はしがき-内容の説明

はしがき-内容の説明
この基本教材は、英文の契約書や法律文書を日本語に翻訳する人が「効率的に」英日翻訳の
技術を身につけるためにつくられた基本教材です。
これまで翻訳者を志望する多くの人が小説やノンフィクションなどのいわゆる文芸翻訳、
出版翻訳を中心に勉強してきました。今でも多くの人がこのジャンルを希望しているので
すが、文芸、出版の分野は競争も大変激しく、また文章に感性が必要なこともあって、翻
訳者として世に出るのはなかなか大変です。この事もあって最近では産業翻訳に注目が集
まってきました。
産業翻訳は、企業内部の必要に応えて業務資料や企業内文書を翻訳するものですが、外資
企業の増加、日本企業の海外調達の拡大、海外立地の進展、ボーダーレス経済の進行等に
よる企業の多国籍化などから、企業内の英文書類は急増しており、この産業翻訳の需要は
伸びてきています。産業翻訳には、マニュアル翻訳、ビジネス文書翻訳、業務分野(例えば、
コンピューター、金融、医学など)ごとの資料翻訳などいろいろありますが、なかんずく、
法律翻訳はもっとも重要なものとして認識されています。法律翻訳の内容は、契約書、社
内諸規則、法律条例、その他の法律文書ですが、これらは海外取引の最終場面で作成され
る一番重要なもので国際取引のエッセンスであるからです。産業翻訳のなかで一番重要な
ものがこの契約書・法律翻訳の分野であるのです。
国際取引の拡大にともなって企業内で国際部門が華形のコースとなっていますが、英文契
約書や英文諸規則(海外事業の運営のための)を取り扱う国際法務の担当者はそのなかでも
特に重要視されています。この国際法務のエキスパートになるためには積極的に英文契約
書、英文法律文書に触れることが必要ですが、この法律翻訳に従事することにより英文契
約書、英文法律文書に数多く触れることができます。この点からも法律翻訳は重要なもの
と認識されています。
ところで翻訳というものは、難しいものとされています。特に翻訳を始めたばかりの初心
者の方にとっては難しいとされています。文芸翻訳、出版翻訳において編集者に起用して
もらえるまでには何年もの下積みの期間が必要ですし、産業翻訳においてもクライアント
が満足する訳文を納入できるようになるまでには長い期間が必要です。これらの翻訳が易
しいようで以外に難しいのは、翻訳に一定のルールがなく、いわば職人的な芸であったか
らです。文芸・出版翻訳も産業翻訳も、数多くのトライ&エラーを繰り返して、自然にス
タイルができ上がりそれがクライアントに受け入れられて、やっと翻訳者としては一人前
になるのです。翻訳会社が翻訳者を募集するとき常に最低経験 3 年以上を条件とするのは
このような理由によります。一流の翻訳家になるのにどの人も 20 年以上を費しているの
はこのような事情によるのです。
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ところで文芸翻訳、出版翻訳、一般の産業翻訳においては原文である英文の表現は多彩で
あり、その翻訳文である日本文もまた日本文の表現として多彩となります。英文の一つの
文を訳すのに多彩な訳し方があるのです。このため翻訳のルール化ができにくく、もっぱ
ら翻訳者のセンスと文才にまかされてしまいます。つまりバラエティが多すぎるので翻訳
の標準化ができにくいのです。
ところが法律文においては一定の法律効果(例えば義務表現や権利表現のような)を生み
出す表現は、英文でも日本文でも一つだけです。このため法律翻訳においては原文と訳文
の「一対一の対応」が可能です。訳文のバラエティは生じません。この事は、英語から日本
語への翻訳を規則化、標準化するには法律文が一番よいということです。実際、法律文で
英日翻訳を理解しますと英文と日本文の文体の転換が一番早くよくマスターできます。
翻訳という作業は、三つの段階から成り立ちます。
第一に「原文の読解」です。翻訳を志す人の多くは原文の読解力があります。英語の好きな
人が翻訳者を目指すのでしょうから、原文の読解ができるのは当然でしょう。大きな誤り
は、「原文が読めて理解できたら翻訳者になれる」と思っていることです。プロフェッショ
ナルとして翻訳をするためには次の第二、第三の段階が必要です。
第二の段齢は、「英文から日本文への転換」です。これには構文転換と品詞転換があります。
英文と日本文は構文法が全く違います。例えば英文に出てくる関係代名詞文は日本文には
存在しませんし、英文の時制の一致は日本文にはありません。勿論、主語動詞(述語)の
順序も違います。英文と日本文は表現に使う品詞も違います。英文で形容詞で表現するも
のが日本文では副詞表現となりますし、英文中に名詞で表現することが日本文では動詞表
現となります。この文体の転換は、多彩多様な訳文を要求する文芸翻訳・出版翻訳ではな
かなか標準化、ルール化できないのですが、規則の表現が一対一で対応している法律翻訳
ではルール化できます。この構文転換、品詞転換のルールを覚え使いこなせるようになれ
ば、翻訳はずっと楽になります。標準化した作業パターンを繰り返せばよいのですから、
比較的初心者の翻訳者でもベテランの翻訳者のような訳文が得られるのです。
第三の段階は、「日本語の表現」です。いくら英文を読みこなせ、構文・品詞の転換をルー
ル通りやったとしても、書かれた日本文が水準の低いものであればクライアントは満足し
