平成19 年度 愛知学院大学大学院 法務研究科 入学試験問題

平成19 年度
愛知学院大学大学院
法務研究科
(法科大学院)
入学試験問題
2次試験
·······································1∼5頁
法学既修者認定試験
························6∼22頁
2次試験
A 日程入試
日進(平成 18 年 9 月 9 日・10 日実施)
栄 (平成 18 年 9 月 16 日・17 日実施)
B 日程入試
(平成 19 年 2 月 17 日・18 日実施)
(1)小論文 …… 2∼3頁
1000 字程度。法学知識を問うものではなく、論旨の一貫性、問題の把握力、
表現能力、文章力等をとおして法的思考能力の素質を判定します。
(2)グループ討論試験
……
4∼5頁
受験者を A、B のグループに分け、与えられたテーマにもとづき、A グループ
は A の、B グループは B の立場に立って議論を展開させて行います。
1グループ 30 分程度。表現能力、論理性、即断力等を含めたディベート能力
とバランス感覚に優れた人物であるかどうかを判断します。
(3)個人面接試験 ……質問事項は記載されていません。
1 人 15 分程度。志望の動機、活動実績、社会人経験の生かし方、入学後の目
標等の自己アピールをとおして、本学法科大学院の想定する法曹像に合致して
いるか否かを判断します。
-1-
小論文
【A日程】
(日進)
【問題】次の文章は、ルース・ベネディクトが1939年に著した『Race: Science and Politics』
の翻訳『人種主義その批判的考察』
(筒井清忠ほか訳、名古屋大学出版会、1997)185−1
88頁である。彼女は日本では、つとに、『菊と刀』(長谷川松治訳、講談社、2005、最初の
翻訳は1948年に出版された)(原著:The Chrysanthemum and the Sword-Patterns of
Japanese Culture, Boston, 1946)で知られるが、1939年当時徐々にナチ人種主義の恐怖が
ヨーロッパ社会を覆いつつあるなかで、科学者としての社会的責任を果たすために本書を書いた。
彼女によると、
「人種主義は、本質的に自分が『最良の民』の一員だ、ということを述べるための
一つの方便である。自分がそうだと思いこもうとするとき、人種主義は今までに発見されたもの
のなかで、もっとも満足できる言いまわしなのである」
(同117頁)
。
次の文章を読み、要旨を400字程度でまとめ、世界で起きた最近の事件などに触れつつあな
たの自身の考えを、600字程度で述べなさい。
[文章略]
【A日程】
(栄)
【問題】今年の芸術選奨文部科学大臣賞(以下、「本件」という。)に関する以下の文章1および
文章2を読み、①∼③の問いに答えなさい。
① 本件における画家と美術評論家との不可解な構図を解明しなさい。(字数は300字程度)
② 本件に関わったすべての人々について、それぞれの責任の所在とどのように責任を取るべき
かについて述べなさい。なお、法律上の議論を問うものではない。(字数は500字程度)
③ 本件における「和をもって貴しとなす」とは、どういうことか説明しなさい。
(字数は200
字程度)
なお、各文章とも、本文以外はすべて削除し、本件関係者の一部を匿名にした。また、
「たきてい
ぞう」氏については「瀧悌三」氏に統一した。
[文章略]
-2-
小論文
【B日程】
【問題】
昨年、夫の精子とアジア系米国人女性の提供にかかる卵子とを用いて体外受精をして、受精卵を
別の女性の子宮に着床させて出産させる例や夫婦の精子と卵子を体外受精をしてそれを妻の母親
の子宮に着床させ、出産させたと言うニュースが話題を呼びました。あなたはこの代理母出産に
賛成しますか。別添資料を参考にして、賛否を理由を付けて明らかにするとともに、反対説から
の予想される批判にも答えなさい。なお、○○○の場合に限って肯定/否定するというように条
件を付けてもかまいませんが、そのときは、なぜその条件をつけるかも説明しなさい。
注意:親子関係の確認の方法など、法律論にわたる点は論点としないこと。
[文章略]
-3-
グループ討論
【A日程】
(日進)
問題
現在、日本においては、自動車は道路左側を走行するべきこととされている。しかし、周
辺諸国でも欧米でも主流は右側走行であり、左側走行は英国等の一部の国に留まるのが現状
である。そこで、自動車走行に関する今後の日本の政策は如何にあるべきか。
A意見:日本も右側走行に変更するべきである。
B意見:日本は左側走行を維持するべきである。
問題
現在、日本においては、自転車は車両の一種とされ、歩道・車道の区別があって自転車専
用車線のない道路では、車道を走行するべきこととされているので、低速の自転車も高速の
自動車と同じ車線を走行することになる。しかし、例外的に自転車の歩道走行が許されてい
る道路もあり、このような道路では歩行者の間をすりぬけて自転車が走行することがある。
どちらの場合も危険性が指摘されているが、車道・歩道の区別があって自転車専用車線(歩
道上に自転車走行場所の区分表示があるものを含む)のない道路における自転車走行場所は、
