千葉県小児科医会

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茄
千葉県小児科医会
平成21年度生涯教育講座
レルギー性皮膚炎では、あらかじめ感作されない
小児皮膚疾患
と生じません。日光照射と関連するものもありま
す。
一湿疹・皮膚炎、細菌感染症について一
接触アレルギーの機序は、まず皮表で分子量の
比較的小さい単純化学物質(ハブテン)とキャリ
児島 孝行
ア蛋白が結合し抗原となると、その抗原情報をラ
そが皮膚科
ンゲルハンス細胞が所属リンパ節のTリンパ球に
伝達し、ハブテン特異的T細胞を増殖させ感作が
成立します。一旦感作が成立した後は接触物質が
はじめに
皮膚に触れるとエフェクターTリンパ球から炎症
メディェイター(サイトカイン)が放出されすぐ
小児によくみられる皮膚疾患、また頻度は少な
に湿疹反応が起きます。
くても重要と思われる皮膚疾患をスライド供覧の
形でお示しいたしましたが、全てを述べるとあま
症状は刺激物が接触した部位に一致して比較的
りに多岐にわたり、まとまりがなくなりますので
境界明瞭な湿疹反応を示します。これが急性湿疹
本稿ではその中で、小児科の先生方からも要望の
の像で紅斑、丘疹、小水癌、落屑など点状状態を
強かった皮膚外用療法を含めて、アトピー性皮膚
呈する皮疹が混在してみられます。しかし慢性化
炎などの湿疹・皮膚炎群、伝染性膿痴疹を初めと
すると苔癖化といって象の皮膚のようにごわごわ
する細菌感染症について述べたいと思います。
とした硬く厚い皮膚となり皮丘・皮溝の形成が明
確になってきます。痔みを伴います。パッチテス
ト、使用試験等で確認します。上腕内側や背部に
Ⅰ 湿疹・皮膚炎
フィンチャンバーなどのパッチ粋創膏を用い試験
湿疹は皮膚科外来で最も多く見られるポピュラ
ーな疾患です。外来刺激物質が生体に作用し、個々
物質を貼布し通常48時間後に判定しますが、アレ
の生体の準備状態に応じて皮膚に炎症反応を生じ
ます。
ルギー性であれば72時間後もさらに反応は増強し
接触皮膚炎の原因物質は多岐にわたりますが、
たものと定義されます。
皮膚に付着、接触する物は全て原因となり得ます。
外来刺激物質としては化粧品、洗剤、薬物など
の化学物質や花粉、真菌、細菌、ハウスダストな
乳児では洗剤、おむつ、衣服など。学童期になる
どがあげられます。個々の準備状態としては、経
と更にゴーグル、グローブ、すね当て、ズック靴、
皮吸収の冗進、皮脂分泌・発汗の異常、接触アレ
楽器など活動が増えることに伴って原因も多彩に
ルギー、アトピー、感染アレルギーなどがあげら
なってきます。更に年齢が上がると化粧品類、装
れます。湿疹の分類としては接触皮膚炎、アトピ
ー性皮膚炎、脂漏性湿疹、貨幣状湿疹、皮脂欠乏
飾具なども加わってきます。また医原性に薬剤で
性湿疹、うっ滞性皮膚炎、Vldal苔癖などがあげ
られます。この中で小児に重要な接触皮膚炎、ア
非ステロイド性消炎剤のブフェキサマク(アンダ
ーム)は小児の接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎に
トピー性皮膚炎について述べます。
使用されることが多い外用剤ですがかぶれ易いの
かぶれることもあるので注意が必要です。例えば
でむしろアトピー性皮膚炎には使用しない方が良
いとする意見もあります。非ステロイド性消炎鎮
(1)接触皮膚炎
接触皮膚炎は皮膚に接触する外界物質の機械的
痛剤で光接触皮膚炎をおこし易いケトプロフェン
刺激・化学的刺激、その他の物質が接触源として
外用薬(モーラステープ)、抗生剤ではゲンタマイ
作用した部位に限局して生じる湿疹反応で俗に「か
シン、OTC薬剤では拝み止めのジフェンヒドラミ
ぶれ」のことです。一次刺激性皮膚炎では、高濃
ン(レスタミン)、クロタミトン(オイラックス)
度であれば誰にでも生じる可能性があり、一方ア
また麻酔薬のリドカインもかぶれに注意が必要で
19−
す。これらは市販の水虫薬などにも添加されてい
