第3章 Corporate strategy(企業戦略 strategy(企業戦略) 企業戦略) 3-1 SBU の数の決定 1. 1 つの SBU(ストラテジックビジネスユニット、戦略的なビジネス単位)に徹する、つまり単 一のビジネスだけを追求する戦略 ・ Concentration(コンセントレーション、集中) 2. 複数の SBU を持つ戦略 ・ Diversification(ダイバーシフィケーション、多様化) 3. SBU を増やす方法 ・ 狭い意味での diversification(多様化)戦略 -これは自社内で新規事業を立ち上げ、ビジネスを拡大する方法 ・ Integration(統合)戦略 - M&A(合併と買収) - Alliance(提携), joint venture(ジョイントベンチャー、共同事業) 4. SBU を減少させる方法 ・ Divestment(投資の引き揚げ) ・ Retrenchment(事業規模の縮小) 5. Concentration, diversification の事例 ・ Concentration(コンセントレーション、集中) -マクドナルド、KFC、吉野家など。 -メリットは、1 つの分野に資源を集中できるので、コアビジネスを構築し易く、特化し た分野においては、競合に対する優位性を形成することが容易ということ。 -デメリットは、コアビジネスが苦境に立ったとき、他に寄る辺がないということ。 ・ Diversification(ダイバーシフィケーション、多様化) -付け焼刃的な diversification は必ずしも成功しない。 -失敗例 マクドナルド -成功例 ハーレーダビッドソン 1 3-2 Concentration(コンセントレーション、集中)内でのビジネスの拡大 1. 特定マーケットに集中しながら、その特定マーケットでビジネスを拡大すること。 2. 一つは既存のマーケットでビジネスを拡大すること。 3. Market penetration(市場貫通)戦略 ・ 今の市場に深く入りこむ事。 ・ 例えば、既存マーケットの既存ユーザーの使用頻度を上げること。 ・ 例:コカコーラ 4. Geographic expansion(地理的拡大)戦略 ・ 地理的にビジネスの範囲を拡大すること。 ・ 例えば、販売地域の拡大すること。 ・ 例:トヨタ 5. Product development(商品開発)戦略 ・ 既存マーケットに対し、既存製品の改良版を開発し、販売すること。 ・ 例;日本マクドナルドの照り焼きバーガー、えびバーガーなど。 6. Horizontal integration(水平統合)戦略 ・ その会社と同じあるいは類似の商品で、同じあるいは類似のマーケットを争う、競合 企業に対して、M&A を仕掛ける、あるいは強い資本参加の形で、競合を支配すると いった形態。 ・ 例:ライブドアーなど IT 関連企業 3-3 狭義の Diversification 1. 自社資源による多角化及び M&A による多角化 2. ケースⅠ:阪急電鉄、小林一三モデル ・ 鉄道事業を軸にターミナルデパート、沿線の住宅、レジャー施設を一体的に運営し て沿線住民を囲い込むというのが基本的なビジネスモデル。 ・ 阪急デパート、阪急不動産、宝塚歌劇団やかつての宝塚ファミリーランドなど関連会 社を作ることで事業を多角化してきた。 ・ 小林一三氏の時代には、革新的だったこれらの業界も、その後の競争激化、トレンド の変化等により、その競争力が低下してきた。 ・ 最近の鉄道各社の革新的な多角化の動きとしては、IC カード事業への参入がある。 ・ JR 東日本は 2005 年度の経営計画で、Suica を鉄道、生活サービスに次ぐ第三の柱 にするとうたっている。 ・ 鉄道会社も最近では事業多角化のために、M&A の手法を取る事もある。阪急電鉄 2 は、IC カード事業のために、消費者金融会社を買収。 3. ケースⅡ;ソニー ・ M&A を中心にによる多角化を図っている。 ・ 1979 年には、米国プルデンシャル社との合弁によりソニー・プルデンシャル生命保 険を設立。後で説明する alliance による多角化。現在のソニー生命保険。 ・ ソフトとコンテンツの重要性の認識により、1988 年に CBS のレコード部門である CBS レコードを買収。