どこであるべきか。
A意見:車道を走行するべきものとする。
B意見:歩道を走行するべきものとする。
【A日程】
(栄)
問題 某市役所で、
「一般行政職」職員新規採用試験の出願資格の中に、「来年 4 月 1 日現在 18
歳以上 26 歳未満である者」という項目がある。この年齢上限設定の当否に関しては、市役所
や市議会でも議論がある。
A意見:26 歳以上の者にも出願資格を認めることが適切であり、26 歳未満という年齢制限は妥
当でない。
B意見:現行の年齢制限に特に問題はなく、26 歳未満という年齢制限は妥当である。
問題
ある公立の中学校で、生徒に通学時の制服着用を義務付けている。この学区では、年度途
中でも転入・転出が多く、転校に伴う制服の変更に不満を抱く者も少なくない。この学校を
含めて一般的に、公立中学校で生徒に制服着用を義務付けることに、意義があるだろうか。
A意見:公立中学校で制服着用を義務付けることには、意義がある。
B意見:公立中学校で制服着用を義務付けることには、意義がない。
-4-
グループ討論
【B日程】
さん こつ
問題
近年、遺骨を粉末にして海上や空中で撒布する「撒骨」(
「散骨」と表記することが多い)
という葬法を行う人が増加しており、この方法の葬儀を用意する葬儀業者もある。しかし、
この葬法に反対する意見もあり、撒布した遺骨の一部が地上で発見されて紛争になった例も
ある。
法令上、伝統的な土葬・火葬・水葬の 3 種類について実施の条件や場所等に関する罰則付
き規制はあるが、これらの葬法自体を許容する規定はない。他の葬法については、許否も規
制も規定がない。刑法には死体損壊・遺棄・領得罪の規定があるが、犯罪行為と適法な葬法
との区別基準の規定はなく、法務省や厚生労働省は撒骨を事実上黙認している。撒骨に対し
てどのように対応するべきか。
A意見:法令で撒骨を禁止するべきである。
B意見:法令で撒骨を許容するべきである。
問題 先天性疾患などのため、全国で年間 3000 人余りの乳幼児が、生後 1 年未満で死亡してい
る。救命・生育の可能性が全く存在せず、どのような措置を施しても短期間のうちに死亡す
ることの確実な乳幼児に対して、延命のための措置を講じるべきか否か、関係者間に意見の
対立がある。下記A意見・B意見のうち、いずれを採用するべきか。
A意見:積極的に延命措置を講じるべきである。
B意見:延命措置を講じるべきではなく、安らかな最期を迎えさせるべきである。
-5-
法学既修者認定試験
A 日程入試(平成 18 年 9 月 30 日・10 月 1 日実施)
B 日程入試(平成 19 年 3 月 3 日・4 日実施)
※ 貸与の六法のみ参照可
民法 ······························ 7∼10頁
憲法 ······························ 11∼12頁
行政法 ··························· 13∼14頁
商法 ······························ 15∼16頁
民事訴訟法 ····················· 17∼18頁
刑法 ······························ 19∼20頁
刑事訴訟法 ····················· 21∼22頁
-6-
民法
【A 日程】
【第一問】
あなたは D さんから相談を受けた。彼の話の内容は以下の通りである。あな
たは、D さんの契約締結に関して留意すべき点を指摘してあげなさい。
妻死亡後近所の援助の下で一人生活してきた父親 A の認知症が進行し、この
まま一人暮らしを続けると事故が生じる危険が大きいと近所の人から注意があ
った。父親を引き取ることは子 BC とも困難なので,A を有料老人ホームに入所
させたい。そのための 資金を確保する意味もあって,A 所有家屋とその敷地を
売りたい。そこで D に買ってくれないかとその長男 B から依頼を受けた。
-7-
【第二問】
Aはアパートを建築してこれをBはじめ数人に賃貸した。賃貸期間は一応2年
としてあったが、期間満了後も、賃借人の側で退去を希望しない限り、引き続
き賃貸借が継続されることが予定されていた。Aはこのアパートの建設資金を
C銀行から借り、かつその借り入れについてC銀行系列のD信用保証会社に連
帯保証人となることを委託し、Dのために、この建物に将来の求償権の担保の
ため、Dを抵当権者とする抵当権を設定した。この抵当権は、AがBらに賃貸
した各室を引き渡す前に設定・登記されていたが、Bらは入居にさいしてこの
建物には抵当権がついていることを知らされていなかった。また、このアパー
トの建物については、Dのほかには抵当権者その他物的担保を有するものはい
ない。
アパートの各室がBらに引き渡されてから3年後、AはC銀行への借り入れ
金返済ができなくなり、D会社はAの保証人としてC銀行に対し残債務の全額
を支払った。
(1)D会社はこの弁済についての求償権の行使のため、Aのアパートに設定
された抵当権を実行しようとしたが、建物に賃借人がいては競売価格が下がる
と考え、抵当権の実行に先立って、Bらアパートの入居者に立ち退きを求めた。
