日本語 - 長崎大学熱帯医学研究所

短期フィールド研修報告書
8月6日
BRAC大学でのオリエンテーション
8月10日
BRACの人権教育の場にて子ども達と
8月10日
BRACの人権教育の様子
8月12日 マトラブにおける世帯調査の様子
8月12日
マトラブの母と子
8月11日
UNICEFにて講師の佐藤みどりさんと
8月11日
MCHTIでの講義の様子
8月11日
MCHTIの母子の様子
8月13日
BRAC大学での中間プレゼンテーションを終えて
8月12日
マトラブでの世帯調査見学
8月12日
ICDDR,Bマトラブでの病院見学とDSS視察
8月16日
ノルシンディ県病院視察
8月18日
首都郊外のスラムにあるBRAC出産センター訪問
8月18日
スラムの風景
8月18日
郊外スラムの子ども達と
8月18日
郊外のスラムにて、父と子
8月19日 ボグラにてBRACの母子保健スタッフとボランティア
8月19日
ボグラでの反省会
8月20日
BRACのWASHプログラム視察
8月20日
BRACの幼稚園
8月20日
BRACの小学校にて
8月20日
BRACのWASHプログラムの見学
8月22日
エクマットラの子ども達と
8月22日
エクマットラの元気な子ども達
地
図
ボグラ
キショルガンジ
スレプール
ノルシンディ
ダッカ
マトラブ
目
次
写真・地図
研究科長挨拶…………………………………………………………………… 2
短期フィールド研修の概要…………………………………………………… 3
行程表…………………………………………………………………………… 4
略語表…………………………………………………………………………… 6
◆訪問機関別議事録…………………………………………………………… 7
◆学生レポート……………………………………………………………… 25
1.川勝
義人… ……………………………………………………… 27
2.菊池
可奈子… …………………………………………………… 30
3.小山
佳那子… …………………………………………………… 34
4.髙木
直美… ……………………………………………………… 37
5.田中
準一… ……………………………………………………… 40
6.鶴岡
美幸… ……………………………………………………… 43
7.豊島
さやか… …………………………………………………… 46
8.永田
晶子… ……………………………………………………… 50
9.日達
真美… ……………………………………………………… 54
10.平野
志穂… ……………………………………………………… 58
11.増永
智子… ……………………………………………………… 61
◆学生プレゼンテーション………………………………………………… 65
◆関係機関リスト…………………………………………………………… 71
◆おわりに…………………………………………………………………… 73
研究科長挨拶
長崎大学大学院国際健康開発研究科は、地球規模での健康問題、特に開発途上国を中心とした保健医療問
題の改善に貢献できる専門性の高い実践能力を備えた人材を育成することを目的として、平成20年4月に開
講しました(入学者定員10名)。課程修了者には、修士(公衆衛生学)(Master of Public Health, MPH)
が与えられます。
開発途上国で活躍する国際保健専門家には、母子保健や熱帯病の基礎知識の修得、保健医療問題を複雑に
している種々の要因の理解、その解決へ向けての学際的アプローチ能力、関係者との信頼関係を構築できる
能力など、種々の知識、技術と能力を備えることが求められます。特に、国際協力の現場で通用する実践能
力を有する人材育成をその目標に掲げる本研究科では、カリキュラムに工夫を凝らし、座学と実習をバラン
スよく配置し、教室と現場での課題への取り組みを反復しながら知識をより深く理解し、身につけられるよ
うに配慮しています。そのなかで重要な柱となっているのが、一年次夏期に行う短期フィールド研修(3週
間)と二年次に行う長期インターンシップ(8ヶ月)です。このうち短期フィールド研修は、一年次の前期
に履修する基礎科目で習得した知識を踏まえて、途上国の現状に直接触れ、実績のある開発援助組織の活動
を視察するだけではなく、意見交換や視察結果の発表などを通じて双方向的な交流を行うことで学びを深
め、再び教室に戻って後期の授業に繋げるという重要な目的があります。
本報告書は、国際健康開発研究科で実施しているこの「短期フィールド研修」の本年度の取り組みに関
してまとめたものです。本年度で2回目になる短期フィールド研修は、昨年に引き続きバングラデシュで保
健医療を含む社会開発に取り組んでいる世界有数のNGOであるBRAC(Bangladesh Rural Advancement
Committee)を中心に、バングラデシュの開発援助関連組織を訪問し、プロジェクト地域を視察しました。
研修担当の宮地歌織助教の指導のもと、学生が3週間のバングラデシュでの研修中に作成した視察概要、関
係諸機関の議事録、及び研修後各学生が作成したレポートなどから編纂されています。私は、報告書の原稿
を読み、当初心配していた言葉の問題を乗り越え、学生がバングラデシュで受けた講義や説明をかなりしっ
かり理解したこと、研修は彼らの今後の勉強意欲をさらに高めたことなどを知り、大変嬉しく思っていま
す。国際保健の分野で活躍していらっしゃる多くの方々、あるいは国際保健の分野に興味を持っていらっ
しゃる方々にこの報告書をぜひ読んでいただき、教育改善に向けてのご意見をいただければ幸いです。
最後になりましたが、学生に有意義な研修の機会を授けていただいたバングラデシュのBRAC大学の先生
方、BRACスタッフ、JICA、UNICEF、その他関係機関の方々に厚く感謝の意を表します。
国際健康開発研究科長
青 木
2
克 己
短期フィールド研修の概要
【目的】
長崎大学大学院国際健康開発研究科の短期フィールド研修では、開発途上国にお
ける健康改善対策や関連プロジェクト地域(感染症、母子保健、地域保健医療シ
ステム強化)などの視察を通して洞察を深めることを目的としています。また前
期で学んだ基礎知識を実践的にみること、さらに二年次の長期インターンシップ
に向けての実践への意欲を高めること、調査研究の実施についての事例を学ぶこ
とも含まれています。その他に安全対策について学ぶことなど、また訪問先の文
化、環境等に対する適切な基礎知識と滞在時の心構えに関する教育も実施します。
【方法】
2008年度、2009年度は、研修先をバングラデシュとし、世界最大のNGOで
あるBRAC *1 およびBRAC大学公衆衛生大学院、国際下痢症疾病研究センター
(ICDDR,B)*2、JICA、UNICEFなど、国際保健分野で研究・活動を実践している
機関やプロジェクト地を視察し、関係者とのディスカッションを行いました。ま
た現場でのファシリテーションやロジスティックスも経験することで、国際協力
分野での実践力を培います。
【主な研修先】
BRAC、BRAC大学
ICDDR,B(ダッカおよびマトラブ)
JICA
UNICEF
保健家族福祉省(Ministry of Health and Family Welfare)
*1: バングラデシュで最大の開発NGOであるBRACは、バングラデシュ全土で保健、教育、農村開発な
どのプロジェクトを展開しており、その活動モデルを政府が応用しているケースもある。また、
BRACは公衆衛生大学院(MPH)も有しており(ハーバード大学などからも教授陣を招聘)、バン
グラデシュ国内だけではなく、アフリカ、アジア諸国や先進国からの留学生も学んでいる。
*2: 世界的に有名な国際的研究所であり、フィールド地(マトラブ)は20万人のコホートである。熱帯
貧困地域における人々の健康状態、健康改善に向けての対策活動、そして調査研究が40年以上にわ
たって続けられている。
3
行
日付
班長
議事録
〈バンコク泊〉
−
−
〈ダッカ泊〉
−
−
川勝
豊島
〈ダッカ泊〉
−
−
〈ダッカ泊〉
−
−
保健家族福祉省のプログラム・サポート・オフィス訪問
講義、質疑応答
JICAバングラデシュ事務所訪問
講義、質疑応答
〈ダッカ泊〉
日達
田中
月
9:30 BRACプロジェクトサイト訪問(場所: スレプール)
マイクロ・ファイナンス、女性の収入向上プロジェクトの視
察、質疑応答
13:00 人権プログラムの視察、質疑応答
〈ダッカ泊〉
増永
髙木
火
9:30
14:00
16:30
21:00
母子保健研修所(MCHTI)訪問 講義、質疑応答
UNICEF訪問 講義、質疑応答
マトラブ(ICDDR,Bの研究サイト)に向けて出発
マトラブ・ヘルスセンターにてブリーフィング 〈マトラブ泊〉
小山
増永
9:00
マトラブ・ヘルスセンター(ICDDR,B)
コミュニティ調査視察、コミュニティクリニック訪問、サブ
センタークリニック訪問、病院訪問、データ管理部署訪問、
質疑応答
〈ダッカ泊〉
菊池
小山
−
−
火
福岡発(TG649)
8月5日
水
バンコク発(TG321)
木
11:30
12:30
14:00
15:30
8月7日
金
AM
反省会
8月8日
土
終日
自由行動
10:30
8月10日
8月11日
日
15:30
バンコク到着
10:35
15:05
ダッカ到着
12:00
PM
自由行動
8月12日
水
8月13日
木
11:30
13:00
8月14日
金
自由行動
〈ダッカ泊〉
−
−
8月15日
土
自由行動、JICAプロジェクト関係者との夕食
〈ダッカ泊〉
−
−
鶴岡
日達
9:00
8月16日
日
16:00
4
11:45
BRACについてのオリエンテーション(BRACセンター)
ウェルカムランチ(BRACセンターのレンストランにて)
ICDDR,B(国際下痢症疾病研究センター)
訪問視察、講義、質疑応答
「Knowledge Fair」参加(BRAC大学とICDDR,Bが共催して
実施する大学院学生向けの指導教官紹介セッション)
BRAC大学公衆衛生大学院教員学生との懇親会 〈ダッカ泊〉
16:30
8月9日
表
スケジュール
8月4日
8月6日
程
BRAC大学公衆衛生大学院にて中間発表
BRAC大学院教員とランチ
〈ダッカ泊〉
JICA母性保護サービス強化プロジェクト(Safe Motherhood
Promotion Project)訪問(場所:ノルシンディ県)
コミュニティ・サポート・システム(CmSS)視察、家族福
祉センター視察、母子福祉センター視察、県病院視察、質疑
応答
JICAプロジェクトオフィスにてプロジェクトの概要説明、質
疑応答
〈ダッカ泊〉
日付
8月17日
8月18日
スケジュール
月
火
班長
議事録
BRACプロジェクトサイト訪問(場所:キショルガンジ)
ウルトラ・プア(最貧困)対策プログラムの視察、質疑応答
(東洋大学、協力隊員の方々と夕食)
〈ダッカ泊〉
永田
川勝
9:00 BRACプロジェクトサイト訪問(場所:カムナンギチャール)
都市郊外における母子保健プログラムに関する講義、BRAC
の出産センター訪問、家庭訪問
15:00 麻痺性障害者リハビリテーションセンター(CRP)訪問
講義、視察、質疑応答
〈ダッカ泊〉
川勝
平野
田中
永田
髙木
菊池
−
−
平野
鶴岡
豊島
平野
−
−
−
−
10:00
11:00
BRACプロジェクトサイト訪問(場所:ボグラ)
健康プログラムの視察、思春期センター訪問、文化交流
〈ボグラ泊〉
8月19日
水
8月20日
木
8月21日
金
プレゼンテーション準備日
8月22日
土
13:30 エクマットラ(バングラデシュ国内の他のNGO)視察
〈ダッカ泊〉
8月23日
日
8月24日
月
ダッカ出発
13:10(TG322)
8月25日
火
バンコク発
00:50
8:30
16:00
11:00
BRACプロジェクトサイト訪問(場所:ボグラ)
WASHプログラム、衛生プログラム、教育プログラムの視察
遺跡訪問(Mohastangorh)
〈ダッカ泊〉
〈ダッカ泊〉
長崎大学大学院生によるプレゼンテーション(BRAC大学公
衆衛生大学院にて)
〈ダッカ泊〉
(TG648)
バンコク到着
福岡到着
16:35
08:00
5
略
語
表
BRAC
Bangladesh Rural Advancement Committee/バングラデシュ農村向上委員会
CmSS
Community Support System/地域サポートシステム
CRHW
Community Research Health Worker/コミュニティ・リサーチ・ヘルスワーカー(世帯調査員)
CRP
Center for the Rehabilitation of the Paralyzed/麻痺性障害者リハビリテーションセンター
EmOC
Emergency Obstetric Care/産科救急ケア
EPI
Expanded Programme on Immunization/拡大予防接種計画
FP
Family Planning/家族計画
HDSS
Health Demographic Surveillance System/ヘルス人口統計調査システム
HNPSP
Health, Nutrition and Population Sector Program/健康、栄養および人口セクタープログラム
HPSS
Health and Population Sector Strategy/健康および人口セクター戦略
ICDDR,B
International Centre for Diarrhoeal Disease Research, Bangladesh/国際下痢性疾病研究
センター
6
IMR
Infant Mortality Rate/乳児死亡率
JICA
Japan International Cooperation Agency/国際協力機構
JOCV
Japan Overseas Cooperation Volunteers/青年海外協力隊
JPGSPH
James P. Grant School of Public Health/BRACの公衆衛生大学院
LLDC
Least Less-Developed Countries/後発開発途上国
MCHTI
Mother and Child Health Training Institute/母子保健研修所
MDGs
Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標
MIS
Medical Information System/医療情報システム
MMR
Maternal Mortality Rate/妊産婦死亡率
MOHFW
Ministry of Health and Family Welfare/保健家族福祉省
ORS
Oral Rehydration Salt/経口補水塩
PHC
Primary Health Care/プライマリヘルスケア
PRSP Poverty Reduction Strategy Paper/貧困削減戦略文書
SK
Shasthya Kormi/シャスト・コルミ(BRACの母子保健スタッフ)
SS
Shasthya Shebika/シャスト・シェビカ(BRACの母子保健ボランティア)
SMPP
Safe Motherhood Promotion Project/母性保護サービス強化プロジェクト
TBA
Traditional Birth Attendant/伝統的産婆
UNICEF
United Nations Children's Fund/国連児童基金
UNFPA
United Nations Population Fund/国連人口基金
U5MR
Under 5 Mortality Rate/5歳未満児死亡
WASH
Water and Sanitation Hygiene/水と衛生管理
訪問機関別議事録
2009年8月6日(豊島)
BRACについてのオリエンテーション
【感想】
日本で事前学習として何度も見たBRACだった。想
12:00〜13:00
像以上に組織が大きく、抱える人材もバラエティー豊
Ms. Tania Zaman (Director, Chairperson’s Office)
かだった。時間変更で9時半からの予定が11時半になり、
Mr. Md. Rezaul Haque (Senior Specialist, BRAC Health
さらに雨と冠水で渋滞になり車が進まず、大幅に遅れ
Program)
ての開始で質問時間も十分とれずに非常に残念だった。
Dr. Sabina F. Rashid (Associate Professor and MPH
一生懸命に年次報告書読んだだけに質問したいことは
Coordinator, BRAC University)
それぞれたくさんあったので、とりまとめてファラ先
Dr. Farah Mahjabeen Ahmed (Coordinator, Continuing
生に渡すことができるようにサビナ先生がはからって
Education Programme, BRAC University)
くれて良かった。そういう機転がきいて非常にさばけ
Mr. Nakib Rajib Ahmed (Project Coordinator, BRAC
るところが、「うーんBRACの先生だなあ」と感じた。
University)
食堂のランチはとてもおいしくて、短いながらBRACス
タッフとコミュニケーションをとって情報を得た学生
【概要】
もいて学びになったようだ。たくさん学んで3週間後に
・BRACおよびBRAC大学スタッフ自己紹介、長崎大学
良い報告ができるよう邁進したい。
大学院生自己紹介
・BRACの概要(DVD紹介「A New Horizon」)
・質疑応答。BRACの教育プログラムについて。
国際下痢性疾病研究センター(ICDDR,B)についての
オリエンテーション
14:30〜15:30
Dr. Jena D. Hamadani (Head, Child Development Unit
Scientist, Clinical Science Division)
Mr. Nazim Uddin (Senior Manager, Library and
Information Service Unit)
【概要】
・ICDDR,Bはもともと1960年にコレラ対策として始ま
BRACではエスニックグループの子ども達の学校プロ
グラムがあるが教育の普及は農村部、特に遠隔地方で
り、1971年のバングラデシュ独立後から7年を経て、
1978年に議会主導で現在のICDDR,Bとなった。
は難しいとのこと。他にはBRACの年間支出についての
質問。「2007年下降を続けていたのに2008年に上昇し
たのはなぜか?」という問いに対し、「サイクロンで
一時的に海外からの支援(オランダ、豪、英)が増え
たため」という回答。
・ICDDR,Bは慢性疾患にも対応しているというが、そ
れは下痢だけではなく、下痢とは関係ない慢性疾患
についても対応。ライフサイクルアプローチのスラ
イドで各段階においてアプローチをしており、そこ
にはHIV/AIDSも含まれるとのこと。
・ICDDR,Bのリプロダクティブ・ヘルスにおけるメイ
9
ンワーカーについての説明。
・BRACとBRAC
・まず受け付けでトリアージが行われるとのこと。トリ
大学、そして
アージを行うのはトレーニングを受けた非医療者でプ
ICDDR,Bとの関
ロトコールに従って行う。治療は無料とのこと。
係の深さや協力
・長期の栄養失調により身体的に食物摂取困難な状況
にある患者のリハビリ施設もある(食餌のステップ
アップをする)。
体制
・終了後にBRAC
大学関係者との
懇親会
【感想】
連絡が行き届かなかった面もあるが、Knowledge
Fairの開催が自分たちの到着を待ってからとなってお
り、待たせてしまって大変申し訳なかった。Fairでは
BRAC大学の公衆衛生大学院の説明、修士論文やリサー
チスケジュールの説明などがされて、1年間のコースの
大変さも垣間見た。まず農村部で研修を行うというカ
リキュラムの面白さや、クラス編成の特徴なども長崎
大のMPHとは幾分違っており、自分には理想的な環境
でここでも学びたいと強く感じた。BRAC大学の学生
【感想】
も日本のMPHの学生にとても興味を持ってくれて、同
時間のない中での講義と見学だった。思ったよりき
じ志を持つ仲間として非常に親しみを感じて嬉しかっ
れいで大きく、聞きたいことはたくさんあったが見学
た。この場でできるコネクションもあって、今回のタ
中に説明をききとりづらく、見学後に質問する時間が
イトなスケジュールでは難しいが、仲良くなった学生
なくて残念だった。講義をしてくれたジェナ先生はと
が働いているNGOに見学に行けたらと思った。今回
ても面白くて情熱的な先生で、もっとお話しを聞きた
個々の学生同士のつながりからできた連携を来年のス
かった。図書館を利用できるよう便宜もはかってくれ、
ケジュール編成に入れてもらえると嬉しい。充実した
バングラデシュでも新たに学べることを嬉しく思った。
一日で、MPHに入ってよかったとしみじみ感じること
図書館もジャーナルが多くて、うらやましい!自分達
ができた。下調べは確かに自分を含めて不十分だし時
の下調べが不十分だったことが反省点。
間もなかったが、それが質問できない理由にもならな
いと思う。時間も機会も貴重。もっともっと積極的に
Knowledge Fair 2009
いこう!
15:30〜18:00
ICDDR,B(於:Sasakawa Auditorium)
Prof.Anwar Islam (Associate Dean and Director, James
8月9日(田中)
MOHFW プログラムサポートオフィス(PSO)
P. Grant School of Public Health, BRAC University)
10:00〜12:00
【概要】
Dr. Muhammod Abdus Sabur (Team Leader, PSO)
・James P. Grant School of Public Health(JPGSPH)
のカリキュラム説明により、自分たちのカリキュラ
【概要】
ムとの違いがよくわかった。例えば授業料は、バン
・保健家族福祉省(MOHFW)の役割や構成員に
グラデシュ人、途上国からの学生、先進国からの学
関しての概要に関する説明を受ける。またPSO
生で異なること、MPH大学院生30名中半数がバング
(Programme Support Office)に関する説明も行わ
ラデシュ人、半数が非医療、性別も半分ずつ、など。
れた。サブール氏は国際機関や国内の機関など保健
・各教授・講師陣からのあいさつがあり、講師陣の幅
分野におけるエキスパートとして、コンサルタント
の広さがうかがえた。
10
をしている。
・質疑応答では、NGOと政府の関係に関する質問、看
JICA バングラデシュ事務所
護師や医師の配置・確保に関する質問、HA(Health
16:30〜19:00
Assistant)・FWA(Family Welfare Assistant)・
牧本三枝氏(JICA職員)、石井克美氏(調整員)
SS(Shasthya Shebika)など、政府とBRACで活動
内容が似ている場合に問題が生じないかを問う質問、
【概要】
砒素汚染に関する質問などがあった。
・バングラデシュ全般(国の概況、指標、PRSP、予算、
行政システム、地方分権)の説明
【学び】
・バングラデシュのMOHFWや保健政策に関する理解
が深まった。
・政権交代によって政策が転換すると、保健政策も容
易に変更されることがわかった。(今回も2009年1月
・JICAの事業概要(援助重点分野、現地ODAタスク)
の説明
・保健医療の状況、保健医療分野の協力(特に母性
保護サービス強化プロジェクト/Safe Motherhood
Promotion Project)に関する説明
の政権交代により国家保健政策が変わったばかりと
のこと。)
【学び】
・学生の多くはNGOが乱立し、政府がいかにそれら
・バングラデシュの概況、行政システム、地方分権、
をコントロールしているか、または競合しているか
保健医療分野の協力などについて詳しく知ることが
について関心を持っていたが、この説明では、たと
できた。
えばFA(FWA)やSSが同じ村で同様の活動を行っ
・バングラデシュの汚職が世界ワースト3位であり、上
たとしても、コミュニティにとっては選択肢が増え
流階級から下流の人まで染みついており文化のよう
ていいのだという考えがあるとのことだった。しか
なものであるということが分かった。
し、保健局と家族計画局が縦割りに分かれているこ
・中央行政には実務があまり存在せず、介入が難しい
とには問題意識を感じており、改善すべき余地があ
ということであった。また省庁間の異動が多くそれ
るのでは、という感じであった。
も問題となっているということが理解できた。
・地方自治の弱さ、その複雑なシステムについて理解
することができた。
・政府が信頼されてお
らず、民間の医療施
設の利用が多いこと
が分かった。
・JICAが実施してい
るSMPPの内容につ
いて詳しく知ること
ができた。
【感想】
【感想】
MOHFWとJICAを訪問することで、バングラデシュ
時間が超過しているにも関わらず、学生の質問に対
の概況、特に保健に関する行政システムについての理
して詳しく丁寧に説明して下さった。英会話力に問題
解を深めることができ非常に有意義であった。プロ
があり、内容が聞き取れなかったという学生が多くお
ジェクトに関する学びはフィールド視察で深めてい
り、各自が自己研鑽していかねばならないことを再認
きたいと考える。本日の反省点としては、時間配分を
識した。また、事前学習として補講やグループワーク
考えず質疑応答を続けてしまったため先方に迷惑がか
を行っていたことや、JICA、BRACなどの各種レポー
かったのではないかということである。学生間で協力
トに目を通していたことは非常に効果的であったと思
し、会議をうまく進行する技術も磨いていかなければ
われる。
ならない。
11
8月10日(髙木)
よると、野菜を栽培して売る人、家具を作って売る人、
BRAC地域事務所(スレプール)
人力車を40〜50台買って運営している人、家の修理を
10:00〜15:30
する人、衣類の縫製で生計を立てる人がおり、これら
1.マイクロファイナンスプログラム
の技術支援もBRACが行っている。
午前8時にホテルを出発する。BRAC大学のラジブ氏、
このプログラム実施により、村の人々は極度な貧困
BRACプログラム広報担当のラナ氏、宮地先生、学生
から抜け出すことができた。また生活の向上は、子ど
11名、計14名で車2台に分乗する。途中休憩をはさんで、
も達の教育の機会提供につながっている。女性たち自
午前10時にスレプール地区のBRACブランチオフィスに
身もこのプログラムの重要性を理解し、評価の高さが
到着する。
プログラム参加の動機づけともなっている。
到着後すぐにトンドリ、ダル(豆のカレー)等の朝
食をご馳走になる。その後、ブランチオフィスマネー
マイクロファイナンス借用者の返済率は99.3%と非常
に高い。返済利子は15%。
ジャーのアロン氏の付き添いのもと、マイクロファイ
ナンスプログラム見学のため、車でプログラム実施の
村へ移動する。
2.人権プログラム
場所を移動し人権プログラムを視察する。ここでも
マイクロファイナンス・プログラムのセッションが
対象は女性たちである。30名くらいの女性たちが集ま
始まる。28人の女性たちが集まり、BRACの男性スタッ
り、法的な権利と人権について、BRACのスタッフから
フが調整役である。このプログラムは「Dabi」と呼ば
指導を受けている。セッション実施者の報酬の半分は
れる3つのマイクロファイナンス・プログラムの1つで、
BRACから、もう半分は参加者によって支払われる。22
貧しい女性たち(但し、ウルトラ・プアではない)を
日間、1日2時間のプログラムで、マイクロファイナン
対象としたプログラムである。28人の女性たちはグ
スの借用者がこのプログラムに参加している。
ループになり、週1回このプログラムに参加している。
セッション参加者の平均年齢は25歳から27歳の既婚
スレプール地区には、今回訪問のオフィス以外に9つ
女性たちであった。セッション実施中、夫である男性
のオフィスがあり、それぞれが4つのユニオンを管轄
たちも女性たちを取り囲むように見学しており、彼ら
するウボジラ(郡)レベルのオフィスである。今回訪
も妻のプログラム参加を歓迎しているとのことだった。
問したオフィスは、68村5,000人を31人のスタッフでカ
プログラム参加前後の変化として、結婚持参金を支
バーしている。また、スレプール地区には、同じよう
払う女性が減ったことが挙げられていた。持参金を支
なグループが18あり、800人の借用者がいる。
払ったか否かについて、BRAC大学スタッフのラジブ氏
が女性たちに質問したところ、グループ参加者の約3割
の女性が持参金を支払わなかったと答えた。ラジブ氏
はこの慣習はすぐに止められないが、徐々に無くして
いければと語っていた。
28人の女性たちの中に、委員長、総務、秘書、会計
の5名からなる委員会があり、2年ごとにこれらの担当
者は変更される。彼女たちは無担保でBRACから融資
を受け、それを元手として自営のための様々な小規模
事業を展開している。数人の女性たちの事業の紹介に
12
3.BRACヘルスセンター
BCDM(BRAC Center of Development
Management)で昼食後、BRACヘルスセンター
グループまたは2グループに対し行なわれており、施設
内の見学の際には実際に父親たちが妊婦体験をしてい
るところを見ることができた。
(Shushasthya)を見学する。ヘルスセンターには、
アップグレードと通常のレベルのものがあり、アップ
グレードには、2〜3人の医師がおり帝王切開をはじめ
とする手術が可能である。今回の訪問は母子保健に特
化したアップグレードのヘルスセンターである。フェ
ラ医師に病院内を案内してもらう。1階部分が診療室、
2階に分娩室、3階に手術室があり、約15床の入院施設
を備えている。
この病院では日に200人の患者が訪れ、普通分娩が
月に40回、帝王切開が月に50回、トータルで月に100
回のお産が行われている。このヘルスセンターは住民
60万人をカバーしている。今回、予定には入っていな
かったこのBRAC クリニックを見ることができたこと
MCHTIでは家族計画の一環として避妊への取り組み
は、貴重な体験だった。入院施設には生まれたばかり
もおこなっており、出産後避妊のカウンセリングを受
の赤ん坊と母親、これから出産を迎える若い母親がお
けた人のうち10〜15%の人がIUD(子宮内避妊用具)
り、殺風景な病院の中にあって、新しい命の喜びに包
を受ける。また、女性が卵管結紮を受けた場合500タカ
まれていた。
(1タカ=1.27円)とドレス(サリーとブレスレット)
けっ さつ
がインセンティブとして支給される。30歳前後が多い
8月11日(増永)
母子保健研修所(MCHTI)
(ダッカ)
9:00〜12:30
Dr. Md. Serajul Islam, Dr. Rokfhana Ivy, Dr. Chinmoy K.
