分子シャペロン研究の今をお届けする最新情報紙 1999 No. 特定領域研究「分子シャペロンによる細胞機能制御」領域ニュース CHAPERONE NEWSLETTER CONTENTS 発行日:1999年9月 5 3年目の特定領域研究に向けて 永田 和宏 (京都大学再生医科学研究所) 3年目の特定領域研究に向けて …………………………………………………………………… 1 シャペロンの散歩道 男の 〈遊び〉 永田和宏 …………………………………………………………………… 2 …………………………………………………………………… 3 「分子生物学会シンポジウム」 今井 純 「Keystone Symposium on Protein Folding…」 田中智之/木俣行雄 「European Research Conferences on Chaperones」 龍田高志 「Freiburg Symposium on Folding and Translocation」 遠藤斗志也 …………………………………………………………………… 4 成9年度スタートの特定領域研究「分子シャペロンによる 平 細胞機能制御」も3年目に入りました。折り返し点を過ぎ たことになります。過去2年はできるだけ研究の継続性を重視 したいということで,計画研究,公募研究とも大きな班員の交 代はありませんでしたが, 3年目を迎えるにあたり,かなり大幅 な見直しが行われました。本年の合同班会議は1 2月に京都で行 う予定でありますが(3ページ参照) ,顔触れがかなり変ってい ることと思います。新鮮な気分で班会議が開かれ,新しい班員 シャペロンからみた真核生物の起 源と初期進化 の研究発表が聞けるものと楽しみにしております。 橋本哲男 おいて,臨床ストレス蛋白質研究会との共催になる合同シンポ …………………………………………………………………… 14 本年の班会議の翌日,1 2月18日 (土),同じ京都の平安会館に ジウム「ストレス蛋白質と病態」を開催いたします(3ページ 一分子蛍光イメージング 参照) 。分子シャペロンの基礎,すなわち作用機構や細胞内のさ 船津高志 …………………………………………………………………… 18 フライブルグ大学 Bernd Bukau 研究室 友安俊文 まざまな場での機能制御に関しても,まだまだ研究すべき点は 多く残されていますが,一方で分子シャペロンの多様性を考え ると,それらが関係した病気,病態への視点が重要なものであ ることは言うまでもありません。シンポジウムのテーマは第1 部が「ストレス蛋白質と病態」 ,第2部が「小胞体分子シャペロ …………………………………………………………………… 21 ンと品質管理機構」となっていますが,いずれも応用的側面に …………………………………………………………………… 23 配慮したプログラムとなりました。今後の分子シャペロン/ス トレス蛋白質研究の展開を考えるとき,このような応用的側面 …………………………………………………………………… 24 …………………………………………………………………… 25 へのアプローチも重要になるものと思われ,是非多くの班員の 方々が参加くださるようお願いいたします。 引き続き,翌1 9日(日) には,同じ場所で「臨床ストレス蛋白 質研究会」の大会が開催されます(4ページ参照) 。こちらへも 連絡をとりつつ,互いに切磋しあうことが必要ではないでしょ できるだけ興味を持っていただいて参加いただければありがた うか。皆さまのご協力をお願いいたします。 く思います。本年は,本特定領域の総括班員でもある矢原一郎 先生の特別講演があります。 先にお届けしました成果報告書をご覧いただいても,また Cold Spring Harbor, Keystone, Eouropean Science Foundation 本特定領域研究は,研究費の配分といった実際的な作業以上 Symposium などの定期的に開かれる国際集会への参加状況,招 に,分子シャペロン/ストレス蛋白質の日本における研究をど 待講演の数などを見ても,わが国の研究者,特に本特定領域研 のように発展させるか,またそのためにどのように研究者相互 究の班員の,この分野全体への contribution は大きなものがあり の情報交換を活発化し,互いに刺激しあってアクティブな領域 ます。先の重点領域研究「ストレス応答の分子機構」から,本 を形成するかを大きな任務としております。そのためにも,従 特定領域研究へ継続されてきたグループ研究のひとつの成果で 来別々のフィールドで仕事をしてきた,基礎と臨床・応用のそ もあろうと考えられます。今後2年間にさらに大きな成果をあ れぞれの研究者が一同に会して研究成果について議論すること げて,次なる機会へとわが国におけるこの研究グループの成果 の意味は大きいと考えております。そのような意味からも,今 を引き継いでいきたいものと考えております。 後も本特定領域研究班と臨床ストレス蛋白質研究会とは緊密な 男の 〈遊び〉 がいいだろうと誰かが言った。酵母液に捕虫網を浸し,勇躍, 真夏の御嶽に向かったという。 結果は推して知るべし。ナントカ原にテントを張ったまでは 永田 和宏 良かったが,深夜,いざ出陣となると,現代の科学者たちもた じたじとなり,お前先に行けよとか,むやみに鼻歌を歌い始め 迷信と言えども,それが否定されるまでは単なる迷信と片づ る者とか,それでもなんとか一晩歩き続けて,あらぬ方へフ けてしまってはならないという意味のことを言ったのはたし ラッシュを何本も焚いて帰ってきたのだそうだ。もちろん人魂 か寺田寅彦だったと思う。もともと迷信などは,否定も肯定も にはかすりもしなかった。 できないところに成立するものであるから,多くの場合はやっ かいなことになる。 人魂(ひとだま)は実在するのか。どうやら最近はプラズマ 〈出張〉には仲間の研究所員のカンパもあったので,研究所 で報告会をやったという。それぞれの〈隊員〉が,秀逸な〈方 法〉に,結果と考察などを加えて,なかなかの報告を終わった による物理現象であると説明されるようだが,そんな説が現れ のち,突如テープがまわりだした。実は〈記録係〉が「探検」 る十数年も前に,私の友人を含む数人が,木曾の御嶽に「人魂 の一部始終を記録していたのだそうで,せっかくの報告者たち 捕獲作戦」を展開したときの話。分子生物学を専門とする数人 は一挙に立場がなくなったということであった。ついでにこの のグループが人魂の実在を証明すべく,探検隊を組織したので 「木曾御嶽山人魂捕獲作戦」は立派に報告書となって,国立国 ある。水木しげるや西丸震哉といった〈その道〉の専門家にも 会図書館に保存されているそうである。 面会して意見を求め,行くなら木曾の御嶽しかないと,お墨付 きをもらった。 2 何年か前の新聞に「現代遊びリサーチ」という記事があって, ところが,〈文献〉を当たれば当たるほど,人魂を見たとい おもしろく読んだ。室内飛行機に取り憑かれた男たちの話。遊 う記録はあっても,それを実際にとらえたという記録はない。 びと言っても,なにしろ全長9 0センチの飛行機を, 1グラムの ここからが科学者としての腕と知恵の見せどころ。なにで人魂 重量を持つように作ろうというのだから半端ではない。 を捕獲しようか。捕虫網くらいしかないんじゃないかと意見が 胴体はバルサ材を0. 3ミリの厚さに削り,直径7ミリの筒に 一致したが,有機体(?)である人魂が,はたしてナイロン 巻いて作るという。翼やプロペラも0. 5ミリ角のバルサ材で骨 メッシュのような無機物に引っ掛かるだろうかと深刻な疑問 組みを作り,それにマイクロフィルムを張る。これがまたすご を呈する慎重派もいる。それじゃあ,有機物でコーティングす い。接着剤の原料を水に一滴落とし,薄く広がったところを木 ればどうだろうという名案(?)が出て,それなら yeast extaract 枠にすくいとり,半年かけて乾かすのだそうだ。このマイクロ 特定領域研究 「分子シャペロン」 合同班会議のお知らせ 知らせ下さい。 世話人:永田和宏(京都大学再生医科学研究所) なお,引き続いて1 2月18日(土)特定領域研究・臨床ストレス 本 年度,合同班会議を下記のように予定しております。別に 蛋白質研究会・合同シンポジウム「ストレス蛋白質と病態」が 改めてお知らせいたしますが,今から予定を空けておいて 開催され,1 9日(日) 臨床ストレス蛋白質研究会の大会も行われ ください。班員は全員参加をお願いいたします。止むを得ない ます。こちらへの参加もお願いいたします。 場合には,代理の方の参加をお願いします。 日 時:12月16日(木) 1 3:00∼2 1:00 1 2月17日(金) 9:0 0∼1 7:00 場 所:京都ガーデンパレス(葵の間) 京都御所蛤御門前(烏 丸通り下長者町,地下鉄烏丸線丸太町下車,徒歩8分) 電 話:075−41 1−011 1 FAX:07 5−41 1−01 1 2 臨床ストレス蛋白質研究会・ 特定領域研究合同班会議共催 公開シンポジウム 「ストレス蛋白質と病態」 宿 泊:京都ガーデンパレスにお泊まりいただきます。現在1 00 名分を京都ガーデンパレスに予約しております。宿泊 日 時:平成1 1年1 2月18日(土) 9:0 0∼17:00 費は朝食付きで9, 0 0 0円(シングル) ,同8, 5 0 0円(ツイ 場 所:平安会館・京都御所西側(烏丸通上長者町) ン)となる予定です(若干上下する可能性があります) 。 電 話:0 7 5−432−6 18 1 FAX:07 5−431−79 49 シングルルームが30室程しかとれませんので,アン ケートをお送りする際,シングル希望の方はその旨お 第1部「ストレス蛋白質と病態」 フィルムは,厚さが0. 3ミクロン,厚さの極限値だという。妙 走り出すのはすべてがいい歳をしたオッサンたちである。足の に感心したのは,その接着法である。唾やアルコールで張るこ 速さなら女性でも速いのはいるだろうに,そして持久力だって とができるが,日本酒を使うとその糖分が残って重くなるから 今や女性の方が優れているといわれているのに,女性が蜂を 駄目。もっぱらウイスキーでくっつけるなどと聞くと,そんな 追っかけて走っているのは見たことがない。 こだわり方がすっかりうれしくなってしまう。 どうも男たちには,こんなばかばかしい遊びに熱中する性癖 こうしてできた飛行機は,一円玉より少し軽く,一万円札よ があるらしい。女性にないとは言わないが,日本の閉鎖的な封 りほんの少し重い。ゴムの動力で,ゆっくりゆっくり2 0分から 建制の名残を差し引いても,女性がばかばかしいことにうつつ 3 0分も飛び続けるのだそうだ。窓という窓を閉め切った体育館 を抜かす例は,あまり多くないように見受けられる。なぜだろ で,冷房も暖房もいっさい切って,ドアにさえ目張りをして競 うと考えてみるが,それはこの場の主題ではないだろう。 技を行うのだというから,まったくご苦労なことではある。 最近は,ゆっくりと研究を楽しむという余裕がなくなってき この欄で笑ったのは,ハエ飛行機。バルサとマイクロフィル た。私自身もそう思うし,同じ悩みを聞く機会は多い。競争と ムで重さ0. 1グラムの飛行機を作り,ハエに引かせて飛ばせる いう厳しい現実があるかぎり,そしてシーケンスでもクローニ のだという。ハエをポリ袋に入れ,ドライアイスに湯をかける ングでも時間の単位でできてしまうスピード化とともに,研究 とハエは15秒くらい目をまわす。その間に手早く接着剤で背中 の効率化という側面が突出してきている。私自身も学生たちに に糸をくっつけて出来上がり。生まれて翌日くらいの若いハエ は,時間との競争のことを何度も言わざるを得ない。しかし, がもっとも馬力(?)があるというのも楽しい。 いっぽうで,もう少し研究自体を楽しめるような余裕をどこか こんな悠長な遊びに本気になっている男たちがいる。 しかし, で見つけられないかと焦るように思うことも事実なのである。 悠長なと見るのは外側からの感想。当人たちには,とてもそん 捕虫網にイーストエキストラクトを塗ったり,半年もかけて厚 ななまはんかなものではないのだろう。実際,子供も猫もいっ さの極限のマイクロフィルムを張ったりして楽しむような余 さい近づけない部屋に籠り(人が歩くだけでも,風圧で飛んで 裕。そんなばかばかしい発想を面白がってみる余裕。早くやれ いってしまうのだという),家族サービスも人付き合いもみん だの,効率的に,結果を見つめて,などなど,日常学生を叱咤 な犠牲にしての〈遊び〉ではある。 している言葉とは真っ向から矛盾する,そんな思いをどこに確 保したらいいのか,なお凡人の悩みは尽きないというべきであ こんな他愛もない遊びに熱中し,とことん凝ってしまうのは る。しかし, そんな余裕への視線をどこかで意識していないと, 決まって男たちだ。たとえば,土蜂の巣を見つけるために,土 生物学というロマンは,若い研究者を魅することはなくなるの 蜂に綿くずなどを結びつけ,蜂が飛び立った途端,いっせいに かもしれないとも恐れるわけである。 3 9:0 0∼12:00 会 長:永田和宏(京都大学再生医科学研究所) 1樋口京一(信州大学加齢研) 「アミロイド蛋白質の構造変換と分子シャペロン」 2大石正道(北里大学理学部) 「甲状腺機能不全症ラットにおける持続的小胞体ストレス」 3西宗義武(大阪大学微研) 「カルメジンノックアウトと不妊」 4佐藤昇志(札幌医科大学医学部) 「がん抗原,がん免疫制御因子としての HSP7 0」 5姫野国祐(徳島大学医学部) 「HSP9 0とマラリア原虫の病原性」 日 時:平成1 1年12月19日(日) 9:00∼17:00 場 所:京都市 平安会館 発表形式:一般演題/特別講演 参加費:無料 但し年会費3, 0 00円が必要です/懇親会参加費: 3, 000円 特別講演:HSP90分子シャペロン機能 矢原一郎(東京都臨床医 学総合研究所副所長,臨床ストレス蛋白質研究会代表 世話人) 一般演題締め切り:平成1 1年10月15日(金) 必着 演題申込先:〒162−8 666 東京都新宿区河田町8−1 東京女子医科大学内科2 第2部「小胞体分子シャペロンと品質管理機構」 14:00∼17:0 0 臨床ストレス蛋白質研究会事務局 野村 馨 宛 電 話:03−3 353−81 11 ex 392 23 FAX:03−52 69−732 7 1和田郁夫(札幌医科大学医学部) 「小胞体分子シャペロンと新生糖蛋白質の構造形成機構」 2青江知彦(千葉大学医学部) 「小胞体ーゴルジ間輸送を介した品質管理」 3永井尚子(京都大学再生医科学研究所) 「HSP4 7ノックアウトマウスとコラーゲン異常」 4徳永文稔(姫路工業大学理学部) 送付していただく書類: [抄録]B5版用紙に上下左右2㎝ の余白を設け,その 内側に1 2ポイント以上の印字で演題名(1−2行目), 所属(3行目) ,氏名(4行目) (発表者に下線),本文 (6行目以下)を記入。そのまま抄録集に掲載となりま す。3部お送り下さい。そのうち1部には連絡責任者 の氏名,住所,電話/ FAX 番号をご記入ください。 「血液凝固因子の分泌異常と品質管理」 5小亀浩市(国立循環器病センター研究所) 「高ホモシステイン血症と小胞体ストレス応答」 第3部 懇親会 本特定領域研究の ホームページについて 会費3, 0 0 0円(豪華な食べ物,飲み物が出ます) 本特定領域研究はオフィシャル・ホームページを開設してい ます。アドレスは以下の通りです。 第4回臨床ストレス蛋白質 研究会演題募集要項 http://biochem. chem. nagoya-u. ac. jp/chaperone/index. html このサイトには,本特定領域研究の活動記録,代表からのメッ 第4回目の臨床ストレス蛋白質研究会集会では一般演題(口 演,ポスター)を募集しています。また, 今回は本特定領域研究との共催で公開シンポジウム「ストレ セージ,班会議のお知らせなどのほか,ワークショップ,関連 シンポジウム,国際学会などの最新情報,わが国のシャペロン 研究者の名簿,関係サイトへのリンク集など,有用な情報が満 ス蛋白質と病態」を前日12月1 8日 (土) に開催する関係で,懇親 載されています。アップデートも頻繁に行っておりますので, 会は1 2月18日 (土) 1 8時から平安会館で行います。 ぜひブラウザのブックマークに登録しておいて下さい。 分子生物学会年会のワークショッ プ 「分子シャぺロン」 に参加して 青江(千葉大,Brigham & Woman's Hospital,USA,以下敬称 略)は小胞体(ER)分子シャペロンによる ER −ゴルジ体間の 細胞内膜輸送の制御について報告した。ER に局在している分子 シャペロンの多くは C 末端に KDEL という ER 局在配列を持って 今井 純 (東京都立臨床医学総合研究所) いる。この配列を持つ蛋白質は,ER からゴルジ体に輸送される と,ゴルジ体上に存在する KDELreceptor (KDELr)を活性化し, 再び ER に逆輸送され ER 局在を保っている。この逆輸送は低分 年1 2月16日∼1 9日に分子生物学会年会がパシフィコ横浜 子量 GTPase の一つである ARF1と,コート蛋白の COP1によっ 会議センターで開催された。その2日目に分子シャペロン て行なわれる。 ARF1は GDP 型から GTP 型に変換されると cytosol のワークショップが京都大学の永田和宏先生のお世話で行われ にある COP1と結合して,COP1でコートされた輸送小胞を生じ た。以下その発表を順を追って紹介したい。 る。GTP 型の ARF1が GTP を加水分解して GDP 型に変換される 昨 4 と,COP1は膜から解離し,cytosol へと移行する。その結果,輸 毎に Gly が現われること,Gly の次に Pro が有ることが重要であ 送小胞の膜への融合が生じる。 この ARF1の GTP 加水分解反応を り,HSP47はコラーゲンの特定の配列ではなく,コラーゲンの立 促進する ARF1 GAP を過剰発現すると,ゴルジ体が ER へ融合 体構造そのものを認識している可能性が示唆された。コラーゲ し, secretion の停止が生じる。このゴルジ体の ER への fusion は, ンは成熟すると PPG リピートの2番目のプロリンに-OH 基がつ C 端側を欠き膜と結合する能力を失った ARF1 GAP を過剰発現 き,ヒドロキシプロリンとなることが知られている。そこで してもみられないので,ARF1 GAP の膜上への局在が必須であ (PPG)X8の2番目の Pro を4-hydroxyproline(P-4-H)に置換し ると考えられる。このゴルジ体の ER への fusion は KDELr を過 た誘導体を用いて,HSP47の認識機構を調べた。その結果8回繰 剰 発 現 し て も 観 察 さ れ る。こ れ は 過 剰 発 現 さ れ た KDELr が 返しのうちの1つを P-4-H に置換しただけで,HSP47のモデルペ ARF1 GAP を膜上に recruit したために生じていることが, 免疫沈 プチドへの結合は低下し, 4つ以上の置換によって結合は見ら 降や免疫電顕によって確認された。次に KDELr を活性化するた れなくなった。このことから HSP4 7は premature なコラーゲンと めに,KDEL のタグを付けた lysozyme を過剰発現すると,KDELr 結合し, その maturation とともに解離していくものと考えられる。 