魚類・貝類養殖漁場の底質について 魚類・貝類養殖漁場の底質について

魚類・貝類養殖漁場の底質について
【養殖漁場の環境負荷】
ハマチやマダイなどの魚類養殖では、与えた餌を全て魚が食べてしまうわけではなく、食べ残し
(残餌)や糞、尿(排泄物)として、海水に溶けたり、海底に沈降したりして、漁場環境中に放出さ
れます。また、真珠貝やカキなどの貝類養殖では、餌は天然のプランクトンなので、残餌として
の環境負荷はありませんが、排泄物は、魚類養殖と同様に放出されます。
放出された残餌や排泄物などの有機物は、海水中あるいは海底で、微生物により無機物に分
解されます。無機物は、植物プランクトンに取り込まれて再び有機物となり、植物プランクトンは
解されます。無機物は、植物プランクト
ンに取り込まれて再び有機物となり、植物プランクトンは
大型生物(動物プランクトンや魚介類)の餌になります。そして、大型生物の排泄物や死骸は、
再び海水中や海底で微生物に分解されて無機物になるということが繰り返されています。すな
わち、海洋環境に放出された残餌や排泄物などの有機物は、陸上と異なり回収する方法がな
いので、海に蓄積されます。
【海底での有機物分解】
海底に沈降し蓄積された有機物は、微生物が無機物へと分解していきます。酸素が十分にある
状態では、酸素を消費しながら有機物分解する微生物(好気性細菌)が活動します。しかし、有
状態では、酸素を消費しながら有機物分解する微生物(好気性細菌)が活動
します。しかし、有
機物が豊富にあるところでは、好気性細菌の活発な活動により、徐々に海底付近の酸素が消
費されていきます。やがて酸素が不足する状態になると、好気性細菌による有機物分解の活動
は弱まり、今度は酸素を必要としない微生物(嫌気性細菌)が活動を開始します。嫌気性細菌と
して代表される硫酸還元菌は、酸素のかわりに硫酸を利用して、分解の過程で有害な硫化水
素を産生して、海底に硫化物(硫化鉄)を蓄積していきます。さらに、微生物では分解しきれない
ほど有機物が多いところでは、腐敗した有機物(ヘドロ)として海底に堆積します。
ほど有機物が多いところでは、腐敗した有機物(ヘドロ)として海底に堆積しま
す。
つまり、「有機物の負荷量」が少なく、酸素の量と分解速度のバランスがとれている状態では、
環境への影響は小さいのですが、「有機物の負荷量」が多いところでは、分解が追いつかず、
酸素も不足し、腐敗した有機物が増えて環境に悪影響を与える硫化水素が発生するようになり、
有機物に含まれる栄養分の窒素やリンが多量に海に溶け出すようになります。
【養殖漁場の診断】
養殖場のように有機物が大量に環境へ放出されるところでは、入ってきた有機物を全て無機物
に分解しきれないことが多く、永い間養殖を続けていると、腐敗した有機物が増えてヘドロがた
に分解しきれないこと
が多く、永い間養殖を続けていると、腐敗した有機物が増えてヘドロがた
まり、貧酸素化して硫化水素が発生し、窒素やリンが海中に多量に溶け出すようになります。い
わゆる「漁場の老化」の状況です。漁場が老化すると、魚や貝の成長が阻害されるとともに、病
気が発生しやすくなったり、貧酸素や赤潮などが頻発するようになったりして、生産性が低下し
てきます。
こうした状況をなくすためには、養殖場の環境を自主診断により十分に把握しておく必要があり
ます。養殖漁場の診断には、主に次のような指標が目安となります。
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硫化物量・・・貧酸素状態で硫酸還元菌が蓄積する硫黄の量
硫化物量・・・貧酸素状態で硫酸還元菌が蓄積する硫黄の量
化学的酸素要求量・・・易分解性有機物が化学的分解をするのに必要な酸素の量
強熱減量・・・強熱(550
550℃)により燃焼される
℃)により燃焼される有機物の量
強熱減量・・・強熱(
550
℃)により燃焼される
有機物の量
泥分率・・・泥分(0.063mm
泥分率・・・泥分(
0.063mm 以下の細かい粒子)の比率
底生生物量・・・泥の表面や泥の中で生活する生物の種類数や量
水産資源保護協会より、これらのうち複数の項目から養殖漁場環境を総合的に判断する「合成
指標」も
指標」
も紹介されています。
【持続的な養殖生産のための負荷軽減】
長崎県下の魚類養殖場では、自主診断の結果、漁場の劣化が確認されて、底質改良剤散布等
長崎県下の魚類養殖場では、自主診断の結果、漁場の劣化が確認されて、底質改良剤
散布等
の改善策を実施している漁場もあります。底質の改善には、石灰を散布して、硫化水素の生成
を抑えながら有機物の分解を促進したり、強制的に底泥の有機物を分解したり取り除くなど、い
くつかの方法があります。しかし、これらの方法による改善は、あくまでも一時的なもので、根本
的な解決策ではありません。すなわち、底質改善を行っても、環境に放出される有機物、いわ
ゆる「汚染の負荷量」を減らさない限り、同じことの繰り返しとなります。
言い替えれば、底質の改善を必要とするような悪化した漁場は、放養量を見直して適正な放養
を行い、魚類養殖では適正な給餌(環境負荷軽減対策)を行うことが必要です。魚類養殖の適
を行い
、魚類養殖では適正な給餌(環境負荷軽減対策)を行うことが必要です。魚類養殖の適
正放養量は、ブリで 7kg/m3、マダイで 10kg/m3 とされています。これを超える過密な養殖では、
一時的に生産が増加するかもしれませんが、長期的にみると漁場の老化がおこり、生産性が低
下すると思われます。また、魚類養殖の給餌についても、生餌→
MP→
DP・
下すると思われます。また、魚類養殖の給餌についても、生餌
→MP
→DP
・EP と、環境への負
荷の小さい配合飼料に転換し、残餌をなるべく放出しない適正な給餌量で行い、環境への負荷
荷の小さい配合飼料に転換し、残餌をな
るべく放出しない適正な給餌量で行い、環境への負荷
を軽減することも必要です。
を軽減することも
必要です。
(担当:坂口昌生)