Das (Assistant Coordinator, Training and Research)
という。
避妊を他の人に紹介した場合は、紹介者にインセン
ティブとして200タカが支払われる。
このほかにも施設内では、母親たちに対する栄養指
導や、女性・幼児への予防接種、県レベルから集まっ
てきている助産師(MCHW)のトレーニング、助産師
【概要】
MCHTIは1953年にUNICEFとWHOを主体として、
養成のための2ヶ月間の実技トレーニングなど様々な保
健活動や取り組みが行われていた。
20床のベッドを備えるMCHを中心としたサービスを提
供する病院として出発した。2000年の7月にはバングラ
デシュ首相と日本政府の援助によって、173床を備える
現在の形のMCHTIへと再建された。
MCHTIは二つの目標を掲げている。1つは女性や赤
ちゃんにフレンドリーであること(Woman and Baby
Friendly)をモットーとした母子保健研修所としての機
能を果たすこと、そしてもう一つは、バングラデシュ
における母子保健サービス提供拡大のためのトレーニ
ング機関としての機能を果たすことである。
また、出産前のケア、出産後のケアを始めとするプ
ロジェクトを実施しており、さらに父親教室を開いて
【感想】
いるなど、MCHTIの幅広く包括的な取り組みやその重
まずなによりもMCHTIの充実した施設内容と、幅広
要性を知ることができた。父親学級は、JICAの提案を
い活動内容に驚かされた。日本の援助があることも一
もとに内容が考えられたという。1日30分のクラスで1
因であるが、設備が充実しているし、妊婦や母親のみ
13
ならず、その家族や助産師など、MCHTIの活動におい
UNICEFはバングラデシュ内の4つのディビィジョン
に6つのオフィスを持ちプログラムを行っている。バン
て対象としている人々の幅の広さを感じた。
また施設内を見学してみて父親教室のみならず、多
グラデシュにおける2006~2010年のプログラム構成は、
くの男性(父親)の姿を目にすることができ、家族計
健康と栄養、教育、水と衛生、子どもの保護、政策ア
画や母親の健康、子どもの健康という問題に少しずつ
ドボカシーとパートナーシップの5つがある。
でも男性の理解と協力が得られるようになってきてい
教育分野では、6~10歳の子どもを対象とした初等教
育、0~5歳を対象とした幼児教育、そして働いている
る状況を頼もしく思った。
しかし多くの女性が施設を利用している一方で、そ
子どもたちへの教育の3つのプロジェクトがある。働い
れに見合うだけのスタッフの数ではなかったように思
ている子どもたちへの教育は“Basic education for hard
えた。施設やプログラムの拡充や人々の教育と同時に、
to reach urban working children”(HTR)プロジェクト
従事者の育成も重大な課題であると感じた。
と呼ばれる、学校へ行けなかった、あるいはドロップ
加えて、インセンティブを支払う形の避妊にも疑問
アウトしてしまい現在働いている10~14歳の子どもた
を持った。今後も一定のインセンティブを支払い続け
ちを対象としたプロジェクトである。ただし健康増進
られるのだろうか。本来ならばインセンティブがなく
や教育の機会を与えるだけでなく、暴力から子どもた
ても家族計画が広がっていくことが望ましいと思うが、
ちを守ることも大切であり、法整備やソーシャルワー
そうしたインセンティブに頼らない形のMCHの取り組
カー育成など包括的な児童保護のためのシステム作り
みができるのか、どのようにして実施していくのかも
に力を入れているということであった。
保健分野の取り組みは「健康および栄養」部局で行
今後の課題であるように思う。
われるが、この中にはEPIや包括的小児疾患管理や新生
児の健康、産科救急ケアやHIV/AIDSの予防などを扱う
母子保健、IYC/貧血やビタミンA 、ヨード、コミュニ
ティ栄養などを扱う母子栄養の3項目が含まれている。
EPIでは、Reach Every District(RED)アプローチを
行っており、世界でもトップクラスの予防接種カバー
率を誇っている。バングラデシュでは政府主体のコ
ミュニティヘルスワーカーは存在しないため、UNICEF
以外にもボランティアやNGOのコミュニティヘルス
ワーカー的存在の人々の存在が大きいと言える。今後
はEPIの次段階をどのように行っていくかが課題である。
U5MRは社会的に上位25%では43であるのに対し、下
UNICEF
14:00~16:00
位25%では86と経済格差による健康希求行動の差が大
Dr. Midori Sato (Health Manager (Child Survival),
きい。
Health and Nutritionsection) , Ms. Chie Takahashi
また子どもの溺死が多く、1~4歳の子どもの死亡の
Ms. Yuko
30%が溺死または事故死であると言われている。この
Osawa (Child Protection Specialist, Children at Risk
対策として昨年、オーストラリアのライフセービング
Project, Child Protection Section) , Mr. Syeed Milky
協会と共同で中学生程度の子どもに対する水泳教室を
(Education Officer, Education Section),
開いた。
【概要】
衛生面では、右手と左手を合わせることを文化的に
・Syeed Milky氏、高橋氏、大沢氏からバングラデシュ
嫌うため手を洗わない傾向がある。この対策のために
での教育プロジェクトをはじめとするプロジェクト内
デバイスの開発が大切である。
容や、バックグラウンドの簡単な紹介を受ける。
・佐藤氏から、プレゼンテーションを中心にバングラ
デシュでの保健プログラムについて説明があった。以
下はその概要。
14
【感想】
お話を伺って、子どもに関する問題や保健の問題など
バングラデシュの抱えている問題をまとまった形で再認
識できたし、具体的な取り組みも知ることができた。
またUNICEFがバングラデシュの保健システムの全体
られおり、永久登録番号と現状登録番号の2種類がある。
永久登録番号は一生変わらない番号であり現状登録番
像やNGOとの関わりを俯瞰し客観的に見て状況を把握
号は結婚などの移
しながら、包括的なプログラムを行っていることに大
動に伴って変化す
変感心した。
る番号である。コ
最後に、日本人のスタッフから直接話をうかがえた
ミュニティ調査者
ことは、政府や国際機関、多くのNGOが複雑に絡み
は妊娠判定キット
合ったバングラデシュの保健システムに当惑していた
を持参しており、
私たちにとって、理解を深めるために大変貴重な機会
妊娠が確定される
であったと思う。
と次のクリニック
一日のプログラム終了後、ダッカからマトラブへ向
へ紹介される。
かった。ひどい交通渋滞のため途中車がほとんど動か
ず、マトラブのICDDR,Bへ到着したのは午後9時半ごろ
2.
コミュニティ調査者が自宅の一部をクリニックとし
であった。ICDDR,Bでは現地研究者の方々との顔合せ
を行い、一緒に遅い夕食事をとった。
コミュニティクリニック
てサービスを提供する場である。母子保健に特化して
おり、医療従事者ではないが特別にトレーニングを受
8月12日(小山)
けているため予防接種も施行する。地域の女性は妊娠
ICDDR,B(マトラブ)
中4回、出産後4回、乳幼児検診2回の全部で10回この
9:00〜16:00
クリニックに来る事になっている。その検診の際に母
Dr. Md. Anisur Rahman, Dr. Md. Al Fazal Khan,
子保健に関する教育をコミュニティ調査者から受ける。
Dr. Md. Taslim Ali (Senior Manager, Matlab Health
このクリニックの効果として、施設分娩が約8割に上昇
and Demographic Surveilance System)
したという結果が出たそうだ。このクリニックでも対
応が難しい場合は、次のレベルの医療施設へ移送され
【概要】
1.
る。
健康状態と人口の調査
マトラブヘルスセンターは1963年に設立され、ダッ
3.
サブセンタークリニック
カから南に約57kmに位置するセンターである。マトラ
マトラブ地域に4か所あり、41のコミュニティクリ
ブはコホート研究のために選定された地域であり、約
ニックからの患者を受け入れや、コミュニティ調査者
225,000人をカバーしている。大きな役割は健康状態と
の管理監督を行う。提供するサービスは母子保健サー
人口の調査、コミュニティの研究、医療研究(マトラ
ビス(妊産婦健診、新生児ケア、正常分娩、超音波検
ブ病院)の3つである。まず始めにどの様に情報収集す
査、血液検査)と下痢症である。スタッフは計3人で2
るか、その現場を見学した。
人のパラメディカル(助産師又は医療助手)と1人の
コミュニティ調査者が各担当の地域に出向かい質問
フィールド調整員がフィールドワーク管理を行ってい
紙をもとに調査を行う(訪問の頻度は2カ月に1回全て
る。また、2つのサブセンターに一人の男性スタッフが
スケジュール化されている)。1人のコミュニティ調
コミュニティ調査者へのテクニカルサポートを行って
査者は1,500世帯を担当しており、質問内容は収入、家
いる。サブセンターでは患者搬送手段として、患者が
族の移動の有無、出産、死亡、など多岐にわたる。女
横たわれるようになっているリキシャを持っている。
性に関しては母乳の日数、月経や避妊具の使用に関し
このセンターがカバーしている人口は平均27,000人。
ての細かい内容もあった。このコミュニティ調査者に
月2回コミュニティ調査者の間でデータのクロスチェッ
なるためには、最低10年間の教育を修了していること、
クをしているが、細かいところを話し合う時間はあま
女性であること、担当する地域の出身者であるなど条
りなく情報交換が多い。それに加え年に2回アップグ
件がある。公募で募ったところかなりの人が応募した
レードミーティングが行われている。コミュニティク
そうだ。月給180ドルとかなりの高額が支払われるため
リニックのユーザー、家族の反応は良いものが多いと
でもあろう。マトラブ地域に住む人には全てIDが与え
の事であった。妊産婦健診、健康教育を行う部屋、自
15
然分娩室などを見学する。このクリニックで対応でき
8月16日(日達)
ない場合は次の病院へ移送される。
JICA母性保護サービス強化プロジェクト
(ノルシンディ県)
10:00〜11:30
4.
マトラブ病院
この病院は下痢と母子保健に対するサービスを提供
遠藤亜貴子氏
(JICA 専門家)
、横井健二氏
(JICA 調整員)
Dr. Md. Serajul Islam、Dr. Alamgin Hossain
しており、マトラブ地域の対象エリアに住む住民に
対しては無料で治療をしている。120床のベットがあ
【概要】
り、小児病棟、新生児病棟、分娩室、女性病棟、下痢
地域サポートシステム(CmSS)はコミュニティレベ
病棟などがある。内訳は70床が下痢の患者用で、残り
ルで住民が主体となって作られたシステムである。こ
の50床は子どもや女性用。治療費だけでなく、食事や
のシステムの目的は、緊急産科ケアに関するリファー
ケアする母親の食事も無料で提供している。中でもカ
ラルへのサポートを行い、妊産婦死亡の3つの遅れに効
ンガルーケア病棟と低出生体重児に対しては、保育器
果的に対処していくことである。
でなく母親の胸元で24時間ケアする病棟があり驚いた。
なお訪問先へ向かう車内において、JICAの遠藤氏、
1000g以下の乳児が主で、このケアを開始する前は生存
横井氏よりプログラムのブリーフィングを行っていた
率6.5%であったのが10〜14%に上昇したそうだ。その
だいた。
他、収集してきたデーターを入力管理するコンピュー
ター室や過去のデータの保管庫があった。PC化管理さ
【学び】
れたのは1982年からであり、永久登録番号をこのPCに
地域サポートシステムとは、地域で暮らす女性が妊
入力するとその人の全ての情報が出てくるようになっ
娠、出産、産褥時に必要なサービスを得られ、中でも
ている。
緊急時に適切なケアが受けられる環境を住民自身が主
体となって確立するシステムである。具体的には地域
の妊産婦の把握や、募金設立による妊娠・出産に関わ
る必要経費の補助、緊急時の搬送手段確保、妊産婦へ
の情報提供など様々な活動が行われている。さらにこ
のプロジェクトで71ユニオン(行政村)中9つを一定の
要件に基づいてモデルユニオンとして選定し、活動を
展開中である。今回訪問したダンガユニオンもそのひ
とつで、モデルユニオンで地域サポートシステムの活
動アプローチ効果が実証されれば、他ユニオンへの拡
【感想】
大を図る予定である。
首都ダッカから約60kmの距離とはいえ、実際は車で
5時間かかる道のりであったが、都会とは異なり自然
の壮大さを感じることができた。やはり、一番驚いた
地域の中で妊産婦がどこに居住しているのかがわか
事は情報の収集方法から管理方法まで全てシステム化
るように地図化したり、月別の妊産婦に関する情報の
されていた事である。その情報量は計り知れず、デー
報告など、住民に出来るレベルで、住民自身が主体的
ターの入力もPDA端末をコミュニティ調査者が持参
に活動に参加していることが分かり感動した。また、
しその場で入力する事ができるように進められている。
伝統的産婆も地域サポートシステムメンバーとして会
将来ペーパーレスを目指しているそうだ。非常に膨大
議に参加しており、プロジェクトの成果を評価して
な作業を続けていることは圧巻であった。これから各
いたのが印象的であった。今回は、県レベルのオフィ
自研究をしてく私たちにとって、実際どのような方法
サーなどの参加もあり通常とは少し異なる会議であっ
でデーター収集をしているのか、その現場を見学でき
たので、もう少し通常の様子が見学することができれ
たことは非常に有意義であった。また、1つ1つの作業
ばさらに良かった。
を、多くの質問がある中でも丁寧に説明して下さった、
ICDDR,Bの方々に非常に感謝している。
16
【感想】
家族福祉センター(ダンガユニオン(行政村))
る。さらに、医療費は全て無料で、政府が負担してい
11:30〜13:00
る。また政府は助産師の育成、増加に取り組んでおり、
ヘルスアシスタントや家族福祉アシスタントから選抜
【概要】
された母子福祉センターで育成された助産師の家族に
家族福祉センターは一次医療施設としての役割を果
は1,000タカとサリーなどが与えられる。選抜条件は45
たしている。この施設は家族計画局の管轄下にあり、
歳以下の女性とされており、見学の際対面したトレー
サクモ(準医師)と家族福祉訪問者によって運営され
ニング受講生の年齢はさまざまであった。
ている。
家族福祉センターは一次医療施設であるので、出産
【感想】
や避妊手術、一般診療に対応している。さらに患者は
助産師による分娩介助によってMMRの低下が言わ
施設へ直接足を運ぶ者と、家族福祉訪問者のサテライ
れており、県レベルの母子保健に特化したこの病院で
ト診療によって受診する者がいる。一日の患者数は300
の政府による助産師の育成は大変有効であると感じた。
人で、そのうち5歳未満の受診が50人である。また、曜
また、治療費は全て無料であるので多くの住民が利用
日毎に主な診療内容が決められていた。今回見学させ
できると考えられるが、しかしこれが継続的なもので
ていただいた家族福祉センターでは、ノルシンディの
あるのかという点について疑問を感じた。
村長より寄付されたリキシャがあり、緊急時の搬送に
役立てられている。また、出産に備えて貯金の推奨や、
JICAノルシンディプロジェクトオフィス
10km先まで聞こえるサイレンを一日2回鳴らすことに
16:00〜17:00
よって、ピルの服用時間を知らせるなど、独自の活動
が行われていた。
【概要】
ノルシンディに位置するJICAプロジェクトオフィス
【感想】
地域サポートシステムの議長である村長が母子保健
において昼食をとり、その後母体健康促進プロジェク
トのこれまでの結果とこれからの課題についての説明。
に関する問題に積極的に取り組もうとする姿勢がとて
も伝わってきた。コミュニティの繋がりの強いバング
ラデシュにおいて、キーパーソンとなる村長のこのよ
うな姿勢が大変心強いと感じた。しかし、全ての地域
がこのような状況とは限らないので、どうしたら地域
住民自身で家族福祉センターを盛り上げていくのかと
いうことが課題であると感じた。
母子福祉センター
14:00〜15:30
【概要】
家族計画局管轄下の県レベルの病院であり、2001年5
月よりサービスを開始した。家族計画や母子保健に特
化した施設である。
【学び】
本プロジェクトは2006年7月から開始し、2010年6月
で終了予定である。上位目標は、プロジェクトから抽
具体的なサービス内容は、母子保健、性感染症、家
出されたリプロダクティブヘルスサービスの方法論が
族計画、分娩、産科救急ケア、不妊手術、助産師育成
標準化され他県に適用されることであり、プロジェク
のための選抜されたヘルスアシスタントへの6カ月間の
ト目標は対象県の妊産婦と新生児の健康状態が改善さ
トレーニングなどである。スタッフは、産婦人科医と
れることである。プロジェクトが開始され約3年経過し
麻酔医、家族福祉訪問員、薬剤師、家族福祉アシスタ
た今日までのプロジェクトの成果として、プロジェク
ント、准看護師、救急車運転手などから構成されてい
トが緊急産科サービス向上に有効であること、緊急産
17
科ケアへとたどり着くまでの過程を示す指標の向上が
めには、5つの条件(家の仕事または物乞いだけをやっ
見られたこと、施設における帝王切開率の増加などが
ている、0.1ヘクタール以下の土地、活動できる男性が
挙げられる。さらに、これからの課題としては、緊急
いない、仕事のために通学できない子どもの有無、生
産科サービスを24時間体制で行うことができるように
産性のある資産がない)の内、3つ以上を満たしている
すること、特にサブ県レベルの緊急産科サービス対応
必要がある。ウルトラ・プアと認定されれば、4つの
施設において輸血を可能にすること、機材のメンテナ
サービス(起業のためのトレーニング、特別融資、社
ンス、緊急産科サービス、既存サービス、スタッフの
会開発支援、健康支援)を受けることができる。受益
質の向上などである。これらの課題に対して、終了時
者は、3−6日間のトレーニングを受け、その後平均し
まで活動が続けられ、プロジェクト終了後は、さらに
て150ドル程度の牛、ヤギなどを貰う(実際にフィー
対象エリアが拡大されるという予定である。
ルドで見たモニジャさんは牛1頭、ヤギ2頭を貰ってい
た)。そして、生産性が上がるまで、毎週175タカを
もらいながら生活する。ウルトラ・プアのプログラム
に参加が可能なのは基本的に2年間であり、順調に卒
業すればそのままマイクロクレジットに参画できるよ
うになっている。フィールドであったブルグリさんは、
2006年にこのプログラムに参加し、現在ではマイクロ
クレジットに移行していた。ウルトラ・プアプログラ
ムからもらった牛やヤギも順調に増えており、非常に
成功した例ということであった。
GDBC(Gram Daridro Bimochon Community)は11
人のメンバーで構成され、コミュニティの問題を解決
【感想】
プロジェクトの一部分ではあるが、午前中からプロ
する役割を持つ。3つのポリシーを持ち、それに従って
活動している。
ジェクトの一連を見学することができ、大変有意義な
時間を過ごすことができた。また、複雑な保健行政に
【感想】
ついても日本語で説明いただき、理解が深まってよ
マイクロクレジットを借りることができないウルト
かった。暑い中一日中かけて説明して下さった、JICA
ラ・プアに対するプロジェクトで、大変興味深かった。
やプロジェクトスタッフ、JOCVの方々を含め、私たち
そして、2004年から9,400人程度に実施した中で、4人し
の見学に協力して下さったコミュニティや施設の方々
か脱落者がいないというのは驚いた。BRACの手厚い援
全てに感謝したい。
助のもと、貧困層の家庭にも援助が届いていることが
知ることができて良かった。
8月17日(川勝)
BRACの県事務所(キショルガンジ)
11:00〜15:30
Mr. Akram, Mr. Saidur
【概要】
2004年から開始した「ウルトラ・プア(最貧困層)
対策プロジェクト」の説明と、プロジェクトが行われ
ている地域とウルトラ・プアを卒業した女性がいる地
域のフィールド視察。
BRACが最貧困の地域をピックアップし、3人のメン
バーがその地域の各家庭を調査し、5から8カテゴリー
に分類する。その後、ウルトラ・プアと認定されるた
18
8月18日(木)(平野)
赤ちゃんを産んだ
コイラングナット出産センター(カムナンギチャール)
ばかりの母親を訪
Mr. Asrakul Alam Cholodhory (州マネージャー)
問した。部屋には
Mr. Abdus Samad Talukder (支部マネージャー)
BRACから配られ
た妊娠期の危険兆
候を現すポスター、
新生児ケアのポス
ターが貼られていた。
麻痺性障害者リハビリテーションセンター(CRP)
Mr. Md. Emdad Moslem (Executive Director)
Mr. Refayet Hossain (広報担当官)
【概要】
このセンターでは人口15,328人、3,830戸をカバーしてい
る。スタッフ数は以下の通りである。
【概要】
1979年1月に病院として4人の患者を診ることから始
−
支部マネージャー 1人
まったCRPは英国のMs. Valerie Ann Taylarによって始
−
プログラム・オフィサー 3人
められた。独立したこの国際組織は現在カナダ、米国、
−
SK 2人
ドイツ、英国などから資金援助を受け、バングラデ
−
SS 19人
シュ国内に4つのサブセンターと1つの学術機関を持っ
−
Urban Birth Attendant (UBA) 2人
ている。主に脊椎損傷の患者を治療する施設で、医者
1人のSSは1ヶ月間に220−250戸の家庭訪問を行って
6名、理学療法士10名、作業療法士8名が勤務している。
いる。妊婦の発見、出産手伝い、新生児ケアなどを1件
バングラデシュにおける脊椎損傷の原因は主に以下の
行うたびにインセンティブを貰っている。この地域で
通りである。
も宗教的な理由などから男性医師のいる病院よりも自
・交通事故
宅出産を好む女性が多く、SSが出産キット(16タカ)
・重い物の運搬
を販売して出産の手伝いも行っている。SSへのインタ
・木など高い場所からの転落
ビューでは人々を助けられる仕事であるということが
・浅い場所への飛び込み
彼女たちのモチベーションとなっているということで
・牛など家畜に後ろから突かれる、など
ある。
施設は3つの部門(理学療法、作業療法、言語療法)
出産センターには自由な体位で出産できるベッドが
に別れていて、病床数は100床である。外来と入院病
2つあり、UBAが24時間待機している。緊急輸送先は
棟があり、遠隔地の患者が優先的に入院できるように
ダッカ医科大学又は近隣の私立病院となる。先月は38
なっている。また、遠隔地の退院患者には家庭訪問に
件の出産のうち、9件が他施設へ輸送されている。
よるフォローアップも行っている。治療費は患者の経
出産センターには2つの委員会があり、地域の人々を
動員し、妊娠合併症の発見やSSの活動を助ける役割を
担っている。
出産センターで話を聞いた後、妊娠中の母親の家
庭を訪問した。
BRACも妊婦に貯
金箱を配っており、
母親は緊急時に備
えて貯金をしてい
る。
その後2日前に
19
済的カテゴリー分けにより決まる。
この施設では言語障害のある患者をリハビリする技
8月19日
(永田)
BRACプロジェクトの視察(ボグラ)
術者を育成しているが、言語療法の人材はバングラデ
シュにはいないため海外から教師を招いて現在育成し
【内容】
ているということである。このような人材育成はバン
早朝からボグラにあるBRACの研修所に向けてダッカ
グラデシュで初めての試みであり、現在トレーニング
を出発し、午後12時過ぎ到着(約4時間半)。その後ボ
されている学生達が今後手話やジェスチャーを使った
グラで実施されている、BRACの健康プログラム、水と
言語療法を担っていくことになるという話であった。
衛生管理のプログラムを二日間に分けて見学した。
【感想】
1.
BRACの都市郊外スラムでの活動と、CRPの施設見
ヘルス・プログラム(ヘルス・フォーラムの活動)
訪問先:ボグラ県、シャハランバル
ウポジラ、マジ
学はとても興味深かった。午前中のスラムはしっかり
ラ
した建物も多く建っていて、一見すると普通の町のよ
訪問時間:13:20−14:00 p.m.
