「宇宙開発利用の持続的発展のための “宇宙状況認識(Space

39201140-01
平成 23 年度科学技術戦略推進費
科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進
「宇宙開発利用の持続的発展のための
“宇宙状況認識(Space Situational Awareness: SSA)”
に関する国際シンポジウム」
成果報告書(概要編)
平成 24 年 3 月
財団法人 日本宇宙フォーラム
目
次
1. はじめに ................................................................................................ 1
2. 補助事業の概要...................................................................................... 2
2.1 補助事業の名称 .................................................................................. 2
2.2 補助事業の目的 .................................................................................. 2
2.3 補助事業の項目と内容 ......................................................................... 2
3. 実施結果概要 ......................................................................................... 4
3.1 国際シンポジウムの開催 ....................................................................... 4
(1)開催日時
(2)開催場所
(3)後援
(4)協力
(5)プログラム及び講演概要
4. アンケート調査結果 ................................................................................ 24
5. 総括 ..................................................................................................... 25
6. 謝辞 ..................................................................................................... 27
1.はじめに
スペースデブリは 1957 年スプートニク打上げ以降、人類の“負の資産”として地球周
辺に徐々に増加してきた。特に 2007 年、中国による衛星破壊実験、2009 年の米ソ衛
星同士の軌道上衝突等により、ここ数年の間にスペースデブリ環境は急激に悪化し
日々の宇宙活動の脅威となっている。このような宇宙環境下において安全な宇宙活動
を長期持続的に実現するため、観測能力の強化や、現状の是正のための対話や活
動が国際的に進められつつある。
我が国においては、2009 年制定された「宇宙基本計画」の中で、宇宙環境保全の
重要性や、スペースデブリ観測能力向上の必要性が指摘されると共に、本分野にお
ける一層の国際協力、国際貢献の推進が必要との認識が述べられている。
財団法人日本宇宙フォーラムは、国内唯一のスペースデブリ専用観測施設を保有・
運用している立場から、わが国の宇宙政策決定者を始めとして、産業界、衛星所有
者・オペレータ等が、スペースデブリ問題に対する欧米諸国の取組みの現状や将来
動向のみならず、わが国に対する期待をも正確に把握し、今後の具体的な施策や、
国際協調戦略の策定を行う一助になることを期待して、今回の国際シンポジウムを主
催したところであり、本報告書はその結果をとりまとめたものである。
1
2. 補助事業の概要
本国際シンポジウムは、「平成 23 年度文部科学省科学技術戦略推進費」の公募採
択プロジェクトとして、実施したものである。
<補助事業の趣旨>
民間団体の主導による科学・技術外交の展開として、国際的に科学・技術をリード
する産学官の関係者が社会の幅広いステークホルダーの参画を得て、将来に向けて
科学・技術の在り方を議論する国際集会等の開催を支援し、国際的なコミュニケーショ
ンの場の定着を促進する。
2.1 補助事業の名称
科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進
「 宇 宙 開 発 利 用 の 持 続 的 発 展 の た め の “ 宇 宙 状 況 認 識 ( Space Situational
Awareness: SSA)”に関する国際シンポジウム」
2.2 補助事業の目的
日本は、世界第4位の人工衛星保有国であるにも拘らず、最近深刻化するスペース
デブリ問題に一元的に対応するための基本理念や実施組織が存在しない。
2009 年宇宙開発戦略本部により取りまとめられた「宇宙基本計画」においては「周回
軌道上ではサブメートル級のデブリの詳細な軌道位置等を把握することを目指す」と
明記されている。これを踏まえ、我が国の今後の持続的な宇宙開発利用を担保するた
めには、新たなスペースデブリ観測施設設備計画や、観測データ処理・データ利用の
仕組み、スペースデブリ接近解析技術の高度化などの日本として一元化した組織構
想を構築する必要がある。このため、欧米の専門家や、国内の専門家等が一堂に会し
た国際集会を開催し、意見交換を行った上で日本の SSA 及び世界の SSA ネットワーク
のあり方を提言することを目的とする。
2.3 補助事業の項目と内容
(1)宇宙開発利用の持続的発展のための宇宙状況認識に関する国際シンポジウム
の開催
スペースデブリ問題を包括的に解決するため、SSA 活動を先行して推進する米国
及び欧州やその他宇宙開発先進国の関係者を招待し、各国の取り組みの現状と課題、
将来計画に関する報告を聴取すると共に、各国の役割、国際的ネットワークのあり方
等について意見交換を行う。また、宇宙航空研究開発機構をはじめとする国内の衛星
2
保有者(民間事業者等)にも参加を求めて、スペースデブリ問題に対する対応の現状
や課題等について報告を聴取し、今後の課題の解決に資する意見交換を行い、我が
国としての SSA 構想構築に資すると共に、関係諸国に対して”World SSA”構想を提唱
する。
(2)スペースデブリ観測施設の視察
主に海外からの招待者を中心に、財団法人日本宇宙フォーラム(JSF)が保有するス
ペースデブリ観測施設(岡山県井原市:光学望遠鏡、及び鏡野町:レーダ)の視察を
行うことで、今後我が国が保有すべき施設等についての意見交換を行う。
光学望遠鏡
レーダ
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3.実施内容
3.1 国際シンポジウムの開催
(1)開催日時
2012 年 3 月 1 日(木)-3 月 2 日(金)
(2)開催場所
THE GRAND HALL(東京都港区港南 2-16-4 品川グランドセントラルタワー3F)
(3)後援
内閣官房宇宙開発戦略本部
外務省
文部科学省
経済産業省
社団法人日本航空宇宙工業会
(4)協力(五十音順)
株式会社 IHI
株式会社 IHI エアロスペース
川崎重工業株式会社
スカパーJSAT 株式会社
日本電気株式会社
NEC 東芝スペースシステム株式会社
HIREC 株式会社
富士通株式会社
三菱重工業株式会社
(5)プログラム及び講演概要
開会挨拶
間宮 馨 JSF 理事長
今般、財団法人日本宇宙フォーラム(JSF)主催により、スペースデブリ問題に関する
国際会合を文部科学省科学技術戦略推進費の支援を頂き開催の運びとなった。JSF
は、わが国唯一、スペースデブリ観測専用の設備を国及び岡山県のご協力のもと整備
し、平成 12 年から運用させて頂いている立場から、近年のデブリによる宇宙環境の悪
化に対して、宇宙開発利用の持続的発展への危機感を抱くようになり、今回の国際会
合を企画した。
今回の国際集会が、先行している欧米諸国の取り組みの現状や将来動向を踏まえ、
わが国及び世界にとって最適な対応体制を確立するための各国の役割、国際ネットワ
ークのあり方等についての情報交換の場になることを期待している。
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来賓挨拶
