確認して食べさせる必要がある。 口腔内食塊保持不全や舌での食塊移送不良は、時々口内を観察して口腔残留(頬と歯の 間)と咽頭残留(アーと声を出してもらう) 咽頭期 : 水分摂取方法で利用するトロミ剤は、攪拌後 3-5 分にスプーンですくって落とした時に糸を 引く程度が適切であり、ボタッと塊で落ちるほど濃度が高いと、咽頭粘膜に付着しやすく咽 頭残留が多くなる(薄い濃度から評価して最低限度の濃度とする)。また、鼻咽腔閉鎖不 全がある場合は、水分にはトロミが必要であり、食物にトロミをつけるかどうかは、頚部聴 診で判断する。 咽頭期に問題がある嚥下障害者は、複数回嚥下(咽頭残留を繰り返し嚥下することで除 去)や交互嚥下(異なる物性の食品、例えば食物とゼラチン等を交互に嚥下することで残 留を除去する。 ○ 嚥下食(補助栄養が必要) 嚥下開始食:1,4-6%ゼラチンゼリー(ブロッカゼリー・アイソカルジェリー) 1mlトロミ冷水ティースプーン1匙 嚥下食Ⅰ :1,6%ゼラチンゼリー(ジュース・スープ・重湯・お茶)・ねぎとろネギなし・全卵蒸し・絹ごし豆腐 野菜ジュースゼリー・プリン・アイスクリーム1匙 嚥下食Ⅱ :重湯ゼリー・サーモンムース・カレー・にこごり・温泉卵・麻婆豆腐・かぼちゃ・ヨーグルト 嚥下食Ⅲ :ピューレ状の食形態・とろみ茶・バナナ(皮の上から押しつぶす)・重湯・全粥・葛湯・ゼラチン ライスの寿司・スクランブルエッグ・野菜ピュレ・水羊羹・アイスクリーム 移行食 :水分を多く含むもの・柔らかく煮たもの・細かすぎず、パサパサしたものは避ける。 ブレンダー食・ピーチコンポート・パン・そうめん・うどん・煮魚・ひきわり納豆・厚揚げやわらか煮 ● 舌で押しつぶして食べる方の見極め方 (ペースト・ミキサー・ソフト・ブレンダー食) 口角が左右対称に水平に動き、上下の口唇が食べている時扁平になる。舌の先端をうわあご(口蓋)に押し つけて食べるようになります。 口唇が左右対称に水平に動く 舌をうわあごに押し付けて食べて いいる。 ● 歯・義歯・歯ぐきでつぶして食べる方見極め方 (軟食・刻み食・軟刻みトロミ食) 頬と口唇の協調運動が初めて見られます。口角の引き、顎が横に偏位する表情が見られるようになります。 頬をふくらましたりしてカミカミします。 【コラム】食べ物による窒息死亡事故は年間 4407 件。高齢者の場合は桃など表面がつる んとした果物、トロミ剤を入れすぎた液体、パンなどが意外に危険です。 出所:平成 20 年 5 月 8 日更新。内閣府食品安全委員会「食べ物による窒息事故を防ぐために」の参考欄の表「『不 慮の事故の種類別に見た年齢別死亡事故数』の、 『その他の不慮の窒息』の『気道閉塞を生じた食物の誤えん』より □ 構音 : □ 咽頭残留(アー) □ パタカラ行の発音 アーと声を出して、咽頭残留を確認する。食事中にも実施すると良い。喉がゴロゴロする場合は、咳払いをして から食事を再開する。 パ行:口唇閉鎖 タ行:舌の先の強化 タカ:奥舌への送り込み カ行:奥舌の強化と、咽頭残留物の喀出にも効果があるので、強く『カッカッ』と実施する。 ラ行:舌先挙上と舌背の保持に効果がある。 ララリリルルレレロロ等の複雑な発音は、食物を上手に舌の上にのせる練習。 ○ 嚥下パターンリハビリ: 水分だけがむせるという比較的経度な嚥下障害者に有効 飲み込む時は呼吸が止まり、食物がノドを通過後に呼気が生じます。その嚥下と呼吸の パターンを学習することで誤嚥を防止します。 ※ 呼吸と嚥下の協調運動コントロールを体験する。 嚥下後の呼気運動による咽頭残留物の排出を促す。 ① まず大きく息を吸って息を止める。 ② 次に空嚥下もしくは食物を飲み込む。 ③ 『ゴックン』ができたら直後に「ハー」と息を吐くか、 咳き払いをする。 ○ 唾液腺マッサージ:食前に習慣化すると、覚醒し一口目が潤い食事が美味しく食べられる。 耳下腺 顎下腺 舌下腺 耳下腺:上の奥歯の辺りを後から前へむかって10回ほどまわす。 顎下腺:親指を顎の骨の内側のやわらかい部分にあて耳の下から顎の下まで5カ所くらいを順番に各5回押す。 舌下腺:両手の親指をそろえ、顎の下から上にグーット押す。 ○ 主な市販食品の問い合わせ ○ 口腔ケア用品 三共製薬工業 :ブロッカゼリー・アイソトニックゼリー オーラルケア キッセイ薬品工業 :ソフトかっぷ・ソフトエット :吸引ブラシ・吸引ICUブラシ カワモト :フレッシュメイト(舌ブラシ) ノバルティスファーマ :アイソカルジェリー、アイソカルプディング キッセイ薬品 :ウエットケア ホリカフーズ :オクノスデザート・オクノス白粥 ティーアンドケイ :オーラルバランス フードケア :アクアジュレ 和光堂 亀田製菓 :ふっくらおかゆ :口中清掃ティシュ Ⅲ.経口摂取開始の基準 1) 原疾患とバイタルサインが安定している。 2) 基礎訓練(口腔ケアやアイスマッサージ等の間接訓練)が開始されている。 3) ギャッチアップの許可(最低 30~45 度)が医師より出ている。 4) アイスマッサージで嚥下反射があり、唾液の嚥下が可能である。 5) 意識明瞭(JCSⅠ桁)であり、呼吸状態が安定している。(SpO2 90↑) 6) 簡単な指示(開口・閉口、舌出し・離握手)に従える。 Ⅳ.頚部聴診 喉頭下輪状軟骨の側面に聴診器をあて、呼吸音と嚥下音を聴診する。頚部聴診は簡便であり、ベッ トサイドで誤嚥を予測する上で有効な手技であるため、是非一般看護師や多職種も含めて、マスター して欲しい。聴診器は普及型のもので十分だが、NST では Littmann infant(新生児用)や Cardiology Ⅲ等が高い音域を拾い、喉頭挙上の嚥下運動を妨げないため便利である。 姿勢 まず、患者さんに咳嗽や吸引にて貯留物を喀出させる。その後、呼吸音を拾い、続いて嚥下音と 嚥下前後の呼吸音を聞き取る。嚥下は 1ml トロミ冷水、少量の水(改訂水飲みテスト)、唾液、 氷片やゼリー・プリン(フードテスト)で左右を確認する。 ※ 聴診時に呼吸音に乱れがなく、しっかりとした嚥下音が聞き取れ、口内残留と咽頭残留音がなけれ ば、ベットサイドにおける誤嚥リスクは少ないと考えられる。すなわち、誤嚥の判定のみならず、 その前段階である咽頭残留、呼吸と嚥下の協調運動や嚥下直後の澄んだ呼吸音等を評価することで、 誤嚥するかもしれないというリスクを判定している。 ① 嚥下時及び嚥下後の呼気時における泡立ち音(ブルブル音:バブル音) ② ③ むせに伴う喀出音や呼吸切迫 嚥下直後の呼気音が、濁った音(湿性音)、嗽音、喘鳴あるいは気管内の液体の振動音 このような音は、梨状窩等の咽頭貯留や誤嚥が疑われる。嚥下障害の有無は、未経験者でも 80% 正診率で判定され、いつでも簡単に実施出来ることができることより利用価値が高い。また、呼吸 音と嚥下音を聞くことで、誤嚥のリスク判定(咽頭通過時の環境の把握)が可能となる。難しく考 えずに、まずは自分の身体や日常の嚥下障害患者で練習すると、誰でも嚥下前後の咽頭残留と呼吸 の乱れは判断できるため、多職種に普及して情報を共有したり、家族にも聞いてもらうことで、無 理な摂食希望を抑制し、安全に食べられるレベルを理解することで、現状説明にも利用できる。 【コラム】自発呼吸:人工呼吸器の『呼気・吸気時間比』として伝統的に『1:2』がよく用いられる が、実際の安静時の自発呼吸には、吸息⇒吸気のポーズ⇒呼息⇒休止期の 4 つの時相があり、例えば 呼吸数 15 だと 1 回 4 秒の内訳は、1,0⇒0,2⇒1,0⇒1,8 秒となる。健常者は摂食中に呼吸が乱れるこ とは無い。