うであり、スラムという感じがしない。支部マネー
同行者:Mr. Jahurul Haque Siddique(県マネージャー)
ユニオン、ボジョラ村
ジャーによると、歴史の古いスラムのようで、人々は
BRAC健康プログラム担当者
リキシャドライバー、仕立屋、小売り業などを主な収
入源としているそうである。地域に24時間使える出産
ボジョラ村の集落(大体5-6世帯)の1つで行われてい
センターがあることは住民にとって心強いと思う一方
たヘルス・フォーラム(集落住民への健康集会)を視
で、出産に関わる多くの職種が混在していて混乱や対
察した。
立は無いのか疑問である。
ヘルス・フォーラムはシャスタ・コルミ(以下SK)
妊娠合併症などの緊急時に出産センターが救急車を
であるタンジュラさんが集落を訪問し参加者の女性10
呼ぶということに対して、学生から「救急車を呼んで
数名に対して保健関連のメッセージを紙芝居を用いて
からどのくらいで到着するのか」といった質問があっ
30分ほど行うという形式。このヘルス・フォーラムの
た。「20〜30分だ」という回答であったが、ダッカの
トピックは大きく予防接種、衛生、手洗い、家族計画
毎日の交通渋滞と救急車に道を譲るという意識が無い
の4つで構成されている。当日は家族計画、予防接種、
所では、早く処置をすれば助かったかもしれない命が
清潔なトイレ、料理の仕方、手洗い、結核、妊婦の健
沢山失われている可能性がある。
康についてのトピックを説明していた。
午後のCRPは想像以上に施設もサービスもしっかり
SKは普段同一集落で月一回、約7カ月にわたってこれ
と行われていて、海外からの多額の資金援助が流れ込
らのトピックについて解説、住民の質疑応答を受け付
んでいるように見えた。それぞれの部局の部屋にはホ
けるという集会を開いているという。集会にはその集
ワイトボードがあり、きれいに各報告事項が記入され
落のシャスト・シャビカ(以下SS)のコルミさんも会
ており、写真入りの活動紹介なども廊下に貼ってある
場でSKのサポート(会場設定や呼びかけ)をしていた。
のを見ると、ドナーの見学も頻繁に行われているので
はないかと思った。寝たきりの患者を2時間ごとにベッ
【反省会にて】
ドごとくるりとひっくり返す様子には驚いたが、病院
・健康教育はSSではなくSKによって行われていたこと
スタッフや家族が慣れた手つきで行っていて、患者の
背中がとてもきれいだったのが印象的だった。
が確認された。
・住民の中には問いかけに対してたくさんのことを答
えることのできる人がいた。普段からSK、SSが住民
に伝えている成果だと思われた。
・SK(BRACの母子保健スタッフ)はSS(BRACの母
子保健ボランティア)から昇格するのではなく、募
集して採用試験を経る。
20
【補足】
【感想】
大雨の中、私たちの到着が遅れてしまいスタッフや
住民の皆様にご迷惑をおかけしたのが恐縮であった。
思春期センターのメンバーのうち、選ばれた何人か
は生計手段のためのコースを受けることができる。こ
の地域で理容師トレーニングを受けた女性が、自分で
2. 教育プログラム
(思春期センター)
訪問先:ボグラ県
ボグラシャドル
開業したケースがあったそうである。このようにBRAC
ウポジラ、エル
はいろいろな世代に対するプログラムを展開していて
リアユニオン、ポリバリー村
よいと思う。また思春期センターのリーダーは1回25タ
訪問時間:16:35−18:20 p.m.
カの収入を得ることができるという。
同行者:Mr. Habibur Rahman
(県マネージャー、BRAC教育プログラム担当)
【感想】
学校・家庭以外に第3の場があるということは良いこ
ポリバリー村にある思春期センター(Kishori Kendo)
とであると思われた。
を見学した。Kishori Kendoとは思春期の女性が課外活
動を通して知性や社会性を促進することを目的として、
8月20日(菊池)
BRACにより行われている活動である。
BRAC 水と衛生管理のプロジェクト視察
具体的には週2回、午後4時から6時の2時間、幼稚園
9:00〜14:00
の部屋を借りて村でこのプログラムの実施責任者が選
んだ11−18歳の35人のメンバーが集まって音楽や踊り、
訪問先:シャジハンプール・ウパジラ
ゲームなどを行ったり、ディスカッションを行ったり、
Mr. Masud Parvej(州マネージャー)
雑誌や図書の貸し出しなどを行っている。このプログ
Ms. Zakia Khatur(ウパジラマネージャー)
ラムはUNICEFとドナーコンソーシアムがパートナーと
なっている。屋内にはゲーム台や楽器、図書などが用
【概要】
意されていた。
《衛生プログラム》
メンバーのうち、8割が女子で2割が男子である。こ
・フリップチャートを用いて5つの手洗いのメッセージ、
れはBRACが思春期の女の子を対象にしているのに対し、
9つの衛生に関するメッセージをプログラム・アシスタ
パートナーであるUNICEFが男子に対して機会を与える
ントが参加者に指導していた。
ことを希望しているためだという。メンバーの男子は
女子よりも若い年齢の子ども達が選ばれている。
当日参加者29人のうち26人が中学校に通っており、3
人が学校に通っていない若者であった。
参加メンバー達は将来の夢に関して教師、警察官、
《WASHプログラム》
・食事の準備前、排泄後に手を石鹸で洗う、爪を切
る、靴を履く、ゴミの処理、食器に虫除けのカバーを
するなど幅広く、3カ月に1度の頻度でプログラム・ア
医者、ダンサー、歌手、弁護士などを希望していた。
シスタントが指導している。
それぞれ活き活きとし、このクラブ活動の中で楽しい
・村の水委員会は6人の女性と5人の男性で構成され
こととして、踊り、歌、友達とのディスカッションな
る。月に一度のミーティングではアップデートされた
どを挙げていた。
地図を基にどの世帯にトイレが導入されているかを明
そしてメンバー達が私たち学生に普段練習している
らかにする。家の屋根の色は赤がウルトラ・プア(最
踊りや歌などを披露してくれた。踊りの中には、元気
貧困層)、青はプア(貧困層)(BRACによるサポー
あふれるもの、おしとやかなもの、などいろいろな種
ト)、紫はモデレート・プア(中程度の貧困層)、そ
類のものがあった。学生からは日本語でドレミの歌を
して黄がBRACの自発的な組織会員を示す。
披露した。その後、何曲か学生も混じって一緒に汗を
・プラスティックのトイレを導入するには有料で(全
流して踊り、笑顔の素敵な子ども達と触れ合うことが
部工事込で700タカ)2pit(2つ地面に穴を空けて容器
でき、当日の反省会ではこの貴重な機会に対して学生
を入れ、片方がいっぱいになったら、他方にトイレ自
から楽しかったという意見が多くあった。
体を移動させる方法)では、1,800タカかかる。ウルト
ラ・プア世帯は無料。BRACからフリーローンを受け
21
られる。地図にはTube-wellについても記載され、こ
の地域のほとんどの家庭に井戸があった(井戸は自己
負担。この地域は浅く掘っても井戸水がでる地域のた
め料金が安いらしい)。全て委員会メンバーはボラン
ティアで、全世帯に清潔なトイレが導入されたとして
も彼らに入るインセンティブはない。10月末までにこ
の地域での導入率を100%にしようと頑張っているとこ
ろである。農村衛生センターで作成される便器や水タ
・図書館の視察
ンクは、BRACの運営ではなく、自主的なプログラムで
BRACの寄付で図書
ある。地元の起業家向けに製造のためのトレーニング
館には1000冊程度の
や質の向上・管理プログラムをBRACが実施している。
本があり、その他イ
作られたものをBRACが買い取り、各村々に導入してい
ンターネットコー
る。ラトリンの製造過程も視察した。
ナー、子どもの場
所、CDコーナーも設
けられている。ベン
ガル語の本を中心に
するほか、新聞も置
いてあり、本の貸し
出しが可能である。
【感想】
水・衛生管理プログラムは、衛生状況を考えるうえ
で最も重要なプログラムである。多くの家庭でトイレ
が作られているが、その深さが井戸の深さに満たない
ように徹底する必要があると思う。村全体でまとまっ
・高校の女子用トイレを見学。女子用のトイレ前には5
て地域で問題を解決していく姿勢に心をうたれた。子
つの手洗いについての呼びかけが書いてあった。もと
ども達の輝くような笑顔と人々の優しさに癒された1日
もと月経時にも利用可能なトイレがなく、そのため学
だった。
校に来ない生徒もいた。現在は250人の女子生徒に対
し、月経時にも利用可能なトイレが2つ作られ、生徒自
身が清掃も担当する。中は清潔に保たれていた。
≪教育プログラム≫
・5〜6歳の児童が通う幼稚園は29人の生徒が通い、内
女子が17名、男子が12名である。教科はベンガル語、
科学、算数、図画で生徒が最も好きな科目はベンガル
語であった。先生の条件は少なくともSenior Schoolを卒
業した女性であること。2008年のデータでは、大多数
が政府の小学校に入学しており、約55万人の生徒が卒
業している。小学校は、平均8〜10歳の子が通い、授業
科目には英語と社会が加わる。生徒の最も好きな科目
は英語であった。BRACの提供するプログラムでは、授
業料、教材費は無料である。クラス人数は、政府の管
理により、少なく設定されている。
22
8月22日(鶴岡)
8月23日(平野)
エクマットラ (NGO)
BRAC大学
13:00〜17:30
11:00〜12:00
渡辺大樹氏(顧問)他スタッフ
Dr. Farah Mahjabeen Ahmed (Coordinator, Continuing
Education Programme, BRAC University)
【概要】
社会的弱者への教育、エンパワーメントと、社会の
Mr. Nakib Rajib Ahmed (Project Coordinator, BRAC
University)、BRAC大学院教授8名、長崎大学
松山章
富裕層への啓発活動の2つを軸に活動しているNGO。エ
子教授、国際健康開発研究科2年生(BRACにて長期イン
ク(ひとつの)マットラ(みなが共有する線)。
ターンシップ中)2名
【学び】
【概要】
・バングラデシュ国内の経済格差、意識的な格差に問
BRAC大学にて短期フィールド研修の最終報告(プレゼ
題を感じていた人々(バングラデシュ人、日本人)が
ンテーション)を行った(報告30分、質疑応答30分)。
ダッカ大学で出会い、2003年に活動を開始した。
(後述の「学生プレゼンテーション」(p.65)を参照の
・主な活動
こと)
〈第1ステップ:青空教室〉
ストリートチルドレンを対象に、歌・劇・踊りや絵
などの情操教育、識字教育、ライフスキル教育などを
プレゼンテーションの後、BRACスタッフ側からコメ
ントや質問があった。
コミュニティでNGO、GOなどのいろいろな保健アク
行っている。
ターが複数活動していることに関しては、バングラデ
〈第2ステップ:シェルターホーム〉
シュ保健関係者の中でも長く認識され、話し合われて
仲間やスタッフとの共同生活の場。規律を守りなが
いるが、現在まで改善は見られないということであっ
ら24時間共に生活をし、社会生活の基本を学ぶととも
た。政権が交代したので、新しい政府に期待するとい
に、社会復帰をする準備も行う。青空教室に6カ月以上
うことをファラ先生が述べていた。
継続参加した子ども達の中で、入所を希望する10歳未
BRAC側から、日本のヘルスシステムについて参考に
満の子どもが対象。入所時には親に承諾を得て、月に
紹介してもらいたいというリクエストがあり、日本に
一度親子の面会がある。
は健康保険があることや、比較的どの地域でも病院に
〈第3ステップ:エクマットラアカデミー(現在設立中)〉
アクセスしやすいこと、子どもが生まれると市役所で
シェルターホームで社会生活の基本を学んだ子ども
登録をするので、その後のフォローアップがしやすい
達が、自立生活していくために必要な技術を身につけ、
こと、母子手帳のシステムがあり、子どもとお母さん
社会復帰を目指す場。英会話、コンピュータ技術を必
の情報がわかりやすいことなどが学生、引率教師から
須とし、お菓子作り、伝統刺繍、サービスなどの職業
紹介された。
訓練を行う予定。また、農地を整備し、酪農・養鶏な
また、BRACのウルトラ・プアの定義以外に国の貧困
どでの収益でセンターを運営していける体制を作る方
層の定義はあるのかという学生からの質問に対しては、
針。子ども達の就職先の機会も提供することを計画し
バングラディッシュにはNational Poverty Lineといった
ている。
定義があり、それを元にBRACの定義が作られたという
・資金源としては、里親制度、会費、一般寄付、メ
回答を頂いた。加えて、ジェンダーによって貧困の格
ディア事業、オリジナルグッズの受注など。
差があることや、家庭内においても格差があるという
ことも説明を受けた。
【感想】
未来ある子ども達の笑顔と
【感想】
渡辺さんの情熱に接すること
発表用のスライドは前日に朝から夜までかけて準備
ができて、とてもよい刺激と
し、その後原稿の練習をしたので、当日は原稿を読む
なった。いつの日か、アカデ
形になってしまったが、英語のプレゼンテーションに
ミーを訪問してみたい。
も慣れてきて、みんな堂々と発表できたのではないか
23
と思う。BRAC側のスタッフが参加できないというこ
とで、一旦は実施しないことになった最終報告であっ
たが、3週間の学びをまとめ、分析し、発表できたこと
は、とても良い機会であったと思う。アレンジしてく
ださった宮地先生に感謝したい。
24
学生レポート
短期フィールド研修を通して
川 勝
8月4日から25日まで、机上では学ぶことができない
現場を見に行くため、バングラデシュへ研修に行っ
義 人
イナンスは各地域において、今後も展開していくの
か、今後調べていきたいと思う。
た。私の場合、このような研修は初めての経験であっ
BRACは最貧困層に対するプロジェクトも行ってい
たため、非常に高いモチベーションをもって迎える
る。それは、マイクロファイナンスがある程度の貧困
ことができた。研修では、様々な関連機関(BRAC、
層の発展を助けることはできても、最貧困層に対して
JICA、国際下痢性疾病研究センターなど)を訪問し、
は有効な手段ではないからである。BRACによって、最
それぞれのプロジェクトの詳細とそれらが行われた背
貧困層と認定された人は、無料で牛やヤギなどをもら
景、各機関が持つ視点を知ることができた。
う。そして、それを糧にして、2年の間にマイクロファ
BRACでは、マイクロファイナンス、人権と法律教育
イナンス利用者へと移行していくというシステムは、
クラス、最貧困層に対する貧困削減プロジェクトなど
巨大NGO、BRACだからこそ単独で行えたと思う。し
を訪問した。マイクロファイナンスはすでに世界的に
かし、ここで注目したいのは、「最貧困層」(ウルトラ・
その有効性が示されているように、地域住民の経済的
プア)の定義である。BRACの年次報告書によれば、
自立を助ける一翼を担っていた。同時にマイクロファ
イナンスの役割は、最貧困層を助けるものではなく、
1.0.1エーカー以下の土地の所有
貧困層の発展を促進させるツールとして有効なもので
2.家庭従事者または物乞いであること
あった。BRACも、可能性のある人を村落メンバーとし
3.家庭に活動的な男性がいないこと
て選び出し、マイクロファイナンスを貸し出している
4.就学期の子どもがいること
と、選択基準や話から推測された。つまり、BRACは、
5.生産性のある資産がないこと
NGOとして慈善事業を行うというより、社会企業家
6.女性の家庭での仕事や物乞いに頼っていること
としていかに利益を上げ、持続性のある事業を行うか
に焦点を当てているようであった。この結果として、
の6項目のうち、3つ以上を満たせば、最貧困層と認定
高い返済率が実現し、次第にプロジェクトを拡大でき
される。この基準でも、マイクロファイナンスと同じ
たのだと思う。もちろん、その背景には、バングラデ
く、2年間という期間の間に、マイクロファイナンス・
シュ人の真面目さや努力があるのは言うまでもない。
プロジェクトに参加できる可能性のある人を重点的に
しかし、マイクロファイナンスの高い利率は、住民を
助けているように思えた。
追い詰め、時に逃亡や自殺を生み出すことも事実であ
このようなBRACの最貧困層に対する取り組みや母
る。理念は、高利貸しとは大きく違うものの、結果
子保健研修所の社会保障サービス、バウチャーシステ
として同じようなことを引き起こしてしまっているの
ムなど最貧困層に対する取り組みを通して、この国の
は、問題である。これは、大変まれなケースではある
最貧困層は一体誰なのかを考えるようになった。文献
と思うが、利点だけでなく、このようなマイクロファ
研究を通して、農村部とともに、スラムの人々も非常
イナンスの問題点を学べたことは非常に有意義であっ
に貧しいことが研修前から分かっていた。しかし、こ
た。
ちらに来てスラムに住むためにも土地代を払っている
現在、マイクロファイナンスは各国で行われている
ことを聞き、もしかすると最も貧しいのは、スラムの
が、これらの返済率はどうなっているのか、実施して
人々ではなく、ストリートピープルではないかと考え
いく中で、どのような民族性の違いがあるのか、そし
るようになっていた。
て最貧困層をいかにケアするかは、非常に興味深いと
そのような時に、ストリートチルドレンを支援して
ころである。民族性の違いを乗り越え、マイクロファ
いるNGO、エクマットラに行けたことは非常に幸運
27
だった。顧問の渡辺さんの話の中で、ストリートチル
今回の研修では、幸いなことに、障害を持つ人々を
ドレンは一般の人と同じくらい稼いでいること、自由
対象にして活動している2つの施設を見ることができ
気ままに暮らしていること、そして、問題は彼らの生
た。麻痺性障害者リハビリテーションセンターと、
活が非常に危ういものであり、大人に利用されやすい
BRAC義肢装具センターである。麻痺性障害者リハビリ
ことであることを知った。さらに、ダッカにいるスト
テーションセンターは国際的な援助を得ていることも
リートチルドレンは、なんとか生きていくことができ
あり、非常に立派な施設であった。ダッカの中心施設
るため、吸い寄せられるように、子ども達が地方部か
と4つのサブセンターを持ち、バングラデシュ全域をカ
らダッカに集まってくることを知った。ストリートチ
バーしている。しかし、人材不足は否めず、フォロー
ルドレンの援助の重要性を学ぶとともに、彼らが地方
アップ体制は十分とは言えなかった。また、対象疾患
部では生きていけなかったことからから推察すると、
を、大人は脊髄損傷、子どもは小児麻痺に限定されて
やはり地方の農村部が最貧困と推測できる。さらに
いた。さらに専門家によりリハビリテーションを受け
BRACのスタッフに聞いたところ、バングラデシュの特
ることができるのは少数であり、一部の限られた人し
に貧しい人は、特に以下の3か所にいると言っていた。
かサービスを受け続けることができない。このような
問題点はあるものの、バングラデシュにおいて唯一の
1.チョールと呼ばれる川の中州に住む人々
施設であり、その活動の重要性と価値は計り知れな
2.バングラデシュ北西にあるラングプール
い。
(Rangpur)周辺のモンガというエリア
3.チッタゴンの丘陵地域
もう一つ見学することができたBRAC義肢装具セン
ターでは、対象疾患を下肢の整形疾患を中心に治療し
ている。障害を負ってしまった理由としては、交通事
28
である。BRACの拠点の数を通して、最貧困の地域とほ
故が圧倒的に多かった。この施設では、リハビリテー
かの地域を比較してみると、違いがみられる。特に南
ションを行うとともに、義肢や義足などを格安で作っ
部の地域とチッタゴンの丘陵地域では、BRACの拠点は
て、提供している。2000年の設立から、患者数は増加
かなり少ない。人口の違いや森林や山の多さなど様々
傾向の一途をたどっている。患者数が増え続けている
な要因があると考えられるが、最貧困と考えられてい
ことから、ニーズの多さは推測できる。現在は、この
る人たちに十分な援助が行っているとは考えにくい。
施設は2つしかないが、今後拡大を目指すと施設長は話
それは、BRACのような大きな組織が進出できない地域
していた。
は、小さなNGOではさらに困難になるからである。今
今後、このような施設が増え、リハビリテーション
後の援助は、地域によって援助の届きにくい人々に対
や様々な器具を手に入れやすくなるかもしれない。そ
して、いかに公平性を保った援助を行っていくかどう
れとともに、どのようにして障害を負った人を地域に
かが肝心だと考えるようになった。
統合するのかが援助のカギになると感じた。障害者に
また地域間の公平性とともに、対象者間の公平性も
対する取り組みはまだ下火だが、今後の国の発展、5
重要であることを再認識できた。ほとんどの援助機関
才未満児・妊産婦死亡率の減少とともに、重要な一つ
は子どもや女性に対しての援助が中心に据えられてい
の側面として取り上げられるはずである。そんなとき
る。もちろん、子どもや女性が社会的に弱い場合が多
に、専門家として役に立ちたいと強く願った。
く、援助対象の中心に据えるのは間違っているとは思
障害を引き起こす一つの要因である交通事故は、結
わない。しかし、子どもや女性だけでなく、障害を持
局リファーラルシステムの遅延や経済の発展を妨げる
つ人々も、女性、子どもとともに社会的に弱い立場
渋滞の問題とほぼ同じ問題である。前期の授業で、保
で、しかも差別の対象になりやすい。文献研究や今回
健分野の問題でも、交通、インフラ、経済、文化など
の研修からも、障害者に対する関心は、政府はもとよ
の多要因が背景にあることが言われていたが、それを
り、国際機関、NGOともにとても低いように感じられ
実際に感じることができた。今後も保健分野を核にし
た。それは、絶対数がはっきりしないこと、援助の結
て、それら周辺の問題も学んでいきたいと思う。
果がデータになりにくいこと、障害を持つ人々に対す
最後に、この研修のメインテーマでもある母子保健
る有効な手段が確立されていないことなどが原因とし
についてまとめる。今回の研修で訪問した施設の多く
て挙げられるが、はっきりしない。
は、母子保健を中心に据えたサービスを提供してい
たように思う。母子保健研修所、BRACのヘルスセン
伴って、今まで一面的にしか見えなかった問題一つ一
ター、国際下痢性疾病研究センターのクリニックやサ
つが結びつき、全体として理解できるようになった。
ブセンターやマトラブ病院、JICAの母性保護サービ
つまり、保健分野の問題だけでなく、それに関わる経
ス強化プロジェクトなどである。前期の授業で習った
済や交通などの問題もともに考えていけるようになっ
ように、子どもだけ、妊産婦だけのケアではなく、一
た。さらに、来年の研究を考える上で、障害児の置か
連の流れとしたケアを提供しているのは、印象的だっ
れている現状を知ることができたのは非常に大きい。
た。特にマトラブでは、一貫した妊産婦検診、施設分
彼らに焦点を当てて、研究を行う意義を確認すること
娩、新生児ケアと産後検診が行われていた。しかし、
ができた。さらに、研修中に出会う様々な専門家と話
夫や姑の理解がないために、妊産婦検診や施設分娩が
すことを通して、自分の目指す理想像を考える良い
できないケースなどもあると報告されていた。このよ
機会となった。まだはっきりとした答えは出ていない
うなことから、今後は父親や姑などを含んだ家族とし
が、この研修の経験が、将来のことを考える上で非常
て支援していく必要があるように感じた。彼らは妊産
に有効であったことは間違いない。
婦の決定に大きく影響力を持っているからである。母
子保健研修所では、すでに父親に対する教育を開始し
ており、この取り組みが拡大するよう期待している。
この研修を通して、授業や文献によって頭にイン
プットされていた情報を実際に体験することで、様々
な問題がはっきりと理解できるようになった。それに
29
バングラデシュにおけるプライマリーヘルスケア
菊 池
1.概要
バングラデシュの保健医療行政システムは複雑であ
可 奈 子
に働くボランティアがさまざまな問題の改善に大きな
役割を果たしていることが大きく印象に残った。
り、住民に提供される保健医療サービスが2つの機関で
今回のレポートでは、このコミュニティの相互扶助
実施されるなど、効率的なサービスが行なわれていな
の力を高めていく可能性を中心にして論じたいと思
い現状がある。このように複雑に入り組んだシステム
う。
構造と、地域によって異なる保健医療サービスの仕組
みが、住民に偏りなく届くサービスを阻害する一要因
であると考えられる。
3.バングラデシュの保健行政について
バングラデシュは、人口1億5,857万人、国土は日本
しかしながら、脆弱な政府のサービスを補うNGOの
の約4割に相当する14万4千キロ平方メートルの国であ
支援が住民の意識を向上させるだけでなく、プライマ
る。年平均の人口増加率は1.7%を占め、最も人口密度
リーヘルスケアへのアクセスにもつながることを学ぶ
の高い国である(外務省
ことができた。この学びは、今後長期インターンシッ
プや将来にもつなげていけるものであると考える。
2009)。
バングラデシュの保健医療行政の仕組みについて説
明すると、図1のようにあらわすことができる。
MOHFW(Ministry of Health and Family Welfare 保
2.はじめに
健家族福祉省)は、バングラデシュの保健医療行政を
バングラデシュの保健医療行政は、保健家族福祉省
担っており、保健局(DGHS)と家族計画局(DGFP)
が担い、同省は保健局と家族計画局にわかれている。
に分かれている。保健省は基礎的な保健医療を担当
この分断化が各種サービスの重複や非効率性につな
し、家族計画局が家族計画サービスを担当、というよ
がっているため、制度の改革が必要と言われているも
うに業務がわかれている。
のの、なかなか変化が見られないという現状がある。
政府がカバーしきれない保健医療サービスを補う役割
として、バングラデシュに多くのNGOが存在する中
で、BRACは住民の健康問題の改善、生活環境の改善に
DGHS
DGFP
大きな役割を果たしている。
日本はバングラデシュと比較すれば、人々に平等な
仕組みで保健サービスを提供している恵まれた国であ
ると思う。バングラデシュの脆弱な政府のもとで、
NGOやその他の機関が住民にどのように関わり、どの
ような役割を果たしてきたのか、また、住民はその関
わりのなかでどのように影響を受け、実際の問題はど
30
図1
保健行政ピラミッド
のように変化したのか、という点に疑問をもった。今
今回、私たちが時間の関係上、視察できなかった
回の短期フィールド研修では、3週間という短い時間の
ダッカ医科大学は保健局の所属で、MCHTI(Maternal
中で、住民の率直な意見を聞くことは難しかったが、
Child Health Training Institute 母子保健研修所)は家
NGOや関連機関側からの視点で色々考察できたと思
族計画局の所属である。そして、16日に訪問したノル
う。
シンディ県にある母親と子どもに特化した10床のベッ
特に私にとってコミュニティで生活する住民同士の
トを持つ病院はDistrict(県レベル)の家族計画局管轄
相互扶助の力、コミュニティの住民のなかから自発的
の病院で、同敷地内のすぐ隣に、保健局管轄のUpozilla
Health Complex(郡レベルの病院)が建っている。こ
の家庭にトイレの設備がないか、井戸がないか、ま
の郡レベルの病院は、保健局が管理している病院であ
た、経済状況も含めて地図に色分けで記してあり、村
り、隣に出産可能な母子に特化した家族計画局の病院
の代表のボランティア達が全家庭にトイレを導入する
があるにも関わらず、そこで出産も帝王切開もするこ
という目標のもとで話し合っていた。「ウルトラ・プ
とができる。そこに勤務する医師は家族計画局と保健
ア」と呼ばれるBRACの定義するもっとも貧しい家庭に
局の両病院で業務を行ない、出産をする予定の母親も
は、BRACから無料でトイレの設備が提供されるが、そ
どちらの病院でも好きなほうで出産をすることができ
の他の貧困とされる家庭でも、BRACからお金を借り