M&A による多角化。現在のソニーミュージックエンタテインメント。 ・ 翌年にはコロンビア映画を買収。これも M&A による多角化。現在のソニーピクチャー ズエンタテインメント。 ・ 1998 年には、ソニーインシュアランスプランニング設立。ソニーの 100%出資の字自社 内における多角化。これが現在のソニー損保。 ・ 2001 年 三井住友銀行、JP モルガンとの合弁でソニー銀行設立。店舗を持たないネ ット銀行。Alliance による多角化。 ・ 現在ソニーは本業の AV 機器が苦戦する中、これら周辺産業が大きな収益源になっ ているというのが現状。 3-4 Vertical integration(垂直統合) 1. Vertical とは垂直的という意味。ビジネスの縦の流れ。縦の流れとは、サプライヤーから原材 料が流れ、メーカーが生産し、流通業者を経由して消費者に届ける、サプライチェーンの流 れのこと。 2. この中で、例えばメーカーがサプライヤーや流通を統合するのが vertical integration つまり 垂直統合。 3. メリット ・ 原材料加工や販売へと自社のコントロールの範囲の拡大が可能。 ・ メーカーは生産や販売との一体化によって、経営効率の向上を図ることが出来る。 4. デメリット ・ サプライチェーンの流れを固定するので、消費者ニーズに対応した多様なビジネス モデルの構築は困難になる。 5. ケースⅠ:米国のジーンズメーカーリーバイス社。 ・ 小売店を M&A で統合し、次々と専門店を形成。 ・ Vertical integration を通じて、小売ビジネスを自己のコントロール下に置いた。 6. ケースⅡ:ソフトバンク BB ・ 事業の参入に当たって、これまでの携帯事業の常識であった垂直統合型モデルを 否定 3 ・ 多彩な事業者とともにサービスを作り上げるオープンな事業モデルの構築を戦略とし て掲げた。 ・ コンテンツプロバイダは自由に参加できる、端末メーカーも自由に参加できるというと いう状態が実現。 ・ その後、ソフトバンクはボーダフォンの買収を決定し、戦略変更の可能性もある。 3-5 Divestment(撤退)戦略 1. 行き過ぎた diversification を修正するのが divestment 撤退戦略。 2. Divestment 戦略は既に成立しているビジネスを売却したり清算したりすること 3. ケースⅠ IBM ・ 元々メインフレームコンピューターを得意としていた。 ・ 1981 年にや個人レベルの環境に IT のパワーを拡大しようとする「パーソナルコンピュ ーティング」というビジョンの下、IBM パーソナルコンピューティング事業を発足させ た。 ・ Think pad ブランドを作り上げ一世を風靡。 ・ IBM のコーポレートストラテジーがハードの提供からコンサルティングなどサービス事 業に傾斜。 ・ パーソナルコンピューターの事業が、売上こそ全体の1割強あったものの、他事業と 比較した収益の低さが目立った。 ・ 2005 年中国の PC メーカー「レノボ社」に売却。 4. ケースⅡ 日産 ・ 累積赤字が溜まり瀕死の状態。 ・ フランスルノー社のゴーン氏を迎え、2000 年から日産リバイバルプランを開始。 ・ ゴーン氏は、本業の自動車事業に貢献しないビジネス(サービス金融業・系列部品 会社・福利厚生事業)をことごとく売却。 ・ コア事業についてもについても余剰設備と判断した、3工場・2ラインを閉鎖。 3-6 Horizontal integration(水平統合) と Vertical integration(垂直統 合) 1. Horizontal integration は、自社と同じあるいは類似のマーケットへ、ビジネスを拡大。 2. Vertical integration は、自社に隣り合わせる流通過程へ、ビジネスを拡大。 ・ Forward integration:メーカーから見たリテーラーの統合。 4 ・ Backward integration:メーカーから見たサプライヤーへの統合。 3. イメージ図 4. Horizontal integration で事業を拡大のケース:日本のメガバンク。 5.Vertical integration で、事業を拡大のケース:リーバイス社。 