1.まえがき 2.開発の背景 3.概要

SANYO DENKI Technical Report No.5 May 1998
特集
*
古平 裕一
Yuuichi Kodaira
小河原 俊樹
Toshiki Ogawara
皆瀬 尊
Takashi Kaise
*Pentium は、Intel Corporationの登録商標。
1.まえがき
パーソナルコンピュータに使用されるマイクロプロセッサ(MPU)の技術的な進
歩はめざましく、高集積化、高速化、高機能化の一途をたどっている。その一方
でMPUの発熱密度も増加し続けており、ヒートシンク、およびファンとヒートシンク
を用いた高能率な冷却装置の使用が必須となっている。
MPUの形態は、従来のチップパッケージタイプに加えカードタイプのものが登場
している。インテル社製Pentium プロセッサがこれにあたり、拡張ボードのよう
にマザーボードのコネクタに差し込んで使用される(S.E.C.C:Single Edge Contact
Cartridgeと呼ばれる)。
今回、このようなプロセッサカードタイプMPU用の冷却装置として、Pentium 用
「サンエースMC」を開発・製品化したので、その概要および特長について紹介す
る。
2.開発の背景
当社では、これまでにMPUを冷却するための冷却装置としてMPUクーラー「サン
エースMC」を製品化している。そのラインナップは、デスクトップ型パソコンのよう
な内部のスペースに余裕のある装置での使用を前提とした4方向吐出しタイプ4
機種と、ノートブック型パソコンのような薄型の装置での用途を主目的とした1方
向吐き出しタイプの「サンエースMC note」1機種である。
さて、従来のチップパッケージタイプのMPUは、マザーボードにソケットを介して
装着され、MPUクーラーはマザーボード、およびMPUに水平に取り付けられる。そ
して、MPUクーラーのファンの吸込み側、吐出し側には、一般的に性能上必要な
空間が確保されている。一方、前述のプロセッサカードタイプのMPUはマザー
ボードに対して垂直に取り付けられるため、従来の4方向吐出しタイプのMPUクー
ラーを使用した場合には、マザーボード側の吐出し方向はマザーボードによって
通風が妨げられてしまう。また、2台のプロセッサカードが使用される場合には、一
方のプロセッサカードがもう一方のプロセッサカードに取り付けられたMPUクー
ラーの通風の障害となるような位置に設置されることが有り得る。これらは冷却
性能の低下を招く要因となる。
そこで、上記のような条件下でも十分な冷却性能を確保することができる
Pentium 用「サンエースMC」を開発・製品化した。
3.概要
図1にPentium 用「サンエースMC」の外観を示す。また、表1に性能諸元を示
す。
本製品は、冷却ファンとヒートシンクを一体化した冷却装置で、Pentium プロ
セッサ専用として開発されたものである。
以下に本製品の特長を示す。
(1)当社独自のファンとヒートシンクの送風構造。
(2)装置への実装時に高い冷却性能を確保する送風構造。
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(3)高信頼性。
(4)パルスセンサを内蔵。1回転当たり2パルスの回転信号を出力。
(5)コネクタ端子を備え、組み立てが容易。
表1 Pentium
用「サンエースMC」の性能諸元
型番
109X1512H3016 109X1512S3016
定格電圧(V)
12
使用電圧範囲(V)
10.8~13.2
定格電流(A)
0.06
0.08
定格入力(W)
0.72
0.96
定格回転数(min-1)
4000
5000
熱抵抗(K/W)*1
0.69
0.62
騒音(dB[A])*2
29
35
重量(g)
大きさ(mm)
135
120×53.4×28.1
*1:当社測定方法による。
*2:ファン吸込み面より1mの位置。
4.構造
Pentium 用「サンエースMC」の寸法諸元を 図2に示す。
構造上の主な特長は以下のとおりである。
(1) ヒートシンクはアルミダイカスト製。ファンケースは樹脂製。ファンケースとヒー
トシンクは、手動で取り付け取り外しが可能である。
(2) 空気の吸込み側にファンが、吐出し側にヒートシンクが位置する構造。この構
造が、ファンの長寿命化と冷却効率向上に寄与している。その詳細は、既報
(1)
に述べたとおりである。
(3) ファンが吸い込んだ空気を、ヒートシンクを通して2方向へ吐き出す通風構造。
(4) ヒートシンクがファンケースに覆われた構造。吐出し方向のファンケースがヒー
トシンクより張り出した形状となっている。
