水、氷に変化する「水」

18 雲や雪を作る
自然研究講座
小西啓之
地球上には水が豊富にあり、地球は水惑星といわれている。地球を取り巻く
大気中にも水が、豊富にあり、しかも「水蒸気(気体)」、
「雲粒(液体)」、
「氷晶(固
体)」と異なる相で存在している。濡れているものが乾いたり、雨や雪が降るこ
とからも、地表付近で水が三態(固体、液体、気体)のいずれの相でも存在して
いることがわかる。本実験では、水という物質が異なる相に変わる現象(相変化)
およびその際に発生する(吸収する)熱について理解を深めることを目的とする。
具体的には、雲粒やダイヤモンドダストを作ったり,過冷却水を作ったり,氷
の融解熱,水の蒸発熱を測るなど気象に関連した水と氷を使った実験を行う。
1. 水(液体)から水蒸気(気体)へ
身の回りにある水(液体)は、水蒸気
(気体)に容易に変わる。例えば、洗濯
物を干せば、水が水蒸気に変わり乾く。
空気中に含むことができる水蒸気量に
は限界があり、その限界の量(飽和水蒸
気量)は、気温が高いほど多い。乾燥機
に洗濯物を入れると速く乾くのは、乾
燥機中の気温が上がり、空気中に含みうる水蒸気量が増え、水が蒸発しやすく
なるためである。
水が蒸発するためには、蒸発熱が必要で、その熱の大きさは、きわめて大き
い。夏の暑い日に打ち水をして、空気を冷やすのはその熱の利用である。また、
昔から中東や東南アジアで冷水を作るために素焼きの壷に水を入れておく方法
が取られている。これは、素焼きの壷には水が染み出す程
度の無数の小さな穴が開いているから壷の表面に染み出た
水が、蒸発するときに水から熱を奪う(蒸発に必要な潜熱を
水の温度を下げることから得る)ためである。
注(1):地上付近で空気中に水蒸気の占めることができる割合
は、気温が高いほど多く、0℃で約 0.6%(飽和水蒸気圧 6.11hPa)、
10℃で約 1.2%(同 12.27hPa)、
20℃で約 2.3%(同 23.37hPa)、
30℃
で約 4.2%(同 42.43hPa)までである。
「実験 1」
:蒸発の潜熱を測る実験。素焼きの壷は簡単には
手に入らないので、ここでは素焼きの植木鉢(直径 8cm程度)
にゴム栓をして壷の代用として実験を行う。ゴム栓をして
水が漏れないようにした植木鉢に水を入れ、水が染み出て
からの鉢の中の水の温度変化を測定する。うちわなどで扇
いで蒸発しやすくすると、より温度が下がるはずである。
蒸発の潜熱の大きさを知るには、低下した水の温度、蒸発した水の量を測定す
れば、おおよその値が得られる。
水の量を x(g)、蒸発した水の量をΔx(g)、水温の低下をΔT(℃)、潜熱を L(cal/g)、
水の比熱を C(cal/g/K)とし、水の蒸発と水温の低下以外に熱のやりとりがないと
すると、L・Δx = C・x・ΔT となり、実験値より潜熱 L が求められる。しかし
実際には、潜熱は植木鉢自体の温度低下や周りの空気の冷却にも使われるので、
それらの熱量を考慮しないと、潜熱の真値(25℃で 582cal/g、100℃で 537cal/g)
に近づかない。
準備するもの:素焼きの植木鉢、ゴム栓、室温の水(蓋つきの容器入り)、天秤
(分解能 0.1g、最大秤量 500g 程度)、温度計(分解能 0.1℃でサーミスター温度
計など熱容量が小さいものが良い)、植木鉢を支える三脚
2. 水蒸気(気体)から水(液体)へ、場合によっては氷(固体)へ
(1)とは逆に、空気が冷えると、空気中に含むことができる水蒸気量がその限
界(飽和)を越えるので、水蒸気が露(液体)や霜(固体)になる。冷蔵庫から牛乳
やジュースを出しておくと容器の周りに露がついたり、風呂を開けたままにし
ておくと浴室の窓などに露がつくのは、空気が冷えて空気中に含むことのでき
る水蒸気が減るために水蒸気でいられない分が水に変わるからである。寒い朝
にハーッと息を吐き出したときに白く見えるのも、吐いた暖かい息に含まれる
水蒸気が周りの空気によって冷やされて水蒸気でいられない分がたくさんの小
さな水滴に変わるからである。
0℃以下まで冷やすと露ではなく霜ができる。例えば、冷凍庫から凍らせたア
イスクリームなどを出しておくと、数分のうちにその周りが霜で白くなる。空
気中に含まれる水蒸気が冷えて水蒸気でいられない分が氷に変わるためである。
水が凍ってできるわけではない。
「実験 2」
:保冷剤を利用した雲を作る実験。冷凍庫で十分に冷やした保冷剤(氷
点下で保存することを目的とした強力なものは長時間実験できる)を発泡スチ
ロール容器の周りに入れ、その中に上部の空いた内部を黒く塗った空き缶を入
れる。容器内が十分冷えるまで数分待って、息を吹きかけ、懐中電灯などで照
らすと白いもやもやとした雲を見ることがで
きる。一つ一つの水滴は水なので無色で透明で
あるが、小さな水滴がたくさん集まった雲は、
光をいろいろな方向へ散乱させるために白く
見える。
このもやもやとした雲の中で、割れ物の包装
などに用いられるプチプチと呼ばれるエアキ
ャップ 1 つを手で破裂させる。すると白くもや
もやした雲が、きらきら輝く小さな粒に変わる