古川元久
宇宙開発担当大臣
国際的な課題となっているスペースデブリの問題について、
日米欧のハイレベルの関係者が参加するシンポジウムが開催され
ることは、誠に意義深い。
先日、国際宇宙ステーションから帰還した古川宇宙飛行士の話
でも、デブリがわずか330メートルのところまで接近し、「どこかに
衝突してもステーション内の空気がもれる区画が最小限になるよ
う、すべての出入り口を閉じて緊急帰還用の宇宙船に避難し、祈
るしかなかった」ということであった。また、人工衛星が地球に落下
する際には、緊急事態に備えて政府を挙げた対応を行っている。
宇宙環境の保全は、一国でなしうるものではなく、国際的な連携の下で進めることが
必要である。日本としても、引き続き最大限の貢献をしていく。また、EUが提案する「宇
宙活動に関する行動規範」も、スペースデブリ問題解決に向けた国際的に重要な取組
みであり、できるだけ多くの国が参加する規範が合意されるよう、我が国としても積極的
に規範作りに取り組んでいく。
戸谷一夫
文部科学省研究開発局長
2010 年から国連において、宇宙活動の長期的持続性ワーキン
ググループが設置され、スペースデブリの低減も含めた種々の課
題について積極的に議論がなされている。また、この議論の主要
な場である国連宇宙空間平和利用委員会では、JAXA の堀川さ
んが議長を務められるし、日本としてもこうした議論に大いに積極
的に参加していきたいと考えている。
最近では、米国の衛星、ドイツの衛星、あるいはロシアの探査機
などが立て続けに大気圏に再突入して、文部科学省においては
JAXA 等の協力により、これらの再突入に関する情報の提供を、国民に向けても幅広く
行っている。
このシンポジウムの開催は、誠に時宜を得たものだと考えている。特に米国および欧
州からこの問題に第一線でまさに取り組んでいる方々にご参集いただき、わが国の関係
者と広く意見交換を行っていただく本シンポジウムは、極めて有用かつ貴重な機会だと
考えている。また、マスコミや一般の方々にもご参加いただいていると聞いており、スペ
ースデブリに関する正確かつ最新の情報を広くこのシンポジウムを通じて提供していた
だけるのではないかと期待している。
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武藤義哉 外務省大臣官房審議官(軍縮不拡散・科学部)
2 月 28 日、玄葉外務大臣はわが国のグローバルな国際協力の
展開に関する政策スピーチを行った。その中で、新たな空間とし
て、海洋、サイバー空間とともに宇宙空間を挙げて、これへの取り
組みの重要性を指摘した。そこで玄葉大臣が挙げられた日本が推
進すべき宇宙外交の三つの柱は、一つが宇宙をめぐる国際協力
の推進、二つ目が国際的規範づくりの推進、三つ目が安全保障政
策の一環としての宇宙政策である。
スペースデブリの増加を受けて、国際的にはさまざまな規範づく
りの動きが見られる。その中でも、EU 提案の宇宙活動に関する国際行動規範案は、「透
明性・信頼醸成措置(TCBM)」の一つとして非常に重要なものである。本年 1 月 25 日に
玄葉大臣が表明した、日本としてはこの行動規範案を基にして、できるだけ多くの関係
国が参加する国際的な行動規範の作成に向けて国際的な議論に積極的に参画する用
意がある。更に、安全保障政策の一環としての宇宙政策の観点から、日米間では昨年 6
月の「2+2」の共同発表を踏まえて、宇宙状況監視、測位衛星システム、宇宙を利用し
た海洋監視、デュアルユースセンサーの活用などの安全保障分野における具体的な協
力について協議を深めている。
樋口清司
宇宙航空研究開発機構副理事長
今回のシンポジウムは、非常に時宜を得ており、敬意を表した
い。それは二つか三つの理由である。宇宙空間が、一部の宇宙
開発マニアによる研究、あるいは夢の実現のための場所であれ
ば、今このシンポジウムは必要ない。人類、国家、あるいは一般市
民にとって宇宙空間というものの意義が変わってきたということだと
思う。
20年位前、スペースデブリ問題について、スペースデブリの専
門家が、宇宙空間がごみだらけの絵を出して「こんなに汚れて大
変だ。スペースデブリのことをきちんと考えないと駄目だよ」と、ウォーニングを出した時
代があった。ところが、ここ 1~2 年、実際に衛星の設計会議をやると、サブシステムごと
に、例えば電力系システムが、設計上の要求として確率的に壊れる確率と、デブリが当
たって壊れる確率のオーダーがほぼ近づいてきている。つまり、設計要求と同等の危険
でデブリが当たり、壊れてしまうというようなことを設計審査会で議論しなければいけない
時代が来た。そういう意味で非常にタイムリーである。
JAXA はこれまでの経験に基づき、国連でのデブリ低減ガイドライン作成に積極的に
貢献してきた。きちんと観測して、デブリの軌道をきちんと予測する、あるいはきちんとデ
ブリの状態をつかむという技術をしっかりやろうと考えている。
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基調講演:宇宙政策及び戦略
“日本の宇宙政策の現状:持続的な宇宙開発利用”
山川 宏 内閣官房宇宙開発戦略本部事務局長
2011 年 9 月の閣議決定に基づくわが国の宇宙活動の現状及び
今後の計画、並びにわが国の宇宙活動推進体制は以下のとお
り。
・ 2020 年までに実用準天頂衛星4機体制の構築が決定され、開
発整備は内閣府が担当する。また、宇宙開発利用の推進役
は、内閣府に移され、省庁間の調整機能を充実する。
・ 宇宙基本法の六つの理念は、①「宇宙の平和的利用」、②「国
民生活の向上」、③「産業の振興」、④「人類社会の発展」、⑤「国際協力」、⑥「環境
への配慮」となっているが、スペースデブリは「環境への配慮」が主に関連してくる。
・ スペースデブリに関しては、正確に把握すること、発生させないこと、できるだけ除去
することが重要である。
・ 国際協力が非常に重要であり、日本としては、EU が提案している宇宙活動に関する
行動規範については、できるだけ多くの国が参加できる規範となるように活動し、推
進していく。
“国際協力を通した宇宙開発利用の持続性”
Frank A. Rose 米国国務省次官補代理
今日の宇宙システム及びそれらを支える宇宙インフラは、人
工物がもたらす否定的・破滅的脅威に直面しており、以下につ
いて協調が必要である。
・ デブリ低減に向けた協力
近年のデブリ環境は、中国の ASAT 実験や軌道上での衛星同
士の衝突等により最悪であり国際宇宙ステーションも脅威にさら
されている。そのため米国は、IADC や国連のデブリ低減ガイド
ラインの作成に貢献すると共に、国連宇宙空間平和利用委員
会における長期持続性議論にも積極的に参加している。
・ 宇宙状況認識に関する協力
宇宙環境状況認識の確実性を保持するためには国際協力は必須である。特に、潜
在的に宇宙システムへの障害となる対象物を迅速に検知、警告し、特性把握するた
めに既に、米国は欧州宇宙機関、EU、欧州内各国宇宙機関との協力を進めており、
同様な活動は、アジア太平洋諸国、特に日本との協力を進める用意がある。
・ 衝突回避のための協力
米国は他国政府及び商業衛星運用者に対して緊急デブリ接近情報を提供している
が、これらの情勢を共有するための能力向上を追求している。
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・ TCBM(透明性、信頼性醸成措置)展開のための協力
宇宙での責任ある活動と宇宙の平和利用を推奨するために TCBM の遂行を、米国オ
バマ国家宇宙政策では謳っている。そのため宇宙空間平和利用委員会や民間セク
ターを含む宇宙機運用機関からの意見を取込むボトムアップの取組みを行っている。
・ 宇宙活動の国際行動規範について
2012 年 1 月、米国は EU 及び諸外国と協力して、EU 行動規範をベースとして、宇宙
活動の国際行動規範作りに参加することを決定した。クリントン国務長官は、日本及
びオーストラリアをはじめとする諸外国が本行動規範作りの支援を歓迎する旨発言し
ている。
・ 米国はこのスペースデブリ問題を解決するために G8 の場で議論することにした。アジ
ア諸国を含む世界の国々が協力して取り組まないと、人類の未来にとって取り返しの
つかない事態となる。皆さんで手に手を取り合って一緒に行動を起こそう。
“米国国家宇宙計画と、国家宇宙政策並びに宇宙状況認識の促進”
Richard W. McKinney 米国国防総省空軍省副次官
・ 米国宇宙政策と戦略の関係
スペースデブリ対策には、まず正確、迅速、タイムリーな状況
認識が必要である。米国宇宙戦略軍(USSTRATCOM)の統合
