日本のケーススタディ (アカデミック・スタートアップ)

法政大学経営学部特殊講義
「ハイテクベンチャーの経営戦略」第6回講義
日本のケーススタディ
(アカデミック・スタートアップ)
2010年6月26日
新藤 晴臣
(大阪市立大学大学院 創造都市研究科 准教授 )
目次
1.ケースの背景
2.アンジェスMGの事例
3.セルシードの事例
4.事例分析
5.ディスカッション
1.ケースの背景
1)アカデミック・スタートアップの状況(pp.6、pp.172)
出所:経済産業省(2009)
2)産学連携政策の推移(pp.181)
1998年 「大学等における技術に関する研究成果の民間
事業者への移転の促進に関する法律」制定
TLOの設立と研究機関の知財取得・移転が促進。
1999年 「国立大学等の民間企業役員兼業問題に関する
対処方針」制定
大学教員のASへの参画が可能。
2001年 「新市場・雇用促進に向けた重点プラン」制定
3年間で1,000社のAS創出を目標。
2002年 「大学等における技術に関する研究成果の民間
事業者への移転の促進に関する法律」告示改正
承認TLOの創業支援事業の円滑化が可能
3)医薬品の開発プロセス(pp.19)
2.アンジェスMGの事例
1)会社概要(pp.180)
【 本 社 】 大阪府茨木市
【 設 立 】 1999年年12月
【 代 表 】 山田英
【従業員】 90人(連結:2008年12月末)
【 事 業 】 遺伝子医薬品の研究開発
【 財 務 】(連結)
2)沿革(pp.181)
1999年12月 大阪府和泉市に株式会社メドジーンを設立
2000年08月 石原産業株式会社と提携
(HVJエンベロープベクター)
2001年01月 第一製薬株式会社と提携
(HGF遺伝子治療薬)
2002年09月 東京証券取引所マザーズ市場に株式公開
2004年03月 商号をアンジェスMG株式会社に変更
2006年12月 バイオマリン・ファーマシューティカルと提携
(ナグラザイム)
2008年04月 コラテジェン国内承認申請
3)技術と製品(pp.182)
☆HGF遺伝子治療薬
4)トップ体制(pp.183~186)
①発明家(大阪大学大学院医学研究科教授・森下竜一)
1991年 スタンフォード大学・研究員(技術移転を経験)
1998年 大阪大学大学院医学研究科・助教授
②起業家
冨田憲介
小谷均
村山正憲
山田英
三共→イーライリリー→RPRジェンセル
米国陸軍病理学研究所→ジェンベック
ドイツ銀証券→ゴールドマンサックス
三菱化成工業→そーせい→ドラゴン・ジェノミックス
→複数経営者体制、経営チームの変遷、ExecutiveとBoard
5)技術開発と知的財産(pp.187~188)
①複数パイプライン
・HGF、NFκB、HVJなど
の
AS向き技術を複数確保
②知的財産権
・自社開発の他、企業、
大学等から実施権獲得
・国際特許の出願判断
6)提携による事業展開(pp.188~190)
①アライアンスによる資源調達
②短期収益化可能な製品
・コラテジェン承認まで約10年の歳月が経過
・その間、HVJ、ナグラザイムなどにより財務CFを維持
7)株式公開と開発のジレンマ(pp.190~195)
①株式公開準備
・米国をロールモデルとし、創業時より株式公開を目指す
・ASは公器であり、会計監査などにより透明性の維持
・経営陣の拡充・交代と社員の増加(15名→63名)
②開発の進展とジレンマ
・2002年、株式公開に成功し、約30億円を調達
・HGF遺伝子治療薬の開発を進めるため赤字が増大
・2007年、第3者割当増資により70億円以上を調達
・2008年、ナグラザイムの投入により資金を獲得
3.セルシードの事例
1)会社概要
【 本 社 】 東京都新宿区
【 設 立 】 2001年5月
【 代 表 】 長谷川幸雄
【従業員】 51人(連結:2009年12月末)
【 事 業 】 再生医療事業、再生医療支援事業
【 財 務 】(単独)
2)沿革
2001年05月
2002年12月
2004年01月
2006年04月
2007年09月
セルシード設立
細胞シート工学の基本特許の専用実施権取得
レプセル、ハイドロセルの販売開始
角膜用細胞シート輸送とウサギへの移植
フランス・リヨン国立病院でヒト再生角膜移植の
治験を開始
再生医療用細胞シート培養フィルムの効率的
生産技術を確立
2007年10月 フランス・リヨンにセルシード・ヨーロッパを設立
2010年03月 ジャスダックNEO市場に株式公開
3)製品開発と技術
①再生医療
「体の一部が壊死したり、
外傷で失われたり、ガンで
正常な臓器や組織の働き
が損なわれた際、細胞を
利用し失われた機能を取り
戻すことをはかる医療」
②セルシードの技術
4)トップ体制
①発明家の背景(東京女子医科大学教授・岡野光夫)
1979年 東京女子医科大学・助手(生命医工学)
1984年 ユタ大学薬学部・客員助教授(ASへ関与)
1987年 東京女子医科大学医用工学研究施設・助教授
1989年 温度応答性ポリマーを用いた表面技術を開発
②起業家の背景(長谷川幸雄)
1983年 クリーブランドクリニック・ポストドクトラルフェロー
1992年 ファルマシアバイオテク株式会社
1993年 同社・研究開発室長(日本での技術探索・評価)
5)事業開発
①再生医療事業
角膜を中心とした再生医療用細胞シートの移植
②再生医療支援事業(レプセル、ハイドロセルなど)
組織再生用器材を製造・販売→キャッシュフローの創出
※経営資源
・専門VCを中心とした資金調達
・ジャスダックNEO市場への株式公開
・アライアンスによる開発資金の低減
6)その他
①再生医療の申請プロセス
②再生医療規制の変化
医薬発第906号、第1314号
:再生医療の安全基準
→安全性確認申請の義務
→規制面での課題が表出
③フランスでの治験
国内と並行してフランスでの
治験を並行実施
4.事例分析
5.ディスカッション
1)大学教員の産学連携経験と経営チーム構築
・米国留学の際の産学連携経験が、発明家(大学教員)に
とってロールモデルの役割を果たしている。
・またその経験から、経営チームの重要性を認識し、初期
段階からビジネス人材を含めたチームを編成している。
2)複数の技術パイプラインと製品群
・複数の技術パイプラインを持つことを通じて、単一技術に
依存するリスクを低減している。
・技術の応用先として複数の製品群を持つことで、短期と
長期の収益源を確保し、経営の安定化に取組んでいる。
3)アライアンスによる分業戦略と経営資源調達
・大企業とのアライアンスにより、自社の得意分野に開発を
を集中することで、経営資源を効果的に活用している。
・大企業は、マイルストーン投資や出資といった資金だけで
なく、ノウハウの提供先としての役割を果たしている。
4)起業インフラの功罪
・東証マザーズ、ジャスダックNEOなどの新興市場により、
資金調達面のインフラ整備が活用されている。
・薬事法などのバイオ産業に関する法律・政策の面では、
さらなる整備が求められる。
新藤 晴臣(SHINDO, Haruomi)
【連絡先(大学)】
大阪市立大学大学院 創造都市研究科
都市ビジネス専攻 アントレプレナーシップ研究分野
〒530-0001
大阪府大阪市北区梅田1-2-2-600
E-mail:[email protected]