と ARF1 GAP の結合は促進され,ゴルジ体の ER への fusion が ではコラーゲンの成熟過程に,他のシャペロンは関与している 観察された。以上の結果は ER 局在のシャペロンがゴルジ体に輸 のだろうか? HSP4 7がコラーゲンの立体構造そのものを認識し 送されると,KDELr を介して ARF1 GAP を活性化し,ゴルジ体 ているならば,コラーゲンに良く似た立体構造をとる蛋白質は − ER 間の輸送を制御していることを示している。KDEL 配列を 基質とはならないのか?など興味深い発表であった。 持つ分子がゴルジ体に輸送されると ARF1 GAP が活性化される 遠藤(名大)は出芽酵母の DnaJ ホモログ JEM1について報告 ため,COP1輸送小胞の形成に必要な ARF1は不活性化される。 し た。JEM1は 酵 母 の ER に 局 在 す る 三 つ の DnaJ ホ モ ロ グ このため,ゴルジ体から ER への逆輸送が必要とされる分子がゴ 3, SCJ1)の一つである。遠藤らはまず生化学的な (JEM1, SEC6 ルジ体に蓄積した結果,ゴルジ体− ER 間の輸送が活性化される 実験から,Jem1が Bip のパートナーであるということを示した。 のでは無く,むしろ不活性化されるという,一見,矛盾した結 Bip は KAR2という名前が示すように,核融合(karyogamy)に 果に見える。しかし ER −ゴルジ体間の輸送の場合,Sar1 GAP 欠損を持つ酵母の変異株から単離された。従って,そのパート である Sec2 3が COP2輸送小胞の形成を促進していることが知ら ナーである JEM1の破壊株がやはり核融合が不能になるという れているので,ゴルジ体− ER 間の輸送においても ARF1 GAP 表現型を示すことは想像に難くない事である。しかし Bip の他の が Sec23と同様に COP1輸送小胞の形成を正に制御していると考 パートナーである Sec63複合体も,やはり核融合に関与している えると,ゴルジ体に蓄積された KDEL を持つ蛋白質が KDEL ので,この二つの DnaJ ホモログが機能的にどのように住み分け receptor を介して ARF1 GAP を活性化し,その結果 COP1輸送小 ているのかというのは興味深い問題であった。これに対して遠 胞の形成が促進されるという解釈が可能になり,これらの現象 藤は鮮明な電顕写真をもとに,Sec6 3複合体が核膜外膜の融合に, を矛盾無く説明することができる。 ARF1 GAP が COP1小胞の形 Jem1が核膜内膜の融合にとそのトポロジーを反映した住み分け 成にどのような作用を持つかは今後の楽しみであろう。 を行なっていると,明解な回答を示した。JEM1,SCJ1はその 永田(京大)は,コラーゲン特異的なシャペロン HSP4 7につ どちらか一方を破壊しても,通常の細胞増殖に支障はないが, Δjem1, Δscj1の二重破壊株は高温感受性を示す。このことは, Jem1が細胞増殖においても重要な役割を果たしていることを示 く,その発現も常にコラーゲンと相関しており,コラーゲン特 唆している。そこでこの二重破壊株を解析したところ,ER 内腔 異的なシャペロンであると考えられている。プロモーター解析 の蛋白質の分解が抑制されていることが示された。ER において の結果,この特異性の高い発現には,転写開始点の上流の SP1結 misfold した蛋白質は Sec6 1複合体によって ER 膜を逆方向に輸送 合サイトが重要であることが明らかとなった。しかし,この上 され,proteasome によって分解されることが知られている。Jem1 流部分は HSP4 7の発現の特異性には必須であったが, 転写活性は は misfold し た 蛋 白 質 十分ではなかった。そこでさらに解析を進めた結果,最初のイ ントロンに強いエンハンサー活性があることが明らかとなった。 の凝集体形成を防ぐこ とにより, ER からの逆 SP1結合サイトと最初のイントロンによる発現調節はコラーゲ 輸送を促進するのであ ンⅡ,にも見られ,HSP4 7とコラーゲンは発現調節機構におい ても一致していた。この HSP47の knock out mouse を作成すると, ろ う か?ま た Jem1の 二つの役割,核融合と ホモ欠損マウスは1 0. 5日以降は胎生致死であった。このホモ欠 増 殖 は Jem1の 同 じ 機 損マウスには成熟したコラーゲンは認められず,また血管内皮 細胞など間葉系の細胞に apoptosis による細胞死が認められた。 能によるものなのか? knock out mouse において,apoptosis を引き起こしているものが, その切り替えを行って いるのはどんなシグナ misfold したコラーゲンによる ER ストレスなのか,それとも細胞 ルなのか?基質は何な 外マトリックスにコラーゲンが存在しないことを認識しての何 らかの情報伝達によるものかは,興味を引かれる問題である。 のか?と興味の尽きな い発表であった。 最後に HSP4 7によるコラーゲンの認識を, 合成モデルペプチドを 加 藤(愛 知 県 コ ロ 用いて解析した結果が示された。コラーゲンのモデルペプチド ニー)は, αB クリスタ である(Pro-Pro-Gly(PPG) )Xn というペプチドと HSP47の結合 を解析すると, HSP47は PPG が7回以上繰り返される構造を認識 リンのリン酸化につい 会場となったヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル し,結合することが明らかとなった。この結合には, 3アミノ酸 て 報 告 し た。 αB ク リ いて報告した。HSP4 7はコラーゲンに特異的に結合するだけでな 5 スタリンは各種ストレスによって3カ所のセリン残基(1 9S, 木 戸(徳 大)は シ ャ ペ ロ ン 型 nucleotide diphosphate kinase 4 5S, 5 9S)がリン酸化される。これら3カ所のリン酸化を特異的 (NDPK)が20S の proteasome にも存在することを示した。シャ に認識する抗体を作成し,細胞の免疫染色を行った。すると4 5S ペロン型 NDPK は,Hsp7 0など分子シャペロンに属する蛋白質か のリン酸化型(P45S)を認識する抗体(a-P4 5S)はストレスの ら見いだされた。これらの蛋白質は反応系に ADP が存在しない 有無に関わらず分裂期の細胞を良く認識した。分裂期の細胞で ときには ATPase として機能するが,ADP 濃度の増加と共に は1 9S のリン酸化も同時に昂進していたが,5 9S のリン酸化はむ NDPK 活性に置き換わっていくという酵素活性を示す。 今回報告 しろ減退しており,この三つのセリンのリン酸化が異なるキ された proteasome は2 0S core complex と19S の regulatory complex ナーゼによって支配されていることが強く示唆された。そこで からなる。このうち1 9S の regulatory complex は基質を unfold し αB クリスタリンの N 端側7 2AA の合成ペプチドを基質として, て core complex に渡す reverse chaperon として働き,AAA-type の それぞれのセリンをリン酸化しているキナーゼを特定した。そ ATPase を サ ブ ユ ニ ッ ト と し て 持 っ て い る。ま た regulatory の結果,45S は MAP kinase が,5 9S は MAPKAP kinase がそれぞ complex は in vitro でのシャペロン活性が有ることが知られてい れリン酸化していることが明らかとなった。また,a-P59S を用 るので,シャペロン型 NDPK 活性が proteasome にも存在すると いた解析から, 59S のリン酸化は分裂時には減少するものの,全 いわれると,当然19S の regulatory complex の事と考えていた。 αB クリスタリンの10%程度は5 9S がリン酸化されており,P59S ところが,活性が検出されたのは ATPase を持たない, 2 0S の core 型は中心体に特異的に存在していた。一方,残りの P4 5S の方は complex の方で,さらに驚くべきは NDPK として同定されたのは 分裂溝に局在していることから,αB クリスタリンは異なるセ Pup1β2サブユニットであった。このサブユニットはプロテアー リンにリン酸化を受けることで局在を変えている事になる。ま ゼの活性は持つものの,ATP 結合能は知られておらず,既存の た,同じ sHSP に属する HSP2 7は,リン酸化を受けると重合状態 ATP 結合モチーフさえ持っていない。この NDPK 活性の生理的 が変化して,シャペロン機能を変えている可能性があることが な意味に関して木戸らは,core complex 内の活性中心への基質の 示されているので, αB クリスタリンではリン酸化が局在と機能 接近や,core complex 自体の assembly にシャペロンとしての活性 の双方を換えている可能性が指摘された。αB クリスタリンはこ を発揮するのではないかと推論していた。いずれにせよ,今回 のように,同時併行で中心体と分裂溝という何れも,細胞分裂 発見された Pup1のように既存の ATP 結合モチーフを持たない において重要な機能を果たす器官に局在し,機能しているもの NDPK は他にも存在するのか,また存在するとすればどのような と考えられる。ここで使用されたような特異性の高い抗体を用 グループの蛋白に存在していて,どのような機能的特徴を持つ いることで,多機能蛋白の複数の機能を同時に解析しているの のかなど興味の尽きない話であった。 は画期的なことだと思われた。 今井(CREST,臨床研)は Hsp90の新たな基質としてカルシ 杉山(横浜市大)は sHSP 群で構成される筋特異的なストレス ニューリンを報告した。出芽酵母 S. cerevisiae にその Hsp90ホモ 耐性系について報告した。演者らのグループは,筋ジストロ ログ Hsc82を過剰発現させる株を作成,解析した。Hsc82の過剰 フィーの原因遺伝子のひとつである,筋強直性ジストロフィー 発現株は各種のストレスに対して耐性を示すものと予想された キナーゼの結合蛋白として筋特異的 sHSP,MKBP を同定したこ が,アミノ酸アナログ,heat shock,高濃度 NaCl といったストレ とから,sHSP 群の蛋白質の筋肉組織における役割の解析を行っ スに対してはむしろ感受性になるという表現型を示した。一方, て い る。現 在 ま で 知 ら れ て い る5種 類 の sHSP(HSP27, αB- 高 Ca2+イオン環境下では野生型株よりも強い耐性を示した。この crystallin, p2 0, MKBP, HSPL2 7)の発現をそれぞれの sHSP を認識 Hsc82の過剰発現株の表現型は出芽酵母のカルシニューリン破 する抗体を用いて調べたところ,この5種類の sHSP を全て,し 壊株の表現型とよく一致していた。そこで Hsc8 2の過剰発現株と かも高く発現していたのは,心筋細胞と骨格筋細胞のみであっ カルシニューリンの遺伝学的関連を解析した結果,これらのス た。心筋,骨格筋は,運動によって熱,代謝物等のストレスに トレス感受性はカルシニューリンの触媒サブユニット単独の高 曝される機会が多いので,他の組織に比べると何等かのストレ 発現によって抑圧されることが明らかとなった。Hsc82の過剰発 ス耐性系が発達しているものと考えられる。筋肉組織で特異的 現株がカルシニューリン破壊株と同じ表現型をとるのは,過剰 に高発現しているこれらの5種類の sHSP がこの筋肉組織のス 量の Hsc8 2がカルシニューリンの触媒サブユニットと結合し,隔 トレス耐性系において重要な役割を担っているのではないかと 離した結果であることが,免疫沈降によって確認された。この 考えられた。筋組織のカラム溶出物をそれぞれの sHSP に特異的 Hsp90−カルシニューリンの触媒サブユニットの結合はカルシ な抗体を用いて調べたところ,HSP2 7/αB-crystallin/p2 0は50 0kD ニューリンが活性化されると解離するので,カルシニューリン と50kD の complex に,MKBP/HSPL2 7は1 0 0kD の complex にそれ の触媒サブユニットは Hsp90の新たな基質である可能性が示唆 ぞれ特異的に含まれていた。この結合の選択の特異性は免疫沈 された。カルシニューリンの活性は,Hsp90が生理的レベル以下 降や yeast の two-hybrid によっても確認された。 DMPK には MKBP のときには Hsp90によって量依存性に制御されていた。また のみが結合し,MKBP/HSPL2 7複合体と,HSP2 7/αB-crystallin/p20 Hsp90の活性が低いときには,触媒サブユニットは分解を受け, 複合体の機能的な住み分けを強く示唆する結果となった。また, 量が著しく減少していたので,カルシニューリンの触媒サブユ αB-crystallin は筋肉原基の段階ですでに発現が見られ,筋芽細胞 ニットは Hsp90の新たな基質であると結論された。カルシニュー の分化の開始と共に発現量が増大していた。このことはαB- リンは Hsp9 0の基質としては最初のフォスファターゼで,また酵 crystallin が筋肉の形成にも重要な役割を果たしていることを示 母の Hsp9 0の変異株から遺伝学的手法を用いて,同定された最初 唆しているものと考えられる。このようにお互いに良く似た一 の基質となる。 群の蛋白質が,どのようにパートナー蛋白や基質を識別し,機 能的な役割分担を行っているかは極めて興味深い問題である。 6 発表の内容は分子シャペロンの機能の多様性を反映して多岐 にわたり,様々な現象を学習する良い機会であった。反面,討 論の時間が限定されていたためかもう少し論議を尽くしたい話 く感じられた。国内では,少ない知見をもとに大きな仮説をた 題が多かったのは残念であった。私自身の発表に複数の方々か てて議論することは(特に若手研究者がそれを行うときは尚更 ら有意義なコメントを頂けたのは満足なことであった。 であるが)嫌われる傾向があるように思える。 シンポジウムは二つの会場で並行して行われ,両方のテーマ に関心がある場合,演題を選んで往復することもあった。テー 1999Keystone シンポジウム Protein Folding,Degradation and Molecular Chaperones Protein Folding,Modification and Transport in the Early Secretory Pathway 感想記 マをあげると,分子シャペロンとタンパクのフォールディング, ユビキチン化,プロテアソームによる分解,小胞体へのターゲ ティング,局在化機構,ゴルジ輸送,タンパクのクオリティー コントロール,小胞体内での修飾機構など多岐にわたるが,ど れもが互いに有機的につながっている分野であり,これらの最 新の成果を同時に得ることができるメリットは相当なものであ る。初日の基調講演に加えて5日間のスケジュールの中から, 田中 智之 私が特に関心を持って参加したものについて若干の紹介をした (京都大学大学院薬学研究科) い。なにぶんこの分野のことを勉強しはじめて日が浅いので, 自分の研究テーマと近い内容が中心になる点はご容赦願いたい。 9 9年4月1 0日 か 初日の基調講演は W. P. Baumeister による Joint session で, 20S ら1 6日までコロラ proteasome subunit をはじめとした self-compartmentalizing protease ド州カッパーマウ のグループが類似した立体構造をもつことが様々なテクニック ン テ ン に お い て, を用いて示された。翌日 (1 1日)は Entry into the secretory pathway Keystone シ ン ポ ジ のセッションに参加した。私が研究テーマとしている L-histidine ウムとして表題に decarboxylase は肥満細胞においてサイトゾルで翻訳された後,C ある二つのセッ 末側 domain を介して小胞体へと移行し,lumen 側へ translocate ションが開かれた。 した後プロセシングを受ける。そのためここは私がもっとも関 スキー風景(田中) 開催地はスキーゲ 心を持っている分野だったが,最も時差ぼけがひどい時間帯で レンデのすぐそば もあり苦労した。T. Rapoport は Sec-complex を介した翻訳後小胞 で,標高はおよそ2700m,開催期間中も2日ほど雪の日があった。 体移行の機構について, 特に Sec63p の小胞体内腔側に存在する J 高地ということで,初日は永田先生をはじめ高山病様の症状に domain と BiP との相互作用の詳細な解析を報告した。Rapoport 悩まされた方もいらっしゃったようである。昼間にもうけられ の仮説は molecular ratchet としての BiP を想定しており,その調 た空き時間を利用してスキー場にも幾度か足を運んだが,国内 節因子として Sec63p の J domain を重要視している。両者の相互 ではお目にかかれない広大なスペースと,スキーヤーの平均滑 作用の解析に表面プラズモン共鳴を利用して Kd を求めるなど, 降速度の速さには驚かされた。質問者のなかには,スキー用の 新しい試みも紹介された。BiP は Sec61p complex によって形成さ 吊りズボンをはいて真っ赤に日焼けした顔で(しかも当日のス れる translocon の lumen 側の蓋であったり,ratchet などいろいろ キー場のコンディションについても話したりしながら)発表者 な機能が提唱されており,その調節機構には関心が持たれる。 と熱い討論を交わす研究者もいて,海外の学会に初めて参加し 次 の A. E. Johnson は 蛍 光 プ ロ ー ブ を 利 用 し て 膜 タ ン パ ク が た私には印象深かった。 translocon から形質膜へと移動する過程を解析し,移動が Sec6 1a 私の現在の研究テーマはヒスタミン生合成に関するもので, と TRAM の界面で起こることを示唆した。R. Gilmore は trypsin 合成酵素の細胞内局在性について検討をするうちに分子シャペ 処理によって Sec6 1a の機能ドメインを検索し,SRP 依存的なポ ロンや,タンパク分解に関する分野に足を踏み入れたところで リペプチドの小胞体移行に関わるループ領域を決定した。 ある。そういうわけで初日のレジストレーションでは,流石に 12日 は Glycosylation and calcium as modulators of ER folding の 聡明そうな美しい女性が受付事務をやっているなあと思ってい セッションに参加した。 