宇宙運用センター(JSpOC)は、50 年の活動の歴史を誇り、24
時間無休で、1,100 機の運用中衛星を含む 22,000 個のデブリ
観測を行っている。米国宇宙政策は我々の SSA 活動に対する
指針を与えている。宇宙活動に対して事故、誤認、不信を回避
するために責任ある行動が必要である。米国国防予算は減少
傾向にあり、効率的な活動が求められているが、アジアに対す
る活動の比率は高めていきたい。
・ 国防総省の役割
軍が提供している“Space-Track.org”は、公共的なデータベースとして全世界で活用
されている。JSpOC は、米国のみならず、既に 30 以上の民間組織との間で協定を締
結し、デブリに関する緊急デブリ接近情報の提供に取り組んでいる。
・ 今後の SSA 能力向上に向けた宇宙プログラム
新たに、“Space-Fence”プログラムに取組んでいる。従来の VHF 帯から、S 帯の電波
を 使 う こ と で 、 中 低 高 度 帯 の 更 に 小 さ い デ ブ リ 観 測 が 可 能 と な る 。 次 は 、 SBSS
(Space-Based Space Surveillance system:宇宙からの監視)である。SBSS により、静
止軌道帯の微小デブリ観測が可能となった。更に、データ処理能力向上にも取り組
んでいる。
・ このように、米国は同盟国と協力して SSA にチャレンジすることで、諸外国、商業パー
トナ、一般市民へのサービス提供を行っている。宇宙環境が危機的状況になった今、
世界の宇宙開発利用先進国が協力することができるのは、この分野が最も相応しいと
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考えている。
“持続性及び国家安全宇宙戦略:悪化する宇宙環境に対する対処について”
James P. Finch 米国国防総省宇宙政策及び戦略ディレクター
・デブリ環境
クリントン国務長官は、先月、“宇宙環境の長期持続性が今、無責
任な活動によるデブリの発生で危機的状況に陥っている”と述べ
た。中国による ASAT 実験がその典型である。このような環境下で
今後も宇宙開発利用を継続するためには、我々は違った行動が必
要である。
・ 新たな戦略
国防総省は今後、NASA や国際コミュニティと連携して、①更なるデ
ブリを増やさないこと、②衝突や破裂を引き起こさないこと、③リスク
の高いデブリを能動的に回収することに包括的に取組む。
・ 更なる環境悪化回避のために
まず、国連で制定した“デブリ低減ガイドライン”を徹底すること。しかしこれを遵守す
ることは簡単ではない。短期的な利益のためにミッション寿命の延長をはかることと、
長期的観点から衛星のミッション寿命を達成した段階で衛星運用を終了するか、重
要な判断を迫られることになる。これらの実行には大変な困難とコストが伴う。しかし人
類の未来を考えると、払えないコストではない。重要なことは、行動を先延ばしにする
ことは、将来の更なる大きなコストを発生させることになるということである。
・ 衝突回避
衝突を回避するためには、SSA 能力の向上と、全ての衛星運用者との協力が必須で
ある。2011 年米国は、1,100 の緊急デブリ接近情報を世界の衛星運用事業者に提供
した。これに対して、それぞれの衛星運用者から詳細な衛星情報が提供されれば、
接近解析の向上が期待できる。
・ 能動的なデブリ回収
オバマ大統領は、宇宙政策の中で、DOD 及び NASA に対して、能動的なデブリ回収
技術開発を指示している。能動的デブリ回収には、このような技術と同時に、透明性
や協力的対応なども同様に重要である。
“SSA 能力評価の展望”
Larry D. Welch 元米国空軍参謀長、国防分析研究所
シニアフェロー
・ 宇宙における我々の活動は、人類に沢山の利益・恩恵を与え
てくれている。
・ 人間の活動は、陸、海、空の領域では、既に何百年もの間、
様々な仕組みや法律、国際間取決め等で管理されてきた。一
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方、サイバースペース、宇宙では規範とは何かの理解が進んでいないし、規範がな
い。
宇宙には覇権(主権)がない。宇宙では何をやっても許される。宇宙でやることに対し
て、何が許容範囲かが決まっていない。
今年の夏、ワシントンで行動規範に関する議論が始まる。行動規範は、既に EU がタ
タキ台を準備してくれている。日本もこれに参加すると聞いている。
宇宙活動のデータアクセスは、サイバースペース抜きでは考えられない一方で、サイ
バースペースは、そのネットワークがあまりにも脆弱であるし、サイバースペースにも主
権は無く、やりたい放題である。
従って、まずサイバースペースに主権を与えるべきである。即ち、何百万も発生して
いるサイバースペースでの許されないことに、罰則が必要である。
宇宙も同様で、行動規範が必要である。宇宙に行動規範ないことが宇宙活動に暗い
影を落としている。
海洋では、規則の起草から成立まで 50 年を要した。
サイバースペース、宇宙における行動規範の成立は容易ではないが、粘り強く成立
を図るべきである。
宇宙システムとサイバースペースシステムとは密接に係っている。日米国防会議でこ
の問題が議論されることになっている。
宇宙の利用から得られる利益・恩恵は計り知れないものがあり、SSA 活動はそれを担
保し、人類へ多大なメリットをもたらすものである。
一般講演
“国連宇宙空間平和利用委員会における宇宙活動の長期持続性検討ワーキンググ
ループ活動”
堀川 康 国連宇宙空間平和利用委員会議長(2012-2013 年)
宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会は、「宇宙活動の長期持続性に関する
ワーキンググループ」設置を決定し、2011 年ワーキンググループ規約が制定され、南
アフリカ天文台のマルティネス氏が議長に指名された。
ワーキンググループ(WG)の目的と成果
・ 現行の慣行や運用手順、技術標準や政策等を含む宇宙活動の長期持続性に関す
る報告書を纏めること。
・ ガイドラインの作成。ただしこのガイドラインは、強制力はなく、国際機関、国、民間セ
クター等が自主的に適用できるものである。
・ WG で議論すべき課題は、①地球の持続的発展を支援する宇宙利用の持続性、②
スペースデブリ、③宇宙天気、④宇宙運用、⑤協力的な SSA を支援するツール、⑥
管理体制、⑦宇宙開発利用者のためのガイドライン
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・ WG 活動の専門家グループ分けは以下のとおり。
- グループ A:地球の持続的発展を支援する宇宙利用の持続性(主査:サントス氏
(ポルトガル))
- グループ B:スペースデブリ、宇宙運用及び SSA 支援ツール(主査:ポルテリ氏(イ
タリア)、及びブエネッケ氏(USA))
- グループ C:宇宙天気(主査:小原氏(日本))
- グループ D:管理体制及び宇宙利用開発ガイド(主査:マルキシオ氏(イタリア)、
及びヴィクト氏(オーストラリア))
・ WG 活動は、2011 年から開始し、2014 年に纏めることを想定している。
“SSA データ共有、並びに宇宙監視ネットワークの能力向上”
Kurt S. Story 米国空軍准将、宇宙統合機能部隊副司令官
過去 5 年間、スペースデブリは 2 つの重大な事件・事故により急増した。一つは、2007
年中国による ASAT 実験で、3,500 個以上のデブリが発生、現状でも、3,300 以上が軌道
に滞留し今後数世紀にわたって脅威となり続けます。二つ目は、2009 年米露衛星同士
の衝突である。この場合は、2,200 個以上のデブリが発生した。これらの事件・事故で発
生したデブリは、検知できない数万個の微小デブリが発生したものと考えられている。
我々のチーム活動であるが、“space-track.org”のサイトには、全世界 156 ヶ国から
25,000 人が WEB に登録し、過去1ヶ月間で 200,000 回以上のログイン、1 日約 6,000
回のログインとなる。この WEB サイトは、デブリに関する様々な情報を提供している。ま
た、USSTRATCOM は、世界の民間を含めて 30 以上の機関と契約を締結し、緊急デブ
リ接近情報はじめ特別な情報提供を行っている。緊急デブリ接近情報により、これまで、
85 回の軌道制御が実行されている。米国はこのような活動を通じて、国際的情報交換
の拡大に繋げている。
SSA データは膨大ではあり、国際間で共有すべきと考える。マシーン対マシーンで繋
げるのは簡単であるが、データを有益な情報として加工する技術が重要だ。事実、米国