常因子も分かりつつあり、ADは種々の異なる遺
ることも多いことに注意すべきです。また意外な
伝子異常が関与した多因子疾患・症候群として捉
ことに湿疹の治療薬であるステロイド剤でもかぶ
えられるようになってきました。ADの有病率は1
れることがあります。リンデロンVGでは含まれる
歳6ケ月児で一旦低下し3歳児で再び増加します
ゲンタマイシンにより、ネオメドロールEE,リン
が、このこともADに異なる集団があることの証
デロンAでは含まれる硫酸フラジオマイシンによ
左ともいえます。本症の特徴である痔みに関して
りかぶれることがあるので注意が必要です。また
も、噂癖的掻破行動など心理的側面の重要性や、
抗アレルギー剤のケトチフェン(ザジテン)でも、
中枢性の痔みや拝み過敏などの新知見が明らか
消毒液でもかぶれることがあります。
にされつつあります。タクロリムス(プロトピッ
ク)軟膏の発癌性は自然発生率と同等であること
(2)アトピー性皮膚炎(AD)
が次第に明らかになってきました。Th2ケモカイ
アトピー性皮膚炎は寛解・増悪を繰り返す、痛
ンであるTARC(thymus and activation−regulated
棒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の
chemokine)値は病勢を鋭敏に反映することが明ら
多くはアトピー素因を持ちます。アトピー素因と
かになり、また保険適用も認められました。
は家族歴・既往歴に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・
【治療】
結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかあるいは複
1.外用療法
数の疾患を有すること、またはIgE抗体を産生し
まずアトピー性皮膚炎に限らず、皮膚の外用療
やすい素因をいいます。アトピー性皮膚炎は皮膚
法の基本的事項を述べます。
の乾燥と角層のバリア機能異常という皮膚の生理
外用薬は基剤と主剤からなります。基剤は軟膏、
的異常とアトピー素因に基づくアレルギー体質が
クリーム、ローション、粉末剤、ゲル剤、テープ
ベースにあります。これに環境要因が加わって慢
剤などに分けられます。
性の湿疹、皮膚炎を繰り返します。
〈基剤の種類〉
アレルギー的要因としては乳幼児期では卵白、牛
◆油脂性軟膏・・・種々の油脂類(パラフィン、
乳などの食物抗原に対する特異的IgE抗体を認め
オリーブ油、ワセリン、プラスチベースなど)が
ることが多く、小児期以降ではダニ、ハウスダスト、
用いられます。水を含まないので疎水性軟膏とも
花粉などの環境抗原に対するIgE抗体を認めます。
呼ばれます。保護、消炎作用があり刺激性が少な
非アレルギー的要因としては乾燥、掻破、汗、ス
いためにあらゆる皮疹に用いられますがべたっき
トレスなどがあげられます。
感があります。
【臨床症状】乳幼児期には頭部、顔面に紅斑、鱗屑、
◆乳剤性軟膏‥・乳化剤を用いた油中水型(W/0
梁液性丘疹を生じ、次第に躯幹に広がります。湿
型)軟膏で、塗布後冷却感があるためコールドク
潤傾向を示し、靡爛面を形成する傾向があります。
リームとも呼ばれます。水で洗い落せます。
小児期になると皮膚全体が乾燥して毛孔一致性丘
◆クリーム・・・ 乳化剤により半固形状に油と
疹が多発してきます(小児乾燥型湿疹)。青年期
になると症状は基本的に小児期と同様ですが、苔
水分が混ざったもので水中油型(0/W型)基剤で
べたつきが少なく、薄くのばすと外用剤の色調が
癖化局面が更に進行や拡大し、上半身を中心に広
消えるためバニッシングクリームとも呼ばれます。
範囲にわたって暗褐色、粗造乾燥したアトピー皮
時に刺激感があり、皮膚保護作用は軟膏に劣るた
膚を呈します。血清IgE高値、ダニ、HDの特異的
めに、廉爛、湿潤部位には用いません。
IgE抗体高値、好酸球増多が多くみられます。
◆ローション….液体に薬剤を混ぜたもので、
【最近の知見】アトピー性皮膚炎の一部でバリア
