Chelsea Flower Show

随想
チェルシー・フラワー・ショウ
(一財)素形材センター 会長
新
欣
樹
私の趣味の一つに、バラのガーデニングがありますが、ガーデニングの愛好家なら、イギリス
ロンドンで開かれる「チェルシー・フラワー・ショウ」はよくご存じのことと思います。私もこ
の数年、「チェルシー・フラワー・ショウ」に通っており、ここでは、そのご紹介をしてみたいと
思います。
毎年 5 月の第 4 週に 5 日間の会期で開かれるこのフラワー・ショウは、王立園芸協会(RHS)
の主催で、1913 年から、ほぼ毎年、ロンドンにあるチェルシー王立病院の敷地を会場として開催
されてきたイギリスで最も権威のあるガーデニング・ショウです。
火曜日が開会日ですが、その前日の月曜日は特別内覧の日となっており、RHS のメンバーの中
でもガラ・プレヴユー・チケットを持った人だけが入場でき、また、エリザベス女王をはじめ王
族もこの日に見て回ることになっています。会場には、シャンペンとカナッペが用意され、生演
奏のバックミュージックが流れるので、とても優雅な気分で鑑賞できます。
開会日と翌 2 日目の水曜日はメンバーの日で、RHS のメンバーとその同伴者に限って入場が認
められます。一般の観客は、3 日目以降になります。しかし、メンバーも一般観客も、あらかじ
め RHS にチケットの申し込みをし、名前入りのチケットが手元に送られて来て初めて入場でき
るのです。このようにチケットを手に入れるにはいささか面倒な手続きがあるにもかかわらず、
チケットはほぼ半年前には売り切れてしまうという盛況を呈しているのが「チェルシー・フラワー・
ショウ」なのです。
フラワー・ショウの内容は、大きくは、モデル・ガーデンの展示部門と花の展示部門とに分かれ、
それぞれ、優秀な作品の順に、Gold、Silver‑Gilt、Silver、Copper のメダルが与えらます。ただ、
オリンピックのメダルと違って、各賞は 1 部門に 1 つではなく、一定の水準に達しているかどう
かで認定されるので、出品作品の半分に Gold メダルが与えられるということも珍しくはありませ
ん。今年は 15 の出品のうちの 10 に Gold メダルが与えられた部門もあり、流石に、審査のやり方
に公然たる批判が出始めたようです。
モデル・ガーデンの展示部門は、植え付けた様々な草花とともに、池や水の流れ、小屋などを配
置して、庭全体を引き立たせる造園技術を競うもので、今年でいえば観賞用の「Show Gardens」
、
職人好みの「Artisan Gardens」
、斬新さを競う「Fresh Gardens」などの部門に分かれています。
日本からは、長崎出身の造園家 石原和幸さんが、苔の魅力を駆使した庭造りで過去連続して Gold
メダルを得てきました。一、二度、子供の頃の秘密基地の思いを題材にした作品などが、イギリス
の庭のイメージの評価基準に十分受け入れられず、Silver メダルに留まったことはありましたが、
その後は昨年、今年と Gold メダルを得ています。
花の展示部門は、巨大なテント張りのパヴィリオンの中に、それこそあらゆる種類の花の園芸
店が出展していて、一歩パヴィリオンの中に入ると、まさに「百花繚乱」です。
バラの展示は、イングランドの国花にふさわしく、いくつものナーサリーが覇を競っています
が、中でもピーター・ビールズとデヴィッド・オースチンの両ナーサリーは、他を圧する感があり
ます。バラは、イギリスでは、通常 6 月の中旬が見頃なのですが、彼らは 5 月のこのチェルシー ・
フラワー・ショウに合わせて、展示用のバラの開花の調整をするのです。他の花々も同様で、調
整の技術も、当然評価の対象となります。
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イギリス特有の花に、フクシアがあります。高
温多湿に弱いので、日本では夏を越しにくく、栽
培が一般的ではありませんが、イギリスでは、く
す玉が割れたように咲くこの花の愛好者が多いの
です。私の家内はフクシアが大好きで、約 30 年前
に私が通商産業省(現在の経済産業省)から派遣
されてロンドン勤務になったときに、フクシアの
ナーサリーの店主と知り合い、日本に帰国後も交
流を続けてきました。その縁で、ある育種家の手
で、家内の名前の付いた「Kuniko Atarashi」とい
うフクシアの品種を開発して貰い、数年前それが
フクシア「Kuniko Atarashi」
「チェルシー・フラワー・ショウ」に出品されたの
です。家内が日本から勇んで飛んでいったのは、
申すまでもありません。
実はこの話には続きがあって、その翌年に、そ
の育種家から私あて E メールが届き、「今度はクレ
マチスの新種を開発したので、貴方の名前をつけ
て良いか」というのです。送られて来た花の写真
を見ると、8 枚の花弁を持つフジ色がかったブルー
の色のなかなかに品がよいクレマチスなので、一
も二もなく承諾しました。そうしたところ、一昨
年の「チェルシー・フラワー・ショウ」に、この
クレマチス「Kinju Atarashi」
クレマチス「Kinju Atarashi」を中心的構成とす
るディスプレーがクレマチスの専門ナーサリーに
よって出展されることになり、私にも招待があり
ました。喜んでその年の「チェルシー・フラワー・
ショウ」に参加したところ、何とそれが見事 Gold
メダルを得たのでした。一緒に行った家内からは
「棚ぼたじゃないの」と苦笑されてしまいましたが、
確かに、クレマチスの愛好家でもない私が、自分
の名前の付いたクレマチスを RHS に登録すること
になり、それが「チェルシー・フラワー・ショウ」
で Gold メダルの栄誉に浴することが出来たのも、
チェルシー・フラワー・ショウ会場風景
家内が何年にもわたって育んできた育種家との交
流があったればこそのことで、私にとっては「棚ぼた」以外の何ものでもありません。
パヴィリオンには、数年まえから盆栽も出品されるようになり、日本の出品者かと見ると、実
はイギリス人だったりして驚くこともあります。それだけ盆栽が国際化してきているもので、因
みに盆栽を含む日本の庭木の輸出額は年間 67 億円にも上るそうです。また、会場には、関連グッ
ズを売る店も立ち並んでいますので、日本では見かけないガーデニング用品の使い方を知るなど、
一軒一軒覘いて回るのも面白いかもしれません。
日本でも、5 月中旬に西武ドームで、「国際バラとガーデニングショウ」という催しが開かれま
す。こうした催しが盛況を呈し、ガーデニング愛好家が増えるのは嬉しいことですが、本場ロン
ドンの「チェルシー・フラワー・ショウ」を訪ね、雰囲気に触れてみるのもグリーンフィンガー
としては無上の楽しみではないでしょうか。
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