しかし嚥下障害者は嚥下時間の延長や咽頭残留があるため、誤嚥しなくても摂食中に呼吸 が乱れることが多い。その場合は、食形態を下げ、リハを実施することで誤嚥リスクが低くなる。 Ⅴ.経口摂取開始時期の流れ 口腔ケアにて口内を清潔にした後で、フードテスト、改訂水飲みテストあるいは1ml のトロミ冷 水を、舌において嚥下を促す。急性期においては、意識障害を原因とする口や舌の随意運動の低下を 認めるため、口唇の閉鎖等を介助する。 また、認知症や舌の送り込みが不十分な患者さんには、ゼ リー等を奥舌におくと良い。急性期の場合は咽頭機能が比較的よく保たれているため、心配しないで 数回実施してみよう。 1)しっかりとした嚥下があるかどうか咽頭部を観察する。むせがなく嚥下が出来た ら、口を開けてみて口内残留がないか確かめる。口内に残留がある場合はもう一 度嚥下をする。その後、アーと声を出してもらいサ声やガラガラ声がないか確認 する。この過程において呼吸の変化も無く、むせがなくて嚥下が可能でサ声が無 ければ、摂食訓練可能と判断する。 2)次に、同じ過程を頚部聴診下にて咽頭残留の有無を確認する。以上に問題が無け れば、1ml トロミ冷水あるいはゼラチンゼリー等から直接訓練を開始する。 ※ ゼラチンは 18℃にて溶解し、万一誤嚥した場合でも液体となり吸収されやす い形状となる。そのためお茶ゼリー等は最良の嚥下開始食といえる。しかし、 溶けやすい欠点があるため、送り込みに時間がかかる方等は咽頭部位で液体に 変化してむせる場合があるため、冷蔵庫から取り出してすみやかに使用するか、 1ml トロミ冷水や販売嚥下食等を利用してもよい。 3)食事内容、量、食事回数、ギャッチアップなどの条件を、1度に2つ以上変えず、 1度変えたら3-7日以上は様子を見ながら段階的に進めることがコツ。 ↑ 軟菜 60° 全粥 45° ミキサー食 ↑ とろみをつけた汁物・ジュース 30° ゼリー 食事の回数 ○ 1日1食 1日2食 1日3食 少量のゼリーを 1 日 1~2 回から開始して 3 日以上摂食。誤嚥の徴候(痰の増加や発熱)がなけ れば、ゼリーカップ 1 個が誤嚥の徴候なく摂取できるようになれば次に進む。 ○ 1日 1 食から食事を開始。確実に食後の観察が可能で、急変に対応しやすい朝食か昼食が良い。 1食について約8割程度を誤嚥の徴候なく1時間以内に摂食可能となれば次へ進む。 ○ ※ 誤嚥や肺炎の徴候が3-7日以上見られなければ、1日2食、3食と経口摂取の回数を増やす。 在宅では慎重にゆっくりと実施する。また、むせたりSpO₂の低下や呼吸切迫がある場合は、少し休 憩したのち、頸部前屈位で嚥下に意識を集中させて、口の中に溜めて息を止めて飲むことを指示する。 ※ 問題がある場合は、あせらず無理せず基礎訓練から再スタートするか、VF・VE検査にて、どの部位 の障害に起因しているか精査する。 【コラム】地域(在宅・施設)にて嚥下障害患者に対して食事を再開する際には、かなり慎重な摂食 プログラムを立てることが勧められる。経口摂取開始基準を厳守し、改訂水のみテストを 2 週間から 1 ヶ月繰り返し、安全性を確認してから実施する。必要なら画像診断が望ましい。 重度の方でも、唾液嚥下の誤嚥防止や口腔細菌の減少のために口腔ケアは必要である。 Ⅵ.口腔ケアの手順 ○ ―嗽が出来ない方や嚥下障害の方の場合― 口腔ケアは、痛がらせないことと、口腔乾燥を解除してからケアを行うこと。そして、1 日に 1 回はある程度十分な時間をかけて汚染ケアを行い、それ以外は保湿と簡単な維持ケアを心がける。 1)物品の用意:歯ブラシ・スポンジブラシ・洗口剤・コップ・ガーゼ・保湿剤 2)体位 :口腔ケア時は 30°以上仰臥位が望ましい。 3)義歯は外して別洗いをする。そして流水下にて歯ブラシ等で清掃する。 