PDF ファイル 5.54MB

東都医療大学紀要
第 6 巻第1号
目 次
【総説】
・Notch シグナルとがんの増殖・浸潤……………………………………………………………………………………… 1
勝部憲一
【原著】
・Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP)and heart rate in hemodialysis patients… ………………………………………………………… 11
大坪 茂・常喜信彦・田中友里・中西 健・倉賀野隆裕・西條公勝・長谷弘記
【研究報告】
・実際の看護活動の見学から学生が目標と捉えた看護師像………………………………………………………… 21
-基礎看護学実習Ⅰを振り返ったインタビュー結果からの考察-(第1報)
大澤久美枝・中村昌子・長谷川真美
・本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育……………………………………………………………… 27
-助産学実習の現状と課題-
藤田佳代子・岩﨑和代・森谷美智子・稲荷陽子
【実践報告】
・高齢者看護学実習におけるレクリエーション演習の授業効果と課題…………………………………………… 35
-レクリエーションに関する実習後アンケートの分析-
釜屋洋子・佐藤光栄
・ポートフォリオを用いた看護統合実習における学生の実習目的達成への影響………………………………… 41
鶴間百合子・吉田幸子
・看護大学で行う認知症カフェの成果と課題………………………………………………………………………… 49
-学生参加と大学の社会貢献の視点から-
長谷川真美・佐藤光栄・柿沼直美・泉 明美・平塚久美子・野村政子・永井健太・大澤久美枝
中島富志子・今川詢子
・成人慢性疾患患者のセルフケア支援の理解を深める演習方法の検討…………………………………………… 57
-グループワークによるレポートの記述内容を分析して-
中村織恵・本谷久美子・中井美鈴・田道智治・内田佳代・柳澤まゆみ・今川詢子
【資料】
・A 看護大学生の保健師国家試験受験資格取得と保健師基礎教育に対する認識 第 1 報………………………… 63
永井健太・平塚久美子・市原千里
東都医療大学紀要投稿要領……………………………………………………………………………………………… 69
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【総説】
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
Notch signal and the growth and invasion of cancer
勝部 憲一
Ken-ichi KATSUBE
要 旨
Notch シグナルはさまざまな場所で働くシグナルであるが,当初その増殖・分化への影響から発生期での役割が注目さ
れた.がん細胞への影響も細胞増殖との関わりから考察されてきたが,その関わりは造血系腫瘍を中心とした狭い範囲の
腫瘍でしか観察されなかった.最近 Notch シグナルががんとの関係で脚光を浴びているのはがん浸潤との関係である.腫
瘍転移で血行性転移は重要な経路で,がんが誘導する血管新生は悪性度と相関する.Notch シグナルは血管新生で重要な
役割を果たす.がん細胞は Notch シグナルを通じて安定した血管構築をおこない,より効率のよい転移をおこなうと考え
られる.Notch はがん浸潤を進めることで悪性度に関与している可能性がある.がん治療の観点から Notch シグナルを制
御できる薬剤の開発は制がんへの重要な一歩になる.
キーワード:Notch シグナル,がん遺伝子,脈管形成,血管新生,がん治療
Ⅰ.はじめに
が分かれる時,必ず将来の上皮細胞と交互に発生す
る の が 特 徴 で あ る( 図 2).Notch 遺 伝 子 に 人 工 的
Notch と は「 刻 み 込 み 」「 切 り 込 み 」 の 意 味 で,
に変異を起こさせて調べると,隣接する細胞間では
Notch 遺伝子の変異が最初に見つかったショウジョ
Notch を発現し続ける幹細胞が上皮細胞となり,隣接す
ウ バ エ の 羽 の 縁 の 形 態 異 常 か ら 来 て い る( 図 1).
る Notch が発現しなくなる幹細胞が神経細胞となること
Notch 遺伝子が発見された当初はその切り込み様の
がわかった.もう少し詳細な実験をおこなうと Delta と
目立たない形質からあまり注目されなかったが,そ
いうシグナル因子で刺激された Notch 発現細胞は神経
の後ハエ遺伝学の進歩で Notch が細胞の増殖・分化
細胞分化を抑制されて体表を覆う上皮細胞に分化する一
1)
全般で重要な働きをすることが判ってきた .寧ろ
方,Delta を発現する細胞は隣接した細胞でそれが神経
Notch の機能が重要であるがためにこの遺伝子の変
細胞に分化することがわかった 3)4).このような隣接細
異の多くが embryonic lethal(胚性致死)になり,軽
微な影響の変異体のみが生き残って成虫の表現型を
図1. ハエNotchシグナル変異で見られる羽形成の異常
見ることができたと考える方が正しかった.
Delta
Notch はハエ遺伝学の分類では「neurogenic」
(神
経原性)という遺伝子群に分類されているので,神
経細胞の発生を例に Notch の機能について説明し
てみる 2).ハエでも脊椎動物と同じく,神経細胞は
胚の時期体表面の上皮幹細胞の一部が分化してでき
る.幹細胞は神経細胞への運命付けがされると,体
表からこぼれ落ちるように陥入して体内に入ってい
く.この上皮細胞になる運命の幹細胞から神経細胞
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
−1−
Notch
Serrate
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
である(約 300 kd)9).細胞外ドメインで特徴的な
のは繰り返される上皮増殖因子(EGF)様モチーフ
で(EGF リピート),ひとつひとつのモチーフがシ
ステイン残基を要としてユニット構造を示している
(図3).Notch は基本的に受容体として働き,その
リガンドとして知られるのが Delta, Jagged である.
Delta(デルタ,三角形), Serrate(鋸歯)も Notch
同様最初に見つかったショウジョウバエの変異個体
での羽の縁または翅脈の形態異常の特徴から命名さ
れた.Delta, Serrate とも Notch と同じく細胞外ドメ
インに EGF 様モチーフが繰り返されるが 10),Notch
と比べると若干リピートが短い.受容体・リガンド
とも膜蛋白である系はこの Notch 系と細胞膜型チロ
シンキナーゼの Eph/Eph 受容体系くらいしか知られ
胞間で神経細胞への分化を抑制する Notch シグナル
ておらず 11),隣接する細胞でしかシグナル連絡が起
の効果を「側方抑制」(lateral inhibition)と表現し
こらない特殊なものである.Notch、 Delta, Serrate
た .また羽の縁形成異常の別の型 Serrate が Notch
(脊椎動物では Jagged)ともこの細胞外ドメインの
と遺伝学的な相互作用を示したことから,Serrate も
EGF リピートが受容体とリガンドの結合部位で,そ
Notch シグナルに関連する遺伝子として認識されるよ
れぞれ数個の特異的な EGF モチーフが認識されてい
うになった.そして Serrate は Delta と同じく Notch
る 12).なお Eph/Eph についてシグナル交換が双方
を刺激することが解明された.まとめると Notch 遺
向性で単純なリガンド / 受容体の関係でないことが
伝子発見のきっかけとなった羽の縁の形態形成では,
知られているが,Notch でも似た点がある.Delta と
羽の縁を形成する細胞の分化に Notch シグナルが必
Serrate に は Mindbomb (Mib) と 呼 ば れ る 特 異 的 な
要であった.遺伝子変異で Notch シグナルが働かな
E3 型ユビキチンリガーゼが知られている 13).Delta
い と 縁 細 胞 が で き ず 欠 損 す る た め,Notch,Delta,
や Jagged が Notch と結合した後,ガンマセクレター
5)
Serrate などの形態が見られたというわけだ .
ゼによって Notch 細胞外ドメインが切断されてリガ
このような Notch シグナルの作用機序から,その
ンドリガンド発現細胞に移行する.Mib によってこ
遺伝子産物が細胞膜に埋め込まれたないし付着して
のリガンド / 受容体細胞外ドメイン複合体が分解さ
いることが予想された.同定された遺伝子から合成
れていく.ところが Mib に何らかの変異があって活
されたタンパク質は予想通り膜タンパク質であるこ
性が低下すると,この分解が阻害されて結果として
6)
とが確認され,リガンドの Delta も同様に膜タンパ
ク質であることが実験的に確認された 7).その後こ
れら Notch シグナル系の遺伝子ホモログは脊椎動物
でも発見され,動物界で普遍的な働きをする細胞間
シグナルのひとつであることがわかった 8).しかし
そのシグナル調節はかなり複雑で,今でもはっきり
わからない挙動が多く知られている.本稿では特に
Notch シグナルががんの増殖に与える影響と,その
応用によるがん治療への道筋について述べてみる.
Ⅱ.Notch シグナルとは何か
Notch 遺伝子が産生する Notch 蛋白は膜蛋白で,
膜貫通ドメインが一個しかない直鎖状の巨大な蛋白
−2−
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
Notch シグナルが抑制されてしまうことが知られて
いる
14)
総
説
Notch 遺伝子は最初ショウジョウバエで発見され
.なぜリガンド側の代謝が遅延するとシグナ
たが,今はほぼすべての動物にその相同遺伝子の存
ルが阻害されるか不明な点が多く,さまざまな仮説
在が確認されている.ヒトの場合,Notch 遺伝子は
がある.今後の解明が待たれる点である.
NOTCH1, 2, 3, 4の4つが存在し,リガンドに関して
さて Notch ではリガンドと接触すると,蛋白プロ
は Delta, は Dll1, 3 ,4 の 3 つ
セシングが進行して細胞内ドメインが切り離される.
脊椎動物での名称)は JAGGED1, 2 の2つが 23)存在
切断過程にはガンマセクレターゼに呼ばれる巨大な
している.また Notch シグナルの下流遺伝子群にも
蛋白複合体による蛋白質プロセシング(切断)が関
沢山の相同遺伝子が存在することがわかった.ショ
与している
15)
22)
, Jagged(Serrate の
.このガンマセクレターゼによって切
ウジョウバエでは単一の遺伝子でも脊椎動物では複数
断された Notch の細胞内ドメインは NICD(Notch
の相同遺伝子が存在する例は,Notch に限らず数多くの
intracellular domain)と呼ばれ,そのまま核内まで
遺伝子で知られている.これは脊椎動物の体の構造が
16)
.核内では Notch シグナル関連蛋白であ
ハエのような無脊椎動物と比べて複雑なため,複雑な形
る RBJK と Mastermind と呼ばれる核内タンパク質
態形成の調節機構の一環として遺伝子重複を起こしてき
移行する
と結合して 3 量体を形成する
17)
.この 3 量体蛋白複
たと考えられている.実際 NOTCH に関しても 1, 2, 3, 4
合体が転写調節因子として転写調節部の DNA に直接
の発現が,組織や発生期に応じてさまざまなパターン
結合して,シグナル下流となる各遺伝子の mRNA 発
を示し,それぞれが違う役割を担っていると考えら
現をおこなう.遺伝子としては Hes と呼ばれる basic
れている 24)25)26).
helix loop helix 型の転写因子群が中心だが 18),他に
も色々な遺伝子の発現活性化が報告されている.こ
Ⅲ.がん遺伝子としての Notch
のように書くと比較的単純なシグナル系に見えるが,
実はこの下流遺伝子がどのような組み合わせになる
がん遺伝子の概念が出現したのは 1970 年代に遡
かは細胞の種類やその細胞の状態(分裂や分化)に
る.ニワトリやマウス,ミンクなどの実験動物に感
よってかなり異なる.一般に状況に応じて可変性が
染するウイルスの中に肉腫を形成させるウイルスの
ある遺伝子発現組み合わせ変化を context dependent
存在が知られるようになり,がんウイルスという考
と表記するが,Notch シグナルはその中でも特に変
え方が浸透した.DNA のクローニングや細胞への導
化に富んでいる
19)
.そのため Notch シグナルの作用
入ができるようになってくると,これらのがんウイ
は器官・組織や発生時期によってかなり変化する.
ルスが細胞に導入されるとどうやってがんを誘導す
例えば Notch 細胞内ドメインのリン酸化の寄与につ
るのか調べられるようになった 27).その結果ウイル
いても議論されている.Notch 細胞内ドメインには
ス遺伝子全体でなくてもその一部を導入するとがん
幾つかのリン酸化部位及びそのリン酸化酵素が報告
ができることがわかってきて,それらを発がん遺伝
されている.その中で注目されているのは GSK3beta
子(oncogene)と定義するようになった(発がん遺伝子
という wnt シグナルで重要な役割を担うセリン / ス
は後に単に「がん遺伝子」と呼ぶようになった)28).で
レオニンキナーゼによる Notch 細胞内ドメインのア
はがん遺伝子は必ず細胞の外から来るウイルスのよ
ンキリンリピート(ankyrin repeat)のリン酸化であ
うな病原体が運んでくるのかというと,そうではな
20)
.GSK3beta によるこの部位のリン酸化が進むと
かった.最初ウイルスで確認されたこれらの遺伝子
上記した 3 量体形成が阻害されて,Notch シグナル
は,間もなくその相同遺伝子が続々と動物細胞のゲ
が抑制されるのだ.ただしハエ遺伝学で shaggy と呼
ノム中から見つかってきたのだ.結論から言うとが
ばれるハエの GSK3beta は他の wnt シグナル因子と
んウイルスが運ぶがん遺伝子はもともと細胞内に
同じく segment polarity(体節極性)と呼ばれる遺
あった遺伝子を取り込んだもので,その取り込み過
伝子群に属しており,neurogenic に属する Notch と
程で若干の変異を起こしたものであることが判って
る
.一般に細胞増殖因子では細
きた 29).実際細胞にある proto oncogene(「前がん遺
胞内のリン酸化カスケードが重要だが,Notch シグ
伝子」と訳せる)を何らかの方法で活性化してやる
ナルでのリン酸化が vivo でどの程度重要かはまだ評
と,ウイルスなしでも細胞ががん化することが判明
価がはっきりしない.
した.ここで言うがん化とは細胞の自律的な増殖や
の関係性は高くない
21)
−3−
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
通常受ける増殖制限を乗り越えて増殖が続くことを
染するとその遺伝情報はただちに RNA から DNA に
指す.この後がん遺伝子は我々が細胞内にもつ細胞
移し替えられる.この現象を逆転写と呼び(DNA か
増殖シグナルを構成している重要な遺伝子であるこ
ら RNA に情報を写し取る通常の転写と逆方向なの
とがわかってきた.その遺伝子の一部が変異したり,
で),DNA になったウイルス遺伝子をプロウイルス
欠失・融合が起こったりすると発現に抑制がかから
と呼ぶ.プロウイルスは核に移行するとゲノム DNA
なくなってがん細胞になるわけで,本来我々の生命
のいずれかの場所に挿入され,自らの遺伝子転写を
活動に欠かすことができない遺伝子だったのであ
おこなわせて増殖を図る.それと同時にプロウイル
る 30).このがん遺伝子の概念にやや遅れて出現した
スには組み込まれた周囲の遺伝子の活性化を起こす
のががん抑制遺伝子である.増殖を促す遺伝子があ
力がある.これはプロウイルスの DNA 末端にある
れば,当然それを抑える遺伝子がないと無限増殖に
LTR(long terminal repeat) と呼ばれる繰り返し塩基
なってしまう.そのためがん抑制遺伝子(suppressor
配列構造には,エンハンサーと呼ばれる強力な遺伝
oncogene)の存在が予言されたが,その実像はすぐ
子発現活性化配列があり,この作用で挿入された周
はっきりしてきた.1980 年台後半から p58 類似遺伝
囲のゲノム遺伝子も活性化される.この MMTV 感
子などのやはり細胞増殖制御に関わる遺伝子群が最
染とプロウイルス DNA 挿入が起こると時々細胞がん
初に発見されたが
31)
,その後細胞周期制御や細胞死
化が起こる.そのため MMTV はがんウイルスのひと
に関わる遺伝子が次々とがん抑制遺伝子として同定
つと考えられている.一般にがんウイルスは大きく
された
32)33)
.特に興味深いのは細胞死に関わるがん
抑制遺伝子である
34)
.ここでいう細胞死とはいわゆ
分けて二つに分けられ,ひとつはウイルス遺伝子自
体にがんを起こす遺伝子(がん遺伝子)をもつもの
るアポトーシス(apoptosis アポプトーシスともいう)
で,がんウイルスとして当初発見されたタイプであ
で,プログラム細胞死と呼ばれる現象である.主と
る.もうひとつはウイルス自体にはがん遺伝子がな
して発生期に活発に作用するもので,身体の構造形
いが,ウイルス遺伝子が細胞の DNA に挿入されると,
成で最初余分につくられる細胞を抹消する機構を構
その周囲にあったがん原性遺伝子(proto oncogene
成している(神経細胞やリンパ球の成熟過程でよく
と呼ぶ)を活性化してがん化を起こすものである.
観察される).成体になってからは何らかの理由で変
挿入部位はランダムに選択されるのでがんが発生す
調を来した細胞の自殺シグナルとして働いている.
る確率は前に述べたものより遙かに低いが,ウイル
ウイルス感染した細胞をキラー T 細胞や NK 細胞が
ス自身がもつ強力な遺伝子活性化作用でそれを起こ
殺すのは,これらのリンパ球が直接殺細胞物質を出
すと考えられる.MMTV はそれ自体にがん遺伝子が
すのではなく,プログラム細胞死の引き金を引く物
見つからないので,後者のタイプと考えられた.つ
質を分泌して相手の細胞が自ら死ぬように導いてい
まり MMTV 感染と挿入で活性化された周囲の遺伝
る.同じ機序ががん細胞でも発動する.がん細胞の
子の中に,眠っていたがん遺伝子があるのでないか
場合も同じようにリンパ球によるアポトーシスを起
と推定された.これらの遺伝子は int と名付けられた
こす.しかし必ずしもリンパ球の手助けがなくても,
(挿入 insertion から来ている).int 遺伝子は全部で 4
自発的に変調を感じ取ることでがん細胞になる前に
個同定された 35).いずれも当時は機能がよくよくわ
アポトーシスが引き起こされることもある.このア
からなかったが,後に発生で細胞増殖と関連する遺
ポトーシスに関連したがん抑制遺伝子が壊れると例
伝子であることがわかってきた.そのうちの int3 が
え細胞機能が正常でなくなってもアポトーシスを起
Notch 遺伝子のひとつだったのである(Notch4)36).
こさなくなってリンパ球とも反応しなくなり,がん
つまり Notch はがん遺伝子だったのである.MMTV
細胞となって無限増殖を続けることになる.
の挿入でなぜこの Notch シグナルの活性化が起こる
さて Notch ががん遺伝子のひとつとして認識され
かだが,よく考えると Notch4 は受容体なのでリガン
た歴史は,かなり古い.最初にわかったのは MMTV
ド刺激がなければ幾らタンパク質の量が増えても増
( マ ウ ス 乳 が ん ウ イ ル ス mouse mammary tumor
殖などの作用はおこなえないはずだ.実は MMTV は
virus)というマウスウイルスの一種の感染で起こる
この Notch4 遺伝子を切断する型で挿入されていた 36)
乳がんであった.MMTV は RNA ウイルスでレトロ
この挿入によって Notch4 は遺伝子の 3‘側のみが
ウイルスの一種である.レトロウイルスが細胞に感
持続的に発現するようになり,タンパク質の細胞内
−4−
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
総
説
ド メ イ ン(notch intracellular domain, NICD) だ け
係が注目されるようになってきた.それは血管新生
が産生されるような型になっていた.この NICD は
との関係である.Notch と血管の関係には大きく二
Notch シグナルとしては活性化型で,核内に移行し
つのステージがある 41).
て下流遺伝子の発現を持続的におこなった結果,細
初期の内皮前駆細胞は管状構造をつくり血管網を
胞増殖がとまらなくなったと考えられている.一般
形成する過程で,脈管発生(vasculogenesis)と呼
にシグナルがなくても常に活性化されるような遺伝
ぶ.最初血管内皮前駆細胞が中胚葉組織で誘導され
子変異を恒常活性化型(constitutive active form)と
ると,徐々に集合して中空構造をつくる.この管状
呼ぶが,int3 の誘導はまさにこの恒常活性化型変異
構造が同時期に進行している発生中の心臓と接続す
を Notch4 に引き起こしていた.