上記(3)、(4)の構造によって、装置への実装時に高い冷却性能が確保される。次
章でこれらの構造が冷却性能に寄与する要因について述べる。
5.冷却特性
5.1 熱抵抗測定条件
Pentium 用「サンエースMC」の冷却性能を示す熱抵抗 s-aは、以下によって
求められる。
s-a=(Tsink-Ta)/P
…(1)
Tsink :ヒートシンクベース面温度( )
Ta :ファン吸込み側空気温度( )
P
:MPUの発熱量(W)
図3に熱抵抗の測定条件を示す。ダミーのMPUとヒートシンクの間には熱伝導
用のアルミのプレートがあり、ヒートシンクはこのプレートに熱伝導性のシリコーン
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グリースを介しねじ止めされている。また、ダミーのMPUとプレートもシリコーング
リースによって密着されている。ファン吸込み側の障害壁はもう一台のプロセッサ
カードが設置されることを想定している。ファン吸込み口と障害壁の距離は約
10mm、MPUに加えられる発熱量は40W前後である。
このような障害壁がファン吸込み側にあることによって、以下のような悪影響が
考えられる。
障害壁とファン吸込み口との距離が小さくなると、ファンの風量が低下する。
ファン風量の低下は吐出し口の風速低下を招く。風速低下によって温められた
空気が循環しやすくなる。
5.2 冷却性能低下の要因
図4は、一般的なヒートシンクファンの、空気の流れのイメージを示している。こ
のヒートシンクファンは、スリット加工したアルミ押出し材のヒートシンクに、一般的
な軸流ファンを搭載したもので、ヒートシンクによって温められた空気は4方向に
吐き出される構造となっている。
このようなヒートシンクファンの場合、マザーボード側への排気は、マザーボード
と障害壁にさえぎられ、負圧になっているファン吸込み口へと流れ込む。図4-(a)
は、放熱フィンを通過して温められた空気が循環する様子を示している。また、長
手方向への排気もヒートシンクにカバーがないため、図4-(b)に示すように循環し
やすくなっている。このような排気の循環によって、放熱フィンを通過する空気温
度が上昇する。
一般にヒートシンクの放熱フィンの放熱量Q(W)は、以下の式で与えられる。
Q=h S
h
T
・・・(2)
:熱伝達率(W/m2・K)
S :放熱フィンの面積(m2)
T :放熱フィンの温度と放熱フィンを通過する空気温度の差(K)
放熱フィンを通過する空気温度が上昇すると、(2)式のΔTが小さくなって放熱
フィンの放熱量が低下し、結果的にMPUの温度が上昇する。
5.3冷却性能の比較
Pentium 用「サンエースMC」では、上記のような冷却性能の低下を抑えるた
め、吐出し方向を2方向とし、マザーボードと障害壁による空気の循環を防止し
た。さらに2方向の吐出し口については、ファンケースをヒートシンクよりも延長す
ることで、温められた空気が循環しにくい構造としている。
図4のような一般的なヒートシンクファンの冷却性能が、障害壁のない状態に対
して障害壁を設置した場合に30%前後低下するのに対し、Pentium 用「サン
エースMC」は7%程度の低下となっている。このように、Pentium 用「サンエース
MC」は、装置への実装時に想定される障害壁のある状態での冷却特性に優れ
ているといえる。
6.むすび
当社「サンエースMC」シリーズにこのたび追加されたPentium 用「サンエース
MC」の構造と冷却性能について紹介した。
本製品は、装置への実装時に高い冷却性能を確保するような送風構造を採用
した。パーソナルコンピュータのみならず他の電子機器も、より高機能で小型とな
る傾向にあり、その内部の冷却は今以上に困難になると予想される。今後ますま
す、装置への実装状態を考慮した冷却装置の要求が高まるものと考えられる。
3/4
文献
(1)小河原ほか:MPUクーラー「サンエースMC」の開発
SANYO DENKI Technical Report,No.1,pp.9-14(1996-5)
古平 裕一
1990年入社
クーリングシステム事業部 設計部
「サンエースMC」の開発、設計に従事
小河原 俊樹
1984年入社
クーリングシステム事業部 設計部
「サンエースMC」の開発、設計に従事
皆瀬 尊
1990年入社
クーリングシステム事業部 設計部
「サンエースMC」の開発、設計に従事
4/4
図1 Pentium
用「サンエースMC」の外観
1/1
図2 Pentium
「サンエースMC」の寸法諸元
1/1
図3 熱抵抗測定条件
1/1
図4 冷却性能低下の要因となる空気の流れ
1/1