先駆者が実践する変革のベスト・シナリオ

特集
ディー・エヌ・エー
茂岩 祐樹氏
“ 強い”
運用に
先駆者が実践する変革のベスト・シナリオ
オープンシステムの運用が危ない ――
多様な製品,技術を導入し続けた結果,
システムの可用性や性能を支え切れなくなってきた。
コスト削減しか要求されない状況では,
担当者のモチベーションを維持することも難しい。
だが,
“強い”運用が無ければシステムは効果を発揮しない ――
認識を新たにした企業が,相次いで運用改革に取り組み始めている。
運用担当者は,サービス・レベルを掲げ,目標達成に向け全力をあげる。
システムの状況を数値で示し,開発者や経営にシステムの改善も促す。
先行企業の現場から,
“強い”運用を作り上げるシナリオを探った。
(森山 徹[email protected],菅井 光浩[email protected])
リクルート 熊澤 公平氏
セキスイ・
システム・センター
七原 史郎氏
東建コーポレーション 下谷 光国氏
三井住友海上火災保険 佐野
とMSK情報サービス 酒井
110
Nikkei System Integration 2003.6
賢一氏(左)
秀義氏(右)
カブドットコム証券
阿部 吉伸氏
マイトリップ・ネット 金住 主石氏(左)
,和田 俊弘氏(中)
,廣田 敏昭氏
リクルート 高澤 圭一氏
損保ジャパン情報サービス 岸 正之氏
キリンビジネスシステム
河野 健一氏
住友林業情報システム 金児 英和氏
オペレーションを
省力化する
変える
1
マネージメントに
転じるには…
運用の役割を
運用の役割を
再定義する
再定義する
オープンシステム
ならではの
難しさを知る
マネージメントに
注力する
運用の価値を高め
オープンシステムを
支え切る
経営や開発に
分かる言葉で
提案する
3
運用が主体となり
サービス・レベルを
向上する
システムの
状況を数値で
押さえる
他部門を
他部門を
巻き込む
巻き込む
2
サービス・レベルを
意識する
監視システムを
監視システムを
構築する
構築する
監視ツール,
体制を整備する
稼働実績を元に
改善案を作る
数値化することで…
東京カンテイ
瀧内 誠氏
札幌市企画調整局
小澤 秀弘氏
キリンビジネスシステム 小林 靖明氏
Nikkei System Integration 2003.6
111
特集
「システム・リソースの利用状況すら
ット銀行のシステム障害は,まだ記憶
は望ましい姿。しかし,DBをはじめ
説明できない運用担当者が多い」――
に新しい。リクルートや住友林業,損
各種ミドルウエアを組み合わせるた
札幌スパークル システム コーディネ
害保険ジャパンやマイトリップ・ネッ
め,
「性能が見積もりにくい」
「障害切
ーターの桑原里恵氏は,オープンシス
トなど,オープンシステムで名うての
り分けが難しい」など,運用の難易度
テムの“運用”の危機を,システム構
企業でさえ,性能劣化など様々な問題
はホストに比べ格段に高い。加えて,
築の現場で感じている。
に手を焼いている。
ECサイトを構築すれば,24時間365
運用の力不足はトラブルとなって現
機能優先で製品,技術を選択できる
日稼働,急激なアクセス増への対応と
れる。5月8日に発生したジャパンネ
オープンシステムは,開発者にとって
いった新たな課題も突き付けられる。
運用への逆風は社内からも吹く。作
業負荷は増すばかりなのに,コスト削
運用が崩壊する
運用が
運用が崩壊する5つの兆候
崩壊する5つの兆候
の兆候
管理されていないサーバーが増えている
■ システムの状況を説明できる人がいない
■ 似たようなトラブルをよく聞く
■ 管理資料が更新されていない,
見当たらない
■ 運用コストの削減ばかりが話題になる
とにかくコストを下げろ
■
減への注文ばかりが厳しい。
「オープ
ンシステムは,モノが安いからといっ
て,単純に運用まで安くなるわけでは
経営
ない」
(セキスイ・システム・センタ
ー ビジネスシステム事業部 事業推進
部 マネージャ 小笹淳二氏)
。運用の重
ユーザー
要性が社内で理解されなければ,担当
者のモチベーションも落ちる。運用は
ちゃんと動いて当然
とりあえず運用を引き継いで
