梗概 - 東海大学工学部建築学科

多層の木質建築の設計
-横浜ウッドデザインセンター-
指導教員
杉本
洋文
教授
0BCBM019
1.研究の背景と目的
日本は豊かな森林資源を背景に、建築は木造が主流で
あったが、震災や戦災に起因する都市の不燃化の流れは、
都市建築を鉄とコンクリート造に変えた。2000 年に建築
基準法が改正、木造でも大規模建築物が可能となった。
本修士設計では、日本で実現していない多層の木質建築
の魅力及び可能性を見いだす事を目的とするものである。
2.木質建築
2-1.木造建築の変遷
木造建築の変遷を辿り、現状を把握するため、現代に
おける、多層階の木質建築に焦点をあて研究および調査
を行った(Fig.1)。
瀬谷
匠
3.木質構造パネルを用いた建築
3-1.クロスラミナパネル
近年、ヨーロッパでは環境性能を高めたパネル構法が
盛んで、木材を線材でなく面材として扱うことが注目さ
れ、壁構造の建築が多く設計されている。クロスラミナ
は、ラミナを繊維方向が互いに直交するように積層接着
した面材を再構成している高性能の木質材料である。
3-2.クロスラミナパネルの特性
木質構造パネルとして、力学的安定性があるため、プ
レキャストコンクリート造の版のように扱うことができ、
壁構造、フラットスラブ、キャンチレバーの床など多様
な建築空間に使用することが可能である。
3-3.海外の事例分析
環境先進国である、ヨーロッパのクロスラミナパネル
を用いたプロジェクトの事例分析を行った(Fig.3)。その結
Fig.1 木質建築の変遷
2-2.日本における木質建築の事例分析
日本で竣工された木質建築の4事例、プロジェクト5
果、環境問題、コストパフォーマンス、人体に対する効
果が期待でき、日本においても、環境時代の都市建築と
作品を対象として分析を行った。多層の木質建築の技術
して、耐震性能と耐火性能を確保することによって実現
および法規制の現状と課題が明確になった(Fig.2)。
の可能性があると考える。
Fig.3 海外の木質パネル建築の事例
3-4.日本におけるクロスラミナパネルの実施事例
鉄骨やコンクリートで作られてきた大規模な建物につ
いて、木質構造材料を用いた建物に置き換えることが出
来れば、大規模木質構造建築物の一般化に繋がり、多く
の CO2 を都市に固定化できる可能性がある(Fig.4)。
Fig.2 日本の木質建築の事例
2-3.考察
木組みの知恵や最新技術を導入する新たな木質建築が
可能となった。そこで、日本での実施例が少ない、木質
構造パネルであるクロスラミナパネルを用いた建築を設
計する。
The design of multilayer woody architecture
Yokohama wood design center
Fig.4 日本のクロスラミナパネル実施事例
3-5.都市木造の復権
木質構造パネルの普及によって、新しい都市木造の形
がうまれている。日本も独自の文化背景を生かして、特
有の都市形成要素を創出することができると考える。
SEYA Takumi
4.計画
4-1.敷地選定・プログラム
横浜は 150 年前から日本の西洋文化の入口で、木材な
ど資源物流の拠点として都市発展の重要な役割を担って
きた。そこで、木の文化の継承と発展を担い、歴史文化
創造都市の拠点を形成する場を計画する。敷地は運河と
貨物線に挟まれた、横浜市西区マリノスタウン近郊に敷
地を選定し、都市のコンテクストに対応したウッドデザ
インセンターを提案する。
4-2.横浜ウッドデザインセンター
6.都市の流れを創出する木質門型建築
時の流れと都市変遷を象徴したゲートをイメージさせ
た門型フレームを、横浜の重要な都市軸に配置する。施
設は、流れ込んだ情報に反応し、双方向に発信する空間
構成とする。積層された大小の浮箱の空隙には交流とコ
ミュニティのスペース、浮箱には情報と文化の創作スペ
ースを置く。人・モノ・情報と自然の光・風・音が融合
する都市に解放された交流空間となる(Fig.10)。
横浜は環境都市を目指しており、先進性のある都市で
ある。そこで、環境都市を、都市木造が増えることで実
現させ、都市の象徴となる都市木造建築を創出し、新た
な横浜の都市像をプレゼンテーションする場とすること
で都市空間の魅力を増幅させる。
5.建築
5-1.「剛柔構造」木質ハイブリッドフレーム+浮箱
主要構造部は耐久性のある木質ハイブリッドフレーム
をXYの二方向に連続配置し、木質ハイブリッドスラブ
Fig.10 断面図_都市の流れを創出する空間
とのリジットなユニットで相互に支え合う構成で、防耐
火性能を考慮した剛柔構造としている (Fig.5 6)。地下は
RC造に滑り支承免震装置による免震構造とし、クロス
ラミナパネルの使用で、環境負荷軽減を図ったプレハブ
リケーションシステムで工期短縮を可能にする(Fig.7)。
7.結び
本修士設計は、日本でクロスラミナパネルが木質構造
部材として認定されることを仮定として計画したもので
ある。建築は木質ハイブリッド構造を採用し、防耐火性
能を考慮し設計をした。それによって、都市部における
多層の木質建築の指針となる都市木造建築の新たな建築
デザインを提案することが出来た(Fig.11)。
Fig.5 木質ハイブリッドフレーム+浮箱
Fig.6 木質ハイブリッド材
Fig.7 構造システム
5-2.連子格子がつくり出す空間
連続する木に包まれた空間は、自然の変化や人の動き
などによって、新たな都市の風景が創出される(Fig.8)。
そして、多様なシークエンスを感じる空間となる(Fig.9)。
Fig.11 多層の木質建築
参考文献
1)Structure なぜ今木質構造なのか/2011 年/社団法人日本建築構
造技術者協会
2)横浜木材史/昭和 33 年/横浜木材業協同組合
3)木をめぐる対話/2011 年/木材活用推進協議会
4)都市木造のフロンティア/2010 年/Team Timberize
5)建築木質構造/2001 年/オーム社 菊池重昭
6)木の空間新木造建築のデザインとディテール/1992 年/新建築社
7)日本の建築空間/2005 年/新建築社
Fig.8 新たな都市の風景
Fig.9 多様なシークエンスを感じる空間
2011 年度修士設計梗概集
東海大学工学研究科建築学専攻