は、意思決定に必要な情報創出のための解析手法を開発中である。
情報のセキュリティについても非常にチャレンジングである。パートナ間でデータ共有す
る場合に、如何に透明性を確保するか重要である。
宇宙は混み合っている。ニュートンは、“上に上がったものは落下する”と言ったが、デ
ブリは上に上がったものほど落ちてこない。
“SSA データ共有及び国際協力”
Duane Bird 米国宇宙戦略軍少佐
USSTRATCOM が提供する SSA サービスは、以下のとおり。
① WEB サイト上の基本サービスでは、登録すれば、デブリ軌道情報、衛星データ、衛
星・デブリ落下予測情報など提供する。(space-track.org)
②アドバンスト・サービスは、USSTRATCOM と SSA データ共有覚書の締結が必要。接
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近情報、打上げ支援情報提供、軌道離脱、再突入、廃棄・寿命末期運用支援、不具
合処理等の情報を提供する。
③緊急サービスは、世界の全ての衛星運用機関に対してデブリ緊急接近情報
(Conjunction Summary Message:CSM)を提供する。
国際標準に向けた活動
- 宇宙データシステムに関する諮問委員会(Consultative Committee for Space Data
System:CCSDS)におけるデータフォーマットの標準化
- 接近データ情報に関する標準化
CCSDS の場において、標準化の議論が進行中。本年 1 月、最終案が調整され、4
月に要すれば更なる修正の後、5 月までに各国宇宙機関間での最終調整の予定。
JSpOC は、米国以外の衛星運用機関との情報共有を今後も継続して進める。
“上層大気観測衛星落下解析”
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Eugene G. Stansbery NASA ジョンソン宇宙センターデブリプログラム室長
上層大気観測衛星(UARS)は、1991 年 9 月、スペースシャトルによって、高度約
575km に打上げられ、2005 年 12 月の運用終了と共に、デブリガイドラインに従って、
近地点高度を約 360km、遠地点高度を 510km へ移動した。これにより、軌道残留期
間を 20 年以上短縮した。
再突入予測は、大気密度と衛星の姿勢安定性に大きく依存する。
米国の再突入予測情報は以下の手続きで実施される。
(ア) 公式情報は、JSpOC が提供
(イ) 再突入情報(TIP:Tracking and Impact Prediction)は、4 日前、3 日前、2 日前、
1 日前、12 時間前、6 時間前、2 時間前のそれぞれのタイミングで、WEB サイト
(Space-Track.org)で公表。
(ウ) TIP 情報は、再突入時刻及び再突入場所を提供するが、大きな予測誤差を伴
う。2 時間前の予測であっても、±25 分の誤差、これを地表面距離に換算する
と、±12,000km になる。
(エ) 最終落下情報は、再突入後数時間以内に公表される。
UARS は最終的に、2011 年 9 月 24 日、04:00GMT に、南緯 14.1 度、西経 170.1 度
の地点で、大気圏に再突入したものと判断している。
UARS 落下に伴うリスク解析の結果、26 個の破片、532kg(打上げ初期、燃料を除く衛
星重量は、5,668kg)が地上に落下したと予測した。
これらが人に当たる確率は、3,200 分の 1 と予測。NASA、米国政府、その他海外の宇
宙機関で、人への衝突確率を、10,000 分の 1 以下とできないかとの意見がある。
UARS 衛星の開発、打上げ時点では、衛星の落下物が人に当たる確率の制限値は
特に定められていなかった。
宇宙開発史上、再突入物体が人に衝突したという報告はない。
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“X 線観測衛星落下解析”
Uwe Wirt ドイツ宇宙状況認識センター解析部長
・ ドイツ連邦政府宇宙戦略(民生及び軍事・安全保障利用の目的)
- 民生利用と軍事利用研究の協調
- 省庁間協力の一層の強化
- リソースを有効利用して、重複を回避
- 宇宙システムをフルに活用し、宇宙利用を確実なものとする
・ DLR(ドイツ航空宇宙研究センター)が、軍と密接に連携して宇宙活動を展開
・ ドイツ宇宙状況認識センター(GSSAC)は、2009 年にコアチームが立ち上がり、2012
年~2019 年の間を初期運用訓練期間として、2020 年本格運用を目指している。
・ GSSAC が目指す国内外(EU、米、仏、ESA、DLR、国内衛星運用者)との情報交換
・ GSSAC のユーザネットワーク(内務省、国防省、外務省、運輸省、経済省、衛星運
用企業)
・ ROSAT 落下時の体制は、再突入予測は ESA が実施、その情報が GSSAC、DLR、
FGAN(レーダ観測設備)へインプット。DLR から関係各省庁へ通報。GSSAC 及び危機
管理省から情報公開する。
“欧州宇宙機関及び欧州における SSA 計画”
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Emmet Fletcher, 欧州宇宙機関宇宙監視及び追跡マネージャ
欧州が保有するデブリ観測設備による観測の結果、テニスボール大(10cm 以上)は、
20,000 個以上、オリーブ大(1-10cm)は、200,000 個以上、米粒大(1cm 以下)は、
35,000,000 個以上、合計 35,000,000 以上、6,000 トン以上と推定している。
最近、行動規範に基づき、地球観測衛星(ERS-2)の運用停止にあたり、2011 年 9 月
15 日、軌道離脱(De-orbit)処理を行い、15 年以内の落下を見込んでいる。最終停
波にあたり、燃料の完全排出、バッテリラインの切り離し処置を併せて実施した。
最近、EU が行動規範を起草した。EU は、全ての加盟国に本行動規範を運用するこ
とを求めている。
現在欧州には、送受分離固定式監視レーダ 1 台あり、フランスがその設備
“GRAVES”を運用している。一方、追跡レーダは 3 式ある。1 つめはドイツが保有す
る”TIRA”。非常に高性能なレーダでイメージングが可能。2 つ目は、“BEM Monge”
でフランス海軍保有、3 つ目は、”CAMRa”で、英国が保有。光学望遠鏡は、多数保
有している。スペインに 2 ヶ所、スイス、カナリー諸島、キプロス、フランス、チリにそれ
ぞれ保有。
2008 年、ESA 閣僚級会合で汎欧州 SSA 開発が合意された。現在、その準備プログラ
ムを展開中で、施設設備のシステム要求や、ユーザ要求、システムアーキテクチャー
の検討を実施中。2012 年 12 月の次回閣僚級会合で、次年度以降の本格的活動の
可否が決定される。新構想の中には、新たなレーダシステムが含まれている。
昨年初め、ESA と NASA との間で、接近警告情報の交換、監視データの交換、相互
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運用性等 SSA 活動の協力可能性について意見交換を行った。
“フランスにおける宇宙デブリ監視、デブリ低減、衛星衝突回避等の活動”
Fernand Alby フランス宇宙研究センターシニアアドバイザ
・ フランス国内の宇宙監視に関する役割分担は、
- 総括責任は国防省(空軍が全体調整)
- 空軍は監視レーダ(GRAVES、SATAM)の運用
- 国防省整備庁は、追跡レーダ(Le Monge レーダ)の運用
- CNES は、官民衛星の追跡管制、飛行解析、軌道上及び打上げ時衝突予測、再
突入予測、フランス宇宙法の推進
- 他の宇宙関連機関との調整
・ CNES は現在、静止衛星 1 機、中低高度衛星 17 機、合計 18 機を運用中。衝突リスク
管理は、国内レーダ網、米軍、ドイツの連携により実施。
・ 2011 年の活動は、13~18 機をモニター、衝突確率 10-4以上が、122 回、米国
JSpOC から、89 回のアラートを受領。その内 15 ケース(衝突確率 10-3以上)は、レー
ダ再観測、JSpOC の支援を要請。衝突回避マヌーバを 5 回実施。
・ IADC キャンペーンで UARS 落下予測に CNES として参加。良い結果を得た。
・ フランス宇宙活動法についての紹介及びデブリ低減ガイドライン適用時の定量的な
要求値を説明。
・ デブリ低減ガイドライン制定前に打上げられた衛星が既に存在するため、今後 10 年
間はガイドライン移行期間とし、その後は、ガイドラインを必ず守るべき義務を負うこと