Bらは、D会社の要求に従ってこのアパートを退去しなければならないか。
(2)Bらが入居したまま競売手続が進行し、Eが買受人となって、Eは競売
代金を支払い、移転登記を受けて、Bらにたいし明け渡しを求めた。これに対
してBらはどのような主張をすることができるか。
なお解答にあたっては、現行法を前提とすること。
-8-
民法
【B 日程】
【第一問】
以下のような話をYがしました。Yは立替金を支払わなければならないかをアドバイスしなさい。
私の家内AがB販売店との間で結んだ売買契約につき,Xから立替金の請求を受けています。Xは,割賦販売
あっせんを目的とする会社です。
家内は,平成 10 年5月 31 日,Xとの間で,家内名義で,次のような内容の立替金契約を結びました。
(1)Aは,Xに対し,子供のための学習用教材(以下「本件教材」という。
)の購入代金をB販売店へ一括立替
払いすることを委託する。
(2)Aは,Xに対し,立替金 52 万 6000 円に手数料 19 万 8828 円を加算した合計額 72 万 4828 円を平成 10 年7
月から平成 15 年6月まで 60 回に分割して,毎月 27 日限り1万 2000 円を支払う(ただし,初回は1万 6828 円)
。
(3)Aが,最終約定日を経過しても右分割金の支払いをしなかった場合,又は,Xから 20 日以上の期間を定め
た書面により支払いを催告されたにもかかわらず,その期間内に履行しなかった場合,Aは,期限の利益を失う。
(4)遅延損害金は,年6分とする。
書類によると,Xは,平成 10 年6月4日,B販売店に対し,前記代金を立替払いした,とあります。家内は,
4万 9511 円を支払っています。
私(昭和 24 年8月 25 日生)は家内(昭和 28 年 4 月 5 日生)と昭和 52 年1月 22 日に結婚し,昭和 53 年に長
男,同 54 年に長女,同 58 年に二女を儲けました。我々夫婦は,結婚後,私の両親と同居し,農業を手伝い,両
親から受け取る生活費でやりくりしてきましたが,昭和 59 年,私が農作業中怪我をし,家内は,初めて貸金業者
から 20 万円を借り入れ,その返済のために新たな借入れに頼るといった状態です。平成7年に父が亡くなり,そ
の後も農業を続けましたが,平成9年に農業をやめ,夫婦ともども働きに出ることにしました。本件契約締結当
時,借入額は,夫婦あわせて約 300 万円程度になっていました。
私は,この契約が結ばれたころ,C舗道に勤務し,月収は手取りで約 12 万円,ボーナスは 1,2 万円程度で,
そのほか新聞配達のアルバイトから月約5万円の収入がありました。家内には,パート収入が月 7,8 万円程度あ
りました。私の資産は,現在夫婦が居住している建物とその敷地,農地等ですが,遺産分割はされておらず,父
名義のままです。
一家の生活費は主に家内の収入で賄い,私の収入は借金の返済や家族三人が利用する車のローンの返済に廻し
ていました。長男長女が生活費等に協力する状況にはありません。家内は,平成 11 年 9 月 7 日ころ,自己破産申
立てをし,同年 11 月 24 日同時廃止決定がなされ,破産者となり,平成 12 年4月7日免責決定を受けました。
私は中卒,家内が女子高卒,長男が中卒,長女が農業高校卒であり,次女は,現在,定時制高校に通っています。
この契約が結ばれたころ,次女は,中学3年で,その中学校は,郡部に在り,進学熱が高いということはありま
せんでしたし,我々夫婦は子供の進学について本人に任せていました。
問題の教材は,高校受験用教材で,平成 10 年5月 31 日午後8時ころ,初対面の販売員2人が私宅を訪れ販売
し,家内が対応しました。当時,私は仕事疲れで既に就寝していましたので,私を起こし相談することはありま
せんでした。次女は,話の中途に帰宅したので確認したところ,特に購入を希望しなかったのですが,家内は,
買ってやりたい気持ちと夜遅く販売員も帰らないので,購入もやむを得ないという気持ちの中で,午後 11 時前後
に契約書に署名押印をしたようです。家内は,購入したことを私に話すと叱られると思い,私には購入したこと
を告げず,私が購入を知ったのは家内が破産を申し立てた後でした。次女は,この教材を使用しませんでした。
-9-
【第二問】
(1)連帯債務と連帯保証とは、どこが同じでどこが違うかを述べなさい。
(2)連帯債務といわゆる不真正連帯債務とは、どこが同じでどこが違うかを述べなさい。
- 10 -
憲法
【A 日程】
次の見解に含まれる憲法上の問題点について論じなさい。
「衆議院の解散については、その決定権がどこに帰属するかについて、憲法に
は明文の規定がない。ところで、内閣が行使する権能には様々なものがあって、
それらをすべて『行政』という概念で包摂することはできない。『行政』が法
の執行という作用を指すのに対して、より高次な作用(たとえば、外交関係の
処理、予算・法律案の作成、国家基本政策の策定等)については、『執政』概
念を当てるべきである。そのような作用としては他に国家機関相互の関係の処
理があり、これらには憲法上、国会の臨時会の召集決定(第 53 条)や最高裁判