G. Kleibich および A. Helenius はそれぞれ ると,それはオーガナイザーの一人である L. M. Hendershot(以 calnexin/calreticulin cycle に関する報告を行い,Kleibich は UDP- 下敬称略)であり(次の日のセッションで知った) ,なおかつ私 Glc:glycoprotein glucosyltransferase(GT)がこのサイクルにおけ は「このアンケートにある CSSI とは何のことですか?」と直接 る misfolded protein のセンサーとして機能すること,また基質タ 尋ねたり,今思い返すだけでも恥ずかしい門外漢ぶりを発揮し ンパクの疎水性領域を認識する GT の構造について述べた。また てしまった。私には比較するものとしては国内の学会参加の経 この日は,translocon に関するワークショップ(The translocon: 験しかないが,シンポジウムの雰囲気は熱気があり,質問者と A two way channel)があり,ポスター発表の中の数演題に関して 発表者のやりとりも総じて非常に興味深いものであった。発表 討論が行われた。translocon は SRP −依存的あるいは非依存的な されたデータも未発表のものや,検討中の結果なども紹介され, 経路の小胞体への translocation 全般に関わるコンポーネントであ 比較的まとまったデータが登場しがちな国内の学会,シンポジ り, この Sec61p complex とその他の因子がどのように調節され協 ウムとはかなり様相が異なっている。また最も感銘を受けた点 同するかは非常に関心の高いテーマである。 は,今得ている知見を構成しなおして提示される仮説の大胆な また後半では, proteasome や ubiquitin conjugation に関するセッ ところである。質問者とのやりとりを聞いていても,その仮説 ションが開かれたが,そこでも小胞体タンパクがこれらの経路 をもとにより適切なモデルへと近づいていこうという意志が強 によって分解される retrograde translocation が一つのトピックに 7 なっていた。Sec61p に関する実験系は酵母を用いたものがかな けている季節だと りのウェイトをしめ,哺乳類細胞においても基本的なメカニズ い う こ と と の ムは同様である部分も多いと予想される。しかしながら哺乳類 ギャップを強く感 細胞における Sec complex の詳細はまだ未解明の点が多く,個人 じました。最終日 的には意欲がかき立てられた。13日は Hendershot によって,イ を除いて,講演は ムノグロブリンの四量体形成において light chain が heavy chain 午前中(午前8時 に結合した BiP を追い出し,フォールディングが進行する過程が から)4名,夜(午 報告された。C. V. Nicchitta は抗原提示細胞にペプチド− GRP94 後8時 か ら) 3名 の複合体が取り込まれ,MHC class I 分子によって抗原提示され という構成になっ るというユニークな機構を提唱した。1 4日の J. Hohfeld の報告で ており,ポスター は,Bag-1はヌクレオチド交換反応を促進するだけではなく, セッションも計4日間毎日午後4時から2時間設けられました。 Hsc7 0と結合した基質タンパクの proteasome への提示にも関わる 日本で見ていたプログラムの内容はそれだけだったので,午後 ことが示された。Bag-1の anti-apoptoc な活性についてさらに理解 は4時までずっとスキーが出来ると期待していました。しかし, する新たな手がかりにもなると考えられる。 残念ながら(?) 興味深いワークショップが連日午後に開催され, ポスターセッション(D. H. Wolf と木俣) 私の所属する研究室からの参加は一人だったことが幸いした 結局,ロッキー山脈でスキーをするという夢は果たせませんで のか,期間中は国内の学会よりもむしろ多くの研究者と話をす した。このシンポジウムは,もう一つのシンポジウム“Protein る機会を得た。朝食の席で,あるイタリア人の研究者が,欧米 Folding, Degradation and Molecular Chaperones”と同時に開催さ の研究は熱くてすぐにできる「バーガーサイエンス」で,日本 れました。一部の講演やポスターセッションは合同で行われた 人の研究は仕込みが丁寧な「寿司サイエンス」で,これからは のですが,半数以上の講演は別室で行われたため聞くことが出 二つの良いところを合わせていくべきだという持論を展開して 来ず,残念に思っています。なお,これら二つのシンポジウム くれた。初めて参加した海外の学会で,私もいろいろと考える で,講演計60題,ポスター計1 63題という規模でした。 ところは多かったが,如何せん語学の壁のためにその研究者に 会場となった Copper Mountain リゾートは標高3 000m 以上の所 自分の考えを十分伝えられなかったのが残念だった。とは言え に位置し,夜間はかなり冷え込みました(池の氷は未だに全く いろいろな意味で 溶けていませんでした) 。そのため,日本の気候に慣れた私の体 刺激を受け,私自 は,初日から高山病と風邪と睡眠不足(夜間の飛行機での移動 身のポスター発表 のため)という三重の苦しみを背負うことになってしまいまし でも多くの方から た。この体調不良からは少しづつ回復してきましたが,気圧の 有益な助言をいた ためだと思われる若干の頭痛と息苦しさからは最後まで解放さ だくことができた れませんでした。日頃の運動不足が悔やまれます。よって,講 有意義なシンポジ 演中にも頭が全く働いていない時があり,また,あまりにも流 ウム参加であった。 暢な英語は聞き取りが出来ず,このレポートが不完全なものに なってしまったことをお許し下さい。 ポスターの前で(田中) 4月1 1日午前は,小胞体膜での順行性の trasnslocation に関し, 4人が講演しました。Tom Rapoport は,trasnslocation に関わる酵 キーストンシンポジウム "Protein Folding,Modification and Transport in the Early Secretory Pathway" に参加して 母 Sec 蛋白質複合体を再構成し,post-translational な trasnslocation を in vitro で再現する実験系での研究結果を示しました。それに より,post-translational な trasnslocation の driving force として BiP の“Brownian ratchet”モデルが支持されました。そのモデルでは, 新生蛋白質が Sec6 1p の形成する孔を通過する途中に,その近傍 木俣 行雄 に存在する Sec63p の作用により,小胞体内腔側で直ちに BiP が (奈良先端科学技術大学院大学遺伝子センター) 結合し,新生蛋白質が細胞質に戻るのを阻害します(これに関 7, 553−564(1999)に載りましたので, しての詳しい話は Cell 9 キーストンシンポジウム“Protein Folding, Modification and それを読んで下さい) 。なお,このモデルでは BiP の結合にあま Transport in the Early Secretory Pathway”は,Linda M. Hendershot り基質特異性を考えない方が都合良く,その点でも興味が持た と Randal J. Kaufman をオーガナイザーとして,4月1 0日から1 6日 3−60 3(19 98) ) 。 れます(Mol. Cell 2, 59 ま で,ロ ッ キ ー 山 中 の リ ゾ ー ト 地 で あ る コ ロ ラ ド 州 Copper 4月1 1日夜は,in vitro での蛋白質 folding の詳細な解析につい Mountain で開催されました。日本のシャペロン特定研究班から て, 3人が講演しました。Donald M. Engelman は,膜蛋白質の安 は,班代表の永田先生(speaker)をはじめ,三原先生(九大) , 定な folding のためには,第1段階として膜貫通ドメインがα- 森先生(HSP 研京大),大塚先生(愛知ガンセンター),小椋先 helix として膜に組み込まれると共に,第2段階としてその膜貫 生(熊大) ,河野(奈良先端大)等が参加しました。冬はスキー 通α-helix 同士が安定な結合を作ることが重要だという概念に基 場として,夏は避暑地として有名らしいこの地には,まだまだ づき,種々のデータを提示しました。 雪が残っており,スキーヤー達で賑わっていました。さらに, 会期の後半にはかなりの量の降雪があり,日本では桜も散りか 8 4月12日午前は,calnexin/calreticulin について, 4人が講演しま した。Ari Helenius の講演は,calnexin/calreticulin サイクルに関す るものでした。glucosidase Ⅱにより glucose が除去された糖蛋白 する哺乳類 質 は,unfolded な ら ば UDP-Glc:glycoprotein glucosyltransferase 細胞や個体 により再 mono-glucosyl 化され,calnexin-calreticulin の基質として を 作 成 し, ER に 残 留 し ま す。一 方,folding が 完 了 し た 糖 蛋 白 質 は, その解析結 glucosidase II により glucose が除去されると,分泌経路に乗りま 果を報告し す。そして,UDP-Glc:glycoprotein glucosyltransferase が蛋白質 ました。興 の folding 状態のセンサーである根拠として,この酵素が native 味深いこと form な,もしくは完全に変性した RNaseB ではなく,部分的に に,eIF-2の folding された RNaseB のみを良い基質とすることを示しました。 リン酸化が 4月1 2日夜は,disulfide bond 形成に関わる因子について, 3人 転写レベル が講演しました。Stephan High は,PDI 様蛋白質 ERp5 7が特異的 での BiP や に新生糖蛋白質に作用することを示しました。そして,彼は CHOP の誘導に必要であることが示唆されました。 ERp57が calnexin/calreticulin サイクルの中で働く因子であると結 論しました。 4月1 3日午前は,小胞体での蛋白質の folding と残留に関わる レストランにて(左から土師,永田,森,吉田,河野,木俣) 私にとっては初めての海外でのミーティングでしたが,雪の 残る美しいロッキーの山々を見ながら,分子シャペロンや初期 分泌過程に関する最新の研究成果に数多く触れることが出来, 種々のシャペロンについて, 4人が講演しました。John J. M. 有意義であったと思っています。連日,朝8時から夜1 0時まで Bergeron は,前述の UDP-Glc:glycoprotein glucosyltransferase に と長時間のスケジュールでしたが,日本でのミーティングに比 ついての知見を紹介した後,calnexin のリン酸化について述べま べて食事時間や休憩時間が長く設けられています。その時間に した。calnexin の細胞質側にはリン酸を受けるセリン残基が並ん 海外の著名な研究者がプライベートで話しているのに何回か立 でいる領域があり,そのリン酸化により calnexin はリボゾームと ち会うことが出来,彼らの考え方に僅かながらも生で触れるこ 結合することを示しました。calnexin とリボゾームとの結合によ とが出来た気がしたことを幸せに思っています。 り,translocate されてくる新生糖蛋白質を calnexin が捕まえやす くなると考えられます。また,Douglas M. Cyr は,J ドメインを 持つ細胞質 Hdj-2が実は小胞体膜上に局在し,新生膜蛋白質の folding を Hsc7 0と共同して細胞質側から進めることを示しまし た。 4月1 3日夜は,若干のスケジュールの変更はありましたが,ER Research conference on BIOLOGY OF MOLECULAR CHAPERONES 体験記 蛋 白 質 の 分 解 に つ い て の 話 が 中 心 で し た。Jeffrey Brodsky や Dieter H. Wolf は,ER からの逆行性の translocation を経た細胞質 龍田 高志 での蛋白質分解において,その基質が可溶性蛋白質である場合 (熊本大学医学部) と膜蛋白質である場合とで,最終的に proteasome にまで運ばれる メカニズムに相違があることを示唆しました。すなわち,可溶 そ れ は, 性蛋白質の場合には BiP を,一方,膜蛋白質の場合には細胞質 カンファレ Hsp70群を必要とすることが多いということです。また,この分 ンス三日目 野に関しては,Scheckman 研のポスドク,Mingyue Zhou のワー の昼のこと。 クショップとポスターでの発表も興味深いものでした。そこで 午前のセッ は,順 行 性 の ER translocation は 正 常 で あ る が 逆 行 性 の ションが早 translocation だけが異常な sec6 1温度感受性変異株の分離と解析 めに終わり, が報告されました。彼の話によると, 4つのミスセンス変異アレ 参加者たち ルが得られ,そのうち三つはルーメン側に,一つは膜貫通ドメ は三々五々 インに変異部位がマップされたそうです。これらの sec61変異の 食堂の前の 解析により,逆行性 translocation に関与する装置がより明らかに ロビーに集 なると期待されます。 まり,昼食の準備が整うのを待っていた。私は,イタリアでは コーヒーブレーク(左から?,Kuhn,Hartl,大塚) 4月1 4日午前は,unfold した蛋白質に対する細胞の応答につい 時間通りに準備が整うことを期待してはいけないと知っていた て,4人が講演しました。Randal J. Kaufman や David Ron の話を ので,腹を空かしながらも気長に構えていた。すると,すぐ前 聞き,酵母で知られている Ire1p の自己リン酸化以上に,哺乳類 に昨日の夜に到着された永田先生がいらっしゃることに気づい 細胞では,ER ストレスに対する応答において,リン酸化が重要 たので,自己紹介がてらにご挨拶させていただいた。簡単なや な役割を果たしているという印象を受けました。例えば, Ron は, りとりの後,永田先生は私に「君は,このカンファレンス真面 ER ストレスに応答した翻訳開始因子 eIF-2のリン酸化に関わる 目に聴いてる?」 と唐突に聞かれた。 変な質問だなと思いつつも, 因子 PERK の存在を示しました。また,彼は,ER ストレスに応 いいえと答えるわけにもいかず, 「はい,一応はきちんと聴こう 答して apoptosis を引き起こす因子である CHOP も,その活性化 としています, 」と答え,(しかし,英語の聞き取りは自分には に は リ ン 酸 化 が 必 要 で あ る こ と を 示 し ま し た。Kaufman は, かなり難しくて, なかなか理解できません) と続けようとしたが, knock-in の技術を用い,リン酸化を受けない eIF-2変異体を発現 先生は間髪入れずに「じゃあ,シャペロンニュースレターのレ 9 ポート,お願いで さて,口演は二日目朝より和やかな雰囲気の中開始された(こ きないかな?元々 の和やかさはオーガナイザーの Saibil のお人柄に依るところが は小椋さんに頼も 大きいと思う) 。その内容について,テーマごとにいくつかピッ うと思っていたん クアップしながら紹介させていただく。 だ け ど,ね。」…。 会場となった Hotel Villa del Mare Freiburg 大の Bukau とその共同研究者たちは,E. coli をモデル えらいこっちゃと として,特にタンパク合成途中の folding におけるシャペロンの 思いつつも自分に 役割についての解析結果を発表した。彼らは,リボソームに結 は「い い ん で す 合する trigger factor(TF)の欠失と DnaK の欠失が合成致死とな か?僕なんかが書 ること,そして TF 欠失株において細胞内 DnaK レベルを下げる い て?」と 反 論 す と,新生ポリペプチドの凝集が起こることなどから,TF はシャ るのが精一杯であった。こういうことも勉強の一つか…。 ということで,若輩ながらイタリアにおいて5月2 2日から2 7 ペロンであり,新生ポリペプチドの folding において DnaK シャ ペロンシステムと互いに補完し合う機能を持つことを示した。 日 に か け て 開 催 さ れ た ESF 主 催 の「Research Conference on また,DnaK と GroEL に結合する新生タンパク質の二次元電気泳 BIOLOGY OF MOLECULAR CHAPERONES」についてご報告さ 動解析から,DnaK は大きめのタンパク質(>8 0KDa)に,GroEL せていただきます。しかし,自分には先生諸氏の如くには的確 は小さめのタンパク質(<5 0kDa)にそれぞれ結合しやすいこと にレポートし得ないので,お叱りを覚悟の上で,一大学院生と を示した。実は次の日に,これらすべてとほぼ同じ内容の発表 して海外のカンファレンスに参加して感じたこと,知り得たこ が Max-Planck 研の Hartl によってなされ,その結果が符を合わせ とを率直に書かせていただくことにします。 たように一致していることには驚いた。後で聞いた話では両者 ESF のシャペロンに関するカンファレンスは隔年で開催され にこのテーマにおいて collaboration はなく,完全に compete して ているとのことである。今回の参加者総数は約1 3 0人で,講演者 いるらしい。それはともかく,最近になって(少なくとも E. coli を除けばその大部分がヨーロピアンであった。日本からは班員 では)新生蛋白質の大多数は DnaK や GroEL 非依存に成熟しう の先生方を含めて7名(大塚,小椋,小林,龍田,永田,南, ることが示され,また今回 TF がメンバーに加わったことで,蛋 矢原/五十音順・敬称略)が参加した。 白質合成途上におけるシャペロンの作用モデルは大きく変化し 会場はナポリから更に電車で二時間ほど南へ下った Sapri とい つつあるなという印象を受けた。 う町の近く(?)のリゾートホテル(Hotel Villa del Mare)であっ Morimoto(Northwestern 大)が発表した,細胞内のタンパク質 た。ホテルは海岸沿いの斜面に層をなして建っているため,各 凝集を目で観察できる線虫を用いたシステムは印象的であった。 層に段段畑状にテラスがあり,そこから望む地中海はまさに絶 彼らは polyglutamine repeat が挿入され細胞内で凝集しやすく 景の一言である。