進歩する胃がんの治療 - 岐阜県がん情報センター

平成25年9月7日
第1回岐阜県がん情報センター県民公開講座
進歩する胃がんの治療
岐阜県立多治見病院消化器内科
佐野 仁
本日の内容
• 胃がんの現状
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
本日の内容
• 胃がんの現状
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
胃がん死亡率の推移
主ながん死亡者数の推移
胃がんの死亡者数の推移
人
岐阜県立多治見病院における癌罹患部位
H21年度
岐阜県立多治見病院における癌罹患部位
H21年度
胃がん
• 近年減少傾向にあるものの、悪性腫瘍による
死因では肺癌についで第2位。日本における
胃癌の頻度は欧米に比べ高い。
• 男女比 2:1
• 50~60歳代に好発
• 好発部位 前庭部、胃角部、胃体部の順
• 組織型 腺癌
• 病因は不明であるが、ヘリコバクターピロリの
関与が注目されている。
胃がん(病型)
• 早期胃癌
– がんの浸潤が粘膜内または粘膜下層までに限局
しているもので、病変の大きさやリンパ節転移の
有無は問わない。
– 早期癌の5年生存率
• 粘膜内癌 90%以上
• 粘膜下層 80%以上
• 進行癌
– がんの浸潤が粘膜下層をこえるもの
胃がんの肉眼分類
胃がん (症状)
• 【自覚症状】
– 特有な症状はない。早期胃癌では約半数は無症状。
– 一般には心窩部痛、腹部膨満感、胸やけ、吐き気、嘔吐、
食欲不振などの消化管愁訴から始まる。
– 体重減少や貧血症状で受診することもある。
• 吻門部癌:嚥下困難
• 幽門部癌:嘔吐など幽門部狭窄症状
• 【他覚症状】
– 早期癌ではほとんどない。
– 進行癌である程度の大きさになると上腹部に腫瘤を触知
するようになる。
胃癌ステージ分類
胃がんの進展様式
• 水平方向、垂直方向への直接浸潤
• 腹膜播種
– 癌が漿膜を越えると腹腔内に癌細胞が散布される。
– 腹膜播種が広範囲におよぶと癌性腹膜炎を生じる。
– ダグラス窩に転移性腫瘤を触れる→シュニッツラー転移
• リンパ行性転移
– 所属リンパ節から周囲へ広がる。
– 左鎖骨下リンパ節への転移:ウイルヒョウ転移
• 血行性転移
– 胃周囲の静脈から門脈経由で肝臓への転移が最も多い。
– ほかに肺、骨、脳、皮膚など
本日の内容
• 胃がんの状況
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
胃がんの診断
• X線造影検査
– 早期癌:扁平隆起、浅い陷凹、粘膜ひだ集中と断裂
– 進行癌:陰影欠損、狭窄、粘膜ひだの断裂、悪性ニッシェ、
胃壁の硬化像
• 上部消化管内視鏡検査
– 早期癌:低い隆起、浅い陷凹、退色調粘膜など
– 進行癌:周堤を伴う不整潰瘍、胃の拡張不良など
• 腹部CT検査、超音波検査
– 肝臓やリンパ節転移、腹水などの有無を検索
• 鑑別診断
– 早期癌:良性潰瘍、胃炎、腺腫性ポリープなど
– 進行癌:肉腫、粘膜下腫瘍、悪性リンパ腫など
本日の内容
• 胃がんの状況
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
胃がんの治療
• 内視鏡的治療
– 内視鏡的粘膜切除(EMR)
• 2cm以内の隆起性病変、2cm以内の潰瘍を伴わない陥凹性病変、
組織学的には分化型腺癌
– 内視鏡的粘膜切開剥離術(ESD)
• 分化腺癌、陥凹性病変では潰瘍(-)
– 切除後の病理組織検査で粘膜下層に浸潤を認めた場合、
粘膜筋板からの最深距離が500μm以内であれば追加外
科手術は必要ない。
• 癌浸潤が500μm以上(sm2)ではリンパ節転移が5~10%あるの
で、外科的治療を追加する。
– 脈管浸潤についてはその程度を判断し、外科手術するか
どうかを決める。
ESD(Endscopic Submucosal Dissection内視鏡的
粘膜下層剥離術)とは
病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して病変
を切除する方法
•長所
大きな病変であっても(理論的には)一括切除
が可能
術後の病理組織学的検索が十分に行える
・短所
手技が難しい
出血が多い
穿孔が多い?