るとただちに血流が動き出す.この時期発生中の各
がん遺伝子としての Notch の存在はヒト白血病で
組織は活発な細胞増殖で厚みを増しており,その呼
も明らかになった
37)
.白血病は比較的単純な組み合
吸活動のために組織内の酸素濃度が低下する.こ
わせの遺伝子変異で起こされることが知られており,
の低酸素による刺激は血管内皮増殖因子(vascular
固形がんと異なって原因遺伝子がはっきりしている
endothelial growth factor, VEGF)の誘導を促し,内
ものが多い.染色体異常をともなうことも多く,遺
皮細胞の増殖を促す 42).増殖した内皮細胞は wnt,
伝子の部分欠失あるいは転座などによる異種遺伝子
shh など各種の細増殖・分化シグナルが誘導され,た
との融合が多い.その白血病のひとつにヒト T 細胞
だちに管状構造の形成と網状の高次立体構造を形成
急性白血病がある(TALL, T cell acute leukemia)
.
していく 43).一般的な臓器は発生が完了するまで完
これはレトロウイルスの一種 HTLV-1 感染で起こる
全な機能発現がないことが多いが,血管は例外で形
ATL(adult T cell leukemia)とは全く異なる病態で,
態形成をしながら血液循環という機能も発揮していく 44).
Notch 遺伝子の変異で活性化型になったため起こる
Notch シグナルはこの過程で動脈と静脈の分化に大
ことがわかってきた.現在 TALL の半分以上の症例
きく寄与している 45).Notch シグナルが誘導された
で,Notch 遺伝子の変異と活性化があると考えられ
血管系は内皮細胞の周囲に平滑筋細胞や線維芽細胞
ており,Notch 遺伝子ががん遺伝子と働く重要な証
が集まって増殖し,次第に血圧変動に耐えられる発
左となっている
38)
.
達した中膜組織を持つ動脈系が形成される.この機
能分化の過程で生じるこの変化は,広い意味での側
Ⅳ.血管形成と Notch シグナル
方抑制と関係していると考えられる.
それに対して一旦形成して循環する血管網の一部
上記のようにがん遺伝子として認識されるように
から新しく血管の分枝が起こり新しい血管網を形成
なった Notch だが,奇妙な点もある.それはがん遺
する.この過程を血管新生(angiogenesis)と呼ぶ.
伝子としての普遍性があまり高くないことである.
血管新生は発生期でも後期のステージでは連続して
通常のがん遺伝子やがん抑制遺伝子は発見された状
起こる.これは大きく発達する器官や組織の増殖に
況にはそれぞれ固有の経緯があるが,同定された遺
は初期の脈管形成で形成された血管だけでは不足な
伝子は細胞増殖や細胞周期と深く関わっており,さ
ためで,次々と枝を伸ばしていく.この過程でも使
まざまな病態でその活動とがん化の関係が確認され
用 さ れ る シ グ ナ ル は 脈 管 形 成 と 同 じ で,VEGF や
ている
39)
.その点 Notch は最初発見された乳腺腫瘍
を除くと圧倒的に白血病に偏っており,主に造血幹
wnt, Notch, shh などの各種増殖・分化シグナルが作
動している 46).
細胞の増殖と関係することが想定される 40).他の腫
瘍に関しては Notch シグナルの活性化があったとし
Ⅴ.
がんの浸潤とNotchシグナル
ても,それががん化の主たる原因とはみなされてい
ない.従って Notch が細胞のがん化に関係するのは
発生期を過ぎると Notch シグナルの発現部位がか
元々の性質である context dependent を反映してが
なり限局してくる.多くは脊髄中心管壁の上衣細胞
ん遺伝子としての側面は Notch シグナルの一面に過
など組織内幹細胞と関連がある組織が多い 47).しか
ぎないと言える.
し例外もあり,そのひとつが血管である.血管のと
しかし最近まったく別の面から Notch とがんの関
ころどころに Notch1 の発現が残存するが,その部位
−5−
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
に幹細胞が残存する証拠ははっきりしていない.し
しい位置づけはまだはっきりしないが,周皮細胞と
かし何かの原因で血管新生が起こると血管の Notch1
の関係から腫瘍周囲の間質に働きかけて血管誘導に
発現が急速に高くなる.一般に成体で血管新生が起
関わる可能性がある 55).
こるのは,何らかの血管障害で血液循環が阻害され
このように Notch シグナルはがん浸潤時の血管
た時である.そしてがんの血管新生に Notch が直接
新生と密接な関係があるが,Notch シグナルを抑制
関与していた
48)49)50)51)
.
すればがん浸潤や転移を抑制できる可能性がある.
血管との関係が指摘される Notch は Notch1 だけ
Notch シグナル活性化にはガンマセクレターゼが共
ではない.成人ヒトで起こる脳卒中疾患疾患の中に
通して必須なので,ガンマセクレターゼを抑制すれ
は,家族性発症をするタイプが少数だが知られてい
ば Notch シグナルが抑制できるはずである.しかし
て,そのひとつが CADASIL と呼ばれる遺伝性脳血
ガンマセクレターゼの基質は Notch だけでなく,ベー
管障害である
52)
.CADASIL は cerebral autosomal
タカテニンや APP など複数の細胞膜周辺蛋白があ
dominant arteriopathy with subcortical infarcts and
る.最近 Notch 活性化に関わるガンマセクレターゼ
leukoencephalopathy( 皮 質 下 梗 塞 と 白 質 変 性 を と
を抑制する物質候補も開発されてきた 56).この方面
もなう脳常染色体優性動脈障害)という長い名称の
から画期的な抗がん剤の開発ができる可能性がある.
略称である.この病気は北欧と日本で多いことこと
実際にこの種のガンマセクレターゼ阻害剤を用いて,
が知られている.組織学的な特徴として脳の表面か
脳腫瘍,肺がん,乳がんなどの悪性腫瘍患者に対し
ら白質に向かって穿通する中動脈の中膜に変性が
ての phase 1 臨床試験もおこなわれ,効果があるこ
起こる点があり,この変性部位に GOM(granular
とが報告された 57)58).しかし同時に下痢など消化管
osmiophilic material:顆粒状好オスミウム性物質電
系へのかなり強い副作用も報告されている 57)59).こ
顕のオスミウム染色像から来ている)と呼ばれる特
れには腸管上皮幹細胞のターンオーバーに関係する
殊な顆粒が沈着する.この血管障害にともなって血
Notch シグナルの抑制,他のガンマセクレターゼ基
管が破綻して脳梗塞や脳出血が起こり,皮質下の白
質反応へのクロス反応など幾つかの理由が考えられ
質 に 浮 腫 が 起 こ る. こ の CADASIL の 原 因 遺 伝 子
る.従来ガンマセクレターゼ阻害剤はアルツハイマー
が NOTCH3 であると判明した
53)
.Notch 3の発現
病治療のため APP 特異性があるものの開発が先行し
は発生期には血管内皮に到達する周皮細胞に見られ
ており,他の基質特異的なガンマセクレターゼ阻害
る.KO マウスを用いた実験から Notch 3は内皮細
剤の研究は遅れている.しかし候補物質は多数報告
胞の Jagged1 と反応して付着すると考えられてい
されているので,今後その中からの十分な探索が求
る.つまり血管新生で新たに形成された血管に周皮
められている.
細胞をまきつかせて構造を安定化していくと考えら
れる.Notch 3が欠損するとこの過程に不具合が起
用語解説
こり,血管が脆弱になると考えられている.しかし
CADASIL で見られる血管異常は脳の穿通動脈付近
シグナル
に限られる.理由ははっきりしないが,血圧などの
一般に細胞内外における物質を通した情報伝達を
物理的な抵抗の特異性と脳血管特有なグリア細胞の
指す.例えばホルモン分泌もシグナルの一種である.
血管内皮との接触(血液脳関門を形成する)が関係
その他細胞内の物質相互作用による情報伝達もシグ
する可能性がある.
ナルのひとつで,例えばホルモンが細胞の受容体に
血管形成と深い関係がある Notch 3に腫瘍浸潤時
の血管新生との関係が報告されるようになった
54)
.
作用して遺伝子発現を調節するのもシグナルと定義
できる.シグナルは一般に色々な物質を含むが,そ
悪性腫瘍が増殖すると血管新生が起こることはよく
の中で特に目立つ物質の名前を冠して,〜シグナル
知られている.大きな理由は腫瘍細胞が増殖すると
と称することが多い.
酸素が不足するようになり,結果として VEGF など
転写因子
血管新生に関係する因子が分泌されるからと考えら
転写とは DNA から RNA を作る過程を指し,一般
れる.また VEGF を自発的に発現する腫瘍も知られ
に DNA の遺伝情報を RNA の遺伝情報に転換するこ
ており,高い増殖性と転移能がある.Notch 3の詳
とを指す.この RNA を作る時 RNA ポリメラーゼと
−6−
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
総
説
呼ばれる酵素が働くが,それだけでは転写は起こら
9) Artavanis-Tsakonas, S., Muskavitch, M.A. &
ない.特定部位の DNA を指定しどれくらいの RNA
Yedvobnick, B. : Molecular cloning of Notch, a locus
量を作るかを決定するには別のタンパク質が必要で,
affecting neurogenesis in Drosophila melanogaster.
これを転写因子と呼ぶ.一般に転写には複数の転写
Proc Natl Acad Sci U S A. 80 : 1977-81, 1983
因子が関与し,RNA ポリメラーゼと複雑な複合体を
10) Vassin, H., Bremer, K.A., Knust, E. & Campos-Ortega,
形成する.
J.A. : The neurogenic gene Delta of Drosophila
ドメイン
melanogaster is expressed in neurogenic territories
元々の語意は「区域」の意味であるが,分子生物
and encodes a putative transmembrane protein with
学では物質の中の機能区分を指す.特にタンパク質
EGF-like repeats. EMBO J. 6 : 3431-40, 1987
は 1 分子に多くの機能単位を含むので,それに対応
11) Unified nomenclature for Eph family receptors
and their ligands, the ephrins. Eph Nomenclature
した「ドメイン」も多数存在する.
Committee. Cell. 90 : 403-4, 1997
文献
12) Rand, M.D., Lindblom, A., Carlson, J., Villoutreix, B.O.
& Stenflo, J. : Calcium binding to tandem repeats of
1) Kidd, S., Lockett, T.J. & Young, M.W. : The Notch
EGF-like modules. Expression and characterization of
locus of Drosophila melanogaster. Cell. 34 : 421-33,
the EGF-like modules of human Notch-1 implicated in
1983
receptor-ligand interactions. Protein Sci. 6 : 2059-71,
1997
2) Hartley, D.A., Xu, T.A. & Artavanis-Tsakonas, S.
The embryonic expression of the Notch locus of
13) Berndt, J.D. et al. : Mindbomb 1, an E3 ubiquitin
Drosophila melanogaster and the implications of point
ligase, forms a complex with RYK to activate Wnt/
mutations in the extracellular EGF-like domain of the
beta-catenin signaling. J Cell Biol. 194 : 737-50, 2011
14) Mikami, S., Nakaura, M., Kawahara, A., Mizoguchi, T.
predicted protein. EMBO J 6 : 3407-17, 1987
3) Vassin, H. & Campos-Ortega, J.A. : Genetic Analysis of
& Itoh, M. Mindbomb 2 is dispensable for embryonic
Delta, a Neurogenic Gene of Drosophila melanogaster.
development and Notch signalling in zebrafish. Biol
Genetics. 116 : 433-45, 1987
Open. 4 : 1576-82, 2015
4) Nye, J.S., Kopan, R. : & Axel, R. An activated Notch
15) Michellod, M.A. & Randsholt, N.B. : Implication of the
suppresses neurogenesis and myogenesis but not
Drosophila beta-amyloid peptide binding-like protein
gliogenesis in mammalian cells. Development. 120 :
AMX in Notch signaling during early neurogenesis.
2421-30, 1994
Brain Res Bull. 75 : 305-9, 2008
5) Cabrera, C.V. : Lateral inhibition and cell fate during
16) Zhang, Z. et al. : Presenilins are required for gamma-
neurogenesis in Drosophila: the interactions between
secretase cleavage of beta-APP and transmembrane
scute, Notch and Delta. Development. 110 : 733-42,
cleavage of Notch-1. Nat Cell Biol. 2 : 463-5, 2000
17) Kitagawa, M. et al. A human protein with sequence
1990
6) Siren, M. & Portin, P. : Interaction of hairless, delta,
similarity to Drosophila mastermind coordinates
enhancer of split and notch genes of Drosophila
the nuclear form of notch and a CSL protein to
melanogaster as expressed in adult morphology.
build a transcriptional activator complex on target
Genet Res. 54 : 23-6, 1989
promoters. Mol Cell Biol 21, 4337-46 (2001).
7) Fehon, R.G. et al. : Molecular interactions between
18) Jarriault, S. et al. : Delta-1 activation of notch-1
the protein products of the neurogenic loci Notch and
signaling results in HES-1 transactivation. Mol Cell
Delta, two EGF-homologous genes in Drosophila. Cell.
Biol. 18 : 7423-31, 1998
19) Umesono, Y., Hiromi, Y. & Hotta, Y. : Context-
61 : 523-34, 1990
dependent utilization of Notch activity in Drosophila
8) Weinmaster, G., Roberts, V.J. & Lemke, G. : Notch2 :
glial determination. Development. 129 : 2391-9, 2002
a second mammalian Notch gene. Development. 116 :
931-41, 1992
20) Guha, S. et al. : Glycogen synthase kinase 3 beta
−7−
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
positively regulates Notch signaling in vascular
32) Ogiso, Y. et al. : trans-Dominant suppressor mutations
smooth muscle cells: role in cell proliferation and
of the H-ras oncogene. Cell Growth Differ. 1 : 217-24,
survival. Basic Res Cardiol. 106 : 773-85, 2011
1990
21) Ruel, L., Bourouis, M., Heitzler, P., Pantesco, V. &
Simpson, P. :
33) Kakkanas, A. & Spandidos, D.A. : In vitro and in
Drosophila shaggy kinase and rat
vivo onco-suppressor activity of normal cells on cells
glycogen synthase kinase-3 have conserved activities
transformed with the H-ras1 oncogene. In Vivo. 4 :
and act downstream of Notch. Nature. 362 : 557-60,
109-14, 1990
1993
34) Mitselou, A. et al. : Immunohistochemical study of
22) Dunwoodie, S.L., Henrique, D., Harrison, S.M. &
apoptosis-related Bcl-2 protein and its correlation with
Beddington, R.S. : Mouse Dll3: a novel divergent
proliferation indices (Ki67, PCNA), tumor suppressor
Delta gene which may complement the function
genes (p53, pRb), the oncogene c-erbB-2, sex steroid
of other Delta homologues during early pattern
hormone receptors and other clinicopathological
formation in the mouse embryo. Development. 124 :
features, in normal, hyperplastic and neoplastic
3065-76, 1997
endometrium. In Vivo. 17 : 469-77, 2003
23) Lindsell, C.E., Shawber, C.J., Boulter, J. & Weinmaster,
35) Schwartz, M.S., Smith, G.H. & Medina, D. : The effect
G. : Jagged: a mammalian ligand that activates
of parity, tumor latency and transplantation on the
Notch1. Cell. 80 : 909-17, 1995
activation of int loci in MMTV-induced, transplanted
24) Lardelli, M., Williams, R. & Lendahl, U. : Notch-related
C3H mammary pre-neoplasias and their tumors. Int J
genes in animal development. Int J Dev Biol. 39 : 76980, 1995
Cancer. 51 : 805-11, 1992
36) Smith, G.H. et al. : Constitutive expression of a
25)
Preusse, K. et al. : Context-Dependent Functional
truncated INT3 gene in mouse mammary epithelium
Divergence of the Notch Ligands DLL1 and DLL4 In
impairs differentiation and functional development.
Vivo. PLoS Genet. 11 : e1005328, 2015
Cell Growth Differ. 6 : 563-77, 1995
26) Shimizu, K. et al. : Functional diversity among Notch1,
37) Yan, X.Q. et al. : A novel Notch ligand, Dll4, induces
Notch2, and Notch3 receptors. Biochem Biophys Res
T-cell leukemia/lymphoma when overexpressed in
Commun. 291 : 775-9, 2002
mice by retroviral-mediated gene transfer. Blood. 98 :
27) Sambrook, J. et al. : Viral DNA sequences in cells
3793-9, 2001
transformed by simian virus 40, adenovirus type
38) Demarest, R.M., Dahmane, N. & Capobianco, A.J.
2 and adenovirus type 5. Cold Spring Harb Symp
: Notch is oncogenic dominant in T-cell acute
Quant Biol. 39 Pt 1 : 615-32, 1975
lymphoblastic leukemia. Blood 117 : 2901-9, 2011
28) Hammond, C.I., Vogt, P.K. & Bishop, J.M. : Molecular
39) Denko, N.C., Giaccia, A.J., Stringer, J.R. & Stambrook,
cloning of the PRCII sarcoma viral genome and the
P.J. : The human Ha-ras oncogene induces genomic
chicken proto-oncogene c-fps. Virology. 143 : 300-8,
instability in murine fibroblasts within one cell cycle.
1985
Proc Natl Acad Sci U S A. 91 : 5124-8, 1994
29) Verbeek, J.S. et al. : Molecular cloning of the feline
40) Jeffries, S., Robbins, D.J. & Capobianco, A.J. :
c-fes proto-oncogene and construction of a chimeric
Characterization of a high-molecular-weight Notch
transforming gene. Gene. 35 : 33-43, 1985
complex in the nucleus of Notch(ic)-transformed RKE
30) Robson, B. et al. : Prediction of the conformation and
cells and in a human T-cell leukemia cell line. Mol
antigenic determinants of the V-sis viral oncogene
product homologous with human platelet-derived
Cell Biol. 22 : 3927-41, 2002
41) Liu, Z.J. et al. : Regulation of Notch1 and Dll4 by
growth factor. Int J Pept Protein Res. 25 : 1-8, 1985
vascular endothelial growth factor in arterial
31)Finlay, C.A., Hinds, P.W. & Levine, A.J. : The
endothelial cells: implications for modulating
p53 proto-oncogene can act as a suppressor of
arteriogenesis and angiogenesis. Mol Cell Biol. 23: 14-
transformation. Cell. 57 : 1083-93, 989
25, 2003
−8−
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
総
説
42) Klein-Soyer, C., Stierle, A., Bouderbala, B. & Cazenave,
55) Krebs, L.T. et al. : Characterization of Notch3-deficient
J.P. : Effects of an extract of human brain containing
mice: normal embryonic development and absence of
growth factor activity on the proliferation of human
genetic interactions with a Notch1 mutation. Genesis.
vascular endothelial cells in primary culture. Biol Cell.
37 : 139-43, 2003
52 : 9-19, 1984
56) Konishi, J. et al. : Gamma-secretase inhibitor prevents
43) Katoh, Y. & Katoh, M. : Comparative integromics on
Notch3 activation and reduces proliferation in human
VEGF family members. Int J Oncol. 28 : 1585-9, 2006
lung cancers. Cancer Res. 67 : 8051-7, 2007
44) Zeng, Q. et al. : Crosstalk between tumor and
57) K r o p , I . e t a l . : P h a s e I p h a r m a c o l o g i c a n d
endothelial cells promotes tumor angiogenesis by
pharmacodynamic study of the gamma secretase
MAPK activation of Notch signaling. Cancer Cell. 8 :
(Notch) inhibitor MK-0752 in adult patients with
13-23, 2005
advanced solid tumors. J Clin Oncol. 30 : 2307-13, 2012
45) Zhong, T.P., Childs, S., Leu, J.P. & Fishman, M.C.
58) Dai, L. et al. : Differential profiling studies of N-linked
: Gridlock signalling pathway fashions the first
glycoproteins in glioblastoma cancer stem cells
embryonic artery. Nature. 414 : 216-20, 2001
upon treatment with gamma-secretase inhibitor.
46)
Limbourg, F.P. et al. : Essential role of endothelial
Proteomics. 11 : 4021-8, 2011
Notch1 in angiogenesis. Circulation. 111 : 1826-32, 2005
59) Messersmith, W.A. et al. : A Phase I, dose-finding
47) Carlen, M. et al. : Forebrain ependymal cells are
study in patients with advanced solid malignancies of
Notch-dependent and generate neuroblasts and
the oral gamma-secretase inhibitor PF-03084014. Clin
astrocytes after stroke. Nat Neurosci 12 : 259-67, 2009
Cancer Res. 21 : 60-7, 2015
48) Li, J.L. & Harris, A.L. : Notch signaling from tumor
cells: a new mechanism of angiogenesis. Cancer Cell.