少し目を移せば,岩がちの海岸から続く急な なっている蛋白質と GFP の融合蛋白質(Unc54::Q8 2-GFP)など 斜面を縫うように列車が走り,古い鉄橋を越えた所でトンネル の「凝集モデル蛋白質」と同時に Hsp7 0や Hsp1 04などのシャペ へと消えて行く。正直申し上げて,テラスで本でも読みつつ ロンを線虫の筋肉細胞に発現させた。 GFP 融合モデル蛋白質が凝 ボーッと過ごせたらなあと思ってしまったほどの恵まれた環境 集すれば,細胞内に蛍光のスポットが観察される。その結果, であった(矢原先生は結構のんびりされたようで, 「退屈が一番 Hsp10 4の発現によりスポットが見られなくなること, 及び Hsp70 のぜいたく」とご機嫌であったそうだ) 。ホテル下層に岩を削っ が蛍光スポットと co-localize することが示された。 て造ったような大きな部屋があり,ここが発表会場となってい 他に HSP7 0関係では,H hfeld(Max-Planck 研)が HSC70/HSP70 た。壁の一方はむき出しの岩盤となっていて,そのためか部屋 の 調 節 因 子 と し て 知 ら れ る BAG-1が ユ ビ キ チ ン 化 さ れ の空気は常にひんやりとして心地よかった。日本においてこの proteasome と 相 互 作 用 す る こ と を 示 し,BAG-1が folding と 手の会合は,設備は整っているが無機質な部屋で行なわれるこ degradation の橋渡し役をするというモデルを提唱した。また とが多いので,このような趣のある部屋で行なわれること自体 HSP40については,Craig(Wisconsin 大)による基質特異性が が新鮮に感じられた。一方,岩壁のせいか無線マイクの調子が G/F ドメインによって決定されるという報告や,Ohtsuka(愛知 悪く,また,スライドの光量不足で図が非常に見づらいなど, がんセンター)による Hsp40の熱ショック応答の抑制に関する報 こちらも海外特有とも言える設備の悪さも同時に味わった。 告がなされた。 小胞体シャペロンを中心としたセッションでは,Manchester 大 の Bulleid が procollagen の folding における prolyl4-hydroxylase の 重要性を強調する発表を行った。彼らは小胞体内で合成途上の procollagen に 結 合 す る 蛋 白 質 を 検 索 し た 結 果,prolyl 4hydroxylase が主に結合してくることを示し, prolyl 4-hydroxylase が procollagen の不完全な folding 状態を認識,結合することが, その正しい folding に重要であると結論した。これに対し京大の Nagata は別の日の口演で,collagen のモデルとなる(gly-pro-pro) n ペプチドと Hsp4 7の相互作用を解析した結果,n >7の場合に は Hsp47の結合が見られることを明快に示した。また, 3番目の Pro の水酸化がこのモデルペプチドと HSP4 7の結合を阻害する ホテルからの眺め 10 ことも発表した。Bulleid らは prolyl 4-hydroxylase と procollagen の結合は proline の水酸化の程度よりむしろ folding 状態によって Ogura(熊本大)による FtsH によるσ32の分解における DnaK の 決まると言っており,その対比が興味深かった。 役割についての解析,また Gdansk 大の Zylicz による ClpAP/XP GroEL 関係については,まず Yale 大の Horwich が GroEL/ES の基質選択についての研究などが報告された。HSP9 0に関しては の反応サイクルのすばらしいモデルを提示した。cis リングと 何故か非常に演題が少なく,Minami(大分医大)による,PA28 trans リングが互いにそれぞれの基質や GroES への affinity に影響 が Hsp9 0/70/4 0システムによる luciferase の refolding に必要である しあい, 結果として「代わりばんこ」 に基質が cavity に入り folding と い う 発 表 が 最 も 印 象 的 だ っ た。HSP1 04/ClpB に つ い て は, されて行くという。実は彼の英語にまったくついていけなかっ DnaK/DnaJ/GrpE と ClpB により,aggregate した luciferase を活性 たのだが,このモデルだけは絵を見せられただけで納得してし のある状態に戻すことができるという Goloubinoff(Freiburg 大) まった。また,7個の GroEL を共有結合によりつなげて一つの の発表は面白かった。この反応は非常に時間がかかる(時間単 ドーナツ型分子にしてしまっても活性があり,そのうちの三つ 位!)が catalytic なものである。彼らは DnaK がアクセスできる までは活性中心をつぶしたものに置換しても活性が保たれると ように ClpB が aggregate 内部の疎水性の部分を外に出すという いう結果も同時に報告された。 モデルを提唱していた。 その他では Fisher(Kansas Medical Center) ,Radford(Leeds 大) 全体的には, GroEL を筆頭にシャペロン分子の構造解析が進み, によるモデル基質を用いた解析や Saibil(Birkbeck College)らに 分子の物理化学的な性質が明らかになってきている一方,基質 よる cryo 電顕による解析が発表された。また,CCT については との相互作用については,広い基質受け入れ能力というシャペ Willison(Institute for Cancer Research)による酵母 CCT と b-actin ロン独特の性質のおかげでなかなか一般的な性質がつかみきれ の相互作用の解析や Martin(Brown 大)による CCT に特徴的な ないという印象がある。普通の酵素なら,一つの基質との相互 構造を欠失させた変異型蛋白質の解析が発表された。 作用を解析すれば終わりなのに対し,シャペロンではモデル基 蛋白質輸送・膜透過関連では,膜透過輸送における HSP7 0の 質が違えば違う結果が得られることが多い。今後は数多くのモ 機能についての二つの対照的な発表が興味深かった。Harvard の デル基質とシャペロンの相互作用の解析を地道に積み上げてい Rapoport らは高度に精製された Sec 複合体と Bip,そしてモデル くしかないのだろうか? 基質として in vitro で合成した prepro α factor(ppαF)を用いて さて,サイエンスについてはこれくらいにして,会場の雰囲 小胞体における posttraslational protein transport について解析し, 気などについて。晴れた日には気温が3 0℃ ぐらいまで上がり, Sec 複合体と Bip のみで transport 活性があり,Bip と基質の結合 ヨーロッパの人たちは皆,昼休みにホテル下のビーチで泳いで が阻害される条件では基質の「back sliding」が起こること,そし いた。準備万端であり,彼らが初めからそのつもりで来ていた て Bip を ppaF に対する部位特異的抗体によって代替しうること のは明白である。これに限らず,カンファレンス全体を通して, を示した。これらの結果はいわゆる「Brownian ratchet モデル」 南イタリアの空気とともにリラックスムードが漂っていた。し を支持するものであり,Bip の基質への結合と受動的な基質の運 かし,ひとたび議論が白熱すると皆ディスカッションに没頭し, 動のみで輸送が行なわれうることを示している。一方,Freiburg また,深夜とも言える時間帯のポスター発表会場でも人が絶え 大の Pfanner はミトコンドリアへの輸送について mtHsp70の変異 ることがなかった。このあたりの「切り替え」の上手さや底知 株を用いた解析について発表した。彼らは ssc1-2変異株の高温 れぬパワーには感服するばかりであった。もちろん体力的なも 感受性を相補する分子内サプレッサーを解析した結果,モデル のもあるだろうが,おそらく,すべてにおいて楽しもうという 0の基質と 基質 b2-DHFR の unfolding および膜透過能は,mtHsp7 姿勢が重要なのであろう。これは自分も見習うべきだと感じた。 の結合力とは相関せず,mtHsp7 0の Tim4 4との結合能に相関する イタリアということもあり,食事にはかなり期待してきてい ことを示した。この結果は,基質の輸送には「Brownian ratchet たのだが,おおむねその期待に応えてくれるものであった。最 モデル」 では説明できない能動的な力が必要であることを示唆 終日の夜は少し豪華なディナーだったが,特にその primo(第一 するものである。これら二つの結果は,前者は比較的 loose な基 の皿) で出たリゾットは絶品で, 私などはお代わりまでもらって, 質,後者は tight な基質を使っていること,また小胞体とミトコ その後動けなくなるぐらい満腹になってしまった(ペース配分 ンドリアの違いなどがあるため,実際矛盾しているわけではな を考えていなかった) 。ディナーの席ではオックスフォードでポ い。加えて,Rapoport の前に発表した Neupert 研の Brunner も, スドクをされている小林さんに,イギリスでの研究生活につい この問題に触れて“hand by hand model”という Brownian ratchet てのいろんな話を聞かせて頂いたりして,とても有意義であっ モデルに近いと思われるモデルを提唱しており,これは Pfanner た。 の結果と対立すると思われるが,実は良く聞き取れなかったの ディナーの後に で詳しいことはわからない(ごめんなさい) 。個人的には,ratchet は,ホテルのフロ 的作用によって輸送が起こりうることは確かだろうが,果たし ントにいた兄ちゃ て実際,細胞内でそれだけで輸送される分子があるのだろうか んがエレキギター と思ったのだが。 とシンセサイザー その他,アミロイド関係では Scripps Research Institute の Kelly を操ってスタン による変異型 transthyretin のアミロイド形成についての解析や, ダードナンバーを California 大の Weissman による Sup35p への glutamine repeat 挿入 演奏し,それにあ によるアミロイド形成についての解析が発表された。また,ATP わせて自然とダン 依存型プロテアーゼについては Langer(M nchen 大)によるミ スパーティーが始 トコンドリア内膜 AAA プロテアーゼの基質結合についての研究, まっていた。Hartl マラテアの街 11 大先生はおおはしゃぎで,奥様とともに心行くまで楽しんでお えていた二次元像が「土管」様になっただけとも言える。現在, られた。この光景を見て,恥ずかしがりやで堅物の典型的日本 二次元結晶化を試みているとのこと。膜透過装置の結晶解析は, 人である自分(自称)がこの雰囲気に自然と溶け込める日が来 大腸菌,小胞体も含めてまだいずれの系でも成功していないが, るのだろうか?と考えたり,いや,日本人は日本人らしくなど 成功すれば確実なブレークスルーとなるだろう。その他の話は, と変な意地を張ったり…。結局は少し心残りを感じながらも, 最近論文になったものが中心だったと思う。この後, レセプショ 明日の大変な移動に向けて早めに床に就き,最終日の夜は更け ンとなった。 て行ったのだった。 翌日は,シャペロンのセッションから始まった。E. Craig は, 自分自身にとって今回は2回目の海外シンポジウム参加だっ 二つの話題をとりあげた。酵母サイトゾルには二つの DnaJ ホモ たのですが,やはり言葉の壁の厚さをあらためて実感しました。 ログ,Ydj1p(Ssa タンパクのパートナー),Sis1p(機能はいまひ 勉強不足による予備知識不足のため,結局座っているだけの演 とつはっきりしていない)があるが,Ydj1p は essensial でないの 題も数多く(当然メモは真っ白) ,その結果,講演のレポートは に Sis1p は essential である。両者のアミノ酸配列を一部入れ替え どうしても自分と親和性の高い HSP7 0関係が中心となってしま た 融 合 タ ン パ ク 質 を 色 々 と 作 っ て,ど こ が Sis1p 特 異 的 な いました。また講演の聞き取りもさる事ながら,ルームメイト essential な機能を生みだすのかを,in vivo での Sis1p の機能代替 の Jose の低くうなるような英語がさっぱり理解できず,同じフ 能 を 指 標 に,検 討 し た。Sis1p は N 末 端 側 か ら J ド メ イ ン , レーズをさんざん繰り返させてしまったりもしました。とはい G/F ドメイン , G/M ドメイン , C 末端側ドメインという構造をと え,なにもかもが良い経験だったと思います。 る。Sis1p の機能には J ドメインが必須だが,これは Ydj1p の J 最後になりましたが,この文を書く機会を与えて下さった永 田先生に深く感謝致します。 ドメインでも良く, 「Sis1p か Ydj1p の J ドメイン」+「Sis1p の G/F ドメイン」 が Sis1p 特異的な機能に必要なことが分かった。こ れまであまり重要と考えられていなかった G/F ドメインの重要 性があぶり出された形である。もう一つの話題は,ミトコンド フライブルグの国際シンポジウム 「Protein Translocation and Folding」 リア内の二つの Hsp70, Ssc1p と Ssq1p について。Ssc1p はご存知 の通り,タンパク質の内膜透過,マトリクスでの高次構造形成 などに必須のシャペロンだ。これに対して,Ssq1p は欠失すると ミトコンドリア内への鉄の取り込みが減少することが見出され た。原因を追及したところ,Ssq1p は Yfh1p というタンパク質の 遠藤斗志也 機能化(膜透過ではないので,フォールディングか?)に関与 (名古屋大学大学院理学研究科) しているらしいことがわかった。この Yfh1p とは,ヒトミトコ ン ド リ ア で 鉄 の 取 り 込 み に 関 与 す る frataxin(機 能 欠 損 は 7月2 2日 か ら2 4 会場となった Haus "Zur Lieben Hand" Friedreich 運動失調の病因)のホモログである。 日にかけて,ドイ U. Hartl は, 大腸菌細胞内でのタンパク質の高次構造形成には, ツのフライブルグ シャペロニンに依存する経路,新生鎖結合シャペロン(Hsp7 0, で「タンパク質移 Trigger Factor(TF) )に依存する経路,シャペロンに依存しない 行とフォールディ 65) 経路の三つがあるという,最近の Cell の論文(Cell 97, 755-7 ング」に関する国 の話をした。細胞内で合成されるタンパク質がどの経路を通る 際シンポジウムが かはシャペロンの相対量に依存し,たとえば DnaK を欠失させる あった。オーガナ と,GroEL が増加してタンパク質の高次構造形成を最適化する。 イ ザ ー は Nikolaus また, DnaK と TF のどちらか一方を欠失させても致死にはならな Pfanner,Bernd いが,両方を欠失させると致死になるので,両者は新生鎖への Bukau,Klaus Aktories の3人だが,実質的には Pfanner が中心に 結合において互いにバックアップできる関係にある。 B. Bukau の なって企画したもののよう。この分野の主立ったところが多数 話も, TF 欠失株では DnaK と相互作用する新生鎖が増えることを 顔を連ねる一方で,参加人数を制限した(宣伝もあまりしなかっ 示すなど,かなり Hartl の話に似ていたが,これは Bukau の方が たし,ポスター発表などもない)ことによりコンパクトにまと 先に見つけたことなのかもしれない(友安さんの「海外研究室 まり,食事やコーヒーブレークも含めてサービスがキメ細かく 紹介」を参照) 。Bukau らはさらに,熱変性タンパク質の巻き戻 て良かった。日本からは私と藤木さん(九大)が参加した。 りについても,様々な変異株でどのタンパク質が凝集するかを 最初の日は,W. Neupert のオープニングレクチャーのみ。 4∼ 二次元電気泳動+質量スペクトル解析で調べ,DnaK/DnaJ/GrpE 5研究室分くらいのサイズでミトコンドリア生合成を徹底的に による凝集そのものが防がれる経路と,ClpB と DnaK/DnaJ/GrpE 研究している彼らだが,TOM(外膜のトランスロケータ)グルー によるいったん生じた凝集体を解離→巻き戻らせる経路がある プは,酵母は大量調製には向いていないということで,kg 単位 ことを示した。単に特定の基質タンパク質に対するシャペロン のアカパンカビから TOM を調製している。可溶化剤をジギトニ の働きを解析するのではなく,細胞内の全タンパク質の何%が ンからドデシルマルトシドに切り替えたところ(コストの問 どのシャペロンに依存してどのような経路で高次構造を形成し 題?) ,Tom70, Tom2 0その他を含まない Tom4 0, Tom2 2のみから たり,熱変性状態から再生するのかという視点。 「ポリペプチド・ 成るコア複合体が得られた。とりあえず,その三次元イメージ フラックス」 の全体像を意識した Hartl や Bukau のアプローチは, (電子顕微鏡観察像から構築)を披露したが,これまでは穴に見 すぐれてポストゲノム時代的なものであり,今後ますます重要 12 になってくるものと思 性を持つ CpxP がそちらにリクルートされて CpxA が活性化する, われる。ちなみに, 7月 というシナリオらしい。ここからストーリーがさらに発展して, 末に阪大蛋白研で行わ たとえば細菌が宿主となる真核細胞に接触するとピリが短くな れたセミナー「膜蛋白 るが,このとき余ったピリのサブユニットがペリプラズムに蓄 質の生合成と蛋白質膜 積する。すると CpxA/R システムがオンになり,溶菌に関わる遺 透過のメカニズム」 (本 伝子の転写が促進され,感染を助ける,などという推察も可能 特定領域研究班員の三 になってくるのである。 原 さ ん,中 井(正 人) 翌日は, ER の話から始まった。A. Johnson はシグナルアンカー さんらのお世話によ (SA)配列が,ER のトランスロコンからどうやって脂質二重層 る)でも,山根國男さ に出ていくかについて話した。トランスロコンがラテラルに開 んが,ゲノム計画が完 いて,SA 配列は初めから脂質と接触しながら出ていくのか,そ 了している枯草菌では, れともトランスロコンのサブユニット間インターフェスの間を, 細胞外に分泌される 脂質とは接触せずにすりぬけていくのか?彼は,SA 配列の隣り 1 5 0∼180種のタンパク 合う3残基に別々に光反応性架橋基を入れて架橋実験を行い,i, 質 の う ち1 3 8種 が シ グ i+1番目の残基は TRAM に,i+1,i+2番目の残基は Sec6 1αに架 ナル配列を持っており, 橋されることを見出した。