22q11.2 欠失症候群

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22q11.2 欠失症候群
22q11.2 欠失症候群
図1.左:22q11.2
図1.左:22q11.2 欠失.
右:欠失領域のプローブと TBX1 遺伝子.
次の3種に分けますが、年齢と視点による表現型
1.三症候群の共通の症状
スペクトルの違いで分けているに過ぎないので、一
顔貌:瞼裂は眼間開離(hypertelorism
顔貌:瞼裂は眼間開離( hypertelorism)ではな
hypertelorism )ではな
括して 22q11.2 欠失症候群と呼ぶのが適当です。
1) DiGeorge 症候群 (DGS):免疫不全、副甲状
(DGS):免疫不全、副甲状
く、内眼角開離(lateral
く、内眼角開離(lateral displacement of the inner
腺機能低下症(低カルシウム血症)、心奇形、顔貌
canthi)です。瞼が腫れぼったく、一重で瞼裂は狭
canthi)です。瞼が腫れぼったく、一重で瞼裂は狭
の特徴。免疫学者(DiGeorge,1969)
の特徴。免疫学者(DiGeorge,1969) が報告。
いことが多い。鼻は上半分が太く下半分が細く、別
2 ) 円 錐 動 脈 幹 異 常 顔 貌 症 候 群 (conotruncal
(conotruncal
人の鼻が鼻屋と鼻翼の接点でくっついているよう
anomaly face syndrome; 高尾症候群;
高尾症候群; CTAFS):心
CTAFS):心
に見えます (松岡
(松岡,
松岡, 1997)。鼻尖は広く、二分してい
1997)。鼻尖は広く、二分してい
奇形、顔貌の特徴が主徴。小児心疾患の専門家 (木
ることもあります。人中は短くてはっきりせず、口
ることもあります。人中は短くてはっきりせず、口
内,高尾ら,
高尾ら, 1976) が報告。
は小さく、耳は変形。頭は平均より小さいことが多
3)口蓋帆・心臓・顔症候群 (velo(velo-cardiocardio-facial
い。この特徴が年齢により修飾されますが、新生児
syndrome; Shprintzen 症候群;
症候群; VCFS):
VCFS):(粘膜下)
粘膜下) 口
では顔貌の特徴を把握するのは困難です。
蓋裂、二分口蓋垂、鼻声、構音障害、心奇形、顔貌
心・大血管の奇形 :患者の 85%に認めます。円錐
85%に認めます。円錐
の特徴が主徴。形成外科の専門家 (Shprintzen et
部を含む心室中隔欠損、総動脈幹から大動脈・肺動
al., 1978) が報告。
脈が作られる過程の異常による心流出路奇形
三症候群の主要な症状の頭文字をつなげて
(Fallot 四徴、総動脈幹残遺、大血管転位、両大血管
「CATCH
CATCH 22」
22」 と呼ぶことが流行しましたが、同
右室起始)
右室起始)、大動脈弓の奇形(
、大動脈弓の奇形(大動脈弓離断、右側大
名の小説に由来するネガテイブな意味があるので、
動脈弓、高位大動脈、鎖骨下動脈起始異常)
動脈弓、高位大動脈、鎖骨下動脈起始異常) が主体
使うべきではありません。
で、円錐動脈幹部心奇形と総称します。Fallot
で、円錐動脈幹部心奇形と総称します。Fallot 四徴
1
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22q11.2 欠失症候群
(肺動脈狭窄または閉鎖、大動脈騎乗、
大動脈騎乗、心室中隔欠損、
4.TBX1 遺伝子
右室肥大)
右室肥大) をスクリーンすると、その 10%~
10%~20
%~20%に
20%に
22q11.2 欠失を認めます。 小児心奇形専門施設にお
Yagi et al. (2003) は欠失がないが顔貌その他の
ける 22q11.2 欠失症候群患者の心奇形の頻度は、
22q11.2 欠失症候群の臨床所見を持つ 10 家系 13 例
Fallot 四徴症(56%
四徴症(56%)
56%)、三尖弁閉鎖・
、三尖弁閉鎖・大動脈弓離断
について TBX1 遺伝子を解析し、散発例2例と1家
(28%)
28%)、円錐部を含む心室中隔欠損(13%
、円錐部を含む心室中隔欠損(13%)です。
13%)です。
系3例で変異を認めました。変異を持つ5例は顔貌
知的障害は軽度~中等度ですが、10
知的障害は軽度~中等度ですが、 10%が
10%が 10~
10~20
の特徴、心奇形、胸腺低形成、口蓋裂を伴う口蓋帆・
歳で統合失調症を発症します (Shprintzen et al.,
咽頭機能不全、副甲状腺機能不全(低カルシウム血
1992)。
1992)。
症)を色々な組み合わせで持ちますが、知的障害は
ありません。TBX1 は 22q11.2 欠失症候群の症状の
全部を説明はできませんが、主役を演ずる遺伝子だ
2.頻度・家族発生
22q11.2 欠失症候群は 4,000~5,
000~5,000 人に1人の割
と思われます。
合で生まれ、欠失を持つ患者の両親を
合で生まれ、欠失を持つ患者の両親を FISH 分析す
5.22q11.2
5.22q11.2 重複症候群
ると、
ほぼ 10%で母
10%で母 (ときに父
(ときに父)
ときに父) に欠失を認めます。
欠失を持つ親の多くは顔貌の特徴、鼻声、軽度の知
22q11.2 欠失検出のために作った FISH 標本で間
