科学を志す人たちへのメッセージ 平成23年9月 東京理科大学・特命教授 和田 智明 1 私と科学とのかかわり 1951年神戸で生まれる。 小学校・中学校・高校を神戸で過ごす 算数・数学は大好き少年。 • 中学・高校時代は週に1冊本(小説が多かった)を読ん だ。 大学のときに金原寿郎の「基礎物理学」の教科書を読んで物理学 が好きになる。 科学者を志すよりも、科学者が十分な成果を出せる社会を作ろうと 科学技術庁に入った。 1986年から1990年までIAEA(国際原子力機関) に勤務 → 国際共通語としての英語の重要性を理解した。 1990年から1992年 科学技術庁青森事務所所長。家族で青森 市に住む。 2008年から2010年 文部科学省科学技術政策研究所所長 2010年から東京理科大学教授 • 2 小・中学校時代に 本を読むことの意義 大人の考え方がわかるようになる。 社会がどう動いている(きた)かがわかるようにな る。 インターネットや本でいろいろな情報が短い時間 で理解できるようになる。 3 英語の学習 英語を話す人口 約20億人 英語を母国語とする人 3億8千万人 (アメリカ、イギリス、オーストラリア等) 英語を母国語としない人 16億人 世界では、「シンプルで論理的かつ効果的に伝える英語」が主流に なりつつある。 →中学英語が重要 子供が母国語を覚えるには1万時間以上必要。 日本の中学、高校での英語授業時間は6年間で約1000時間 英語は学問ではなく、言葉 • • 間違えるのをおそれずに話すこと、 毎日2-3時間以上の練習を3年間連続して続けると、誰 でも普通にゆっくり話せるレベルまで到達できる。 4 5 5 日本の人口構造の推移と見通し 6 はやぶさ • 2005年5月に打ち上げられ、2005年9月に小惑星イトカワに 到着。試料を採取したが、燃料もれのトラブルに見舞われ、地 球帰還は3年間遅れ、2010年6月になった。 宇宙航空研究開発機構のはやぶさ応援サイトに寄せられた人々 のメッセージ ○困難なことやつらいことがあった時は、「はやぶさを思い出 せ!」と自分を奮い立たせています。 ○科学はロマンと好奇心の探求だということを満身創痍で私たち に教えてくれました。 ○自分の生き方を考えさせられたり、志を持つことの強さや美し さに心を動かされたり、教えられたことがたくさんありました。 7 ノーベル賞の成果が実用化につながった 主な事例 実用化 ノーベル賞 MRI(磁気共鳴診断装置) ブロッホほか(1952年物理学賞) ラウターバー、マンスフィールド(2003年生理学・医学賞) 半導体(トランジスタ) ショックリー、バーディーンほか(1956年物理学賞) インシュリン サンガー(1958年化学賞) 半導体(トンネル効果) 江崎玲於奈ほか(1973年物理学賞) CT(断層撮影装置) コルマック、ゴトフリーほか(1979年生理学・医学賞) モノクローナル抗体 イェルネ、ケーラーほか(1984年生理学・医学賞) 導電性ポリマー(携帯電話のバックアップ用電池) 白川英樹ほか(2000年化学賞) 不斉合成(メントールの製造) 野依良治ほか(2001年化学賞) タンパク質分析装置 田中耕一ほか(2002年化学賞) GMRヘッド(HDDの再生ヘッド) フェール、グリュンベルク(2007年物理学賞) ノックアウト動物 カペッキ、エバンスほか(2007年生理学・医学賞) GFP蛍光マーカー 下村脩ほか(2008年化学賞) 8 研究することの目的 社会に役立つことを目的にしていますか? No Yes 真理の探究が 目的ですか? No Yes ボーア型研究 パスツール型研 (自然や生物の原 究 理と原則を解明す (原理の解明によ る研究) り、社会で使用さ れることが期待さ れる研究) ペーターソン型研 エジソン型研究 究 (実用に供される (データをしっかり ことがすぐに期待 そろえていく研究) される研究) 9 野依良治博士、白川英樹博士 (ノーベル化学賞) 野依博士(2001年) 小学校5年生の時、湯川博士 に憧れ 小学校6年の時、東洋レーヨ ンの社長の講演で、「ナイロン 」について知り、化学はすごい と思う ノーベル賞をもらうには、絶対 に人のまねをしてはいけない 、「千万人といえども我いかん 」という気概が必要。 白川博士(2000年) 小学校の頃は理科全般が好き 中学の時は昆虫、植物を集め たり、野山を駆け回る。 高校になるとラジオの組み立 てが好き 中学3年生の時、プラスチック 研究を志す。 目的を達成する途中で、偶然 がきっかけで電気の流れるプ ラスチックができた。 10 科学者の生き方と名言(1) レオナルド、ダ、ヴィンチ(自然科学者、芸術家) 食欲がないのに食べるのはよくない。同じように、欲 望を伴わない勉強は記憶をそこない、記憶したことを 保持しない。 