になる。
“我が国の宇宙デブリ観測施設と JAXA における宇宙デブリ低減に関する運用状
況”
吉冨 進 JSF 特任参事
成田兼章 JAXA 統合追跡ネットワーク技術部長
・ JSF 吉冨から、JSF が運用しているデブリ観測設備(光学望遠鏡、レーダ)の概要を紹
介。
・ JAXA 成田部長から、以下を報告。
- 光学望遠鏡による掃天観測(東経 68 度-200 度、4,000km-44,000km)。既存
TLE デブリの 90%を確認した。
- レーダは、最も重要な初期補足技術の改善に取り込み、良好な成果を得た。
- 大型物体の観測も、最近では、UARS、ROSAT、Phobos-Grunt 等実施。
- 最近は、日本起源のデブリ観測が中心の活動である。
- 衝突回避マヌーバのための基礎データは、米国提供の TLE である。
- GEO 衛星に対する接近解析頻度は、1回/週程度。最近は、デブリ(衛星)の姿
勢角変動の推定手法を研究中。
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- 「だいち」とコスモス 2251 の接近の例。2009 年 5 月に回避マヌーバを実施。
- H-IIA、H-IIB 打上げ時、ISS 及びソユーズとの接近解析を実施。打上げ可否のク
ライテリアは、両者の間隔 200km 以下、及び、半径方向距離 50km 以下。
- De-orbit 実施例。科学観測衛星(AKARI)は、2011 年、11 月にデオービット制御を
実施、同年同月 24 日、全ての運用を終結した。700km の円軌道から、近地点を約
450km に低下することで、国際ガイドラインの 25 年ルールを満足する。
“静止軌道における宇宙物体状況と回避運用について”
篠塚重隆 スカパーJSAT 株式会社衛星運用部長、
(兼)横浜衛星管制センター長
・ JSAT スカパー社は、現在、15 機の衛星を保有し、12 機を運用して、世界第 5 位の商
用衛星保有企業である。
・ GEO は、LEO に比べてデブリ数は少ないが、GEO で一旦衝突事象が発生したら、
GEO は最早利用できない事態となる。
・ 2010 年 12 月~2011 年 12 月の間、スカパー社 12 機に対して、46 回接近、内 34 回
に対して、アラートが発生。
・ コスモス 2379(ロシア軍事衛星)が、Re-orbit せず、2009 年に東経 12 度に放置。その
後、12 度から東経 132 度へ移動。途中、JCSAT-6、-9、-10、-12 合計 4 機と東
経 120-130 付近で接近し、脅威が継続している。
・ スカパー社が運用中の 12 機の衛星が過去 34 回デブリの接近を受けた。その内、東
経 110 度~132 度の間に配置している 5 機の衛星に対して、27 回デブリが接近、128
度に配置している JCSAT12は、8 回も接近に遭遇している。これは、軌道離脱処理
(Re-orbit)されていない衛星の 75 度中心往復運動によるものと推定。
・ ブロック DM の場合、約 12 時間ごとに全 GEO 衛星と接近する可能を有する脅威の
物体である。スペースデブリ低減ガイドラインで求めている“GEO 保護領域”に人工物
体を滞留させてはならないという規制違反である。
・ スカパー社のデブリ衝突回避マヌーバ対応について
- 2011 年 JSpOC と覚書の交換。
- RADUGA1_7 と、スカパー衛星 2 機との接近について、JAXA と共同研究契約を締
結し、JSF 美星望遠鏡により詳細観測を実施。その結果、接近距離が数百メート
ルであることが判明。スカパー社の回避マヌーバ規定(2km 以内)に抵触するた
め、回避マヌーバ実施を決断。回避マヌーバは、ルーティン東西制御作業の一環
で実施したため、衛星の運用寿命に対するインパクトは無かった。
・ GEO 衛星運用者にとって回避マヌーバは、接近情報が高精度であれば、困難では
ない。
・ 衛星運者間の情報交換枠組みを整備すべき。(コンタクトポイントの明確化)
・ GEO においても、LEO 同様、更に小さいデブリ観測能力(地上望遠鏡、監視衛星)を
整備・保有すべきである。
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“宇宙安全の促進のための国際協会(IAASS)における宇宙デブリ問題に対する
取組み”
Alex Soons IAASS 理事
・ 近年の衛星打上げ数は平均 36 機/年。1 回の打上げで、地球軌道には、衛星+ロ
ケット最終段の 2 個が打上げられるため、72 個が毎年軌道投入される。一方、自然落
下物体は平均 5 機。従って、毎年、67 個が新たに軌道上デブリとなる。
・ ケスラーシンドローム(デブリ同士の連鎖衝突)発生の閾値は、2,500 個の無傷な物体
の存在と推定されている。現在既に、これが、2,700 個に達している。現に、1991 年以
降、2009 年までに 8 回の宇宙空間衝突が発生している。
・ LEO には運用を終了した衛星が 2,600 個(重量は、約 2,000 トン)存在。その上 2007
年の中国風雲衛星破壊実験、2009 年のイリジウム-コスモス衛星衝突により発生した
多数のデブリが既に存在するため、平均 12 年に 1 回の割合で上記現象が発生するこ
とが予測されている。
・ 能動的デブリ除去に向けた技術的、法的、機関的な課題
小さなデブリの除去はコストと効果のバランスが悪い。除去するなら大きなデブリを中
心とすべきだ。ランデブー技術はすでにあるので、デブリ除去は技術的に可能。しか
し、デブリを除去しようとして活動することで、他の衛星にぶつかる可能性もあり、デブ
リ除去がデブリを増やすという皮肉な結果をもたらす可能性もある。「何がデブリなの
か」という定義も難しく、またそのデブリの所有権を持つ国が「デブリでない」と責任を
逃れるために言い続ければ、デブリとして処理することが難しくなる。デブリを作り出し
た国が責任を持つ、という形にすれば、当然、こうした問題は起こってくる。
・ 打上げ国、衛星の運用国が違う場合などは、誰が責任を持つのか問題。そのために
も、宇宙開発利用の各国、各機関間が協力してデブリ問題に立ち向かうためには、当
事者間における“透明性・信頼性醸成措置(TCBM)”が重要な要素となる。
“宇宙デブリ問題に対するシンクタンクからの提言”
Victoria Samson セキュアワールド財団ワシントン事務所長
・ 持続性のゴールは、安定で予測可能な環境を獲得すること、持続性のキーポイント
は、国際協力の促進、安定性の強化、責任ある行動の推進である。
・ 本財団は、国際協力実現のために、世界各地でのワークショップや会合等で、国際
協力のための対話を継続してきた。
・ インドにおける宇宙の持続性に関する動向
- インド宇宙プログラムは、従来の民生利用から、軍事利用へと向かっている。即
ち、ASAT 技術に関する興味や、安全保障ミッション衛星が増加している。
- この傾向の背景は、アジア地域における宇宙能力競争が背景となっている。
・ 中国における宇宙の持続に関する動向
- 2007 年、自国の気象衛星をターゲットとして SC-19 ミサイルにより ASAT を実施。
- 2010 年 1 月には、“ミサイル防衛実験”を同じミサイルにより、前回より更に低高度
16
の衛星を使って実施した。
- “責任ある”ASAT とは、何かについて、国際的な共通合意が必要
- 2011 年 12 月公表された白書によると、地球観測能力の向上、有人月ミッションが
優先順位上位に位置している。
- アジア太平洋地域の宇宙協力、その他の地域的宇宙協力の支援を強調してい
る。
・ 国際的アプローチとしては、UNCOPUOS の活用、透明性・信頼性醸成措置(TCBM)
のため政府専門家の国連レベルでの組織化、行動規範の提案が必要。
“宇宙デブリ問題に対するシンクタンクからの提言”
Jana Robinson 欧州宇宙政策研究所研究員
・ SSA と宇宙ガバナンスの連携は、TCBM によって支えられる。
・ TCBM がキーとなるが、限界もある。即ち、先進国と新興国の不公平性、国家間の疑
念、多国間交渉の困難さ、交渉の長期化など。
・ 一方で、TCBM の強みは、宇宙安全保障環境の悪化の反面教師、特定の活動推進
のための枠組みの提供、宇宙文化の強化、不正行為の未然防止
・ TCBM を実現するためのいくつかの工夫とは、
- 宇宙政策、戦略、研究開発、プロジェクト等の情報共有
- 定期的な人材交流、コンサルテーション、データ交換等の専門家の交流・交換
- 衛星の位置移動、遷移軌道運用情報等の周知
- “ホットライン”の設置、TCBM に関連するワークショップ、会合等の開催