ません。実際、翻訳会社では、クライアントに納入した法律翻訳の多くが、日本語の表現
が法律的になってない等の理由によって、突き返されています。これは翻訳者の多くが、
法律文を書いた経験もないのですから無理もないのですが、そうはと言って許されるもの
ではありません。翻訳志望者の多くは英文の読解さえできれば翻訳ができると思っていま
すがこれは間違いです。法律文は、日常の新聞雑誌を読んでも出てくるものではありませ
んから、意識して勉強しなければなりません。
翻訳のエキスパ一トになるためには以上の三つ、「英文の読解」、「構文・品詞の転換」、「日
本文の表記」がそれぞれできなければならないのです。この基本教材ではこれを一つずつ
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理解させ技術として身に付けさせていく仕組みになってます。この基本教材を読む人は、
英語については通常の読解力のある人を前提としていますから、上記の第二段階の構文転
換の技法から入ります。
「第 1 章
構文転換」の章では、句の文への読みほどき、関係代名詞の処理、時制、受身
の能動への転換、否定文、訳し下ろしなどの節にわけて、基本的な英文から日本文への構
文転換の技法を教えます。
「第 2 章
品詞転換」の章では、名詞の動詞訳、形容詞の副詞訳、形容詞の述語訳、前置
詞の問題、冠詞の問題等について述べます。第一章、第二章とも、従来エキスパートの翻
訳者が職人的なカンあるいはノウハウにしてきたものを規則化したものです。以上をルー
ルブック①に掲載します。以下はルールブック②になります。
「第 3 章
日本語の法律文章の訓練」の章では、日本の法律文、契約書文に特有のスタイ
ル、言い回しについて述べます。これにより法律文らしい日本文が書けるようになります。
「第 4 章
英語の法律用語の読解」の章では、翻訳上知らなければならない重要な表現に
ついて解説します。英文の読解に相当熟達した方でも必要な事です。
各章ともまず解説をした上で英文の例文を語註と共に掲げています。次いで英文の例文
と、解説に添った日本文の例文を掲げています。まず例文を自分で訳し、これを例文訳と
比較してみてください。
例文訳を解説と共に読めば理解できるように配列してありますが、
理解した後、理解を確かめ翻訳技術を技術として身につけるために例文題を課題の通りに
やって下さい。このようにすることによって、英文を日本文に訳す技術が身につきます。
この講座は英→日の法律翻訳のためのものですが、英日翻訳が一段と上達するためには、
逆の日英翻訳、あるいは自ら英文で書き下ろすリーガル・ドラフティングの技術も必要で
す。このリーガル・ドラフティング及び日英法律翻訳については別に講座がありますので
ご参考下さい。
英日法律翻訳の技術を身につけられ、成功されることを望んでおります。
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目
第1章
1.
次
構文転換「英語構文を日本語構文に変える」
句を文に読みほどく
1
1
(1) 所有格を日本文の主語に羨みほどく
(2) 英語の無生物主語は、日本語訳を変える
(3) 日本語の疑問文に訳す
2.
関係詞構文をどう訳すか
7
(1) 関係代名詞を条件文に訳す
(2) 関係代名詞の条件文訳は訳し下ろしに良い
(3) 関係代名詞の非制限用法の訳し方
(4) 制限用法でも関係代名詞を切って訳す
(5) 関係副詞、関係形容詞を切って訳す
3.
時制の問題
22
(1) 時制の一致は日本語にはない
(2) 英文の現在を日本語の過去に訳す
(3) その他の時制の訳し方
4.
受身と能動の問題
31
(1) 受身を能動に訳す
(2) 主語なしの能動形に訳す
(3) 文語調の「これを」をつけて能動に訳す
5.
否定文の訳し方
38
(1) No を「何人も」「いかなる者も」と訳す
(2) No を通常の否定で訳す
(3)「一切」「全く」のような否定強調の副詞をつけて訳す
(4) 契約書中の強意の否定文
(5) 通常の否定文
(6) 否定文を肯定文に訳してよいか
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6.
訳し下ろし翻訳のすすめ
51
(1) Provided that 条項
(2) 条件文 if が後にくる場合
(3) Unless
その他の条件文節が後にくる場合
(4) 主文の後の when など
(5) 主文節の後に although など「----けれども」をあらわす語がくる場合
(6) 主文節の後に because などがくる場合
(7) 主文節の後に except や to the extent などが来る場合
(8) 主文の後に when, while, whether などがつく場合
(9) 訳し下ろしを so that や in order to に使う
(10) 不定詞(to+動詞)の訳し下ろし
第2章
1.
品詞転換の技法「英語の品詞を日本語で変える」
品詞転換の技法「英語の名詞を日本語の動詞に訳す」
78
78
(1) 英語の名詞を日本語の動詞(----すること)に訳す
(2) 前置詞の後の名詞を日本語の動詞(----すること)と訳す
(3) 英語の名詞を日本語の動詞を使った条件句(「----する場合」など)に訳す
(4) 否定形容詞をつけた抽象名詞を訳すとき
2.