4)口腔乾燥や食物残渣があれば、軽く水洗いか保湿してから口腔ケアを実施する。 5)ガーゼを磨かない側の奥歯のさらに後ろに当てて、水分を吸い取りながら歯と歯間に歯ブラシ の毛先を入れて、小刻みに動かしながら細かく磨く。 6)口蓋や咽頭部に乾燥痰がある場合は、保湿剤(オーラルウエット等)かネブライザー等を噴霧 して 10 分間くらいして、ふやかしてからゆっくりはがす。 7)舌ブラシやスポンジブラシで舌を軽く清拭する。 8)うがいができない場合は、上記のみで良い。嚥下障害がなく、少し嗽が可能な方は、首を下か 横に向けて吸いのみで水を含ませて、膿盆に流す。 9)ケア後は、保湿剤(オーラルバランス・ウエットケア)を口唇・口腔粘膜・義歯内面に塗布。 ○ 嗽が出来ない方や嚥下障害者には、歯磨き剤は必要ない。コップに水を入れ2つ用意する、ハブ ラシに液体歯磨きや外科用消毒剤等(ネオステリン・アズノール・お茶)を付け、ブラッシング をする。この時、反対側の奥歯にガーゼかティシュをおくと、汚染された唾液の誤嚥が防止でき る。磨いたらコップ歯ブラシをよく濯ぎ、もうひとつのコップでさらに濯ぎ(この濯ぎを十分す ることが、嗽の役割を担う)、水を切ってから再度磨く。スポンジブラシや舌ブラシを併用する。 嚥下障害者には下記のようなケア用品があると便利である。 また、歯磨き後の口内の保湿は、口腔細菌の増殖を予防し、唾液嚥下を妨げないためにも重要。金銭 的負担がある場合には、頻回な水による保湿やオリーブオイル等にて対処する。 Ⅶ.在宅医療を受ける患者の基礎疾患の特性 ① 認知症 後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。 医学的には「知能」の他に「記憶」「見当識:現在の年月や時刻、自分がどこにいるか など基本的な状況把握のこと」の障害や人格障害を伴った症候群として定義される。単 に老化に伴って物覚えが悪くなるといった現象や統合失調症などによる判断力の低下は 含まれない。逆に頭部の外傷により知能が低下した場合などは認知症と呼ばれる。 認知症の程度をスコアすることよりも、問題行動や身体的疾患(脱水)の原因を探り、 落ち着いた生活づくりをつくることが必要である。→嚥下機能は比較的保たれている。 【症状】 ・中核症状:記憶障害と認知機能障害(失語・失認・失行・実行機能障害)から成り、 患者全員に見られる。病気の進行とともに徐々に増悪する。 ・周辺症状:幻覚・妄想、徘徊、異常な食行動、睡眠障害、抑うつ、不安・焦燥、暴言・ 暴力など。神経細胞の脱落に伴った残存細胞の異常反応であり、一部の患 者に見られる。 【分類】 変性認知症(アルツハイマー型認知症 血管性認知症 パーキンソン病・ピック病 ) 【経過】 短期記憶の消失→問題行動→歩行不全・食事介助→寝たきり・誤嚥性肺炎・胃瘻→死 現実との葛藤→過去の自分に戻る→現実遊離 アルツ型の場合、3 年おきにレベルダウンし、10-12 年間で同じような経過をたどる。 【口腔ケアと摂食】 口腔ケアを拒否する方が多く、治療も困難であることから専門的な歯科衛生士に依頼す ることが望ましい。嚥下機能は比較的良好であるが、食物の認識や食べ方に問題がある。 集団では、嚥下体操が有効である。 【コラム】臥位(がい):寝ている状態の体位のこと。仰臥位(あお向け)、側臥位 (横向き)腹臥位(うつ伏せ)がある。口腔ケア時は 30°以上・摂食時は頚部前屈 で 45°以上が望ましい。 ② 脳血管障害 【経過】 弛緩(ブラブラ)→痙性(何かの拍子で動く)→共同運動(筋肉がつられて動く) →少し分離した動きが可能→分離した運動が可能 【ブルンストロームのステージ】 下肢の麻痺:歩行不能でも立つ事が可能かどうかで介護度は変わる。健側の脚のひざ を立てて、麻痺した脚のひざを伸ばしたまま上げられれば歩行可能な場 合がある。