8 : 1-3, 2005
49) Funahashi, Y. et al. : A notch1 ectodomain construct
inhibits endothelial notch signaling, tumor growth,
and angiogenesis. Cancer Res. 68 : 4727-35, 2008
50) Proia, T. et al : 23814, an Inhibitory Antibody of
Ligand-Mediated Notch1 Activation, Modulates
Angiogenesis and Inhibits Tumor Growth without
Gastrointestinal Toxicity. Mol Cancer Ther. 14 : 185867, 2015
51) Liu, Z. et al : Notch1 loss of heterozygosity causes
vascular tumors and lethal hemorrhage in mice. J
Clin Invest. 121 : 800-8, 2011
52) R u t t e n , J . & L e s n i k O b e r s t e i n , S . A . J . : i n
GeneReviews(R) : (eds. Pagon, R.A. et al. Seattle (WA),
1993
53) Joutel, A. et al. Notch3 mutations in CADASIL, a
hereditary adult-onset condition causing stroke and
dementia. Nature 383, 707-10 (1996).
54) Ruchoux, M.M. et al. Transgenic mice expressing
mutant Notch3 develop vascular alterations
characteristic of cerebral autosomal dominant
arteriopathy with subcortical infarcts and
leukoencephalopathy. Am J Pathol 162, 329-42 (2003).
−9−
受理日:2016 年 2 月 8 日
Notch シグナルとがんの増殖・浸潤
− 10 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【Original Article】
Association between changes in serum levels of N-terminal
pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in
hemodialysis patients
Shigeru OTSUBO1) Nobuhiko JOKI2) Yuri TANAKA2) Takeshi NAKANISHI3)
Takahiro KURAGANO3) Tomokatsu SAIJO4) Hiroki HASE2)
Abstract
Background
An increase in the NT-pro-BNP level is reported to be a risk factor associated with mortality among hemodialysis
patients. We investigated the change in NT-proBNP during a 12-month period and investigated factors capable of
predicting changes in NT-proBNP among hemodialysis patients.
Methods
A total of 54 hemodialysis patients were enrolled. We set the baseline at 12 months after the start of the study and
investigated the patient outcome during the subsequent 24 months. First, we investigated the risk factors (including
the NT-proBNP ratio [baseline versus 12 months before the baseline]) associated with mortality. We also studied the
relationship between the NT-proBNP ratio and several clinical factors at 12 months before the baseline.
Results
A univariate Cox proportional hazard analysis identified a high NT-proBNP ratio as a predictor of mortality (hazard
ratio, 2.19; P < 0.001). Interestingly, the NT-proBNP ratio was positively correlated with the heart rate (P < 0.001).
Conclusion
We confirmed that an increase in NT-proBNP during a 12-month period, which was a relatively long observation
period, was a risk factor associated with mortality in hemodialysis patients. We also found that the heart rate was a
predictor of a change in the NT-proBNP level.
Key words:heart rate, hemodialysis, mortality, N-terminal pro-brain natriuretic peptide
Ⅰ.Introduction
(BNP) has received increasing attention. 2) BNP
belongs to a family of natriuretic peptides that plays
Hemodialysis patients manifest significantly
a major role in the regulation of blood pressure
higher cardiovascular morbidity and mortality rates,
and extracellular volume through the stimulation
compared with age-matched counterparts who are
of natriuresis.3) BNP is produced by the ventricular
not receiving dialysis. 1) As a novel biomarker for
myocardium in response to increased myocardial
cardiovascular disease, brain natriuretic peptide
wall stress 4) as a prehormone; upon release into
1)
Department of Blood Purification, Sangenjaya Hospital, Tokyo, Japan
Department of Nephrology, Toho University Ohashi Medical Center, Tokyo, Japan
3)
Division of Kidney and Dialysis, Department of Internal Medicine, Hyogo College of Medicine, Nishinomiya, Japan
4)
Department of Nephrology, Saijo Clinic Takaban, Tokyo, Japan
2)
− 11 −
Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in hemodialysis patients
the circulation, this prehormone is cleaved into
hematological disorders, or severe liver dysfunction;
a biologically active C-terminal fragment (BNP)
and patients who received anti-inflammatory drugs
and a biologically inactive N-terminal fragment
or immunosuppressive agents. All the patients
(N-terminal pro-brain natriuretic peptide [NT-
provided informed consent in accordance with
5)
proBNP]). The NT-proBNP concentration is a
the requirements of the Ethics Review Board
useful tool for screening for cardiac abnormalities in
(UMIN000000687). Among the nine areas (Tokyo,
6)7)
Furthermore, the change
Saitama, Kyoto, Osaka, Hyogo, Kagawa, Fukuoka,
in the NT-proBNP concentration after 3 months was
Miyazaki, and Kumamoto) included in the TRAP
reportedly associated with subsequent mortality in
study, measurements of the NT-proBNP level
hemodialysis patients.
2)
hemodialysis patients. An increase in NT-proBNP
were only recommended in the Tokyo area (16
over a 6-month period was also a risk factor for
facilities, n = 122) for this sub-analysis. A total of
sudden death and cardiac death and was associated
54 hemodialysis patients in the Tokyo area whose
with mortality in hemodialysis patients with type
NT-proBNP levels were examined at the start of
8)
2 diabetes mellitus. Another recent report that
the study and again at 12 months thereafter were
monitored the monthly NT-proBNP levels showed
enrolled (Figure 1). We set the baseline at 12 months
that an increase in NT-proBNP measurements was
after the start of the TRAP study and investigated
associated with a risk of developing congestive
the patient outcome during the subsequent 24
heart failure within the next month in hemodialysis
months (Figure 2).
9)
patients. Thus, preventing increases in the serum
NT-proBNP level is likely to be very important
Figure 1.Disposition of the subjects.
for preventing cardiovascular events and reducing
the mortality rate. In the present study, we
Total TRAP study patients
N=1095
investigated the change in the NT-proBNP level
during a 12-month period, which was a relatively
Exclusion criteria
Other 8 areas n=973
long observation period, and examined whether
an increase in the NT-proBNP level was a risk
Tokyo area patients
N=122
factor associated with mortality during the next 24
months. In addition, we also investigated whether
Exclusion criteria
NT-proBNP levels were not
examined at the start of the
study and again at 12 months
thereafter. n=68
any factors were capable of predicting changes in
the NT-proBNP level among hemodialysis patients.
Ⅱ.Materials and Methods
Final entry patients
N=54
This study was performed as a regional subanalysis for a prospective study known as
Treatment for Renal Anemia on Prognosis
Figure 2.Baseline and observation period.
in hemodialysis patients (TRAP), which was
a 36-month prospective study examining the
12 months
before the base line
treatment of renal anemia at 60 dialysis facilities
Base line
NT-proBNP
in Japan (n = 1095) that began in June 2007.
NT-proBNP
Observation period (24 month)
The following patients were excluded from the
present study: patients who received maintenance
hemodialysis for <1 year; patients aged >75 years;
patients with chronic inflammation, malignancy,
12 months
Start of the TRAP study
− 12 −
24 months
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
原
著
Blood pressure and heart rate were measured
before hemodialysis therapy. A peripheral blood
S.D. Because of the skewed distribution of the
sample was obtained before hemodialysis on a
NT-proBNP levels, the data were normalized
Monday or a Tuesday. The serum NT-proBNP level
using a logarithmic transformation for further
in the pre-dialysis blood sample was measured using
statistical analysis. The Student t-test was used
an electrochemiluminescence immunoassay on an
for comparisons between continuous variables. A
Elecsys platform (Roche, Basel, Switzerland).
univariate Cox proportional hazards model was
The NT-proBNP ratio (baseline versus 12 months
used to identify predictors of overall survival. A
before the baseline) was estimated. Clinical data
simple regression analysis was used to examine the
including age, sex, duration of hemodialysis therapy,
relationship between two continuous variables. All
blood pressure, heart rate, use of drugs, and biological
the statistical calculations were performed using the
examinations at the time of both 12 months before
JMP 5.1 software program. P values of less than 0.05
baseline and at baseline were collected from the
were considered to denote statistical significance.
All the data were expressed as the mean
±
patients’records. The clinical endpoint was death from
Ⅲ.Results
any cause. We then investigated the factors capable
of predicting mortality. We compared the NT-proBNP
ratio (baseline versus 12 months before baseline) and
several clinical factors at 12 months before the baseline.
baseline are shown in Table 1. The mean age
The patients’ background characteristics at
Table 1.Background characteristics of the study participants at the time of baseline
Alive (n=49)
Dead (n=5)
Total (n=54)
P value
61.2 ± 11.7
63.4 ± 8.8
61.4 ± 11.4
ns
28 / 21
4/1
32 / 22
ns
125.5 ± 114.6
116.2 ± 53.5
124.6 ± 110.1
ns
Chronic glomerulonephritis
24
2
26 (48.1)
Diabetic Nephropathy
13
3
16 (29.6)
Nephrosclerosis
3
0
3 (5.6)
Polycystic kidney disease
3
0
3 (5.6)
Unknown and others
6
0
6 (11.1)
8
0
8 (14.8)
ns
6
0
6 (11.1)
ns
31
3
34 (63.0)
ns
149 ± 20
156 ± 14
149 ± 20
ns
79 ± 14
76 ± 9
79 ± 14
ns
Quantity
Age (year)
Men / Women
Duration of HD (month)
Primary Cause of ESKD, n (%)
Drug usage, n (%)
Beta-blocker
Angiotensin converting
enzyme inhibitor
Angiotensin II receptor
blocker
Systolic blood pressure
(mmHg)
Diastolic blood pressure
(mmHg)
74 ± 13
78 ± 11
75 ± 13
ns
Creatinine (mg/dL)
Heart rate (beat per minute)
11.1 ± 2.6
10.2 ± 3.7
11.0 ± 2.7
ns
HS-CRP (mg/dL)
0.23 ± 0.38
0.80 ± 1.12
0.28 ± 0.50
0.013
Prealbumin (g/dL)
35.1 ± 8.4
28.2 ± 5.8
34.4 ± 8.4
ns
Hemoglobin (g/dL)
10.5 ± 1.1
10.7 ± 0.7
10.6 ± 1.1
ns
6386 ± 7191
NT-proBNP (pg/mL)
5138 ± 4374
18620 ± 15796
Log [NT-ProBNP]
8.2 ± 0.9
9.3 ± 1.3
8.3 ± 1.0
0.014
NT-ProBNP ratio*
1.3 ± 0.7
6.6 ± 5.1
1.8 ± 2.2
<0.0001
HD: hemodialysis, ESKD: end-stage kidney disease, HS-CRP: high-sensitivity C-reactive protein,
NT-proBNP: N-terminal pro-brain natriuretic peptide
*: Ratio of base line versus 12 months before base line
− 13 −
Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in hemodialysis patients
was 61.4 ± 11.4 years, and the mean duration of
of diabetic nephropathy showed a tendency toward
hemodialysis therapy was 124.6 ± 110.1 months.
being a risk factor associated with mortality (P =
The table also includes the primary causes of end-
0.061). Table 3 shows the changes in the NT-proBNP
stage kidney disease, drug usage, blood pressure,
level among the cases that died. Increases in NT-
heart rate, and the results of the biochemistry tests.
proBNP were observed in all the cases that died.
The mean follow-up period was 1.8 ± 0.4
Table 4 shows the relationship between several
years. During the follow-up period, 5 deaths were
clinical factors at 12 months before baseline and
recorded. The cause of death was infection in 3
the NT-proBNP ratio. The NT-proBNP ratio was
patients, cardiovascular disease in one patient, and
positively correlated with the heart rate (P = 0.0002).
a tumor in one patient. A comparison of the cases
The NT-proBNP ratio could be predicted using the
that survived and those that died is shown in Table
following formula:
1. HS-CRP, log [NT-proBNP], and the NT-proBNP
ratio were significantly higher among the cases that
(beats/min).
died.
Table 2 shows a Cox proportional hazard
would not change (ratio = 1) when the heart rate
analysis of covariates for the prediction of mortality.
was 65 beats/min. When the heart rate was 78
In the univariate analysis, predictors of mortality
beats/min, the NT-proBNP ratio would double (ratio
included a high serum level of high-sensitivity
= 2).
Ratio of NT-proBNP = -3.86 + 0.075 x heart rate
According to the formula, the NT-proBNP ratio
C-reactive protein (HS-CRP), a low serum level of
prealbumin, and a high NT-proBNP ratio (P = 0.034,
P = 0.020 and P < 0.001, respectively). The presence
Table 2.Cox proportional hazards analysis of the covariates for all
cause of death (univariate analysis)
Hazard Ratio (95% CI)
P value
Age (per year)
0.99 (0.91 - 1.10)
0.847
Duration of HD (per month)
1.00 (0.99 - 1.01)
0.771
Diabetic Nephropathy (Y)
2.67 (0.96 - 12.0)
0.061
Systolic blood pressure (per mmHg)
1.02 (0.97 - 1.06)
0.482
Diastolic blood pressure (per mmHg)
1.01 (0.94 - 1.08)
0.820
Heart rate (per beat per minute)
1.01 (0.94 - 1.08)
0.690
Creatinine (per mg/dL)
0.91 (0.60 - 1.34)
0.625
HS-CRP (per mg/dL)
4.59 (1.15 - 16.72)
0.034
Prealbumin (per g/dL)
0.83 (0.67 - 0.97)
0.020
Hemoglobin (per g/dL)
1.23 (0.52 - 2.17)
0.582
Log [NT-ProBNP] (per 1)
3.38 (0.97 - 14.82)
0.056
Factors of 12 months before
NT-ProBNP ratio* (per 1)
2.19 (1.42 - 4.86)
<0.001
Table 4.The relationship between several factors of
12 months before the baseline and ratio of
N-terminal pro-brain natriuretic peptide
r
P value
Age (year)
0.158
0.254
HS-CRP: high-sensitivity C-reactive protein,
NT-proBNP: N-terminal pro-brain natriuretic peptide
Duration of HD (month)
-0.130
0.347
Creatinine (mg/dL)
-0.011
0.935
*: Ratio of base line versus 12 months before base line
HS-CRP(mg/dL)
0.030
0.827
Prealbumin (g/dL)
-0.166
0.229
Hemoglobin (g/dL)
-0.103
0.460
Systolic blood pressure (mmHg)
0.093
0.503
Diastolic blood pressure (mmHg)
0.064
0.646
Heart rate (beat per minute)
0.483
<0.001
HD: hemodialysis, HS-CRP: high-sensitivity
C-reactive protein
− 14 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
Ⅳ.Discussion
原
著
lower in obese patients.13) It has been hypothesized
that adipocytes play a role in the clearance of
Our results confirmed that an increase in the
natriuretic peptides.14) In this study, we could not
NT-proBNP level is a risk factor associated with
found an association between the NT-proBNP ratio
mortality among hemodialysis patients. As a
and inflammation or nutritional factors, such as
predictor of a change in the NT-proBNP level, the
age or the creatinine, HS-CRP, or prealbumin level.
heart rate was found to be associated with the NT-
Further large-scale studies are needed to confirm
proBNP ratio.
these relationships.
Natriuretic peptides, such as atrial natriuretic
In our study, the heart rate was associated
peptide (ANP) and BNP, are affected by the
with the NT-proBNP ratio. An elevated resting
volume status, and their levels decrease during
heart rate was associated with an increased risk of
hemodialysis therapy. ANP has been reported to be
incident heart failure in asymptomatic participants
more responsive to changes in intravascular volume
in the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis
because of its smaller molecular size and shorter
(MESA) trial. A higher heart rate was correlated
half-life, whereas NT-proBNP has a larger molecular
with the development of regional and global left
size and longer half-life, making it less affected by
ventricular dysfunction independent of subclinical
In previous studies
atherosclerosis and coronary heart disease. 15) An
examining the relationship between NT-proBNP
elevated heart rate is a known risk factor in the
and cardiac death or mortality, pre-dialysis serum
general population and in a variety of diseases and
samples, not post-dialysis samples, were used to
independently predicts early death.16)17)18) According
estimate the NT-proBNP level.8)9) Consequently, we
to the NHANES study and the Framingham study,
investigated the pre-dialysis NT-proBNP level in the
a pulse of greater than 84-85 beats/minute is the
present study.
clinical cutoff for a risk of cardiovascular disease or
NT-proBNP has been identified as a strong
mortality.16)17)Recently, an elevated heart rate has
predictor of mortality, 11) and an increase in NT-
been reported to be a predictor of cardiovascular
proBNP is also a risk factor associated with
events in hemodialysis patients as well.19)20)21)Inoue
mortality in hemodialysis patients. 2)8)9) In our
et al. reported that receiver operating characteristic
study, the NT-proBNP level tended to be a risk
curves identified a heart rate cut-off level of ≥80
factor associated with mortality, but the trend
beats/minute for increased adverse outcomes in
was not significant (P = 0.056), possibly because
hemodialysis patients.19) In the present study, the
of the relatively small number of participants in
heart rate did not significantly affect mortality,
this study. An increase in NT-proBNP may have a
but this outcome might have been caused by the
greater influence on mortality than the NT-proBNP
relatively small number of subjects enrolled in this
level itself. The previously reported observation
study. On the other hand, an increase of 100% NT-
periods for changes in NT-proBNP were 1, 3, and 6
proBNP was associated with a higher risk of sudden
sudden changes in volume.
whereas the period in our study was 12
death, cardiovascular events, and mortality.7) The
months. We confirmed that the change in the NT-
Japanese Heart Failure Society announced that
proBNP level over a 12-month period, which was a
early treatment is important when the NT-proBNP
relatively long observation period, was also a risk
level is more than twice the previously measured
factor associated with mortality.
value.22) These two reports suggest that a change in
Recently, a high HS-CRP level, a poor nutritional
the NT-proBNP level of more than double may have
status, and an old age were reported to be
a significant impact. Interestingly, the NT-proBNP
correlated with an increased variability in the NT-
ratio was positively correlated with the heart rate
proBNP level.12) NT-proBNP has been shown to be
at 12 months before the baseline. A two-fold NT-
months,
2)
8)
9)
10)
− 15 −
Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in hemodialysis patients
proBNP ratio was associated with a heart rate of 78
Recently, the predialysis NT-proBNP level was
beats/min. Thus, maintaining a heart rate of below
reported to predict the magnitude of extracellular
78 beats/min, which is almost the same as Inoue’s
volume overload in hemodialysis patients. 28)
cut-off level, might be important.
However, we could not estimate the change in
Based on Hase’s“compensatory mechanism
for progression of heart failure and its collapse”
theory,
23)
the possible correlation between the
the extracellular volume status. We also could not
investigate the previous history of cardiovascular
disease, which is another predictor of mortality.
NT-proBNP level and the heart rate is shown in
Figure 3. Myocardial damage, such as ischemic
cardiomyopathy, results in left ventricular dilatation
and systolic dysfunction. As a compensative
reaction to left ventricular dysfunction, the
Figure 3.Compensatory mechanisms for
progression of heart failure and its collapse.
sympathetic nervous system is activated by the
renin-angiotensin system or other neurohumoral
factors. These factors act to increase the venous
return volume and to increase ventricular filling,
thereby increasing the stroke volume (the FrankStarling mechanism).24) The activated sympathetic
nervous system also directly increases cardiac
output and the heart rate to compensate for the
left ventricular dysfunction. In contrast, the reninangiotensin system or other neurohumoral factors
lead to myocardial remodeling, cardiomyocyte
hypertrophy, and myocardial interstitial fibrosis,
Ⅴ.Conclusion
23)
which adversely affect the left ventricular function.
BNP is secreted by cardiac myocytes in response
We confirmed that an increase in NT-proBNP
to myocardial stretching and overloading and is an
during a 12-month period, which was a relatively
important regulator of blood volume homeostasis
long observation period, was an independent risk
through its diuretic, natriuretic, and vasodilating
factor associated with mortality among hemodialysis
25)26)
actions by inhibiting renin and aldosterone.
BNP
patients. We also found that heart rate was a
also appears to play a role in the prevention of
predictor of a change in the NT-proBNP level.
27)
28)29)
Therefore, the increase in the
Maintaining a heart rate of less than 78 beats per
heart rate and the elevation in the BNP level belong
minute might be important for preventing a change
to the same series of consequences. As myocardial
in the NT-proBNP level of more than double, which
remodeling affects cardiac dilatation, which develops
has been reported to be associated with adverse
cardiac fibrosis.
slowly over a number of months,
24)
the heart rate
cardiovascular events.
starts to increase earlier than the increase in NTproBNP. Thus, the prevention of this malignant
Acknowledgement
circle may be important.