ガリレオ・ガリレイ(天文学者、物理学者) • どんな真実も発見してしまえば誰でも簡単に理解でき る。大切なのは、発見することだ。 • どうして君は他人の報告を信じるだけで、自分の眼で 観察したり見たりしないのですか。 ルネ・デカルト(哲学者、数学者) • 一日、一日を大切にしなさい。毎日のわずかな差が、 人生にとって大きな差となって現われるのですから。 • すべてよき書物を読むことは、過去のもっともすぐれ た人々と会話をかわすようなものである。 • 11 科学者の生き方と名言(2) アイザック・ニュートン(物理学者、天文学者) 今日なしうることだけに全力をそそげ、そうすれば明 日は一段の進歩をみるだろう。 • 私が遠くを見ることができたのは、巨人たちの肩に 乗っていたからです。 アントワーヌ・ラヴォアジェ(化学者、1743~1794) • 燃焼とは物質と酸素が結合することである。 ルイ・パスツール(生化学者、細菌学者) • 発見のチャンスは準備のできた者だけに微笑む。 • 若者は、自分たちが教えを受ける教師の輝きに駆り 立てられ、鼓舞されるものだ。 • 12 科学者の生き方と名言(3) アルフレッド・ノーベル(化学者、実業家) 科学技術の進歩はつねに危険と背中あわせだ。それ を乗り越えてはじめて人類の未来に貢献できる。 ドミトリ・メンデレーエフ(化学者) • 元素は原子量の順に並べると、明らかにその性質ご との周期性を表す。 トーマス・エジソン(発明家、企業家) • 天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。 • 私は実験において失敗など一度もしていない。これで は電球は光らないという発見を、いままでに20000 回してきたのだ。 • 13 科学者の生き方と名言(4) ジョン・フレミング(物理学者) 電磁誘導における「電流」と「磁界」と「力」の関係を、 手指を使ってわかりやすくイメージして覚えてほしい。 ヘンリー・フォード(技術者、実業家) • 未来を考えない者に未来はない。 アルベルト・シュバイツァー(医者) • 人間として生きる上で本当に大切なものは、純粋なま まで生きてきた子供時代に、すでに心の中に与えられ ている。 野口英世(細菌学者) • 人は能力だけでこの世に立つことはできない。たとえ、 立身しても機械と同様だ。人は能力とともに徳をもつ ことが必要である。 14 • 科学者の生き方と名言(5) アルベルト・アインシュタイン(理論物理学者) 自ら考え行動できる人間をつくること、それが教育の 目的といえよう。 ニールス・ボーア(理論物理学者、原子模型を確立) • 大いなる存在のドラマの中で、観客でもあり演技者で もあるわれわれの位置を、調和あるものとするよう努 めなければならない。 コンラット・ローレンツ(動物行動学者) • 誰もが見ていながら、誰も気づかなかったことに気づ く。研究とはそういうものだ。 湯川秀樹(理論物理学者、日本初のノーベル賞受賞者) • 幾何学によって、私は考えることの喜びを教えられた。 • 科学がすべてであると思っている人は、科学者として 未熟である。 • 15 科学者の生き方と名言(6) 井深大(ソニーの創業者) • ドキドキ・ワクワクする子供の意欲を引き出すことが、人生に前 向きな人を育てることにつながる。 • ものをつくる苦労や喜びを知っている人は、自分の失敗を、そ う簡単に人のせいにはしません。 小柴昌俊(ノーベル物理学賞受賞者) • つねに三つか四つ、心の中に夢の卵を抱いて生きる。 スティーブン・ホーキング(理論物理学者) • 人生はできることに集中することであり、できないことを悔やむ ことではない。 • 宇宙の質量の25%は目にみえない暗黒物質が占めています。 70%はいわゆる暗黒エネルギーとして存在しています。暗黒 エネルギーは宇宙の膨張を減速させるのではなく、加速させる 性質を持った謎のエネルギーです。 16 ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズ ビル・ゲイツ • • • 大学時代にマイクロソフト社を設立。 WINDOWSやMS-DOSを開発。 「少なくとも一度は人に笑われるようなアイデアでなければ、独 創的な発想とはいえない。」 スティーブ・ジョブズ • • • • 大学を中退後、アップル社を設立。後にピクサー・アニメーショ ン・スタジオも設立 i-Pod, i-Phone, i-PAD を開発 「想像力というのは、いろいろなものをつなぐ力だ。」 「自分の心や直感に従う勇気をもとう。本当はどういう人になりた いのか、意外なほどわかっているものなんだ。」 