形容詞から副詞への品詞転換
88
(1) 行為をあらわす名詞につけた形容詞を副詞に訳す
(2) all, every, any を副詞に訳す
(3) Each, either, both を副詞に訳す
3.
形容詞を述語(動詞)に訳す
95
(1) Few, little, rare, scarce など
(2) Some, many, much など
4.
代名詞はカットするか又は名詞に訳す
98
5.
前置詞の品詞転換
101
(1) 前置詞の正確な理解
(2) 日本語の助詞に品詞転換
(3) 結局は副詞、形容詞に訳す
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6.
冠詞及び複数形の問題
107
(1) 不定冠詞 a, an をどう訳すか
(2) 定冠詞 the の訳し方
(3) 複数形の訳出
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第1章
構文転換
「英語構文を日本語構文に変える」
英語では、主語の次に動詞がきてその後に目的語がくるが、日本語では主語の次に目的
語がきて最後に動詞がくるというように、英語の構文と日本語の構文は全く違う。英日の
翻訳に当たっては、英語の単語を日本語の単語に置き換えるのではなく、英語の構文を日
本語の構文に組み換えなければならない。日本語の翻訳文が、日本語らしくなく、いわゆ
る翻訳調になるのは、翻訳した日本語の構文が英語の構文に影響され、これを引きずって
いるからである。翻訳に当たって一番重要な事は、日本語らしい構文にすることである。
従来、翻訳業界においてはこの構文転換のル-ルづくりをしてこなかった。出来あがっ
た日本文を欠陥翻訳として批評はするが、それにはどのような法則で構文転換をするかの
基準は示してこなかったのである。このため翻訳の品の一定化ができず、翻訳は翻訳者の
職人的習熟とカンにまかせられて統一的基準がなく、その成果物のチェックは、クライア
ントや翻訳チェッカ-と称する人達の思いつき的な修正にまかせられていたのである。
思うに、これは翻訳が文芸翻訳を中心として普及したからであろう。文芸作品において
は、表現が多彩である。訳者の個性により多様に訳すことができ、またそれが推賞される。
一定の構文は一定の構文に訳すといった統一的ル-ルはできなかったのである。
ところが産業翻訳、なかんずく契約書・法律翻訳は違う。多彩な訳というものがない。
法律上の一定の効果をもたらす表現は、英語でも日本語でも一つの表現である。そうする
と英語の一つの構文に対応する日本語の構文は一つということになる。そこで構文転換の
ル-ルづけが可能になる。
以下に述べる英日翻訳の構文転換の技法は、契約書・法律文であったからこそ標準化、
体系化できたものであるが、契約書・法律文以外の産業翻訳にも応用できる筈である。
1.句を文に読みほどく訳文
英文と日本文を比べてみると、英文に名詞が多く、日本文に述語が多いことがわかる。
この事から、英文では名詞を前置詞や接続詞で連結した「句」が多く出てくる反面、日本
文では述語で事柄を述べる文が多い。例えば義務に違反していることを表現するのに英語
では例えば、 his failure in performance of the contract obligations (彼の契約義務の履
行の欠如)と「句」にするのに対して、日本語では「彼が契約義務の履行を怠ったのは----」
というように「文」で書く。同じように The Norman's conquest of England in 1066 と
いう英語の句は日本語では「ノルマン人が1066年にイングランドを征服したのは----」
と「文」にした方が日本語らしい。そこで英語の「句」が出てきたときに訳文の日本語を
「文」にするようこれを「読みほどいて」構文を転換する必要が出てくる。そうすること
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により、より日本語らしい文体になるのである。
(1) 所有格を日本文の主語に読みほどく
前述の The Norman's conquest of England を「ノルマン人がイングランドを征服した
のは」と句を文に訳したように、英語の所有格から始まる句が出てきたらそれを日本語の
主語「----が」にして「文」に読めないかを考えてみるとよい。以下の例文でこの構文転換
を理解して頂きたい。
例文
まず自分で訳してみよう。
(a) The defendant's negligence caused the accident.
(語註)negligence: 怠慢
cause: 原因となる
(b) The accused's attempt to murder his wife will be proved by evidences.
(語註)the accused: 被訴追者(被告人) attempt: 試み
murder: 殺す
prove: 立証
する
(c) The Lessor hereby terminates the Lease due to the Lessee's default to fulfill its
obligations.
(語註)Lessor: 賃貸人
Lessee: 賃借人
default: 不履行
(d) Upon occurrence of any of the following events, this Agreement shall be
automatically terminated.
(語註)occurrence: 生起
例文訳
event: 出来事
自分の訳と比べてみよう。
(a) The defendant's negligence caused the accident.
(直訳文)被告の怠慢が事故を引き起こした。
(文に読みほどいた訳)被告が怠慢であったことが事故の原因である。
(b) The accused's attempt to murder his wife will be proved by evidences.
(直訳文)被訴追者の彼の妻を殺す試みは証拠によって証明されよう。
(文に読みほどいた訳)被訴追者が妻を殺そうとした企みを証拠により立証致します。
(c) The Lessor hereby terminates the Lease due to the Lessee's default to fulfil its
obligations.