能低下はありますが、心奇形はありません。同じ家
期核をスクリーンすると、検体の 2%で重複が検出
2%で重複が検出
系で同じ欠失を持ちながら 1 人が心奇形と知的障害、
されます(Ensenauer
されます(Ensenauer et al., 2003)
2003)。重複の範囲は
1 人が免疫不全と統合失調症のことがあります。親
3 Mb~4 Mb から 6 Mb で欠失(3
で欠失(3 Mb)より大きい
Mb)より大きい
が欠失を持っていれば、次の子が欠失を持つ確率は
けれど、染色体 FISH 分析ではシグナルが融合して
50%です。
50%です。
見分けが困難です。口蓋帆・咽頭機能不全、心奇形、
発達障害、免疫不全などの臨床所見は欠失と共通し
3.22q11.2
3.22q11.2 欠失
ていますが、重複に特徴的な所見として眼間開離、
欠失の大部分は大きさが 3 Mb で 24~30 の遺伝
眼と離れた眉、尻下がりの瞼裂、眼裂下垂、小顎、
子を含み、1.5
子を含み、1.5 Mb のときもあります。Vysis
のときもあります。Vysis 社は欠
幅が狭く長い顎などを認めます。この理由で
失内の TUPLE 1 領域をプローブとし、長腕末端近
領域をプローブとし、長腕末端近
22q11.2 欠失症候群の FISH 検査では染色体だけで
くの ARSA を内部コントロールとして用いて、染色
なく、間期核もスクリーンする必要があります。
体 FISH 法で分析します。欠失は G-バンド分析では
検出できず、高精度分染でも 1/3 で検出するに過ぎ
6.10p13
6.10p13–
10p13–p14 欠失(DiGeorge
欠失(DiGeorge 2 症候群)
ません。FISH
ません。FISH 検査で欠失を検出したら、親(殊に
10p13–
10p13–p14 欠失は心奇形、副甲状腺機能低下症、
母)の 10%に欠失を認めるので、必ず親(殊に母)
10%に欠失を認めるので、必ず親(殊に母)
T 細胞性免疫不全、顔貌異常など、22q11.2
細胞性免疫不全、顔貌異常など、22q11.2 欠失に
の染色体 FISH 分析をすべきです。
似 た 臨 床 所 見 を 示 す の で 、 DiGeorge 2 症 候 群
染色体 FISH 法による欠失の検出率は DiGeorge
(DGS2)と呼びます。
DGS2)と呼びます。10p13
)と呼びます。10p13–
10p13–p14 欠失による症状
症候群が 80%、口蓋帆・心臓・顔症候群が
80%、口蓋帆・心臓・顔症候群が 68%、顔
68%、顔
を近位の欠失による心奇形、T
を近位の欠失による心奇形、T 細胞不全と、遠位の
貌の特徴の有無を問わず円錐動脈幹部心奇形だけ
欠失による副甲状腺機能不全、感音性神経性難聴、
欠失による副甲状腺機能不全、感音性神経性難聴、
を指標にしてスクリーニングすると8%
を指標にしてスクリーニングすると8%、顔貌の判
腎形成不全(HDR
(HDR 症候群)に分けます(Lichtner
(Lichtner et
定に熟練した専門家による円錐動脈幹異常顔貌症
定に熟練した専門家による円錐動 脈幹異常顔貌症
al., 2000)
2000)。近位の欠失は心奇形に関係する NEBL
候群では 98%です(Matsuoka
%です(Matsuoka et al., 2000)
2000)。
遺伝子を含み、遠位の欠失は心房中隔欠損に関係す
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22q11.2 欠失症候群
る未知の遺伝子を含むと推定されます(Yatsenko
(Yatsenko et
GenotypeGenotype-phenotype
al., 2004)
2004)。
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Takao
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341 346 p.
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42:141 142,1992.
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362:1366−1373,
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2003.
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(hy
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Interstitial deletion of 10p and atrial septal
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syndrome locus maps distal to the DiGeorge
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37:33−37,
37:33 37, 2000.
梶井 [2005 年1月 11 日:改訂]
日:改訂]
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3