外用すると水分が蒸発して残った薬剤が薬理作用
機能を担う角化関連蛋白の異常(フイラグリン
を生じます。有毛部位に用いられます。
先天異常)が関与することが明らかになりまし
く外用剤使用方法〉
た。またその他の角化関連分子異常、免疫機構異
◆単純塗布・・・1日1∼3回病変部に薄く延ばし
−20
ます。最も一般的な方法です。
服ステロイドで起きる副作用はまず起きません。
◆重層塗布法・・・軟膏剤を塗布した上に表面に
但し、成人でもⅠ群では1日10g、Ⅱ、Ⅲ群では1
亜鉛華軟膏を薄く延ばしたガーゼまたはリント布
日20gの外用で一過性の副腎の抑制がかかります
を貼付します。外用剤を十分に浸透させ湿潤・磨
し、1歳以下の乳児では皮膚吸収はより高くなり
爛局面の溶出液を吸収し皮疹を保護・改善させま
ますのでたとえⅣ群でも長期に漫然と大量使用す
す。
るのは要注意です。一般によく言われる色素沈着
◆密封療法(occlusivedressingtechnique:ODT)…
はステロイド外用剤では起きません。
ステロイド外用療法で効果が上がらない時いく
ステロイド剤を単純塗布した後ラップフィルムを
用いて皮疹部を覆い密封します。浸潤・肥厚・苔
つか考慮すべき点があります。
癖化した病変に用います。薬剤をより多く吸収さ
第1に十分な量を使用しているかという点です。
せます。小児に対しては皮膚が薄く元々吸収率が
塗布量としては近年FTU(finger−tip unit)が流
高いために用いられません。近年強力なステロイ
用されています。成人の第2指の先端から末節の
ド剤が開発され、一般的にはODTは行われなくな
関節のくびれまでチューブから軟膏をしぼり出し
りました。
た量が約0.5gで、それで手2枚分、体表面積の
◆混合外用の注意点・・・外用剤をワセリンなど
2%を塗るのが標準的とされます。但し、これはあ
の保湿剤と混合し希釈して使用する場合がありま
くまで概算で日本人の場合はこれよりやや少なめ
すが、注意すべき点があります。まず剤型の異な
となります。ステロイド忌避の傾向のある患者、
る油脂性軟膏と0/W型乳化性製剤を混合すると基
保護者ではごく少量しか塗布しないこともありま
剤の分離が生じ主剤の経皮吸収が低下することが
すので、実際に塗布してみせることも有用です。
あります。またステロイド剤をワセリンなどで希
第2に皮疹の重症度に合致したランクの薬剤を適
釈してもステロイド剤の皮膚透過性が高まるため
切に使用しているかを確認しておくことが重要で
に必ずしも希釈した分だけ弱く安全とも言い切れ
す。その点で薬だけを投与し、皮疹をチェックし
ません。
ないのは不適切です。
くアトピー性皮膚炎の外用治療〉
第3に炎症を充分に抑えてからランクをさげる、
◆ステロイド外用剤
保湿剤に切り替えることが必要です。皮疹の改善
アトピー性皮膚炎の炎症をおさえることが科学
前に中止すると再燃することが多くみられます。
的に立証されている薬剤はステロイドとタクロリ
第4に外用のadherence/Complianceの問題があり
ムスです。ステロイドは病状に応じてランク、使
ます。患者は往々にして経過を経ると外用を「さ
用頻度を調節する必要があります。炎症がひどい
ぼる」傾向があります。処方薬の残量を確認し、
時には強力なステロイド剤を1日2回使用し、軽
適宜外用療法を指導、励ますことが必要です。
快と共にマイルドなステロイド剤に変更していき
第5に最も根本的な点ですが、診断が誤っていな
ます。また塗布回数も1日1回に減らしていきます。
いか再確認することです。リンパ種、Netherton
さらに炎症や拝みが弱い時には保湿剤を使用する
症候群、接触皮膚炎、魚鱗癖、膠原病また疹癖、
というように使い分けをします。ステロイド外用
細菌感染症、ウイルス性感染症の合併などを確実
剤はⅠ群(最強)∼Ⅴ群(弱)に分類されますが、
に見極めることが重要です。
顔、乳幼児などはⅠV,Ⅴ群を主体に使用します。塗
◆タクロリムス(プロトピック)
