炭素14事件ファイル 第1章 はじめに

炭素14事件ファイル
所属ゼミ:物理ゼミ
2年4組1番
第1章
青井
柾樹
はじめに
第1節 テーマ設定の理由
ことの発端は日本史の授業で「炭素14年代測定法」を学んだことである。不安定な原子(炭
素14)がβ崩壊することによって、ある物体中に含まれていた数が減りそれを元にその物体がいつ
頃のものなのかを割り出すのだという。なんとも面白いやり方である。私はその後、この測定法につ
いてもう少し見てみたいと思い調べてみることにした。ところが、調べてみると日本の教授がこの炭
素14についてごく最近、とても興味深い論文を発表していたのを発見したのだ。はじめは何の気な
しに見ていたのだがどうやら宇宙が絡んでいるらしく、さらにはいまだに謎は解けていないらしい。
宇宙は人類にとって「脳」と並ぶ未開拓分野であり謎が多い。その教授の論文によると人類最後のフ
ロンティアである宇宙とそこに浮かぶ地球との関連性がこの炭素14の謎をひも解くことでまた新
たな一歩を踏み出すことができると言う。宇宙は私にとってとても興味がそそられる対象の一つであ
る。したがって今回新たに踏み出さんとするその背景をみてみたいと思い調べてみることにした次第
である。
第2節 研究のねらい
炭素14が急増したその原因と考えられているものの理解。また、それらの現象が地球に及ぼす
危害などの調査。炭素14が増加したその意味について。
第3節 研究内容と方法
第1項 研究の内容
炭素14急増のメカニズムの調査と、それが暗示していること。当時の歴史文書などを参考に調べ
一つ一つ原因を検証していく。
第2項 研究の方法
関連ドキュメンタリーを軸にインターネットなどで肉付けをしていった。
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第2章
研究の発展
第1節 研究の始まり
物語の始まりはある一本の木からは始まった。名古屋大学・太陽地球環境研究所の増田公明准教授
らが過去の宇宙線量を調べるために屋久杉の年輪を調査したところなんと774から776年にか
けて通常の20倍にまで及ぶ炭素14値が確認されたという。これは過去3000年で最大級の増加
である。また、その後も十数年おきに小規模であるが増加現象が見られるのだ。一体このことは何を
意味しているのだろうか。ここでは炭素14がどのような原子であり、それが増加したことの重大性
を明らかにしていきたいと思う。
第1項 炭素14
炭素14はもともとこの地球上にあるものではない。宇宙から降り注ぐ宇宙線粒子が大気に進出し
たときに大気原子核と衝突して反応をおこし二次宇宙線(宇宙線が大気と反応することで大気中で生
成された宇宙線)を生成するとともに多くの放射性同位体をつくりだす。この際、成層圏で窒素原子
(N)に熱中性子(n)が吸収されることでできあがるのが放射性炭素14(C)である(N+n=
C+p)
。さらに放射性同位体であるがゆえに半減期があり、5730±40年でβ崩壊してしまう。
したがって炭素14は自然界に全ての炭素中の 1 兆分の 1 だけしか本来存在していないのだ。
このように炭素14は宇宙からの宇宙線によってつくられるもので逆にその量を測定することで
各年代の宇宙線強度の変化を知ることができるのだ。ゆえに炭素14の値が通常の20倍にあがった
774から776年にはそれほどの量の宇宙線が異例にも地球にふりそそいだということになるの
である。宇宙線と地球環境の関連性はいまだ解明には至っていないがオゾン層の破壊など何らかの影
響があることは明白である。今後このような宇宙線の増加が起きた際に人類にとって何かしらの悪影
響をおよぼすかもしれない。それ故に過去の宇宙線分析として炭素14の研究は重要視され行われて
いるのである。
第2項 炭素14の保存法
放射性元素である炭素14が大気中で生み出されると安定化するために大気中の酸素と結合して
二酸化炭素となる。それを植物や木々が光合成のため体内に取り込むことによってその時代の炭素1
4が年輪などに記録されるのだ。また、地球上の生物は植物がつくりだした有機物を食べることによ
って生きており、それによって植物が取り込んだ炭素14が動物の体内にも取り込まれる。故に生き