We gratefully acknowledge the efforts
The present study had several limitations. The
and contributions of the dialysis facilities that
small number of patients involved could reduce
participated in this study: Komazawa Dialysis
the study power. The effect of drugs such as beta-
Clinic, Nissan Tamagawa Hospital, Shibagaki
blockers, which affect heart rate, could not be
Dialysis Clinic Jiyugaoka, Yoshikawa Hospital,
estimated. Further large-scale study will be needed.
Aoba Hospital, Kuroda Meidaimae Clinic,
− 16 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
原
著
Sakurashinmachi clinic, Kidney Clinic Setagaya,
März W, et al. : Change in N-terminal-pro-B-type-
Futakotamagawaekimae Clinic, Miyamaedairakenei
natriuretic-peptide and the risk of sudden death,
Clinic, Shibuyasinminamiguchi Clinic, Shibagaki
stroke, myocardial infarction, and all-cause mortality
Dialysis Clinic Togoshi, and Saijo Clinic Shimouma.
in diabetic dialysis patients. Eur Heart J. 29:2092–2099,
2008
Disclosure
9) Pastural-Thaunat M, Ecochard R, Boumendjel N,
The authors state that they have no conflicts of
Abdullah E, Cardozo C, et al. : Relative Change in
interest (COI) to report.
NT-proBNP Level: An Important Risk Predictor of
Cardiovascular Congestion in Haemodialysis Patients.
References
Nephron Extra. 2:311–318, 2012
10) Kumar S, Khosravi M, Massart A, Davenport
1) Sarnak MJ, Levey AS, Schoolwerth AC, Coresh
A : Is there a role for N-terminal probrain-type
J, Culleton B, et al. : Kidney disease as a risk
natriuretic peptide in determining volume status in
factor for development of cardiovascular disease:
haemodialysis patients? Nephron Clin Pract. 122:33-37,
a statement from the American Heart Association
2012
Councils on Kidney in Cardiovascular Disease, High
11) Sun L, Sun Y, Zhao X, Xu C, Chen D, et al. : Predictive
Blood Pressure Research, Clinical Cardiology, and
role of BNP and NT-proBNP in hemodialysis patients.
Nephron Clin Pract. 110:c178–c184, 2008
Epidemiology and Prevention. Hypertension. 42:1050-
12) Snaedal S, Qureshi AR, Carrero JJ, Heimbürger O,
1065, 2003
2) Gutiérrez OM, Tamez H, Bhan I, Zazra J, Tonelli
Stenvinkel P, et al. : Determinants of N-terminal pro-
M, et al. : N-terminal pro-B-type natriuretic peptide
brain natriuretic peptide variation in hemodialysis
(NT-proBNP) concentrations in hemodialysis
patients and prediction of survival. Blood Purif.
patients: prognostic value of baseline and follow-up
37:138-145, 2014
13) Lorgis L, Cottin Y, Danchin N, Mock L, Sicard P,
measurements. Clin Chem. 54:1339–1348, 2008
et al. : Impact of obesity on the prognostic value of
3) Levin ER, Gardner DG, Samson WK : Natriuretic
the N-terminal pro-B-type natriuretic peptide (NT-
peptides. N Engl J Med. 339:321–328, 1998
proBNP) in patients with acute myocardial infarction.
4) Wang AY, Lai KN : Use of cardiac biomarkers in end-
Heart. 97:551-556, 2011
stage renal disease. J Am Soc Nephrol. 19:1643–1652,
14) Wang TJ, Larson MG, Levy D : Impact of obesity on
2008
plasma natriuretic peptide levels. Circulation. 109:594-
5) Weber M, Hamm C : Role of B-type natriuretic
600, 2004
peptide (BNP) and NT-proBNP in clinical routine.
15) Opdahl A, Ambale Venkatesh B, Fernandes VR, Wu
Heart. 92:843–849, 2006
6) Iwasaki M, Joki N, Tanaka Y, Ikeda N, Hayashi T,
CO, Nasir K, et al. : Resting heart rate as predictor
et al. : Efficacy of N-terminal pro-brain natriuretic
for left ventricular dysfunction and heart failure:
peptide digit number for screening of cardiac disease
MESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis). J Am
in new haemodialysis patients. Nephrology. 18:497–
Coll Cardiol. 63:1182–1189, 2014
16) Gillman MW, Kannel WB, Belanger A, D'Agostino RB
504, 2013
7) Locatelli F, Hannedouche T, Martin-Malo A, Jacobson
: Influence of heart rate on mortality among persons
SH, Vanholder R, et al. : The relationship of NT-
with hypertension: the Framingham Study. Am Heart
proBNP and dialysis parameters with outcome of
J. 125:1148–1154, 1993
incident haemodialysis patients: results from the
17) Gillum RF, Makuc DM, Feldman JJ : Pulse rate,
membrane permeability outcome study. Blood Purif.
coronary heart disease, and death: the NHANES I
35:216–223, 2013
Epidemiologic Follow-up Study. Am Heart J. 121:172–
8) Winkler K, Wanner C, Drechsler C, Lilienthal J,
− 17 −
177, 1991
Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in hemodialysis patients
18) Fox K, Borer JS, Camm AJ, Danchin N, Ferrari R, et
29) Glezeva N, Collier P, Voon V, Ledwidge M, McDonald
al. : Resting heart rate in cardiovascular disease. Am
K, et al. : Attenuation of monocyte chemotaxis-a novel
Coll Cardiol. 50:823–830, 2007
anti-inflammatory mechanism of action for the cardio-
19) Inoue T, Tokuyama K, Yoshi S, Nagayoshi N, Iseki C,
et al. : Elevated resting heart rate is an independent
protective hormone B-type natriuretic peptide. J
Cardiovasc Transl Res. 6:545–557, 2013
predictor of all-cause death and cardiovascular events
in Japanese hemodialysis patients. Clin Exp Nephrol.
16:938–944, 2012
20)
Cice G, Di Benedetto A, D’Andrea A, D'Isa S,
De Gregorio P, et al. : Heart rate as independent
prognostic factor for mortality in normotensive
hemodialysed patients. J Nephrol. 21:704–712, 2008
21) Tanaka Y, Joki N, Iwasaki M, Nikolov IG, Takahashi Y,
et al. : Increment of monthly mean predialysis heart
rate reflects early cardiac overload in hemodialysis
patients with normal cardiac function. J Nephrol.
24:185–191, 2011
22) Saito Y : Cut-off values of BNP and NT-proBNP in
management of heart failure. Cardioangiology. 75:320–
324, 2014
23) Hase H : How to use drugs for dialysis patients: heart
failure. Kidney and Dialysis. 74:supple 470–474, 2013
24) Colucci W, Braunwald E : Pathophysiology of heart
failure. in : Heart disease. 6th ed Braunwald Ed.
Saunders, Philadelphia: 503–533, 2011
25) Nishikimi T, Maeda N, Matsuoka H : The role of
natriuretic peptides in cardioprotection. Cardiovasc
Res. 69:318–328, 2006
26) Blaauw E, van Nieuwenhoven FA, Willemsen P,
Delhaas T, Prinzen FW, et al. : Stretch-induced
hypertrophy of isolated adult rabbit cardiomyocytes.
Am J Physiol Heart Circ Physiol. 299:780–787, 2010
27) Kapoun AM, Liang F, O’Young G, Damm DL,
Quon D, et al. : B-type natriuretic peptide exerts
broad functional opposition to transforming growth
factor-beta in primary human cardiac fibroblasts:
fibrosis, myofibroblast conversion, proliferation, and
inflammation. Circ Res. 94:453–461, 2004
28) Watson CJ, Phelan D, Xu M, Collier P, Neary R,
et al. : Mechanical stretch up-regulates the B-type
natriuretic peptide system in human cardiac
fibroblasts: a possible defense against transforming
growth factor- β mediated fibrosis. Fibrogenesis
Tissue Repair. 7:9, 2012
− 18 −
Received: 20 May, 2015 Accepted: 28 September, 2015
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
原
著
【原著】
血液透析患者における血清ヒト脳性ナトリウム
利尿ペプチド前駆体 N 端フラグメント
大坪 茂 1) 常喜 信彦 2) 田中 友里 2) 中西 健 3)
倉賀野 隆裕 3) 西條 公勝 4) 長谷 弘記 2)
要 旨
【目的】NT-proBNP 値の上昇は血液透析患者の生命予後に対する危険因子といわれている . 我々は 12 ヶ月の NT-proBNP
の変化を予見する因子について調べた .
【方法】血液透析患者 54 名を対象とした . 研究開始 12 ヶ月後をベースラインとし , NT-proBNP の変化率(ベースライン
とその 12 ヶ月前の比)を含む種々の因子とその後の 24 ヶ月の生命予後との関連を調べ , その NT-proBNP の変化率と研
究開始時の各因子との関連を調べた .
【結果】単変量コックス比例ハザード分析にて NT-proBNP の変化率は生命予後の危険因子であった(Hazard Ratio 2.19, P
< 0.001)
. NT-proBNP の変化率は心拍数と正の相関を示した(P < 0.001).
【結論】NT-proBNP の 12 ヶ月間での変化率上昇は透析患者の生命予後の危険因子であった . 心拍数は NT-proBNP の変
化を予見した .
キーワード:血液透析 , 死亡率 , 心拍数 , ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体 N 端フラグメント
− 19 −
Association between changes in serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide (NT-proBNP) and heart rate in hemodialysis patients
− 20 −
東都医療大学紀要 第6巻第1号
【研究報告】
実際の看護活動の見学から学生が目標と捉えた看護師像
-基礎看護学実習Ⅰを振り返ったインタビュー結果からの考察-(第1報)
The nurse image which a student regarded as an aim from a visit of the real nursing activity
− Consideration from the interview result that looked back toward basic nursing science training I −
(the first report)
大澤 久美枝 1) 中村 昌子 2) 長谷川 真美 1)
Kumie OHSAWA Masako NAKAMURA Naomi HASEGAWA
要 旨
A 大学では , 1年次の8月末に基礎看護学実習Ⅰが実施されている . 看護活動の見学を通して , 知識と実際とが結びつき ,
看護への興味・関心が高まると同時に目標と捉える看護師像をポジティブに捉えることもでき , 今後の学習への動機づけ
になると考えられる . 今回,基礎看護学実習Ⅰを終了した A 大学1年生のうち , 同意が得られた6名の学生に目標と捉え
た看護師像をどのように認識したかについて半構成的インタビューを実施した . 6名全員がポジティブな面で看護師像を
捉えており , これを持続させながら学習に向かわせる必要性が認識された . 一方 , ポジティブな面の看護師像とともにネガ
ティブな面の看護師像を認識した学生もおり , 両者を意識しながら今後の学生の動機づけや , 学習意欲を引き出すことに
繋げる必要がある .
キーワード:基礎看護学実習Ⅰ,看護活動,看護師像,ポジティブ
Ⅰ.はじめに
いない部分が多いと考えられる.看護活動を間近で見
学するのも初めてであり,戸惑いも大きいが,実際に看
看護大学や看護専門学校では,基礎看護技術につい
護師が患者と接する姿を見ることで知識と実際とが結び
て学習を進めている1年次後期に基礎看護学実習Ⅰが
つき,看護への興味・関心が高まると考えられる.実際,
実施されることが多い.A 大学では,看護を学び始め
実習終了後のレポートでは約半数の学生が「自分が目指
てまだ日が浅い1年次の8月末に基礎看護学実習Ⅰが実
す看護師像が明確になった.」と述べている.
施されている.実習目的は「保健・医療・福祉サービス
若林ら 1)は「看護師のイメージについて「有能性」
「『天
がどのような環境で提供されているのかを知るとともに,
使』性」
「頑強性」
「陰険性」の4因子を抽出し,看護
現状を体験することにより,看護職に求められる役割に
学生1年生では「有能性」と「『天使』性」の相関が突
ついて考える手がかりをつかむこと」である.具体的な
出して高い」と述べている.また,渕野ら 2)は「基礎Ⅰ
目標として「病院における看護の機能と役割を理解する」
実習は看護師イメージを具体的にでき,さらにそのイメー
という項目が挙げられ,3日間の実習のうち2日間は看
ジをポジティブに変化させることができたことから,学
護師のシャドーイング実習を行う.当該学生は,看護学
生が看護を主体的に学習する動機づけを高める教育効
概論など看護の理論的な部分は学習しているが,生活
果が期待できる実習である」と述べている.動機づけに
援助技術など看護についての具体的な知識については,
ついて,松田 3)は「“やる気”は動機づけが学習者に内
ほとんど学習していない状況で実習に臨む.そのため,
在化している状態,すなわち,何をすべきかが学習者に
病院で働く看護師の看護活動についてはイメージできて
明確にとらえられ,それに向かおうとする能動的な構え
1)
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
共立女子大学看護学部看護学科
2)
ができている状態」と述べている.髙橋ら 4)は「早期実
習で学生は『実習の楽しさ』や『看護への魅力』といっ
− 21 −
実際の看護活動の見学から学生が目標と捉えた看護師像
た内発的な動機づけによって学習意欲を引き出している
ことがわかった」と述べ,
「学生たちが主体的な学習者
2.調査期間・場所
2015 年2月末~5月,調査場所は A 大学内教室
(個室)
になるために,彼らの内発的動機づけを高めるための働
Ⅰで目標とする看護師像を捉えることは,学習者が内在
3.データ収集
1)調査内容
するやる気を引き出す場となり,看護師像をポジティブな
基礎看護学実習Ⅰ(1年次8月末)終了後,見学実習
きかけが重要である」と報告している.基礎看護学実習
5)
面で捉えるにふさわしいと考えられる.交野ら は「臨
を通して,学生が「目標と捉えた看護師像」として,看護
床実習現場で看護師としてのモデルに出会えることは,
師のイメージをどのように捉えているかを明らかにする.
看護観の形成や学生自身が考えていることの確信を得
2)調査方法
る,考え方の幅を広げるなどのきっかけになるという意
インタビューにあたり,研究目的および倫理的配慮に
味で重要である」
「看護を選択した場合,入学後,教室
ついて口頭と文書にて説明し,協力を依頼した.同意
内学習,実習体験ともに厳しいものが求められるが,学
が得られた学生に対し,インタビューガイド(「実際の看
習を支えるのは実習での先輩看護師・教員の適切なサ
護活動の見学を通して,いいなと感じた場面はどのよう
ポートと看護師・教員による看護師モデルになるような
な場面ですか.」
「あなたが目標とする看護師について,
人に出会うこと」と述べている.
できるだけ詳しく教えて下さい.
」
「看護師を目指したの
今回,インタビューを通して「目標と捉えた看護師像」
はどのようなきっかけからですか.」)を用いて,学生が
「こ
を学生がどのように捉えているのかを知ることは,今後
んな看護師になりたい」と感じた看護活動について,1
の学習において学生の学習への動機づけを高め,学習
対1で 15 分程度の半構成的インタビューを実施した.イ
意欲を引き出すような関わりに繋げる手がかりを得るため
ンタビュー内容を IC レコーダーに録音し,内容から逐語
の資料となると考える.
録を作成した.
本研究の目的は,学生にとって最初の看護学の実習で
看護師像」を明らかにし,学生の捉えた看護師像を動
4.データ分析
逐語録から学生が「目標と捉えた看護師像」のきっ
機づけとして,今後の学習に向かわせる方法を検討する
かけとなった看護活動を取り出し,看護師像を捉えてい
ための資料とすることである.
る言葉を抽出し,意味を読み取り,コード化,カテゴリー
ある,基礎看護学実習Ⅰにおいて「学生が目標と捉えた
化した.
用語の定義
・看護師像とは:学生が看護師の看護活動の見学を通
して捉えた看護師モデルのイメージ像とする.
・シャドーイングとは:看護師に影のように寄り添
い,離れず付いてまわる実習方法である.
5.倫理的配慮
本研究は,東都医療大学研究倫理委員会の承認を得
て実施した(承認番号:H2619).
研究協力について口頭および文書で説明し,参加は
・ポジティブな面とは:積極的,肯定的,プラス,好
ましい,と感じた看護師の面とする.
任意であり,参加の有無が学業成績に影響しないことを
保証した . 同意を得た場合であってもいつでも撤回が可
・ネガティブな面とは:消極的,否定的,マイナス,
好ましくない,と感じた看護師の面とする.
能なこと,撤回した場合も学業成績への影響など,不
利益を生じないことを説明した.
インタビューはプライバシーの保てる個室で行い,イン
Ⅱ.方法
タビュー内容は本人の同意を得て,録音した.内容から個
人が特定されないよう,逐語録化し,匿名化して扱った.
1.対象
基礎看護学実習Ⅰを終了した A 大学1年生のうち,B
Ⅲ.結果
病院で実習を行った学生で,同意が得られた学生6名で
あった.
学生のインタビュー内容から「目標と捉えた看護師像」
を示す看護師のイメージとして 67 の言葉が抽出され,類
似する言葉を41のコードに整理した.
さらに,
それぞれのコー
− 22 −
東都医療大学紀要 第6巻第1号
研究報告
ドから類似する内容を整理し ,「手際が良い」「協力して
「手際が良い」には,10 の言葉が含まれ,類似性のあ
いる」「知識がある」「患者に受け入れられる」「やりが
るものを整理して「手際が良い」「テキパキ仕事をこな
いのある仕事」「ハードな仕事」「厳しい」という7つのカ
す」「キビキビ仕事をする」「行動が素早い」「臨機応変
テゴリーに分類できた(表1-1,1-2).
に対応する」「無駄のない動き」「メリハリがある」という
7つのコードとした.さらに整理して,サブカテゴリーを「手
表 1-1.学生が捉えた看護師像
際が良い」「臨機応変に対応する」「ポイントを押さえてい
る」とした . これらは,看護師の手際の良さをポジティブな
面で捉えた内容であった .
「協力している」には,8つの言葉が含まれ,類似性の
あるものを整理して「多職種とも協力している」「看護師
同士のコミュニケーションが取れている」「連携している」
「看護師同士で協力している」
「チームワークが良い」
「仲
良くやっている」という7つのコードとした.さらに整理して,
サブカテゴリーを「情報共有している」
「連携している」
「協
力している」とした.これらは,看護師間や多職種との連
携をポジティブな面で捉えた内容であった .
「知識がある」には ,「色んな知識がある」「知識が必
要」「質問したことに細かく答えてくれる」「感染予防が徹
底されている」という4つの言葉が含まれ,類似性のあるも
のを整理して,サブカテゴリーを「色んな知識がある」「感
染予防が徹底されている」とした.これらは,知識を持ち,
確実に実践していく専門職として存在する看護師像をポジ
ティブな面で捉えた内容であった .
「患者に受け入れられる」には,34 の言葉が含まれ,
類似性のあるものを整理して「積極的にコミュニケーション
をとっている」「患者の思いを汲み取る」「人間関係を大
切にしている」「いろいろ話を聞いて対応する」「信頼さ
れている」「頼りがいがある」「患者が思ったことを話して
表 1-2.学生が捉えた看護師像
くれる」「相談しやすい雰囲気」「接し方が温かい」「不
安にならないように説明する」「家族の支えになる」「苦し
んでいる人を助ける」「安心感を与える」「元気に接して
いる」「上手く励ましている」という15 のコードとした.さら
に整理して,サブカテゴリーを「患者の思いを大切にする」
「信頼されている」「安心感を与える」「患者を元気づけ
る」とした.これらは,患者の気持ちを汲み取り,適切に
対応する温かな看護師像をポジティブな面で捉えた表現が
された .
「やりがいのある仕事」には ,「やりがいのある仕事」と
いうコードとした . 患者と接する中で達成感を感じられるよ
うなやりがいのある仕事というポジティブな面で看護師像が
捉えられた.
「ハードな仕事」には , 8つの言葉が含まれ,類似性の
あるものを整理して「忙しい」
「病棟を動き回っている」
「パ
ワフル」「ハードな仕事」「休む暇がない」「大変」という
− 23 −
実際の看護活動の見学から学生が目標と捉えた看護師像
6つのコードとした.さらに整理して,サブカテゴリーを「忙
タビューを行ったが,インタビュー内容から,目標と捉え
しい」「パワフル」「ハードな仕事」とした.忙しく,大変
る看護師像のポジティブな面だけではなく 「
, ハードな仕
な仕事であるという看護師像を捉えていた .