(直訳文)賃貸人は、賃借人のその義務を履行することの不履行の故をもって、本賃貸借
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を解除する。
(文に読みほどいた訳)賃貸人は、賃借人がその義務を履行しなかったことにより、本賃
貸借を解除する。
(d) Upon occurrence of any of the following events, this Agreement shall be
automatically terminated.
(直訳文)次の事態のいずれかの生起の際、本契約は自動的に解除される。
(文に読みほどいた訳)次の事態のいずれかが生起した場合、本契約は自動的に解除され
るものとする。
《まとめ》
抽象名詞に 's (所有格)がついた句は、文に読みほどいて訳す。(「----が」とする。
(2) 英語の無生物主語は、日本語訳を変える
英語では抽象名詞を主語に持ってきて目的語に生物を持ってくるという構文は珍しくない
例えば The news surprised us. というような英文は至極普通であるが、その訳の「その
ニュ-スは私を驚かせた。」という日本文は普通はない。「私はそのニュ-スを聞いて驚い
た。」とするのが自然である。
このような場合、構文を変えて自然な日本語にした方がよい。
例文
まず自分で訳してみよう。
(a) Years of study at the Law School made him an excellent lawyer.
(語註)excellent:卓越した
(b) This new law will create many problems that are inconsistent with other existing
laws.
(語註)create: 創り出す
inconsistent: 矛盾する
(c) The evidences submitted by the defendant's attorney will show that he is innocent.
(語註)evidence: 証拠、innocent: 無実の
(d) The lawyer's diligence and a little fortune has led us to winning the suit.
(語註)diligence: 勤勉
例文訳
fortune: 好運
自分の訳と比べてみよう。
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(a) Years of study at the Law School made him an excellent lawyer.
(直訳文)ロ-スク-ルにおいての勉強の数年が彼を卓越したロ-ヤ-にした。
(文に読みほどいた訳文)ロ-スク-ルで何年も勉強したので彼は立派なロ-ヤ-になっ
た。
(b) This new law will create many problems that are inconsistent with other existing
laws.
(直訳文)この新法は、他の存在している法律と矛盾する多くの問題を創り出すであろう。
(文に読みほどいた訳文)この新しい法律は、現存している他の法律と矛盾しているので
多くの問題をもたらすだろう。
(c) The evidences submitted by the defendant's attorney will show that he is innocent.
(直訳文)被告の弁護士により提出された証拠は、彼が無実であることを示すであろう。
(文に読みほどいた訳文)被告の弁護士が提出した証拠によって彼が無実であることがわ
かるでしょう。
(d) The lawyer's diligence and a little fortune has led us to winning the suit.
(直訳文)法律家の勤勉と少しの好運が我々を訴訟に勝利することへと導いた。
(文に読みほどいた訳文)法律家が勤勉であり、それに少しばかりの好運があったので、
我々は訴訟に勝つことができた。
《まとめ》
主語に無生物抽象名詞があるときは、日本語が直訳調にならないよう訳文を変える。
(3) 日本語の疑問文に訳す
日本語では述語を含んだ文を多用するが、これをさらに疑問文とすると口語的になり訳文
がこなれてくる。例えば、「----の人物」と訳すかわりに「誰が----するか」と訳す。
「----の方法」と訳すかわりに「どのように----するか」と訳す。「----の場所」と訳すかわり
に「どこで----するか」と訳すのである。
つ ま り The research collaborator shall notify the Company the place of the
experiment to be made by him. の the place of the experiment(実験の場所)を where
the experiment is made と読み、「どこで実験をやるか」と訳すのである。このように英
文の句を日本語の疑問文に訳すことにより、訳文は「共同研究者は、会社に対し、どこで
実験を行うかを通知するものとする。」となって、日本語としてはなめらかなものになる。
これも一つのテクニックである。
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例文
まず自分で訳してみよう。
(a) An inventor who is an employee of the Company shall report to the Company the
manner with which he has made the invention.
(語註)inventor: 発明者、invention: 発明、manner: 方法
(b) The police searched for a person or persons who caused the accident.
(語註)search for: 捜査する、accident: 事故
(c) Within fourteen (14) days after the submission of the application, the
administrative agency shall notify the applicant their acceptance or not of the
application.
( 語 註 ) application: 申 請 、 submission: 提 出 、 administrative agency: 行 政 官 庁 、
acceptance: 受理
(d) The lecture tells you the most important thing in legal drafting.
(語註)lecture: 講義、legal drafting: 法律文書起草
例文訳
自分の訳と比べてみよう。
(a) An inventor who is an employee of the Company shall report to the Company the
manner with which he has made the invention.
(直訳文)会社の従業員である発明者は、彼が発明を行った方法を会社に報告しなければ
ならない。
(文に読みほどいた文)会社の従業員である発明者は、どのような方法で発明を行ったか
を、会社に報告しなければならない。
(How did he make the invention.と読む)
(b) The police searched for a person or persons who caused the accident.
(直訳文)警察は、事故を引き起こした人物を捜査した。
(文に読みほどいた文)警察は、誰がその事故を起こしたのかを捜査した。(Who caused
the accident.と読む)
(c) Within fourteen (14) days after the submission of the application, the
administrative agency shall notify the applicant their acceptance or not of the
application.