時間がかかる
根治性を損なわずに、患者に高い
QOLを提供することが最大の利点
実際には以下の順序で進んでいく
① 適応の評価
② 実際の手技
③ 切除標本の評価(追加治療が必要か否か)
① 適応の評価
・組織型
・深達度
・大きさ
・通常の内視鏡観察(生検), NBI拡大内視鏡、超音波内
視鏡および胃透視検査(UGI)を用いて総合的に適応を判
断。
① 適応の評価
② 実際の手技
切除の実際(道具の選択)、偶発症
ESDに必要な道具
① 高周波装置
② 内視鏡(送水機能付きがbetter)
③ CO2送気装置
④ フード(キャップ)
⑤ ナイフ
ESDに必要な道具
① 高周波装置
ICC200
VIO300D
ESDに必要な道具
② 内視鏡(送水機能付きが必須)
食道、胃: Q260J
大腸:PCF:260J
※ 食道、胃ではマーキング目的に H260Zを
使用することが多い(境界不明瞭の場合)
ESDに必要な道具
③ CO2送気装置
CO2は空気の200倍の吸収能!!
→大腸ESDでは必須
また、食道ESDでは ちょっとしたことで空気が
縦隔に漏れやすいためCO2が良い
胃ESDでは、病変が大きかったり、出血しやす
い病変では効果を発揮する
ESDに必要な道具
④ フード(キャップ)
フードは、ESDでは必須!!
食道: F-30、STフード
胃 :F-30 , (場合によってはSTフード)
大腸 : STフード
※ オリンパス社製のものは用いない
F-30
観察用
STフード
ESDに必要な道具
⑤ ナイフ:
ナイフは、大工さんののみと同じ
場面によって使い分けることが大切
当院におけるナイフの種類
非先端系=ITナイフ
ITナイフ、ITナイフ2、 IT nano
ITナイフ2
IT nano
長所:先端に絶縁体があるため安全、早い、ブラインド
で切れる
短所:食道、大腸には不向き
先端系
フラッシュナイフ、フラッシュナイフBT、フックナイフ
フラッシュナイフ
フラッシュナイフBT
フックナイフ
長所:細かい操作が可能、 粘膜下に局注しながら連続
して切開・剥離を行える
短所:操作に慣れるまではかえって使いにくい(難しい)
『はさみ』
SBナイフJr
フックナイフ
長所:とにかく安全。 筋層と正対する部分ではこれらの
デバイスが必須
短所:時間がかかる、助手にも技量が必要
ナイフの選択
食道:フラッシュナイフ(BT)、 SBJr(フック)、 IT nano
胃 :ほとんどの場合はIT2でOK。 あとはフラッシュナイフ
大腸:フラッシュナイフ(BT)、 SBJr(フック)、 IT nano
① 適応の評価
② 実際の手技
偶発症、術中管理
実際の手順
病変周囲をマーキング
周囲切開
実際の手順
粘膜下層剥離
腫瘍
剥離面
剥離後潰瘍
治療中
・体位の工夫:循環障害予防
→ 弾性ストッキング、体圧分散マット、体
交枕等(安楽な体位が保てるように)、体位
変換(休憩もかねて)
•肺合併症対策:オーバーチューブ、弾性ス
トッキング、体位変換、唾液吸引、
・介助
→患者の観察、記録、薬剤・薬液準備、ナ
イフの洗浄等
切除標本
術後のフォロー
・病理学的診断で完全切除と診断された場合は、創傷
治癒と異時性異所再発のチェックのために、治療後は
2カ月後と1年後に内視鏡検査を行い、以後は1年おき
に5年間、経過観察を行う。
•適応を超えたESD例や追加手術を希望されない方で
は、リンパ節転移のリスクが高いと考え、CTや腹部エ
コーを加えた定期的なフォローが必要といわれている。
術中管理
偶発症発生時
・出血:
事前の情報収集(高血圧と、DMは出血の
リスク)。 内視鏡的な止血以外に降圧剤
(ペルジピン)の投与
・穿孔:
皮下気腫、気腹、SPO2の低下、脈拍や血
圧の変動、激しい体動、苦痛表情は穿孔
の可能性あり
ゆえに・・・
・モニター装着は必須
•安全な術中管理、呼吸・循環管理に十分
な鎮痛・鎮静は必須
→送気やスコープ操作で苦痛を伴うことも
多いため鎮痛薬も併用がよいといわれて
いる
• 胃がんの状況
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
胃がんの外科的治療
• 腹腔鏡下手術
– 内視鏡的治療が困難な粘膜内癌
– 全層切除が最もよく行われている。
– 周囲のリンパ節切除が可能
