オイルとカーの経済構造-衰退と拡散(要旨) 岩﨑徹也(信州大学) 最近

オイルとカーの経済構造-衰退と拡散(要旨)
岩﨑徹也(信州大学)
最近になって、新興国経済への懸念も強まっているが、その様な懸念の世界経済全体への影響
が注目されること自体、リーマン以前とは様変わりであるともいえよう。
1950 年-60 年代、高度経済成長の主体は、米欧日の先進諸国であり、高度成長とは、大戦間
期米国で成立した「オイルとカーの経済構造(耐久消費財量産型重化学工業)」の欧日への導入
過程であった。その過程における消費と投資の相互拡大、内需主導の成長が高度成長の基本であ
る。流れ作業による耐久消費財の大量生産(フォードシステム)は大量消費を前提としており、
それは労働者・農民という一般大衆が購入可能な所得を有していることを前提とする。
第 2 次大戦後の欧日における耐久消費財量産型重化学工業の発展は、欧日がニューディール
を原型とする福祉国家政策(管理通貨制度下の総需要拡大(ケインズ政策)、労働同権化、社会
保障)を展開することによって可能となった。福祉国家体制は、管理通貨制による国家の経済過
程への介入能力の強化ばかりではなく、耐久消費財量産型重化学工業という豊かな社会の生産力
基盤がなければ維持できない。また、大衆の大量消費が前提の耐久消費財大量生産型重化学工業
には大衆所得の維持・向上を目的とする福祉国家体制が適合的である。
60 年代の後半より先進諸国の大衆消費財市場は成熟化し始め、内需(消費・投資)、生産性
向上が減速すると、ケインズ政策のインフレ体質、福祉国家の高コスト構造が顕在化、スタグフ
レーションが始まる。オイルとカーの経済構造の内包性、資源・エネルギー大量消費体質によっ
て石油危機がひきおこされると、スタグフレーションは全世界に波及することとなった。
これに対抗すべく、日本においては、トヨタシステムの普及さらには ME 技術革新が進展、
日本製造業の競争力を著しく強化したが、既存の耐久消費財の高性能化・小型軽量化が中心であ
るうえ、日本的経済システムに多くを負っていたため、貿易摩擦の激化、経常黒字の累積、円高
の進行をもたらすこととなった。また、NC 工作機による熟練の解体は工場立地を容易化し、IT
ネットワーク技術ともに、生産・企業活動のグローバル化の技術的基礎となった。
先進諸国産業構造の同質化・競合激化、高コスト構造の顕在化を条件に輸出志向型工業化が可
能となった。当初アジア NICs に限定されていた同戦略はが、冷戦の終焉、ME/IT 技術により、
途上国、体制移行国の多くへ拡大、労働集約型製品・工程から電機・電子などにも広がった。工
業化の進展による個人所得の向上により途上国の国内耐久消費財市場も拡大しつつある。中長期
的にも途上国・新興国における耐久消費財量産型重化学工業を軸とする経済成長は続き、世界経
済におけるその重要性も高まることになろう。耐久消費財量産型重化学は内需主導の成長・内包
的蓄積が本来の姿であり、中国、インドなどは巨大な人口を抱えており、東南アジアなども地域
統合効果がある。とはいえ、耐久消費財量産型重化学工業はすでに先進諸国で成熟化した産業で
ある。したがって、経済的重要性・影響力の拡大も量的な拡大にとどまり、世界経済を新たな時
代へ主導する力があるかどうかについては大きな疑問がある。また、この産業は、省エネ化され
たとはいえ、資源・エネルギー多消費型の産業である。オイルとカーは相互依存で拡大し、温暖
化ガスを排出、環境負荷を高めることにもなる。