所の長たる裁判官の指名(第 6 条)、及び他の裁判官の任命(第 79 条、80 条)
などがある。衆議院の解散権も、この執政作用に属するものとして、内閣に帰
属する。」
- 11 -
憲法
【B 日程】
旅館業法は、旅館の営業許可については知事の権限とし、知事は以下の場合でなければ
許可しなければならないと定めている。すなわち「その申請に係る施設の構造設備が政令
で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当である
と認めるとき」
、そしてその施設が学校や児童福祉施設の敷地のおおむね 100 メートル以内
にあって、
「その設置によって当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると
認めるとき」である。また、建築基準法は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する
最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進
に資することを目的とする」
(同法 1 条)であるが、この最低基準を満たせば、都道府県の
建築主事もしくは市町村が設置する建築主事(25 万人以上の市は必ずおかなければならな
いが、それ以下の市町村は任意。建築主事の置かれていない市町村については都道府県の
建築主事が当該行政を行う。
)の建築確認を受けて、建物を建てることができるようになっ
ている(最近では、国土交通大臣等による指定を受けた民間業者による建築確認も行われ
ている)
。さらに、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)によれば、
「専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。
)の用に供する政
令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、
当該施設を当該宿泊に利用させる営業」は、都道府県公安委員会に届出をしなければなら
ないとされている。
そこで、建築主事を置かない町が、町の純良な風俗や美観を維持するために、上記風営
法の規定には当てはまらないが、類似の営業を営む、いわゆるモーテル類似営業ないしラ
ブ・ホテルをその町に立地させないために、
「ラブ・ホテルのような外観及び客室の構造を
持つ建築物を建てようとする者は、町長の同意を得なければならない」とする条例を制定
することは憲法上可能か。その憲法上の論点について論じなさい。
- 12 -
行政法
【A 日程】
行政処分の取消し・撤回について、以下の問いに答えなさい。
(1)行政処分の取消し・撤回の「概念」
(2)行政処分の取消し・撤回をめぐる「法理」
(3)行政処分の取消し・撤回の「制限」
- 13 -
行政法
【B日程】
「行政行為の撤回」の法理について、以下の最高裁判例を参考に整理しなさい。
最判昭和63年6月17日 ―――菊田医師赤ちゃん斡旋事件
[事実]産婦人科医Xは、優生保護法(現在の母体保護法)14 条に基づき妊娠中絶手術のできる
医師として指定され、2 年ごとに更新を受けてきた。しかしXは、違法な中絶手術を望む妊婦を
説得して出産させ、産まれた子を赤ちゃんのできない別の夫婦に斡旋(あっせん)し、その戸籍
上の実子として届出できるよう偽りの出生証明書を作成する行為を繰り返した(実子斡旋行為)。
そのためにXは告発され、医師法違反等でXを有罪とする略式命令の裁判が確定した。そこで宮
城県医師会(Y)は、1976 年 11 月 1 日づけの指定を 78 年 5 月 24 日づけで撤回した。その後X
は 78 年 10 月に指定を申請したが、10 月 30 日づけで却下された。Xは、指定撤回処分や申請却
下処分の取消を求めて出訴したが、第 1 審・第 2 審で敗訴したため、上告した。
[判旨]上告棄却。
「上告人〔X〕が行った実子あっせん行為のもつ法的問題点について考察する
に、実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない戸籍制度の秩序を乱し、不
実の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには家庭裁判
所の許可を得なければならない旨定めた民法 798 条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親
婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる
場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。
したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的で
なされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものという
べきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急