3-7 Related integration( 関 連 あ る 事 業 の 統 合 ) と Conglomerate integration(コングロマリット統合) 1. 狭義の diversification(多角化)で問題になる。 2. Related integration(関連ある事業の統合) ・ 周辺事業への事業拡大。 ・ 自社のノウハウの範囲内にあるので、成功の確率が高い。 ・ 事業のリスクを分散することにはならない。 3. Conglomerate integration(コングロマリット統合) ・ 離れた事業への業務拡大。 ・ 自己のノウハウの範囲外にある事業で成功を収めるのはそう簡単なことではない。 ・ 事業リスクを分散する。 3-8 Related integration( 関 連 あ る 事 業 の 統 合 ) と Conglomerate integration(コングロマリット統合)のケース アマゾンドットコ ム 1. Related integration(関連ある事業の統合)、Conglomerate integration(コングロマリット統合) の両方を実践している。 2. 書籍をオンライン上で販売する会社としてスタート。 ・ 個人の購入履歴等を残し、顧客のニーズを個別に把握。 ・ それに基づいて必要な情報を提供していく。 3. Related integration(関連ある事業の統合) ・ 音楽のネット販売。 ・ 電子機器のネット販売。 4. Conglomerate integration(コングロマリット統合) ・ 商品のネット販売に関心のある会社と業務提携を行い、アマゾンの販売ノウハウを提 供し、提携した会社のネット販売をマネジメント。 ・ 玩具販売のカテゴリーキラー、トイザラスと提携し、おもちゃのネット販売。 ・ ディズニーのショータイムをアマゾンでネット放送する、映画のプロモーションフィルム をネット放送する、ディズニーの広告を行う。 5 3-9 その他の Corporate strategy 1. Strategic alliance(戦略的提携) ・ 他社との提携による多角化。 ・ 自ら資源・ノウハウを提供すると共に、他社の資源・ノウハウを使い業務を多角化する こと。 2. Joint venture ・ 競合との提携による多角化。 ・ 合併という法的効果を伴わない、horizontal integration。 3. Status quo(ステータスクォー) ・ 現在の商品ラインや売上に満足し、現在の商品とマーケットに資源を集中するという 戦略。 4. Retrenchment ・ ある事業から完全に撤退するのではなく、その規模を縮小する。 ・ リストラや工場の閉鎖など(日産の 1995 年の座間工場閉鎖、ゴーン改革時期の村山 工場閉鎖など)。 3-10 Retrenchment のケース 1. IBM ・ IBM は retrenchment を含め、様々なコーポレートストラテジーを使い、事業の規模、 内容を調整し現在に至っている。 ・ IBM はダウンサイジングに乗り遅れ、1991 年に創業以来始めてのの巨大赤字に陥っ た。 ・ 当時の CEO ジョンエイカーズは、1992 年、人員削減を含むリストラプランを出した。こ れはハードウェア事業を縮小するものである。 ・ しかし、対処療法的なものでトレンドに合致した本質的な解決には至らず。 ・ これらの結果ジョウンエイカーズは解任。 ・ その後 1993 年 CEO に就任した、ルイスガードナーはメインフレームコンピューターを 中心とした事業改め、IT サービス、ソフトウェア事業を加えた事業ポートフォリオを組 み、1994 年に黒字回帰を実現した。トレンドに合致した事業をポートフォリオに組み 入れることにより、事態の改善を図った。これはまさに diversification 戦略。 ・ IBM の業績は大幅に回復し、2001 年まで年 14%の成長を実現することになった。 6 ・ 続いて 2004 年、PC 事業の収益性の悪さ、シェアーにおいて、Dell や HP に引き離さ れたことなどにより、PC 事業をレノボ社に完全に売却した。これは divestment 戦略。 ・ 2005 年には欧州を中心としてリストラ策を発表。これは、成長が減速気味の欧州市 場における事業性の見直し、より高成長の市場にリソースを移行することが目的。