事」
「厳しい」といったネガティブな面に対するコードも
「厳しい」には ,「厳しい」「怖い」という2つのコード
抽出された.学生 C,D,F は「ハードな仕事」に含ま
が含まれた .
れるコードを挙げているが,身内に看護師がおり,自宅
で仕事から帰宅した様子を見るなど生活の中で以前から
Ⅳ.考察 「忙しい」
「大変」なのだろうと感じていた,と語ってい
る.今回の実習で実際の看護活動の見学を通して,看
1.学生の捉えた目標とする看護師像
看護師の技術面に対しては 「
, 手際が良い」や「協力し
護師の業務の忙しさや休む暇なく病棟内を動き回ってい
ている」への関心があり,仕事の正確さや能力,スタッ
られる . また,病棟を動き回る中で,その日の担当以外
フ間における対人関係への視点を持っており,仕事に対
の患者にも注意を向けている様子からずっと気を張って
する能力から看護師像を捉えていることが推察された.
いるという印象を持ち,気疲れするのではないかと感じ
また,看護師へ質問した際に,丁寧に細かく回答してく
た,という内容も聞かれた 「
. 厳しい」という点で , 学生
れたことや医師や薬剤師と連携している場に遭遇した際
F は実際の現場を見る以前に先輩から看護師が「怖い」
に,看護師は薬剤の知識もあり,多職種と患者にとっ
や「厳しい」と言うのを聞いていた , という他者からの情
てより良い方法について共に検討していた場面が印象に
報やテレビドラマなどメディアからの情報で築いたイメー
残った,という内容が聞かれた.このことから,チーム
ジを持っていた.また,女性の職場という点からいざこ
医療の大切さと専門職として根拠のある看護を提供する
ざがありそうとイメージしていた,と語っていた.しかし,
ために看護師の知識も重要であると感じていることが推
実際は抱いていたイメージのような場面に遭遇することは
察され,
「知識がある」という点に関心があることが伺え
なく,イメージと違っていた,とも語っていた。実際の
た「
. 患者に受け入れられる」に対しては,看護師が患
看護活動の見学を通して忙しく動き回っている中で口調
者に笑顔で明るく接する様子や,処置時やあらゆる動作
がきつくなっている様子から「怖い」という印象を受けた
の時に常に声かけを行っていた様子,患者の悩みを聞い
ことが伺えた . 学生の語りからは看護業務の責任の重さ
ている様子から頼られる存在であることを感じた,安心
や患者の生命に関わる仕事であることに対する「厳しさ」
感を与える存在であることを感じた,という内容が聞か
や「怖さ」という内容は聞かれなかった.
た様子を目の当たりにしたことが実感に繋がったと考え
れ,コミュニケーションを通して信頼関係を構築している
を捉えていることが推察された.長谷川ら 6)は,基礎看
2.若林ら 1)のイメージの4因子との比較
若林ら 1)は,看護師のイメージについて「有能性」
「『天
護実習Ⅰ前後における「看護」に対するイメージの変化
使』性」
「頑強性」
「陰険性」の4因子を抽出している.
を検討しており「実習後に最も多かった反応語は『患者』,
抽出されたカテゴリーをこれと照合すると ,「有能性」
次いで『コミュニケーション』
『ケア』
『思いやり』
『ナイチ
は「手際が良い」「協力している」「知識がある」が
ンゲール』
『技術』
『病院』
『優しい』
『看護師』であった.
該当し ,「『天使』性」には「患者に受け入れられる」
この内容は実習前とほとんど変化がなかった.」と報告
が該当すると考えられる.また ,「頑強性」には「や
している.連想法を用いた基礎看護実習Ⅰ前後の反応
りがいのある仕事」
「ハードな仕事」,「陰険性」には「厳
語の種類を見ると,学生は実習開始前より看護の心理的
しい」がそれぞれ該当すると考えられる(図1). 各学生
特徴として「優しい」
「思いやり」というイメージを持って
から抽出されたカテゴリーを若林らの4因子に当てはめ
おり,看護の行為として「コミュニケーション」
「ケア」と
て整理したものが表2である.表2によると , すべての
いうイメージを持っていたことが伺える.これらのイメー
学生において「有能性」
「『天使』性」が捉えられており,
ジは,今回の実習に臨んだ A 大学の学生も抱いていた
これは「看護学生1年生では「有能性」と「『天使』性」
と推察され,実際の看護活動の見学を通して元々持って
の相関が突出して高い」という若林ら 1)の見解と一致す
いたイメージが具体化され,看護師像として強化された
る.
と考えられる.
また,今回は目標という質問であったため 「
, 頑強性」
今回は「目標と捉えた看護師像」について学生にイン
の「仕事の大変さ」や「陰険性」というネガティブな面
点から,患者の心に寄り添うような存在として看護師像
− 24 −
東都医療大学紀要 第6巻第1号
研究報告
に対する要素の抽出は少なかったが,6名中3名(学生
わる機会が増えることで施設による看護師の対応の違い
C,D,F)が「頑強性」を1名(学生 F)が「陰険性」
や働く場による役割の違いなどから , 看護師に対する
を捉えていた.学生 C,D,F はポジティブな面だけで
イメージの幅が広がることが考えられる . 交野ら 5)が「学
はなく , ネガティブな面も捉えられており, 他の学生よりも
生にとっての最も効果的な学習支援は看護師としてのモ
広い視点で看護師を観察していたことが推察されるが,
デルを実際の現場で示すことにあるといえる」と述べて
学生が捉えた看護師像には偏りがあることが分かった .
いるように,学生の学習意欲を高める動機づけに繋げる
ために今後の実習を通し , 様々な看護師像が捉えられる
よう , 学生間での情報交換を促していく . 学生が看護師
図1.若林らのイメージとの照合
のイメージとして若林ら 1)の4つの因子を併せ持つことは ,
イメージに偏りがなく多角的に看護師を捉えることがで
きるが , ネガティブな面ばかりを捉えていくと学習意欲の
低下にも繋がりかねない . そのため,ポジティブな面を膨
らませていくとともにネガティブな面として捉えた活動の
意味づけを行い , ポジティブな捉え方に変換していける
ような働きかけが必要であると考える .
今後も引き続き , 目標とする看護師像の共通項を見出
すために縦断的にインタビューを行い , データを蓄積して
いく . そして , 卒業の段階で最終的に , 目標と捉えた看護
師像がどのように変化するのかを追跡していくことは , 基
礎看護学実習Ⅰを効果的に進め , 高い学習意欲を維持し
表2.学生の看護師に対するイメージの抽出
A
B
C
D
E
ていく手がかりとして活用できると考える .
F
Ⅴ.結論
インタビュー結果から,基礎看護学実習Ⅰを通して,学生
が目標と捉えた看護師像は「手際が良い」
「協力している」
「知識がある」「患者に受け入れられる」「やりがいのあ
る仕事」「ハードな仕事」「厳しい」という7つのカテゴリー
3.今後の指導に向けて
今回は ,B 病院で実習を行った学生を対象にインタ
に分類できた.また,若林ら 1)の看護師のイメージと照合
ビューを行ったため,実習先の施設も限られている.ま
性」や「『天使』性」といったポジティブな面で捉えてい
た,看護師として働く場は様々であるが,基礎看護学実
た .「頑強性」「陰険性」のネガティブな面を捉える学生
習Ⅰでは病院という場で働く看護師の看護活動を見学す
も数名おり, 学生が抱く看護師像は必ずしもポジティブな面
るため対象となる場にも限りがある.しかし , どの学生も
だけではないことが分かった .
すると,インタビューした学生すべてが看護師像を「有能
「看護職に求められる役割について考える手がかりをつ
「学生が目標と捉えた看護師像」が明らかになったこと
かむ」という実習目的に対し,全ての学生が看護師像を
で , 今後ポジティブな面で捉えられた看護師像を膨らませる
肯定的に意識できたことは , 第1段階としては望ましい結
とともにネガティブな面として捉えた看護師像の意味づけを
果であったと言える.今後は , 学生が捉えたポジティブ
行い , ポジティブな捉え方に変換できるような働きかけが可
な面の看護師像を持続させながら学習に向かわせること
能となることが示唆された .
が大切である . そのための方法として 「
, 学生が抱いた目
標を意図的に表出させる」
「互いに共有できる機会を設
謝辞
ける」
「技術演習において必要に応じてイメージを想起さ
本研究にあたり , ご協力いただきました学生の皆様
せる」ことなどが考えられる.また ,今後の実習においても,
に深く感謝申し上げます .
様々な領域や様々な施設での実習を経験し , 看護師と関
− 25 −
実際の看護活動の見学から学生が目標と捉えた看護師像
文献
1) 若林満,佐野幸子,水野智:看護学生の職業環境認
知—看護婦・医師・患者・病院に対するイメージの分
析を通じて ‐ .Bulletin of the faculty of Education.
Nagoya University (Educational Psychology)
Vol.36.121-137,1989
2) 渕野由夏,加藤法子,中野榮子,永嶋由理子,津田智
子ほか:基礎看護学実習Ⅰの実習前後における看護師
のイメージ変化の比較検討.福岡県立大学看護学研究
紀要 5(2).89-96,2008
3) 松田隆夫,藤健一,八木保樹,星野祐司,土田宣明ほか:
心理学概説 ‐ 心と行動の理解 ‐ .松田隆夫編.東京:
培風館.77-78,1997
4)髙橋清美,中野榮子:学生が抱く早期看護実習Ⅰの主観
的満足感:内発的動機づけによる実習効果.福岡県立
大学看護学部紀要 1.29-39,2003
5) 交野好子,高鳥眞理子:看護学生の学習体験に影響を
及ぼす因子に関する研究.福井県立大学論集(39).
87-98,2012
6) 長谷川真美,鶴田晴美,中村昌子,熊谷玲子:看護
基礎教育における看護観形成に関する研究 ‐ 基礎看
護実習・前後のイメージ変化 ‐ .東都医療大学紀要
Vol.4.No.1.55 ‐ 63,2014
受理日:2016 年 1 月 5 日
− 26 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【研究報告】
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
-助産学実習の現状と課題-
Education of Midwifery in TOHTO College of Health Sciences
-The current status and Issues in a midwifery practicum藤田 佳代子 1) 岩﨑 和代 1) 森谷 美智子 2) 稲荷 陽子 3)
Kayoko FUJITA Kazuyo IWASAKI Michiko MORIYA Yoko INARI
要 旨
統合カリキュラムでの H26 年度助産学実習について分娩指標をもとに現状と課題を明らかにした . 学生 9 名全員が 10
例の分娩介助を実施した . 産婦の平均年齢 32.2 ± 5.0 歳,平均分娩週数 39.0 ± 1.1 週で経産婦が 62.2% であった . 出生体
重は平均 3091.2 ± 400.6g,出生後 1 分 Apgar Score 平均 8.4 ± 0.8 点であった . 分娩様式は自然分娩 78.9%,吸引分娩
21.1%,誘発・促進分娩や無痛分娩が 68.9% であった . 母体合併症は 4 割以上,分娩時出血量 500ml 以上の異常出血事例
も 40%を占めた . 分娩経過が早く医療介入の多い事例を受け持つ現状があった . 学びの充実と卒後の技術習得に繋げるた
め,教授方法の工夫や医師からの講義等充実を図る必要がある . また,実習期間,実習内容に関する検討,講義と実習に
1 年間のブランクがある現行カリキュラムについての改善は大きな課題である .
キーワード:統合カリキュラム,助産師基礎教育,分娩介助実習,分娩指標
Ⅰ.序文
が現状である.
助産師教育課程は,4 年制教育課程の他,専門職大
本学は 4 年制教育課程で 10 名程度を定員とする助産
学院,大学院,大学専攻科,専門学校等,多様である.
師課程を設けている.3 期生(H26 年度卒業)までは,
助産師に求められる責務は,産科医師と協働し,自立・
看護三職能の免許を同時に取得するための統合カリキュ
自律して正常分娩を担うことが出来る実践能力,高齢化
ラムの中で助産師教育が実施されている.統合カリキュ
や合併症増加等に伴うハイリスク妊娠・分娩への対応能
ラムとは,従来の看護基礎教育 3 年間にさらに 1 年間
力,妊婦や家族の出産に対するニーズの多様化に応える
の助産師教育を積み上げるという考え方ではなく,3 年
柔軟性など非常に大きくなっている.その社会的要請に
6か月以上の教育期間で助産師教育と看護師教育を統合
こたえるべく,助産師教育に関する検討では質の保障に
1)
して行うものである .多くの助産師養成校が 1 年間で
向けた議論が盛んである.
行ってきた教育を看護三職能のすべてを 4 年間で教育す
また,H22 年に行われた厚生労働省第 6 回看護教育
るためカリキュラムは過密である. の内容と方法に関する検討会の助産師教育ワーキンググ
助産師教育並びに保健師教育における基礎教育は
ループの報告では「助産師教育は,看護者としての基本
H23 年度のカリキュラム改正に伴い,修業年限が「6 か
的な能力を教育した後に位置づけられる.」としている 2).
月以上」から「1 年以上」に延長された.このため,実
しかし,本学では助産学の講義全般は 3 年前期に看護
質的には統合カリキュラムによる教育課程は将来的にな
の教育と並行して行われている.さらに,本学のように
くす方向にある.しかし,現在我が国の助産師教育は,
4 年制教育課程で助産師を養成する場合,看護師免許
本学のような 4 年制教育課程が最も多くを占めているの
を持たないまま助産学実習に入ることとなる.過密なカ
1)
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
東京都立荏原看護専門学校非常勤講師
3)
西武文理大学看護学部看護学科
2)
リキュラムにより限られた時間の中で行う助産学実習は,
保健師助産師看護師学校養成所指定規則による 10 例
程度の分娩介助数を達成するということに重点を置かざ
− 27 −
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
るを得ない.学生の分娩介助場面では,母子の生命を
・合併症や分娩経過中に異常が予測される事例,学生
守るための医療安全の確保と高度な助産診断能力や専
が分娩介助するのが不適当と思われる社会的条件
門技術が求められており,助産学実習において困難かつ
を有する事例
重要な課題のひとつである.
本学は平成 27 年度で助産師課程 4 期生の卒業を迎
3.実習内容
える.本研究では先に述べた助産師教育の背景の中で
助産学実習における分娩介助実習では,分娩開始か
行われている本学の助産学実習(9 単位)について,分
ら分娩終了後 2 時間までの産婦ケアおよび分娩介助を 1
娩指標を基にその現状と課題を明らかにすることを目的
人の学生が指導者(教員,指導助産師)の指導のもと
とした.
実習する.実習中の分娩介助数については,保健師助
産師看護師学校養成所指定規則により「助産師又は医
Ⅱ.実習および指導体制
師の監督の下,学生 1 人につき 10 例程度行わせる」と
いう前提による.急遂分娩への移行があった場合,帝
助産学実習は年間約 300 件から 2700 件の分娩件数
王切開は分娩介助数に含まないが,吸引分娩,鉗子分
がある 3 か所の病院を確保し 2 か所以上の施設をロー
娩は分娩介助数に含む.
テーションしながら 9 週間で分娩介助実習を行った.実
4.実習受け持ち事例への同意手続き
習は原則として日中の時間とした.
受け持ち産婦の同意手続きは,受け持ち選定基準に
Ⅲ.方法
合った産婦に病棟管理者,指導助産師または教員が実
習受け持ち承諾に関して文書を用い口頭で説明し,署
1.調査期間および方法
名をいただき同意を得た.
4 年次 9 名の学生が H26 年 8 月から 10 月まで 9 週
間にわたる助産学実習において経験した分娩介助事例を
5.本研究の倫理的配慮
対象とした.情報は学生が提出した分娩報告を用いた.
本研究は本学の倫理審査委員会にて承認を得て実施
調査内容は分娩施設,産婦の年齢,初・経産別,分
した(承認番号 H2616).調査対象となった産婦の個人
娩週数,妊産婦合併症の有無,非妊時 BMI,分娩様式,
情報,分娩介助をした学生,実習施設が特定されるこ
分娩所要時間,誘発・促進分娩状況,無痛分娩の有無,
とや不利益を生じないよう,データはローデータ入力後
急遂分娩の適応理由,会陰切開・裂傷の程度,児の出
に個人情報との連結を不可能にした.また,文章表現
生時体重,Apgar Score( 以下 AP)1 分後・5 分後,分
上で個人や施設が特定されないよう注意した.学生の記
娩時出血量,児娩出から胎盤娩出までの時間,受け持
録物から得たデータの使用については,学生に利用目的
ち開始から児娩出までの時間である.分析は各調査項
を説明し口頭による承諾を得,成績評価終了後にデータ
目の記述統計を算出した.連続変数は平均値を算出し,
を受けとった.実習施設に対しては,研究目的,匿名性
一元配置分散分析にて実習施設間での差を検定し比較
の厳守について文書にて説明し署名をいただき同意を得
した.統計学的有意水準は 5%未満とした.
た.
2.分娩取り扱い対象の選定基準
IV. 結果
分娩介助対象となる受け持ちの選定については,全
国助産師教育協議会(以下,全助協)が示す指針案に
3 期生 9 名が助産師課程の学生として助産学実習を
基づき,本校では原則として以下の基準に従った.
経験した.総数 90 件の分娩介助を経験し,全ての学
・妊娠期間は原則として正期産(妊娠 37 週 0 日から
生が 10 例の分娩介助を終えたのは 8 週間と 2 日であっ
妊娠 41 週 6 日まで)
た.受け持ち時点ですべての対象に受け持ち同意書を
・分娩様式は経腟分娩,単胎分娩,頭位分娩
得た.
・受け持ち開始時期は分娩第 1 期
・受け持ち対象から除外する事例として,血液を介す
る感染症に罹患している事例, − 28 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
表 1.母体年齢・母体合併症・初経産の別の状況-施設別
研究報告
表 2.分娩様式・急遂分娩・分娩促進・会陰切開の状況-施設別
年
分
体
併
その他
の
1.受け持ち産婦の特性
産婦の年齢は平均 32.2 ± 5.0 歳(最小 21 歳,最大
44 歳),年齢階級別では「30 から 34 歳」が 41.1% と最
も多く,次いで「35 から 39 歳」が 24.4%,
「25 から 29
76 分,最大 2350 分)であった.事例を受け持った時
点から児娩出に至るまでの受け持ち時間については,平
歳」が 21.1%,
「40 歳以上」が 7.8%,
「20 から 24 歳」
均 355.7 ± 343.5 分
(最小 28 分,最大 2040 分)であった.
が 5.6% であった.初経産の別では,初産婦 37.8%,1
児娩出から胎盤娩出までの時間は,平均 6.8 ± 4.2 分(最
経産婦 45.6%,2 経産婦 11.1%,3 経産婦 5.6% であった.
小 1.0 分,最大 30.0 分)であった.
母体合併症については,合併症なしが 55.6%で最も多く,
出生児の出生体重は,平均 3091.2 ± 400.6g(最小
次いで妊娠貧血が 37.8%,妊娠高血圧症候群が 2.2%,
2032.0g,最大 4585.0g)であった.出生後 1 分の AP
その他の合併症が 4.4% であった.非妊時 BMI は,平
は平均 8.4 ± 0.8 点(最小 4 点,最大 9 点),出生後 5
均 21.0 ± 3.1(最小 14.4,最大 30.9)であった.
分のAP は平均 9.2 ± 0.5 点
(最小 8 点,最大 10 点)であっ
た.90 件のうち1件は AP4 点のため分娩直後より蘇生
2.学生が介助した分娩の状況
処置が行われたが,その後経過良好であった.
平均分娩週数は 39.0 ± 1.1 週(最小 36 週,最大 41
分娩時の出血量をみると,平均 528.0 ± 315.2g(最小
週)であった.分娩様式は自然分娩が 78.9%,吸引分
75.0 g,最大 2046.0g)であった.分娩時出血の正常
娩が 21.1% であった.急遂分娩適応理由は,胎児心拍
範囲内とされる 500ml 以下の割合は 60.0%,500ml 以
異常 57.9%,無痛分娩での分娩第 2 期短縮目的 26.3%,
上の異常出血(弛緩出血含む)の割合は 40.0% であっ
母体異常 5.3%,適応理由不明が 10.5% であった.
た.会陰切開・会陰裂傷については,会陰切開なしが
分娩所要時間については,平均 490.0 ± 351.9分
(最小
15.6%,会陰切開ありが 38.9%,会陰裂傷 1 度 15.6%,
− 29 −
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
会陰裂傷 2 度 22.2%,会陰切開と裂傷 7.8% であった.