避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき事情は窺〔うかが〕うことはできない。しかも上
告人〔X〕は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を
不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとす
るにあったこと等を考慮しても、上告人〔X〕の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非
難は免れないものといわなければならない。
そうすると、被上告人医師会〔Y〕が昭和 51 年 11 月 1 日付の指定医師の指定をしたのちに、
上告人〔X〕が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、
上告人〔X〕に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、
実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師
の指定の撤回によって上告人〔X〕の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の
必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師
の指定の権限を付与されている被上告人医師会〔Y〕は、その権限において上告人〔X〕に対す
る右指定を撤回することができるというべきである。」
- 14 -
商法
【A 日程】
A,B,CおよびDの4名(発起人)は、ゴルフ会員権の販売等を事業目的
とするY株式会社の設立を企画した。Aは設立時発行株式の40%を引き受け、
B,C,Dは各20%を引き受けることにした。Xは、活版印刷等を事業目的
とする株式会社である。
設立中のY会社の発起人Aは、ゴルフ会員権を販売する準備のため、 20
06年5月17日に代理人Eを通じて、X会社に、会員募集用パンフレット、
入会申込書(個人用および法人用)
、預託金証書、資格認定証書、入会金領収証
等の印刷物を発注した。Y会社の定款には、この契約についての記載はない。
X会社は、発注を受けた印刷物を順次印刷したうえ、同年6月上旬から8月中
旬にかけて、設立中および成立後のY会社に納品した。会員募集用パンフレッ
ト等の印刷物の発行名義人がY会社名であり、代表取締役としてAの表示がさ
れていることから、X会社は、印刷物の注文主をY会社であると認識しており、
6月納品分も含め納品書および請求書についてはY会社宛にこれを発行してい
た。設立時代表取締役Aの登記申請により、Y会社の設立登記は同年7月2日
になされている。
Y会社は、X会社から納品されたパンフレット等の印刷物を使用して、ゴル
フ会員権の販売等の営業活動を行っている。X会社がY会社に対して本件印刷
物の印刷代金を請求したところ、Y会社はその支払いを拒んでいる。この事案
に含まれる論点を指摘し検討したうえで、X会社のY会社に対する請求が認め
られるかどうかにつき、あなたの考え方を述べなさい。
- 15 -
商法
【B 日程】
Aは、Y会社(発行済株式総数5万株)の株式2万2000株、Z会社(発行済株式総
数3万株)の株式1万8000株を保有していたが、2006年5月12日に病死した。
これらの株式すべてをX、B、C、Dの4名が共同相続した。ところが共同相続人の間で
対立が見られ、遺産分割の協議は調わず、また会社法106条による権利行使者の指定・
通知は、Y会社およびZ会社のいずれに対してもなされていない。Y会社がZ会社を吸収
合併する旨の合併契約を締結したとして、2007年1月11日、Y会社につき変更登記
が、またZ会社につき解散登記がなされた。なおY会社およびZ会社のいずれにおいても、
議決権制限株式の発行はなく、定款で単元株制度の定めも設けられていないので、株式数
と議決権数とは基本的に合致している。
Xは、Y会社およびZ会社の各株主総会における合併契約書の承認決議がなされていな
い旨を主張し、Y会社を被告として合併無効の訴えを提起した。
上記のケースに含まれる論点を指摘したうえで、あなたの考え方を述べなさい。
- 16 -
民事訴訟法
【A 日程】
以下の問に答えなさい。
1
証明責任に関する法律要件分類説によると、以下の場合、いずれの当事者
が、いずれの事実について証明責任を負うか。
(1) 家屋の売買契約の売主が代金請求の訴えを提起したが、買主がこの売買は
要素の錯誤により無効であると主張している場合
(2) 上記売買契約は、強迫により取り消すので、買主が代金の支払いをしない
と主張している場合
(3) 上記の売買契約の代金請求に対して、買主が反対債権によって訴訟上の相
殺をする旨主張している場合
(4) 上記の売買契約について、買主が売買代金債務の消滅時効を主張しているとき
2
(1) 前記第1問の(3)で、買主がすでに訴訟外の相殺をしている旨主張して
いる場合、民訴法 114 条2項の適用はあるか。