る。
て設置することができる。支援する側のNGOが代表と
病院がまったくない地域もあるのに、なぜこのよう
なって住民を取りまとめるのではなく、住民が自分た
な近い場所で同機能をもつ病院を建てる必要があった
ちのコミュニティの中から代表を選出し、どういう形
のだろうか。管轄する局ごとに病院をもっているが、
で支援するかを考えていくことに、コミュニティのメ
業務がわかれているわけではない。バングラデシュ
ンバー同士の連帯性、相互扶助の関係を生み出す働き
は、病院の数も人口に比して少なく、そこに勤務する
があるように感じた。驚いたことに、その代表団は全
医師、看護師といった医療従事者も人口に比して大変
くの無償で活動し、そのメンバー内には、学生の代表
少ない状況である。それにも関わらず、なぜ隣接して
である女子生徒やウルトラ・プアの代表者も含まれて
建てなければならなかったのだろうか、という疑問を
いた。
感じた。
学生の代表が村の委員会にも属しているということ
このように、バングラデシュの保健医療行政の仕組
は、各家庭だけでなく学校という地域の施設において
みは、私にとって複雑で理解しにくく、私はこの保健
もトイレの整備の重要性が伝わりやすく、問題を施設
局/家族福祉局のような行政組織を整理することが、
単位でなく、地域の問題として対処しやすい仕組みだ
バングラデシュの保健問題を解決するためには、まず
と感じた。学校へのトイレが整備されたことで、女子
一番の課題ではないのかと考えた。
生徒が月経期間に登校できず、ドロップアウトしてし
しかしながら、研修を進めていくにあたりこの国の
まう状況を改善することにつながった、という内容を
成り立ち、文化歴史的背景などを踏まえ、政府以外の
聞いたが、もし学校内のトイレが壊れたり、何か各家
機関の存在の大きさを知った。政府の人材、薬剤、設
庭で問題が起きたりして解決方法がわからないとき、
備などの不足を補う保健医療サービスを展開する草の
コミュニティのなかで相談し、解決に向けた方法をみ
根レベルのNGOの役割が、バングラデシュという国
んなで考えていくことができる仕組みとも言えるだろ
のなかでいかに大きいか、そして政府と協調し住民に
う。
なくてはならない様々なサービスを提供していること
このようなことの積み重ねが、NGOと地域住民の
がわかった。特に私たちの研修をサポートしてくれた
つながりを深めることにつながるように感じた。ウル
BRACは、NGOというよりは一つの大企業とよべるほ
トラ・プアである家庭も、村の中でその経済状況を隠
ど広い支援をおこなっていることがわかった。
さずに伝えることができ、支援を受けられるコミュニ
特に私が興味をもったNGOの支援は、①WASH
(Water and Sanitation Hygiene 水と衛生管理)プログ
ティの存在が住民たちの生活を支えているように感じ
た。
ラムと、②CareというNGOがもともとおこなっていた
妊娠、出産におけるコミュニティでの支援体制づくり
で、現在JICAが実施している母性保護サービス強化プ
ロジェクトである。
5.JICA母性保護サービス強化プロジェクト
バングラデシュの中で、下痢、呼吸器疾患などの感
染症、そしてさらに母子保健の問題が大きな位置を占
めている。このように問題視される理由には、一つに
4.WASHプログラムについて
妊産婦死亡率、乳児死亡率が高いことがある。
2006年からはじめられたこのプログラムは、BRACの
このプロジェクトでは、途上国に共通している3つ
レポートによれば、150のUpozilla(郡)、40のDistrict
の遅れ(受診決定の遅れ、施設到着の遅れ、治療提供
(県)で行なわわれている。私たちが訪問した村で
の遅れ)に対し、その原因を明らかにし、モデル地域
は、男性5人女性6人の計11人で委員会が組織され、ど
の中で行動計画を立案、実施する仕組みをつくってい
31
る。大きな役割を担っていると感じたのは、地域サ
な処置が受けられないことが原因で死亡したことがこ
ポートシステム(CmSS)である。これは、「地域で
の活動を続ける原動力になっていると答えていた。一
暮らす女性が妊娠、出産、産褥時に必要なサービスを
人だけで悩まずコミュニティで支えあえる仕組みをこ
得られる、中でも緊急時に適切なケアが受けられる環
の活動にも見出すことができた。
境を地域住民が主体となって確立するシステム」であ
る(JICAバングラデシュ母性保護サービス強化プロ
2009)。月に一度のミーティング
BRACやその他のNGO、政府以外の援助機関の活動
では、コミュニティのなかから、伝統的産婆(TBA)
をみていくと、印象に残る活動は、住民を巻き込み住
や、地域のボランティア、その他会計係や村長なども
民自身の力を引き出している支援であった。保健医療
集まり、どの場所に妊婦がいるかを地図上で確認し、
サービスを中心に述べてきたが、私たちが視察したマ
会計報告、先月の出産、産褥等に関わる妊産婦の状
イクロファイナンスにしてもコミュニティの中で5人
況、今月の状況の確認をしている。
組をつくり1人の責任を5人で請け負うような仕組みな
ジェクトレポート
そのほかにも、危険兆候や出産準備についての健康
ど、個人から集団へのアプローチの転換が多くみられ
教育、緊急時の搬送システム(リキシャバン)、搬送
た。保健師という仕事を日本国内でしている際にも、
先との連携、日頃から住民が診療所など公的医療機関
この当事者主権という考え方が根底にあったことを考
を利用しやすい状況をつくる仕組みづくり、妊産婦健
えてみると、プライマリーヘルスケアも単に健康づく
診の重要性を夫、義母を含めておこない、出産場所の
りや、医学的ケアというよりは開発の一手法ともいえ
選択や産後ケアについても早い段階から家族を含めて
るのではないだろうかと感じた。
支援をしていく体制など、地域でその母子をサポート
していく仕組みがとられている。
日本は、政府から住民への健康づくりの考え方、つ
まり、上から下へ向かっての健康づくりが一般的と考
特に興味深かったのは、緊急事態に備えて住民自身
えられ、そのような仕組みが整っている。しかしアメ
で貯金をしておくシステムである。今回視察した場所
リカでは下層の住民からはじまる健康づくりの考え方
は、工業地域で比較的裕福な家庭の多く住む場所で
が一般的であるという。日本にある上 (政府)から制
あったが、それでも緊急時に搬送されるような大きな
度化された仕組みは、下 (住民)の全員が納得できる
病院までは、20〜30分かかる場所にある。もし、雨の
制度か、といわれれば決してそうではない。最も望ま
日が続き道路が洪水状態になれば、搬送にはより多く
しいのは、政府で決められた制度と併せて下層の住民
の時間がかかることが予想される。バングラデシュで
から発信する健康づくりと合体させた形での健康づく
は、国や県、郡レベルの病院を受診すること、出産す
りであり、ニーズを満たしたお互いに満足できる健康
ることは基本的には無料であるとされている。しかし
づくりの仕組みが整えられるといえると思う。
4
4
ながら、出産に必要な消耗品や薬剤は個人が負担する
これまでバングラデシュの保健医療行政と住民組織
こともあるし、医師への心づけを要求される場合も実
を中心に述べてきたが、途上国をとりまく問題は複雑
際にはあり、全て無料で診療や出産ができるとは言い
に絡み合い、健康問題はその一側面でしかない。支援
にくい状況にある。今回訪問した郡、県レベルの公立
側が最初からこの問題について、まとめるのではな
病院のほかに私立の病院(開業医)も多く存在してお
く、住民たちが一番必要でかつ問題と感じている問題
り、そちらを受診した場合には、患者が費用を全て負
に対し、アプローチをとっていけるよう、支援者側が
担しなければならず、高額の負担を強いられることに
縁の下の力持ち役、またはコーディネーター役になる
なる。公立病院で出産しようと来院したにも関わらず
ことに意味があると感じた。
担当医に午後に診療する自分の開業診療所で産むよう
今回の研修では、NGOやバングラデシュを元気にす
に指示される場合もある。緊急で帝王切開を私立病院
るために働く方々の熱意ある支援のあり方に心が動か
で受けなければならなくなった場合、その負担は個人
された。また、前期の講義で学んだ住民自身のエンパ
にとって、重い負担となることが想像できる。そのよ
ワーメントの形成について実際に学ぶことができ、改
うな場合に備えて、母親やその家族だけでなく、地域
めて人と人のつながりの深さや支援というものの展開
でサポートする仕組みがこのシステムである。
方法の広さを学んだように思う。上(政府)が変わら
委員会のメンバーは、自分の親族が出産の際に適切
32
6.日本との比較
ないことが問題の原因であることは確かであるがそこ
で諦めるのではなく、方向性を変えて取り組む柔軟な
も自分が経験し、疑問に感じ、そのことを調べていく
姿勢が重要だと感じた。地域住民の人々の生活や暮ら
上で、人が生きてきた暮らしや文化というものの存在
しを支える仕組みは、歴史とともにつくられている。
の大きさを無視しては語れないことを強く感じた。
だからこそ、浸透している考え方や根付く文化に伴う
私たち学生は、日々の研修をほとんど集団で行なっ
意識や行動を変えることは難しい。しかし、より暮ら
ていたが、それぞれ自分たちが生き、歩んできた歴史
しやすい国にしたいという思いは母国を愛する住民に
によって、この研修での学びや、人々に対する思いも
共通のものである。その国をよくするために、主人公
異なるものであったと思う。3週間という期間は、私に
であるその国の住民自身がやる気になることが持続性
とって慣れない環境の中で、意欲的に学び、仲間と楽
のある変化をもたらすと思う。その変化が自信や自己
しい時間を過ごせるだけの時間ではない部分もあり、
尊厳につながり、人間開発から国の開発、発展へつな
体調管理、精神的なゆとりという部分で自分への課題
がるということなのではないだろうか。
とするべき部分も多かった。そのような中で、共に励
支援の方法は、プライマリーヘルスケアの考え方が
ましあい支えあえる仲間がいたからこそ、私はこの研
元になっているとも考えることができ、バングラデ
修を乗り越えられたと思う。この仲間と、研修を無事
シュでなくとも、その住民の力を引き出す方法とし
に成功させ、かつ学生が多くの学びを得られるよう配
て、違った形で応用できるものであるように思う。
慮し、関わってくださった先生方、BRACの関係者の
方々、そして、私たちの勉強のために暖かく迎えてく
7.おわりに
この短期フィールド研修は、私にとって大変貴重で
ださったコミュニティの方々すべてに感謝の意を表し
たい。
学びの多いものであった。私は過去に一度バングラデ
シュを訪問したことがあったが、恥ずかしながらBRAC
〈参考HP〉
については大きなNGOの名前、ということしか知ら
外務省 バングラデシュ人民共和国
ず、今回の研修は初めて学ぶことばかりであった。こ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/bangladesh/data.
のように考えると、一度訪れただけでその国のことを
html
知っている、というにはあまりにも軽率であり、今回
の研修でも理解できたことは、バングラデシュという
国のほんの一部のことである。しかし、たった3週間で
33
バングラデシュを通して学んだ国際保健の重要性
小 山
1.
はじめに
佳 那 子
作業である。地域の人々で話し合う中で、自分の考え
8月3日から25日までバングラデシュにおいて短期
を表現し、他者の意見を聞き多くの意見があることを
フィールド研修を行った。その目的は、途上国におけ
知る。そして、その意見を理解しようとし、共通認識
るモデル的な保健対策を視察し、今後、問題分析や解
していく。この過程で得られる事は非常に大きい。こ
決策の考案に役立てる事である。私にとって初めての
の話し合いの中で作り上げられていく事、自分達で考
バングラデシュ訪問であったが、以前協力隊で活動し
え自らの手で実現化していると実感していく事が必要
ていたネパールと町の様子や食事など似ている部分も
である。それが、大きな力となって問題に取り組む組
あり、時々懐かしささえこみあげてくるような感じさ
織作りとその運営に繋がっていた。私は、それを断片
えした。短期間ではあったが、非常に内容の濃い日々
的に見ただけではあるが、そのエネルギーには圧巻し
であり、プロジェクトの住民の声から保健システムま
た。その過程では、もちろん住民の力だけではなく、
で学ぶ事ができた。その全てを集約することは困難で
アドバイザー(バングラデシュ人でもあり外国人でも
あるため、特に印象に残った点や今後の研究や国際保
ある場合もある)の役割も大きく関与している。
「もし、彼らが自主性や、尊敬している人からのサ
健にどのように活かしていくか考察をしていきたいと
思う。
ポートを受けていると感じる事ができたなら、それは
物事を継続させるための、強い力やモチベーションと
2.
コミュニティの力強さ
なるであろう」[Basch 1999:221]という言葉があ
多くの保健プロジェクトを見学したが、その中でも
る。コミュニティの力は勿論重要であると同時に、そ
驚かされた事は住民の参加意識が非常に高い事であ
れを継続可能としていくためには、サポート側の力も
る。特にバングラデシュ母性保護サービス強化プロ
重要だ。しかも、そのサポート者との信頼関係がなく
ジェクト(JICA)において組織されているCmSS(地
てはいけない。今回、多くのプロジェクトを通して両
域サポートシステム)では、住民が各自出産に関する
方の側からのプロジェクトに対する想いを学び感じる
ストーリーを持っていた事である。例えば、自分の家
事ができたと思う。サポート側とそのコミュニティの
族や親戚などを妊娠や出産を通して実際に亡くなった
関係がどう作用していくのか、互いに補い合いながら
経験や、2人の子を出産トラブルで亡くしている妊婦に
物事を進めていく事を実際の事例から学ぶことができ
対して、3人目の出産では早期にコミュニティの人で相
た。目の前の問題にどう対処していけばよいのか、そ
談し病院へ運んだことにより危険を回避できたことな
れを考えることは非常にシンプルではあるが、それに
どである。それらの経験が、強いコミュニティ作りに
息が吹きかかり動きだすには大きなエネルギーが必要
繋がり、組織となり機能していた。そこに至るには、
であり、それには個人の力と同時にコミュニティの力
あるNGOが約8ヶ月間という期間をかけて住民と話し合
がとても作用していることを考えさせられた。
いながら、問題を明確化させ、その問題にどう対処す
るか住民が考える場を設ける、という過程がある。こ
の過程が、各自の参加意識を高めるためには、最も重
要であるのではないかと感じた。
34
3.
各組織の協調の重要性
バングラデシュは保健分野に関して、政府で担って
いる部分も大きいが、NGOもそれと比べものにならな
問題に対して問題意識を持つ、そしてそれが解決可
い位担っている部分が大きく、まるで政府の柱とNGO
能である事を知る、その中で自分達の手で出来るこ
の柱が別々にあるように見えてしまう。バングラデ
とを実現可能にしていく。この過程は、言葉で言う
シュ人にとっては当たり前の事かもしれないが、私達
と簡単であるが、実際行動するとなると非常に困難な
日本人からして見ると、色々と混在していて理解が難
しく思える。今回は、事前に保健システムについて学
究について考えることや、保健課題に取り組む時に活
習してから、各自疑問点を持ち、プロジェクト見学に
かされてくると思う。
臨んだ。しかし、実際に見学してみると、そこに生き
1つ残念であった事は、言葉の問題である。言葉には
ている人々にとってはシステムよりも、目の前に生じ
微妙なニュアンスがあり、それが、英語になると上手
ている問題がいかに大きく存在しており、保健サービ
く伝わらない場合がある。その地域の人が実際に、何
スを必要としている人にとっては、システムよりもど
をどう感じでいるのか、その思いを彼らの言葉で知る
のようなサービスが利用できるかの方が重要であるこ
ことができたらより良いと思った。ネパール人と姿顔
とを目の当たりにし、考えさせられた。その人にとっ
が似ていたため、余計にそのジレンマを感じた。それ
ては、政府のワーカーなのかNGOのワーカーであるよ
には、やはり時間のかかる事であるから、今回の期間
りも、命が助かる方が深刻なのである。
では難しいが、来年度インターンシップではその国の
ただ、そこで終わるのではなく、さらに一歩引い
て、もう一度全体像を考え直してみた時、色々と混在
文化や社会背景を理解しながら、コミュニケーション
をとり語学も学びたいと思う。
している課題に各組織がどう取り組むか、研修をして
また、実際にフィールド調査の経験がない私にとっ
いる過程で見えてくるようになった。1つの組織で、全
てICCDR,Bマトラブにおいてデータ収集から、その
ての人に同じサービスを提供する事は困難である、そ
管理を学べた事は非常に大きかった。ここの調査方法
れは政府でも同じことだ。あのBRACでもサービスを提
は、非常にシステム化されており、前向きな研究であ
供していない地域はあり、そこにサービスを必要とす
る。そして単に調査するだけでなく、その結果が住民
る人々は存在する。やはり、その様な状況で大切な事
に反映されており、どの様にサービスに繋げるかまで
は、お互いの存在を認め合い、協調し、各組織の得意
成り立っていた。来年度の自分の研究が、どうその地
分野を発揮できる状況を作ることであると再認識する
域の人々に反映されるか、調査した結果をどう活かす
事ができた。
か、再度考え直したいと思った。
「成功を観察し他国の失敗に注目すること、その現
4.
考察
場の状況に合わせて変化させたり改良すること、想像
今回学んだ事を、今後の研究や学習にどのように活
力、実践、評価や比較検討することを通して、国際保
かしていくかについては、一言では表現し難い。しか
健の担い手は、多くの人々に対して真の協力者となれ
し、物事の考え方として、後期の授業(マネージメン
るだろう。世界はパラドックスで溢れているが、それ
ト・社会調査や経済など)では今回の研修で学んだ事
に臨むことが私達の課題である。」[Basch 1999:507
が重要な要素になってくると思う。
−508]。
例えば、BRACのマイクロファイナンス・プログラ
全体を見る力を養うために、今回バングラデシュと
ムでは、保健課題に直接取り組むのではなく、現金収
いう国を通して保健システムを学び、その課題にいか
入を得る方法を教え、そこから発展させて、教育や保
に取り組んでいるのか各プロジェクトを見学した。国
健の課題に関連させていた。そこには、経済学の知識
際保健の介入の仕方を、1つのモデル国バングラデシュ
が欠かせなかったりと、健康の課題に取り組むために
を通して学ぶ事ができた研修であった。まだまだ、私
は様々なアプローチ方法があることが理解できた。つ
には経験が少なく、知らない事が多いと実感する日々
まり、大きな課題に取り組むためには、保健分野だけ
でもあった。この文章にもあるように、多くの事を見
でなく、教育や経済などとの関連性を考えながらでな
て学び、考えいく事で積み重なっていくものがある。
いと、全体的なボトムアップに繋がらないということ
私は、現在その過程にいる者として、今回の研修を通
である。これらのモデル事業を通して、多種多様な介
して1つのステップを踏むことができたと思う。
入方法を、自分の中で想像することが以前より可能に
なった。今後の授業では、今回の経験をリンクさせ考
5.
おわりに
える事ができるようになると思う。協力隊で活動して
健康問題に対して、何を基本として考え介入してく
いた時には見えなかった、全体像と援助の介入と政府
のか、問題をどう捉えるのかは前期の授業で学習した
の関係。今、自分がどの立ち位置から物事を考えてい
部分であったが、今回、それが実際どう各国で機能し
るのか明確にし、様々な視点をもっていくことが、研
ているのか、自分の目で見て感じ、現地の人からの言
35
葉を聞いた事でより理解が深まった。というよりも、
ながら思い出す事ができ、士気が高まった。
消化できたという方が正しいかもしれない。前期の授
最後に、予定が変更になったり体調を崩す学生がい
業では多くの事を学び、時にはそれを理解する前に、
たりと調整が困難な中で、私達の研修をより良いも
次の新しい課題となってしまったため、やや中途半端
のとなるよう日々ご指導して下さった宮地先生をは
な想いが残った。それが、今回のフィールド研修を通
じめ、BRACの先生やスタッフ、JICA、UNICEF、
して、やっと自分のものとして消化できた日々であっ
ICDDR,Bの方々、事前学習を指導して頂いた渡辺先
た。「百聞は一見に如かず」とまでは、言い過ぎかも
生、犬尾先生、事務の方々に感謝の意を述べたいと思
しれないが、リアリティーを持って学べた事は確かで
う。
ある。前期の授業内容が整理され、後期に向けての準
備を整えることができたと思う。非常に有意義な研修
Basch, F. Paul 1999 Textbook of International Health,
であったと同時に、自分が何故、国際保健を学びたい
New York : Oxford University Press
と思ったのか、その初心を途上国のエネルギーを感じ
36
バングラデシュでの学びと今後の課題
髙 木
1.
はじめに
ダッカ空港ビルを出ると、たくさんの男性が空港を
仕切る柵に寄りかかって一斉にこちらを見ている。そ
直 美
体制の独自の出産施設を運営している。その他にも
BRACは独自のヘルスセンターを運営しており、帝王切
開を含めた出産に対処している。
の視線に圧倒されながら、ホテルの迎えのバスに乗り
その他、ノルシンディ県におけるJICAの母性保護
込むと、道中は通行人や車、リキシャと呼ばれる三輪
サービス強化プロジェクトでは、コミュニティサポー
自転車タクシーであふれかえっている。1平方キロメー
トシステムが機能しており、妊産婦死亡の3つの遅れの
トルあたり人口密度982人の過密な国バングラデシュで
解決に貢献している様子も見学することができた。さ
の3週間の研修の始まりだった。
らに、国際下痢性疾病研究センターでのマトラブ地域
この研修を通して、地域の保健医療システム強化の
の研修は、リファーラルシステム強化のための取り組
取り組み、途上国支援のあり方、母子保健指標に影響
みを学ぶ機会として大変有意義だった。コミュニティ
を与えている様々な要因への取り組み、サーベイラン
ヘルスワーカーによって運営されているクリニックに
スのためのデータ収集の実際、受診行動に影響を与え
住民は受診し、問題があればサブセンタークリニック
ている文化・社会的側面への理解の重要性について、
へ送られ、そこでも問題があれば国際下痢性疾病研究
多くの学びを得た。これらはすべて前期の講義で学ん
センターのマトラブ病院へ送られ、さらに大きな問題
だ基礎知識習得の必要性を実感する場となり、さらに
がある場合には、ダッカ医科大学へ搬送される。
そこから今後の自らの課題も明らかになった。このレ
こうした母子保健分野における一次医療から三次医
ポートでは、考察した項目ごとに学びや気づきをまと
療まで医療供給体制の充実は、BRAC、国際下痢性疾
め今後の課題を明確にしたい。
病研究センター、JICAプロジェクトのそれぞれで見る
ことができ、医療体制の整備を急速に進めていること
2.
地域保健医療システム強化の取り組み〜「3つの遅
れ」への対処〜
が理解できた。今後これらの仕組みをさらに強化する
ために、それぞれの医療レベル間の連携強化や住民の
バングラデシュ政府は健康、栄養および人口セク
意見を吸い上げる仕組み作りが必要となってくるだろ
タープログラムの中で、妊産婦死亡率と乳児死亡率の
う。連携協力強化のための仕組み作りについて考える
削減を目標として掲げている。妊産婦死亡率、乳児死
ことは、国際協力の現場におけるコーディネーターの
亡率とも年々軽減傾向にあるものの、妊産婦死亡率は
重要な役割である。「つなぐ役割」の必要性と重要性
2007年時点で出生10万件に対し380、乳児死亡率は出生
を実感した。
1,000に対し52と依然として高い。これを受けて、バン
グラデシュ政府、BRAC、国際下痢性疾病研究センター
3.
支援のあり方
のそれぞれが医療サービス提供者の研修を行い、地域
多額の援助を受け、多くのNGOが活動しているにも
住民が主体的にリプロダクティブ・ヘルスサービスを
かかわらず、いまだこの国は貧しい。ダッカでは5分
利用できる仕組み作りを行っていることを学んだ。
も道を歩けば物乞いの子ども達に出会い、渋滞に巻き
BRACではシャスト・シェビカと呼ばれるコミュニ
込まれ立ち往生している車の窓を物乞いの人びとが叩
ティヘルスボランティアやシャスト・コルミというヘ
く。また下着をつけていない子どもを抱えた母親が、
ルスワーカーが働き、住民への基礎的な健康教育から
子どもに食事を与えてほしいと手で訴えてくる。街に
家族計画を担っており、地域における妊産婦の存在認
たちこめる汚水の臭い、不衛生なダッカの道端に座り
識にも貢献している。さらに助産師や助産師の指導的
込む物乞いの多さ、新聞やお菓子を売る子ども達の姿
役割を果たす助産師を含めたチームを形成し、24時間
が目立った。
37
政府、行政体制の脆弱さが問題の原因の一つとして
準が必要である。さらに経済的自立のためには、生活
考えられるだろう。保健行政を司る保健家族福祉省
支援から小規模事業自営のための技術支援等までの包
は、保健局と家族計画局に分かれており、中央レベ
括的なプログラムが充実することが重要である。様々
ルから末端のコミュニティレベルに至るまで二つに分
な要因が解決してはじめて人は自己の能力を十分発揮
かれている。互いの連携がほとんどない状況が、保健
し、自立した生活を営むことができる。こうしたアプ
サービスの非効率化や業務の複雑化を生んでいるよう
ローチの実践をBRACのプロジェクトを通して深めるこ
だが、なかなか改善されない。
とができた。
NGOは脆弱な政府の働きを補完する役割を果たして
いる。その一方で、政府はNGOによるサービスのオプ
5.
サーベイランスの仕組み
ションが増えるならば、なおさら良いといった姿勢が
国際下痢疾患研究センターの主な活動分野は、その
伺える。そのうえ政治汚職率も高いから、NGO等の支
名の下痢だけに留まらず、小児保健、感染症やワク
援に頼ることになってしまう。こうした循環を断ち切
チン開発、栄養、リプロダクティブ・ヘルスと多岐
るために援助依存解消の対策が頭をよぎるが、NGO等
にわたっている。中でも、マトラブでは、40年以上に
が援助を止めてしまえば、真先に困窮に陥るのは、貧
わたり地域の人口動態、家族構成、経済状況や家族計
しい人びとや子ども、女性といった社会的弱者だ。
画にまつわる個人情報を蓄えており、そのシステム開
このような政治の脆弱さと援助のジレンマは、植民
発も年々向上している。現在、携帯情報端末をコミュ
地支配等の歴史的背景も含んだ体質を伴っているため
ニティヘルスリサーチワーカーが所持し、マトラブ地
解決には長い時間を要するに違いない。また自立のた
域のリサーチを試験的に行っている。将来的にはすべ
めにはしばしば時間がかかるものであろう。正義感に
てのヘルスリサーチワーカーが携帯情報端末機を携帯
燃えて警察官になったバングラデシュの青年が、賄賂
し、情報保存に紙を使わないシステムへ移行させる
や汚職に立ち向かおうとしたが、結局挫折し辞めざる
という。私たちはその実践を国際下痢性疾病研究セン
を得ない状況に陥ったという話を耳にしたが、この国
ターの病院の一角のコンピュータールームで見学する
の体質を知る典型的な例なのかもしれない。行政能
ことができた。
力強化と援助のバランスは、国内外問わず援助の在り
住民の生活の場に触れ、コミュニティヘルスリサー
方を考える場合必ず直面しなければならない問題であ
チワーカーによる質問調査の方法を観察し、その後の
る。今後、自立に向けた援助のあり方について自らの
データ処理まで一括して見学する機会は、サーベイラ
考察を深めていく必要があると感じた。
ンスの仕組みを理解する上で大変貴重な体験だった。
こうした情報収集システムの構築には長期的な展望が
4.