・ TCBM と国際行動規範
- EU 行動規範の特徴は、任意であるが、法的拘束力を持たせることも可能
- TCBM は、宇宙活動に係る第三国とのコンサルテーションのベースである
- 行動規範は、国際的な宇宙関連国・機関間で、広く受け入れられることを追求す
る。
- 米国政府は、2012 年 1 月、EU 行動規範をベースとして国際行動規範の合意に向
けて活動することを宣言した。
パネルディスカッション
トピックス: 我が国としての国際協力強化に向けた SSA 貢献分野と可能性
モデレータ: 吉冨 進 財団法人日本宇宙フォーラム特任参事
<パネリスト>(敬称略)
山川 宏: 内閣官房宇宙開発戦略本部事務局長
フランク A ローズ: 米国国務省次官補代理
リチャード W マッキニー: 米国国防総省空軍省副次官
堀川 康: 国連宇宙空間平和利用委員会議長(2012-2013 年)
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エメット ウレッチャー: 欧州宇宙機関宇宙監視・追跡マネージャ
ウヴェ ヴィルト: ドイツ宇宙状況認識センター解析部長
フェルナンド アルビー: フランス国立宇宙研究センターシニアアドバイザ
<討議概要>
吉冨:JSF が保有する現在のデブリ観測施設、特にレーダ設備に関しては、観測地点か
ら対象物までの直線距離 600km で 1 平米の能力しかなく、限界を感じている。日本は将
来的にはデブリの回収などで貢献できる潜在的な技術力はあると思うが、直近の課題は
SSA の能力を高めること。現在、上斎原レーダ設備の改修案を検討しているが、それだ
けでは不十分。データ処理・解析できる人材の育成など、やらなければいけないことが
たくさんある。
マッキニー:日本に求めるのはレーダのサイズではなく、地理的な場所として東アジアで
観測してもらうということ、様々なリソースを提供してくれることである。また、新たなデブリ
を作り出さないということも大事だ。
吉冨:地図で見るとユーラシア大陸のアジア側は全くカバーされていない。なので、日本
が SSA 能力を提供して、情報共有できるような状態になることが望ましいということは重
要なポイントである。ヨーロッパはどういう状況なのか。
フレッチャー:衝突予測に必要なシステムを構築することを目指している。しかし、どれだ
け効果的なシステムを作るのか、という問題と、どこまで幅広く観測するのかという問題は
トレードオフの関係にある。SSA の目的は衛星を守ることであり、そのためには効果的な
システムを作ることが重要だ。
アルビー:デブリの数から考えれば、大量のアラートを受けることになるだろう。そのため
にも精度の高い観測能力が必要であり、不要なアラートを減らす必要がある。
堀川:JAXA では宇宙ステーションを担当したが、その時デブリ対策をやった。1cm のデ
ブリと衝突しても大丈夫なようにはしたが、確率的に 10cm 以下のもの(地上からとらえる
ことはできない)が当たらない、という前提で考えていたが、そのリスクは思ったよりも高い
のではないかと考えるようになった。
マッキニー:1961 年に SSA を始めたが、それから改良を重ねている。より高い精度を得る
ために S バンドのレーダを使うことを予定している。
吉冨:日本が国際的な枠組みのなかでどう位置づけられるか、ということが問題となって
きている。JAXA 法も改正に向かっていて、JAXA も積極的にかかわれるようになる。これ
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は人類共通の利益だ。欧米におけるデブリ観測を含む SSA 活動は、軍民共同作業とし
て実施されている現実がある一方、日本はこれまで厳密な平和利用、即ち、JAXA は非
軍事の宇宙開発利用を進めてきたため、日本国全体としての SSA 活動が出遅れてき
た。日本国内で衛星保有者は、JAXA だけでなく政府の情報収集衛星、気象観測・航空
機管制衛星(ひまわり)、民間の通信衛星、放送衛星、大学発の小型衛星等と多様であ
り、一元的な SSA システム構築に向けて、日本は何に気を付けていけばよいのか、パネ
リストに聞きたい。
ローズ:この分野で日本とできることはいろいろとある。宇宙基本法ができたことで、アメリ
カは日本との対話を 2010 年から強化した。閣僚レベルでの宇宙安全保障フォーラムが
できるようになった。TCBM や SSA の側面で協力することを議論している。実践的な協力
ができるようになった。SSA での協力が重要だ。
マッキニー:最も重要な問題はデータポリシーだ。どうやってデータを共有するか、誰が
どのようなデータにアクセスできるか、アメリカでも NASA と国防総省は異なる機関であ
り、常に対話しながら調整している。データポリシーと対話だ。
ローズ:アメリカは 2010 年に国家宇宙政策を出したが、これは「全政府的アプローチ」で
作った。国防総省も NASA も他の機関も参加している。現代は軍民の区別が難しくなっ
てきている。ゆえに Whole of Government アプローチをとり、縦割り(Stovepipe)を越えな
ければならない。それによって効果的な宇宙政策ができる。
マッキニー:GPS は軍のシステムだが、PNT 調整委員会があり、民生機関も一緒になっ
て政府内で Whole of government approach で対応している。軍民両用技術はそういうや
り方しかない。
堀川:軍民両用の間のデータポリシーの問題は、どういう線引きをするかが難しい。対話
をするのが当然だが、どこで線引きをしているのか聞きたい。
フレッチャー:ESA も平和的利用原則があるが、ガリレオ(欧州版 GPS)や GMES(Global
Monitoring for Environment and Security)などで軍民両用分野に踏み込んでいる。SSA
も軍民両用だ。ESA は軍事目的の衛星は持っていないが、加盟国は持っている。なの
で、ESA と加盟国の間で対話をして、透明性を高めて運用するようにしている。
ヴィルト:ドイツは ESA、EU、ドイツの間で宇宙関連予算を分けている。ドイツは最大の財
政貢献を ESA にしている。ドイツから見ると ESA は技術開発機関であり、EU はサービス
を提供する機関であり、ドイツの DLR は研究開発をして ESA にインプットする活動をす
る。ドイツのレーダ(TIRA)は欧州最大だが、これは国の施設ではなく、研究機関の設備
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である。しかし、政府や欧州のリクエストにこたえる活動をしてもらうために、政府からの
資金拠出をしている。
ローズ:2010 年、議会は国防長官に SSA 協力協定を結ぶ権限を与えた。アメリカとフラ
ンスでこの協定が結ばれた(他にもカナダとの協定が結ばれた)。これは政治的な協定
であり、具体的なプログラムではないが、これから技術的な詳細を詰めるための政治的
な枠組みである。
マッキニー:政治的な協力がなければ、SSA の技術的な協力はできない。これは技術的
な問題だけではない。
ローズ:同時に米軍戦略空軍が積極的に国際協力に関わっていることは重要である。こ
れも戦略空軍のリーダーシップが効いている。
アルビー:アメリカとの協力は、ロシアのフォボス・グラントの再突入の追跡で初めて活用
したが、データ共有の重要性が認識できた。一国だけ、ヨーロッパだけだと軌道の一部
しか見えない。地理的に広がった観測施設が必要だ。そのためにも国際協力が必要
だ。
山川:新しい宇宙政策体制が早ければ 4 月にできる。2008 年の宇宙基本法に安全保障
は組み込まれていて、今回の改正で宇宙基本法に合わせて JAXA 法を改正するが、現
時点で JAXA が何か防衛の仕事をしているわけではない。日本はロケットを打ち上げる
ときも、JAXA、米国との調整をし、衛星を上げるときも電波の干渉を避けるために国際的
な調整を行う。それと同じ意味で SSA にかかわる意味がある。日本の地理的な意味の重
要性も理解している。
しかし、日本の予算が限られており、デブリの対策にどの程度予算をかけられるのか、
ということを考えなければならない。そのためにも国際協力、対話が重要。こうした対話
については測位衛星の会合などでも実体験しており、顔を合わせて信頼関係を築くこと
は大事だと思う。
欧州の例に見るように、軍民の協力をするうえで、やはりデータ共有、データポリシー
が大事。それを考えたうえでハードウェアの仕様を考える必要がある。
吉冨:TCBM が大事なのはわかるが、アジアには中国やインド、その他いろいろな国で
衛星を持ち始めている。日本がアジアの国々とどう付き合えばよいのか?