(2) 民訴法 114 条2項は「請求の成立又は不成立」と記載しているが、それは何を意
味するのか。
- 17 -
民事訴訟法
【B 日程】
家屋の賃貸借契約を賃貸人 X が解除した。賃借人 Y はそれが無効で
あると主張して退去しない。そこで X は Y に対して家屋退去の訴え
を提起して勝訴し、その判決が確定した。この判決による明け渡し
執行が行われようとしたが、
1) 上記判決の既判力の基準時以前に同家屋は Z に転貸されてお
り、Z は上記執行の債務者ではないから執行力は及ばないと主
張した。X が訴訟中このことを知っていればどうしたらよかっ
たのか。
2) 上記基準時以後、Z は Y から転借しているが、X は上記の訴え
で賃貸借契約に基づいて、明け渡し債権のみを主張し、所有権
に基づく明け渡し請求権を主張していなかったのであるから、
Z は口頭弁論終結後の承権人にはあたらないとして、第三者異
議の訴え(民執法38条)を提起し、前記明け渡し執行に対抗
しようとしている。X はどうしたらよいか。
上記2問のケースについて意見を述べなさい。
- 18 -
刑法
【A日程】
Aは、家族に仕事上の出張であると虚偽を述べ、自動車を運転して自宅を出発し、不倫関係にあ
る愛人Bを助手席に乗せて、宿泊を伴う旅行に出た。夕刻、空にはまだ少し明るさが残るが道路
はかなり暗い状況で、Aは、前照灯を点灯して 40∼50km/h の速度で、国道を走行していた。こ
の国道は、前後数十 km にわたって信号がなく、交差する道路も殆どない片側 1 車線ずつの山道
であって、最高速度 40km/h に指定されている。また、走行車輛は極端に少なく、反対方向から
は十数分に 1 台すれ違う程度で、A車と同一方向に走る自動車は全く見当たらなかった。この間、
自転車や歩行者には全く出会っていない。
その頃、近くの山で林業を営むCは、午後の作業の休憩中に山小屋で飲酒し、つい飲み過ぎて
熟睡してしまい、夕刻になって目覚め、慌てて帰宅しようとしていた。Cは、普段は比較的なだ
らかで所々に舗装のある道を自転車で往復していたが、このときは、近道を通る意思で、道のな
い山の斜面を自転車で下って国道に出ることにした。この斜面が国道と接する付近には樹木が生
い茂っており、斜面を下る者の存在を国道走行中の自動車から認識することは不可能である。
Cは、酩酊したまま、無灯火でブレーキも殆ど使用せず、一気に斜面を下った。Aは、かかる
事情を全く知らず、Cの存在に気付くこともなく、約 45km/h の速度で、この斜面と国道とが接
する位置にさしかかった。ちょうどその瞬間に、Cの自転車は、約 20km/h の速度で国道に飛び
出した。Aは、直前約2mの位置に突然に自転車が飛び出してきたのを見て、急ブレーキ・急ハ
ンドルで衝突を回避しようとした。しかし、間に合う筈もなく、Aの自動車はCの自転車に衝突
し、Cは自転車と共に数m跳ね飛ばされた。
Aは停車して、倒れているCに駆け寄った。Cは、呼吸していたが意識はなく、外傷の如何は
判らなかったが生命に重大な危険のある状態に思えた。Aは、この事故に自分は責任を負わない
と判断したが、それでも救急車を呼ぼうと考え、自動車に戻って携帯電話を取り出した。ところ
が、それを見たBは「通報するの?ばれるよ!」と言い、Aはこれを聞いて通報の意思を失った。
Aは、Cが他の自動車に轢かれることのないよう、Cの身体を約2m動かして道端に置き、壊れ
た自転車もその近くに置いた。この間、Bは自動車の中で座ったままであり、国道ではどちらの
方向にも走行車輛も歩行者もなかった。
Aはこれだけの措置を終えると、救急にも警察にも通報することなく、自動車走行を再開した。
走行中、Aは「死ぬかな?」と言い、Bは「知らない!」と答え、以後、事故の話題を避けた。
しかし、数分後、Aは、たまたま公衆電話を発見したので、独断で停車し、その公衆電話を使用
して、匿名で、かつ、自己が当事者であることを言わず、自転車と共に倒れている人の存在およ
びその位置だけを、救急および警察に通報した。
その後、ABは、予定通り不倫旅行を継続した。救急および警察は現場に急行したが、現場到
着の時点で既にCは死亡していた。調査の結果、自動車衝突によってCの負った傷は重大な致命
傷であり、直ちに救急に通報しても、事故当事者が自ら直ちに最寄りの病院に搬送しても、いず
れにしても救命は絶対に不可能であったと判断された。
以上の事実につき、ABの罪責如何。但し、刑法典上の罪の成否を中心とし、速度違反罪につ
いては論じないものとする。
- 19 -
刑法
【B日程】
ABは、某企業の同僚従業員である。或る日、両名は、多額の現金および小切手を取引先に届け
る業務を命じられ、Aが自己の自動車を運転し、Bが現金および小切手を入れた鞄を抱えて同乗
して、取引先に向かった。両名は取引先の近くに至ったが、当該取引先には駐車場がなく、付近
に適当な駐車場所もなかったので、Aは、Bと相談の上、少し離れ公園に設置されている無料公
共駐車場を利用することとし、同所に駐車した。
ABは車から降り、Bが引き続き鞄を抱え、その鞄のすぐ横にAが付き添う形で、取引先に向
かって歩き始めた。この道は、歩道・車道の区別も中央線もなく、途中に交差する道もない。そ