布回数については1日1回外用と2回外用で3週
通常はステロイド外用剤で症状を改善させ、そ
以降は効果は同等とされますので、副作用を勘案
の後の維持療法として用います。靡爛、潰瘍面で
すれば軽快し慢性期では1日1回使用が良いでし
は刺激が強いので用いません。また2歳未満では
ょう。副作用については血管拡張、皮膚萎縮、座瘡、
使用は不可ですし、妊婦、授乳中は使用禁止です。
多毛、感染し易くなるなどの局所の副作用は生じ
使用量の上限は5歳までは、1日1g、12歳までは
ますが、糖尿病、胃潰瘍、骨粗しょう症などの内
1日4gです。
−21−
全身的な副作用を考えると最重症時の一時的使
タクロリムスの発癌リスクについては現在「リン
パ腫や皮膚癌の発生率は自然発生率を超えるもの
用など特別な場合を除き、極力避けるべきです。
ではない」とされています。最近同剤による酒さ
ステロイドと抗ヒスタミン薬の合剤(セレスタミ
様皮膚炎の報告もみられますので、酒さ、ざ瘡、
ン)が抗アレルギー剤として長期間漫然と使用さ
単純ヘルペスなどの副作用の発生には注意が必要
れている例もあり厳に慎むべきです。含まれてい
です。
るのはべタメサゾンでプレドニゾロンより副腎機
◆保湿剤
能抑制をきたし易いステロイド剤であり、患者が
保湿剤は炎症の再燃を予防し、乾燥、バリア
それを知らされないまま使用されていることもあ
機能の低下を補完するのに重要です。ただし、こ
り注意が必要です。
れのみでは痔み、炎症を抑える効果はないこと
◆シクロスポリン
は患者に周知する必要があります。
2008年からADに対する適用が追加されました。
使用の際のアドバイス
但し、適用になるのは既存治療に抵抗する成人例
*塗布量 FTU(finger−tip unit)=0.5gで手2
で、特に痔疹結節を主体とする重症難治例に有効
枚分、体表面積の2%を塗るのが標準的と
とされます。使用に際し、8週間、長くても12
されます。保湿剤の場合はこれより多め
週間の使用期間、その後の休薬期間などの使用指
に付けても良いとされます。実際では皮膚
針を遵守すること、ADの診断を確実に行うこと
がやや外用剤でてかる程度、あるいはティ
が必要です。
ッシュが付いて落ちない程度です。
◆漢方薬
*塗布回数 原則1日2回ですが、軽快すれ
標準的治療のみで改善しない例を対象としま
ば漸減、あるいは間欠投与します。
す。補中益気湯は二重盲検試験でステロイド外用
*お風呂上がり15分以内で皮膚が乾燥してし
薬の量を軽減できることが報告されています。有
まう前に保湿剤を塗布することが推奨されま
効とされる薬剤は多岐に亘りますが、漢方薬にも
す。
副作用がありますので皮膚科、漢方に通暁してい
*狭い部分は指で、広い面積は手のひらで塗
る医師の使用が望まれます。
布する、また皮溝(しわ)の部分は塗り残
3.紫外線療法
すことが多いので、しわに平行に塗り残さ
ADにおける有用な付加的治療法のひとつであ
ないように塗布することが必要です。
り、以前はPUVA療法、最近ではnarrow band
*保湿剤の種類はいろいろありますが、保護
UVB,UVAl療法が、既存の外用療法などに抵抗性
者、患児が気に入って持続できるものが良
の症例に用いられ、有用性が示されています。但
いでしょう。
し、明確な有効性、適応が確率された療法とはい
2.内服療法
えず、また紫外線により逆に増悪する症例もあり
◆抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬
ますので、光線の機序、機器に習熟した医師の管
抗アレルギー薬には、抗ヒスタミン作用主体の
理下に行われるべき療法といえます。
4.食事療法
抗ヒスタミン薬と、それ以外の化学伝達物質遊離
抑制を主体とするものがあります。アトピー性皮
乳児の食物アレルギー(FA)とアトピー性皮膚
膚炎ではitch−SCratCh cycleによって慢性化、難
炎(AD)が合併していることが多いのは事実です
治化するので痺みのコントロールが重要です。抗