ている間は体内の炭素14値と大気中の炭素14値の割合が等しくなっているのである。しかし、命
が終わりを向かへ地中に埋められるなどして宇宙線を浴びなくなったり摂取しなくなったりすると
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体内の炭素14値が半減期に伴って減少していく。この時の崩壊が実に規則正しいため、この量をも
とに生き物が何年前に生命活動を停止したのかを求めるのが炭素14測定法である。
このように蓄積された炭素14の通常の20倍(核爆発実験が行われていた1960年代ごろの変
化とよく似ている)もの量が今回樹齢1900年の屋久杉から発見されたということである。なを、
この増加は南極のアイスコアからも検知されており、このことが地球規模で起こったことであると考
えられる。
第3項 宇宙線
宇宙線とは宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線のことである。陽子やヘリウム、鉄の原子核
らが“何らか”の加速機構によって非常に高いエネルギーまで加速された状態の粒子で、その粒子の
宇宙線構成割合は90%が陽子1個でできた水素原子核、9%がヘリウム原子核、残り1パーセント
が素粒子やヘリウムより重い原子核となっている。この粒子が持っているエネルギーはMaxで人工
的に作り出せるエネルギー粒子の約1000万倍のエネルギーに相当する。しかしながらこの起源と
なるものはいまだに判然しておらず宇宙物理学上の謎とされているのだ。また、粒子加速はいたると
ころにあるプラズマがおこす普遍的現象であり地球近傍や太陽の表面でもスケールは違うが同じこ
とが起こっている。なを、太陽の表面は地球に最も近い宇宙線源であり太陽フレアによってそれが
行われている。
このような宇宙線が大気と接触するとこの節の第2項で述べたとおり大気中の原子核と反応する
のであるがここではもう少し詳しく述べたいと思う。宇宙線が大気と反応すると、その強大なエネル
ギーにより原子核を破壊して中間子という新しい粒子を多数生み出すのだ。それらもまた高速で動き
回り、そうすることでさらなる中間子を生み出してその数をネズミ算式に増やしながら自らのエネル
ギーを落としていくのだ。こうして、いろいろな放射性同位体(炭素14、ベリリウム10など)を
作り出すと同時に自らのエネルギーは低下していき最終的に地表に降り注ぐのである。
第4項 過去の記録と被害
ここでは774年の炭素14増加に伴い世界でそのころの人たちが一体何を目撃したのかを知る
ため過去の歴史書を見ていきたいと思う。
1 イギリス:ケンブリッジ大学図書館
「アングロサクソン年代記」
日没直後の天空に赤い十字架が現れた
2 フランス:フランク王国VSザクセンの戦中に目撃された
3
「ラテン語の文章」 赤く燃えさかる二枚の盾が教会の上を動いていくのが見えた
3 中国:
夜、東の方角の月の上あたりにぎょしゃ座からふたご座、ウミヘビ座にかけて
「旧唐書」
10余りのまるで絹のような光沢のある光の帯が現れた
4
日本:
「続日本紀」
白虹が現れた
というように世界各地で奇妙な現象が記録されている。故にこの現象は世界規模であったことが分
かり歴史書に記録されるほど当時の人の印象に残るものだったと思われる。なを、科学的に考えると
このように地球規模で異常がみられるほど大幅に宇宙線が増大するとオゾン層が破られ地球上に大
変多くの紫外線がふりそそいだ可能性がある。そうなると、当時は世界的に日焼けや白内障、皮膚が
んなどの患者が増大し、加えて小麦や大麦などの農作物の生長が阻害されるなどして大規模な食糧難
もあったと考えられる。
第2節
犯人さがし
ここからはいよいよ炭素14が増加したことの原因について述べていこう。第 1 節の第 4 項で示し
たように宇宙線の増加は環境にも人体にも共に大きな影響力を及ぼす可能性がある。故にこれからの
地球環境に多大な影響を及ぼしかねない犯人を我々人類はこれからもこの地球で暮らしていくため
にも突き止めなくてはなるまい。その犯人捜しをこの節では第 1 節の内容をふまえてやっていきたい
と思う。
第1項 容疑者ファイル1:超新星爆発