包括的な取り組みの必要性
BRACの本部は地上22階、通常日本で想像している
必要であり、これまでの歴史に裏づけされた情報収集
の地域による工夫が大切であることを学んだ。
NGOと異なり、スタッフ12万人を抱える巨大組織であ
る。巨大化した背景には、貧困削減の包括的支援の要
社会・文化・宗教的側面への理解の重要性
請と政府・国際社会に対する発言力強化の2つが考えら
今回の研修で宗教が人びとの生活全般に影響を及ぼ
れる。BRACは「ウルトラプア」と言われる最貧困者に
しているということを知り、前期の授業科目である文
対してトレーニングを行い、住居の提供や家畜の供与
化・医療人類学での学びを度々振り返ることになっ
などを行っている。さらに自活の目途が立つまで生活
た。特に、健康や病、また治療行動は、単に医療的側
費が与えられ、自立まで2年間の猶予が与えられる。さ
面のみで片づけられることではなく、社会・文化的側
らに最貧困を脱出した人の次のステップは「マイクロ
面への理解が欠かせないということを認識した。イス
クレジット」への参加であり、無担保で少額のお金を
ラム教が人びとの健康問題に深く関わる事実を知り、
貸してもらえる。利子は15%であり、返済率は99.3%と
これらの視点が欠かせないことを実感した。
高い。
38
6.
これまで数人のムスリム(イスラム教徒)には接し
人びとが貧困から解放されるためには、貧しい人が
たことはあり、食事制限の厳しさや祈りの時間の徹底
必要とする支援が貧しくない人びとに流れないように
などは知っていたが、人口の9割以上がムスリムとな
しなければならない。そのためには、明確な貧困の基
ると、生活に影響を及ぼす部分でかなりの違いを感じ
た。まず、毎朝モスクから聞こえてくる祈りへの誘い
7.
おわりに
(アザーン)で目覚める。町では時折通学時間や買い
以上述べてきたように、短期フィールド研修におい
物時間に女性を見かけることはあったがその比率は日
て医療保健分野だけでなく、様々な分野の取り組みに
本とは遙かに異なる。女性がお茶を飲むなどの姿は見
ついて見学する機会に恵まれた。さらに途上国の保健
かけない。農村地帯で夜、暗がりでお茶を飲みながら
医療の問題解決のために尽力する様々な人びとに間近
ベンチに腰かけているのは男性ばかりだ。
に接することができた。文化・風習の相違、限られた
イスラム法には男女にまつわる規定や飲食物・衣服
資源や人材などの限界に悪戦苦闘しながら、貧しい人
に関する規定がある。実際には思ったよりも緩やかな
びと、恵まれない人びとの健康改善・貧困撲滅のため
感じを覚えたが、もちろん日本とは比較にならない。
に、いろいろな背景・経歴を持った人びとが集い、力
これらは単に生活上の違いというだけにとどまらず、
を注いでいる。こうした多くの人びとに接することが
人びとの健康問題や治療行動、さらには医療制度その
できたことも、素晴らしい体験だった。
ものにも影響を与えており、人びとを理解する上で欠
このように充実した研修であったが、様々な心の痛
かせない視点である。たとえば分娩の8割以上が自宅
みを伴いながら過ごした3週間でもあった。ウルトラプ
分娩であるが、単に病院へのアクセスの問題だけでな
アの世帯を見学者として訪れることの悲しさ、踊りや
く、宗教的・文化的要素もその要因のひとつになって
歌を披露してくれる子ども達の歓迎をうれしく思いな
いる。さらに、女性看護師の地位の低さや男性看護師
がらも彼らの自由さを奪っているのではないかといっ
の否認といった問題もあり、医療の質や人材確保の点
た申し訳なさ、物乞いの子ども達の前を素通りすると
からも文化・宗教的な背景を理解し対策を考えること
きのやるせなさなど、世界の不均衡や不条理、矛盾を
が必要だと思った。
感じながら過ごした。
現地の人びとから受けたたくさんの恩恵を、いつか
何らかの形で返していければと思っている。そのため
にも今回明らかになった自己の課題に積極的に取り組
みつつ、自己の研鑽を深め、今後の学習、さらに来年
度の長期インターンシップや研究に真摯に取り組んで
いきたい。
39
バングラデシュで学んだ国際保健の複雑さ
田 中
1.
はじめに
準 一
and Family Planning)は中央レベルで保健局(DGHS:
バングラデシュは、人口1億5,857万人が日本の国土
Directorate General of Health Service)と家族計画局
の4割程度の土地に暮らす南アジアの国である。国際的
(DGFP: Directorate General of Family Planning)に
には後発開発途上国に位置付けられているが、縫製産
分かれたあと、コミュニティレベルまで完全に二分さ
業などの輸出が好調で高い経済成長率を維持し後発開
れる形が取られていた。家族計画局は家族計画を実施
発途上国の優等生と言われている。その一方で毎年の
するとともに、周産期ケアに関する医療行為をも行
ように起こる自然災害(洪水)や、汚職の蔓延が依然
うが、保健局との連携は見られず完全な縦割り行政が
として問題となっている。保健に関するミレニアム開
問題となっている様子であった。重複するケアを提
発目標の進捗状況は概ね好調で、5才未満死亡率(出生
供する場合があるにも関わらず、保健医療施設の建物
1,000対)に関しては1990年の144から2007年には65へと
自体が分かれていることには大変驚かされた。しか
減少し、妊産婦死亡率(出生10万対)に関しても最新
し、実務レベルでは各局傘下の保健医療従事者であ
のデータはないものの1990年の480より2005年には320
るHA(Health Assistant)とFWA(Family Welfare
と改善がみられている。またミレニアム開発目標関連
Assistant)の連携が行われることもあり、さらに複雑
以外の問題点としては健康転換による生活習慣病の増
な様相を呈していた。今回の研修では、主にBRACや
加や洪水に関連した溺水、飲料水に含まれるヒ素の問
JICA、UNICEFが行う支援の実際を講義やフィールド
題などがあげられる。
での見学を通してバングラデシュの保健システムに関
今回の研修では、途上国(バングラデシュ)の保健
して学んだが、行政レベルでの横の連携を強化しよう
システムの理解と貧困層への経済的支援の理解の二点
とする支援がみえてきたのはJICAの母性保護サービス
を個人目標として掲げ研修に参加した。まず一点目
強化プロジェクトだけであった。この取り組みは、中
は、事前学習を通じて、バングラデシュ政府の縦割り
央レベル、県(District)レベル、ウパジラ(Upozila)
行政、保健局と家族計画局が完全に縦割りされ横の連
レベルで横の連携を強化するために委員会を運営する
携が取れていないことに問題点を感じたためである。
とともに、ユニオン(Union)レベルにおいて緊急時の
二点目は、今回の研修内容に貧困層への経済的支援
産科ケアなどに備える住民主体の地域サポートシステ
(マイクロファイナンス)が含まれており、これまで
ム(CmSS: Community Support System)を構築する
文献を通じてしか知ることができなかった経済的な支
というものである。この試みは横の連携強化、住民参
援について知ることである。また、現地での研修の際
加型のサポートシステムを構築する上で非常に意義が
に問題があると感じた、多種多様な保健医療人材に関
あり、今後この取り組みがスケールアップし他のプロ
して報告する。
ジェクトや国家の体制へと波及していくことが望まれ
る。各機関の様々な担当者に「政府への支援について
2.
40
途上国の保健システムについての理解とその支援に
どのように考えているか」を質問したが、汚職にまみ
ついて
れた政府を支援することは非常に難しく、その点に関
事前学習で調べた以上にバングラデシュの保健シス
してはあきらめの声が数多く聞かれ、その点に関して
テムは非常に複雑なものであった。国家の保健政策
は非常に残念な思いがした。また、この国において重
は健康、栄養および人口セクタープログラムとして
要な医療施設である私立病院の実態に関するまとまっ
貧困削減計画書との整合性を保つ形で計画され、ミレ
た報告はあげられていない。それらの施設の実態を知
ニアム開発目標の達成が目標の柱として掲げられて
ることは、政府系の保健施設の信頼度が低く、政府系
いる。保健家族福祉省(MOHFW: Ministry of Health
の医師がかけもちで働くことが多いバングラデシュの
保健事情を把握する上で非常に重要なことであると考
者が主体的に参加を申し込むわけではなくBRACのス
えるが、民間セクターに関する研修は今回の内容には
タッフがリサーチをして利用者を探し出すという形が
含まれておらず、訪問先で民間セクターに関する情報
取られていた。このような方式が、この高い返済率を
を質問した際にも十分な回答、正確な情報は得られな
維持するための秘訣なのだなと感じるとともに、これ
かった。このことは有効に機能していない医療情報シ
では本当に困っているものが必要なプログラムを受け
ステムの問題が関連していると考えられる。保健家族
られずにいる可能性が高いのではないかという疑問が
福祉省の医療情報システム(MIS: Medical Information
生じた。マイクロクレジットは、ただの人道支援では
System)は整備されておらず、保健局と家族計画局
なく、BRACが利益をあげ活動資金を生み出すための事
が相互に連携のない独自の医療情報システムを持って
業という側面があることを忘れてはならないだろう。
おり、ここでも縦割り行政の弊害があらわれるととも
また、ストリートチルドレンや物乞いが、生活してい
に、民間セクターに関する情報を集約するシステムも
くために必要な費用をリキシャの運転手などと同程度
なく正確な医療情報を把握することが困難な状況と
に稼ぐことができているという事実には、ただただ驚
なっていた。苦労して集めた情報が無駄にならないよ
くばかりであった。ストリートチルドレンや物乞いだ
うな医療情報システムの確立が望まれるところであ
から当然貧しいだろうという考えは間違っており、先
る。また、多くの一次、二次医療施設でリファーラル
入観にとらわれていたことは反省しなければならない
先として回答されたダッカ医科大学の見学が急遽中止
と感じた。先入観や思い込みにとらわれず、自ら調査
になったことや、民間セクターの施設が見学できずバ
し検討したうえで支援をしていくことが重要だという
ングラデシュにおける一次から三次レベルまでの医療
ことが理解できた。
施設を網羅できなかったことは心残りな点である。し
かし全体としては、今回の研修を通じて途上国の保健
4.
多種多様な保健医療人材
システムの全体像を把握するよい機会になるととも
保健医療人材に関しては前述した保健システムに含
に、今後我々が途上国の健康問題の解決へと関わって
まれる内容であるが、研修を通じて保健医療人材が乱
いく上での貴重な経験となった。
立していることに大きな問題点を感じたため、個別に
報告することとした。今回の短期フィールド研修では
3.
貧困層への経済的支援
主に母子・新生児保健(MNCH: Maternal Neonatal
貧困削減に関連した研修としてBRACによるマイク
and Child Health)に関連する施設に関して学んだ。
ロクレジットや最貧困層支援の実際を見学することが
その中で特に印象に残ったのは、多種多様な保健医
できた。貧困削減は、国際保健と切り離せない関係に
療人材が医療行為を行っているということだった。現
あり、貧困が不健康の原因であり結果であると形容さ
在先進国では、医療職の高度な専門化が図られている
れることもある。予想外だったのは最貧困層が密集し
が、バングラデシュではその逆で、簡単な訓練で助産
た地域は少なく、村に数件の最貧困層の世帯が一般世
技術を身につけ、その名称も多様な保健医療人材が
帯や貧困層に交じり暮らしていることが多いというこ
多数存在していた。例を挙げればきりがないが、政府
とだった。最貧困層といってもすべての最貧困層の住
系の保健医療人材であるHA、FWA、FWV(Family
人が支援を受けられるというわけではなく、利息や借
Welfare Visitor)、C-SBA(Community-based Skilled
金を返せる可能性のあるものだけがお金を借りること
Birth Attendant)、家族計画医師補助者(SACMO)、
ができるというのが実情のようだった。実際には負債
BRACではSK(Shasthya Kormi)、SS(Shasthya
を抱えて自殺する人もいるという事実には大変驚くと
Shebika)、UBA(Urban Birth Attendant)、MMW
ともに、BRACが単にNGOという言葉で表現できるも
(Medical Midwife)、国際下痢研究所(ICDDR,B)で
のではないという強烈な印象を受けた。ただし、実際
はCHRWs(Community Health Research Workers)、
にはマイクロクレジットにより生活を立て直した女性
そのほかにTBA(Traditional Birth Attendant)や国家
も多く、弱者の強い味方となっていることは間違いな
資格を持たない村医者など、まさに名称や業務範囲も
い。借金の返済率に関して、ここ数年の報告では99.3-
様々な保健医療人材が存在するのである。これらのす
99.5%と非常に高い返済率を維持しているが、プログラ
べてが分娩の介助をおこなうというのだから驚きであ
ム利用者の選択基準は厳密なものとなっており、利用
る。確かに健康、栄養および人口セクタープログラム
41
やミレニアム開発目標の目標を達成するためコミュニ
は増えるかもしれないが、進む道のりは複雑になる。
ティが接することのできる医療職が多数存在すること
そしてそれらの援助提供者はやがてバングラデシュを
は望ましいことではあるが、今後目標が達成され、保
去るため政府へとその機能を引き継いでいかねばなら
健医療人材の専門化が図られる段階において、政府は
ないし、国内のNGOであってもその援助を未来永劫続
これらの人材をいかに統合していくだろうかと非常に
けていくというのは本来の姿ではない。今後、我々が
心配になる。また多様な医療技術者の存在は、均質な
国際健康開発を考えていく上で、様々な機関が複雑に
医療技術の提供を妨げ、結果として目標達成が長引く
絡み合っているバングラデシュの現状を知ることがで
ことも懸念される。その一方で、医師や看護師などの
きたのは非常に意義のあることであったと思う。最終
雇用は計画的に実施されておらず、各施設で空席が目
のプレゼンテーションでまとめたように、住民参加型
立つ状態となっている。保健・医療の質の確保のため
の開発や、対象国の文化の理解、政府と国際機関、そ
にも、保健医療人材の量と質を政府主導で改善してい
してNGOが協調し同じ目標を共有することが大切であ
くことが必要である。
ると理解でき実りある研修となった。この研修での経
験を来年の長期インターンシップや、今後の活動に活
5.
今後の課題と展望
今回の研修では実際に政府の関係者と話をする機会
がなかったため、国際的な援助やNGOの支援に依存す
るバングラデシュ政府(保健家族福祉省)が、今後独
立して活動していくためにどのようなかじ取りを考え
ているのかを知ることができなかった。現在、バング
ラデシュはミレニアム開発目標に掲げられた目標達成
へと着実に進んでいるが、これは様々なステークホル
ダーによる一時的な支援の結果であるようにも思われ
る。政府主導でバングラデシュの保健・家族計画が円
滑に動きだすためにはまだまだ長い月日がかかりそう
であるという印象を受けた。「汚職はバングラデシュ
の文化である。」という言葉が示すように、長きにわ
たり根付いた風習・価値観を覆すことは難しい。しか
し、我々は世界中の人々が平等に健康な生活を送るこ
とが可能になるような道を模索していかねばならな
い。そのためには、国際機関やNGOが支援の足並みを
揃えて目標を達成していくことが重要である。途上国
では国際機関をはじめ大小さまざまなNGOが様々な支
援を行っているが、被援助国政府がいかなる未来をい
かなる方法で歩もうとしているのかを理解し支援を行
うことがいかに重要であるかを今回の研修を通じて理
解することができた。国際保健の場で活動する様々な
ステークホルダーは、各々が様々な思惑をもって支援
を実施している。バングラデシュの研修で見えてきた
のは、様々なステークホルダーが複雑に絡み合いなが
ら支援を続けている現状である。そこでは様々な機関
が共通の目標(ミレニアム開発目標の達成など)に向
かって活動しているが、いまひとつ足並みを揃えるこ
とができていないように感じた。国際保健の現場での
援助提供者が増えれば増えるほど提供されるサービス
42
かしていきたいと思う。
バングラデシュで見た力
鶴 岡
美 幸
空港の玄関から一歩外へ出ると身体に纏わりつくよ
者、世界最大規模のNGOであるBRAC、国連機関の
うな空気、色々なものが入り混じった様な臭い。迎え
UNICEF、政府を相手に二国間協力を行うJICA、国際
の車が出入りするスペースを囲むフェンスの向こう
的研究機関であるICDDR,B、現地のNGOのエクマッ
に、無数に並ぶ人影。逆光で表情は見えないが、フェ
トラなど多種の機関の活動を見る機会を得られた。そ
ンスにへばり付きこちらを覗きこんでいる。フェンス
れぞれが、よりよい社会を作る共通の目標を掲げなが
のこちら側で車に乗り込みいざ外へ。どんよりした曇
ら、各々の対象に対して様々な角度から取り組んでい
り空。鳴り響くクラクション。リキシャ、小型三輪自
る姿を見ることができた。
動車と自動車が、無秩序に行き交う道。そして、それ
研修の大きな目標のひとつであるプロジェクト成功
に劣らない数の道行く人。ああこれがバングラデシュ
例に学んだ特徴は、住民参加型であること、適切な人
なのだ。ここで3週間やっていけるのだろうかという不
材配置と施設整備がなされていること、持続性が保た
安と緊張が入り混じる。
れているという点である。いくつかのプロジェクトモ
デル地区で、各プロジェクトの骨子を学び、参加する
バングラデシュは、300万人が犠牲になったと言われ
人々の表情と生活環境を垣間見ることができた。
る独立戦争を経て、1971年にパキスタンから独立。世
界有数の人口密度を呈する国である。基盤が脆弱とい
1.
バングラデシュ国母性保護サービス強化プロジェクト
われる政府、世界中からの援助、様々なNGOの混在で
二国間協力で政府を相手に活動するJICAの母子保健
成り立っている。この国のシステムはまさに、ダッカ
プロジェクトでは、縦割り行政における、横のつなが
の街の如く混沌としている。バングラデシュは1990年
りの強化に関わる活動がなされており印象的だった。
代に様々な保健指標において、目覚ましい改善を遂げ
バングラデシュ保健省には、保健サービス局と家族計
た国である。しかし、国内における種々の格差は大き
画局というふたつの局が属しており、このふたつの連
な問題で、経済的格差に加え、保健サービス普及の格
携の必要性が唱えられてきた。母子保健分野において
差も非常に大きい。スコールの後、あっという間に池
は特に、ひとりの人間の立場に立った包括的な継続的
のようになった道は、さらなる渋滞を招く。その道で
ケアの必要性が強調されている中で、一般的な医療や
綺麗に磨かれた日本車と、リキシャ、小型三輪自動車
出産、予防接種等を扱う保健サービス局と、家族計画
が我先にと競いあい、物乞いで暮らす人々が信号待ち
という側面から、出産を含む母子の健康に関わる家族
の車を囲む。池のようになった道も物ともせず、ぐん
計画局の活動内容は、コミュニティ、郡、県の各レベ
ぐんと前進しようとするあの活力はどこから出てくる
ルで施設・スタッフともにその活動内容が重複してい
のだろうか。他人を気遣っていたら置いて行かれる。
る。サービスの重複は、一見、住民にとっては二倍の
道の横断もできない。なぜなら、みなが周囲に負けま
恩恵を受けられるようにも感じられるが、実際には施
いという姿勢でいるから。合理的ではないが他にどう
設の不備やスタッフの不足を招いており、むしろサー
しようもないのである。しかし、ダッカの渋滞を抜け
ビスの質の低下につながっていると考えられる。質の
れば、緑と水が平らな土地一面に広がる美しい景色に
保たれたサービスの提供、適切な人材の配置と、地
出会える。そしてそこで暮らす人々は、少しシャイ
方分権化の必要性は以前より叫ばれているにも関わら
で他人への好奇心が旺盛で、暖かい。ああバングラデ
ず、権力争いのため不安定な政府はそれらを実現でき
シュはこういう国なのだとまた思う。
ずにいる。本プロジェクトでは、産科救急における「3
つの遅れ(判断、搬送、サービスの提供)」の改善を
今回の研修では、このバングラデシュの政府関係
主な取り組みとし、中央レベル、県レベル、郡レベル
43
にプロジェクト運営委員会を設置している。また、コ
年に活動を開始した。設立当初は青空教室が主な活
ミュニティレベルでは、地域住民主体のコミュニティ
動で、そこではストリートチルドレンを対象に、歌・
サポートシステムという妊産婦サポートシステムを設
劇・踊りや絵などの情操教育、識字教育、ライフスキ
立している。このサポートシステムでは、妊産婦の登
ル教育などを行っていきた。
録、ファンドの設立による妊娠・出産に関わる必要経
そして、青空教室に6カ月以上継続参加した子ども
費補助、緊急時の搬送用交通手段の確保などを行って
達の中で、入所を希望する10歳未満の子どもを対象と
いる。本プロジェクトでは、このコミュニティサポー
して次なるステップであるシェルターホームが設立さ
トシステムと地方行政とのつながりを強化すること
れた。今回私たちはこのシェルターホームにお邪魔し
で、プロジェクト終了後もコミュニティサポートシス
て、設立者のひとりである日本人スタッフの方のお話
テム活動が継続するような工夫をしている。また、産
を伺い、さらに子ども達と少しの時間を共に過ごす
科救急の第3の遅れへの介入として、保健医療施設の
ことができた。そこは、子ども達が仲間やスタッフと
サービスの質の向上も促進している。各病院の緊急産
共同生活をする場で、規律を守りながら24時間共に生
科ケアチームが、活動計画を実行し、自らモニタリン
活をし、社会生活の基本を学ぶとともに、社会復帰を
グする体制づくりを導入した。ここでも、実際に関わ
する準備も行っている。入所時には親に承諾を得て、
る現場の人々によるチームを組織することで、彼ら自
月に一度親子の面会があるとのことだった。ダッカに
らで継続できるような活動サイクルをまわす「きっか
は、「そこに行けば、何とか自力で生きていける!」
けづくり」という支援がされていた。
と信じる子ども達が、生まれ育った土地を離れ、親と
別れ、吸い寄せられるように集まるのだそうだ。彼
2.
BRAC
らの多くは学校に通わずに、物乞いや新聞配達などで
村の住民を対象に活動するBRACは、現代表のア
日々の生活を営んでいる。このような生活スタイル
ベッド氏を含む数名のスタッフで1972年に設立され、
は、ストリートで暮らす子ども達にとっては、ある意
農村や都市の貧困層を対象に多様な活動を実施してい
味自由できままな生活なのだそうだ。他人と共同生活
る。ORS(経口補水塩)の普及やマイクロファイナン
をすること、社会の中で生きていくこと、勉強し様々
スの導入など多様なプログラムを展開し、現在では縫
な知識を得て世界を広げることというのは、彼らに
製業、金融業までも実施する、企業のような世界最大
とって一種の試練であり、自由が奪われ、辛く乗り越
規模のNGOとなっている。保健、教育、衛生、経済
えなければならない壁である。それを子ども達自身が
的自立、人権問題などの多種のプログラムを実際に見
理解し、それでも学びたいという強い意志がなければ
た中での共通点は、住民参加型であることが挙げられ
シェルターホームでの生活は続かない。とても印象的
る。そしてモノや人が循環する仕組みの中に、人々が
なお話だった。
乗り込むきっかけを与えることで、持続性のある住民
さらに、現在設立中のアカデミーは、シェルター
参加の実現をしている。例えば、水・衛生プログラム
ホームで社会生活の基本を学んだ子ども達が、自立生
(Water and Sanitation, Hygiene Programme)では、
活していくために必要な技術を身につけ、社会復帰を
衛生教育・地域の代表者委員会・学校衛生・トイレの
目指す場である。英会話、コンピューター技術を必須
製造技術の指導などを通じて住民が参加し、住民同士
とし、お菓子作り、伝統刺繍、サービスなどの職業訓
での啓発や地域問題解決のための話し合いが行われて
練を行う予定となっている。また、農地を整備し、酪
いた。
農・養鶏などでの収益でセンターを運営していける体
制を作る方針。子ども達の就職先の機会も提供するこ
3.
