歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 II,歯科放射線学 全身疾患の画像診断(顎骨に影響する全身疾患) 担当:林 孝文 ・全身系統疾患が歯や顎骨に変化をもたらす場合がある。具体的な口腔所見やエックス線所見としては 以下が挙げられる。 ① 歯の形成・発育の促進や遅延 ② 歯の萌出の促進や遅延 ③ 歯質や歯髄の欠如・形態の変化 ④ 歯の欠如や過剰歯の発現 ⑤ 歯根膜腔・歯槽硬線および歯槽骨梁の変化 ⑥ 骨密度の変化 ⑦ 骨形態の変化 ⑧ 骨疾患の発現 1)代謝・内分泌疾患 (1)くる病 rickets・骨軟化症 osteomalacia ・ビタミン D の欠乏や代謝障害により生じる骨の石灰化障害 ・小児に生じ成長障害をきたしたものをくる病、成人に生じた場合を骨軟化症という ・乳幼児では歯の形成障害、エナメル質形成不全がみられる ・ビタミン D 欠乏性くる病では象牙質発育が遅延し、歯髄腔と根管が広くなる ・成人では歯槽硬線や骨梁が菲薄化あるいは消失する A. 腎性骨異栄養症(腎性くる病)renal osteodystrophy ・慢性腎不全に伴う変化の総称であり、二次性副甲状腺機能亢進症が関係する B. 低リン酸酵素症(低フォスファターゼ症)hypophosphatasia ・乳歯の早期脱落 (2)副甲状腺機能異常 A. 副甲状腺機能亢進症 hyperparathyroidism ・歯槽硬線の消失、下顎管壁・上顎洞底線の消失、骨梁のレース様変化 B. 副甲状腺機能低下症 hypoparathyroidism ・エナメル質の減形成、歯根の外部吸収、萌出遅延 (3)甲状腺機能異常 A. 甲状腺機能亢進症 hyperthyroidism ・バセドウ病 ・歯の発育促進と早期萌出、骨塩量の低下 B. 甲状腺機能低下症 hypothyroidism ・クレチン病 ・歯の発育と萌出遅延、顎骨の発達不良 1 (4)副腎機能異常 A. 副腎性器症候群 ・歯の発育と萌出の促進 B. クッシング症候群 ・顎骨の皮質骨は菲薄化し海綿骨は骨梁が不規則な網目状となる(骨粗鬆症) C. 過コルチゾン症 (5)下垂体機能異常 A. 下垂体機能亢進症 hyperpituitarism ・下垂体の腫瘍や過形成→クッシング症候群 ・巨人症 gigantism・先端巨大症 acromegaly ・特に先端巨大症で下顎の水平方向への肥大、下顎枝の肥大、上下顎骨の歯槽の厚さと高さの増大、歯 間離開と開咬、下顎角の直線状、下顎下縁の湾曲、下顎管の拡大など B. 下垂体機能低下症 hypopituitarism ・顎骨は小さいが歯の大きさは正常 ・歯の萌出と完成が遅延 (6)糖尿病 (7)生殖腺機能異常 A. 早期性思春期症(生殖腺機能亢進症) B. 晩発性思春期症 (8)骨粗鬆症 ・骨基質と骨ミネラルの比率が変化することなく骨量が減少し骨の脆弱さが進行した状態 ・低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し骨折の危険性が増大する疾患(WHO) ・骨形成速度よりも骨吸収速度が上回ることで骨量の低下をきたす ・下顎骨基底部の皮質骨では、内側面の骨吸収による不整化と内部の粗鬆化により厚みが減少する 2)先天性遺伝性疾患 (1)鎖骨頭蓋骨異形成症(鎖骨頭蓋異骨症)cleidocranial dysostosis ・泉門開存・鎖骨欠損、乳歯の晩期残存、埋伏歯と過剰埋伏歯の混在など (2)大理石骨病 osteopetrosis ・破骨細胞の機能異常により引き起こされる先天性疾患 ・顎骨では歯槽硬線と下顎管壁の肥厚がみられ、進行すると歯槽硬線は硬化した骨と区別つかなくなる (3)McCune-Albright 症候群(多骨性線維性異形成症) (4)骨形成不全症 osteogenesis imperfect ・皮質骨の菲薄化、象牙質形成不全 (5)下顎顔面異骨症(Treacher Collins 症候群) →(参考)第一第二鰓弓症候群(Goldenhar 症候群を含む) (6)頭蓋顔面異骨症(Crouzon 病)craniofacial dysostosis, Crouzon’s disease (7)口腔・顔面・指趾症候群 oral-facial-digital syndrome; OFD syndrome 2 (8)Apert 症候群 Apert’s syndrome (9)基底細胞母斑症候群 basal cell nevus syndrome, Gorlin-Goltz 症候群 ・多発性顎嚢胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍) (10)家族性大腸ポリープ症(Gardner 症候群) ・多発性骨腫 (11)Pierre Robin 症候群 Pierre Robin syndrome(Pierre Robin シークエンス) ・小下顎症とそれに伴う舌根沈下、気道閉塞 (12)Papillon-Lefèvre 症候群 ・高度の歯周炎によって歯槽骨に著明な吸収が生じ、歯が早期に脱落する (13)von Recklinghausen 病(神経線維腫症, neurofibromatosis) ・神経線維腫が下顎管内に生じる場合がある (14)外胚葉異形成症 ectodermal dysplasia ・部分無歯症あるいは完全無歯症 (15)軟骨形成不全 ・歯の萌出遅延、埋伏歯、歯の形態異常、下顎骨の発育不全 (16)ガーゴイリズム gargoylism・Hurler 症候群 Hurler syndrome ・歯の転位、歯間離開、萌出位置・方向の異常 (17)Down 症候群 Down syndrome(21 トリソミー症候群) ・開咬、大きな舌、上顎切歯の形成不全や欠如、前歯部の辺縁性歯周炎など (18)ピクノディスオストーシス pyknodysostosis ・骨硬化や下顎角の扁平化 (19)プロゲリア(早老症)progeria ・オトガイの後退、咬合異常、歯の萌出遅延 3)血液疾患と感染性疾患 (1)白血病 (2)血友病 (3)鎌状赤血球貧血 (4)梅毒 ・ハッチンソン歯(上顎中切歯の変形) (5)結核 2015/1/6 版 3
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