最初の候補は発生時多くの宇宙線を出すことで知られる「超新星爆発」である。超新星爆発とは巨
大な星が長年の間燃え続け、その最期にみせる大爆発現象のことだ。約 1 億年の寿命を終えた太陽の
3~8倍もの質量をもつ巨大な星の死の瞬間のきらめきは突然新しい星が生まれたかのように明る
く光り、月のない夜でも外で本を読むことができるくらいである。記録された超新星爆発では 1986
年のケンタウルフ座があげられる。起こってから十日間はどんどん輝きを増していき最盛期には太陽
十億個分のエネルギーを放出、その後百日かけてゆっくりとかがやきをうしなっていった。その際に
はシリコン、カルシウム、コバルトなどが宇宙空間にばらまかれた。さらにガンマ線も放出される。
星間空間磁場の影響を受けないほどの高エネルギーのガンマ線は大気との反応で中性子を作り、炭素
14が生まれるきっかけをつくる。
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このように超新星爆発ならイギリスやフランスで目撃された赤い十字架や盾などの輝きを説明す
ることができる。が、残念ながら増加した炭素14の値に似合う宇宙線のエネルギーを放出する超新
星爆発の残骸が発見できないのである。超新星爆発はその巨大さゆえに残骸がのこる。今回の炭素1
4の増加に似合うエネルギーは地球から2kpc(=6520光年)のところで超新星爆発をおこし
たSN1006星と仮定すると必要な全エネルギーは10の 53 乗ergであり通常の超新星爆発と
しては大きすぎる。しかし、SN1006星の1/10の距離で爆発が起きたのであればエネルギー
が1/ 100となり矛盾が起こらないのだが、残念ながらそのような位置に超新星爆発の残骸は認
められないのだ。
第2項 容疑者ファイル2:太陽フレア
第2の候補には地球に最も近い宇宙線源である太陽表面で起こる「太陽フレア」が挙げられている。
太陽フレアは、黒点の周囲で突然大きなプラズマの炎が発せられたときにその上空に蓄えられた磁場
エネルギーが短時間に開放されることによって起こる現象である。もし、原因が太陽フレアなのであ
るならばオーロラを連想させる中国や日本の歴史書にある白い絹
や白虹
の説明がつく。巨大なフ
レアなのであれば空の輝きも理解できる。が、通常のフレアは10の29乗~32乗ergであるの
に対し、776年ごろの炭素14値の増加ほどの現象を起こすには10の35乗ergものエネルギ
ーを必要としこれは1850年~の間で観察された最大級のフレア(カリントンフレア)の10倍ほ
どの大きさが必要となり、少々考えにくい。また、同じような現象として太陽に隕石や彗星が衝突す
ることによって大量の宇宙線が飛び出してこのような膨大なエネルギーを発したとも考えられる。太
陽には1週間に数個ほどの隕石または彗星が衝突しているので可能性は否定できないが、776年の
ような増加をするには直径50km前後のへールボップ彗星クラスのものが衝突する必要があり、こ
れもまためったに起こるものではない。さらに、太陽による宇宙線の影響だと考えると年輪やアイス
コアに記録されていた炭素14とベリリウム10の生成割合が一致しない。
第3項 容疑者ファイル3:ガンマ線バースト
第3の候補は「ガンマ線バースト」だ。これは、太陽の数十倍の質量をもつ星の超新星爆発で起こ
る宇宙で最も大きなエネルギーを放つ現象の一つである。数秒のうちに高エネルギーのガンマ線を
垂直方向に大量放出するのだ(ジェット)。炭素14が地球の大気でできるのはほとんど第1項の超
新星爆発で述べたのと同じ原理であり、3000~12000光年内ならエネルギーも矛盾しない。
また、超新星爆発と違ってそのあまりに大きすぎる重力によって中心のコアがつぶされ、中心部にブ
ラックホールが形成される。ゆえにジェットを垂直方向に放出するのと同時に周囲の物質が円盤状に
落ち込んでゆき、跡形もなくなることで残骸問題は解決されと考えられる。が、この現象はめったに
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起こるものではない(*諸説ある)
。加えて、輝いている時間は一瞬であるため肉眼での確認は難しい