が、FAによってADの湿疹が誘発されるか否かに
ヒスタミン剤は拝み抑制効果があり、特に第2世
ついては以前より皮膚科医と小児アレルギー専門
代は眠気が少ないため推奨されます。揮い時だ
医との間で議論があり、現在も結論には至ってい
け飲むよりも持続的に内服するほうが効果的で
ません。食事制限を実施する際は、特異的IgE抗
す。
体などの検査のみに頼らず即時型反応でなければ
◆ステロイド内服薬
複数回再現性を確認してから因果関係を確認する
…22−
3)手足部水癌性膿皮症
必要性があります。可能であれば盲検試験を行う
と客観的な結果が得られます。食物負荷試験は入
黄色ブドウ球菌によるものと化膿レンサ球菌に
院施設のある専門の医師のもとで行うことが望ま
ょるものがあります。手掌、足底は角層が厚いた
れます。乳児期発症のFAは小学校入学前に80∼
めに明瞭な水癌、膿癌となります。
90%程度の耐性獲得が期待できます。
【治療】軽症ではフシジンレオ軟膏、アクロマイシ
ン軟膏、アクアチム軟膏などを外用し、磨欄、湿
潤部は亜鉛華軟膏などを貼付しガーゼで覆います。
上記の薬物療法が治療の主体になりますが、同
時にスキンケア、住環境の整備と悪化因子の除去
ゲンタマイシンは黄色ブ菌に対してはほぼ抵抗性
も重要です。
であり感作の可能性もありますので使用しないほ
うがよいでしょう。ただ、最近フシジンレオ軟膏
に対する耐性菌の増加も指摘されています。広範
Ⅱ 細菌感染症
囲ではセフェム系の抗生剤内服、レンサ球菌性
膿痴疹ではペニシリン系抗生剤の内服が第一選択
細菌性皮膚疾患は、臨床病型と経過によって急
性型・慢性型、表在性・深在性、全身性などに分
になりますが、最低10日間は治療を続けます。
類されますが、小児に日常的にみられるもの、重
MRSA(methicillin−reSistant Staphylococcus
要な疾患について述べます。
aureus)ではβラクタム系薬とホスホマイシンの
併用、あるいはミノサイクリンが有効な場合が多
くみられます。但し、ミノサイクリンはエナメル
(1)伝染性膿痴疹
質形成不全や骨発育不全を起こす危険性があるた
化膿球菌による皮膚付属器に無関係な皮膚表在
性の感染症で、俗に「とびひ」といい、水癌性膿
め原則として8歳未満には使用できませんので、
痴疹と痴皮性膿痴疹に分けられます。
使用の際は保護者によく周知、説明する必要があ
1)水癌性膿痴疹
ります。
黄色ブドウ球菌の感染により、乳幼児、小児に
患者への指導、注意:泡立てた石鹸でそっと
初夏から真夏に多く発症します。虫刺されや汗疹
丁寧に洗い、シャワーで洗い流します。兄弟がい
(あせも)を掻破したり、アトピー性皮膚炎を掻破
る場合は患児は後にします。洗い流した後は、溶
したりして感染し発症することも多くみられます。
出液が周囲に接触しないように、ガーゼ等の保
鼻、口、四肢などの露光部に好発し、表皮剥奪毒
護が必要です。爪は短く切っておくこと、鼻前
素(exfoliative toxin‥ET)を産生し角層下に水
庭は細菌の温床ですので鼻孔をいじらないように
痘を生じ、次第に膿胞化します。周囲には潮紅が
します。消毒薬の使用は皮膚への細胞障害もあり
みられます。外力で容易に破れ、靡爛となります。
ほとんど意味がありません。また近年創傷治癒に
靡欄は辺縁に水癌を形成しながら遠心性に拡大し
m。ist w。und healingの概念が浸透し、「とびひ、
ます。乾燥すると痴皮、鱗屑を形成します。
感染擦過創」にポリウレタンフイルム、傷パッド
2)痴皮性膿痴疹
などの被覆材が使用されるケースを散見しますが、
A群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)に
この療法は細菌感染症では禁忌ですので注意が必
より発症します。季節にはあまり関係なくアトピ
要です。病変部をガーゼ・包帯等で覆っていれば
ー性皮膚炎に合併し易く、小児より成人に多くみ
登校、登園は可能ですが、広範囲の場合や全身症