これは,SA 配列はトランスロコンを フライブルグの象徴,大聖堂 そのうち45種類を具体 出ていく際,TRAM と Sec6 1αに対する位置が固定されている 的に解析・同定したところ,8 0%以上が Sec タンパク質と SRP (ラテラルに回転できない)ことを示しており,トランスロコン の両方に依存して分泌されていたという話をされた。これもま のサブユニット間インターフェスを脂質に接触せずに移動する た,ポリペプチド・フラックスという概念を意識した研究と言 モデルを支持する。確かに,トランスロコン・チャネルがラテ える。 ラルに開いて,脂質層が水分子を多数収容しているチャネル内 A. Horwich は,タンパク質のフォールディング,アンフォー 壁 に む き 出 し に な る,と い う の は ち ょ っ と 考 え に く い。A. ルディング,凝集体解離においてはリング状に会合したシャペ Helenius は,また糖鎖の結合とカルネキシン/カルレティキュリ ロンが重要であるということから話し始めた。シャペロニンは ン関係の話をするのかと思っていたら,これまではバルクの議 もちろんのこと,ClpX/ClpP, ClpA/ClpP, HslU/HslV などはリング 論しかできなかった in vivo での co-translational なフォールディン 構造をとるが,これらは皆シャペロン機能があるのだろうとい グに関し,今回は特定のタンパク質の解析結果を話す,と切り うわけだ。そして,ClpA にシャペロン活性があることを,実際 出した。このあたりの「つかみ」はうまい。種明かしをすれば, に証明してみせた。彼は今後,このあたりを研究対象にしてい SFV などのトガウィルスを感染させた細胞はほとんどウィルス くのだろうか。一方でシャペロニンからもまだ足を洗ったわけ 由来のタンパク質しか作らなくなるので,フォールディングの ではなく,GroEL の7つのサブユニットを遺伝子レベルで一本の 適当な指標さえあれば,パルスチェイスと組み合わせてある程 ポリペプチド鎖につないだ話をした。サブユニットを一つにつ 度の時間分解能でフォールディングをモニターできるのである。 なぐと,何が分かると思います?答えは, 7つのサブユニットの 具体的には,C プロテアーゼの自己切断活性を指標にしたり,ジ 任意のサブユニットを部位特異的に変異体に置換できるのです スルフィド結合生成を指標にしたりして, (いつものように?) ね。基質と結合できなくなる変異を,任意の数の任意の位置の BiP やカルネキシン/カルレティキュリンの結合とフォール サブユニットに入れた融合タンパク質は, (たぶん)全部で2 0種 ディングの関係を調べたりしていた。 類あるはず。これらが in vivo で GroEL 欠失変異体を相補できる 次はミトコンドリア かどうか調べていくと,シャペロニンの基質結合には7つの結 の セ ッ シ ョ ン。元 合部位がすべて必要なのではなく, 3∼4個で十分である,しか Schatz 研 の S. Rospert しその相対位置関係も重要である,Rubisco とローダネースでは は,酵母の無細胞タン 基質結合部位要求性が違う,などが分かってくるのである。今 パク質合成系を用いて, 後 ATP アーゼ活性の低い変異体を用いて ATP 加水分解の協同性 ミトコンドリアタンパ の意義を調べることもできるだろう。いまから,Cell に載ること ク質新生鎖のミトコン がお約束の研究のように聞こえてしまう。 ドリア移行を促進する T. Silhavy の大腸菌ペリプラズムにおける「unfolding protein サイトゾル因子を検索, response」の話は,個人的にこれまでちゃんとフォローしていな NAC に そ の よ う な 促 かったこともあり,面白く聞いた。大腸菌には細胞質膜タンパ 進活性があることを見 ク 質 の CpxA と サ イ ト ゾ ル の CpxR が「two-component system」 出していた。しかし, を作っており,ペリプラズムに異常タンパク質が蓄積すると, 酵母の NAC 遺伝子破 CpxA がサイトゾルの転写因子 CpxR をリン酸化し,dsbA, degP 壊株の増殖は全く正常 などの転写が促進される。CpxA は通常はペリプラズムの可溶性 である。 そこで NAC 遺 タンパク質 CpxP (その遺伝子は cpxA/cpxR オペロンのすぐ隣にあ 伝子破壊株のライセー る)と結合してキナーゼ活性がオフになっているが,ペリプラ トを用いて同様の実験 ズムに異常タンパク質が蓄積すると,おそらくシャペロン様活 を行ったところ,NAC 清流が流れるフライブルグの石畳の通り 13 がないにも関わらず,ライセートには新生鎖のミトコンドリア 移行促進活性があることが分かった。NAC の欠失に適応して別 のシャペロンが NAC の機能を代替したのであろう。現在,この 新因子を検索中という。こういうところがシャペロン研究の やっかいなところではある。私は,ミトコンドリアタンパク質 受容体の NMR 構造解析の話をした後,長年 Schatz と Neupert の 間で論争となってきた膜間部への仕分け経路は,Schatz らの提案 した「stop-transfer」モデルが正しいこと,内膜通過の原動力は, Neupert らが主張する Brownian rachet だけでは説明できないこと などを話した。その後の昼食時,隣席した Neupert との議論に特 に熱が入ったのは言うまでもない。 ミトコンドリアの話は N. Pfanner,R. Jensen,J. Rassow と続き, ティティ湖 Hsp70および1 4-3-3タンパク質と複合体を形成するが,こちらの 最 後 は 葉 緑 体 の 話 に な っ た。こ こ ま で く る と,Dobberstein, 14-3-3タンパク質は MSF であろう。 植物細胞にはミトコンドリア Hellenius など地元ドイツの人たちが一部帰ってしまって,ちょっ と葉緑体が共存するので,リン酸化とサイトゾル因子が両者へ と聴衆が寂しくなってきた。しかし,長髪を切り落としてさっ の厳密な仕分けを制御しているのかもしれない。 ぱりした J. S ll の,葉緑体移行とサイトゾル因子の話は,これ フライブルグは, 「黒い森」の南西に位置する,小さな美しい までほとんど知見がなかったこともあって面白かった。彼は以 街である。ロマネスク様式とゴシック様式がハイブリッドに 前,葉緑体のトランジットペプチド部分はコムギ胚芽抽出液中 なった大聖堂,石畳の通り,その脇の小さな溝を流れる清流。 のキナーゼによってリン酸化を受けるが,リン酸化されると葉 会議は旧市街の中にある,大学所有の建物(古さとモダンさが 緑体に取り込まれなくなる(だからその意義はいまひとつ良く 同居したユニークな造り)で行われた。会議の合間に一時間半 分からなかった)ことを見出していた。今回,コムギ胚芽抽出 程度の市内観光ツァーもあり,通りの脇の清流はもともとは火 液中で合成したリン酸化葉緑体タンパク質前駆体は抽出液中の 事対策だったことを知った。会議終了の翌日は,フランクフル 1 4-3-3タンパク質と複合体を形成すること,このことにより葉緑 ト空港行きの車が迎えに来るまでの待ち時間,列車で40分の 体への取り込み活性が著しく上昇することを見出した。リン酸 ティティ湖に足を伸ばした。こちらがまた,小さいけれど絵の 基は葉緑体表面ではずれるという。ミトコンドリアタンパク質 ようにきれいな湖。さすがに観光客も多かったが,湖の周りの 前駆体,リン酸化されていない葉緑体タンパク質前駆体は,コ 散歩道(一周一時間半)は,静かで気持ち良かった。このあた ムギ胚芽抽出液中の Hsp7 0とは結合するが,1 4-3-3タンパク質と りをコンヴァーティブルでドライブできたら,最高だろう。こ 相互作用しない。ちなみに,ウサギ網状赤血球ライセートで合 うしてすっかりリフレッシュして,亜熱帯なみの気候と実験に 成したミトコンドリアタンパク質前駆体は,ライセート中の 忙しい(?)学生が待つ名古屋への帰途についた。 シャペロンからみた 真核生物の起源と初期進化 菌と真正細菌のキメラであること,全てのアーケゾアがかつて はミトコンドリアを有していたことなどの驚くべき事実が明ら かとなり,現在,真核生物の起源と初期進化に関するこれまで のパラダイムは急激に転換しつつある1。 橋本哲男 (統計数理研究所調査実験解析研究系/総合研究大学院大学先導科学研究科) 本稿では,この分野の分子系統学的研究の現状とパラダイム の転換に大きく貢献したシャペロン関連分子種の解析の成果に ついて簡単に解説する。なお,後半部分は,遠藤斗志也教授の じめに は 1 9 90年代前半までの分子系統学の成果により,生物の世 ご質問を適当にアレンジして Q & A 形式にしてある。 界は,真核生物(Eukaryota) , 古細菌(Archaebacteria) , 真正細 ミトコンドリアをもたない原生生物の系統的位置 菌(Eubacteria)の三つの超生物界から構成されることが示され, 真核生物は大きく分けて,動物界・菌界・植物界からなるい 真核生物の核ゲノムは古細菌様の生物にその起源をもつとの仮 わゆる高等真核生物と原生生物界とから構成されている。原生 説が支持されていた。また,真核生物の進化については,段階 生物界には数多くの多様な分類群が含まれているが,これらが 的なモデルが提唱され,核,細胞骨格系の進化に続いて,ミト 一つの界として単系統群を形成するわけではない。原生生物界 コンドリアが細胞内共生によって獲得されたものであると考え と菌界に属する生物群の中には,真核生物であるのにもかかわ られていた。とくに,ミトコンドリアをもたない一部の原生生 らずミトコンドリアをもたないものが存在する。これらのうち 物は,ミトコンドリアの共生以前の真核生物の祖先型に近い生 原生生物に属するものについては,細胞のさまざまな形態的・ 物であるとみなされ, 「アーケゾア」と呼ばれた。ところがここ 生化学的特徴が,通常の真核細胞に比べて「原始的」であるこ 数年,多くの新データの蓄積により,真核生物のゲノムが古細 とから,ミトコンドリアの共生以前の祖先型真核生物である可 14 能性が示唆されていた。198 7年に Cavalier-Smith は,これらのう ち代表的な4つの分類群をアーケゾア(archaezoa)と名付け, 祖先型の真核生物であるとして通常の真核生物とは区別するこ とを提案した2。4つの分類群とは,archamoebae( ‘entamoebidae’ に属する Entamoeba 等を含む) , metamonada (‘diplomonads’に 属 す る Giardia 等 を 含 む), microsporidia (Vairimorpha 等 を 含 む) , および parabasalia (Trichomonas 等を含む)である。ただ し parabasalia は,ミトコンドリアをもたないが,ヒドロゲノソー ム(hydrogenosome)という ATP 生成を伴うオルガネラをもって いる3。Cavalier-Smith は,当時の知見に基づき,ゴルジ装置が 未熟もしくは存在しないこと,ペルオキシソームが存在しない こと,microsporidia のリボソームが原核生物のそれと同様に70S 型であることなどの事実をあげ,原始的真核生物としてのアー ケゾアの存在を強調した。 一方,アーケゾアの小亜粒子リボソーム RNA(SSUrRNA)の 遺伝子解析・分子系統樹解析も盛んに行われ,1 99 0年代初頭ま でには,ミトコンドリアをもたない三つの分類群,microsporidia, diplomonads, parabasalia が真核生物の進化の非常に早い時期に他 の高等真核生物にいたる系統から分岐すること,これに対し entamoebidae の分岐はミトコンドリアを有するいくつかの分類 群の分岐の後であることなどの可能性の高いことが明らかと 図1 シャペロニン(CPN6 0)の系統樹 なっていた4。さらに,翻訳反応のペプチド鎖伸長因子(EF-1α 蛋白質分子系統樹の最尤法19に基づく解析の結果を示す。枝長は推定アミノ酸置換数に比例 している。内部枝上の数値は局所ブートストラップ確率(%) 。*はミトコンドリアをもたな い真核生物。 および EF-2)による我々の解析も,基本的には SSUrRNA の系 統樹を支持する結果となった5。 こうした状況を反映してか,1 9 9 4年に出版された代表的な教 解析の結果いずれも明らかにミトコンドリア起源であることが 科書「Molecular Biology of the Cell」の第三版では,ミトコンド 示された。さらに, 4グループの一つである Bui ら7は,HSP70と リアの共生以前の真核生物として microsporidia と diplomonads が CPN6 0が Trichomonas のヒドロゲノソームに局在することを示し, 取りあげられ(1−16, 1−3 8図),とくに Giardia lamblia のこ ミトコンドリアとヒドロゲノソームが共通祖先をもっていたと とが電顕写真入り(1−21図)で紹介された。 いう可能性を示唆した。 ミトコンドリアをもたない原生生物におけるミトコンドリア関 る Nosema locustae と Varimorpha necatrix において,翌1 998年に 連シャペロン遺伝子の発見とその意義 は同じく Encephalitozoon cuniculi において,ミトコンドリア型の 19 9 7年には, より分岐が古いとされていた microsporidia に属す ところが,その翌年19 9 5年になると,アーケゾア仮説の雲行 HSP70の存在が示された。さらに我々も本特定研究で,同じく きは急速に危うくなり始める。19 9 5年7月号の PNAS に Clark microsporidia の E. hellem 及び Glugea plecoglossi に関する当該遺 6 and Roger は,Entamoeba histolytica (entamoebidae)の核ゲノム 伝子の解析を行ない,これらがミトコンドリア起源であること から,pyridine nucleotide transhydrogenase(PNT) およびシャペ を明らかにしてきた。最後に残った分類群 diplomonads について ロニン(CPN60)の遺伝子を単離したと報告した。通常の真核生 も, 1 998年に Giardia lamblia で CPN60の存在が示された8ため,結 物ではこれらの分子はミトコンドリアで機能していることから, 局,アーケゾアとよばれていたミトコンドリアをもたない4つ 彼らは,ミトコンドリアをもたない Entamoeba におけるこれらの の分類群のいずれもが,進化の途上で二次的にミトコンドリア 遺伝子の存在は,ミトコンドリア機能の二次的喪失の直接的証 を失なったものであるということになった。 拠であると主張した。実際,Entamoeba の CPN6 0の配列データ を含む彼らの分子系統樹では,Entamoeba は高い可能性をもって 真核生物ミトコンドリアの CPN6 0の系統の中に含まれることが 示されていた。前述のように Entamoeba の真核生物系統樹上での 分岐は,ミトコンドリアを有するいくつかの原生生物の後と考 えられていたため,この結論は当然といえば当然であったが, これを契機に, 「それでは,もっと分岐の古い分類群ではどうな のか」が問題となり,世界中で競争が始まった。つまり,多く の研究室で,より分岐が古いとされる分類群の核ゲノムの中に ミトコンドリア関連の遺伝子を探索する試みがなされた。 翌19 9 6年には, 4つの研究グループから独立に,Trichomonas vaginalis(parabasalia)におけるミトコンドリア関連シャペロン 遺伝子(CPN60, HSP70, HSP1 0)の存在が報告され,分子系統樹 図1にシャペロニン(CPN6 0)の系統樹を示した。ミトコンド ミトコンドリアをもたない原生生物の中には,自由生活性のものもいるが, 古くからよく知られ研究されているものの多くは寄生虫である。Entamoeba histolytica(和名:赤痢アメーバ)は,腸管から体内に侵入して,下痢,血便, 腹痛,発熱,けいれんなどの症状を起こし全身の諸臓器を侵す。熱帯地方を中 心に世界中での推定感染人口は約5億人といわれている。Giardia lamblia(和名: ランブル鞭毛虫)も腸管寄生性で,粘膜上皮細胞障害を起こし,下痢,腹痛な どの原因となる。成人の感染者は無症状なことも多いが,小児では感受性が高 い。日本での感染例としては,海外からの帰国者が持ち帰ったという場合が多 い。Trichomonas vaginalis(和名:腟トリコモナス)は生殖器や泌尿器に寄生す る。トリコモナス症は性感染症(STD)の一種で,女性の場合腟炎の原因とな るが,男性の場合は無症状のことが多い。microsporidia (和名:微胞子虫類) は広範囲の生物種を宿主とする細胞内寄生性の分類群である。たとえば Nosema は昆虫の,Glugea は魚の寄生虫であり,これらが蜜蜂,蚕,養殖魚などに大き な被害を及ぼす場合がある。Encephalitozoon はヒトを含む哺乳類の寄生虫であ るが,近年,AIDS 患者の日和見感染の重要な病原体として注目を集めている。 15 リアをもたない原生生物である Giardia,Entamoeba,Trichomonas アーケゾアと呼ばれていた分類群のいずれもが,進化の途上 のいずれの配列も高い可能性(局所ブートストラップ確率9 9%) で独立にミトコンドリアを失っていったものであるとの概念が をもって,真核生物のミトコンドリアと単系統群を形成してい 定着するのと機を同じくして,SSUrRNA やペプチド鎖伸長因子 る。さらにその姉妹群には,ミトコンドリアの起源生物とみな の系統樹上でこれらの分類群が早く分岐していることについて されているα- プロテオバクテリア(proteobacteria)が位置して も疑問が投げかけられた。事の発端は,microsporidia のチューブ いる(90%)。これらのことから明らかに,3つの CPN6 0の配列 リンのデータである。Encephalitozoon や Nosema で報告された は ミ ト コ ン ド リ ア に 由 来 し た も の と 考 え ら れ る。ま た, チューブリンのデータとその系統樹解析の結果は,microsporidia Trichomonas に比べると Giardia と Entamoeba それぞれに至る枝 が真核生物の早い時期に分岐したものではなくむしろ菌類に近 が長くなっており,進化速度の増大を示している。Trichomonas 縁であることを明確に示していた。さらに前述のミトコンドリ の CPN60は,ヒドロゲノソームにおいては通常のミトコンドリ ア型 HSP7 0の系統樹においても,microsporidia は菌類もしくは動 ア に お け る の と 同 様 の 機 能 を 営 ん で い る と 予 想 さ れ る が, 物と菌類の共通祖先のあたりに位置づけられる可能性が強く示 Giardia と Entamoeba にはそのようなオルガネラがないため,何 唆された。