研究課題:スライドボードトレーニングがフィギュアスケート選手のスケー

研究課題:スライドボードトレーニングがフィギュアスケート選手のスケーティング速度に与える効果
研究代表者:古川 真衣
フィギュアスケート競技のトレーニングには、ジャンプやスピン、スケーティングなどの技術向上をねらい
とした氷上トレーニングと、体力向上をねらいとした陸上トレーニングがある。氷上トレーニングは、時間
が限られる場合が多く、必然的に陸上トレーニングの割合は高くなる。一般的にトレーニング効果を
十分に得るためには、各競技の特異性を考慮したプログラムを実施することが重要だとされている(特
異性の原理)。しかし、フィギュアスケートの陸上トレーニングは、競技特性と離れがちであり、体力トレ
ーニングが主となってしまう。Michelle ら(2010)は大学女子シンクロナイズドフィギュアスケート選手 27
名を対象に陸上と氷上における運動パフォーマンスの関係について調べ、スライドボードストライドカウ
ントテストおよび 40 ヤード走が氷上滑走速度および加速度と大きく関係していると報告している。スラ
イドボードとは、滑りやすく加工された板の上で、横滑りの運動を行うものである。このスライドボードを
使用したトレーニングは、スピードスケート競技の陸上トレーニングとしてよく用いられている。しかし、こ
のスライドボードのトレーニングの効果については、明らかにされていない。
そこで本研究では、フィギュアスケート選手を対象に、スライドボードを利用したトレーニングを実施し、
そのトレーニングの効果について調べることを目的とした。また、このスライドボード運動と陸上における
パフォーマンスとの関係についても調べることとした。
被検者は、フィギュアスケートクラブチームに所属している健康的な女子スケート選手 13 名(年齢:20
±3.5 歳,身長:159.6±4.1 ㎝,体重:56.0±3.4 ㎏)であった。うち、トレーニングを実施したものは 5
名(年齢:20±1.3 歳、身長:160.3±1.9cm、体重:56.3±3.2kg)である。155cm のスライドボードを
使用し、トレーニング前に全力 30 秒間スライドボードカウントテストを行った。結果より 70~80%のカ
ウント数を設定し、メトロノームのビートに合わせ 1 分間×3 セットのトレーニングを週 3 回、2 週間にわ
たって実施した。効果測定としてトレーニングの前後に、シングルラップタイムおよび 60 ビート毎分のカウ
ントによる 53mスケーティングタイムの測定行った。また、スライドボード運動と陸上におけるパフォーマン
スとの関係について調べるために、最大酸素摂取量および股関節外転・内転筋力、垂直跳びの計
測を行った。13 名の被験者のうち、最大酸素摂取量の測定が可能だった者は 9 名、股関節外転・
内転筋力の測定が可能だった者は 8 名であった。
トレーニング前のタイムはそれぞれ平均 17.2±0.91 秒、10.5±0.41 秒であり、トレーニング後はそれぞ
れ平均 17.2±0.71 秒、10.2±0.55 秒と 60 ビート毎分のカウントによる 53mスケーティングタイムは速
くなった。しかし、スライドボードカウント数と各滑走速度の間に有意な相関関係はみられなかった。ス
ライドボード運動と陸上におけるパフォーマンスとの関係については、最大酸素摂取量の間に有意な
正の相関関係(n=9、p<0.05)が示され、股関節外転・内転筋力の間には、左の股関節外転筋
力および右の股関節内転筋力で有意な正の相関関係(n=8、p<0.05)が示された。
以上のことより、スライドボード運動は心肺機能と関係が深く、最大酸素摂取量を向上させるようなト
レーニングになる可能性が示唆された。また、トレーニング後の 60 ビート毎分のカウントによる 53mスケ
ーティングタイムが速くなったことから、このトレーニングはスケーティング時のプッシュ動作における筋力発
揮にも影響していることが考えられた。しかし、どれも被験者数が少なく、今後更に研究する必要があ
る。