• 開腹手術
– 幽門側胃切除;癌が末梢側1/2に限局している場合
– 噴門側胃切除;胃上部1/3に限局し、比較的早期の場合
– 胃全摘術;癌が全体に広がっていたり、上部にあるが進
行している場合。
• 姑息的手術
– バイパス術
胃切除術式
胃切除後の再建術式
胃幽門側切除後
胃全摘術後
腹腔鏡補助下幽門側胃切除術
■腹腔鏡(補助下)胃切除術
従来の開腹手術では腹部を約15-20cm切開します。
腹腔鏡下手術では腹部に数カ所の孔(05-1.2cm)をあけて
、
お腹の中に二酸化炭素を入れて空間をつくり(気腹)、
腹腔鏡というカメラや特殊な器械を用いて、
テレビモニターをみながら手術します。
切除した胃を取り出すために4-5cm程度の傷は必要です
。
現在までの腹腔鏡下手術の術後長期の成績は、
従来の開腹手術と同等です。
出典:東京医科歯科大学
低侵襲医学研究センターHP
腹腔鏡下幽門側胃切除術
出典:公益法人癌研究会HP等
腹腔鏡下幽門側胃切除術
■腹腔鏡下手術の利点
1.術後の腸運動の回復が早く、食事の開始が早い。
入院日数が短い(術後は7~10日程度で退院です)。
2.痛みは従来の開腹手術よりは少ない
(傷はありますから痛みは多少あります。また痛みは個人差も
大きいです)
3.手術中の出血量が少ない。
4.術後の腸閉塞の発生が開腹手術より少ない。
■腹腔鏡下手術の問題点
1.開腹手術に比べて手術時間が1時間ほど長い。
2.視野が限られているため他の臓器を損傷する可能性がある。
3.思わぬ出血のとき対処しづらい。
2、3の時は危険が伴いますので従来の開腹手術へ移行します。
腹腔鏡下幽門側胃切除術
・30歳台 女性
・診断契機:
母が胃がんのため、ピロリ菌の検査目的に内視鏡検査を受診
腹腔鏡補助下幽門側胃切除術の実際
今後の展望
創が小さいため、術後の痛みが軽く、
早期退院・社会復帰が可能
「開腹手術と同等の成績で根治性があり、合併症の発
生も少ない。それでいて、患者さんの体への負担は著
しく軽いというのであれば、むしろ、開腹手術より優れ
ている」ともいわれています。従って、今後も腹腔鏡下
胃切除術の割合はさらに増加すると予想され、胃がん
手術の標準的治療になっていくものと考えられる。
• 胃がんの状況
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
がん患者さんが、その居住する地域にかかわ
らず 、等しくがんの状態に応じた適切な
医療 を受けることができる。
がん診療連携拠点病院
二次医療圏に1ヵ所程度の地域がん診療連携拠点病院
岐阜県内のがん診療連携拠点病院
岐阜県のがん診療連携拠点病院
2次医療圏:5
拠点病院:7
岐阜医療圏:岐阜市、羽島市、
各務原市、山県市、瑞穂市、本巣市、
本巣郡、羽島郡
高山赤十字
西濃医療圏:大垣市、海津郡、
養老郡、不破郡、安八郡、揖斐郡
中濃医療圏:関市、美濃市、
美濃加茂市、可児市、郡上市、
武儀郡、加茂郡、可児郡
東濃医療圏:多治見市、中津川市、
岐阜市民
瑞浪市、恵那市、土岐市、土岐郡、
大垣市民
恵那郡
飛騨医療圏:高山市、飛騨市、
下呂市、大野郡、吉城郡
木澤記念
岐阜大学
岐阜県総合医療C
県立多治見
岐阜県立多治見病院ホームページ
http://www.tajimi-hospital.jp/index.html
当院の疾患別セカンドオピニオン担当医師一覧
がんの種類
診療科
セカンドオピニオン
対応医師
役職
肺がん
呼吸器内科
森 俊之
呼吸器内科部長
消化器がん
消化器内科
佐野 仁
消化器内科部長
(胃がん・大腸がん・肝がん)
消化器外科
原田 明生
院長
乳がん
乳腺・内分泌
外科
舟橋 啓臣
特別顧問
子宮・卵巣がん
産婦人科
竹田 明宏
産婦人科部長
血液がん
血液内科
花村 明利
血液内科部長
頭頚部がん
耳鼻咽喉科
上田 幸夫
副院長・耳鼻咽喉科部長
高士 宗久
泌尿器科部長
前立腺、腎、膀胱がん 泌尿器科
口腔がん
歯科口腔外科 堀田 文雄
歯科口腔外科部長
放射線治療
放射線科
放射線科部長
小山 一之
• 胃がんの状況
• 胃がんの診断
• 胃がんの治療
– 内視鏡治療
– 外科的治療
• がん拠点病院としての取り組み
• 癌連携パスについて
連携パス
ご清聴ありがとうございました