ローズ:アメリカから見れば日本は重要な同盟国。また日本は宇宙活動、TCBM でも共
有する価値を持っている。日本は独自にアジアの国々と関係を作ってきた。
その関係を使ってアジアの国々と TCBM について議論をする機会を作ってほしい。新
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興国に関与することは非常に重要である。彼らが責任を持った宇宙利用をすることが大
事なポイントだ。その意味でも日本がこれらの国々との関係で重要な役割を果たせると
思う。
堀川:国際協力というのはギブ・アンド・テイクだと考えてきたが、近年、いろんな国が技
術を持つようになった中で、SSA だけでなく、お互いにどのような宇宙政策をやろうとして
いるのか、どのような技術水準にあるのか、どのような設備を持っているのか、ということ
を踏まえ、どのように情報交換をするのかというところまで考えて関係を作ることになって
いる。その意味でも信頼感がなければならない。その信頼感を作るための努力として
APRSAF(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum)があるが、まだ SSA や宇宙の持続
的利用という話はできていない。ラテンアメリカ、アフリカでも地域での活動が進められて
いる。そうした地域協力の結節点として UNCOPUOS(国連宇宙空間平和利用委員会)
がある。そういう関係づくりを支援していきたい。
吉冨:日本から見ると、欧州は規模も性格も似ている。その観点からコメントを。
フレッチャー:確かにデータ共有などはチャレンジングな問題だが、技術的な問題を解
決することも難しい課題。欧州は複数の国が集まっているので、Work together するだけ
でも大変。各国が異なる要求や要望があり、技術レベルの違いや予算の違い、政策目
的の違いなどがあり、調整することは大変困難であるが、それをやるのが ESA の役目。
ヴィルト:技術者たちにもルールやガイドライン、スタンダードなど、単なる技術だけでは
ない、政治、経済、法律といった問題に対する意識を高めるように努力している。技術開
発や品質向上をするためにも、こうしたルールや法制度などにのっとって進めていくこと
が大事だ。
アルビー:欧州はそれほど複雑ではない。いくつかのプログラムは国家でやり、国家でで
きない規模の物は ESA でやる。
山川:日本は国際協力をしなければいけない国である。SSA は民でも軍でもない。宇宙
全体の問題である。そういう認識を持つようになった。アジアでの役割は「一緒にやって
いく」部分と「競争する」部分があるが、デブリの問題だけでなく、様々な衛星システムの
問題と関連してアジアでのリーダーシップを発揮する必要がある。
吉冨:こういうテーマがようやく日本でも扱えるようになった。これをきっかけに日本の役
割を高めて行きたいと考える。本日はありがとうございました。
以上
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主な質疑応答
質問(1)アメリカが進めようとする国際行動規範について。
(ローズ) アメリカ独自の「行動規範」があるわけではない。EU が提出した「行動規範」
を基礎にする。これまで EU は「行動規範」を作るプロセスが不透明だったのが問題。
オープンなプロセスで国際的コンセンサスを作るのが目的。
透明性・信頼醸成措置(TCBM)として重要なのは宇宙安全保障の対話を進めること。
TCBM で重要なのは誤解を少なくすること。重要なのは中国との対話。2007 年に中国
が行った衛星破壊で生まれたデブリが中国の衛星にぶつかる予測が出たとき、アメリ
カは中国に警報を出した。中国は自分の行為の報いを受けるべきだが、その結果生
まれたデブリがアメリカの衛星にぶつかるリスクが高まる。だから、中国に警報を出した。
冷戦時代の米ソ間でさえ戦略的対話のチャンネルを維持し、コミュニケーションを継続
し、誤解や誤算を回避する努力を継続したことがある。中国に対して宇宙政策の変更
を求めるものではなく、宇宙での悲劇を生じさせないための相互理解が必要である。
それが、TCBM である。
質問(2)具体的に日本にどのようなことを期待しているか。
(フィンチ) 日本に期待することとして、新しいデブリを出さないことは当然だが、日本
が独自の宇宙状況監視(SSA)能力を強化すること、そのデータを共有することを期待
する。デブリ除去の研究開発でも協力してほしい。
大学などの小型衛星もきちんと国際的なデブリ低減ガイドラインに従って、寿命が終わ
るときにデブリにならないような運用をしてほしい。
質問(3)中国との情報共有(共通認識)について。
(バード) 中国の認識をどう変えるか。中国の認識を変えるためにできることは限られ
ている。とにかく対話を続けるしかない。彼らが対話に応じるまで辛抱強く待つしかな
い。中国は自らの衛星破壊実験からいろいろと学んでいるはずだ。だから、対話する
ことの必要性をそのうち理解するはずと考えている。
質問(4) ESA の次の SSA のプログラムの進展、その見込みはどうか
(フレッチャー)本年 11 月の閣僚級会合に向けて、まずは準備プログラムに既に参加
している国々との詳細な詰めの協議に入っているが、非参加国に対してもプログラム
への参加の呼びかけを並行して行っている。勿論、欧州全体の経済状態はよくないこ
とは承知している。従って、経済情勢に合致した適切な結論が出されるものと期待して
22
いる。
質問(5)French Space Act の制定の背景と、SSA 活動の関係は。
(アルビー)デブリ低減ガイドラインが IADC、国連、フランス国内で議論され、まず、
CNES で本ガイドラインの適用を厳しく監視することになったが、フランス国内には
CNES 以外のも民間の衛星事業も多く、それらの企業に対しては、上記ガイドライン適
用の強制力がないことから、仏政府と CNES が協議し、2010 年 12 月、French Space
Act 制定され、強制力が担保されることになった。制定以降、同法の履行チェックが厳
密に行われるようになった。例えば、運用終了時の処置確認が重要で、それ結果の確
認のために、監視設備や監視のための状況認識活動が必要となる。
閉会挨拶
間宮 馨 JSF 理事長
この会合でわれわれとしては各国の最新の状況を理解するとともに、各国の役割、
国際協力、国際ネットワークの在り方について意見交換をしてほしいと申し上げたが、
皆さまのご協力のおかげで所期の目的を達成できたことをまず感謝したい。
今回盛り上がった理由は、まず古川大臣はじめ政府の要人にお越しいただいたこと、
それとアメリカはじめヨーロッパ各国から非常にハイレベルの方々にお越しいただいて、
質の高いご議論をいただいたということ。それと、延べ 400 人以上の方々に聴講に来
ていただいて、話す方も恐らく相当盛り上がったと思う。聞いていただく方も真剣な議
論に耳を傾けていただけたのではないかと思っている。
今回、多くの方から「タイムリーである」というお話を頂いた。タイムリーだったということ
を要約すると、まず一つは、衛星同士がぶつかるという現実が発生して、一般の方々
の関心が非常に高まってきたということ。そして、欧州が提言したコード・オブ・コンダク
トについて、アメリカも反応して、やっと議論の雰囲気が醸成されたということ、それと、
わが国においても一致団結して物事をやろうということで、新しい体制がスタートする
時期に当たったこと、これらがタイムリーということの中身ではなかったかと思っている。
もう一つ、今回は公衆にオープンだったということ、アジアで開催された会議であると
いうことから、今回の会合がユニークであるとご評価頂いた。
最後に、今のパネルディスカッションの中で出てきたのは、やはり顔を合わせて対話
をすることが重要であるということで、そういう意味で今回の会合がそういう機会を提供
できたとすれば、望外の喜びある。これを励みとして、又、今回の会合の運営を貴重な