持ちこたえられるのか,正念場を迎え
ている
(図1)
。
開発
“強い”運用に変える
ドウェア
ハードウエア
APサーバー
APサーバー
ネッ
ネットワーク
トワーク
アプリケーション
アプリケーション
DB
DB
OS
OS
オープンシステム
オープンシステム
「これまで機能重視で,すごいスピ
ードで開発してきた」
(リクルート FIT
企画室 先端技術グループ システムア
ーキテクト 熊澤公平氏)――システム
を作ることに全力をあげてきた企業
運用
なんだか
毎日忙しい
が,ようやく運用に本腰を入れ始めた。
それら企業の取り組みから,オープン
システムの新しい運用の姿が見えてき
た。そこでのキーワードは,
“強い”
運用である。
図1●オープンシステムの運用が危ない
マルチベンダー構成,かつサーバー台数が多いなど,元々オープンシステムの運用は難易度が高い。加
えて,24時間365日稼働,メンテナンスの迅速化といった新たな課題が運用作業の負荷を押し上げる。
完成したシステムを“引き継ぐ”というホストのスタイルでは,オープンシステムの運用は崩壊してしまう
112
Nikkei System Integration 2003.6
強さの中身は,運用部門が,
“サー
ビス・レベルを向上する実行部隊”に
変わること。つまり,システムの可用
“強い”運用に変える
図2●“強い”運用でサービス・レベルを維持する
運用の本業は,サービス・レベルを掲げ,知恵を絞ってそれを達成することにある。カブドットコム証券は,最悪でも,注文から5分以内に発注することを保証。
システムの障害や性能劣化に備え,毎日,当番制で担当者がリソースの使用状況などを見張る。システム統括部長 兼 業務開発課長の阿部吉伸氏も監視に参加,
週明けなど負荷が高い時間帯の当番を買って出る
性や性能といったサービス・レベルを
上げる,それこそが運用の新しいミッ
ションである。
サービス・レベルを社外ユーザーに
保証する企業も現れた。
カブドットコム証券は昨年11月,
務開発課長 阿部吉伸氏)
と,開発にも
うまくフィードバックしている。
サービス・レベルを意識すれば,運
サービス・レベルを旗頭に運用改革
インターネットによる株取引のサービ
用担当者のモチベーションは向上す
に取り組む企業は,ここにきて急速に
ス・レベルを規定。最悪でも,株式の
る。目標が明確になり,そのためにシ
増えている。
売買注文から5分以内に発注すること
ステムを支えるという
“やりがい”
を感
損害保険ジャパンでは,
「顧客情報
を顧客に保証した。このサービス・レ
じられるからだ。
データベース」のサービス・レベルを
ベルを維持するために,CPUの使用
インターネット上のオークション・
向上するために「HAマネジメントシ
率やコネクション数,リクエストの遅
サイト
「ビッダーズ」では,4人の運用
ステム」
と呼ぶ独自の改善サイクルを
延状況など,担当者が様々な角度から
担当者が,監視やチューニングなどを
編み出した。運用部門が中心となり,
システムを監視する
(図2)
。
行う。システムの可用性の目標を
開発やインフラ部門,ベンダーを巻き
同社には,運用の専任者はいない。
99.9%に掲げ,達成度を毎週チェック
込み,可用性の達成度などを定例会議
14人の開発担当者が,当番制でコン
し,改善策を打ち出す。
「障害が発生
でチェックする。2001年から実施して
ソールに張り付き監視する。いわば,
したときに,自分たちより早く直せる
いるが,
「昨年,システムをリニュー
全員攻撃(開発)
,全員守備(運用)の
わけがない」
(サイトを運営するディ
アルした当たりから,改善サイクルが
陣容だ。
「運用を経験することで,
“デ
ー・エヌ・エー システム運用グルー
うまく回りだした」
(損保ジャパン情報
ータが増えていっても大丈夫か”とい
プディレクター 茂岩祐樹氏)といった
サービス 運用部 部長(兼)経営企画部
った,運用を意識した開発ができるよ
理由から,アウトソーシングは考えた
部長 岸正之氏)
と手応えを感じている。
うになった」
(システム統括部長 兼 業
ことがないという。
Nikkei System Integration 2003.6
113