現代社会におけるリスク・不安意識と情報リソースの関係について(3) ──「つながり」はリスク・不安意識を軽くするのか?── 立教大学 池上賢 立正大学 浅岡隆裕 東京国際大学 柄本三代子 ○立教大学 1 是永論 問題 日常生活におけるリスク意識に関する議論は、具体的な人間関係との「つながり」の中で語られ ることが多い。第一に、いわゆる「社会関係資本」に関する議論に見られるように、活発なネット ワークと厳正な規範、さらに信頼のある人間関係の有無が、リスク対応の重要な資源として考えら れている。この報告では、資源として利用可能な人間関係の有無がリスク意識の低減に対して有効 に作用するのかを調査データから検証するとともに、その作用が必ずしも十分でない結果について、 別途行なったリスク・不安意識に関するグループ・インタビューの語りの内容から考察を加える。 2 方法 まず、全国 1800 名の 20 歳以上の男女を対象として行なわれた調査データから、リスク・不安意 識と人間関係に関する変数を用いて分析を行なった。調査方法は、調査票を用いた留置調査で、有 効回収数は 1225 人であった(回答率 68.1%)。グループ・インタビューは別の対象者として、情報 番組の視聴頻度と年齢で分けた4グループ合計 20 名に対して行なわれた。 従属変数である「リスク・不安意識」については、社会的な満足に関する質問項目への回答を因 子分析することによって得られた「将来希望」の因子得点(逆転項目)および、他の項目とは独立 することが確認された「治安リスク」の項目得点をそれぞれ「不安意識」と「リスク意識」とした。 3 結果 従属変数に対して、まず属性に関する変数を投入した重回帰分析を行ない、さらにそれらの変数 を統制した上で、人間関係に関する意識および情報処理能力についての変数を投入した重回帰分析 を行なって結果を比較した。まず「リスク意識」については、友人数や団体参加度といった実際の 人間関係資源に関連は認められなかったが、人間関係に関する意識の関連が有意に認められた。そ れに対して、「不安意識」では、実際の人間関係資源に関連が認められたが、人間関係に関する意 識および情報処理能力が投入されると、実際の資源の効果が弱まり、人間関係に関する意識と情報 処理能力の効果が高い関連を見せた。 実際の人間関係資源の有無がリスク低減に効果を持たないことについては、人々が実際にリスク を語るときに、人間関係がリスクを低減することよりも、むしろ人間関係そのものがリスクの原因 となったり、リスクの及ぶ対象として具体的な人間関係が関連付けられたりすることによると考え られる。個人として「特に不安がない」という場合でも、「自分の家族がどうなっていくのか」と いう「つながり」を語るときに、リスクがその場で顕在化するのである。 結果から、リスク・不安意識の低減を考える際に、具体的な「つながり」の有無よりも、むしろ一般 的な人間関係への信頼に関する情報や、情報を利用しながら主体的にリスクを見極める能力の伸張を考 える必要が示唆された。
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