V.考察
陣痛促進や無痛分娩については,自然分娩が 31.1%,
促進分娩 23.3%,誘発分娩 20.0 %,無痛分娩 25.6 %
1.学生が介助した産婦の特徴
であった.
介助した産 婦の年齢は平均 32.2 ± 5.0 歳(最 小 21
歳,最大 44 歳),年齢階級別では「30 から 34 歳」が
41.1% と最も多かったが, 次いで「35 から 39 歳 」 が
表 3.母の年齢・分娩週数・分娩所要時間の施設間比較
24.4% で「40 歳以上」の 7.8% と合わせると高齢出産の
占める割合は 32.2%であった.また,妊娠貧血を含む
母体合併症は 4 割以上を占めた.この傾向は,我が国
SD
の出産年齢の上昇,ハイリスク分娩の増加と同様であり,
また,3つの施設間の有意差も見られず,助産学実習で
SD
受け持った対象は一般的な産婦であったと言える.しか
し,高齢出産や母体合併症は分娩におけるハイリスク因
SD
子であり,異常への移行予見性や,移行時の早急な対
応が求められる可能性が高い.
「正常分娩(ローリスク
分娩)を指導者の下で 10 件介助できる」という実習目
SD
標を達成することは,これらのハイリスク因子のある産婦の
分娩介助をしていくことが前提になっているとも言える.
初経産の別では,初産婦 37.8%,1 経産婦 45.6%,2
3.施設別分娩状況
産婦の年齢,分娩週数,非妊時 BMI,分娩様式,
経産婦 11.1%,3 経産婦 5.6% であり,経産婦が 62.3%
児の出生時体重,AP1 分後・5 分後には施設間での有
は 71.2% であった.
意差は見られなかった.分娩所要時間,分娩時出血量,
また,陣痛誘発,陣痛促進,無痛分娩等が全体で
受け持ちから児娩出までの時間,児娩出から胎盤娩出
68.9% であり,同施設だけをみると 74.2% であった.本
までの時間は,F 検定の結果,実習施設間で有意差が
学の助産学実習は日中のみの実習であるため,受け持ち
見られた.
選定する際出来るだけ実習時間内に分娩に至ると予測さ
であった.特に 66 件の分娩介助をした施設では経産婦
れる事例を選択することとなる.その結果として経産婦,
表 4.児出生体重・AP・受け持ちから胎児娩出までの時間の施設間比較
誘発・促進分娩等が多くなっていると考えられる.本校
の実習カリキュラム編成から,9 週間という期間で 10 例
の分娩介助数を目標にしていること,また,実習施設に
よる分娩件数の違いにより,例えば 1 週間に 1 例程度
とコンスタントに分娩介助が出来ることは不可能であり,
SD
急速に分娩進行する事例を受け持たざるをえない現状
がある.受け持ってから児娩出にいたるまでの所要時間
SD
が短く,学生は短時間のうちにその産婦の状態を把握し,
助産診断を立て,早い経過の中での変化をとらえて助産
ケアを実施し安全に分娩介助することが要求される.こ
SD
れは非常に難易度が高く,大変な緊張の中で多くの知
識と技術と対応力を必要とする.実習期間と実習環境,
目標とする分娩介助数から,本学の助産学実習の分娩
SD
ns
ns
ns
介助対象が特徴づけられているとも言える.
2.施設間の比較
分娩所要時間,受け持ちから児娩出までの時間,児
− 30 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
研究報告
娩出から胎盤娩出までの時間,そして分娩時出血量は,
合併症や異常が予測される事例を除外しても急遂分娩
施設間に有意差がみられた.90 件中 66 件の分娩介助
への移行や分娩時出血多量等,その経過が正常を逸脱
が出来た施設では,分娩所要時間,受け持ちから児娩
する事例は多い現状であった.大滝らは,助産学実習
出までの時間,児娩出から胎盤娩出までの時間の 3 項
における助産実践能力の習得に関する研究の中で,
「刻々
目すべてが最も短かった.この施設では,促進・誘発分
と変化する産婦や胎児を前に,
「予測」や「援助」を限
娩が 40.8%,無痛分娩が 33.3% に至る.また,71.2%
られた時間の中で変化する対象に合わせて実施すること
は経産婦であった.分娩時出血量が有意に多い理由と
は経験の少ない学生にとって習得が困難であることが推
して,誘発,促進,無痛分娩が多く,分娩経過が早い
測される.
(中略)習得が早いといえる「判断」力が基礎
ことがその主因と考える.分娩の集約化が進む産科医
となり,
「予測」と「援助」項目の習得につながること考
療の中で,それぞれの病院では地域の多くの分娩を安
えられ,基礎教育での「判断」力習得への教育の必要
全に,そして様々な妊婦や家族のニードに対応しながら
性が示唆された」5)と述べている.正常分娩に関する多く
機能し,さらに助産学実習を受け入れている.それぞれ
の講義,演習を基盤とし,正常逸脱の判断,異常への
の実習施設の特徴をふまえ,施設間調整,学生のロー
知識やケアに関する学習を充実させること,さらにシミュ
テーションの方法等を検討していく必要がある.
レーション教育等「予測」や「援助」に繋がるための教
授方法を検討していく必要がある.
3.教育内容の検討
2)分娩への医療の介入
1)分娩介助に伴う看護・助産技術
陣痛誘発,促進等のない自然経過の分娩は 3 割にと
助産師は正常な経過の分娩介助を自律して行うこと
どまり,医療介入を必要とした分娩が多くを占めていた.
が要求される.分娩介助実習では,正常に経過する産
吸引分娩が 21.1%,500ml 以上の異常出血(弛緩出血
婦の分娩介助においても,導尿,内診,そして一連の
含む)の割合は 40.0% あった.
分娩介助技術と,その技術が未熟であれば多くの負担
ある施設では学生が介助した分娩のうち 33.3% が無
を直接的に産婦にかける可能性のある技術が大変多い.
痛分娩であり,昨今の産科医療の中で徐々に多くなって
また,内診などの技術では,指導助産師や教員が見本
いる分娩形態のひとつである.その進行の特徴は,自
を示すことの出来ない技術であり,実習での経験で感覚
然分娩や誘発・促進分娩とは異なる経過をたどることが
的に学習せざるを得ないものもある.さらに,3 年次の
少なくない.更に,吸引分娩等さらなる医療処置が必要
母性看護学実習では,昨今の分娩事情から,たとえ助
になる場合も多く,本調査でも吸引分娩の適応理由とし
産専攻課程の学生であっても分娩見学ができていない
て,無痛分娩による分娩第 2 期短縮目的が 26.3% であっ
学生が存在する.4 年制助産師教育課程においてこれ
た.
らの教育背景を持ち,看護師免許を持たないままでの
今後産婦や家族の分娩に対するニードの多様化の中
分娩介助実習は,学生にとって難易度が高く,指導助
で,無痛分娩に対するニードはますます高まっていくこと
産師,指導教員から臨床の場で多くの細やかな指導が
が予測される.現在無痛分娩に対応する施設はまだ一
必要である.
部であり,助産学実習の中で無痛分娩の介助が出来る
分娩介助技術の習得について,堀内らは「分娩介助
3)
ことはこれからの産科医療を担う学生にとって有意義な
技術は 10 例目でも達成は困難である」 と報告しており,
経験になる.より安全に学びの多い実習にしていくため,
佐藤らは「技術の習得には繰り返しの積み重ねが重要で
多くの医療処置が必要な無痛分娩についての事前学習
4)
ある」 と述べ,分娩介助実習項目の習得には量的経験
の充実は必須である.
が必要である.基礎教育の中の 10 例の経験での達成
その一方 で, 自然な経 過の 分 娩の 介 助が 全 体 で
度には限界があるが,本学の学生の技術的レディネスを
31.1%であり,正常な経過の分娩介助を自律して行うこ
踏まえ安全に十分配慮しながら可能な限り 10 例を目指
とが要求される助産師の教育として危惧すべき状況であ
し,量的経験を丁寧に積み重ねることは,卒後の助産
ることを再認識した結果であった.助産師教育のコア内
実践能力習得につなげるためにも意義あることと考える.
容におけるミニマム・リクワイアメンツとして「自然な経腟
また,今回の調査でハイリスク因子のある産婦を対象
分娩介助には,産婦自身の産む力を引き出すことが必要
とし,分娩進行の経過が早い産婦の分娩介助を多く実
リラックス法,疲労を最小限にする援助,
である」6)とあり,
習していること,受け持ち選定時に分娩進行中の更なる
さらに産婦自身の身体機能が実感でき娩出力を発揮で
− 31 −
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
きるよう継続的支援を行うことが必要とされる.自然な
係の構築が重要であり,それが学生の学びに深く関与す
分娩現象は昼夜を問わず,日中だけの実習時間では介
ることを改めて確認した.
助出来る機会は限られている.夜間帯にも助産学実習
もう一つの大切な経験は,臨床助産師から指導を受
をしている教育機関では,全体の分娩介助数の 45% が
けることである.介助し始めの頃,しっかり手を添えて
7)
17 時以降翌朝 9 時までの時間帯であった報告 もある.
介助技術の指導を受けることから,10 例近くなると安全
夜間実習を実現するには実習受け入れ施設,指導者の
に十分配慮しすぐ対応できるよう準備しながらも,でき
存在など多くの課題があるが,自然な経過の分娩介助
るだけ見守りとし,学生の判断力と手技の上達や達成感
数を増加させるためにはその必要性が示唆される.
を高められるようにして学生の隣に寄り添う.分娩介助
終了後には,分娩介助到達度評価表に添って毎回丁寧
4.助産師としてのアイデンティティの形成
に時間をかけ振り返りをする.これらの場面で学生は単
限られた期間の中で分娩介助数 10 例を達成していく
に技術の習得にとどまらず,臨床助産師としての熱意や
ためには,助産学実習に対する覚悟,実習期間内の体
助産に対する強い思いを感じ,助産師の役割や要求され
調管理,精神的コントロールが欠かせない.実習中に教
る人間性を意識化する.自己の助産師像をイメージし,
員がそれらに配慮することはもちろんのこと,助産学の
助産師としてのアイデンティティを育成していく上で大変
学内教育の内容として,知識,技術の充実とともにこれ
重要な場面となる.このような学習環境を今後も保ち,
らの心理的レディネスを助産専攻決定の時点から育成し
さらに充実,発展させていくために,実習施設と大学の
ていくことは,実習課題達成のために欠かせないものと
信頼関係をより高め継続していくことが必要である.
考える.
また,助産師に求められる実践能力において専門的
5.実習期間と実習内容について
自律能力が明確化されたことを踏まえ,卒業時到達目標
1)実習期間
と達成度には「助産師としてのアイデンティティの形成」
保健師助産師看護師法において,
「分娩取扱いの実習
があげられ,到達度はレベルⅠ(少しの助言で自立して
については,分娩の自然な経過を理解するため,助産師
8)
実施できる)である .
または医師の監督の下に,学生 1 人につき正常産を 10
学生は分娩介助実習において,技術の獲得だけでな
回程度取り扱うことを目安とする」と規定されている.助
く学内では得られない様々な経験を重ねる.その一つ
産師教育機関が増加している一方で分娩施設の集約化
が,受け持った産婦との関わりである.牛之濱によれば,
や少産化の影響により,多くの助産師教育機関でこの
『分娩介助の対象者として同意を得た産婦は「学生の勉
規定の遵守は大きな課題である.実習期間と分娩介助
強のためなら」と善意から同意した者が多い一方「実習
数に関する全助教の調査によると,75 大学中で実習日
施設だから仕方なく」同意したものもある.また,受け
数が 30 日から 60 日未満は 71.9%,この間の分娩介助
持ち中には漠然とした不安を持っていた.
(中略)しかし,
数 8 件以上が 75 校中 10 校(13.3%)10)という現状だが,
学生の実習態度や分娩後の評価では 97%が良かったと
本調査における助産学実習では,9 週間の実習期間(実
答え,学生の誠実な態度でそばに寄り添い懸命にケアを
習日数 43 日)で全員が 10 例の分娩介助をすることが出
行う態度が高く評価され,最後には立派な助産師になっ
来ている.しかし,本実習で 9 名全員が 10 例の分娩介
てほしいといった「学生へのエール」となっていった』と
助を終えたのは 8 週間と 2 日目であった.分娩介助数は
9)
報告している .本学の助産学実習においても,分娩後
実習期間と学生数に影響される.本学の助産学実習は
に産婦と行う分娩想起の場面では,産婦から「そばにい
前期に位置し,実習直後から後期講義があり実習を延
てくれてとても励まされた」
「陣痛で一番つらかった時に
長することは不可能である.定員である 10 名がそれぞ
一緒に呼吸法をしたり声をかけてくれて心強かった」な
れ 10 例の分娩介助数を達成する実習時間としては非常
どの言葉を多く聞くことが出来た.分娩介助者として助
に厳しい現状であることも事実である.実習施設の開拓,
産の対象から直接これらの言葉を聞けることは,学習の
実習時間(夜間実習)の検討は今後の課題である.
強い動機付けとなり助産師としてのアイデンティティ形成
2)実習内容について
の一助となる.産婦が学生による分娩介助に同意して出
本学では実習期間の制約から分娩介助実習に重点を
産に満足するためには,母子の安全確保を最優先するこ
おいた内容としているが,助産師基礎教育としてはそれ
と,さらに指導助産師や教員と産婦との関わり,信頼関
だけでなく「妊娠・分娩・産褥期を継続的に受け持ち学
− 32 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
研究報告
習する継続実習」がある.この実習は周産期を線でつな
H26 年度の助産学実習で 9 名全員が 10 例の分娩介
ぐ重要な学習のひとつに位置づけられるが,講義時間
助を終えたのは 8 週間と 2 日目であった.今後,定員
や実習期間の制約などから 2 割以上の大学では実施さ
10 名が 10 例の分娩介助数を達成するためには,実習
れていず,看護系大学における周産期実習の不十分さが
施設の開拓,実習時間等の検討が示唆された.また,
11)
指摘されており ,本学でも実施することができていな
助産師基礎教育としての継続事例のための実習時間の
い.妊娠期・産褥期の学習は,1 人の女性の周産期に
確保は行えておらず,実習期間とともに実習内容の検討
継続的に関わり,信頼関係を築きながら心身のダイナミッ
が課題である.さらに,カリキュラム構成上,助産学講
クな変化を理解しつつ,技術,態度を成長させていく上
義と実習に 1 年間のブランクがあり,スムーズな学習が
で意義深い.これらの学習課題を現在の 9 週間の実習
できるためのカリキュラム改善は大きな課題である.
にどのように盛り込んでいくか,これも大きな課題である.
謝辞
6.助産学のカリキュラム編成について
本 研究を遂行するにあたり,助産学実習にご理解,
本学のカリキュラム編成では,3 年次前期の助産学の
ご協力いただきました産婦の皆様,実習施設院長およ
講義を看護の講義と並行しながら半期で終え,その 1
び臨床指導者の皆様に感謝申しあげます.
年後,4 年次前期 7 月の看護統合実習に引き続き,すぐ
助産学実習 9 週間が始まる.助産学実習への準備期間
文献
は皆無に等しい.分娩介助実習が始まるまでに何らかの
事前学習の確保をすること,さらに,講義-演習-実習
1) 日本看護協会監修:助産師の教育.助産師業務要覧 というスムーズな学習の流れを確保していくことは,母子
および学生の安全と実習での学びの充実のため大変大き
新版.東京;日本看護協会出版会;2006
2) 助 産 師 教 育 ワ ー キ ン グ・ グ ル ー プ 報 告 http://
な課題であると考える.
www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000teyj.
html.2015.10.24
VI.結語
3) 堀内寛子,服部律子,谷口通英:本学学生の分娩介助
技術習得のプロセスとそれに応じた臨床指導のありよ
分娩介助実習では時間や状況の制約から,受け持ち
対象として経産婦,誘発・促進分娩,無痛分娩が多く,
う.岐阜県立看護大学紀要.7(2):9-17,2007
4) 佐藤喜根子,佐藤祥子,佐藤理恵:助産学生の卒業時
自然に経過する分娩の経験は 3 割程度にとどまり,分
の学習到達度調査-学生と臨床助産師の評価-.東北
娩経過の早い事例を受け持たざるをえない現状であっ
大学医短部紀要.12(1):11-20,2003
た.分娩介助実習だけでは技術の習得に限界はあるが,
5) 大滝千文,遠藤俊子,竹明美,小林康江,斎藤益子ら:
実習中の学びの充実と卒後のさらなる技術習得に繋げら
助産学実習における助産実践能力の習得に関する研
れるよう,正常,正常逸脱の判断,異常に関するシミュレー
究.母性衛生.53(2):337-348,2012
ション教育等の教授方法の工夫,また,医師からの講
6) 厚 生 労 働 省 第 6 回 看 護 教 育 の た め の 内 容 と 方 法
義等を検討し充実を図る必要がある.
に 関 す る 検 討 会 議 http://www.mhlw.go.jp/stf/
また,自然に経過する分娩介助数を増やすためには,
shingi/2r9852000000teyj.html.2015.10.24
7) 牛之濱久代,中島通子,大平肇子,日比千恵,石川康
夜間実習等の検討が示唆された.
9 週間の助産学実習中,学生は心身の自己管理・コン
代:学生の分娩介助の同意にかかわる現状と産婦の想
トロールが欠かせず,助産専攻決定の時点から心理的
い.母性衛生.55(1):190-197,2014
レディネスを育成していくことが必要である.分娩介助
8) 岩﨑和代,松永佳子,中北充子,藤本薫,深澤洋子他:
実習での産婦との関わりや臨床助産師からの分娩介助
本学における助産師教育の現状と課題- 4 年制大学移
の指導は,助産師としてのアイデンティティを育成する重
行後,2 年間の周産期実習の現状から.東邦大学医学
要な場面となっている.学生が心身とも安定して実習で
部看護学科紀要.21:34-43,2007
きること,また,母子と学生の安全のために,教員は産
9) 福井トシ子編:助産師業務便覧 基礎編.東京:日本
婦や指導助産師,実習施設との信頼関係構築が必要で
ある.
− 33 −
看護協会出版会;260-269,2014
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
10) 看護学教育の在り方に関する検討会:看護実践能力育
成の充実に向けた大学卒業時の到達目標-助産師教育
について-.看護学教育の在り方に関する検討会報告
資料,2004
11)
江幡芳枝,黒田緑,小田切房子:大学・短期大学・専
門学校における助産師教育の実態と分娩介助・継続事
例実習指針.助産雑誌.61(3):226-232,2007
受理日:2016 年 1 月 5 日
− 34 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【実践報告】
高齢者看護学実習におけるレクリエーション演習の授業効果と課題
-レクリエーションに関する実習後アンケートの分析-
The Effects of Recreational Exercises and the Issues in Elderly Nursing Practices
-Analysis of a Questionnaire after the training program about Recreation釜屋 洋子 佐藤 光栄
Yoko KAMAYA Mitsue SATO
要 旨
高齢者看護学実習では,高齢者を対象に学生企画運営のレクリエーションを取り入れている.3 年次前期の「高齢者看
護援助論」の授業において,レクリエーションの企画運営に「模擬発表」を加えた演習を行い,後期の実習終了時に,実
践後の学びについてアンケートを行った.結果,学生は高齢者が楽しめるものを安全面に配慮しながら実施したいと考え
て企画書を作成していた.また,レクリエーション実施中は高齢者の反応を観察し,日常と違う表情や普段見られない能
力に気づき,模擬発表での高齢者の理解の不足に気づくことができていた.そこで,学内演習時の課題としては,対象理
解の確認と,運動機能の維持向上や脳の活性化の企画等の意図と内容の関連,レクリエーションの効果および QOL を高
める援助であることを強調し,実習においては,学生が実感した高齢者の尊厳,自己効力感等の内面にかかわる気づきを
学びとして結び付けられるよう指導する必要があることが示唆された.
キーワード:高齢者看護学,レクリエーション,授業効果,看護学生
Ⅰ.はじめに
効果について検討した研究は少ない.