それではなぜ,SSUrRNA やペプチド鎖伸長因子の解 らかの理由で機能的制約が緩んで進化速度が速くなったものと 析結果とこれらの解析結果が大きく食い違うのだろうか? 考えられる。それに伴ないこれらの生物で CPN6 0の機能が変化 Phylippe らは,その原因が系統樹推定の方法論上のアーテファ している可能性もある。ミトコンドリア外における CPN6 0の機 クトである可能性を指摘した10。一般に,系統樹を推定する際, 能の比較生物学的解析をはじめ,今後の研究の進展が大いに期 対象とする配列とは系統的に同一のグループに属していないこ 待される。 とが確実にわかっている配列を加えて解析し,系統樹の根もと 一方,我々は,シャペロンとは別にバリン-tRNA 合成酵素 を決める。このような配列のことをアウトグループという。ア (ValRS)の解析によっても,これら4つの分類群におけるミト ウトグループが系統的に非常に離れたものであり,しかも,系 コンドリアの2次的喪失の可能性を示した。ミトコンドリアを 統関係を推定すべき配列群の中に進化速度の著しく速いものが 有する通常の真核生物では,ミトコンドリア及び細胞質の双方 含まれていると,それがアウトグループの方に引っ張られて, において, ミトコンドリア由来のものと考えられる ValRS が使用 実際の位置よりも外側の方に位置づけられるという傾向がある。 されている。我々は19 9 8年に,Giardia と Trichomonas において この現象は Long-branch attraction(LBA)と一般に呼ばれており, 9 通常の真核生物型の ValRS の存在を示した が,その後の解析に 系統樹推定を誤らせる最も大きな要因とみなされている。彼ら より,microsporidia や Entamoeba においても同様の型の ValRS の主張によると,microsporidia の SSUrRNA やペプチド鎖伸長因 が存在していることが明らかとなった。分子系統樹解析の結果 子の進化速度は非常に速くなっているため,LBA の効果により からも, ミトコンドリアの有無にかかわらず真核生物の ValRS が 誤った系統樹が推定され,microsporidia が真核生物全体の根もと 単系統群をなすことが明確に示された。 近くから分岐したように見えていただけだということになる。 また,進化速度のあまり速くなっていないチューブリンやアウ Microsporidia は菌類(fungi)に近縁―改訂版「真核生物の系統」 トグループのあまり遠くないミトコンドリア型 HSP70の解析結 果の方が信用しうるということになる。すなわち,microsporidia は菌類に近縁なのである。その後今年になって,microsporidia の RNA ポリメラーゼⅡのデータが報告され,やはり菌類と近縁で あることが明確に示された。我々の ValRS のデータも,それほ ど強くはないが「microsporidia −菌類近縁説」を支持する結果と なった。 さらに Philippe らは,ミトコンドリアをもたない他の分類群に ついても,一部の遺伝子で進化速度が速くなっているために, 一見分岐が早いように見えているだけであると考え,実際には, 真核生物の系統樹の根もとに位置するような生物は,現存の真 核生物の中には存在しないのだとした。そして,真核生物を構 成する大きな分類群は,地球上に酸素が豊富になってから非常 に短かい期間の間にほぼ同時に分岐したと考え, 「ビッグバン仮 説」を提唱した11。図2は,彼らの仮説をもとに,我々の最近の データ解析の成果も含めて描いた真核生物全体の系統樹である。 これによれば,ミトコンドリアの共生以前の真核生物の祖先型 に近いような生物,すなわち「アーケゾア」は存在しない,い や少なくとも現存はしないのだということになる。 真核生物の起源――最近の展開 図2 真核生物全体の系統樹 真核生物の大きな分類群相互の系統的関係を概念図として示した。*はミトコンドリアをも たない分類群。 16 近年,三大生物界にわたるさまざまな生物種のゲノムプロ ジェクトが飛躍的に進展したことに伴ない,膨大なシーケンス データが蓄積され,多くの分子種に関するアライメント解析・ 分子系統樹解析が網羅的に実施されるようになった。その結果, Giardia の N 端部分は Trichomonas や Entamoeba に比べて短い 転写・翻訳・自己複製などの遺伝情報の伝達に関与する遺伝子 のですが,移行シグナルがあるかどうかはまだわかっていま 群では,真核生物と古細菌が近縁となるのに対し,代謝系に関 せん。また,Encephalitozoon(microsporidia)のミトコンドリ 与している遺伝子群では,真核生物と真正細菌が近縁となると ア型 HSP7 0の N 端にも移行シグナルらしき配列が存在してい いう傾向の強いことが明らかとなってきた。この事実は,古細 ます。一般に,ミトコンドリア型 HSP7 0は熱ショックによっ 菌の細胞が段階的に進化して真核生物の祖先型細胞が生じたと て核へ移行することが知られています。この現象との関連で, いう従来の真核生物の起源に関する仮説に相反する事実である。 microsporidia のミトコンドリア型 HSP7 0は核で機能しており, 代謝系の遺伝子のほとんどが独立に,水平転移によって,真正 N 端の配列は核へのシグナルだろうという議論もなされてい 細菌から真核生物の祖先型細胞に入ってきて古細菌由来のもの ます13。 と置き換わったとは考え難いからである。 そこで,この事実を説明するために提案されたのがキメラ仮 説である。実際にはキメラの構成については諸説があるが,基 Q:ミトコンドリアのない真核生物が,いずれもかつてはもって いたミトコンドリアを失なったということであるとすると, その痕跡オルガネラは残っていますか? 本的に,古細菌と真正細菌が融合(共生)して真核生物の祖先 A:既に申しましたように,Trichomonas のヒドロゲノソームや 型の細胞ができたと考え,そのためゲノムもキメラであるとさ Entamoeba で見つかった上述のオルガネラは,ミトコンドリア 1 れる 。さらに最近,「アーケゾア」が存在しない可能性が強く の痕跡と考えられています。ヒドロゲノソームは,嫌気的に 示唆されてきたことに伴ない,ミトコンドリアが真核生物の祖 エネルギーを生成するオルガネラです。ヒドロゲノソームで 先型細胞の段階で既に存在していたとする説も有力となりつつ は,細胞質の解糖系反応によって生じたピルビン酸が基質と ある12。すなわち,融合した真正細菌自体がミトコンドリアの祖 なり,ピルビン酸フェレドキシン酸化還元酵素の作用で,二 先であると考えてもよいわけである。現在のところ,真核生物 酸化炭素,アセチル− CoA,還元型フェレドキシンが生成さ の起源に関する議論は,祖先型真核細胞が段階的にさまざまな れます。フェレドキシンはさらにヒドロゲナーゼの働きで酸 形質を獲得していったと考えるよりはむしろ,祖先型真核細胞 化されて水素分子を生じます。その過程でグルコース1モル当 成立の前提条件として,キメラゲノム,核,細胞骨格系,ミト たり2モルの ATP が生成されます。この反応経路は,通常のミ コンドリアの存在をあらかじめ仮定するという方向に傾きつつ トコンドリアには存在しないと考えられております。 ある。 Q:たとえば,酵母のように発酵でも呼吸でも増殖できるような 真核生物では,ミトコンドリアの呼吸機能は増殖に必須では Q&A ありませんが,ミトコンドリアの存在は必須です。しかし, Q:シャペロン遺伝子の解析により,真核生物の進化を研究する ミトコンドリアのどんな機能が細胞の増殖に必須なのかは分 ことには,どういう利点があり,そのことにより,とくにど かっていません。そこでたとえば,上述の痕跡オルガネラの んなことがわかると期待されるのでしょうか? 組成蛋白質を調べれば,ミトコンドリアのどんな機能が必須 A:分子シャペロンの研究が非常に活発に行われているためか, であるのか分かる可能性があるように思うのですが。 さまざまな生物種のシャペロン遺伝子のデータが豊富に存在 A:ミトコンドリアとヒドロゲノソームとで共通に存在する蛋白 しています。進化学的な研究の基本は「比較解析」にあるた 質としては,まさにシャペロン関連分子種を挙げることがで め,データが豊富であることはそれ自体大きな利点です。分 きます。ミトコンドリアのどんな機能が増殖に必須かという 子系統樹解析の場合には,生物種の数が増えると大きな誤り 問題ですが,それを考えるためには,ミトコンドリア蛋白質 を犯す危険性が減少するということが経験的によく知られて のミトコンドリア外での機能にも注目する必要があると思い います。その意味でも,最もデータの豊富な HSP7 0は,真核 ます。CPN60は,ミトコンドリア以外でも,アミノ酸輸送,シ 生物の比較的大きな分類群相互もしくはそれらの内部の進化 グナル伝達などの他の細胞機能にかかわっていたり,癌細胞 的関係を解析するために適切な分子と言えます。一方,シャ やストレス細胞の表面に発現していたりするようです。ミト ペロン関連分子種の一部のものは細胞質以外にも,小胞体, コンドリア型の HSP7 0についても, 抗原提示に関与していたり, ミトコンドリア,葉緑体などにも局在しているため,こうし 細胞の老化との関連が示唆されたりしています。さらに,別 たオルガネラの起源や進化の研究のための材料としても重要 のいくつかのミトコンドリア蛋白質についても,ミトコンド です。 リア以外への局在とさまざまな細胞機能への関与の可能性が Q:ミトコンドリアのない真核生物であっても,ミトコンドリア 報告されています。このように,ミトコンドリア蛋白質の, 由来と思われる蛋白質の遺伝子が残っているとすると,それ エネルギー生成機構への関与とは別のなんらかの機能が,増 らの蛋白質にはミトコンドリア行きのシグナル配列も残って 殖に必須なのだと考えられます。また,ミトコンドリア外に いるのでしょうか?残っているとすると,どんな形で存在す 存在するミトコンドリア蛋白質は,一度ミトコンドリアに移 るのでしょうか? 行した後に,さまざまな細胞内部位に転送されるものと考え A:本文で述べた CPN6 0についてですが,Trichomonas では,N られています。例えば CPN6 0で,ミトコンドリア外で働いて 端側の14残基がヒドロゲノソームへの移行シグナルになって いるものはみな成熟体型であり,しかも cytosol ではシグナル 7 0の局在するオルガネラ います 。最近,Entamoeba でも CPN6 配列を特異的にはずせないということから,一度ミトコンド が見つかったという学会報告があり, N 端21残基がそこへの移 リアに行って成熟しなくてはならないのだろうというわけで 行シグナルだと言われています。もちろん報告者たちは,こ す。ミトコンドリアにこのような転送の機構が存在する可能 の オ ル ガ ネ ラ は ミ ト コ ン ド リ ア 起 源 だ と 考 え て い ま す。 性も示唆されています14。 17 Q:最も原始的なミトコンドリア,すなわち最も多くの遺伝子を TypeⅡの脂肪酸合成経路への関与が示唆されました18。この経 そのゲノム上に有するミトコンドリアをもつ真核生物として 路は動物には存在しないため,新しい薬剤標的としての可能 は,どんなものがあるのでしょうか? 性がクローズアップされています。 A:現在わかっているうちで最も多くの遺伝子をもつミトコンド リアゲノムは,Reclinomonas americana という原生生物のもの 1 5, 16 です 。全長は69, 0 34bp で植物のミトコンドリア DNA より 〈参考文献〉 3, 493-497(1998) 1.Katz, L. A. : Trends Ecol. Evol. 1 26, 332-333(1987) も小さいのですが,遺伝子数は9 7でトップです。その中には, 2.Cavalier-Smith, T. : Nature 3 他のミトコンドリアゲノムには存在していない RNA ポリメ 39, 2879-2889(1993) 3.Muller, M. : J. Gen. Microbiol. 1 ラーゼ,リボソーム蛋白質などの1 8個の蛋白質の遺伝子が含 9, 41-48(1993) 4.Leipe, D. D., et al. : Mol. Biochem. Parasitol. 5 まれています。ちなみに最も小さいミトコンドリアゲノムは, 5.Hashimoto, T. and Hasegawa, M. : Adv. Biophys. 32, 73-120 マラリア原虫 Plasmodium 属のもので,大小のリボソーム RNA しか の他に cob, cox1, cox3の遺伝子しかコードしていません。 も DNA は環状ではなく linear です。 Q:ミトコンドリアの進化的起源は,現存の原核生物ではどんな ものに近いと考えられているのでしょうか? A:α−プロテオバクテリアの中のとくにリケッチャのグループ が,ミトコンドリアの起源となった原核生物(真正細菌)と 考えられております。昨年,Rickettsia prowazekii のゲノムプロ (1 996) 6.Clark, C. G. and Roger, A. J. : Proc. Natl. Acald. Sci. USA 92, 6 51 8-6 5 21(19 9 5) 3, 9651-9656(1996) 7.Bui, E. T. N., et al. : ibid. 9 5, 229-234(1998) 8.Roger, A. J., et al. : ibid. 9 5, 6860-6865(1998) 9.Hashimoto, T., et al. : ibid. 9 10.Philippe, H. and Laurent, J. : Curr. Opin. Genet. Dev. 8 , 616-623 (1 998) ジェクトが終了し,ミトコンドリアゲノムとの類似性の高い 1 1.Philippe, H., et al. : Proc. Natl. Acald. Sci. USA, in press(1 999) ことが,さまざまな観点から示されました17。 92, 37-41(1998) 1 2.Martin, W. and Muller, M. : Nature 3 Q:マラリア原虫には,葉緑体起源のオルガネラが残っていると 5, 683-689(1998) 1 3.Peyretaillade, E., et al. : Mol. Biol. Evol. 1 76 14.Soltys, B. J. and Gupta, R. S. : Trends Biochem. Sci. 24, 174-1 聞きましたが… A:Apicomplexa 門に属するトキソプラズマやマラリア原虫など (19 99) の細胞には,アピコプラスト(apicoplast)というオルガネラ 87, 493-497(1997) 1 5.Lang, B. F., et al. : Nature 3 が存在します。そのゲノムにコードされている分子種のほと 83, 1476-1481(1999) 16.Gray, M. W., et al. : Science 2 んどは転写・翻訳関連ですが,それらの解析から,葉緑体起 96, 133-140(1998) 1 7.Andersson, S. G. E., et al. : Nature 3 源であることが明らかにされていました。機能に関してはわ 5, 12352-12357 18. Waller, R. F., et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9 かっていませんでしたが,昨年,核コード遺伝子の解析から, (19 9 8) 1分子蛍光イメージング法の シャペロニン研究への応用 1分子を見て初めてわかること 従来の生化学実験は,試験管の中の多数分子(∼1012個)の平 均量で,その生体分子の性質を表してきた。しかし,この方法 船津 高志 では分子のダイナミクスを明らかにすることはできない。ス (早稲田大学理工学部) トップトフローやケージド化合物を用いて反応の同期をとるこ とが行われているが,多段階反応を素過程に分離することは難 は じめに 生体分子に蛍光色素を結合させて光らせることにより, しい。また,生物分子モーターにおける化学・力学エネルギー 変換の研究のように,1分子が担っている2種類の反応の関係 生体分子の位置や状態を検出できるようになった。また,光ピ を明らかにしようとする場合は, 1分子で研究しない限り不可 ンセットなどの分子操作技術と組み合わせることにより, 1分 能であろう3。また,最近では,酵素(Cholesterol oxidase)に履 子を見て触る生化学が可能になった。このように1分子の機能 歴作用があることが明らかにされたが,これも1分子でなけれ が見えるようになると, 1分子を対象にした実験のデザインや ここで注意しておきたいのは, ば不可能な実験である4。しかし, 議論が,研究室で日常のように繰り広げられるようになった。 1分子の1回の反応を見ただけで全てが明らかになるわけでは 数年前までは, 1分子が働いている様子をお茶の間のビデオで ないことだ。生体分子の反応の活性化エネルギーは熱エネル 観賞できるとは夢にも思わなかったことと比較すると,この研 ギーとあまり変わらないため,統計処理を行う必要がある。 1分 究者の意識の変化は極めて重大だと思う。 1分子蛍光イメージ 子の実験を行っているにもかかわらず,たくさんの測定例を集 ング法の過去の研究成果は他の文献1-9に譲ることにして,本稿 めて統計処理しなければならないというと逆説的に思えるかも では1分子蛍光イメージング法を実際の研究現場に導入する際 しれない。しかし,これは生体分子を扱う研究の宿命であり, の注意点について,シャペロニン研究を例として解説する。 ここに生物研究の楽しさの本質がある。生体分子1分子の反応 18 所励起を巧みに組み合わせて実現した技術である。読者の中に は1分子系の実験を試みたいと思う人があるかもしれないが, 多分子系の実験を,全て一分子系の実験に移行できるわけでは ない。ブラウン運動する蛍光分子が背景光になるので, 1分子の 蛍光分子を見るためには,溶液中の分子の濃度を5 0以下に抑 える必要がある。また,蛍光色素が退色する までの時間がせい ぜい数十秒なので,実際に1分子の結合・解離反応をビデオで 見るためには,結合速度定数が1 06M-1s-1以上であり,解離速度定 数が0. 01∼10 s-1でなければならない。その他に,生体分子がガ ラスに吸着されにくい性質であること,生理活性を保持したま ま蛍光標識できることなどの条件を満たす必要がある。このよ 図1 GroEL と GroES の1分子間相互作用を観察する方法の説明図 うに厳しい制約があるが,全ての条件が満たされれば, 1分子の 詳細は本文を参照。 研究への道が拓け,解釈のいらない直接的な実験結果が得られ ることになる。この手法を用いて, 1分子の生物分子モーターの を統計処理した結果は,多分子系の平均値とは質的に異なり, ATPase や運動を捉えることに成功している1,2。