ことが観察される。雲粒(液体)から氷晶(固体)
へ変わった結果である。雲の中でこのような現
象が起こると雪結晶の誕生になり、地上で生じるとダイヤモンドダストと呼ば
れる。
ひとたび過冷却水
水の飽和蒸気圧(ew)と氷の飽和蒸気圧(ei)
滴の雲内に氷晶がで
0
-5
-10 -15 -20 -25 -30
きると、水滴は蒸発 温度(℃)
6.11 4.21 2.86 1.91 1.25 0.81 0.51
し、氷晶が成長する。 ew(hPa)
6.11 4.01 2.60 1.65 1.03 0.63 0.38
これは同じ温度では ei(hPa)
0.00 0.20 0.26 0.26 0.22 0.18 0.13
水より氷の飽和蒸気 ew-ei(hPa)
圧が低いので、水に
は未飽和、氷には過飽和の状態ができるためである。飛行機からドライアイス
を撒くなどの方法で行われている人工降雨や降雪は、この原理を利用したもの
で液体の雲粒を固体の氷晶にして成長を早めて降らせている。スキー場で行わ
れている人工降雪は、小さい氷の粒を撒く場合と水と圧縮した空気を混ぜて霧
状に撒く場合があるそうだ。後者の人工降雪の原理は圧縮した空気は膨張する
時に温度が下がるので、それを利用して一緒に撒いた霧状の水を凍らせようと
いうものである。
準備するもの:十分冷やした保冷剤(-20℃以下が望ましい)、発泡スチロール
容器、中を黒く塗った空き缶(アルミホイルで作っても良い)、懐中電灯(明る
い方が良い)、エアキャップ
3. 過冷却の水
(2)の実験で、氷点下の容器中に浮かんでいる白い雲は、氷点下にもかかわら
ず、氷ではなく水の粒からできている。水は 0℃になると凍ると思われがちだが、
0℃以下ですべて凍るわけではない。天然の雲では、凍らないままの雲粒だけか
らなる雲は、-5℃で 80%、-10℃で 50%、-20℃で 10%程度あると言われて
いる。0℃以下になっても水が凍らないことを過冷却と言い、純粋な水では約-
40℃まで凍らないことがある。凍るためには凍結核が必要で 0℃以下になっても
水が凍らないことを過冷却と言い、純粋な水では約-40℃まで凍らないことが
ある。
しかし、過冷却は不安定な状態なので、核と呼ばれる小さな「ちり」がある
と凍り始める。この「ちり」のことを凍結核や氷晶核といい、低温になるほど
有効に働く「ちり」の数が増える。バケツや池の水が凍る時にはほとんど過冷
却は起こらず 0℃で凍り始めるのは、多量の水の中には必ず凍結核があることや
水表面からの蒸発によって水表面の温度が局部的に0℃以下になるためである。
雲粒のような小さな水滴には、0℃付近で働く凍結核が少ないので 0℃よりずっ
と低温にならないと凍り始めない。雲の中では粘土鉱物などの小さな粒子が氷
晶核として働くことが多い。
「実験 3」
:過冷却の水を作る実験。氷に塩を入れると、塩が寒剤として働き-20℃
程度まで下がることが知られている。これを利用して水を静かに冷やして過冷
却の水を作る。まず、ボウル状の容器に細かく砕いた氷(カキ氷や積もった雪な
どのほうが塩と混ざりやすいので良い)と塩を入れよく攪拌し、棒温度計でその
温度を測定する。-10℃程度になったら、水を 1/3 程度入れた試験管をその容
器に立てて入れ、3 分程度待つ。そっと試験管を取り出せば、過冷却の水ができ
ているはずである。試験管を振ったり、試験管に氷のかけらを入れ、氷ができ
れば過冷却していた証拠である。温度計を試験管に入れたまま冷やし、0℃以下
まで下がるか否かを見ても過冷却状態を確認することができる。過冷却状態が
壊れ、氷ができると、氷水の温度は 0℃に上がる。
また、塩と氷の代わりに-5℃程度までしか下がらないキャンプ用のポータブル
冷凍庫を利用すると、多量の過冷却水を作ることができる。ここでは、この過
冷却水も用いて凍る過程の観察を行う。
準備するもの:細かく砕いた氷、塩、容器、試験管(数本)、水、棒温度計(2 本)
4.水蒸気(気体)から、氷(固体)の結
晶成長
雪の結晶の形は、六角形が基本で
あるが、成長する気温によって角柱
状か角板状に変わる。0~-4℃と-
10~-22℃では角板状、-4~-
10℃と-22℃以下では角柱状にな
る。また、湿度(空気中の水蒸気量)
によっても多少形が変わり、水蒸気
量が少ない場合は、中身が詰まった
無垢な形になり、水蒸気量が多い場 Kenneth Libbrecht(2003)より和訳して引用
合は、表面積が大きい中空の柱状や
多数の細く枝が伸びた樹枝状になる。
「実験4」:ペットボトルの中の釣り糸に雪結晶を作る実験(平松式人工雪発生
装置)
右図のようにペットボトルとドライア
イスを用いた簡単な装置で人工雪結晶を
作ってみる。まず、ペットボトル内に少
量の水を入れ、息を吹きかけてゴム栓を
する。ゴム栓には錘をつけた釣り糸をブ
ランコのようにたらしておく。次に、断
熱容器の中にペットボトルを入れ、その
周りにドライアイスを詰めふたをする。
30 分程度待つと釣り糸に雪結晶が成長
する。釣り糸の周りにはどのような変化があるでしょうか。
準備するもの:ドライアイス、断熱容器、ペットボトル、ゴム栓、釣り糸、おもり