A 大学看護学科では,3 年次前期に「高齢者看護援
高齢者施設は,身体上または精神上の障害のために
助論」の授業を行い,その中の高齢者看護援助技術と
日常生活を営む上で支障がある者が,やむを得ない理
しての「活動」において,高齢者施設でのレクリエーショ
由により自宅で介護を受けることが困難となった場合に
ンについて企画書作成の演習を行い,後期実習に臨んで
入所し,共同で生活する場である.高齢者は,施設の
きた.演習の目的は,
「高齢者が興味を持てる題材を使っ
中で毎日決められた日課を過ごすため,その生活は単調
て,QOL の維持・向上を図るためのレクリエーションを
で刺激の少ない生活となり,失見当や感情の平坦化が
企画し,集団で楽しめるよう役割分担・演出ができる」
起こりやすくなる.そのため,高齢者施設では職員がレ
としている.
クリエーションを工夫し,生活に潤いや気晴らしをもたら
しかし,実習場所でのレクリエーションでは,高齢者
し,QOL の向上につながるよう努力している.施設で暮
の精神活動を活発化し,ADL を拡大することを目的とし
らす高齢者にとって,レクリエーションの効果は非薬物
ているが,はたして学生は高齢者の普段見ることのでき
療法の一つとして実施され,認知機能の低下の緩徐化
ない様子や,日常とは別な一面(残存機能,強み)の発
の効果や,快感情をもたらす楽しみとしての効果がある.
見など,高齢者の特性や可能性について十分に理解し
学生が高齢者看護学実習において行うレクリエーショ
実施しているか疑問が残ることも多い.中岡と上西 1)は,
ンにおける学びについて研究したものは多くみられてい
レクリエーション前の学生について,
「学生はこれまでの
るが,授業において模擬発表を行い,実習において学
知識を基に老年者を理解していたが,実際の具体的な
生企画のレクリエーションを行ったことから授業の学習
状態を予想できていなかった」と述べている.A 大学で
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
も,レクリエーションが円滑に実施できない理由として,
学生の知識と実際の高齢者の状態の違いが考えられた.
− 35 −
高齢者看護学実習におけるレクリエーション演習の授業効果と課題
そこで平成 26 年度は,レクリエーションの企画書作成
高齢者の違い,⑥高齢者看護とレクリエーションについて,
の演習に「模擬発表」を取り入れ意見交換することで,
感じたり考えたりしたことの 6 点についてであった.
高齢者に対する理解を深め,実践するにあたり考慮すべ
回収は,実習室に設置した専用の回収箱で回収した.
き点について考えることができ,実習場所でのレクリエー
実施したレクリエーションの評価,高齢者のイメージ変
ションが効果的に運営できるのではないかと考えた.
化,学内演習の効果について,項目ごとに内容が類似し
本研究の目的は,
「高齢者看護援助論」におけるレク
ているものをまとめて分類整理した.
リエーションの企画書の作成,
「模擬発表」を取り入れ
たことで,実習でどのような効果があったかを知り,授
4.倫理的配慮
業効果および今後の教育指導上の示唆を得ることであ
本研究の意義,概要の説明を行い,個人情報の保護,
る.
研究参加は自由意志であり参加の可否により成績等への
影響はまったくないことを説明し,アンケート用紙の回収
Ⅱ.方法
をもって同意が得られたものとした.また,本研究を行
うにあたり,本学の研究倫理委員会の承認(承認番号
1.調査期間と対象
H2620)を得た.
平成 26 年 10 月 13 日~平成 26 年 11 月 21 日の間に
高齢者看護学実習Ⅰを行った,A 大学看護学科 3 年次
Ⅲ . 結果
学生 37 名
1.対象
2. 実践方法
アンケートの回収は 30 名で回収率は 81.1% であった.
施設で暮らす高齢者の理解については,2 年次後期,
そのうち,研究に同意が得られた 27 名のアンケートを
「高齢者看護総論」において認知症の理解についての講
調査対象とした.
義 4 時間,施設における看護の役割について 2 時間,3
年次前期,
「高齢者看護援助論」の授業 60 時間 2 単位
2.記述内容
のうち認知症ケア 6 時間と,10 時間を用いてレクリエー
アンケートの集計結果は,表 1 に分類した.内容につ
ションの演習を行った.レクリエーションの企画は実習の
いて,項目ごとに述べる.①~⑥
「 」は質問項目であり,
グループ人数と同様に 1 グループ 5 ~ 6 名編成で,あら
〈 〉は記述内容の類似性を示している言葉で表現した.
かじめ対象者を「医療依存度の低い状態(脳梗塞後遺
( )は有効回答数におけるパーセントを示した.
症,高血圧,骨折後の後遺症,糖尿病,認知症など),
①「レクリエーションを企画する際に,どのような点に
要支援 1 ~ 2,要介護 1 ~ 5,車いす利用者(約半数)
,
配慮して企画書を作成しましたか」については,
〈高齢者
認知症高齢者(約 1/3 ~ 1/2)」と大まかな情報と,約
にも実施が可能なものにした〉が 11 名(40.7%),
〈高齢
30 分間で実施するという指示を与え,最後の 4 時間で
者の安全面に配慮した〉が 10 名(37.0%),
〈高齢者が
3 グループを1つの単位として「模擬発表」を実施した.
楽しめるようにした〉が 7 名(25.9%),
〈目的に沿うよう
3 年次後期,2 週間(90 時間 2 単位)の高齢者施設
にした〉が 5 名(18.5%)
〈
,高齢者にもわかるようにした〉
実習において,学生主体のレクリエーションを実習 1 週
が 4 名(14.8%)であった.
目に企画案を作成し,2 週目に実施した.
②「企画したレクリエーションを実際に行った感想,
評価を教えてください」については,
〈高齢者に笑顔が見
3.データ収集および分析方法
られた,楽しそうだった〉が 17 名(63.0%),
〈安全に実
施設実習後に,無記名のアンケート用紙を配布した.
施できた〉が 3 名(11.1%)であった.
〈進行がスムーズ
アンケートの内容は,①レクリエーションの企画書を作
にいかなかった〉が 6 名(22.2%),
〈高齢者の観察がで
成する際に配慮した点,②企画したレクリエーションを
きていなかった〉が 3 名(11.1%),
〈物品などの準備が
行った感想,および評価,③学内の演習に関する評価.
不足していた〉が 1 名(3.7%),
〈転倒の危険があった〉
学内演習の改善点に関する意見,④レクリエーションを実
が 1 名(3.7%)であった.
施して,高齢者に対するイメージの変化や,新たな発見に
③「学内の演習は,どのくらい役に立ちましたか.学
ついて,⑤日常の高齢者と,レクリエーションを通してみた
内演習で,こうすればよいなどの意見があれば教えてく
− 36 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
ださい」については,
〈とても役に立った〉が 5 名
(18.5%),
〈役に立った〉が 10 名(37.0%)で,半数以上が〈役に
実践報告
(3.7%)であった.未記入・無効回答が 3 名で,回答数
はのべ 27 であった.
立った〉と答えた.
〈役に立たなかった〉と答えたのが 1
⑤「日常の高齢者と,レクリエーションを通して見る高
名
(3.7%)で,その理由は
「忘れてしまっていた」であった.
齢者に,どのような違いがありましたか」については,
〈笑
〈演習時,
高齢者役になりきればよかった〉
が 7名
(25.9%)
,
顔が多くなった〉が 12 名(44.4%),
〈楽しそうだった〉
〈高齢者の理解が不足していた〉が 1 名(3.7%),
〈企画
が 10 名(37.0%),
〈活気が出た〉が 3 名(11.1%),
〈他
書をもっと具体的にすればよかった〉が 2 名
(7.4%)であっ
者と交流がみられた〉が 2 名(7.4%)であった.
た.また,どのようにすればよかったかを具体的に記述
⑥「高齢者看護とレクリエーションについて,感じたり
したものはなかった.
〈学内演習の時間を増やしてほしい〉
考えたことは何ですか」については,
〈刺激を与えたり非日
が 1 名(3.7%)であったが,ほとんどのグループは時間
常を提供する〉が 5 名(18.5%)
,
〈生き生きと生活できる〉
内に準備できていた.
が 4 名(14.8%)
〈笑顔を引き出す〉が
,
3 名(11.1%)
〈残
,
④
「レクリエーションを実施して,
高齢者に対するイメー
存機能の維持につながる〉が 3 名(11.1%)
,
〈普段見ら
ジの変化や,新たな発見はありましたか」については,
〈考
れない能力の発見ができる〉
が 3 名(11.1%)
〈高齢者に
,
とっ
えていた以上の能力を持っている〉が 11 名(40.7%)
〈意
,
てレクリエーションは大切〉が 2 名(7.4%)
〈高齢者にあっ
,
欲的である〉が 6 名(22.2%)
〈
,楽しそうである〉が 5 名
た内容にする必要がある〉が 1 名(3.7%)
,
〈安全に配慮
(18.5%),
〈優しい〉が 1 名(3.7%)であった.また,
〈消
する必要がある〉が 1 名(3.7%)
,
〈高齢者に共通する問
極的である〉が 2 名(7.4%),
〈思っていたより耳が遠い〉
題解決のために行うもの〉が 1 名(3.7%)
,
〈企画する側
が 1 名(3.7%),
〈安全面に配慮する必要がある〉が 1 名
も一緒に楽しむことが大切〉が 1 名(3.7%)であった.
表 1.レクリエーション後のアンケート結果 n=27( 重複回答あり )
− 37 −
高齢者看護学実習におけるレクリエーション演習の授業効果と課題
Ⅳ.考察
象者になり切れなかった者がいたと考えられ,授業への
参加姿勢についても課題が残った.
〈高齢者の理解が不
1.レクリエーションの企画書を作成する際に配慮
足していた〉,
〈企画書をもっと具体的にすればよかった〉
した点
の回答については,レクリエーション中に高齢者が学生
〈高齢者が実施可能なもの〉,
〈安全面への配慮〉,
〈楽
の言葉を聴き取れなかったり理解できなかったことや,
しめるもの〉,
〈目的に沿うようにした〉,
〈高齢者にもわか
進行がスムーズにいかなかったことから,企画書作成の
るもの〉という回答から,学生はレクリエーションを行う
段階でも,
「模擬発表」の段階でも高齢者の理解が不十
ことによって高齢者に安全で無理なく楽しんでもらおう
分であったと考える.また,どのようにすればよかった
と考えていることが分かった.しかし,記述内容が具体
かを具体的に記述したものがなく,今後の改善にはつな
性に欠け漠然とした表現にとどまったことは,
「高齢者看
がりにくいと考える.ここに一つの課題があると考える.
護援助論」ですべての講義が終了していたにもかかわら
「学生は,レクリエーション前には,
〈ADL
中岡と上西 1)は,
ず,高齢者の状況を具体的にイメージできていなかった
レベル〉について老年者個々によって様々であると予想
と考える.また,質問項目に具体的に何を意図して企画
する一方で,ADL の低下及び自立,または想像できな
し実施上の留意点は何であったかなど記述内容につい
いと,学生個々によって老年者の理解にばらつきがある
ての方向性を示さなかったことで,回答も具体性を欠い
ことが分かった」と述べている.本調査でも,半数以
たと考える.楽しめるもの,目的に沿うようにしたという
上の学生が学内の演習が〈役に立った〉と答えてはいる
回答からは,学生は意図をもって実施したと考えられる
ものの,実習前の知識の差から,レクリエーションを通
が,演習の目的をこの点に求めていたため,企画書作成
しての気づきや学びにも学生間で差が出たと考える.
〈学
の段階での指導を検討する必要があると考える.
内演習の時間を増やしてほしい〉が 1 名であったが,ほ
とんどのグループは時間内に準備できていたことや,総
2.企画したレクリエーションを実際に行った感想,評価
時間数の中での演習の占める割合を考えると時間配分と
〈高齢者に笑顔が見られた,楽しそうだった〉,
〈安全
しては適切であったと考える.
に実施できた〉という回答が多くあり,企画書作成の段
階で配慮した〈高齢者にも実施が可能なものにした〉
〈高
,
4.レクリエーション実施後の,高齢者に対するイ
齢者の安全面に配慮した〉,
〈高齢者が楽しめるようにし
メージの変化や,新たな発見
た〉,
〈目的に沿うようにした〉,
〈高齢者にもわかるように
〈考えていた以上の能力を持っている〉,
〈意欲的であ
した〉などの点についてはレクリエーション実施の際に
る〉,
〈楽しそうである〉,
〈優しい〉と答えており,身体面,
も意識して行うことができたと考える.しかし,
〈進行が
心理面,感情面において学生が理解していた高齢者の
スムーズにいかなかった〉,
〈高齢者の観察ができていな
イメージとの違いに気づくことができたと考える.また,
かった〉,
〈物品などの準備が不足していた〉,
〈転倒の危
〈消極的である〉,
〈思っていたより耳が遠い〉,
〈安全面に
険があった〉の回答もあり,何をどのようにするかなど
配慮する必要がある〉と答えたものもあり,高齢者につ
企画書が具体的にならなかったことがレクリエーションの
いての理解が不足していた点にも気づくことができたと考
実施に影響したと考える.学生は,レクリエーションの
える.この違いに気が付いたことで,さらに高齢者の持
進行がスムーズにいかなかったことから,実施してはじ
てる力を発見する学びとなるように助言することが必要で
めて,企画段階から認知症高齢者の特徴を十分に把握
ある.松久 2)は,
「高齢者のレクリエーションを考える場
していなかったことに気がついたと考える.
合は参加者の個人個人を良く知り,その人には何が必要
かを知り,その必要なことを集団により援助することが
3.学内の演習に対する評価
理想であるが,高齢者との関りが短い(少ない)看護学
半数以上が〈役に立った〉と答えた.
〈役に立たなかっ
生には限界があることが感じられる」と述べている.授
た〉と答えたのが 1 名で,その理由として「忘れてしまっ
業時には,今回の学生の体験からのコメントを知らせる
ていた」であったが,授業と実習の間が長くなる学生に
など,さらに認知症高齢者のイメージ化ができるように
は,実習前の復習を必ずするよう促す必要がある.
助言する必要があると考える.また,実習においては,
〈演習時,高齢者役になりきればよかった〉の回答に
レクリエーションの企画段階から施設職員と事前相談を
ついては,高齢者役の学生の中には設定した通りの対
行い,協力して実施できるように調整し対象者に適切な
− 38 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
内容となることや,持てる力をさらに引き出せるよう助言
レクリエーションが必要であることを理解していたと考え
を得ることも,今後の実習方法として有効であると考え
る.実施する際の企画者の心構えとして〈高齢者にとっ
る.
てレクリエーションは大切〉,
〈高齢者にあった内容にす
この項目の未記入・無効回答が 3 名,回答数がのべ
る必要がある〉,
〈安全に配慮する必要がある〉
,
〈高齢者
27 と少ない結果であった.また,そのように回答した理
に共通する問題解決のために行うもの〉,
〈企画する側も
由が述べられていないものが多かった.これは,学生が
一緒に楽しむことが大切〉の回答があり,一部の学生の
レクリエーション実施後に高齢者に対する自己の学びを
意見であるが,高齢者にとって皆と集まり楽しいことをす
十分に整理することができていたか疑問も残る.
る行為が QOL を高めるきっかけになり,そのことを企画
これまでにも,レクリエーション実施当日に振り返りの
する際には,対象をよりよく理解し,特徴を捉える必要
時間を設けているが,これを効果的に実施するためには,
があったとの学びができていたと考える.
「高齢者の特性や可能性についての理解」に焦点を当て,
今回の調査からは,レクリエーションの効果や実施上
学内での既習内容と実習での体験から,さらに高齢者
の留意点については学べたが,高齢者看護学の基本姿
への理解を深めていけるようにする必要があると考える.
勢である「高齢者の《尊厳》」に関連する内容としては
学内演習の振り返りの際に,高齢者の特性である難聴
少なく,≪尊厳≫について意識していたかについては文
や理解力,動きなどを踏まえた振り返りになるよう,改
面からは読み取れなかった.山本ら 3)は,看護学生の,
善点についての方向性を示しておくことで,実習での企
レクリエーション体験の学びのレポートを分析し,
「レク
画運営,実施評価する際の方向性を示すことにもつなが
リエーション体験は高齢者の QOL を高めるための学習
ると考える.アンケートの設問についても,
「そう考えた
として重要な体験である」と述べている.今回の調査に
理由」を記入するよう指示しておく必要があったと考える.
おいては,看護学生は,高齢者の生きてきた社会背景
や人生を理解してかかわることの重要性は理解している
5.日常の高齢者と,レクリエーションを通して見る
ようであったが,QOL を高める援助であると自覚し,よ
高齢者との違い
りよく生きるために必要な援助であるという認識を持っ
〈笑顔が多くなった〉
〈楽しそうだった〉
,
〈活気が出た〉
,
,
て実習を行うためには,その指導も含めて課題であると
〈他者と交流がみられた〉という回答であった.しかし,
考える.
レクリエーションを通して高齢者の様子を観察してはいる
授業中のレクリエーション演習を行う際には,レクリ
が,具体的な場面や様子の記述がなく感想をのべるに
エーションの目的をより意識して企画できるように指導し,
とどまっており,高齢者の具体的な状態を把握できてい
「模擬発表」においては高齢者役を行う際には認知症を
ないと考える.この課題については,レクリエーション
持つ高齢者について再度イメージし演じられるようにす
実施後の評価の際に,意図的に「持てる力」やその力を
ることで,実際の援助に生かすことができる学内演習に
発見できた理由を検討する機会を持つことで学びを意識
なると考える.今後は,学生が施設で生活する高齢者を
化,可視化することができると考える.
より具体的にイメージでき,高齢者やレクリエーションに
ついての知識と技術を結び付けた援助を考えていけるよ
6.高齢者看護とレクリエーションについて,感じたり
う指導内容・方法について考えることが必要である.
考えたこと
〈刺激を与えたり非日常を提供する〉,
〈残存機能の維
Ⅴ.結論
持につながる〉,
〈普段見られない能力の発見ができる〉,
〈笑顔を引き出す〉などは,山本ら 3)が述べている【活
「高齢者看護援助論」の授業において,レクリエーショ
動による生活】に分類された内容と類似していた.また,
ンの企画運営に「模擬発表」を加えた演習を行い,実
少数ではあったが〈生き生きと生活できる〉や,
「5 日
習後にアンケートを行った結果,演習についての授業効
常の高齢者と,レクリエーションを通して見る高齢者との
果と教育指導上の課題が明らかとなった.
違い」の回答にある〈活気が出た〉
〈他者との交流が見
1.学生は高齢者が楽しめるものを安全面に配慮し
られた〉のように,
【よりよく生きる力】の内容にある≪
ながら実施したいと考えて企画書を作成していた.
尊厳≫≪充実感≫≪人と人との関係性≫と同様の結果
2.実習前の知識の差から,レクリエーションを通し
が見られ,施設で生活する高齢者の QOL 向上のために
ての気づきや学びにも学生間で差が出たことが考え
− 39 −
高齢者看護学実習におけるレクリエーション演習の授業効果と課題
られた.
3.レクリエーション実施中は高齢者の反応を観察し,
日常と違う表情や普段見られない能力(持てる力)に気
づくことができていた.
4.高齢者の《尊厳》
《自己効力感》とレクリエーショ
ンの効果については,実習において学生の体験からの
気づきを経験知に結び付ける指導が必要である.
5.学内における模擬発表においては,高齢者のイメー
ジづくりに助言し,実施結果の気づきを意識化できるよ
うに教育指導することが課題である.
Ⅵ.実践報告上の限界
今回,研究としてまとめるにあたり同意を得られた学
生数も少なく,アンケートの回収率も非常に少なかった
ため,授業における「模擬発表」の評価を行うには限界
があった.学生は意図をもって企画実施していたものも
あったが,アンケート項目から察することしかできず,学
びを具体化することが難しかった.今後はアンケートだ
けではなく,実際にグループで使ったレクリエーションの
企画書,実施評価,学びの用紙も研究対象とし,多方
面から検討することが必要である.
文献
1) 中岡亜希子,上西洋子:老人ホームでのレクリエーショ
ンを通して看護学生が学んだ老年者に対する気づき.
大阪市立大学看護学雑誌.1:31-37.2005
2) 松久照子:看護学生が介護老人保健施設実習で実施し
たレクリエーションの検討.岐阜市民病院年報.22:
99-101.2002
3) 山本純子,小林菜穂子,三井京香,吉岡由喜子,秦康
代ら:老年看護学実習のレクリエーション体験におけ
る看護学生の QOL の学習効果.太成学院大学紀要.