さらに,1分子 分子のダイナミクス,履歴, 分子間相互作用の情報に溢れている。 蛍光イメージング法を,光ピンセットやマイクロニードルによ このような手間のかかる作業を好まない人は,従来の多分子系 る1分子操作と結びつけることにより,分子を見ながら,操作 の実験で満足するか,エレクトロニクスの研究に転向したほう できるようになった3,5,6。これにより,生物分子モーターの化 が良い。コンピューターは,熱エネルギーの数百倍の活性化エ 学・力学エネルギー変換に関する重要な知見が得られている3,6。 ネルギー(5eV)で反応を進めているので,素子の動作を調べる には1個だけでよく,統計が入り込む余地はない。 シャペロニン研究への応用 1分子を見て操作する技術 と特異的に結合し,ATP 存在下で補助因子である GroES と結合・ シャペロニン GroEL は,新生ポリペプチドや変性タンパク質 タンパク質などの生体分子が働いている現場を見るためには, 解離を繰り返してタンパク質の折れ畳みを助ける。しかし,ATP 光学顕微鏡が有効である。しかし,光学顕微鏡の分解能は∼0.3 加水分解サイクルとタンパク質の折れ畳みの進行がどのように μm が限界なので, ナノメートルの生体分子を見るためには特殊 共役しているかについて,まだ不明の点が多い。1分子蛍光イ な工夫がいる。暗闇の中で生体分子だけを光らせ,その存在が メージング法を用いて,これらの問題に取り組むための第一歩 判るようにしたのが蛍光顕微鏡である。生体分子を光らせるた として,蛍光色素 IC5で標識した GroEL をガラスに固定し,還 めには,生体分子に蛍光色素を結合させ,これに励起光を当て 元ラクトアルブミンと ATP 存在下で,TMR(tetramethylrhodamine) て蛍光だけを見るようにすればよい。しかし,強力な励起光に で蛍光標識した GroES が GroEL に結合・解離するダイナミクス より様々な光学部品から発生する蛍光や,水のラマン散乱が背 を観察した。タンパク質の生理活性を保ったまま特定のアミノ 景光となるので,これらを,いかに少なくするかが1分子蛍光 酸に蛍光色素を結合させるためには,特別な工夫を必要とする イメージング法の最大のポイントである。背景光の最も簡単な 場 合 が 多 い。GroEL の 活 性 を 保 持 す る た め に,変 異 GroEL 解 決 法 は,全 反 射 蛍 光 顕 微 鏡 法(total internal reflection (D49 0C)を作製し,このシステイン残基に IC5のマレイミド基 fluorescence microscopy)によるエバネッセント照明を用いること を反応させた。また,GroEL がガラス基盤に直接結合すると変 である(図1,装置の説明は文献9を参照) 。レーザーをスライ 性してしまうので,次のような工夫をした。まず,ガラスをビ ドガラスと水溶液の界面で全反射させると,エバネッセント光 オチン化した BSA(bovine serum albumin)でコートしておき, という光の染み出しが水溶液側に発生する (光強度が1/e になる ストレプトアビジンを介してシステインをビオチン化した 深さは約1 50) 。エバネッセント光は界面のごく近傍しか照明 GroEL(D4 9 0C)に結合させた。このようにして,全反射蛍光顕 しないので,背景光を抑えられるだけでなく,蛍光標識した生 体分子を局所励起できるという利点がある。例として2種類の 生体分子の相互作用(結合・解離)を見る場合を考えよう。そ れぞれの分子を異なる蛍光波長をもった2種類の蛍光色素で標 識し,一方をスライドガラスに固定し,他方を溶液中に分散さ せて相互作用を見ることになる。あらかじめガラスに結合した 分子の位置を確認しておき,次に励起波長を変えて,溶液中の もう一方の分子が結合・解離する様子を観察する。生体分子の ブラウン運動は非常に早い(通常のタンパク質では1の間に 1μm の距離を進む)ので,数千塩基対の DNA のような巨大分 子でない限り生体分子のブラウン運動をビデオで観察すること はできない。従って,ブラウン運動する分子は見えず,結合し て止まった分子だけが観察できるのである。このように, 1分子 蛍光イメージング法は,分子のブラウン運動と全反射による局 図2 1分子の GroEL と GroES の蛍光顕微鏡写真 スライドガラスに固定した GroEL と,任意の時刻に結合していた GroES の蛍光像。両者の 位置が一致する蛍光スポットに番号をつけた。ほとんど全ての GroEL 分子に GroES 分子が, 数分間に数回, 結合・解離を繰り返した。 これから, 結合速度定数は1 07 M-1s-1と見積もられた。 19 使って,生きた細胞内で1蛍光分子をビデオ観察することも可 能になっている。生きた細胞の内部で1分子のシャペロニンの 機能を研究することが夢でないとしたら,さて,あなたは何を 最初に見たいですか? 謝辞 生体分子の1分子蛍光イメージング法は,原田慶恵,徳永万 喜洋,齋藤究, 柳田敏雄氏 (柳田生体運動子プロジェクト,ERATO, JST)との共同研究によって開発された。また,この技術を利用 したシャペロニン研究は,田口英樹,吉田賢右氏(東工大・資 源研)と,多田隈尚史,上野太郎氏(早大・理工)との共同研 究の結果である。共同研究者のみなさんに感謝します。 〈参考文献〉 1.Funatsu, T., Y. Harada, M. Tokunaga, K. Saito, and T. Yanagida (1 9 95)Imaging of single fluorescent molecules and individual ATP turnovers by single myosin molecules in aqueous solution. Nature 374:555-559. 2.Vale, R.D., T. Funatsu, D. W. Pierce, L. Romberg, Y. Harada, and 図3 GroES の結合時間のヒストグラム GroES は結合後直ちに解離し始めるのではなく,ある中間体を経てから解離する二段階反応 である。破線は,反応速度定数0. 8 4,0. 1 8 s-1でフィッティングした線を示す。 T. Yanagida(199 6)Direct observation of single kinesin molecules 80:451-453. moving along microtubules. Nature 3 3. Ishijima, A., H. Kojima, T. Funatsu, M. Tokunaga, H. Higuchi, H. 微鏡を用いて,1分子の GroES が GroEL に結合・解離する様子 Tanaka, and T. Yanagida (1 99 8) Simultaneous observation of をビデオで観察することができた(図2) 。GroES の結合時間を individual ATPase and mechanical events by a single myosin 解析した結果,GroES は結合後直ちに解離し始めるのではなく, ある中間体を経てから解離する二段階反応であることが分り, 。 それぞれの反応速度定数は0. 8 4,0. 1 8s-1と見積もられた(図3) 2:161-171. molecule during interaction with actin. Cell 9 4.Lu, H.P., L. Xun, and X.S. Xie (19 98) Single-molecule enzymatic 82:1877-1882. dynamics. Science 2 以上から,シャペロニンが基質タンパク質折れ畳みに必要な時 5.Harada, Y., T. Funatsu, K. Murakami, Y. Nonoyama, A. 間を確保するタイマーとして機能していることが示された。次 Ishihama, and T. Yanagida(19 99)Single molecule imaging of に,シャペロニン1分子内で起こる GFP (green fluorescent protein) RNA polymerase-DNA interactions in real time. Biophys. J. 76: の折れ畳みをビデオで捉えた。まず,IC5で蛍光標識した GroEL 7 09-71 5. と酸変性させた GFP の複合体をガラス基盤に固定し GroEL の蛍 6.Kitamura K., M. Tokunaga, A.H. Iwane, and T. Yanagida (199 9) 光像で位置を確認しておく。次に,Caged ATP,GroES 存在下で A single myosin head moves along an actin filament with regular 紫外線照射し,ATP 加水分解サイクルを開始させた。その結果, Caged ATP 分解後数秒で GroEL の位置に GFP の蛍光が現れた。 こ 97:129-134. steps of 53 . nanometres. Nature 3 7.船津高志(1 9 96) 「1分子イメージング, 1分子ナノ操作 れにより, 1分子内での GFP の折れ畳みを実時間で観察できた −1分子モーターの運動と酵素反応を観る−」生物物理36 と 言 え る。ATP 加 水 分 解 速 度 が 非 常 に 遅 い GroEL(D3 98A, No. 1 pp. 5-9. D490C)変異体でも通常の GroEL の場合と同様の速度で GFP の 8.船津高志,武藤悦子(1 9 97) 1分子イメージング. ナノピ 蛍光が出現してくるので,GFP の折れ畳みは ATP の加水分解に コスペースのイメージング 生物分子モーターのメカニズム 関係なく起きていることが示された。将来は,GroES と GFP の を見る(吉岡書店,柳田敏雄,石渡信一編) 第4章 蛍光を同時に観察しながら, GroES の結合と GFP の巻き戻りの関 9.齋藤究,船津高志(1 9 99) 「近接場光学の原理と生物科学へ 係を詳細に調べたい。さらに,蛍光性 ATP アナログ(Cy3-ATP) 4(5月号)No. 6 pp. 807-811. の応用」 蛋白質核酸酵素4 を用いて,ヌクレオチド,GroES,基質タンパク質の結合・解離 の前後関係も明らかにできるかもしれない。 おわりに 1分子蛍光イメージング法の開発に携わった私たちは,当初, この技術を分子の存在を確認するための手段としか考えていな かった。しかし,この数年の間に様々な分野で応用されるよう になり, 1分子蛍光イメージング法が本来持っている可能性が 明らかになりつつある。今後のますますの発展が期待される。 本稿で紹介する余裕はなかったが,共焦点レーザー顕微鏡を 20 海外研究室紹介:フライブルグ 大学 Bernd Bukau 研究室 行ったのを覚えています。 ) を 食べながら論文や書類を書い ておりました。なにしろグラ ントがもらえなければ,研究 友安 俊文 (フライブルグ大,博士研究員) 費や学生の生活費がなくなり ますので大変です。 その努力が報われたのと優 が,体一つでドイツに来てからかれこれ5年が過ぎようと 私 しています。こんなに長くいるつもりはなかったのですが 秀な学生たちの働きによって 時が過ぎるのは早いものです。世の中皮肉なもので海外に出す の教授(C4)になることが 一昨年に,フライブルグ大学 のが恥ずかしいほどの落ちこぼれ研究者が海外に出たのですが, 出来ました。それと,良いこ 幸い(無事に?)生活出来ていますので世の中何とかなるもの とは続くもので去年の暮れに なんだなあと自分で感心しております。フライブルグは日本で Bukau 教授はライプニッツ賞 はなじみが薄い町と思われますが,シュバルツバルトの入り口 を受賞しております。あまり に位置しておりドイツの中では比較的太陽に恵まれており,ま 研究の事では喜ばない人がかなり喜んでいたので,実験室の人 たスイス,フランスにも近くドイツ人の最も住みたい町の一つ にライプチィッヒ(地名と勘違いしていた)賞って何?と思わ だそうです。鳩時計とサクランボで作った蒸留酒などが有名な ず聞いてしまいました。何でもドイツのサイエンスの領域では 特産品です。物価が少し高いことを除けば本当にこじんまりと 一番権威のある賞ということで,その後にテレビが取材に来て して,平和で住み易い町なので個人的に好きな町の一つです。 いたのを見て納得いたしました。このように,ドイツでは最初 お近くにお寄りの際はぜひフライブルグにお立ち寄り下さい。 にプロジェクトリーダー(日本で言う主任研究員?)をやって 大聖堂とフライブルグの旧市街 私は,主にプロテアーゼ(FtsH)や熱ショック転写因子の研究 成功した人だけが教授になれるわけです。教授にもいろいろあ を主にしているので,研究室紹介と言われても,はて?何を書 りまして,C3(日本で言う助教授?)の場合は基本的に C4の いて良いものやらと考えこむはめに。先生方の書かれた文章を 教授の下で働くという形になっております。また教授になる為 読めば読むほど,シャペロンに関して素人同然の私がエキス に各大学に申請書を提出するのですが,これにも回数制限とか パートの先生方にその話を詳しく書くのは気が引けますのでそ 年齢制限があるようでその間に教授になれなかった人は一生な れは極力控えてまず最初に Bernd Bukau 教授について紹介しそ れないそうです(これは,又聞きですので間違っているかもし の後に独断と偏見で当研究室の状況について書いてみたいと思 れません。)。彼も最後のチャンスで得た幸運だったというふう います。 に聞いております。もし,彼が教授になれなかったら?と考え 私は,最初にハイデルベルグ大学の ZMBH に赴任したのです ると少し背筋に冷たいものが走ります。このようにかなり厳し が,その当時は Bernd Bukau はまだ教授ではなくプロジェクト い世界ですので,非常に優秀な学生たちも大学に残るのを躊躇 リーダーをやっており総勢6∼7人のこじんまりとした研究室 している事がしばしばあるという事も指摘しておきたいと思い で実験を行っておりました。私以外の研究者はみんな学生でし ます。ところで彼が教授(C4)になって何を彼が喜んだかとい たが,かなり優秀なので感心しておりました。ハイデルベルグ うと広い教授室と秘書がついたということで,これは大変喜ん にはマックスプランク研究所や EMBL 研究所がありますし,ハ でいました。 イデルベルグ大学はヨーロッパで一番古い大学の一つという伝 次に,当研究室の現在の状況について少しふれておきます。 統も有りますので研究環境は非常にすばらしい町でした。Bukau 実験室の人数は総勢2 0人以上(かなり出入りが激しいので実数 教授は,学生たちの実験に関 を把握しておりませんし,まだまだ増えていく予定です)でそ してはある意味では厳しくい の中で小さなサブグループを作って研究が行われております。 つもプレッシャーをかけてお 現在,研究室では3台の FPLC と2台の HPLC をフルに稼働させ りまして,特に学会前は忙し て大腸菌に存在する殆どすべてのシャペロンや熱誘導型のプロ かったのを記憶しています。 テアーゼの精製が完了しておりそれらに関する精力的な研究が このように書くと厳しい人の 行われております。また,真核生物の HSP7 0,HSP4 0などのシャ ように思われるかも知れませ ペロンの研究も始められております(正確に言いますと研究が んが決して厳しい訳ではあり 始まる胎動を感じるというところです。 ) 。当研究室では,シャ ません。Bukau 教授は研究費の ペロン蛋白を X 線解析で得られた構造を基にしてコンピュータ 申請とか論文の執筆が非常に 解析を行いその活性に重要と思われる部位のアミノ酸を交換し 大変らしくほとんど毎日夜中 て予想される機能と比較したり,モデル蛋白を使ってシャペロ の1 2時過ぎ(時には朝の3時, ン蛋白の相互作用を検証したりしております。また,大腸菌に Bernd Bukau 教授 4時まで)まで,夜食にラー おいて機能の良く分かっていないシャペロン蛋白(HtpG, HscA, メン(ドイツにも売っている B, F5 5 6, IbpA, B etc.) などの機能解析も組織的に行われています。 んだと感動して早速買いに しかしここでは,当研究室でいま一番話題になっている大腸 21 ターのホモログ蛋白を持っておらず,この発見をそのまま適用 することが出来ませんが,NAC(nascent polypeptide-associated complex)がそのかわりをしているのかもしれないと想像されて おります。 問題はここからで,論文を発表する前に Bukau 教授が学会で その事を発表していたのが災いしたのかどうか?彼が論文を発 表する前に,競争相手の教授から彼の元に電話がありました。 競争相手曰く「いま,トリガーファクターと DnaK の関連の論文 を Cell に投稿しているのだが,レフェリーから in vitro だけでは なく in vivo のデータも必要といわれたので, そちらのデータを使 わしてほしいのだが」 。これには Bukau 教授も即座に拒否して, 大急ぎで Nature に投稿したわけです。このように,この分野は 競争が非常に激しい分野の一つですので,大変です。 Bukau 研のメンバー (後列右端が Bukau 教授,前列左端が筆者) その他に現在力を入れているのは,どの蛋白がシャペロン蛋 白(ClpB-DnaK system,GroESL etc.)の基質かという研究です。 菌のトリガーファクター(tig)のことについて少しふれてみよ この研究自体に非常に役に立っているのが質量分析計です。最 うと思います。詳しいことはこの文章が世に出る頃には Nature 近の技術の進歩で,質量分析計は低分子の化学物質だけではな に論文が出ていると思いますのでそれをお読み下さい。トリ く,高分子の蛋白質の分子量まで問題なく非常に正確に測定出 ガーファクターはリボソームに結合している事が知られており, 来ます。問題があるとすれば高価な事だけでしょうか。そこで, Bukau 教 授 が ZMBH に い た 当 時 に 優 秀 な 学 生 の Thomas トリプシンなどのプロテアーゼで蛋白質を分解し,その分解産 Hesterkamp によってプロリルイソメラーゼ活性があるというこ 物の質量を測定しデータベースにある個々の蛋白の分解産物の とが発見されておりました。これは世界で最初に彼が発見した リストと重ね合わせることで簡単に蛋白質を同定する事が可能 のですが,論文を発表する前に Bukau 教授が学会でその事を発 な事は,もう説明する必要がないほど一般的な事だろうと思い 表していたのが災いしたのかどうか?他の研究室に先に論文を ます。それに短時間に多サンプルの同定が可能ですし,N 末端 出されて悔しがっていました。 が修飾されていても平気です。これに関して個人的に感動した 彼が研究室を去った後に,Elke Deuerling がこの仕事を受け継 ことがありまして,それは SDS-PAGE の後クマシー染色を行っ いだのですが,なにしろ tig 遺伝子を破壊しても大腸菌は何も表 て脱色してゲルドライヤーで乾かしたゲルから目的の蛋白のバ 現型を示さないで元気にしておりまして研究が非常に難航して ンドを切り出したものでも同定が可能な事です。