(直訳文)申請の提出の後14日以内に、行政官庁は、申請者に対し、申請についてのそ
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の受理か非受理を通知しなければならない。
(文に読みほどいた文)申請提出後14日以内に、行政官庁は、申請を受理するか否かを、
申請者に通知しなければならない。
(Whether they accept or not. と読む)
(d) The lecture tells you the most important thing in legal drafting.
(直訳文)
講義は法律文書起案における最重要の事を貴下に物語ります。
(文に読みほどいた文)その講義は、法律文書起案において何が一番重要であるかを貴下
に教えます。
(What is the most important thing. と読む)
《まとめ》
英文の中の句を日本語の疑問文(かどうか、誰が、何が、など)に訳す。
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2.関係詞構文をどう訳すか
関係代名詞(who, which, that など)、関係副詞(where, when など)、関係形容詞(whose,
which など)は日本語にない品詞であり、この構文を訳すのは難しい。学校英語では関係
代名詞を「----するところの----」と訳すように教えるが、これは日本文としては大変おか
しい文である。そこで次のような工夫がいる。
(1) 関係代名詞を条件文に訳す
法律文は意味を厳格に限定するので関係代名詞を使った文節で修飾することが大変多い。
ところが日本語には関係代名詞というものがないから、訳すときに大変やっかいなことと
なる。英文和訳の公式であれば、後の方の関係代名詞文節を訳し、これに「~するところ
の」をつけて訳すことになるが、これでは大変違和感のある文節になる。そこで関係代名
詞節をそのまま、これで修飾する先行詞の前に持ってくることになるのであるが、法律文
のように厳密な限定修飾をする文は関係代名詞の後の文節が長いから、日本語として理解
しにくい文となる。これを解決する翻訳の一つのテクニックは、関係代名詞節を「条件文」
として訳すやり方である。
条件文であるから「----である場合は」となる。A person who committed a crime shall be
punished. を A person, if he committed a crime, shall be punished.と考えて、「犯罪を
犯したる場合は----」と訳すのである。特に関係代名詞の節に should や may が含まれて
いる場合、これは英文自身も仮定法を含んでいるのであるから、An employee who may
violate the employment rules shall be discharged (=if he or she violates the rules).のよ
うに考えて、
「就業規則に違反した場合は、その者を解雇する」というように訳すと日本語
らしくなる。
例文
まず自分で訳してみよう。
(a) Any and all doubts or differences which may arise out of or in relation to this
Agreement shall be settled through good faith negotiation between the parties.
(語註)doubt: 疑問、good faith: 誠意ある、difference: 相違
(b) Licensee shall keep strictly secret and confidential any and all information
disclosed under this Agreement except these information
(1) that is in the public knowledge at the time of disclosure;
(2) that is in the possession of Licensee at the time of disclosure; or
(3) that Licensee receives from a third party having the legal right to disclose.
(語註)strictly: 厳格に、disclose: 開示する、possession: 占有、confidential: 秘密の、
public knowledge: 公知
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(c) The allegation for bankruptcy which should be filed by a creditor against a debtor
will be investigated at the federal district court with jurisdiction.
( 語 註 ) allegation: 申 立 、 creditor: 債 権 者 、 bankruptcy: 破 産 、 debtor: 債 務 者 、
investigate: 審査する
federal: 連邦の
(d) Every murder which shall be committed by means of poison or by lying in wait, or
by any kind of willful, deliberate and premeditated killing, or which shall be
committed in the perpetration or an attempt to perpetrate any arson, rape, robbery,
burglary, or other felony, shall be deemed murder in the first degree.
(語註)murder: 殺人、poison: 毒薬、willful: 故意の、commit: 犯罪を犯す、lying in wait:
待ち伏せ、deliberate: 熟考した、premeditate: 事前に考える、perpetration: 犯行、
attempt: 企図、arson: 放火、rape: 強姦、burglary: 強盗、felony: 重罪
(e) A promise for which all or part of the consideration is either marriage or a promise
to marry is within the Statute of Frauds, except in the case of an agreement which
consists only of mutual promises of two persons to marry each other.
(語註)promise: 約束、marriage: 結婚、consist of: よりなる、consideration: 約因、
Statute of Frands: 詐欺防止法
例文訳
自分の訳と比べてみよう。
(a) Any and all doubts or differences which may arise out of or in relation to this
Agreement shall be settled through good faith negotiation between the parties.
(生硬な訳)
本契約より又は本契約に関連して生ずるかもしれない全ての疑義又は相違は、
当事者間の誠意ある協議を通して解決されるものとする。
(読みやすい訳)本契約より又は本契約に関連して疑義又は意見の相違が生じた場合はす
べて、当事者が誠意をもって協議の上これを解決するものとする。
(b) Licensee shall keep strictly secret and confidential any and all information
disclosed under this Agreement except these information
(1) that is in the public knowledge at the time of disclosure;
(2) that is in the possession of Licensee at the time of disclosure; or
(3) That Licensee receives from a third party having the legal right to disclose.