足先を手前に動かすことができる→障害の程度を把握。 上肢の麻痺:両側の手を握る→認知・体力・麻痺・信頼が把握できる。 グー・パーが出来る⇒手を握ることができる。 チョキが出来る⇒ボタンかけや細かな歯ブラシができる。 バンザイをする⇒健康側が顔まで挙がれば歯ブラシができる。 【口腔内評価の手順】 開口・閉口の指示→舌出し・可動域→頬ふくらまし→鼻咽腔閉鎖(テッシュを鼻に あてる)→口唇閉鎖を確認→麻痺側の確認(舌出し・カーテン兆候・鼻唇溝)→ 再度頬ふくらまし→パタカラ→唾液嚥下・1ml 冷水嚥下の頸部聴診→口腔ケア 【顔面の麻痺】 顔面下部:口唇の非対称・流涎・鼻唇溝の消失・口角下垂 顔面上部:前額部にしわを寄せることを指示すると麻痺側にしわをつくれない。 咀嚼や嚥下に直接大きな影響を与えないが、中枢性の障害の場合、舌咽・ 迷走神経支配の運動麻痺が合併していることもあるので要注意とする。 【構音障害】 鼻咽腔閉鎖不全(軟口蓋の挙上不全)による開鼻音の場合 PLP(歯科依頼)が有効 バビブベボやパピプペポ⇒マ(ファ)ミムメモ・ダデド⇒ナネノとなり、このような 患者さんには、頚部前屈姿勢で嗽をすることを指示する。 (失語症の方でも知能は賢い 方は多いので理解ができるかどうかを判断しておく) 【知識】 1、ウェルニッケ失語:側頭葉の損傷にて感情や言葉を聞いて理解する力(感覚性)が 衰える。 2、ブローカー失語 :前頭葉を損傷すると運動性言語中枢が障害を受け、頭では言葉 を理解できているのに、話そうとすると言葉にならない。 3、全失語 :言葉を理解することも話すこともできない。 4、健忘性失語 :言葉を理解できても、簡単な単語を忘れてしまう。 5、左半側空間失認 :左側半分の空間が認識できなくなる。 【コラム】拘縮(こうしゅく) :長い間、寝たきりなどによって体を動かさずにいたために、 筋肉や関節が固まってしまって動かなくなること。→座位で重力を利用すると良い。 右麻痺場合、失語症を伴うことがあり、左麻痺では失行、失認・性格変容するケースがある。 ③ 神経筋疾患 《パーキンソン病(PD)》 脳内のドーパミンが減少する進行性の病気 3 大徴候:固縮(筋肉が固くなる) ・動作緩慢・振戦(しんせん) 1、口・舌・喉の筋肉が固まり、食べる動作が遅くなったり、 うまく飲み込めなくなったり、構音障害が起こる。 2、身体を動かすときの最初の動作がなかなか出来ない。身体 を動かすのに大変な意志と努力が必要で、小声や仮面様顔 貌となる。 3、片方の手から出始めて足や顎もふるえてくるが軽い場合 は、日常生活は可能。 【食事・口腔ケア】 食事やケアで症状が強い場合は、薬の時間を調節する。長期投薬者は薬が効いてい る時(服用 1 時間後)ときれる時の運動機能は別人のように違う。パーキンソン病 の薬は 1 日量さえ変わらなければ、 服用時刻は調節して良いものがほとんどである。 唇や舌に少し味の強い食物を一口目に与えると、その後の摂食がスムースになる。 また、汁物⇒ご飯・お粥⇒主菜⇒副菜の順番で飲み込みやすくするのも良い。 重度の嚥下障害者は夜間 10~15°程度のギャッチアップ(少しずつ)での就寝で 早朝の痰のからみが解消する場合がある。 【自立神経症状】 動作が少なく遅くなる・体温調節ができなくなる・汗が出る、流涎あるいは口渇・ 心拍数が低くなる・暗いところで目が見にくくなる。 【疾患への誤解と対応】 表情にとぼしい、依存心(甘えている。そばにいると介助を要求する)、サボって いる。誰もいないと動ける、日内変動が大きい等、誤解される病気である。 この疾患は要求に全て答えて、快く介助してあげるほうが良い。 《脊髄小脳変性症(SCD)》 協調運動障害(運動が正確に効率よく行うことができなくなる)を症状とする神経変 性疾患。