確かに考えて おりました。世間ではどうも遺伝子破壊しても問題がない場合 みれば当たり前の事なのですが…。全 DNA 配列が決定されてい は,大切な蛋白ではないという法則が有るようです。私も冗談 る生物ならば理論上1 0 0%蛋白質が同定可能です。現在 Multiphor で彼女にそういう風に言っていました。そんなこんなで彼女が, Ⅱ2-D(2次元電気泳動)と質量分析計を組み合わせることで, Bukau 教授が私の仕事に関して全然関心を示さないと滅入って かなり効率的に基質の同定が行われております。 いたのをよく記憶しております。そこで,だめでもともとで 最後にドイツの研究室について,独断と偏見でふれてみたい DnaK (HSP70) との関係を調べてみようということになりました。 と思います。学生や研究者が海外や国内の学会に公費を使って ちなみに DnaK system(DnaK, DnaJ, GrpE)を欠失した大腸菌は 年に数回参加することが出来ます。私の学生時代と比較してみ 高温感受性と低温感受性を示しますが,3 0度では増殖可能です。 て羨ましいなあとは思うのですが,このごろは日本でも改善さ 驚いた(幸運な)ことにΔtig 変異を持つ株は,DnaK 非存在下に れてきたようなことを聞いております。それとこれは教育方針 おいて条件致死性を示すことが解りました。それにより,にわ だろうと思うのですが,学生が実験室に配属されると,ほとん かにトリガーファクターの研究が,殆ど忘れられた存在から一 ど研究の経験が無い学生に対してもすぐにかなり高度な実験を 転面白くなってきたわけです。人の運は分からないものです。 させております。私の目から見ると少し基礎を練習してからに そこで,彼女が DnaK と トリガーファクターの相互作用を調べ すれば良いのにと思うことが有ります。でも学生は全員毎日 て,新生蛋白のフォールディングに両蛋白が重要である事を証 ちゃんと出てきて,楽しそうに実験をやっております。何か取 明しました。現在,トリガーファクターの様々な部位にポイン り留めの無い話で Chaperone Newsletter に書くような事では無い トミュテーションを挿入することによってより詳細な機能解析 のではないかと心配しておりますが,一個人の独断と偏見によ が行われております。残念ながら真核生物はトリガーファク る海外の研究室報告ということで,ご勘弁頂ければ幸いです。 22 であろうか。 「Handbook of Experimental Pharmacology Volume 136: Stress Proteins」ed. David S. Latchman Springer-Verlag, Berlin (1999) (国立循環器病センター研究所 宮田敏行) 「岩波講座 科学/技術と人間 1:問われる科学/技術」 岡田節人ほか篇 岩波書店(1999) 本書は総ページ数422ページ,1 9章から構成されており,スト レス蛋白質およびそれが関与する生命現象をこの一冊で理解で きることを念頭において編纂されている。 岩波書店の新講座シリーズの第1巻。オビには「人間にとっ まず,第1章でストレス蛋白質の概説を述べたあと,残りの て科学/技術とは何なのか,自然科学と人文・社会科学の第一 章は4つのセクションから構成されているようだ。各セクショ 線の研究者が分野を越えてはじめて取り組む総合的解析」とあ ンはストレス蛋白質の重要な側面をそれぞれ取り扱っている。 る。 第1セクション(2章−6章)は各々のストレス蛋白質(Hsp9 0, まず中村雄二郎の「総論――なぜいま科学/技術なのか」に Hsp70, Hsp6 0, Hsp2 7, ユビキチン)の構造とそれらの細胞内にお 始まり, 「エピステーメーとテクネー」 (小池澄夫) ,「近代科学 ける生化学的機能を述べている。いわば,ストレス蛋白質の各 のテイクオフと方法的制覇」 (小林道夫) , 「科学の変貌と再定義」 論である。第2セクション(7章−1 0章)は,遺伝子発現を解 (野家啓一) , 「技術の変貌と再定義」 (土屋俊) , 「制作の回路」 説している。そもそも,ストレス蛋白質とは高温や他のストレ (河本英夫)と続き, 「生物の論理」 (矢原一郎)が出てくる。 ス時に発現が誘導される蛋白質として見い出された経緯からす 「生物の論理」で矢原が採り上げるのは, 「ストレス応答」と ると,遺伝子発現を一つのセクションにあてるのは妥当であろ 「形態形成のプログラム(ボディープラン) 」である。ストレス う。高温や虚血,低酵素といったストレス性の刺激やサイトカ 応答の仕組みを獲得した生物はストレス下に生き残ることがで インのような非ストレス性の刺激による遺伝子発現が記載され きるようになったので,前者は「合目的」な現象に見える。後 ている。この中の第9章は西澤純一郎先生,永田和宏先生によ 者は,増殖する細胞が再現性あるなりゆきで変化していくこと る「Regulation of Heat Shock Transcription Factors by Hypoxia or により全体の形ができあがるので, 「計画性」がある現象に見え Ischemia/Reperfusion in the Heartand Brain」である。第3セクショ る。どちらも,未来が現在を制約し,全体が部分を決定すると ン(1 1章−14章)は,動物個体におけるストレス蛋白質の機能 いう,いわゆる因果律と矛盾する形になっているじゃないか, を扱っている。胚発生や炎症,免疫といった細胞のいろいろな と驚いてみせるのである。 反応におけるストレス蛋白質の役割を述べている。また,スト 現在のできごとが将来特定の目的に役立つように決定されて レス蛋白質は低温や虚血というストレス刺激から生体を保護す いる,というのは生物にはよく見られる現象である。たとえば, る役割を果たしていることも述べられている。第1 3章の「Heat 北方の寒さと食物不足から逃れるために温暖な国に渡りをする Shock Proteins in Inflammation and Immunity」は姫野國祐先生が執 渡り鳥,といった生物の合目的的行動。一般には,合目的性は 筆に参加されている。最終セクション(15章−19章)はヒトの 偶然(突然変異)と自然選択の結果で説明できるとされる。食 疾患におけるストレス蛋白質の役割をとりあげている。リウマ 物を蓄える野ネズミは,目的を持って行動しているのではなく, チ性関節炎や I 型糖尿病,多発性硬化症,動脈硬化症におけるス そのようなネズミが選択されたと考える。でも,それですべて トレス蛋白質の立ち振るまいが述べられている。最終章は,ガ 説明できるかというと,直感的には受け入れがたいと矢原は言 ンと感染症にたいする次世代ワクチンの開発ターゲットとして う。 「留鳥が渡りのプログラムを獲得したから,渡りをするよう Hsp −ペプチド相互作用を紹介している。 になった」として,なぜ渡りの機能が獲得されたのか。選択さ 本書はストレス蛋白質とそれらが関与している生命現象,特 れて残ったから,という答えを否定はできないが,進化の無限 にある種の病態に重きをおいて解説している。病気では,多く の可能性の中から偶然残ったに過ぎないとは考えられないのか, の場合原因蛋白質の発現は低下したりその機能を喪失したりす というわけである。しかしそもそも直感的には受け入れがたい るが,ストレス蛋白質では,発現は亢進している。これは,病 のは,渡りのような複雑なプログラムが小さな変異に関する偶 気というストレスに晒された細胞が自己防御のためにストレス 然の,あるいは選択の膨大な積み重ねで残ったということその 蛋白質の合成を誘導するためだと考えられる。しかし,ある種 ものなのではないか。それゆえ締めくくりのパラグラフの歯切 の病気では,特定のストレス蛋白質だけが増加し,他のストレ れは悪く,結論は先送りされている。 ス蛋白質には影響を与えない場合がある。例えば hsp9 0は自己免 しかし,例の Rutherford & Lindquist の論文で状況は変化した 疫疾患である全身性エリテマトーデスの一部の患者に特異的に ように思う。Hsp90などのシャペロンのおかげで,突然変異は, 過剰発現していると報告されている。ストレス蛋白質の過剰発 ある程度蓄積するまでその表現型が隠されている。したがって 現は, 自己免疫反応を誘起して抗体産生や T 細胞の産生につなが 生物の変化は,一つ一つの変異ごとに選択される必要はなく, ることもある。個々のストレス蛋白質,特に hsp6 0に対する免疫 進化は不連続的になりうる。言い換えれば,この仕組みのおか 反応は,リウマチ様関節炎や多発性硬化症,I 型糖尿病といった げで生物は思いきった実験ができる。形態形成の実験結果を行 病気に報告されている。このように,本書の後半部はストレス 動様式にまで拡大することをお許しいただければ,ミクロな実 蛋白質がさまざまな病気で新しい顔を見せることを印象づけて 験を積み重ねてマクロなプログラムを作り上げなくても,最初 いる。難をいえば,小胞体ストレス蛋白質の記載が少ないこと からマクロなプログラムをあれこれテストできるのである。選 23 択されるにせよされないにせよ,最初からマクロなレベルで「何 とは, 「生命体のそれまでの履歴を構成してきた無数の属性や解 でもあり」なのである,たぶん。そこには,ミクロの積み重ね 釈によって定義される一つの抽象物であり,生命体の『物語的 では途中で消えてしまうような大胆なプログラムもあっただろ 重力の中心』すなわちフィクション(!)にすぎない」ことに う。そして,それらのマクロなプログラムの中には,偶然(選 なる。この二元論に対して木村は,主観ないし主体を一人称複 択に結びつくとは思えないような些細な条件の違いのためと言 数として捉えることが重要だと主張する。共時的な人間の共同 うべきか),その集団に広がったものがあっても良かったように 主観性,集団主体性といった話は,どうでもいい。興味深いの 思う。 は,単数の「わたし」の意識は,そのつどの「わたし」のあい 矢原の章の後には,木村敏の「精神の科学は可能か」 ,伊藤笏 だの通時的な「一人称複合態」として歴史的に形成される,と 康の「ニュー・サイエンスの問題点」が続く。精神病理学者, いう視点である。つまり「わたし」とは, 「以前」から「以後」 木村のテーマは, 「コウモリであるとはどのようなことか」とい へと不断に流れ続ける不可逆的な生成の歴史に,現在進行形と う問いに集約できる。私がコウモリのようなありかたをしたと いう時間様態のなかで寄り添いながら,共通感覚という生命感 すれば,それは私にとってどのようなことであるのかなら想像 覚,暗黙知という実践知によって,これを意識することができ できても,コウモリの身になってコウモリがどのようなことな るものである(この能力を放棄した病的状態を「離人症」とい のかを知ることはできない,というのが一つの考え方。いや, うそうだ) 。そして,このようなアクチュアルな自己,精神を コウモリの知覚と行動の組織的構造についてもろもろの事実が 「科学」できるかどうかが,今後の科学の課題ということになる。 探求されたら,われわれはコウモリの意識を十分に知ることが (文中敬称略 TE) できる,というのがもう一つの考え方である。後者では, 「自己」 1999. 10. 9 9:30-11:30 第72回日本生化学会大会シンポジウム 「分子シャペロンと病態」 場 所:パシフィコ横浜(横浜) オーガナイザー:水島 徹,六反一仁 Tanguay ([email protected]) 1999. 11 The First Internet Conference on STRESS Biology,Medicine and the Environment. 予定講演者:永田和宏,佐藤昇志,堤信二,六反一仁,山本雄 造,小川智 www サイト:http://www.bcasj.or.jp/seika99/ 場 所:インターネット 主 催:Chester College, CSSI オーガナイザー:John H. H. Williams, Graham Bonwick, Stephen 1999. 10. 15-18 2nd International Workshop on the Molecular Biology of Stress Response Harding トピックス:Molecular and cellular biology of stress (Molecular biology of the stress response, The heat shock proteins: biochemistry, structure and function, Molecular chaperones 場 所:Tongji Medical University, Wuhan, 中国 and the cell cycle, Stress and cell membranes, ageing and 主 催:CSSI apoptosis), Evolution of stress proteins (Environmental オーガナイザー:Tangchun Wu stress Responses of micro-organisms, plants and animals, 予定講演者:Andre P. Arrigo, Kerstin Bellmann, Ian Brown, Daniel Adaptation and tolerance, Biomarkers), Stress in disease Ciocca, William Currie, Peter Csermely, Martin E. Feder, and medicine (Infection, pathogenesis and stress, Anil Grover , Larry Hightower, Subash Lakhotia, Jacques Diagnostic and therapeutic applications of stress proteins, Landry, Andrei Laszlo, Richard I. Morimoto, Michel Autoimmune and genetic disorders, Stress and Morange, Gabrielle Multhoff, Kazuhiro Nagata, Jeong Sun development), Psychosocial responses to stress, Stress Seo, Wolfgang Schumann, Yu-fei Shen, Pramod K. management Srivastava, Robert M. Tanguay, Muriel Vayssier, David 申し込み締め切り:1 99 9年10月2日 Walsh, Zhizhen Wang, Yang Wu, Tangchun Wu, Takashi www サイト:http://www.stress-conference.com Yura 申し込み締め切り:1999年9月1日 www サイト: http://www.rsvs.ulaval.ca/~labrt/Wuhan/IWMBSR.html 1999. 12. 7 第22回分子生物学会年会シンポジウム 「分子シャペロンによる細胞機能制御」 問い合わせ先: Dr. Tangchun Wu ([email protected]) or Robert 24 場 所:シークホテル&リゾート他(福岡) オーガナイザー:森 正敬,永田和宏 国祐,和田郁夫,青江知彦,永井尚子,徳永文稔,小 予定講演者:U. Hartl,寺田和豊/森正敬,和田郁夫,永田和宏, 亀浩市 1999. 12. 19 森和俊 第4回 臨床ストレス蛋白質研究会 1999. 12. 18 臨床ストレス蛋白質研究会・ 特定領域研究合同班会議共催 公開シンポジウム「ストレス蛋白質と病態」 会 長:永田和宏(京都大学再生医科学研究所) 日 時:平成1 1年1 2月19日 (日) 9:0 0−1 7:00 場 所:京都市 平安会館 発表形式:一般演題/特別講演 日 時:平成11年12月18日 (土) 9:0 0−1 7:00 特別講演:HSP90分子シャペロン機能 矢原一郎 場 所:平安会館・京都御所西側(烏丸通上長者町) 一般演題締め切り:平成1 1年10月1 5日(金) 必着 TEL:07 5−432−61 81 FAX:0 7 5−4 3 1−79 4 9 66 6 東京都新宿区河田町8−1 演題申込先:〒1 6 2−8 トピックス:ストレス蛋白質と病態,小胞体分子シャペロンと 東京女子医科大学内科2 臨床ストレス蛋白質研究会事務局 野村 馨 宛 品質管理機構 予定講演者:樋口京一,大石正道,西宗義武,佐藤昇志,姫野 TEL:03−33 53−8 11 1 ex 3 92 2 3 FAX:03−5 26 9−73 27 領域ニュース「シャペロン・ニュースレター」の第5号をお 届けします。9年度から始まった本特定領域研究も,3年目に 入りました。この間に本特定研究が関わってオーガナイズした シンポジウムは5回(各種学会のシンポジウムを含む),若手 ワークショップが1回。昨年は関係の深いシャペロンの国際会 議が京都で開かれ大盛況でした。今年も細胞生物学会,分子生 物学会などでシャペロンのシンポジウムを予定しているほか, 12月に臨床ストレス蛋白質研究会との共催で第2回の公開シン ポジウムが行われます。 公募班員は9年度4 0名,10年度40名,11年度31名。特定領域 研究のオフィシャルホームページのヒット数は,2年間で約 58 00。本ニュースレターの購読者も増え続け,現在の発行部数 は約5 00です。特定領域研究が後半に入り,読者数が増える一方 で,マンネリを避けるべく企画面・執筆者への依頼では苦労し ます。幸い今回は,永田代表による適切な執筆者選びと皆さん の素晴らしい原稿で,何とか無事発行にこぎつけました。 次号は来年1月の予定です。 関連学会に関する情報, 関連図書, 雑誌に関する情報,その他,本通信に掲載ご希望の情報などを お持ちの方は,事務局までご連絡下さい。また,班員の方で本 通信を複数部ほしい方,班員以外で本通信の購読(無料)をご 希望の方は事務局までご連絡下さい。 (遠藤) 25 (シャペロン・ニュースレター) 編 集 人 遠藤斗志也 第5号(1999年9月発行) 発 行 人 永田 和宏 「分子シャペロンによる細胞機能制御」研究連絡調整係 発 行 所 特定領域研究 〒464−8602 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻,遠藤斗志也 / 新田美子 Tel:052−789−2490 Fax:052−789−2947 ホームページ:http://chem3. chem. nagoya-u. ac. jp/chaperone/index. html e-mail:endo@biochem. chem. nagoya-u. ac. jp 印刷 ㈱荒川印刷
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