44
エクマットラ
とが計画されている。
社会的弱者への教育・エンパワーメントと、社会の
活動運営の資金源としては、里親、会費、一般寄
富裕層への啓発活動の2つを軸に活動しているNGOで、
付、メディア事業、オリジナルグッズの受注などがあ
エクマットラとは、エク(ひとつの)マットラ(みな
る。なかでも、設立者のひとりであるバングラデシュ
が共有する線)という意味である。バングラデシュ国
人映画監督が子ども達を取り巻く世界を描いた映画の
内の経済格差、意識的な格差に問題を感じていたバン
上映で、富裕層を含む社会への啓発と、収益による資
グラデシュ人と日本人が、ダッカ大学で出会い、2003
金づくりは、一見結びつかない映画製作と学校運営と
いう活動を合理的に結びつける発想で、独創性があり
ビスが見出され、スケールアップされるような社会が
素晴らしいと感じた。行く行くは、エクマットラの設
望まれる。
立者たちが御役御免となり、アカデミー卒業生を中心
研修全体を通じて、バングラデシュの保健の状況に
に、バングラデシュの人々自らが、この社会の問題を
ついて、学ぶことができた。ある国について学ぼうと
解決するために活動するような循環する世の中をつく
する際にどのような資料を用い、どのような指標に着
ることを目指している。ここにもまた工夫された循環
目すべきか、そしてどのような疑問を抱き、その国を
する仕組みづくりがされていた。
訪れるのかという術を、実際に経験することで理解で
未来ある子ども達の笑顔とスタッフの情熱に接する
きた。前期の授業で学んだ主要な保健指標の意味を理
ことができて、とてもよい刺激となった。いつの日
解し、感覚的にそれらの指標を捉えることが身に付い
か、アカデミーを訪問してみたい。
たようにも感じた。また同時に、一つの国を多角的
に捉えることの難しさも痛感した。その国の歴史や文
4.ICDDR,B
ダッカを抜け南東へ60kmほど行き、幹線道路を曲
がると、水と緑に囲まれた景色が広がる。その合間を
化、人々が心に持つものは、外からそこを訪れる人間
にとっては広く深いもので、短期間ではその表面すら
なぞらえない。
縫うように、舗装され一段高くなった道路が続く。舗
日本では間違いなく保育器に入り、人工呼吸器を使
装されているとはいえ、ところどころに窪みがあり、
用するであろう超未熟児が、母親と肌と肌とを合わせ
車は地震のように揺れる。車一台が通る程度の幅に舗
てケアされるカンガルーケアを目の当たりにして、非
装された道路で、何台もの大型バスとすれ違う。道の
常に驚くとともに心を動かされた。勿論、彼らの今後
端に寄せた車は傾き、横の池に水没するのではない
の成長・発達は未知であるが、彼らのその生きる力の
かと冷や冷やする。一時間ほどすると国際的研究機関
強さを感じた。新生児ケアにおける必要不可欠なケア
ICDDR,Bのマトラブヘルスリサーチセンターに到着。
の有効性についてまた深く考え直すとても良いヒント
ここには、ヘルス人口統計調査システム(HDSS)が
が得られた。
存在する。その歴史は古く、1963年にコレラ研究所と
来年度の長期研修においては、前期の講義を通じて
して発足して以来、マトラブでは人々によりよい健康
学んだ知識を活かし、今回の研修で身につけた考え方
サービスが提供されるよう、統計学的な研究が行われ
を用いて、時間をかけてより深く人々と関わり、文化
てきている。マトラブで誕生した子ども、転入してき
的背景や人々が感じていること、望んでいることを少
た人々は皆IDを持ち、あらゆるデータが登録される。
しでも感じ取れるようになりたい。そして、この世に
マトラブという特殊な環境で提供されている医療シス
生を受け、産声を上げたその瞬間に行われる必要最低
テムは非常に合理的であった。具体的には、一次から
限のエッセンシャルケアが当たり前となり、それによ
三次に至るまで確立された搬送システムが存在するこ
り助かる命が見過ごされないで欲しい。
と、健康教育、予防接種などの基本的保健サービスか
すぐ目の前にいる人々の健康改善に取り組むこと、
ら超低出生体重児のケアまで行き届く仕組が整備され
国全体に目を向けて格差を減らし、皆にサービスが行
ていることである。さらには登録制度の確立により、
き届くようにすること。さらにはそれらのサービスを
個人の健康に関するデータが整理されている。施設内
経済的・医学的な側面で分析し、より有効なものにす
の清潔保持や備品の整理も、今回視察した施設の中で
ること。国際保健の分野では色々な役割を担う人々が
は抜群に整っていた。自宅分娩と施設分娩の比率は、
活動している。自分が今後何をするのかを、今回の研
バングラデシュ国内全体の比率と完全に逆転し、1対4
修を反芻しながら、じっくりと考えていこうと思う。
だそうだ。ICDDR,Bの担う役割は、環境が健康に及ぼ
す影響を解明し、根拠を伴うよりよい保健サービスや
医療行為を確立することである。マトラブがバングラ
デシュの他の地域にはない、ある意味異質で特殊な街
に映った理由は、たくさんの資金と技術が凝縮され、
理想的社会を作り出そうとしている場所だったからな
のだろう。普遍的で、実現可能である有用な保健サー
45
バングラデシュ短期フィールド研修を終えて
豊 島
さ や か
東南・東アジアや中東などになじみのあった自分に
ろも、活動も何もかも知らないでいた。なじみのあっ
とって初めての南アジアでの経験は、来る前に考えて
たJICAを始めとする政府系機関や、UNICEFやWHOな
いたよりも非常に学びと実りのあるものとなった。正
どの国連機関ではなく、しかもこれほどまでに巨大で
直なところ、そもそもバングラデシュをはじめとする
強大な存在に驚いた。事前学習で得た、「こういう組
南アジアにはあまり興味がなく、行ったことがないか
織もあるのか」という漠然とした感覚は、初日に実際
ら身近でもなかった。途上国は山ほどあって、面白い
に訪問した時、「このビルまるごとNGOなのか」、と
国は他にもあるのに、さらに長崎大学の拠点があるわ
いう衝撃によって打破された。さらに全行程を通じて
けでもないのに、どうしてバングラデシュなのか。
実際に現地で見て触れることで「しかもこの組織は援
今ならはっきりと身をもって理解するその理由は、残
助される側の現地人によって行われている…」という
念ながら日本にいた時にはわからなかった。事前にグ
当たり前だが目の覚めるような更なる驚きと共にその
ループワークをしてバングラデシュを紐解いていって
存在意義が具体性を増した。学びを深めるにつれ一概
も、それが私の意欲を十分に奮い立たせるものではな
に良いことばかりも言えず、評価側面は多々あること
かった。そんな調子であったから、フィールド研修自
もわかってきたが、BRACを表すために用いる表現とし
体へのモチベーションはとても高かったが、バングラ
てはチープすぎることを自覚した上で、総じてただた
デシュという国に対する意欲が今一つあがらないまま
だ「すごい」という言葉に尽きる。根底にあるのは、
出発した。しかし幸運にもその甘い考えは初日にBRAC
創設者であるアベッド氏の意識に反映されるように、
に行ってすぐに粉々になった。今はまた戻りたいとさ
バングラデシュ復興のために、特に最貧困層にある人
え思うほどだ。
を自分たちの手で手助けするという気持ちだった。
さらに言えば、協力隊以来、海外旅行はほぼ個人
ベースでの語学留学が多かった。複数の国で一定期間
BRACという組織の中には自分たちで制定・発明し
暮らしたが、現地での経験や学びは主に自分一人対現
た規則や手法、専門用語にあふれていた。たとえば助
地人との交流の中での主観的視点と意見で生み出され
産師(出産介助者)一つをとっても、その呼び名は多
たものであった。事前に背景や歴史を学ぶ作業もほと
種あり、その介入内容も様々だった。一方当然政府公
んどせず、さらに自分の中に蓄積されたものを誰かと
認の助産師もいる中で、その中心にあるべき女性(妊
共有することも、自分の意識を確認する作業もなかっ
産褥婦)と赤ちゃんたちはどう守られているのかは非
た為、まとまりなく刹那的なものでもあった。そうし
常に興味深かった。助産師としてあくまで個人的な視
た意味でも、全員で何かを学ぶこと、共通理解を得る
点でいえば、その人の資格がどうでも、どこの機関出
ことの大切さ、また、団体行動が苦手な自分にとって
身であっても構わない。産婦を始めとするすべての人
特に、個人のやる気だけではない部分で働くグループ
にとって安全で安楽な出産を提供できれば、私はそれ
ダイナミクスなどを改めて実感できる研修だった。
が伝統的産婆でも良いと思う。都市郊外のスラムでは
「今回のバングラデシュでの研修の学びが何であった
シャスト・シェビカ(BRACの母子保健ボランティア)
か、それが自分にどう根付き、これからの活動に活き
も分娩に立ち会っていた。それも驚きであった。シャ
ていくか」を、自身の専門である助産という視点を基
スト・シェビカが立ち会うのが良い悪いではない。数
軸として以下に述べる。
ある出産介助者の中で特にシャスト・シェビカの中に
は識字が低いことや、医学的根拠が十分にないケース
46
そもそも自分がBRAC大学について知ったのは、この
も多いことを知った状況で、はたしてどこまで安全で
大学院に入ってからだった。その4文字の意味するとこ
安楽な分娩が提供できるのかは謎である。もちろんバ
ングラデシュにおいて母子保健は発展のための主軸で
パイロットを行った中での評判は高く、研修生が学び
あり、医学のレベル、国民の意識からみても、安全な
を多く得て実践しているのが分かる内容であり、日本
分娩は目指していても、安楽までは気持ちが届いてい
との協調の賜ではないか。とはいえ周産期を担う高次
ないという印象がある。
医療提供施設として多くの分娩や搬送を取り扱う中
それはバングラデシュだけの話ではない。見てきた
で、やはり患者数に対しての人手不足が目立ち、特に
限りの途上国はまだその段階であるから、先進国医療
12人の未熟児を一人の看護師がみている部分には不安
の物差しで安楽性を要求するのは時期尚早かもしれな
を感じた。担当している看護師本人も「忙しくてとて
いが、少なくともやはり日本産であるJICAプロジェク
も全員を看られない」と困惑していた。その点では、
トではこの「個を守る」という認識が感じられた。も
国際下痢性疾病研究センター(マトラブ)での徹底し
ちろんJICAはNGOではなく政府系であるためBRACの
たカンガルーケアで24時間家族が抱いているほうがむ
動きと単純に比較はできないが、発展を望みどのよう
しろ安全であるとさえ思う。日本でいうところのカン
に関与しているかという点でお互い参考にできる部分
ガルーケアは、お試し抱っこ的要素が強く、分娩直後
があると感じた。
だけで終わってしまう印象がある。日本であれば間違
いなく保育器なり、完全医療の管理下に置かれるよう
JICAバングラデシュ事務所とノルシンディ県の母性
な状態の新生児が抱っこされ、しかも直接母乳を吸っ
保護サービス強化プロジェクトサイトでの学びの中で
ていた。途上国では珍しいことではないことはわかっ
得た感想は、「やっぱりメイド・イン・ジャパンは強
ていたつもりであったが、やはりマトラブで見た光景
い」ということだ。自身がJOCVとして途上国に関わる
は衝撃だった。それで本当にどれだけ生存率が伸びて
中でも同様に感じたが、他国の援助に比べて非常に日
いるのかだけでも、十分に調べる価値があると思う。
本式は心地がいい。それはもちろん自分が日本人であ
カンガルーケアの利点はもはや世界中で知られている
るというバイアス部分も大きいのであるが、全体を見
ことで、周産期では常識ともいえる。「保育器がない
つめつつ、個を大切にする、細やかに配慮のできる日
から仕方ない」というような、スタッフ自身も苦肉の
本人の良い面が援助に現れている。現地の習慣や文化
策であるとはいえ、この取り組みは、母子保健の世界
を尊重し、現地の形に合うように自分たちの国で成功
に大きな風を吹かせるのではないだろうか。ぜひ自分
した事例や方法を沿わせて取り入れていくやり方は、
がフィールドに出たときにこのマトラブの取り組みを
いかにも日本人らしいといえる。ターゲットがはっき
参考にしたいと思う。もちろん途上国では女性一人が
りしており、3つの遅れにフォーカスを当てて、そのす
そこに24時間とられることが現実的ではない困難さが
べてを網羅できるように援助が構築されていた。草の
付きまとうので、何らかのサポートがあってのことで
根レベルから中央レベルの医療施設での協力で、課題
あるが…。
である搬送がスムーズに行われるよう整備していた。
実際にどの程度搬送システムが稼働しているかはわか
不安や驚きにあふれたバングラデシュの母子保健推
らない部分も多いが、評価すべき点である。もちろん
進を見ていく中で、さらに疑問に思った点がある。前
これはバングラデシュ全体での取り組みであろう。自
述した「安全安楽な分娩」という部分にもつながるの
動車ではなく、リキシャで製作するところがなんとも
だが、自宅分娩から施設分娩への強力なシフト体制が
いじらしいが、バングラデシュの交通事情のむずかし
ひかれていることだ。マトラブの国際下痢性疾病研究
さを垣間見た後では、いかにあのリキシャ救急車が耐
センターや都市郊外のスラムにおいて、施設分娩に協
久性と安全性をもって、救命すべく確実に使用される
力したワーカーにはインセンティブが出るほどに一貫
ことを願うばかりである。
した方式が採られていることは驚きでもあった。も
また、母子保健研修所で行われていた母親学級、父
ちろんそれはバングラデシュの母子保健の現状に裏付
親学級の実践は、途上国というレベルもさることなが
けられての方向性であるため、より多くの母子を、助
ら、おそらくイスラム教の国という意味でも大きな
かるはずだった人たちをより確実に救命するために、
チャレンジだったのではないだろうか。施設でもらっ
正しい方策であると思う。自宅での分娩が危険である
た報告書によると、日本で母親学級の研修を受けてき
から施設で分娩を進めることは非常に理にかなってい
た研修生による本格的な指導はこれからのようだが、
る。そのために受け入れ先である施設の強化も行って
47
いる。十分納得できるのだが、一ヶ所だけすっきりし
択肢の中で施設を選んだのはなぜなのか。バングラデ
ない点が疑問として心に残った。「施設分娩は安全だ
シュの女性たちと一概には比較できないが、場所が施
けど、実際に施設で出産をする女性たちの満足度は果
設であっても、安心できる環境を作ることのできる助
たしてどうなのか?」。これまでのバングラデシュの
産師として成長するための大きな一歩であると思う。
女性たちは、選択肢がないから、もしくは病院が信頼
できないから、費用が払えないから、「自宅で産むし
バングラデシュの発展を支える援助を解析していく
かなかった」のではないのか?この背景には伝統的産
中で非常に面白いと思うのが、国内方式と海外方式を
婆もいる。彼女たちの活動はどうあれ、古くからその
わかりやすく比べられるという点である。通常援助を
土地に根づいた、母子保健に介入を図る上で外せない
比べるときは、現地政府と海外援助組織、という形に
重要な登場人物である。それでもすべての女性が「や
なるが、BRACや国際下痢性疾病研究センターという特
むを得ず」自宅で産んでいたのではないと思う。自宅
殊な国内産組織があることで切り口が異なり、しかも
分娩には自宅分娩の利点がある。これもまた周知の
その国を広く見渡せる。一方、複雑な医療システムの
事実である。しかし当然、安全に分娩を行える条件が
中で最終的に搬送先になるのはやはりダッカ医科大学
整ってのことである。これもまたうなずける。しか
であったり母子保健研修所であったり、という部分も
し、そうしたことを差し引いても、バングラデシュの
また、BRACの力はそこまでか、と感じずにはいられな
コミュニティの強いつながりの中、家族はじめとして
い。3週間で聞いた政府とNGOの関係に対する評価に一
自分の小さいころから知っている人たちの中でお産を
貫したものはなく、まさに賛否両論があらゆる立場、
すること、もしかしたら自分が生まれた家で自分も母
側面からの切り口で交錯しているという印象である。
親になること、という女性の温かい気持ちをサポート
それがどういうことかを、短い見学の中だけの感触で
できて、もちろん自宅で分娩を取り扱う熟練助産師が
分析はできない。しかし、俯瞰での見学という、自分
文字通り熟練し、万が一に備えてかねてからの搬送シ
には何もバイアスのない立ち位置から述べるとする。
ステムが正常に機能するのであれば、バングラデシュ
それは以下の通りである。
の前向きな自宅分娩は可能だと思う。今はまだその段
階ではないであろうことは前述したとおりである。
48
政府とNGOの協調は簡単ではない。BRACは協調す
しかし、女性たちに聞いてみたい。入院してもすぐ
るには大きくなりすぎた感は否めない。政府の中には
に次の日に帰されてしまう、無料ではあるが病院への
面白くないという声もあるだろう。BRACが政府を、
アクセスは物理的に良いとは言えないような環境で、
政治を担うことだって、今の影響力なら夢ではないだ
「よく病院で産みましたね」ともしほめられたとして
ろう。しかし、比較的自由に動くことのできるNGO
も、それが本当に自宅分娩に比べて嬉しいことなのか
が、政府にとって代わることが必ずしも解決方法では
どうか。もしかしたら女性たちはそこまで深く考えて
ない。例えとして、政府を「メジャー」、BRACはじ
いないかもしれない。施設は安全で安心、と思ってい
めとするNGOを「マイナー」であるとする。バング
るかもしれない。それはそれで良い。主役である彼
ラデシュを取り巻くこの両者のアプローチは、片方だ
女たちがそう感じているのなら、何の問題もない。お
けで完璧にすることが非常に難しく、おそらく不可能
母さんになる人がもっとも安心できる場所で産むのが
である。保健省のコンサルタントによる、「政府ので
理想であるのだから。本当の気持ちは、どこで産みた
きない部分に対しては、政府もNGOに協力依頼をして
いと思っているのか。いつかきちんと聞いてみたい。
いる」、という話にもあったように、国には両方の支
そして、そこにサポートできる人間としてバングラデ
えが必要である。とくにこれだけ援助の入った、しか
シュに戻りたいと思う大きな宿題を手に入れた。
も援助への依存もみられる国からNGOが一掃される日
3週間の中でもこの点に気づかせてくれたマトラブは
が来ることは考え難い。バングラデシュ発展をめぐる
非常に実りある視察だった。この小さな芽は、日本で
現状はいびつである。目立って飛び出ているところ、
もぜひ聞いてみようと思うほどだ。自分が働いている
反対に足りなくてへこんでいるところ、さまざまであ
施設を選んで来てくれる妊婦さんたちは果たしてどう
る。メジャーにはメジャーの、マイナーにはマイナー
思っているのか、もちろん良かれという評判を聞いて
の利点がある、同様に欠点もある。どちらかの牙城を
えらんでくれるのであるが、自宅でも産めるという選
崩すのではなく、むしろお互いが支えあうことで、バ
ングラデシュを包む環境は丸くなる。そのステップは
容易なものではないし、おそらく両者がすでに十分に
理解している部分でもあり、切実に進展が望まれる点
である。近い将来自分が政府側NGO側どちらの立場で
バングラデシュに関わるかはわからないが、今回両方
の視点で学んだ経験は非常に貴重である。かけ橋にな
るべく動けるようになる大きな手掛かりとなった。
49
バングラデシュに触れた 3 週間からの学び
永 田
晶 子
今回の研修は、バングラデシュ国にある世界最大規
に住む貧しい人々の生活の質の向上を目指している。
模のNGOと言われるBRACのフィールド活動見学を中
そのためにBRACは全国に州オフィス、支部オフィス
心とし、UNICEF、JICA、日本人の関わっている組織
を持ち、そのオフィス数 4,584、研修所は21にのぼる。
などを訪問し活動を見学した。
常勤職員51,914名と教師63,932名等の合計117,067名のス
バングラデシュの現状を保健・健康を中心に3週間を
通じて学んだことを報告する。
タッフ、80,000名のコミュニティヘルスワーカーとボ
ランティアを擁している。その展開しているプログラ
ムはマイクロファイナンスを含む経済開発、人的開発
1.
①
研修中からの学び
女性を中心とした開発計画
研修中に訪問した施設やプロジェクトはその大半が
として保健・健康、教育、思春期、社会的法的エンパ
ワーメント、環境整備の4つに分かれている(BRAC
2008)。
女性や子どもを対象とするものであった。母子保健に
しかしBRAC単体ですべてのバングラデシュ国民に
関することはもちろん、教育、マイクロクレジット、
サービスを届けることは不可能で、プロジェクトを進
人権に関するプロジェクトでもその対象は女性である
めるにあたって必要な地域を調査して選定するとのこ
ことが多い。自分が住んでいた東アフリカでここまで
とであった。今回の研修中には、このギャップを埋め
集中的にターゲットを絞ってプロジェクトを進めてい
るためのNGO間での協調による住民へのサービス提供
ることはあまりなかった様に思われ、その背景を確認
については答えを見つけることができなかった。
した。
バングラデシュでは宗教の違いにかかわらず家父長
③
保健への取り組みに関して、保健行政の課題
的家族形態をとっており、長い間男性の地位が女性よ
バングラデシュの保健プログラムはバングラデシュ
り高く、女性は男性に対し口出しせず忠誠を示すこと
政府・保健家族福祉省が現在、保健・栄養。人口セク
が求められていた。そのため平均余命は普通生物学的
タープログラム(HNPSP)をドナーやNGOとの連携
には女性が比較的長いのに対し、特に農村部では女性
のもと進めている。今回の訪問前に下調べをしたとこ
が短く、識字率の男女差が大きく、結婚が若いうちに
ろ、様々な組織が保健プログラムに関わりどのように
決められるなど、女性の社会進出の機会が少なかった
実際運営されているのか理解するのが難しかった。以
(坪井
下にその理由と今後の課題を得た情報の中でまとめて
2006)。
このように国内での格差が大きかった分、現在その
対策が取られているということなのだろう。
みた。
崎坂の調査によると、独立後からバングラデシュに
対して多くのドナー、国際機関、NGOなどが援助を行
②
BRACが総合的な開発計画を実施していること
BRACはNGOとしては世界最大と言われ、NGO事業
関の協調が重要視されており、2001年当時保健医療分
以外に製造業・金融業・農業・IT産業・大学/大学院な
野でのドナーは少なくとも国際機関13、二国間援助機
ど教育施設を持ち、年間予算額が2008年度で535百万ド
関は18、NGOは400以上といわれていたという(崎坂
ル(うちドナーからの資金は27%)でその予算は年々
2001)。
増加傾向にある。2008−9年度のバングラデシュ国家予
このような背景から1997年に保健人口セクター戦略
算9,996億タカと比べるとそれは国家予算の約20分の1に
(HPSS)がまとめられた。しかしこれは主にドナー主
達する。
導で行われオーナーシップが十分に発揮されない状況
BRACは総合的に農村部や都市部のスラム地域など
50
い、早くからドナーコンソーシアムが形成され援助機
で、政府に対しては調整能力の不足、各種手続きの遅
延の慣習化(汚職・手数料の慣習が手続きの効率化を
あるが、子ども達との触れ合いの中で子どもの持つ大
阻む)、透明性、行政組織機能の重複などを指摘され
きな可能性を広げる活動の重要性を改めて感じた。そ
てきた。
してそのような状況を少しずつ打破しようと、社会的
今回JICAバングラデシュ事務所より受けたブリー
弱者のエンパワーメントと、社会の富裕層への啓発活
フィングによると、現在、保健サービス提供改善に向
動という2つを軸に活動しているエクマットラのバング
けた保健行政改革は進捗が見られつつあるが、保健省
ラデシュの人たちや渡辺氏の熱意とその取り組みに対
の財政管理能力不足・調達管理プロセスの煩雑さ、人
してただただ尊敬するのみであった。
NGOが社会の富裕層の理解と協力を元にアカデミー
材配置不足と頻繁な人事異動、権限移譲の遅れ、省内
調整不足等の現状が認識、HNPSPの中間評価では、
を作っていたが、政府がいい意味で協調できるような
仕組み(例えば教師雇用経費を支援など)があればよ
・貧困層へのより一層の配慮と妊産婦保健の改善強化
いのにと感じられたがそれは現実を知らない者の理想
・保健システム強化
なのであろうか?
・保健家族福祉省の管理経営能力強化、
2.