(生硬な訳)ライセンシ-は、(1)開示の時に公知であるか、(2)開示の時にライセンシ-の
保有であるか、又は(3)ライセンシ-が、開示する法的権利を持った第三者から受領する(と
ころの)情報を除いて、本契約の下で開示された全ての情報を秘密に保つものとする。
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(読みやすい訳)ライセンシ-は、本契約の下で開示された一切の情報を秘密に保つもの
とする。但し次の場合を除く。
(1) その情報が開示の時に公知である場合、
(2) その情報が開示の時にライセンシ-の権限保有に属している場合、又は
(3) ライセンシ-がその情報を開示権限を有する第三者より受領する場合。
(c) The allegation for bankruptcy which should be filed by a creditor against a debtor
will be investigated at the federal district court with jurisdiction.
(生硬な訳)債権者より債務者に対してなされる破産の申立は管轄権を有する連邦地区裁
判所において審理されるであろう。
(読みやすい訳)債権者より債務者に対して破産の申立をする場合は、管轄権を有する連
邦地区裁判所で審理が行われる。
(d) Every murder which shall be committed by means of poison or by lying in wait,or
by any kind of willful, deliberate and premeditated killing, or which shall be
committed in the perpetration or an attempt to perpetrate any arson, rape, robbery,
burglary, or other felony, shall be deemed murder in the first degree.
(生硬な訳)毒薬、待ち伏せ若しくは如何なる種類のものであれ故意、予謀且つ計画的な
殺人の手段により行われた、又は放火、強姦、強盗その他の重罪の実行又は実行の企図中
に行われた全ての殺人は、第一級謀殺とみなされる。
(読みやすい訳)殺人が、毒薬、待ち伏せもしくは如何なる種類のものであれ故意、予謀
且つ計画的殺害の方法で行われた場合、又はそれが放火、強姦、強盗、その他の重罪の実
行中又は実行を企てている間に行われた場合は、すべてこれを第一級殺人とする。
(註:カンザス州刑法典21-401条第一級殺人の規定)
(e) A promise for which all or part of the consideration is either marriage or a promise
to marry is within the Statute of Frauds, except in the case of an agreement which
consists only of mutual promises of two persons to marry each other.
(生硬な訳)約因の全部又は一部が結婚又は結婚の約束である約束は、互いに結婚する二
人の人間の相互的約束のみを構成する合意の場合を除き、詐欺防止法の以内である。
(読みやすい訳)ある約定についてその約定の約因の全部又は一部が婚姻であるか又は婚
姻をするという約束であるかどちらかである場合、当該約定は詐欺防止法の適用を受ける。
但し、合意が互いに婚姻する旨の二者間の相互的約定よりのみからなる場合はこの限りで
ない。(註:第二次契約法リステイトメント124条、婚姻を約因としてなされる契約は詐
欺防止法の適用により書面でなければならにとする規定)
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《まとめ》
関係代名詞を条件文に訳す。
(2) 関係代名詞の条件文訳は訳し下ろしに良い
英文の翻訳を、学校で習った英文和訳調でやると、後からひっくり返った訳し方となる
が、これでは途中で何が何だかわからなくなってしまい、良い訳とならない。最近は、翻
訳技術も向上しているが、同時通訳の文頭からの訳し下ろしの影響を向けて、翻訳でも頭
からパラグラフを訳し下ろしていく(後からひっくり返らない)訳が行われるようになっ
てきた。これだと早く訳せるのである。関係代名詞の訳し方においても、前項の関係代名
詞の「----するところの」に代えて、「----する場合は」と訳すようにすると早く的確に訳せ
る。この訳し方になれると翻訳の能率も上がるのである。まず先行詞を訳し、それから関
係代名詞節を訳すやり方を使い慣れるとよいのである。翻訳の生産性を上げるために訳し
下ろしをしよう。
例文
まず自分で訳してみよう。
(a) Any oral or other written agreement that is inconsistent with the content hereof
shall be of no legal effect.
(語註)oral: 口頭の、inconsistent: 一致しない、content: 内容
(b) No amendments, revisions or additions here of which are not signed by the
authorized representatives of the parties concerned shall be effective.
(語註)revision: 改訂、parties concerned: 関係当事者、authorized representative: 権
限ある代表者
(c) Every employee shall not have access to the specific information to which an
warning label expressing “Confidential, Not Accessible" is put.
(語註)access: 接近、express: 表示する、warning: 警告する
(d) No one can be bound by contract who has not legal capacity to incur at least
voidable contractual duties.
(語註)bound: bind (拘束する)、incur: 負担する、capacity: 能力
(e) Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or
conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or
commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of
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a misdemeanor, and, on conviction thereof, shall be punished by fine not exceeding
fifty thousand dollars, or by imprisonment not exceeding one year, or by both said
punishments, in the discretion of the court.
(語註)monopolize: 独占する、attempt: 試みる、企図する、combine: 連合する、conspire:
共謀する、trade or commerce: 取引又は通商、guilty: 有罪、misdemeanor: felony(重罪)
でない罪即ち、軽罪、conviction: 起訴、punish: 罰する、fine: 科料、exceed: 超える、
imprisonment: 収監、禁固、discretion: 裁量
例文訳
自分の訳と比べてみよう。
(a) Any oral or other written agreement that is inconsistent with the content hereof
shall be of no legal effect.