いくつかの疾患に分類され、10 年以上の長い経過を辿る進行性疾患。経過と もに、固縮や無動などパーキンソン症候も加わるが、呼吸機能は比較的維持される。 起立性低血圧の方には、ギャッチアップを 10°位したら、5 分程度間隔をおき、ゆっ くりと起こす。 【小脳の働きと嚥下機能】 小脳は歩行に関する機能や頭を動かしたりする機能、また手足の協調運動を司る。同 じように、嚥下機能も協調運動が障害される。すなわち嚥下の 5 期の 1 つ 1 つは機能 が残存していても、協調運動能力が低下するため、窒息や誤嚥が生じる。リハビリで は、疲労度合が大きく消極的になりやすい。出来るところを出来る範囲で間接訓練を する。咀嚼力も低下するため、食物の粉砕や咽頭への送り込みも困難になる。 このような送り込みとその協調運動の低下により、急に誤嚥・窒息する方が一部に存 在しるため、一口量に注意して、トロミをつけたり食事のペーシングに注意する。 構音面では鼻咽腔閉鎖不全がみられるため、頚部前屈姿勢での含嗽が望ましい。 《筋萎縮性側索硬化症(ALS)》 球麻痺(球とは延髄のこと)とは延髄の障害により起こる麻痺で、主に下位脳神経 麻痺(嚥下障害や構音障害など)を指すことが多い。 一方、仮性球麻痺とは、症状的には延髄機能障害を示唆するが、皮質球路とくに両 側内包部の障害により下位脳神経麻痺(嚥下障害や構音障害、顔面筋麻痺など)を 来した状態を言う。(すなわち、延髄がやられていないのに同様の症状を呈するた め、 「仮性」球麻痺と言う) ALS では、球麻痺症状として、舌の萎縮、嚥下障害、構音障害が出現する。末期 には経口摂取は不可能となり人工呼吸管理下となる。しかし、感覚障害や知能低下 は現れにくく、眼球運動障害や失禁も見られにくく、瞬目やまぶたの動きでコミュ ニケーションをとる場合が多い。 【口腔症状と対処法】 筋の萎縮(筋肉が痩せること)は遠位から近位へおよび、舌筋、咬筋やオトガイ筋に 及ぶ。当初は、嚥下機能は保たれている場合も多く、摂食・嚥下障害は、準備期と口 腔期が中心となる場合が多い。すなわち、舌の可動域(特に上に持ち上げる筋力)が 低下することで、咀嚼障害や咽頭へ送り込み障害が中心となる。 対処法としては、食品の選択(口内に残留しにくく、送り込みのしやすい、べたつか ない、まとまりの良い食品)を検討する。また、PAP(舌接触補助床)や PLP(軟口蓋 挙上装置)が有効であるが、口内の違和感が強いことより、器具の練習期間が必要。 しかし、現実的には運動障害が顕著になるとその効果は乏しい。 ④ 間接リュウマチ 中年以降の女性に多く、骨・軟骨・関節・周囲組織に左右対称に疼痛や炎症を伴う疾 患。『朝の病気』と言うほど午前と午後では体調が異なる。食事介助に気をつける。 ⑤ 廃用症候群 口腔ケアに口腔機能向上の体操(嚥下体操)を付加する。 参考資料:排痰介助 適切な加湿と有効な体位変換を優先する。また、咳嗽機能があれば利用する。 ○上・下葉区、後肺底区:足の位置を確認して数 10 分ほど下記の体位をとる。スクイージ ングは英国では未使用である。胸郭を呼気時に恥骨方向に圧迫し呼気流速を早め呼気圧を 高めることで抹消気道から中枢気道へ痰を移動する方法であるが、呼吸に合わせる技術が 必要である。簡単な方法は、下記体位で上側の肩甲骨をグルリと回すだけでも効果がある。 足の重なりが上図であれば前傾 60°になる:必ず家族の見守りが必要! 咳をするとき枕を抱きしめる、慣れてきたら枕なし、鼻で咳きをする方法も試してみる 手が不自由な場合は術者が介助するが、強く圧迫はしない。 NG チューブが咽頭蓋を交差する場合がある。チューブは、麻痺側の鼻から挿入し、 入れる鼻と反対側に首を旋回させる。 ● エビデンス 脳卒中治療ガイドライン 2004 201―202 ベッドサイドで嚥下障害の評価を行った上で、摂食プランを立てると、肺炎の発症率が 有意に減少する1)。反復唾液嚥下テストは、嚥下造影上の誤嚥を感度0.98で検出可能であ る2)。水のみテストで嚥下障害を推定し、摂食プログラムを開始した場合には、スクリー ニングを行わなかった場合と比較して、肺炎の発生が減少する3)。嚥下造影や内視鏡的嚥 下機能評価をもとに摂食プログラムを行うことにより、肺炎の発症率が減少する1)。 常勤の言語療法士がチームの一員として嚥下障害に取り組んだほうが、嚥下障害をより よく指摘でき、栄養・脱水の状態もよく把握でき、肺理学療法が減る傾向が認められた4)。 一方、嚥下造影を行った上で、家族ならびに患者に嚥下障害についての教育を行うだけ でも、呼吸器合併症の発生を言語療法士が重点的に介入した場合と同様に軽減することが 可能であった5)。 PEGは経鼻経管栄養よりも死亡率や治療中止率が低く、また、栄養、上腕周径、アルブ ミン値が良好に保たれた6)(現在も大規模な研究が継続中)。間歇的口腔カテーテル栄 養は、経鼻経管栄養よりも嚥下機能を改善させた 7)。 ● 引用文献 1)Doggett DL, Tappe KA, Mitchell MD, Chapell R, Coates V, Turkelson CM. Prevention of pneumonia in elderly stroke patients by systematic diagnosis and treatment ofdysphagia:an evidence-based comprehensive analysis of the literature. Dysphagia 2001;16:279-295 2)小口和代, 才藤栄一, 馬場尊, 他. 機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」 (the repetitive saliva swallowing test:RSST)の検討(2)妥当性の検討. リハビリテーション 医学2000;37:383-388 3)Gottlieb D, Kipnis M, Sister E, Vardi Y, Brill S. Validation of the 50 ml3 drinking test for evaluation of post-stroke dysphagia. Disabil Rehabil 1996;18:529-532 4)Lucas C, Rodgers H. Variation in the management of dysphagia after stroke:does SLT make a difference? Int J Lang Commun Disord 1998;33(Suppl):284-289 5)DePippo KL, Holas MA, Reding MJ, Mandel FS, Lesser ML. Dysphagia therapy following stroke:a controlled trial. Neurology 1994; 44:1655-1660 6)Bath PMW, Bath FJ, Smithard DG. Interventions for dysphagia in acute stroke. The Cochrane Database Syst Rev 2002 7)木佐俊郎, 井後雅之, 稲川哲二, 他. 脳卒中患者の摂食嚥下障害に対する間欠的口腔カテーテル栄養法. リハビリテーション医学1997;34:113-120
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