が課題となっている。
マイクロファイナンスについて
バングラデシュの開発においてマイクロクレジッ
また、脆弱な公的サービスのため地域住民への保健
ト、マイクロファイナンスによる貧困削減対策とその
医療サービス提供における非政府セクターの役割が重
成功事例は世界的に有名である。今回の短期研修では
要とされるが、質のばらつきが見られるとのことで
BRACのマイクロファイナンス・プログラムにおける
あった。これは保健家族福祉省のレポートにもNGOや
農村での定期ミーティングを観察するのみであったの
私立施設について全容を把握していないことを報告し
で、帰国後いくつかの文献を参照し理解を深めようと
ているように管理体制によるところも大きいだろう。
試み、以下をまとめた。
このような混乱を形成している一つの原因に保健家
マイクロクレジットは主に貧困緩和を目的とした少
族福祉省が母子保健対策に重点を置いているにもかか
額融資である。通常は少人数グループ制であることが
わらず、担当部署が2局に分かれていることであるこ
多く、無担保である代わりに連帯責任を負う。マイク
とが指摘されている。しかしこれはいろいろな経緯が
ロファイナンスという用語もあるが、マイクロクレ
あってこのような形態でバランスをとっているのであ
ジットにマイクロセイビング(貯蓄)とマイクロイン
ろうし、実際家族計画は成功を修めていることを考え
シュアランス(保険)の仕組みを含めたものであるこ
るとそれが絶対に悪いというものでもないため、外国
とが多い。
人主導での改革は難しそうである。
バングラデシュ国内では、マイクロクレジットは全
どのように政府とNGOが協調しているのか事前に不
NGOのうち約40%の681のNGOと金融機関(民間商業
明な点が多かったが、少なくとも政府とNGOがどのよ
銀行および国営商業銀行であるグラミン銀行など)な
うに協調しているかに関し中央レベルでは政府がNGO
どが行っている。NGOのマイクロクレジット融資の約
への事業委託を進め、諮問委員会にBRACの代表が参
80%は6つのNGO機関(BRAC、Proshikaなど)が担っ
加し政策策定に参加するなどの取り組みが行われてい
ている。
るとのことであった。しかし依然たくさんの組織が関
マイクロクレジットは約1,200万世帯の貧困層をター
わっており複雑であることには変わりはない。また現
ゲットとしており、BRAC353万世帯、グラミン銀行が
場レベルでの縦割り組織運営が政府でもBRACでも何と
248万世帯等累計で3,391万世帯に対して少額貸付を行っ
なく感じられたのでそのあたりの取り組みについても
ている。またカバーしている農村数はBRAC約74.6%、
う少し理解できれば良かった。
グラミン銀行は全国の約48.4%である。ただしBRAC
の支店数は他2機関に比べ少ない。融資対象の85%は女
④
その他
性である。調査では1987年と比べ1999年はマイクロク
エクマットラ訪問により、ストリートチルドレンな
レジット機関からの借り入れが3%から33.2%となり友
ど最弱層・不特定住居をもつ層にまで政府が対応でき
人・親戚等からの非制度金融からの借り入れが37%か
る状況にないことが明らかになった。難しい課題では
ら1%に減ったとされている(アルマヌル
2007)。
51
ます。
貧困層を対象にしているにもかかわらずその返済率
は92〜99%と高率を維持している。BRACでは利率を年
5.植え付けの季節にはできるだけ多くの苗を植え
ます。
15%としている。貸金業で借りた場合、年利120%にな
ることもあることを考えると利率はかなり低く抑えら
6.家族の規模は小さくするよう計画し、支出を抑
え、健康には注意します。
れている。
グラミン銀行によるマイクロクレジットについての
7.子ども達に教育を与え、彼らが自身で教育費を
出せるよう十分に稼ぐよう見守ります。
文献が多くあったため、その特徴をまとめた。
8.常に子ども達と我々の環境を清潔に保ちます。
・メンバーは貧困層のみ
9.簡易トイレを作り、使います。
・5人グループの連帯制
10.水を飲む前に沸騰するか、浄化するためミョウ
バンを使います。砒素を除くため、フィルター
・1週間の研修を含め1ヶ月間の観察期間を経て、最初
を使います。
は2人からの融資
11.息子の結婚で持参金を受け取らず、娘の結婚で持
・1年間での返済
参金を出しません。グラミンのセンターを持参金
・毎週開かれる集会への参加と返金
制度から開放します。幼児婚はさせません。
グラミン銀行のマイクロクレジットは単に金融活動
12.誰に対しても不正義を行わず、誰の不正義も許
しません。
の支援だけではなく、非金融活動・社会活動プログラ
ムにより貧困緩和を目指している(坪井
2006)。グ
13.所得を高めるために、共同して大きな投資を行
います。
ラミン銀行では独立した形で教育、保健医療、家族
計画、職業訓練などのプログラムは掲げていないが
14.いつもお互いに助け合います。誰かが困ってい
たら皆で助けます。
(BRACは包括的に取り組んでいる)、集会に参加し、
全員で16か条の決意(後述)の唱和、返済金収集、通
15.どこのセンターでももし、規律の違反が分かっ
帳記入等のあと行員が決めたひとつのテーマについて
たら皆でいって規律回復のため助けます。
参加者で話し合う。この活動を通して参加者はお金の
16.すべての社会活動に、全体で参加します。
(坪井
使い方や集会に定刻に出席すること、生活を改善させ
2006)
ようというモチベーションを高めることなどがメリッ
トとしてあげられている。
BRACでも集会の初めに同じように文章を唱和してい
坪井の調査によれば、集会に参加することが生活に
た。この中には健康に関することが少なくとも5項目含
どのように反映されたかという点について、所得、人
まれている。このように仲間内で目標や基準を共有す
的資本、人的ネットワーク、威信に分類したとき所得
ることで連帯感を持つのかもしれない。
が一番低く、それを1とした場合、人的資本人的ネット
では借り入れたお金を人々は何に使っているのだろ
ワークは15%以上、威信も5%以上高かったことから、
うか?グラミン銀行の2002年の資料では畜産・水産、
所得が増えなくてもそれ以外のことが向上していると
売買、加工製造、農業・林業、商店となっている。主
感じているという結果であった(坪井
な経済活動は乳牛、牛飼育、雑貨店、脱穀、米売買と
2006)。
集会に最初に唱和される16の誓いから現在のバング
なっている。私たちがBRACのミーティングで聞いたと
ラデシュのマイクロクレジットを借りる人たちがどの
ころでは家具製作、リキシャ購入、野菜小売、住居改
ようなことを具体的な目標としているのかが分かる。
修などに当てているということであった。ここから一
グラミン銀行マイクロクレジット集会で唱和される16の誓い
次産業よりより加工やサービスなどに資金が使われて
1.どこにいようとも、いつでも、グラミン銀行の 4
いるようであり貧困が緩和されつつある可能性も秘め
つの原則〈規律、団結、勇気、勤勉〉を守ります。
2.家族に繁栄をもたらします。
3.あばら屋には住みません。できる限り早く、修
理し新しい家屋を建てるために働きます。
4.年中野菜を育て、たくさん食べ、あまりは売り
52
ているが、対象数が違いすぎるので判断はできなかっ
た。
またモハメド(2007)の研究では、同じ農村部と
いっても副業として商業やリキシャを漕ぐことで現金
収入が得られる地域と農業のみを専業で行っている地
域では、マイクロクレジットに対する評価は異なる。
ることなど。また、疫学統計などで学んだように、き
すなわち、農業のみで生計が成り立っていると農産物
ちんとデータを読み込んで整理することなどもそうで
の収穫までに数か月を要し、その間の返済のために別
ある。来年度に向けての課題となった。
のマイクロクレジットや友人などから借り受けをして
⑤柳先生に途上国で仕事をする際の健康状態の維持の
しのぐしかないという状況が起こっていた。また貸し
重要性を教わった。今回短期間の旅行で疲れて体調が
出す機関によっても人々がその暮らしが良くなったと
すぐれないことがあったので、来年度に向けて体力作
感じるものと悪くなったと感じることがあることがア
りを心がけようと思う。
ンケートによって明らかとなっていた。
現在は従来のグラミン銀行のマイクロクレジット制
度より柔軟に対応するグラミン銀行Ⅱを2002年より開
〈参考文献〉
アルマヌル・モハメド・ラマン
2007
「バングラデ
始している。その特徴は、
シュの農村金融の実態とマイクロクレジットの役
・返済は連帯責任ではなく個人の責任によるもの(5人
割」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』
グループに6人目を加えることができる)
・借りる人の要望に合わせてローンの額、返済期間、
返済方法を決めることができる
・貯蓄を重視
・もっとも貧しい人々の加入を推奨している
などが挙げられている。また、2003年より物乞い自
立支援プログラムが開始され、さらに最貧困層にまで
マイクロクレジットの利用が進んでいる。
24:49-63
崎坂香屋子
2001「保健医療分野におけるセクター・
プログラム・アプローチの動向」『JICA客員研究員
報告書』
坪井ひろみ 2006『グラミン銀行を知っていますか』
東洋経済新報社
松井範惇 2004『マイクロクレジットとバングラデシュ
の貧困削減』63(1)
:21−41
東亞経濟研究
BRAC 2008 ANNUAL REPORT, Dhaka : BRAC
3.
まとめ
最後に研修を通して感じたこと、今後の自分自身の
課題をまとめる。
①バングラデシュと私が住んだことのあるケニアやタ
ンザニアでの暮らしを比較すると、いろいろな相違点
が見られ、例えば同じMDGを目指すにあたっても各国
其々の歴史や文化や政治を元にその国にあった具体的
対策を取らなければ達成することは困難であることを
理解した。
②地元の人たちの現地の言葉が分からないもどかしさ
を久しぶりに味わうと同時に住民の人たちの生の声を
聞くことの重要性を感じた。仕事の場合には自分がそ
の土地の言葉を習得するか、信頼できる通訳をお願い
するなどいろいろな方法があるだろう。
③来年度のインターンシップや卒業後仕事をする上で
上記のような現地の歴史、文化、政治、言語等への理
解が重要であり自分が関わる国について、保健分野だ
けでなく幅広い知識とコミュニケーションを大切にし
たいと思った。
④今回前期で学んだ知識を活かしていろいろな場面で
活用したいと思ったが実践することは難しかった。例
えば文化人類学の授業で学んだように、些細なことで
もメモをとったり、記録に収めたり、それらを整理す
53
バングラデシュにおける
短期フィールド研修を通しての学び
日 達
1.
はじめに
真 美
U5MRの79とほぼ同レベルの値を示している。またバン
3週間の短期フィールド研修は、私にとって途上国に
グラデシュは1976年から人口政策、1995年から家族計
おいて健康改善対策のためにどのように関連プロジェ
画戦略が導入されており、2006年の合計特殊出生率2.9
クトが行われているかを初めて視察することのできる
で、後発開発途上国の平均4.7と比較するとかなりFPも
貴重な研修であった。特にバングラデシュは、今まで
成果を上げていることが分かる。
知人を訪ねて旅行として訪れたことがあったが、途上
こうした改善の要因としてさまざまなことが考えら
国の一つでありながら乳児死亡率(IMR)の改善や家
れるが、世界でも高い予防接種率がその一つとして挙
族計画(FP)などの健康改善対策が成功し、開発途上
げることができる。EPI(拡大予防接種計画)が成功し
国のモデル的存在であるバングラデシュでフィールド
ている要因としては、ボランティアやBRACのシャス
研修を行えたことは、旅行では見ることのできない保
ト・シェビカ (SS)、シャスト・コルミ(SK)のよう
健医療や、さまざまな組織の活動を見学することがで
なNGOのコミュニティ・ヘルス・ワーカー(CHW)、
き大変有意義であった。またバングラデシュは世界で
ICDDR,Bのコミュニティ・ヘルス・リサーチ・ワー
も有数のNGOであるBRACの発祥の地であり、数名か
カー(CHRWs)などの働きを挙げることができる。
ら始まったNGOが、どのようにして国の健康指標の改
こうした住民と直接関わり活動しているCHWにより、
善の一翼を担うまでに成長し、そして現在具体的にど
調査の漏れを最小限にし、広くサービスを提供するこ
のような人たちがどのように活動しているのかという
とを可能にしたと考えられる。研修で視察することの
ことも以前から興味があったので、今回多くのBRAC
できたSSやSK、CHRWは全員女性であった。これは
の活動を見学でき様々なことを学ぶことができた。さ
宗教、文化的に家庭訪問する際に問題が生じにくいた
らにバングラデシュは大小様々なNGOが多数活動して
めである。日本では、役所に家族や本人が出向き個人
おり、政府との連携や、NGO同士の連携はどのように
が登録されるが、バングラデシュでは、逆に家族や本
なっているのかということは、事前学習を通して生ま
人に出向くことにより個人が登録されていた。途上国
れた疑問であった。
においては、個人を登録することが困難であり、さら
3週間の研修を通して、健康指標の改善が見られ途上
に必要な情報へのアクセスがないことが一般的に問題
国のモデルとされるバングラデシュで研修を行ったこ
とされている。バングラデシュも同様の問題が生じて
とにより、ほんの一部ではあるが成功の秘訣と、現在
いるが、視察することのできたSSやSK、CHRWの活
直面している問題を見ることができた。よってこれら
動している地域では、出向くことにより個人を漏れな
の学びを今後自分が国際保健分野での活動にどのよう
く把握し、タイムリーに必要な情報を提供することが
に活用していくべきかを以下にまとめる。
でき、対応できない場合は、次の段階へとリファーラ
ルされていたことに驚いた。日本では自分に必要な情
2.
54
研修を通じての学び
報を判断し、自ら求めることでさまざまな情報にアク
バングラデシュの2004年におけるIMRは52(対出生
セスすることができる。しかし、自ら積極的にアクセ
数 1,000)、5才未満児死亡率(U5MR)は74(対出生数
スしなければ情報は入りにくく、時には情報の多さに
1,000)である。これらの健康指標は1990年以降順調に
混乱させられることもある。ゆえに日本とバングラデ
減少し続けており、後発開発途上国の1つであるバング
シュでの方法はそれぞれ一長一短であるが、途上国で
ラデシュは後発開発途上国の平均のIMRが90、U5MRが
問題とされている個人の未登録や、情報不足といった
142、南アジアの平均IMRが62、U5MRの83よりもかな
問題はCHWという住民に近い存在が出向くことで解
りよい値を示しており、開発途上国の平均IMRの54、
消できることが分かった。また、住民に近づくために
は、文化や宗教に対する配慮や、地元の人をなるべく
起用するなどの工夫が大変重要であることも学ぶこと
ができた。
3.
問題点からの学び
3週間の学びを通してバングラデシュの健康対策に関
する問題点、課題についても学ぶことができた。まず
また、バングラデシュの妊産婦死亡率は、1990年は
一つ目は、保健省が保健サービス局と家族計画局の2つ
570(10万対)、2007年は380である。一方ミレニアム
に分かれて別々の施設で管理が行われていることであ
開発目標達成のための2015年の目標値は143であるの
る。この問題点は古くから指摘されており、訪問する
で、子どもの健康改善に比べて、到達度が低いことが
様々な組織のスタッフの方々からも聞かれた。これは
事前学習においても挙げられていた。また施設での出
効果的で効率的な健康対策を行っていく上で非常に大
産は約2割との報告があり、妊産婦の健康に関する対
きな問題であるが、これら2つの保健サービス局と家族
策があまり結果を出していないことが問題として挙げ
計画局は互いに長い歴史を経て現在に至っており、2つ
られていた。しかしICDDR,Bのマトラブにおける対象
の局を一つにまとめるというのは現実的ではない。重
妊婦の施設分娩率は8割と報告されている。マトラブ
要なことは、その国の意向を尊重すること、そして現
ではCHRWが尿検査により妊娠反応の検査を行い、さ
状を変えるのではなく、現状を土台に改善を図るとい
らに妊娠後はCHRWが自宅を会場として提供しコミュ
う姿勢であると感じた。よってどのようにしたら統合
ニティの妊婦たちに情報を提供したり、鉄剤の配布な
できるのかということを考えるより、どのようにした
どを行い、経過をフォローし出産を施設へとつなげて
ら2つの局の考えを尊重し、それぞれの特徴を生かしな
いた。この一連の流れの中で重要な働きをしていたの
がら連携を促していくかということが大変重要だと感
は、医療資格を有する者ではなくCHRWであった。ま
じた。国全体としてこのような連携の促進のための対
たFPについても説明があり、対象者は日本よりもFP
策については考え中であるが、自分が何らかの組織の
に関する知識を持っているように感じた。実際にこの
プロジェクトの一員として関わる場合、両局と合同で
流れができるまでには多額の費用が必要となっている
話し合いの場を設け、2つの局が直接対話を図り、連携
が、医療資格所有者でなくとも十分に妊産婦の健康を
を図れるような機会を作っていくことは、地道である
守っていくことができるということをフィールドで学
が大変有効であると思った。またこうした地道な取り
ぶことができた。そして医療職者の不足に関する問題
組みが、実績を残すことが国レベルへと拡大させてい
は途上国において問題となっているが、資格がなくと
くために重要であると感じた。
も地元に精通した人材を生かして、妊産婦の命を守っ
ていくことが重要であると感じた。
2つ目は、行政、国際組織、NGOなど健康改善対策
に取り組む組織の連携の必要性である。バングラデ
その他、バングラデシュが健康増進活動の成功モ
シュでは、政府はもちろんのこと、ICDDR,BやWHO、
デルとなったのは、さまざまな理由があるが、短期
UNICEFなどの国際機関やBRACをはじめ大小さまざ
フィールド研修での視察する中で学ぶことができたの
まなNGOが多数存在し保健医療分野の活動を行って
は、BRACのマイクロファイナンス・プログラムや人
いる。多くの活動組織が存在し、バングラデシュ南部
権と法的教育クラス、ウルトラ・プア(最貧困層)に
など地理的条件の悪さから介入が困難な地域があるな
対するプログラムを通してである。一般的に、女性の
どの理由から、ある地域では活動組織により提供され
エンパワーメントと子どもの健康には関連があるとさ
るサービスの重複が生じていることがあった。実際に
れている。実際に女性の変容が子どもの健康にどのよ
本研修中に訪れた地域だけでも狭い範囲に、いくつも
うに影響したかということは見ることができなかった
のNGOの看板を目にすることがあった。この場合は住
が、笑顔でプログラムに参加する姿や、実際にウルト
民自身が受けるサービスを選択したり、もしくは複数
ラ・プアを卒業したメンバーに会うことができたこと
のサービスを受けるとのことであった。確かにこれら
は貴重な経験であった。母親はやはり子どもに最も近
さまざまな組織の活動により多くのバングラデシュの
い存在であり、これから自分が国際保健分野で活動し
人びとの健康が改善・促進されたのは事実であろう。
ていくうえで、母親への取り組みは重要なポイントと
しかし、サービスを必要としているにも関わらず受け
なると感じた。
ることの出来ない人びとがいる一方で、一部地域では
サービスが重複するのは不平等であり、非効率的であ
るので介入組織が連携し、一人でも多く、サービスを
55
必要としている人へのサービスの提供が必要であると
の工夫が必要であると感じた。
感じた。また授業でも学んだように、さまざまな組織
さらに、ICDDR,Bはマトラブにおいてヘルス人口
が介入することによりカウンターパートは報告書類の
統計調査システム(HDSS)を行い、人口動態やリプ
提出などの仕事が増え、本来の業務を十分に果たす
ロダクティブ・ヘルスに関する調査と情報提供を行っ
ことができないという問題も生じており、バングラデ
ていた。HDSSは225,000人、1500世帯を対象に行われ
シュでそうした問題を回避するためにも、組織間の連
ていた。ひとりひとりが生涯変わることのない登録
携、コミュニケーションが大変重要であると感じた。
ID(RID)と引っ越しや結婚などで変わりうる現在ID
JICAでは専門家の方が、組織間のコミュニケーション
(CID)を持っており、CHRWが2ヶ月ごとに各家庭を
を図るために働きかけを行い始めたというお話を聞い
訪問しデータの収集を行っていた。その後全ての情報
たが、最終的には政府がそうしたまとめ役を行うこと
が情報処理室へ集められ保存されていた。ここで収集
ができるよう工夫も必要であると感じた。
された情報は政府が保健政策を決定する際の参考資料
3つ目は事業の持続性についての問題点である。政
となるなど、さまざまな場面で活用されていた。バン
府の管理する医療施設などを訪問し、サービス提供に
グラデシュの農村地域の1つであるマトラブにおいて、
関する料金を質問するとほとんどが無料という回答で
このようにCHRWsが一軒一軒を訪問し、さらに出生か
あった。ノルシンディ県の母子福祉センターは県レベ
らリプロダクティブヘルス、そして死亡まで細かい情
ルの病院で帝王切開も行っており、さらに医療費は全
報が30年以上も収集されてきたことに大変驚いた。ほ
て無料ということであった。医療費を払うことがで
ぼ全国民の登録がされている日本よりも、さらに細か
きないために医療を受けることができないと考えてい
く、そして2か月ごとに更新されるタイムリーなデータ
た私にとって、これは大変驚きであった。しかし、無
であった。しかしこのHDSSについても継続性という面
料であることの魅力と同時に、危うさも感じた。日本
について疑問が残った。HDSSの資金はすべて海外から
でも地域や年齢によっては医療費が無料であるが、こ
の援助に頼っている。資金援助が無くなった場合HDSS
れにより対象者が誰でも必要時に医療を受けることが
はどうなってしまうのだろうか。マトラブでのHDSSを
できるという利点と、過剰な医療の利用による医療費
行うためには莫大な資金が必要とされる。しかし、継
の増加の一因となるという欠点が指摘されている。バ
続性という面から考えた場合、資金面においてもある
ングラデシュでは、医療提供者側の態度や対応の悪さ
程度のバングラデシュ政府の参加が必要であると感じ
から公立病院は敬遠されがちであるという報告もある
た。
が、バングラデシュでも疾病構造が感染症などの疾患
バングラデシュでは想像以上にさまざまな健康増進
から糖尿病などの慢性疾患へと変化してきており、そ
のための政策が行われていた。時には先進国よりも先
れに伴い無料である公立病院での医療サービスの利用
進的であると感じることもあった。しかし、重要な土
が増加した場合など、常に医療費無料を継続していく
台部分を援助機関に大きく依存していると感じた。確
ことができるのだろうかという疑問も生じた。また、
かにバングラデシュは後発開発途上国の1つであり、
バングラデシュは5年ごとに総選挙が行われ、毎回政権
援助が必要かもしれないが、現在行われている援助が
が交代している。政権によって政策も大きく変更され
バングラデシュの人たちの力で継続されていくために
ることもあり、公立病院での医療費の無料も有料へと
は、人材はもちろん資金という資源をバングラデシュ
変更される可能性もある。このように原因はさまざま
からも用いる必要があると感じた。援助者はあくまで
であるが、医療費の無料を維持していくことは理想で
もよそ者であり、縁の下の力持ちのような存在で、主
あるが、実際は大変難しいと考えられる。公立病院で
役は地元で生活する人びとであり、その人びとが作り
の医療費が有料化した場合、自分たちで医療費を捻出
あげていくことが重要であるということを視察を通し
することのできない、本当に援助を必要としている貧
て実感することができた。
困層へ医療サービスを受けることができなくなる可能
性が非常に高い。また、医療費を有料化することは、
56
4.
全体を通しての学び
自分自身の健康を自分で管理するという意識を高める
本研修を通して、さまざまな質問をした。その回答
ためにも有効であると考える。よって、対象者の経済
の中で、頻繁に「イスラム教だから」という言葉が聞
状況などによって医療費負担の度合いを調節するなど
かれた。イスラム教はバングラデシュ人たちの生活に
深く根付いている。彼らにとってイスラム教は心の拠
が、自己の健康管理に十分配慮することが必要である
り所であり、生活の規範となっている。彼らと宗教は
と感じた。
切っても切り離すことができない。外国では日本では
3週間という短い期間ではあったが、毎日充実した
常識と考えられていることが全く通用しないことが
日々を過ごし、前期の授業で学んだ知識と目の前に広
多々ある。しかし、その土地の常識、文化、宗教がそ
がる現場を比較しながらさまざまなことを学ぶことが
の土地の人びとを作り上げており、それを理解し尊重
できた。よって、まずは2009年12月から参加するニ
せずには、本当に効果のある活動を行うことができな
ジェールでの海外青年協力隊の感染症対策活動におい
いということを、本研修を通して改めて実感した。
て、学んだことを活かしていきたいと考える。また、
また、自分がフィールドで活動していくために、ま
今回の研修では問題点に対して具体的な改善策を考え
ず自分の健康管理が基本であり、大変重要なことであ
ることができなかったため、フィールドでの活動を通
ると感じた。自分が体調を崩すことによって活動の遅
して具体案を考えてみたいと思う。そして、さらに課
れの原因となるなど、多くの人びとに迷惑をかけるこ
題研究や国際保健分野での仕事へと活用していきたい
ととなる。気候や食事の違いから体調を崩しやすい
と考える。
57
バングラデシュで学んだ NGO の力
平 野
1.
研修での学び
員会を始め、継続的に活動をしていくのか、そのモチ
今回初めてバングラデシュへ行く機会に恵まれた
ベーションの秘訣は何なのかに非常に興味を持ってい
が、今までの自分の経験と重なるところが多く、フィ
た。もちろん、ガーナのプログラムが村人のニーズに
リピン、ガーナの経験と比較して学べたことが多かっ
合っていなかったと言ってしまえば簡単だ。しかし、
た。多くのプログラムを見学したBRACは私が長崎大学
村人達は興味を持ち、最初は積極的に取り組んでい
へ来る前に勤務していた財団法人YMCAと組織の始ま
た。もしかしたらアプローチ方法で結果は変わってい
り、収益事業を持ちつつその利益を福祉事業などで社
たかもしれないと思ったのだ。
会還元していくところ、国内各地に支部を持っている
ことなどが似ていて、とても親近感を持った。
58
志 穂
マイクロファイナンスは中程度の貧困層の5人組みの
グループを作り、グループで資金を借りる。借りた資
今までの経験から、特に興味を持ったプログラムは
金は5人で責任を持って返すというピア・プレッシャー
1)BRACのマイクロファイナンスやJICA母性保護サー
(仲間からのプレッシャー)を働かせること、トレー
ビス強化プロジェクトで試みられているコミュニティ
ニング提供、貯蓄に対する高い利息、毎週の少額返
サポートシステム(CmSS)などのコミュニティレベル
済がBRACの取っている方法であるが、特にピア・プ
での住民を巻き込んだ活動とそのアプローチ方法。2)
レッシャーが99.3%という高い返済率に大きく影響を
BRAC思春期センターでの青年の教育活動である。
与えているようである。BRACはタンザニアやウガン
私はガーナの地域保健総合改善プログラムにおい
ダでもマイクロファイナンスを行っているが、アフリ
て、女性のマイクロファイナンスグループの組織化、
カでのアプローチは文化が違うため、アジアとは違っ
トレーニング、モニタリングとフォローアップに深
た方法を取るのではないかと考え、BRAC大学のアン
く関わった。やる気のある村の女性をグループ化し、
ワール先生に質問したが、やはりピア・プレッシャー
ビジネス成功例をフィールドで見たあと家畜飼育や
が効くという回答をいただいた。コミュニティボラン
養蜂、農業のトレーニングを2週間行った。成功例を
ティアのモチベーションとしては「私が人々を助けて
フィールドで見た女性たちは当初やる気にあふれてい
いる」「人々を助ける存在として認識されている」と
たが、利益が出るまでに数カ月時間がかかったり、グ
いった自覚が高いモチベーションとなっているようで
ループ内の人間関係がうまくいかずに活動が軌道に乗
ある。委員会の組織化および活性化に関しては、CmSS
らなかったりした。この経験からグループの組織化の
を始める前に、6ヶ月間かけてNGOであるCAREバン
方法や参加者の高いモチベーションを保つアプローチ
グラデシュのスタッフが住民の意識を高めていくとい
方法を知りたくてコミュニティレベルでの活発な活動
う話を専門家の方よりお聞きした。6ヶ月間のタイムス
を行っているグループ参加者やプログラム担当者へ質
ケジュールやカリキュラムに非常に興味を持ったが、
問をした。
残念ながら今回は見ることができなかった。ガーナで
同様に、ガーナの各村には男女1名ずつの地域サービ
はフィールド視察が参加者の強い動機づけとなったよ
ス員(Community Based Service Agent)と呼ばれる
うに見えたがノルシンディでのプロジェクトのように
村人保健ボランティアがバングラデシュのシャスト・
じっくりと時間をかけたアプローチが継続的な活動へ
シェビカ(SS)と同じように避妊具販売や基礎的な
とつながっていくのかも知れない。
保健サービスの提供を行っていたが、やはりモチベー
次に2つめのBRACの思春期センターでの青年の教
ションが低かった。加えて、村で委員会を作ってもな
育活動について述べる。ガーナの小・中学校において
かなか活発に活動が行われないという問題にも直面
思春期リプロダクティブ・ヘルス(Adolescent Sexual
していた。バングラデシュではなぜ住民が自発的に委
Reproductive Health:ASRH) クラブを通じて学校新
聞作りや、ゲーム、HIV/AIDSエッセーコンテストを経
験していたので、青年たちの放課後の活動にとても興
味を持っていた。思春期センターは思春期の青年(特
2.