経験として、今後も機会があれば、今度はアジアの国も交えて、本件について新しい
視点から再チャレンジしたい。
最後に、改めて今回参加された皆様にお礼を申し上げる。
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4.アンケート調査結果
全般について
・今後、定期的に開催して欲しい。特に、政府活動のステータスの公報の場と
なれば助かる。
・意義のあるシンポジウムであった。米国を中心としたことは良かった。
・海外政府関係者の話を直接聞くことができ、大変有意義だった。継続して開
催されることを希望する。
・デブリの数はロシア、米、中国が圧倒的、これら 3 カ国を束ねた活動になる
ように活動をもっていく必要がある。
・上記 3 カ国を集める場として、日本や欧州を使うというアイデアはある。
・米国、中国、ロシア等、それぞれの国に非公開情報が存在すると思われが、
可視化、公開/透明化には、今後も課題は残る。
・日本の国としての立ち遅れが目立った。世界のリーダーシップをとるべく、
国としてオーソライズすべきだ。
・ 非常にタイムリーな開催であった。日本として、本件に関しより統一的な対
応が必要と感じた。
・土日などに一般向けのイベントもあると良いのではないかと思った。
・これだけのメンバーをそろえたシンポジウムは大成功だった。
・今後問題が大きくなっていくと思うので、このような会を定期的に設け、情
報交換の場を作って欲しい。
・デブリ監視や衝突回避の解析など、今後の国際協調・国内サービスの視点か
らは、日本においても SSA センターのような組織が必要なのではないかと感
じた。
・戦略的なレベルでの情報収集が出来、貴重な機会となった。
・今回は「産官」が集った初めての試みとしては良かった。これに加えて「学」
ももう少し参加すると更に盛り上がったのではないか。宇宙の将来を考える
上で若い人の参加を期待したい。
・SSA に関する国内の awareness を高めることに非常に貢献されたと思う。
・このようなシンポジウムが日本で開催されて、非常にありがたい機会となっ
た。
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5.総括
(1)シンポジウムで明らかになったこと
・ 日本国として、持続的宇宙開発利用を推進するための一元的な SSA 概念が存在
せず、立ち遅れている。SSA 構想を構築し、わが国の SSA 活動の一元的機能組織
を発足させる必要がある。
・ 世界のデブリ監視網で、わが国の地理的優位を活かし、観測データの国際的提
供・共有に積極的に参加すべきである。
・ スカパーJSAT の報告で明らかにされたように、静止軌道帯でのデブリ問題は LEO
同様、或いはそれ以上に重要な課題であることが認識された。更なる観測能力の
向上と軌道決定精度の向上が必要である。
・ SSA 活動を実りあるものとするために、TCBM が重要である。
・ 米国が本年 1 月に呼びかけた「国際行動規範」作りにわが国も積極的に参画する
べきである。
・ SSA 活動に関する政策レベルの国際集会(対話)を毎年わが国で開催する意義、
即ち、アジアのリーダとして日本のリーダーシップに大きな期待が寄せられている。
まず中国、インド、韓国を取り込む必要がある。
(2)まとめ
スペースデブリ問題は、全世界の宇宙活動にとって脅威であり、わが国としても看過
すことはできない重要課題であることから、一民間団体が主催した国際集会であるにも
拘らず、古川宇宙開発担当大臣はじめ、戸谷文部科学省研究開発局長、武藤外務
省審議官、樋口 JAXA 副理事長の参加を頂いた。また、講演者としても、わが国の宇
宙開発利用の先導者である山川宇宙開発戦略本部事務局長、米国からは、スペース
デブリ問題を総括する立場にある、フランク・ローズ国務次官補代理を始め、リチャー
ド・マッキニー米国国防総省海軍省副次官、ジェームス・フィンチ国防総省宇宙政策
ディレクター、ラリー・ウェルティ元空軍参謀長、カート・ストーリ宇宙統合機能部隊副司
令官、ヂュアン・バード米国宇宙戦略軍少佐、ユージン・スタンスベリーNASA デブリプ
ログラム室長等現在望み得る最高の方々に参加頂いた。彼等からは、スペースデブリ
問題に対して、米国が一体として取り組んでいる現状や今後の計画等、貴重な情報を
聴取した。併せて、欧州からも、欧州宇宙機関、ドイツ、フランスの代表者に参加頂き、
現在欧州が進めているスペースデブリ対策計画の現状と今後について最新状況を聴
取するなど、民間団体の枠を超えた大きなインパクトのある国際会合となった。
本シンポジウムの多くの参加者から、今回のシンポジウムは“タイムリーである”という
評価を頂いた。日本で初めて開催したデブリ問題の政策レベルの公開シンポジウムが、
図らずも時宜を得た企画であったのは主催者として、これ以上の喜びはない。
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現在、内閣府設置法改正案が今国会で審議され、わが国の宇宙開発利利用体制
が大きく変貌するタイミングを迎えている。JSF としては、今回のシンポジウムで得た
様々な助言や、知見をもとに、「スペースデブリ監視・解析センター(仮称)」の実現に
向けて努力するとともに、スペースデブリ低減に向けた国際協力のための国際対話を
継続的に実施し、“人類の持続的な宇宙開発利用”のために、今後とも、一民間団体
として可能な限り貢献したいと考えている。
以上
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6.謝辞
今回のシンポ事務開催は、文部科学省“平成 23 年度科学技術戦略推進費”に基
づき実施させて頂いた。ここに厚く御礼申し上げる。
スペースデブリ問題は、国家的課題であることは言を俟たない。これに敢えて、一民
間団体としてチャレンジさせて頂いたことに対して文部科学省に重ねて感謝申し上げ
る。
また、今回のシンポジウム開催にあたり、来賓として参画頂いた古川大臣はじめ、政
府要人の方々、講演をお引き受け頂いた国内外の講演者のご協力なくして今回のシ
ンポジウムの成功はありえなかった。深く感謝申し上げる。
宇宙開発戦略本部、外務省、文部科学省、経済産業省、日本航空宇宙工業会から
後援を頂いたことに対しても感謝申し上げる。
更に、シンポジウム開催、交流会、並びに施設見学等の実施面で、ご協力頂いた企
業スポンサー9 社(株式会社 IHI、株式会社 IHI アエロスペース、川崎重工業株式会社、
スカパーJSAT 株式会社、日本電気株式会社、NEC 東芝スペースシステム株式会社、
HIREC 株式会社、富士通株式会社、三菱重工業株式会社)に感謝申し上げる。社団
法人日本航空宇宙工業会は、シンポジウムの周知活動の面でお世話になった。併せ
て感謝申し上げる。
最後に、本シンポジウム開催にあたり適切なご指導・ご助言を頂いた戸田勧実行委
員会委員長(元 JAXA 理事)、青木節子委員(慶應義塾大学教授)、鈴木一人委員
(北海道大学教授)に感謝申し上げる。 また、本シンポジウムを陰で支えて頂いた
有限会社トリプルエイ・コミュニケイションズ他関連企業の方々にも感謝申し上げる。
本事業は、以下の体制で実施した。
総括責任者 間宮 馨
実施責任者 吉冨 進
企画担当
小林功典
招待担当
白石 剛
経理担当
斉藤峰子
周知担当
伏島康男
運営担当
青木定生
運営担当
大西伸和
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発
作
行
成
印刷・製本
平成 24 年 3 月
財団法人日本宇宙フォーラム
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 3-2-1
新御茶ノ水アーバントリニティビル2階
URL:http://www.jsforum.or.jp/
株式会社三千和商工
本書及び内容についてのお問合せは、下記にお願いします。
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