(生硬な訳)本契約の内容と一致しない口頭又は他の書面の合意は法的効果がないものと
する。
(こなれた訳)口頭又は他の書面の合意は、それが本契約の内容と矛盾する場合、法的効
力を有しないものとする。
(b) No amendments, revisions or additions hereof which are not signed by the
authorized representatives of the parties concerned shall be effective.
(生硬な訳)関係当事者の権限ある代表者によって署名されない変更、改訂、又は追加は
効力を有しない。
(こなれた訳)本契約の変更、改訂、追加は、それが関係当事者の代表権限ある者により
署名されていない場合、効力を有しないものとする。
(c) Every employee shall not have access to the specific information to which an
warning label expressing “Confidential, Not Accessible" is put.
(生硬な訳)いかなる従業員も、「極秘、触ってはいけない」と表示してある警告ラベルが
貼ってある特定情報に接近してはならない。
(こなれた訳)従業員はすべて、特定情報には、それに「極秘、接触禁止」という表示の
警告ラベルが貼付してある場合、接近してはならない。
(d) No one can be bound by contract who has not legal capacity to incur at least
voidable contractual duties.
(生硬な訳)少なくとも取消し得る契約上の義務を負担する法的能力を持たない者は契約
によって拘束されることはできない。
(こなれた訳)何人も、その者が契約上の義務(少なくともそれは取消し得るべきもので
あること)を負担する法律的能力を有しない者である場合、契約により拘束されることは
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ない。(第二次契約法リステイトメント第12条、契約能力)
(e) Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or
conspire with any other person or persons to monopolize any part of the trade or
commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of
a misdemeanor, and, on conviction thereof, shall be punished by fine not exceeding
fifty thousand dollars, or by imprisonment not exceeding one year, or by both said
punishments, in the discretion of the court.
(生硬な訳)州間の若しくは外国との取引若しくは通商の一部を独占し若しくは独占を企
図し又は独占するために他の者と連合若しくは共謀する者は、軽罪とみなされるものとし、
その訴追において、裁判所の任意において、5,000 ドルを超えない科料若しくは1年を超
えない禁固又は両方の罪により処罰される。
(こなれた訳)いかなる人間も、州間の若しくは外国との取引若しくは通商の一部たりと
もこれを、独占し若しくは独占を企図し又は独占するために他の者と連合若しくは共謀し
たる場合は、その者は、軽罪に該当するものとし、その訴追ありたる場合、裁判官の裁量
するところにより、5,000 ドル以下の科料若しくは1年以下の禁固に処する。尚併課を妨
げない。(アメリカ独禁法、シャ-マン法第2条)
《まとめ》
関係代名詞を「----する場合は、----」と訳す。
(3) 関係代名詞の非制限用法の訳し方
関係代名詞に制限用法(Restrictive Use) と非制限用法(Non Restrictive Use) があるこ
とはご存じであろう。制限用法は、例えば The term “Licensed Product" means any and
all pharmaceutical preparations for human use which contain or consist of the
compound as the sole active ingredient. (「実施許諾製品」とは「化合物」を単一の有効
成分として含有する人体用の医薬品製剤を意味する。)というように関係代名詞の文節は先
行詞を精密に限定して修飾する。関係代名詞の前にコンマは入らない。
これに対して、非制限用法は例えば、April 1, which is the Company's anniversary,
shall be a holiday.(4月1日(会社の創立記念日)は、休日とする。
)のように先行詞を
説明するにとどまり、法律的に限定するわけではない。これは関係代名詞の前にコンマが
入る。関係代名詞の非制限用法の翻訳は、これが先行詞を限定するものでないことに注意
をして、「----(先行詞の代名詞)は----であるが」のように接続詞をつけて軽く訳すとよい。
上述の例のようにカッコの中に説明的に入れる方法もある。また下記の例文のように関係
代名詞文節を別の文にしてしまう方法もある。
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例文
まず自分で訳してみよう。
(a) The financial statement, which was submitted to the board of directors meeting on
March 10, four (4) weeks before the ordinary annual shareholders meeting, shows a
large amount of loss last year.
(語註)financial statement: 財務書類、submit: 提出する、board of directors meeting:
取締役会、ordinary: 通常の、annual: 年の、shareholder: 株主
(b) The government agency, which enacted the environmental regulation, will be
defunct soon.
(語註)enact: 施行する、environmental: 環境の、defunct: 廃止となった
(c) The senior management meeting shall investigate and determine all the problem
submitted, which shall be examined in advance by the junior management meeting.
(語註)investigate: 調査する、determine: 決定する、in advance: 前もって
(d) The specifications shall be sent to the Engineering Department manager, who will
approve it without delay.
(語註)specification: 仕様、仕様書、approve: 承認する、delay: 遅延
(e) Within 30 days after the execution of this Agreement, Licensee shall pay Licensor a
sum of advance royalty amounting one million US dollars (US $1,000,000), which
shall be credited against, and deducted from, running royalties becoming due.