17 インターネットに関する開発の歴史 1969年 大学の大型コンピューターを連結する技術としてARPAネッ トを開発(IMPとパケット通信技術)-Larry Roberts 1973年 ネットワークとネットワークをつなぐ技術としてインターネット を開始(Eメールと@も開発)- Vint CerfとBob Kahn 1975年 プログラム言語BASICの開発とマイクロソフトの設立-Bill GatesとPaul Allen 1977年 大衆普及型コンピューターAPPLEⅡの開発-Steve Jobs とSteve Wozniak 1989年 World Wide Web (WWW)の発明 URL(住所)とHTML (Web文書のためのコンピューター言語)も開発-Tim Berners 1992年 ブラウジング(閲覧)技術「モザイク」を開発、後にNetscape 社を設立-Mark Andreesen 1994年 検索エンジンYahooをスタート- Jerry Yang とDave Filo 2006年 Twitter, Facebook開始-Jack Dorsey、Mark Zuckerberg 18 二人の日本人ノーベル賞候補者 (努力と偶然) 藤嶋 昭 • 光触媒の原理を大学博士課程の時に発見 • 酸化チタンを一方の電極に、もう一方の電極に白金を使って、光をあてると水が 水素と酸素に電気分解する。 • TOTOのトイレ、自動車のバックミラー等に利用されている。 • 大学での研究中にたまたま隣の研究室で酸化チタンを使った物性研究をしてい るのを見つけ、電極に使ってみたところ成功した。 吉野 彰 • 旭化成に入社後リチウムを電極とする研究を行っていたが安全性に問題があり うまくいかなかった。 • 年末に研究室の大掃除をしていた時にコバルト酸リチウムがリチウムイオンを出 すことを発見したとの論文を偶然に見つけた。 • コバルト酸リチウムを正極、炭素繊維を負極とするリチウムイオン電池を開発し た。 • 携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコン、電気自動車等さまざまな用途に用い られている。 19 周期律表と希土類元素 希土類元素の用途 • 永久磁石 (オーディオ機器や 時計) • 医療用品 (レントゲンフィルム) • ガラスの研磨剤、ガラスの発色 剤、超小型レンズ • 蛍光体 (テレビのブラウン管、 蛍光灯) • 光磁気ディスク • 人工宝石 (ダイヤモンドのイミ テーション) • 水素吸収合金 • セラミックス (セラミックス包丁) • 発火合金 (ライターの火打ち 石) • 光ファイバー • レーザー • 超伝導材料 20 日常生活と放射線 放射線の量 (ミリシーベルト) 10 ブラジル・ガラパリでの 10 自然界からの放射線(年間) 宇宙から 0.39 大地から 0.48 食物から 0.29 空気中の ラドンから 1.26 全身CTスキャン(1回) 6.9 世界の1人あたりの 自然界からの放射線2.4 (年間・世界平均) 日本の1人あたりの 1.48 自然界からの放射線 (年間・全国平均) 岐阜 1 1.0 一般公衆の線量限度 (年間・医療は除く) 神奈川 0.6 胃のX線集団検診(1回) 0.4 国内での自然界からの放射線の差 (年間・県別平均値の差の最大) 0.2 胸のX線集団検診(1回) 0.1 東京~ニューヨーク航空機旅行 (往復・高度による宇宙線の増加) 0.05 再処理工場の操業による工場周辺の0.022 線量評価値(年間) クリアランスレベル導出の 線量目安値(年間) 0.01 0.01 ※ 日本の原子力発電所から放 出される放射性物質から受 ける放射線の量は0.001ミリ シーベルト未満です。(年 間) 原子力発電所(軽水炉)周辺の線量目標値(年間) (実績ではこの目標値を大幅に下回っています) 出典:資源エネルギー庁「原子力2010」他 21 22 22 シェールガス革命 シェールガスは世界で膨大な量が埋蔵されている。 従来は硬い頁岩(シェール)に閉じ込められていたため、 採掘が難しかった。 2005年に深い層の硬い岩盤を水圧破壊する技術が開 発・実用化された。 その結果、アメリカはロシアを抜いて世界最大の天然ガ ス生産国になった。(2009年) シェールガスは、北米、ヨーロッパ、中国、オーストラリア に広く分布しており、石炭や石油と比べてCO2排出量が 少ないので、今後の動向が注目されている。 23 国際的に通用する研究者 になるためには 心身の健康→不撓不屈(ふとうふくつ)の 精神を支える体力 学問的能力(特に基礎学力) 視野の広さ コミュニケーション能力(国語と英語) 正義感と品格 24
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