第5講 内政不干渉原則と人道的介入

平和学(衣笠、2001 年 5 月 16 日)
第5講 内政不干渉原則と人道的介入
◇内政不干渉原則の確立
・国際連盟:「国内管轄」(国家が外部からの干渉を受けず自国が自由に規律できる領域)
・国連憲章2条7項
「この憲章のいかなる規定 も、本質上いずれかの国内管轄圏内にある事項に干 渉する権限を国際連合に与
えるものでなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。
但し、この原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。
」
・途上国:かつての帝国主義列強の干渉主義的政策に強い反感
・1955 バンドン会議:平和5原則 →不干渉原則
・1965 国家の国内問題への干渉の非許容性および国家の独立と主権の保護に関する宣言
・1970 友好関係原則宣言
・1981 「国家の国内問題への干渉および介入の非許容性に関する宣言」
(参考)友好関係原則宣言
「いかなる国家または国家 の集団も、直接または間接に、理由の如何を問わず 、他の国家の国内または対
外の事項に干渉する権利を 有しない。したがって、国家の人格またはその政治 的、経済的および文化的要
素に対する武力干渉およびその他のいかなる形の介入もしくは威嚇の試みも、国際法に違反する」
◇人道的介入に関する議論の高まり
1)ソ連・東欧圏の崩壊
→東西対立・核戦争の防止から人権問題への着目
2)深刻な人権・人道問題の発生とマスメディアによる報道
例)ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人武装勢力による「民族浄化」
ソマリア内戦による多数の犠牲者
ルワンダにおけるツチ族の大量殺害
3)冷戦の終焉→「国連の再活性化」
*かつての国家による「人道的干渉」と異なり、国連が「干渉・介入」の主体として登場
◇国連を中心とする「人道的介入」論
・ブトロス=ガリ『平和への課題(Agenda for Peace)』1992 年
・平和創造(peace-making):国際紛争を平和的に解決
・平和強制(peace-enforcement):平和を破壊/侵略を行った国に対して、他国や国連
などの国際機構が経済的制裁や軍事的制裁などを行う
・平和維持(peace-keeping):停戦監視
・平和構築(peace-building):貧困や資源不足、人権の抑圧といった武力紛争の原因に
つながる要因を未然につみとる
・平和強制部隊の創設 →1995 年、補遺のなかでこれを取り下げ *ソマリアの失敗
<1990 年代に国連がかかわった事例>
①1991 イラクのフセイン政権がイラク北部のクルド人を弾圧した際の対応
*安保理決議 688 米国軍を中心とする同盟軍(多国籍軍)がイラクの同意なしに
イラク北部に安全地帯を設置してクルド人保護にあたる
*「国境を越えた難民の大量流出と越境襲撃」が当該地域の平和と安全に対する脅威
②1992 ソマリア内戦への対応
*安保理決議 794 憲章第7章に基づく
*一国内の大規模かつ深刻な人権侵害
*UNOSOM II
*米軍主体の多国籍軍(UNITAF)→内戦勢力の武装解除を行うことなく撤退
③1991∼93 旧ユーゴスラビア、とくにボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける内戦
*前講レジュメ参照
④1994 ルワンダ内戦への対応
*大量殺戮が一段落し、大量の難民が発生した段階で、国連が行動
安保理決議 929 憲章第7章の下で難民・避難民の保護、人道援助活動の安全確保
⑤ハイチにおける市民的自由の組織的侵害の拡大を含む人道的状況の悪化への対応
*安保理決議 940(1994 年)
→現実の武力行使前にハイチのクーデター政権が投稿し、強制的干渉実施にいたらず
<参考文献>
・川端清隆、持田繁『PKO新時代:国連安保理からの証言』岩波書店、1997 年。
・大沼保昭『人権、国家、文明:普遍主義的人権観から文際的人権観へ』筑摩書房、1998 年。