(語註)execution: 調印、advance royalty: 前払いロイヤリティ、credit: 貸方記帳する、
become due: 期限が来る
例文訳
自分の訳と比べてみよう。
(a) The financial statement, which was submitted to the board of directors meeting on
March 10, four (4) weeks before the ordinary annual shareholders meeting, shows a
large amount of loss last year.
(生硬な訳)その財務書類(それは3月10日、即ち定時株主総会の4週間前の取締役会
に提出された)は、昨年度の大きな損失額を示している。
(こなれた訳)その財務書類は、定時株主総会の4週間前の3月10日の取締役会に提出
したものであるが、昨年が大赤字であったことを示している。
(b) The government agency, which enacted the environmental regulation, will be
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defunct soon.
(生硬な訳)政府当局(環境規制を実施した)は間もなく廃止されよう。
(読みやすい訳)その政府当局は、環境規制を実施したのであるが、近日中に廃止されよ
う。
(c) The senior management meeting shall investigate and determine all the problem
submitted, which shall be examined in advance by the junior management meeting.
(生硬な訳)年長者管理者会議は提出されるすべての問題を調査し決定する。それは前も
って若年者管理者会議により検討される。
(読みやすい訳)上級管理職会議は提出された一切の問題につき調査を行いこれを決定す
るが、事前に若手管理職会議での検討を行うものとする。
(d) The specifications shall be sent to the Engineering Department manager, who will
approve it without delay.
(生硬な訳)
仕様書は技術部長へ送付されるが、
彼はそれを遅滞なく認可するものとする。
(読みやすい訳)仕様書は技術部長宛送付される。技術部長は、遅滞なくこれを承認する。
(e) Within 30 days after the execution of this Agreement, Licensee shall pay Licensor a
sum of advance royalty amounting one million US dollars (US $1,000,000), which
shall be credited against, and deducted from, running royalties becoming due.
(生硬な訳)本契約締結後30日以内に、ライセンシ-は、ライセンサ-に対し、100
万米ドルの前払いロイヤリティを支払うものとし、これは支払期に達するランニング・ロ
イヤリティに対して貸方記帳されこれより差し引かれる。
(読みやすい訳)本契約締結の後30日以内に、ライセンシ-は、100万米ドルの前払
いロイヤリティを支払うものとする。この前払いロイヤリティは、支払期限の到来したラ
ンニング・ロイヤリティに引き当てられ、且つそれから差し引かれるものとする。
《まとめ》
関係代名詞の前にコンマがあれば、勿論切って訳す。
(4) 制限用法でも関係代名詞を切って訳す
関係代名詞は日本語にはない用法であるので、翻訳に当たっては頭を悩ます厄介な問題
であるが、これは関係代名詞文節をそのまま先行詞の前に持ってきて、これを修飾しよう
と考えるから難しいのであって、これを関係代名詞できって、二つの文にわけて訳すこと
をタブ-だと考えなければ難しい問題ではないのである。
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法律文は厳密な修飾をともなうから、英文の法律文にあっては関係代名詞、それも制限
用法の関係代名詞が非常に頻繁に使われるが、この関係代名詞節をすべて先行詞の修飾語
に訳さなければならないというように考えないことである。翻訳した日本文の法律文は正
確に英文の文意を伝えていればよいのであるから、関係代名詞文節で限定した部分を、別
の文にわけて前段の文を限定するように書いてもよいのである。例えば、The student
shall pay a tuition amounting one million yen (¥1,000,000) which shall not be
refunded. という文章は、関係代名詞
which のところで切って「学生は授業料100万
円を納入しなければならない。この授業料は返却されることはない。」と二文に訳しても法
律的な文意は変わらない。このように関係代名詞はたとえそれが制限用法であっても、日
本文では二文にわけて訳してもよいことを知っておくとよい。
法律文においては関係代名詞を無理に修飾節として訳さず、別の文にして前段の文を限
定するような書き方ができることを知って、大いに利用するとよい。制限用法の関係代名
詞だから文を切らないで一文に訳さなければならないと思わず、前の文の限定であるとい
う注意をわきまえながら、二文にわけて訳してもよいことを次の例文から体得して頂きた
い。
例文
まず自分で訳してみよう。
(a) The Joint Venture Company shall have, at the time of incorporation, an authorized
capitalization of eight hundred million yen (¥800,000,000) which shall be divided into
sixteen thousand (16,000) shares of common stock having par value of fifty thousand
yen (¥50,000) each.
(語註)incorporation: 設立、authorized capital: 授権資本、common stock: 普通株、
par value: 額面金額
(b) Licensee shall, on or before the last day of the month following the end of each
calendar quarter year furnish Licensor a royalty statement certified by an accounting
officer of Licensee which shows gross sales and Net Sales with sufficient details and
monthly break-down of Licensed Products sold by Licensee and any sublicensee or
sublicensees during the preceding calendar quarter year together with the running
royalty rate, the currency
conversion rate and the computation of the royalties due
and which shall be accompanied with the payment of the amount of royalties due.
(語註)calender quarter year: 暦年四半期、furnish: 供給する、certify: 証明する、
sufficient detail: 充分な詳細、break down: 内訳、preceding: 前期の、currency: 通貨、
conversion: 変換、accompany: 一緒に添付する
(c) The Contractor shall cure any defect in the materials and equipment of the Plant
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