の時、自転車に乗ったCが、ABの後方を走行していた。Cは、自転車を使用して歩行者から鞄
をひったくる窃盗行為を常習とする素行不良者であり、この時も人通りの少ないこの道でひった
くりの機会を窺っていたところ、ABが鞄を大事そうに扱う様子を見て、金目の物が入っている
と判断した。そこで、Cは、この鞄を奪おうと決意し、自転車でABの背後から近づいて、両名
の身体の間の隙間を、両名の身体に自転車を接触させながらすり抜け、Bから鞄をひったくって
自転車の前籠に入れ、逃走を開始した。
ABは、警察に通報する余裕もなく、直ちに全力疾走で追跡を開始したが、追いつける見込み
はなかった。そこで、Aは「車で行く」とBに伝えて駐車場に戻り、BはCを見失わないように
走り続けた。Aは、すぐに自動車で追いつき、窓を開けて「先に行くぞ」と言いながらBを追い
抜いて、Cに接近した。この間、ABとも、Cを捕らえて鞄を取り返さねばならないと考え、互
いに他方もそう考えている筈だと思っていたが、具体的方法を相談する余裕はなかった。Aは、
Cに追いつくことだけを考えて自動車を運転しており、Bは、Aが何等の方法でCの逃走を妨害
するだろうと漠然と期待するに留まっていた。
Aは、Cに追いつこうとする時点で初めて、これからどうするべきかを考え始め、Cを停止さ
せることが絶対に必要であるとの判断から、Cの進路を妨害して走行不可能な状態に追い詰めよ
うと咄嗟に決意した。そこで、Aは、自車の運転席付近がCの自転車の前輪付近に達する程度に
まで進行し、約 25km/h でCと並走しながらハンドルを操作して車体をCに接近させ、減速を開
始した。Cは、A車との衝突を避けるため減速しながら反対側に寄ることを余儀なくされ、道路
端に追い詰められて塀に接触しそうになった。Aがこのように著しく接近した走行を数秒間継続
して約 15km/h にまで減速した時、Cの自転車のハンドル先端が塀に接触し、その反動でCは自
転車と共にA車に衝突して転倒した。Aは直ちにこれに気づいて反対方向に急ハンドルを切りな
がら急停止したが、CはA車の後輪に轢過されて即死した。
Aとしては、Cの自転車や身体がA車に接触する可能性は認識していたが、そのような事態な
しにCを停止させたいと期待しており、Cの死傷は全く予想外であった。Bは、ACを追って走
り続けていたが、A車のCへの接近を見て初めてAが幅寄せによってCを追い詰めようと意図し
ていると察知し、これでCが減速・停止すれば自分も追いつけるのでCを捕らえて鞄を取り戻す
ことができると期待した。Bは、接触事故の危険も感じ、逃走阻止のためにはCを負傷させても
仕方がないと思っていたが、死亡は予想外であった。
以上の設例につきABの罪責如何。但し、特別法上の罪については論じないものとする。
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刑事訴訟法
【A 日程】
下記の
下記 の 事案について
事案 について、
について 、弁護人は
弁護人 は 被撮影者の
被撮影者 の 承諾なしに
承諾 なしに写真撮影
なしに 写真撮影が
写真撮影 が 許容される
許容 される限界
される 限界を
限界 を 逸脱し
逸脱 し
ているとしてこれを争
ているとしてこれを 争 った。
った 。事案を
事案 を 読 み 捜査機関の
捜査機関 の 写真撮影に
写真撮影 に 関 する刑事訴訟法上
する 刑事訴訟法上の
刑事訴訟法上 の 問題
点 を 論 じなさい。
じなさい 。
本件写真が撮影されるに至った経緯、撮影状況は次のとおりと認められる。
(一)
昭和 50 年 10 月 27 日、M
M 大学構内において、α派の学生が、10 数名の者によって
鉄パイプ等で殴打され死亡した殺人事件(以下「M 大事件」と言う。)が発生したが、事件
後に出された犯行声明、遺留された鉄パイプの特徴、目撃者の供述等から右犯行に及んだの
はβ団体に所属する者であるとの嫌疑が濃厚であった。
(二)
M 大事件の目撃者の証言により、E
E なる人物が同事件に関与していた疑いが生じて
いたところ、このEが当時住んでいた甲町のアパート花野荘の居室にはF
F なる人物がよく泊
まり込むなどしており、このFは、昭和 50 年夏ころまで乙町にあるアパートに住んでいた
が、同人がそこから所在不明になった後、管理人が心配してFの父に連絡し、同人とともに
Fの居室を調べたところ、
「β団体」と書かれたヘルメットや、当時β団体以外のセクトは使
わない特殊な鉄パイプ等が遺留されていた。
(三)
昭和 51 年 3 月ないし 4 月ころ,Fが丙町の花山というアパートをF名義で借りて
いることが、その家主に人相等を照会した結果判明したことから、そのFの居室への出入り
状況を捜査したところ、前記Eの外G
G らβ団体所属の者が出入りしていることが確認され、
また、やはり M 大事件の目撃者の供述により事件への関与が疑われていたH
H なる人物が借り
ていた丁町のマンション「メゾン花川」に、前記GやI
I なる人物が出入りしていることが分
かり、このIも M 大事件の目撃者の供述により同事件への関与を疑われていた。
(四)