感想
初めて訪問したバングラデシュの感想は多くある
が、ここでは2つのことに絞って述べる。
に少女)が課外活動を通して知性や社会性を促進する
1つめは短期フィールド研修に参加するにあたり、
ことを目的として行われているBRACの活動である。小
前期の授業で習った新しい知識がそのまま生きた現場
学校の建物を使用して週2回行っているこの活動では、
で使え、より内容を深く理解することができたという
リプロダクティブ・ヘルスやHIV/AIDSについて話し
ことである。非医療系のバックグラウンドを持つ私は
合ったり、ダンスを踊ったり、直接仕事に結び付くよ
病院勤務経験がないため、前期の授業では日本語・英
うな美容師や縫製技術習得のトレーニングを与えてい
語共に初めて学ぶ言葉や考え方が多く、消化できない
るという点で、非常に青年達にとって意義のある場所
ほどの情報量であったが、こんなにすぐに学んだこと
であると感じた。学校と家以外の第三の場所を提供す
が生きてくるとは思わなかった。特に妊産婦と新生児
ることにより、学校とは違った学びができるようであ
の死亡に関わる3つの遅れ(3 delays)、緊急産科ケア
る。このセンターでのプログラムを通じて、少女たち
(EmOC)、カンガルーケア、リファーラルシステム
がその後の生活に必要な技術を身につけるとともに、
などはそれらが実際に母子の生命にどうかかわってく
さまざまな活動を通じてそれぞれの個性や可能性を伸
るのかを目の当たりにして、1つ1つのプログラムの重
ばしていけたら、と感じた。
要性がよく理解できた。一方で、病院、クリニックの
全体を通じて、BRACやJICAのプログラムは素晴ら
見学では日本の病院の状況を知らないため、どこに着
しいものであり、どのプログラムもとても勉強になっ
眼してみればよいのかがわからず、質問等を積極的に
たが、政府、NGOの保健サービスは無料のものが多
行えなかった。
く、貧しい人々はただ各種の無料サービスを受け取る
2つめは社会の成り立ちや生活面でアフリカと比較
だけという印象を受けた。BRACのプログラムもすで
するという今までにない視点でいろいろなものを見ら
にパッケージとして出来上がったものを住民が受け
れたことである。首都ダッカでは毎日非常に多くの物
取っているという受け身の姿である。フィリピンでは
乞いを見たが、彼らを見て、ガーナでは物乞いがいな
「People’s Power」という言葉があるように一般住民の
かったことを思い出した。人が大きな財産であり、海
力が強く、政府に大きな影響を与えるとともに、多く
外出稼ぎが田舎の家族を支えているという状況はバン
のローカルNGOが活発に活動を行っている。自分たち
グラデシュ、ガーナ共に同じようであるが、ガーナの
に何が必要かを考え、そのためにはどうすればよいの
場合人口の大半が農村地域で現金のほどんどいらない
か、住民が主体的に行動していけるようになることが
自給自足の生活をしているため飢えるということがな
国と人々が発展していくために必要なのではないかと
いことや、親族間のつながりが強く、助け合いが当た
感じた。そのためにはBRACやエクマットラが行って
り前に行われていることなどが原因ではないかと思わ
いるような青少年への情操教育、技術トレーニングを
れる。一方バングラデシュではダッカで物乞いをして
通じた育成プログラムが非常に有効であり、より多く
いればイスラム教の習慣もあり、普通に働くのと同じ
の青少年がこのプログラムへ参加できるようになるこ
くらいかあるいはそれ以上の収入があるという驚くべ
とを期待している。加えて、リーダーシップトレーニ
き情報をエクマットラ訪問時に聞いた。Jakatというイ
ングなども効果的であろう。青少年の育成には時間が
スラム教の募金システムは1年間の収入の2.5%をアッ
かかるが、その国の将来を背負っていく人材を育成す
ラーへお返しするというもので、病院などで貧困層
ることは重要である。バングラデシュはLLDCの優等生
への社会福祉に使われるとともに、物乞いをしている
といわれるように、6%台の着実な経済発展、貧困人口
人々の社会保障として機能しているようである。
減少、初等教育における男女格差の解消と高い就学率
ガーナでは私は比較的雨の多い南部地域に住んでい
(83%)の達成、治安の良さ、家族計画が農村地域に
たが、それでも水が不足していて、雨が降るとバケツ
行き届いていることなど人々のエンパワーメントおよ
を持って雨水をために行く生活を送っていた。南部で
び国の発展の可能性は多くあると感じた。
そういう状況であるから、北部地域の水不足は深刻で
あった。北部地域でギニアウォーム対策のために井戸
を掘る場合、一基100万円以上かかっていて、村に1つ
59
ある公衆井戸には常に鍵が取り付けられていた。一方
参考になるかもしれないと思っている。
バングラデシュでは水が豊富すぎて害を及ぼしている
NGO、NPOで勤務してきた経験からBRACやエク
状況を見て、国によってこんなにも状況が違うものか
マットラの草の根レベルでの活動は興味深かった。
と驚いた。特に田舎へ行くとどこまでも水につかって
BRACが住民のニーズに沿ったプログラムを展開し、
いて、どこが田畑でどこからが池や川なのかがわから
規模を拡大させてきた歴史は日本のYMCAが住民向け
ないほどであった。WASHプログラムで訪問した村で
の英会話学校やスイミングスクール、現在では不登校
は、各家に1基ずつ井戸があるような状況で、驚いて質
学生のための通信制高校と社会ニーズに合わせて事業
問をしたが、2000タカで一基を掘れるという回答をい
展開してきたことと重なった。小規模で始まった組織
ただき、料金の差に驚いた。バングラデシュの場合、
の発展が事業規模を拡大していく中で進んできたこと
水が豊富な分、洪水や水たまりができるような雨が
を見られたことは、将来また民間団体で働く際の組織
降ったときにごみも家畜の糞便も水につかってしまう
化のアイディアとして役立つのではないかと思う。ま
ので、公共の場所での衛生管理が感染症の蔓延を防ぐ
た、BRACのコミュニティベースの活動を見学し、こ
のに効果的であると感じた。
の経験が将来保健分野のコミュニティ住民を巻き込ん
だプログラムを企画・実施する際にその考え方やアプ
3.
経験の今後への活用
私の課題研究のテーマはマラリアに関する母親の認
ば、もう少し長い期間プログラムに入り込んで学びた
識と予防行動についてであるが、今回訪れたバングラ
かった。また、アフリカでのアプローチもどのように
デシュでは水が豊富であるにも関わらず、マラリアは
行っているのかじっくり見てみたいという思いも持っ
深刻な問題ではないようだった。BRACに対してマラリ
た。
アの介入を妨げる要因や現地特有の習慣、信仰につい
最後に、保健プログラムはガーナでの経験しかな
て質問を送ったが、回答を得ることはできなかった。
かったので、今回南アジアの事例を見学できたこと
しかし、マラリアとは直接関係はないが、現地への介
で、より具体的な現場のイメージがつかめたととも
入を試みた際に障害にぶつかった例としてBRAC活動開
に、現場で使用する英語の語彙力も増えた。この3週間
始当時のエピソード(NGOは欧米から来るイメージが
の学びが後期の授業をより深く理解することに結び付
あり、クリスチャンへ改宗を迫られるのではないかと
くことは確実である。今回短期フィールド研修をアレ
いう現地住民の不安から活動をスムーズに開始できな
ンジしてくださった宮地先生、BRAC大学のラジブさん
かった)とその対応として村に委員会を作って理解を
に心より感謝したい。
得ていったというステップをスタッフから聞き、今後
60
ローチ方法が役に立つと考えている。できることなら
短期フィールド研修を終えて
増 永
智 子
今回のバングラデシュにおける短期フィールド研修
そして、約10名のSSの上にはシャスト・コルミ
では、バングラデシュのNGOであるBRACの施設やプ
(SK)がいてSSたちのサポートや指導を行っている。
ログラム、JICAのプロジェクト、UNICEFの活動そ
SKはボランティアではなく、これを仕事としている女
してバングラデシュ政府保健家族福祉省(Ministry of
性である。
Health and Family Welfare)の取り組みを通して、バ
私たちが訪れた村では、SSとSKが一つの家におよそ
ングラデシュの保健・公衆衛生システムや現状を見る
20人の地域の女性たちを集め、SKによる保健教育が行
ことができた。
われていた。保健教育の主な中身は予防接種、衛生、
また、保健衛生面のみならず、貧困やストリートチ
手洗い、家族計画などであった。SKが質問をすると参
ルドレンといった社会問題の現状やそれに対する取り
加者たちは積極的に答えを挙げており、保健教育が繰
組みの一端を知ることができた。
り返し行われ知識がコミュニティの中に浸透している
今回のレポートでは、特に印象に残ったBRAC、
ことを感じた。もちろん、今回見た事例はモデルケー
ICDDR,B、エクマットラを中心にその取り組みを振り
スであるかもしれないが、これがバングラデシュ全土
返りながら、私自身の考えた問題点や感想等を述べて
に広がる試みであることを考えると頼もしく思った。
いくこととする。
上記のような地域の人々を主体としたプログラムの
みならず、高次の医療施設におけるサービスの充実に
1.
BRACについて
もBRACは力を入れていた。今回の研修ではBRACヘル
BRACはバングラデシュ最大の、そして世界最大
スセンターのうち、母子保健に特化した帝王切開まで
のNGOである。今回の短期フィールド研修期間中、
できる分娩施設が整っているアップグレードのヘルス
BRACセンター、BRAC大学を訪れ、またフィールド
センターを見学することができた。
ではマイクロファイナンスや女性への人権に関する講
このセンターは診療室、分娩室、手術室(帝王切開
習、地域のBRACヘルスセンターや都市郊外のスラムの
が可能)、15床の入院施設を備えており、地域住民60
クリニックでの母子保健・周産期医療に対する取り組
万人をカバーし、ひと月に100回のお産を扱っている
み、ウルトラ・プア(最貧困層)に対する支援、水・
という。母子保健に関する高次の医療施設が存在する
衛生環境に関する啓発活動プログラムの様子、BRACの
ことは地域の人々にとって大変貴重な存在であるだろ
運営する教育機関などを見学した。
う。確かに、途上国の地方の施設としては設備も整い
BRACの活動は驚くほど多岐に及んでいる。一NGO
立派であるといえると思う。しかしながら一方で、血
でありながらバングラデシュのありとあらゆるところ
液の付いた脱脂綿がゴミ箱にそのまま捨てられていた
で健康・栄養問題、家族計画、衛生問題、貧困などに
り、使いかけのバイアル(注射液の入った小さなガラ
関するプログラムを、住民を巻き込んだあるいは住民
ス容器)がカバーされずに冷蔵庫に放置されていたり
主体の形で展開している。
という状況に、日本の医療現場しか知らない私は正直
健康問題を例にとって見てみよう。BRACはシャス
ト・シェビカ(SS)と呼ばれるコミュニティから選ば
れたボランティアの女性コミュニティヘルスワーカー
戸惑った。日本では考えられないことであるからだ。
アップグレードの施設とはいえ、そうした点までは
まだまだ意識が至っていない現状を初めて実感した。
を配置しており、彼らはコミュニティの中で家々を回
BRACの活動が保健に限ったものでないことは前述し
りながら、一般的な病気の治療や重篤な患者への高次
た通りであるが、初等教育への取り組みには目を見張
医療機関の紹介、結核患者の発見など、BRACの健康プ
るものがあると思う。BRACはバングラデシュ全土に
ログラムを最前線で支える役割を担っている。
およそ25,000の幼稚園とおよそ38,000の小学校を展開し
61
ておりこれは驚くべき数字である。学費や備品にかか
たことはBRACの築きあげてきたものとその影響力を示
る費用はすべて無料であり、貧困層の子どものみなら
していると共に、外部からのBRACに対する期待と信頼
ず、その教育レベルの高さから貧困層以外の家庭から
の表れでもあるだろう。世界がバングラデシュに注目
BRACの学校へ通う子どもも少なくないという。今回は
するきっかけにもなっているように感じた。
幼稚園と小学校をそれぞれ訪れた。じっくり授業を見
ることはできなかったが、子ども達は日ごろの勉強の
ICDDR,B
成果を見せようと一生懸命になってくれていたし、何
ICDDR,Bはコレラリサーチ研究所として1960年に発
よりも生き生きとした表情が印象的であった。小学校
足し1978年にICDDR,Bとなった。現在は調査、教育と
では、それぞれ夢を語ってくれ医師や教師という声が
トレーニング、サービスをその活動の3本柱とする非利
多かった。今後社会的、経済的要因によって彼らの夢
益かつ非政府系の国際研究機関である。
が断たれることがないことを切に願った。
62
2.
私たちは始めにダッカのICDDR,Bを訪れた。立派
上記のような無償に近いサービスを提供するために
な施設の中にあるコレラコット(コレラ患者のための
独自の資金源を発掘していることもBRACの特徴であ
穴の開いたベッド。穴の下には便を溜めることのでき
る。企業の側面も持ち、そこで得た資金でNGOの活
るバケツが用意してある)の並ぶ病室にも、病室に収
動を賄っているのだ。できるだけ寄付に頼るまいとす
容しきれない場合の仮設テントにも多くの患者がひし
る、自己生産力・自己資金回転力の手腕はNGOを中心
めき合っており、コレラ患者の多さに驚いた。患者の
とする多くの組織が手本とすべき部分であろう。バン
重症度に応じて、仮設テント、病室入室、病室での点
グラデシュ滞在中にBRACの運営するデパートである
滴処置に振り分けられるという。回復期の患者に対し
「Aarong(アーロン)」に何回か足を運んだ。商品は
徐々に栄養の経口摂取を行い退院へと向かうための病
バングラデシュにおいては決して安価ではないが質は
室もあった。
良く、バラエティに富んでいた。行く度に富裕層らし
全体的に想像以上にきれいな状態ではあった。ただ
き客で賑わっていた。人々の間の大きな格差が感じら
し、患者のベッド間隔は狭く、仕切りもない。広い部
れたが、富裕層の人々の使ったお金が、貧困層の人々
屋にベッドがところ狭しと並んでいる状態は以前授業
に対するサービスの資金源となっている構図は、現在
で見た写真に似た光景であった。外来の私たちが簡単
の社会の在り方としては理想的なものであるだろう。
に出入りできる環境がどれほど衛生的なのかは少し疑
また、研修プログラムとは別に個人的にBRACの運営
問に思った。患者の付き添いの家族の衛生状況も決し
する義肢装具センターにも訪れることができた。小さ
て良くはないだろうと感じた。それでも集中的にコレ
な施設ではあるがここでは義足が必要な人に対し義足
ラ患者を治療できるこのような大きく整った施設が、
の作成からリハビリまでのサービスを提供している。
しかも無償で利用できることは患者にとって大変有効
低コストで質の良い義足を提供しているという。途上
なことであるはずだ。ICDDR,Bがバングラデシュにお
国ではプライマリーヘルスが注目されているし、バン
いてコレラによる死亡を減少させ、その治療に大きく
グラデシュでもMDGs達成に向けた取り組みが盛んであ
貢献していることを感じることができた。
る。しかし一方で、車でごった返すダッカの町では多
ダッカ以上に驚いたのはマトラブのICDDR,Bであ
くの障害者を目にした。政府はまだ障害者の支援に取
る。田舎の風景の中に突如立派な施設が現れる。ここ
り組める状況にはないのかもしれない。それでもBRAC
では地域住民に対する大規模な調査が行われており、
は意識的にサービスを提供しており、一歩先の取り組
ICDDR,Bが独自に設けている女性のコミュニティリ
みを常に行っているという感じを受けた。
サーチ・ヘルス・ワーカー(CRHW)が各家庭を回り
そして、BRACに関してなによりも驚いたのはその影
家族構成から家族計画の方法にいたるまで詳細なデー
響力である。上記の学校の数も驚きであるが、今回見
タを集め中央で管理するというHDSS(Health Domestic
て回ったフィールドに限らずバングラデシュのいたる
Surveillance System)が確立・実施されている。
ところでBRACの看板を目にした。BRAC大学のMPH
また、調査スタッフとは別に地域の医療施設(Fixed
コースでは幅広い教授・講師陣を迎えているし、バン
Site Clinic)でヘルスサービスを提供する女性のコミュ
グラデシュという貧しい一発展途上国の大学にも関わ
ニティヘルスワーカー(CHW)も設けている。CHWは
らず世界各国から優秀な学生が集まっている。こうし
医療従事者ではないがトレーニングを受け、自宅の一
部をクリニックとして利用して予防接種や乳幼児検診
トチルドレンたちへ教育の機会を与え、第2ステップへ
など母子保健に特化したサービスを提供している。
と導く。第2ステップではシェルターホームという施設
Fixed Site Clinic の上位に位置するのが、サブセン
で、共同生活を通した社会復帰のための準備期間を設
タークリニックである。緊急時にはFixed Site Clinicか
けている。第3ステップでは、アカデミーという職業訓
らの患者を受け入れる。このためのリキシャ(3輪の
練所で子ども達が自立し生活していくための技術習得
自転車でバングラデシュの最もポピュラーな輸送手段
の機会を提供する計画だ。
の一つ)を改造した搬送媒体も備えている。サブセン
運営資金を自分たちで賄うことを目指し、バングラ
ターでは母子保健に特化したサービス以外に下痢症に
デシュ人たちへの啓発活動を通してバングラデシュ人
対しても無料で治療を行っている。
の手で社会問題を解決しようとするきっかけ作りも提
さらに高次の医療施設がマトラブ病院である。マト
供している。
ラブの住民に対しては無料で母子保健サービス、周産
今回私たちは第2ステップのシェルターホームを訪
期医療、下痢症に関する治療を行っている。この病院
れ、そこで暮らす子ども達と触れ合うことができた。
の中にはHDSSで集めたデータを管理する設備や研究室
子ども達はしっかり挨拶をし、上手な英語で自己紹介
も備わっていた。大規模で詳細な調査といい、整った
をし、私たちの食事の世話までしてくれ、その礼儀正
設備といい、とてもバングラデシュの地方とは思えな
しさや人懐こさを見ていると、この前まで路上で生活
いものであった。
していたなどとは全く信じることができなかった。
ICDDR,Bを訪れるまでは「下痢症を中心とした調査
「路上で自由気ままに生活している子ども達にとっ
施設である」という安易な認識でしかなかったが、実
て、規律のあるシェルターホームは決して楽園ではな
際に施設や調査内容を見聞きしたことでICDDR,Bは
い」とエクマットラ立ち上げから携わっている日本人
「優れた調査・医療機関」であるという印象へと変化
スタッフの方がおっしゃっていたのが大変印象的で
した。
あった。ストリートチルドレンが社会の底辺に位置す
その一方でより多くの地域にスケールアップができ
る存在だとしても、子ども達なりに楽しさを見出して
ないという限界やその活動の持続性への疑いを感じ
いるのかもしれない。しかし、そうした子ども達が大
てしまったのも正直なところである。マトラブでの
人からの搾取の対象になってしまうことや、それぞれ
試みは素晴らしいものである。マトラブの人々は個々
の夢を持とうとも思えない環境にいることはやはり、
のデータを提出する代わりに、無料でありながら充実
辛い現実であるように思う。
した医療サービスを受けることができる。集められた
そのことを子ども達自身が、そしてバングラデシュ
データの有用性も計り知れない。ただし、その充実し
の大人たちが気づき彼らの手で子ども達に夢を持つ機
たサービスや調査にかかるお金は基本的に寄付等で賄
会を与えようとしていることは、外国からの援助に慣
われており、そのことによるサービスの限界がいずれ
れてしまっているバングラデシュにとって、力強い一
出てくるのではないかという懸念を持った。そうなっ
歩であると感じた。
た場合、人々の受けられる医療はどうなってしまうの
だろうか。あるいはもしもバングラデシュが国全体で
4.
おわりに
一様の医療サービスを展開できるようになった場合、
今回バングラデシュを訪れ、多種多様な優れた施設
マトラブはどのような位置づけとなるのだろうか。こ
やプログラムの実情を、自分自身の目で見、知ること
うした疑問は杞憂かもしれない。しかし、国のすべて
ができたのは大変有意義であった。
の人たちが同様の医療サービスを平等に安定して受け
それぞれの取り組みにおいて、地域の人々の理解や
られることを目指すならば、どこかでぶつかる壁では
協力を得ること、地域の人材を有効に活用すること、
ないかと思う。
またその地域のニーズに応えることがプログラムの成
功において必要不可欠な要素であるように感じた。
3.
エクマットラについて
エクマットラは3つのステップを通してストリートチ
BRACのSSやSK、マトラブICDDR,BのCHWやCRHW
などはそのいい例であろう。
ルドレンたちの社会復帰とその後の人材育成を目標と
個々のプロジェクトを見てみると、それぞれがその
した団体である。第1ステップでは青空教室でストリー
地域で完全に機能しているように見える一方で、さま
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ざまな組織が個々の優れたプログラムを展開している
差の大きさである。美しい高層ビルとトタン造りの
ため、同じ国であるのに地域によって保健・医療シス
家々が混在する光景は象徴的である。「貧しい」中に
テムやその主体機関がばらばらであることに戸惑いを
も大きな差があることを知ったし、果たして最貧層の
覚えた。全体として見てみると、プロジェクトが点在
人々にどれだけのサポートが届けられているのだろう
し、それぞれが線でつながらないという印象である。
かと疑問に思った。システムやプロジェクトを考える
今後それぞれの機関がどのように手を取り合って、
とき、社会の底の底まで考慮に入れて取り組むことは
現在個々で動いている優れたプロジェクトやシステム
難しいことかもしれない。しかし、本当に必要として
をどのように融合させまとめていくのか、そのスケー
いる人々に確実に届けられる持続的なサービス形態を
ルアップの行方が大変興味深い。
築いていかなければ格差はなくならないだろうと感じ
もう一つ、バングラデシュを訪れ実感したことは格
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た。
学生プレゼンテーション
2009年8月23日
(日) BRAC大学公衆衛生大学院にて
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関係機関リスト
■BRAC
http://www.brac.net/
BRAC Centre
75 Mohakhali, Dhaka, Bangladesh
Tel: + 880-2-9881265, 8824180-7. Ext: 2155, 2158, 2159, 2161
■ICDDR,B
http://www.icddrb.org
68 Shaheed Tajuddin Ahmed Sharani, Mohakhali, Dhaka 1212
(GPO Box 128, Dhaka 1000), Bangladesh
[email protected]
Tel: +(880-2) 8860523-32
Fax: +(880-2) 882 3116, 882 6050, 881 2530, 881 1568
■James P. Grant School of Public Health, BRAC University
http://sph.bracu.ac.bd/
BRAC University 66 Mohakhali, Dhaka 1212, Bangladesh
Tel: +880-2-8824051 Extension - 4164
Fax: +880-2-8810383
■JICAバングラデシュ事務所
http://www.jica.go.jp/bangladesh/
JICA BANGLADESH OFFICE
UDAY TOWER (7th floor), Plot No.57 & 57/A, Gulshan Avenue (south),
Circle-1, Dhaka-1212, Bangladesh
Tel: +880-2-9891897
■UNICEF バングラデシュ事務所
http://www.unicef.org/bangladesh/
P.O. Box 58, Dhaka - 1000, Bangladesh
UNICEF BSL Office Complex, 3rd Floor
(Dhaka Sheraton Hotel Annex,1, Minto Road, Ramna, Dhaka, Bangladesh
Tel : +880-2-933-6701 to 933.6720
■エクマットラ
http://www.ekmattra.org/
House-18, Block-F, Eastern Housing, Pollobi, Mirpur-11.1/2, Dhaka-1216
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お わ り に
長崎大学に国際健康開発研究科が創設されて2年目となり、この短期フィールド研修も2回目を迎えました。この研究
科は様々な特色がありますが、その一つとして挙げられるのは、学生が海外でのNGOや海外青年協力隊などの経験や国
内での社会人経験、ボランティアなど様々な活動をしてきた経歴を持っている人が多い、とういことです。このように
様々なバックグラウンドを持ち、年齢層も様々な学生との3週間の研修は、私にとっても様々な発見がある大変有意義
なものでした。
このように異なった経歴を持つ学生達ですが、レポートや学生が作成した議事録をお読み頂ければわかるように、それ
ぞれの学生にとって実りの多き研修となりました。世界的に有名なダッカの交通渋滞、大雨、日常的に起こる車両のパ
ンク、そしてうだるような暑さと湿気など、日本とは異なる環境での生活は想像以上に厳しいものがありましたが、朝
からフィールドに出て、夜遅くまで反省会をやったり、プレゼンテーションの準備をしたりと、体力の続く限り(時に
は身体をこわしてしまいましたが…)、精一杯のエネルギーで研修に臨んでくれた学生たちに大変感謝しています。
この研修が単なる旅行やスタディーツアーとは異なるのは、研究科がめざす「国際保健分野で活躍する人材を育てる」
という点であり、前期で学んだ座学の授業を踏まえて、途上国の様々な国際機関で講義も受け、現場を見ることです。
貧困層の人々、助けを必要としている母親や赤ちゃんなどに接することによって、よりいっそう国際保健分野の必要性
や、私たちのできる役割について色んな思いを持ったと思います。また実務という点からは、1日ごとにリーダーとし
て研修先を訪問する際の代表挨拶をしたり、ファシリテーターをやったり、議事録をとったりと、大学院の座学では学
べない、今後の実践に必要とされる実務的スキルアップが図ることもできたのではないかと思います。
昨年に引き続き、今年もバングラデシュの大手NGOであるBRACとBRAC大学に受け入れ機関になって頂き、大変お世
話になりました。この研修が実り多きものになったのは、ひとえにBRACの皆さんのおかげです。特にBRAC大学公衆
衛生大学院のアンワール教授、ファラ先生、そして毎日私たちにつきっきりでアレンジをしてくれたラジブさんには、
心より感謝しています。またお忙しい中、講義や学生からの質問にも快く応じてくださったJICAバングラデシュ事務所
の牧本小枝氏、石井克美氏、またJICAプロジェクトの視察でアレンジや講義をしてくださった吉村幸江氏、遠藤亜貴
子氏、横井健二氏をはじめとするJICA関係者の皆様、UNICEFバングラデシュ事務所の佐藤みどり氏、ICDDR,B(ダッ
カ、マトラブ)の関係者の方々、ストリートチルドレンのサポート活動をされている渡辺大樹氏はじめボランティアの
皆さんにも大変感謝しています。ありがとうございました。
また研修をするにあたって青木研究科長を始め、長崎大学の他の先生方や事務の方にも大変お世話になりました。大学
院として授業の一環として海外での研修を行うことは、安全管理の問題などもあり様々なチャレンジの連続ですが、本
報告書が、国際協力、国際保健分野の人材育成向上のために少しでもお役に立てばと思い、出版の運びとなりました。
改めて本研修ならびに報告書作成に関わって下さった方々に厚くお礼申し上げます。
国 際 健 康 開 発 研 究 科 ・助教
宮
地
歌
織
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短期フィールド研修報告書2009©
編
集
長崎大学大学院国際健康開発研究科
宮地歌織、川勝義人・増永智子、他
発
行
国立大学法人長崎大学
〒852−8523
長崎市坂本1丁目12番4号
Tel:095−819−7008
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/mph/
発行日
2010年2月1日
印
株式会社インテックス
刷
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