事 業規模の縮小で retorenchment 戦略に当たる。 2. トイザラス ・ トイザラスは、スポーツ、衣料、文具等、0 歳~15 歳までの子供の生活に必要な生活 関連用品を扱う強力なカテゴリーキラー。 ・ 全米で店舗を拡大し、急成長を遂げ、関連事業を入れると、一時は 1400 店舗にまで 成長し、5 万アイテムという取り扱い品目を擁するに至った。 ・ しかし、その後さらに安い価格で玩具を販売し始めたウォルマートや K マート、ター ゲットの価格戦略でこのカテゴリーキラーに襲い掛かかる ・ その結果、1995 年、創業以来初めて店舗の閉鎖、取り扱いアイテムの削減等の retrenchment を強いられることになった。 ・ しかし、その後も価格競争は続き苦しい経営が続いていた。 ・ 2004 年にはさらに大規模なリストラを実施。 ・ ついに 2005 年、トイザラスは自力経営を断念し、投資会社のコールバーグ・クラビス・ ロバーツ(KKR)とベイン・キャピタル,不動産会社のボルネード・リアルティー・トラスト の 3 社で構成する企業連合に約 66 億ドルで身売りすることになった。これは事業の 完全な売却で、divestment 戦略。 3-11 Joint venture のケース 1. ソニーとエリクソン ・ 2001 年ソニーとエリクソンが提携。 ・ ソニーのコンシューマー向け製品の販売ノウハウと、Ericsson の通信技術のコラボレ ーション。 ・ 合弁会社を設立し、携帯電話の研究、設計、開発、マーケティング、販売を行うこと になった。 ・ この提携の背景には、両社が米国や欧州の携帯電話市場で苦戦してきたことが挙 げられる。 2. ソニーとサムスン電子 ・ 液晶テレビの分野で、2003 年ソニーとサムスン電子が提携した。 ・ 薄型テレビで出遅れたソニーは、液晶パネルの安定調達やパネル技術をサムスンに 7 期待し、サムスンにとっては大口のパネル供給先の確保というメリットがあった。 ・ この提携の背景には、ブラウン管技術で世界一のソニーが、市場の拡大している薄 型テレビでは大きく出遅れたということがあった。 3. 航空業界のグローバルアライアンス ・ 1999 年エールフランスとデルタ航空が、排他的長期戦略協定に調印し、航空業界の グローバルアライアンスの基礎を構築した。 ・ 2005 年現在で世界最大のアライアンスであるスターアライアンスの他に、ワンワール ド、スカイチーム等があります。エールフランスとデルタはスカイチームのメンバー。 ・ この様なグローバルアライアンスの背景には、航空業界の競争激化による、収入単 価の減少、石油価格や人件費の高騰等によるコスト面の圧迫、さらに航空機のオー バーキャパシティー等の問題があった。 4. GM、フォード、クライスラー ・ GM、フォード、クライスラーは、2000 年、インターネット上で、部品調達に関する情報 を交換し、効率的な調達を実現した。 ・ 部品調達の情報に関して、GM、フォード、クライスラーのビッグ 3 とサプライヤーはオ ンラインで繋がれ、virtual market つまりインターネット上の仮想市場を媒介に、オン ライン取引の環境が設定されている。 ・ サプライヤー側では、バイヤーであるビッグスリーが出した商品スペック情報にたいし て、オンライン上で入札、Bid する仕組みが出来上がっている。つまり、バイヤーであ る、ビッグスリーがオンライン上に提示した必要な商品スペックに関する情報を、各サ プライヤーが入手すると、それに対するリアルタイムな入札を行う。 ・ 一方、サプライヤーもその余剰在庫の情報をオンライン上に流して、買い手であるビ ッグスリーが Bid することもある。 ・ ビッグスリーはこの様な余剰在庫に関するオンライン情報を共有し、部品、素材、資 材等について、リアルタイムに、必要なものだけを調達することができる。 ・ この仮想市場には、2000 年2月の発表後、ルノー、日産自動車も参画を表明し、5 社が参画する形でスタートした。稼動後、トヨタ自動車、本田技研工業、三菱自動車 工も参画し、サプライヤー側を合わせると約3万社が参加する世界最大級のネット取 引サイトとなっている。 8
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