昭和 51 年 6 月 3 日には S 大学構内において本件が発生したが、これに前記G
G が加
わっていたことが判明し、同人は同年 8 月 14 日本件を被疑事実として逮捕され、同年 10 月
30 日には本件により有罪の判決を受けた。
(五)
このような捜査状況下で、M 大事件の捜査を担当していた県警中央警察署では、多
数にのぼる同事件の目撃者に犯人を特定させるためには、前記Fの居室に出入りする七、八
名の者の写真を目撃者に見せる必要があると判断し、昭和 51 年 5 月下旬ころからその写真
撮影を開始し、本件が発生し前記Gの同所への出入りが判明した後には、本件 S 大学事件の
犯人特定の目的も加えてこれを継続したのであって、本件写真1及び2はいずれもGの出入
りが確認され同人に逮捕状が発付された後である同年 7 月 15 日、Z 野一夫巡査により撮影
されたものである。
(六)
その撮影は、前記Fの居室から最寄りの駅に行く途中にある通称四面道交差点を見
通す建物の二階または三階の一室にカメラを設置するとともに、Fの居室近くに捜査員が張
り込み、捜査員が同所から出て来た者のうち必要と判断した者のみを尾行し、四面道交差点
を通り掛かった際、待機している撮影担当の捜査員に合図を送り、撮影担当の捜査員は、合
図があった者のみを撮影するという方法で行われ、この場合、合図を受けたもの以外の人物
が写真に入らないよう配慮していたが、偶然通行人が写ってしまっていた。
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刑事訴訟法
【B 日程】
下記の問題文を読み、甲・乙について刑事手続上主な問題点を指摘して、論じなさい(ただし、起訴猶
予処分の当否、起訴後の勾留の併存の問題およびβ
β事件の訴因の追加については論じなくてもよい)
事件
。
主犯格の甲と乙は共謀の上、乙のアパート近くに住んでいる顔見知りの者に言いがかりをつけ、暴
行・脅迫を加え、同人を畏怖させて現金約3万円を喝取したとして逮捕された。しかし乙については、
甲の命令に逆らえずに行ったものであり、被害法益も軽微であるので、身柄拘束の必要はないと判断して
釈放した。これに対し、被害者側から、乙は近くに住んでいて、しばしば出会う機会があるが、遠目にこ
ちらを睨み付け、逆恨みされているようで安心して通りを歩けないとの苦情がよせられた。捜査機関は乙
の行動を注視していたところ、乙は友達のアパートに同居していて、転々と住居を変えており、逃亡の虞
があると判断したため再び逮捕状を請求して逮捕した。
同恐喝被疑事件の逮捕後の取調べ中、甲、乙はそれぞれ別の傷害事件を犯している疑いが判明した。
そこで検察官は、
乙に対しては、
取調べ中に判明した傷害事件に切り替えて勾留の請求をした。他方、
恐喝事件の主犯格である甲については、恐喝事件について勾留を請求するとともに、新たに判明した
傷害事件についてもあわせて勾留の請求をおこなった。
乙の傷害事件は、仲間との口論から、互いに取っ組み合いの喧嘩となり、その際に、相手に殴る・
蹴るの暴行を加え全治 10 日間の傷害を負わせたというものであったが、結局乙は起訴猶予処分とな
った。他方、甲の傷害事件については、取調べの結果、類似の複数の余罪があることが判明したこと
「被疑者甲は、常習として、自己が乗車して来たタクシーの運転手Aから乗車代金の不足金
もあり、
を請求されたことに憤慨し、いきなり同人の顔面を手拳で一回殴打し、更に車外に飛出した同人の後
頭部を所携のバンドで数回殴打する等の暴行を加え、よって同人に対し顔面、頭部挫傷等により加療
約 2 週間を要する傷害を与えた」として、
「暴力行為等処罰に関する法律・1 条の 3(常習的傷害・
暴行・脅迫・強談威迫)
」違反の罪で起訴された(以下α
α事件と呼ぶことにする)
。
甲の弁護人は、親族の身柄引受書を添付して甲の保釈を請求した。裁判所は、検察官の意見を聞き、
保釈保証金を納付させ、甲の保釈の許可決定を行なった。
甲は保釈中、再び傷害事件を起こし、現行犯で逮捕された後、
「通行中のBを呼び止めて因縁をつ
け、Bの腕をつかみ、顔面を頭突きし、さらに顔面、脚部等を殴る、蹴る等の暴行を加え、よって同
人に対し加療約 20 日間を要する傷害事件を起した」との被疑事実で勾留の請求がなされ、再び勾留
された(以下β
β事件とよぶことにする)
。勾留中の取調べにおいて、被告人は起訴されているα
α事件
以前にも「麻雀店において遊技中に、同店の経営者から静粛にするよう注意されたことに立腹し、同
人めがけて近くにあった陶器製の灰皿を投げつけ、頭部に命中させた後なおも怒りが収まらず、同人
の頭を押さえつけ顔面を蹴り上げるなどの暴行を加え」加療1ヶ月を要する傷害事件を犯していたこ
とが判明した(以下θ
θ事件とよぶことにする)
。そこで、検察官はβ
β事件で勾留後 18 日目に行なわれ
たα
α事件の第 3 回公判期日に、β事件の訴因およびθ
θ事件の訴因をα
α事件の訴因に追加する旨の請求
を行なった(なおα
α事件とβ
β事件・θ
θ事件は包括一罪の関係にあるものとする)
。
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