られます。大水癌になることは無く、紅斑、膿胞、
状があるときは出席停止とします。
靡爛、厚い黄褐色の痴皮を形成し、潮紅・浮腫を
(2)せつ(癖)よう(癖)
伴って痺痛があります。重症になると狸紅熱のよ
うに全身に潮紅、発熱を伴うこともあります。菌
癖は1つの毛包を中心とした黄色ブドウ球菌に
の産生する腎毒素によって稀に腎障害を併発する
ょる深在性膿皮症で、有痛性の毛包一致性の紅色
ことがあります。
丘疹として始まり、やがて毛包を取り囲む膿瘍が
−23−
形成されます。紅色腫脹となり、軟化すると膿点
主としてA群β溶血性レンサ球菌によりますが、
から排膿します。小児には比較的少ないです。癖
黄色ブ菌でも同様の症状をきたします。発熱、頭
はより深部から始まり複数の毛包を侵します。項、
痛などを伴って突然発症します。顔面、下肢に好
肩、腎部などに好発し鈍痛のある皮下硬結、紅色
発します。紅斑の境界は鮮明で圧痛、灼熱感があ
腫脹となります。複数の膿点を生じ排膿します。
ります。外傷から続発することもありますが、侵
糖尿病などの基礎疾患がみられることもあります。
入門戸が不明なことも多いです。なお蜂蕎織炎は
【治療】黄色ブ菌に有効な抗生剤を内服、外用しま
真皮深層から皮下脂肪織を病変の場とするので境
す。膿瘍化し軟化したら切開・排膿します。但し、
界は不鮮明となり深い浸潤を触れます。
顔面の療(面庁)では頭蓋に近いために不用意な
【治療】ペニシリン系の抗菌薬が第一選択ですが、
切開、穿刺は行わないようにします。
セフェム系やニューマクロライド系抗菌薬も有効
です。腎炎併発や再発予防のために最低10日間の
(3)乳児多発性汗腺膿瘍
投与を継続します。
エクリン汗腺を中心とした膿瘍で新生児・乳幼
児にみられます。いわゆる「あせものより」です。
(6)全身性感染症
浅在性の化膿性汗孔周囲炎と混在します。汗疹(あ
1)遠隔病変で増殖した細菌の産生する毒素に
せも)に黄色ブ菌が感染し浅在性ないし深在性病
よるもの、2)皮膚局所病変が強い全身症状を伴
変になると考えられています。頭部、顔面、背部
うもの(壊死性筋膜炎など)、3)敗血症の皮膚病
に好発し有痛性丘疹、膿癌から大豆大以上の結節、
変 に分けられます。
隆起を生じます。
(6)−1ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
【治療】黄色プ菌に有効な抗生剤の内服・外用を
(Staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)
します。予防として涼しい住環境、吸湿性の良い
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥奪毒素(ET)が
下着、シャワー等で皮膚を清潔に保つことが推奨
血流を介して全身皮膚に到達し、表皮の頼粒層に
されます。
裂隙を形成します。鼻、口囲、眼園に紅斑、痴皮、
水痘を生じ眼脂がみられます。腋寓,鼠径部さ
(4)急性爪囲炎と療症
らに全身に潮紅が拡大し、表皮がシート状に剥離
急性爪囲炎は爪園の微小外傷(さか爪、陥入爪、
し、浅在性熱傷様となります。諸所に水痘を形成
刺爪など)を誘因として痺痛を伴って爪園に発赤
してきます。表皮は摩擦により容易に剥離します
と腫脹が生じます。浅在性のものは表面から薄い
(NikoIsky現象)。約1週間で極期に達しやがて落
膿汁が見えます。深在性になると爪囲全体から指
葉状に落屑が始まります。最近はMRSA(methicill
尖に潮紅が及びます。療症は刺傷、爪甲下膿瘍、
inrresistant Staphylococcus aureus)によるも
爪囲炎から続発し、指尖球部の禰漫性発赤、腫脹
のが多くみられます。
をきたし、激しい痺痛を伴います。排膿が起きに
【治療】原則として入院加療を行います。補液など
くいために指尖球部の壊死、まれに骨の壊死を起
全身管理を行いつつ黄色ブ菌に有効な抗菌剤を多
こします。
めに使用します。
【治療】黄色ブ菌、化膿レンサ球菌を念頭に置き