と考えられる。
図:第2節のまとめ
候補 / 整合性
超新星爆発
◎
・歴史書に合う
×
・残骸がない
可能範囲
・625光年内
・エネルギーが適さない
太陽フレア
・歴史書に合う
・エネルギーが適さない
・炭素14とベリリウム10
・カリントンフレア
の10倍の大きさ
の生成割合の矛盾
隕石・彗星
・歴史書に合う
・エネルギーが適さない
・炭素14とベリリウム10
の生成割合の矛盾
ガンマ線バースト
・残骸が残らない
・歴史書の不一致
・エネルギーが
・あまり確認されていない現
適する
・ヘール・ボップの
大きさの彗星が太
陽に衝突する
・3000~120
00光年内
象
・生成割合の一致
第3節
考察
以上のことを総合的に考えて、私は今回の炭素14の増加についてその犯人は「太陽フレア」であ
ると結論付ける。2節によると一番疑われるのは「ガンマ線バースト」であるが、今まで正式に確認
されたガンマ線バーストは「GRB980425」であり地球からの距離は1億2200万光年であ
る。ゆえにいまだ銀河系内(直径10万光年)では観測されたことはないのだ。加えて炭素14の突
発的増加は1度きりではなく900年代にも増加値は少ないが似たような値をしめす働きかけがあ
ったのが確認されている。そう考えると一番現実的なのが、太陽フレアということになる。炭素14
とベリリウム10の比率は、宇宙線のエネルギー量に関するものなのでたとえ太陽フレアでも同じよ
うな比率を出すことは不可能ではない。が、カリントンフレアの10倍の太陽フレアとなるといささ
か考えにくいが、この時代太陽の活動が活発であってその結果特大の太陽フレアが起こったとしか
いまの私には言いようがないのだ。また、逆の考え方もできる。地球に飛来する宇宙線量はおもに太
陽の活動によって決められている。太陽の活動が活発であればあるほど太陽系外からの宇宙線量は減
少させられるのだ。ゆえに、この時代の太陽活動が活発でなかったために太陽系外からの宇宙線が多
量に地球に降り注いだのではないか、というものである。しかしながら、776年の増加に似合うだ
けの値を出すのは確率的にカリントンの10倍より難しいと思われる。よって、私は「太陽フレア」
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が今回の事件を引き起こした犯人だと結論づける。
第2章
感想・まとめ
残念ながら結果として消去法的に結論づけることとなってしまったが、専門知識に欠ける私にはそ
のようにするしかできなかった。しかし、もし本当に太陽フレアが原因なのであれば私たち人類は至
急それに対する対策を講じなければならない。なぜならば、21世紀のこの世の中を動かしているの
はほかならぬ電気だからだ。第1節の第4項で述べたような人的被害のほかに社会的な被害、それも
多大な被害がでてしまうことになる。その理由は太陽からの宇宙線は電気を帯びていることにある。
そのために地球の磁場と相互作用をおこすのだ。それにより地上の送電線に異常なほどの電流が流れ
こみ電気回路がすべて壊れてしまう事態に陥ってしまうことがありうる。そうなれば各地で停電が起
こり、金融関係のシステムはすべてダウン。送電ネットワークが破壊され電力を必要としているあら
ゆる産業、社会活動が麻痺する。カリントンフレアでさえアメリカだけでも1兆ドルの被害が出ると
予測されている。その10倍のフレアが来たとするならばその被害ははかりしれない。我々にはそう
いった見えない危険が常にあるのを忘れてはいけないということを、今回の研究をとうして私は思い
改めた。また、過去の大きな宇宙環境の変動になぜこれほど研究者たちが騒ぎ立てるのか、少しだけ
理解することができた気がする。それは、地球環境との関連を解析することによってこれからの地
球環境の変動を予測するのに非常に重要だからである。
第3章
参考文献
ドキュメンタリー番組 :
「コズミックフロント」
インターネット:
「炭素14の増加」
「超新星爆発」
「ガンマ線バースト」「宇宙線」
「太陽フレア」
の関連記事参照
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