(6)L2毒素性ショック症候群(Toxic shock
抗生剤を選択します。緑膿菌、大腸菌によること
syndrome:TSS)
もあります。膿瘍が明確になれば正しい切開線に
突然の高熱、悪心、下痢、筋肉痛、関節痛など
そって切開・排膿します。
で発症します。全身に日焼け様、狸紅熱様の禰慢
性紅斑を生じ、消化器症状、肝臓・腎臓障害など
の多臓器障害を合併します。黄色ブドウ球菌の増
(5)丹毒
真皮レベルを水平方向に急速に拡大する浮腫性
殖する部位があり、そこで産生するTSS toxin−1
紅斑と腫脹を特徴とする急性深在性膿皮症です。
やェンテロトキシンによります。外傷、熱傷、敗
−24−
ウマチ熱などの続発性疾患に注意が必要です。
血症、MRSA腸炎、月経時のタンポン、鼻につめた
綿などが病巣になります。
おわりに
(6)−3 毒素性ショ ック様症候群(ToxIc
shock−1ike syndrome:TSLS)
化膿レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌)に
小児科の先生方から、小児皮膚疾患をどこまで
よる重症感染症です。外傷、咽頭炎などが先行す
診ればよいかとの質問を受けますが、個人的には
ることもありますが健常者を突然襲うこともあり
明確な基準はないと思います。専門分野、得手・
ます。狸紅熱の皮膚症状を呈し、かなりの頻度で
不得手もありますし、責任の持てる範囲で診療に
壊死性筋膜炎を伴います。ショック、多臓器不全、
当たればよいかと考えます。但し、本文中にも述
凝固異常(DIC)をきたします。これらの症状が揃
べましたように各疾患にそれぞれのピットフォー
い診断基準にあえば劇症型A群レンサ球菌感染症
ルがあります。軽快せず自信の持てない時、何か
となります。全身症状はレンサ球菌性発熱性外毒
変だなと感じた時には専門医に相談するのが良い
素によります。
かと思います。これは同時に我々皮膚科医にも言
(6)一4 壊死性筋膜炎
える事で互いに連絡を取り合うことが大切と思わ
れます。
浅在性筋膜(皮下組織)を主病変として、深在
性筋膜上を急速に水平方向へ拡大する重症細菌感
参考文献
染症です。化膿レンサ球菌単独感染型と嫌気性菌
および腸内細菌感染型があります。一肢に発症す
ることが多く、患部の激痛、浮腫性腫脹、潮紅で
標準皮膚科学 第8版 監修 西川武二、医学書
始まります。急速に進行し患部に水癌、紫斑、潰
院、2007
瘍、壊死を生じます。全身症状も著明となり、高熱、
筋肉痛、関節痛、血圧低下、多臓器障害など上記
小児科臨床ピクシス 7
の毒素性ショック症候群の症状を呈することもあ
アトピー性皮膚炎と皮膚疾患 総編集 五十嵐
ります。
隆、専門編集 大矢幸弘、馬場直子、中山書店、
【治療】これらの重症全身感染症では入院の上、全
2009
身管理、デブリドマン、抗生剤の大量投与など早
期に適切な治療を行わないと予後不良となります。
皮膚科の臨床 Vol.51.No.11特集:49、2009
(6)−5 才星紅熱
日常診療に役立つ皮膚科最新情報
化膿レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌)の
発生するレンサ球菌性発熱性外毒素により発疹が
生じます。咽頭炎、皮膚感染症が先行し、通常2
日以内に発疹が始まります。高熱、頭痛、嘔吐な
どを伴います。紅斑は頸部、腋喬、上半身から全
身に拡大していきます。潮漫性の紅斑の上には点
状丘疹が多発します。顔は禰漫性の潮紅と口囲蒼
白が特徴です。白色苺状舌を呈しますが、白苔が
とれると赤色苺状舌となります。皮疹は3∼10日
で落屑を伴って軽快していきます。最後に手足に
膜様の落屑を生じます。
【治療】ペニシリン系の抗菌薬が第一選択ですが、
セフェム系やニューマクロライド系抗菌薬も有効
です。最低10日間の投与を継続します。腎炎、リ
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