14:161-168.2012
受理日:2016 年 1 月 5 日
− 40 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【実践報告】
ポートフォリオを用いた看護統合実習における
学生の実習目的達成への影響
Effect of Portfolio Use on Study Goal Achievement of Students in
Integrated Nursing Practice
鶴間 百合子1) 吉田 幸子2)
Yuriko TSURUMA Sachiko YOSHIDA
要 旨
限られた実習環境の中で学生が主体的に学び,実習目的を達成し卒業後も学び続けていける自己教育力を高められるよ
う,看護統合実習(小児)
「看護管理・チーム医療」にポートフォリオとラベルワークを取り入れた.実習終了後学生に
よる自己評価の基準を明確にするためルーブリックを用いてアンケートを作成し再度自己評価するとともに,ポートフォ
リオやラベルワークがその評価に影響した場合はどのように影響したかを調査した.ポートフォリオの影響のみに焦点を
当て分析を行った結果,ポートフォリオを取り入れたことによる学びの過程が明らかになり,実習目標によって直接的な
影響を受けるものと受けないものがあることがわかった.
キーワード:ポートフォリオ,統合実習,ルーブリック,自己評価
Ⅰ.はじめに
(6 時間)を通して実習目的を達成していく.このような
短い時間や実習方法に条件がある中,受け身での聴講
統合実習は,臨床との乖離を減らすため,
「複数の患
や見学では目的を達成できない怖れがある.また,短い
者を受け持ち,一勤務帯を通した実習を行うこと,また,
時間,1 回だけの実習では個人での学びに限界があると
夜間の実習も可能な範囲で実践するなど,臨床実践の
考えた.
中で必要な基礎的な知識と技術を統合的に体験するこ
そこで看護統合実習の目的を達成でき,卒業後も主
と」と看護実践力の向上に主眼を置いたカリキュラム改
体的に学んでいける自己教育力を高められるよう学習の
1)
正により 2009 年に設定された .本学では「看護統合
プロセスや学びの深さを学生自身が客観的に俯瞰でき
実習」と科目立てをし,各看護学で学んだ内容を臨床
評価できるポートフォリオを取り入れ看護統合実習を行っ
実践の中で必要な基礎的な知識と技術を領域ごとで統
た.その結果,実習終了後の評価面接では,達成感や
合的に体験できるようになっている.小児領域を選択し
学びの深まり今後の課題などについて学生から聞くこと
た学生たちは,看護統合実習の目的2「看護管理者の
ができ,自己評価からは実習目的が達成されたことは把
役割を知る,一勤務帯を通しての実習,複数患者(対象
握できたが,ポートフォリオを取り入れたことが実習目的
者)受け持ちを見学・体験をすることで,看護チームの
達成に影響したかについては明らかではなかった.ポー
一員として行動するために必要な看護実践能力の基盤を
トフォリオを用いたことによる影響を明らかにすることで,
つくる.」に対して実習先の指導体制により,看護部オリ
短期間で制限がある看護統合実習において実習目的を
エンテーション(1 時間程度),病棟師長から看護管理に
達成するための効果的なポートフォリオの活用方法につ
ついての説明(1 時間程度),離れた場所からの日勤リー
ながると考えられた.
ダー業務見学(3 時間),学生指導者へのシャドーイング
1)
女子栄養大学大学院栄養学研究科
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
2)
− 41 −
ポートフォリオを用いた看護統合実習における学生の実習目的達成への影響
Ⅱ.目的
⑦⑥を資料とし病棟指導者を交えた最終カンファレン
スで発表する.
1. ポートフォリオを取り入れたことによる実習への影響
⑧指定の記録用紙に学びとしてまとめる.
を明らかにする.
4.データの収集方法
2.ルーブリックを用いて更に具体的な行動レベルでの
1)自記式質問紙調査
自己評価より,目標達成へのポートフォリオの影響を明
①看護統合実習目的2に対する実習目標5「病棟にお
らかにする.
ける看護管理者の役割について見学を通して理解す
ることができる」,実習目標6「一勤務帯における複
3.ポートフォリオが実習目的達成にどのように影響した
数患者の看護の見学・一部体験を通し,看護チー
のかを明らかにする.
ムの一員としての役割を理解することができる」,実
習目標7「一勤務帯(日勤)すべてを体験し臨床の
Ⅲ . 研究方法
看護業務をイメージ化することができる」について
ルーブリックを用いたアンケートにより再度自己評価
1.研究デザイン :質的帰納的研究
を行う.
②自己評価にポートフォリオとラベルワークがどのよう
2.対象および期間
に影響したのかについて理由を記載する.
対象:A 大学看護学科 4 年生,看護統合実習(小児)
を終了した学生 5 名
2)データの分析方法
(1)実習目標の自己評価をルーブリックでの自己評価の
期間:平成 26 年 11 月~平成 27 年 2 月
5,4,3,2とし,目標達成を点数化する.
(2)目標達成に影響した理由について意味を損なわな
3.実習展開の方法
いよう文節で取り出しコード化し,コードの意味内容
1)看護統合実習の実習目的 2:看護管理者の役割を
の類似性に沿ってサブカテゴリー化を行い,更に抽象
知る,一勤務帯を通しての実習,複数患者(対象者)
化するためにカテゴリー化する.領域内の教員で検討
受け持ちを見学・体験をすることで,看護チームの一
した後他領域の教員との検討を行い,妥当性が確保
員として行動するために必要な看護実践能力の基盤を
されるまで複数回検討を重ねる.
つくる.
(以下実習目的と略す.)
(3)数値化した目標達成感とポートフォリオ・ラベルワー
2)ポートフォリオを用いた実習展開
クという学習方法との関係を考察する.
①実習目的 2 から看護管理とチーム医療について自己
の目標(ビジョン)を明確にする.
※今回の研究では(1),
(2)より,ポートフォリオの影
響を分析する.
②自己の目標(ビジョン)を達成したい気持ちが湧くよ
5.倫理的配慮
うな目標シートを作り記載する.
③教員との面談で自己の目標(ビジョン)を伝え,目
標達成のために必要な事前学習を行う.
学生に対して,参加の任意性,途中中断の保証と目
的以外には使用しないこと,匿名性についてアンケート
④看護管理,チーム医療に関する実習を行った際,
は本人が特定されないよう無記名とし,成績には一切関
学びをラベルに記載しポートフォリオに添付して行
係のないことを文書と口頭で説明する.アンケート用紙
く.
の提出は1階事務局に設置した回収ボックスとし,回収
⑤学生全員が看護管理,チーム医療に関する実習を
ボックスへの投入をもって同意とする旨を説明した.
終了した時点でポートフォリオを持ち寄り,ラベルに
また,東都医療大学研究倫理委員会の承認(承認番
書かれた学びについて説明し,同じ内容・関係性
号 H2618)を得て実施し,研究に使用した資料は,研
からラベルを構造化しグループとしての「看護管理と
究終了後破棄する.
は」
「チーム医療とは」を導き出す.
⑥模造紙にラベルを使い構造化した「看護管理とは」
「チーム医療とは」を書く.
− 42 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
Ⅳ.結果
実践報告
た学生は5名中2名であった.
行動目標2の,ルーブリックによる自己評価の平均は
1.ルーブリックによる自己評価とポートフォリオ
4.6 点であった.また,この評価に対してポートフォリ
の影響について(表 1)
オの影響があったと答えた学生は5名中1名であった.
1)実習目標5「病棟における看護管理者の役割につい
行動目標3の,ルーブリックによる自己評価の平均は
て見学を通して理解することができる」に対する行動
4.8 点であった.また,この評価に対してポートフォ
目標1の,ルーブリックによる自己評価の平均は 4.8
リオの影響があったと答えた学生は5名中4名であっ
点であった.また,この評価に対してポートフォリオ
た.
の影響があったと答えた学生は5名中4名であった.
3)実習目標7「一勤務帯(日勤)すべてを体験し臨床
行動目標2の,ルーブリックによる自己評価の平均
の看護業務をイメージ化することができる」に対する
は5点であった.また,この評価に対してポートフォ
行動目標1の,ルーブリックによる自己評価の平均は
リオの影響があったと答えた学生は5名中5名であっ
3.8 点であった.また,この評価に対してポートフォ
た.
リオの影響があったと答えた学生は5名中0名であっ
2)実習目標6「一勤務帯における複数患者の看護の見
た.
学・一部体験を通し,看護チームの一員としての役割
行動目標2の,ルーブリックによる自己評価の平均
を理解することができる」に対する行動目標1の,ルー
は 4.4 点であった.また,この評価に対してポートフォ
ブリックによる自己評価の平均は5点であった.また,
リオの影響があったと答えた学生は5名中4名であっ
この評価に対してポートフォリオの影響があったと答え
た.
表 1. ポートフォリオを取り入れたことによるルーブリックでの自己評価
実習目標
行動目標
ルーブリックによる評価(学生別)
平均
ポートフォリオ
の影響があった
学生 A
学生 B
学生 C
学生 D
学生 E
4
5
5
5
5
4.8
4名
5
5
5
5
5
5
5名
1. 複数の患者を受け持って
いる看護スタッフと共に行動
(一部)することで看護チー
ムの一員としての役割を理解
できる
5
5
5
5
5
5
2名
6. 一勤務帯における複
2. 複数の患者を受け持って
数患者の看護の見学・
いる看護スタッフと共に行動
一部体験を通し,看護
(一部)することで優先順位
チームの一員としての
を考えた業務について学ぶこ
役割を理解することが
とができる
できる
4
4
5
5
5
4.6
1名
3. 学んだことを他者に分か
るように発表できる
5
5
4
5
5
4.8
4名
5
3
3
3
5
3.8
0名
5
4
5
4
4
4.4
4名
1. 病棟における看護管理者
5. 病棟における看護管 の役割を見学を通して理解す
理者の役割について見 る
学を通して理解するこ
2. 学んだことを他者に分か
とができる
るように発表できる
1. 一勤務帯のすべてを体験
7. 一勤務帯(日勤)す することで臨床勤務のイメー
べてを体験し臨床の看 ジ化ができる
護業務をイメージ化する
2. 学んだことを,所定の用
ことができる
紙に記述し発表できる
− 43 −
ポートフォリオを用いた看護統合実習における学生の実習目的達成への影響
2.ポートフォリオが目標達成に影響した理由について
(表 2)
><学んだことを自分で見直すことができる><学びの
かたまり><考えや学びを他者に分かりやすく表現でき
目標達成に影響した理由について内容分析を行った
る><事前学習やまとめたことをラベルワークに活用>と
結果,34 のコードを取り出した.そのコードから,<事
いう11 のサブカテゴリーが抽出できた.そして,11 のサ
前学習になった><事前学習を活かした実習><発見・
ブカテゴリーからは≪効果的な事前学習≫≪主体的な学
学び・疑問をまとめられる><分からないことを調べ学
習≫≪学びの確認≫≪学びの共有≫という4つのカテゴ
んだことを積み重ねる><考えながら主体的に学ぶ><
リーが抽出できた.また,これらは実習前,実習中,実
まとめることで知識が深まる><何を学んだかがわかる
習後という実習の経過に沿って分類できた.
表2.ポートフォリオが目標達成に影響した理由の内容分析
カテゴリー
サブカテゴリー
コード
効果的な事前学習
事前学習になった
・作成することが事前学習
・事前に調べたり文献を読んだ
・事前に学びたいことをまとめた
事前学習を活かした実習
・だいたいのことを把握したうえで病院や看護師長からの話を聞くことができた
・事前学習を踏まえて見学できた
・ポートフォリオとして示すことで観察したことを理解へとつなげられた
・事前に学びたいことをまとめたことで,より明確な学習へとつながった
主体的な学習
・日々の小さな発見などをこまめにまとめられた
・自分で観察したことをまとめられた
発見・学び・疑問をまとめ
・自分で学んだことをファイルするので自分の学びもまとまっている
られた
・自分の考えや疾患,看護の学びをまとめておくことができた
・こまかなわからない点を何でもどんどんファイリングしていくことが出来た
分らないことを調べ学ん ・資料を見たりした
だことを積み重ねる
・分らない点を調べ,学んだものをどんどん入れて積み重ねることが出来た
考えながら主体的に学ぶ
・良い学びができるのか,考えながら作成することができた
・大きな規定がなく自分が調べ学んだことを自由にファイリングしていくことがで
きたのでとても自主的に学ぶことが出来た
まとめることで知識が深 ・自分で知ったことをファイリングし,知識を深められた
まる
・理解したことをまとめることで理解を深めることができた
何を学んだかがわかる
学びの確認
・スタッフはお互いに協力する,患者を中心とした看護をするなど,スタッフとし
て必要なことを学ぶことができた
・自己の学びや課題がとても明確になった
・自分が学んだことを見てすぐにわかる
学んだことを自分で見直
・ポートフォリオを見ると自分で学んだことを見直すことができた
すことができる
・学んだことを時間が経っても見返すことで思い出すことができた
学びのかたまり
・終わった時には実習をやり通した道となった
・まとめていくことで最後には良い参考資料となった
・やったことが目で見てわかるため達成感にもつながった
学びの共有
・自分の考えや疾患,看護の学びをまとめておくことで,他者にわかりやすいよう
に発表をすることができた
・自分が学んだことを見てすぐにわかるので発表しやすい
考えや学びを他者にわか
・ポートフォリオにまとめることで,自分の中で発表しやすくなった
りやすく表現できる
・ポートフォリオを見ると自分で学んだことを見直すことができ,発表しやすい
・自分の学びもまとまっているので,学びを記述するのに役に立った
・記録用紙を書くに当たり,ポートフォリオにまとめたことを参考にすることができた
事前学習やまとめたこと ・事前に調べていた文献を参考にしてラベルに名前をつけまとめた
をラベルワークに活用
・事前に調べておいた文献を参考にしてラベルに名前をつけた
− 44 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
Ⅴ.考察
実践報告
ファイリングしている<発見・学び・疑問をまとめられた
>.そして,ポートフォリオに事前学習もファイリングし
1.ポートフォリオを取り入れたことによる実習への影響
てあるため,<分らないことを調べ,学んだことを積み
1)効果的な事前学習
重ねる>ことができている.また,
「考えながら作成する
学生はポートフォリオを「作成することが事前学習」と
ことができた」
「自分が調べ学んだことを自由にファイリ
とらえ,
「事前に学びたいことをまとめた」と何を学びた
ングしていくことができたのでとても自主的に学ぶことが
いかを意識してポートフォリオを事前学習として作成して
出来た」とあるように実習中ポートフォリオへのファイリ
いる<事前学習になった>.そして,
「事前学習を踏まえ
ングが進んでいくことによって<考えながら主体的に学ぶ
て見学できた」
「事前に学びたいことをまとめたことで,
>ようになっており,
「自分で知ったことをファイリングし,
より明確な学習へとつながった」とあるように事前学習と
知識を深められた」
「理解したことをまとめることで理解
して作成したポートフォリオを実習に活用していることか
を深めることができた」とある.実習での学びなどをファ
ら<事前学習を活かした実習>,ポートフォリオを取り入
イリングしたりまとめたりすることで<まとめることで知
れたことで≪効果的な事前学習≫ができており,
「ポート
識が深まる>ことを実感していることから,学生たちは
フォリオとして示すことで観察したことを理解へとつなげ
ポートフォリオを使い≪主体的な学習≫をしておりそれが
られた」とあるように学生自身も事前学習を行うことが
達成感にも繋がっていると考えられる.
実習での学びにつながることを確認できている.
3)学びの確認
2)主体的な学習
「ポートフォリオを見ると自分で学んだことを見直すこ
「日々の小さな発見などをこまめにまとめられた」
「自
とができた」
「自己の学びや課題がとても明確になった」
分で学んだことをファイルするので自分の学びもまとまっ
とあるように , 学生たちはポートフォリオを俯瞰し自分自
ている」
「こまかなわからない点を何でもどんどんファイ
身で学びを確認し<学んだことを自分で見直すことがで
リングしていくことが出来た」とあるように,学生は実習
きる><何を学んだかがわかる>,そこから課題を見出
中,様式や形式にこだわらずその都度ポートフォリオに
している.
「やったことが目で見てわかるため達成感にも
つながった」
「終わった時には実習をやり通した道となっ
た」とあることからポートフォリオに実習での学びの全て
が入っており<学びのかたまり>,ポートフォリオを見るこ
とで≪学びの確認≫をしており,≪学びの確認≫ができ
ることが実習の達成感へとつながったといえる.
4)学びの共有
「ポートフォリオを見ると自分で学んだことを見直すこと
ができ,発表しやすい」
「自分が学んだことを見てすぐ
にわかるので発表しやすい」ポートフォリオには実習前
に行った事前学習から,実習中のプロセスや学びが全て
入っているため,<考えや学びを他者にわかりやすく表
現できる>.そして,ラベルワークでも「事前に調べてい
た文献を参考にしてラベルに名前をつけまとめた」とあ
るように,自身の学びを他者に伝えるためにポートフォリ
オの中にある事前学習を活用している.これらのことか
らポートフォリオを実習後の≪学びの共有≫にも活用して
いるといえる.
5)ポートフォリオを取り入れたことによる学びの過程
図 1 は看護統合実習(小児)にポートフォリオを取り入
れたことによる学びの過程を示している.サブカテゴリー
図 1.看護統合実習(小児)にポートフォリオを取り入
れたことによる学びの過程
とカテゴリーの関連から,学生は実習前,実習中,実習
後とポートフォリオを活用し学んでいることがわかる.ま
− 45 −
ポートフォリオを用いた看護統合実習における学生の実習目的達成への影響
た,その学びは断続的なものにとどまらず,継続的に
関連させてポートフォリオを活用し学んでいると考えられ
て見学を通して理解することができる」について
ルーブリックによる自己評価の平均は行動目標1
「病
る.
棟における看護管理者の役割を見学を通して理解す
学生はポートフォリオで<効果的な事前学習>を行い,
る」が 4.8 点,行動目標2「学んだことを他者に分か
それを基に実習中<主体的な学習>をしている.<主
るように発表できる」が5点であった.また,学生の
体的な学習>により実習したことにより<学びの確認>
半数以上がルーブリックの自己評価に当たりポートフォ
ができ,効果的な<学びの共有>へとつながっていると
リオを実践したことが影響したと答えた.このことか
考えられる.そして,実習後にポートフォリオを活用した
ら,実習目標5についてはポートフォリオを取り入れた
<学びの共有>については,鈴木が「ポートフォリオに
ことにより実習目標達成につながったといえる.
は関連やプロセスの全体が入っていますからコンピテン
2)実習目標6「一勤務帯における複数患者の看護の見
2)
シーが見出しやすいのです.」 と述べているように,実
学・一部体験を通し,看護チームの一員としての役割
習のプロセスや学びと援助の関連が入ったポートフォリオ
を理解することができる」について
を俯瞰し<学びの共有>を行うことで,実習で得た断続
ルーブリックによる自己評価の平均は行動目標1
「複
的な学びと援助を関連させて知識として使用している.
数の患者を受け持っている看護スタッフと共に行動
(一
これは目標を立て必要な学習を行い,実践し,その成果
部)することで看護チームの一員としての役割を理解
を含めたプロセスや関連を用いて共有していることを示し
できる」が5点,行動目標2「複数の患者を受け持っ
ている.
ている看護スタッフと共に行動(一部)することで優
先順位を考えた業務について学ぶことができる」が 4.6
2.ルーブリックでの自己評価によるポートフォリオ
点,行動目標3「学んだことを他者に分かるように発
の影響
表できる」が 4.8 点であった.また,学生の半数以上
ルーブリックでの自己評価の平均は「一勤務帯のすべ
がルーブリックの自己評価に当たりポートフォリオを実
てを体験することで臨床勤務のイメージ化ができる」が
践したことが影響したと答えた行動目標は,行動目標
3.8 点であるが,それ以外の行動目標で4点以上となっ
3「学んだことを他者に分かるように発表できる」だけ
ている.ルーブリックでは評価基準を満たし,且つ発展
であった.このことから,実習目標達成はできたがポー
的学習を設定する.今回の評価では5点がそれに当たる.
トフォリオを取り入れたことによる影響は実習目標達成
このことから学生たちはほぼ全ての行動目標で評価基準
の全体には影響せず,学びの発表に限られたもので
を満たしており,実習目標を達成し実習目的を達成した
あるといえる.この要因としてポートフォリオには看護
といえる.その中でも半数以上の学生がポートフォリオ
チームについての事前学習よりもチーム医療について
を取り入れたことによる影響があったとしているのは,実
の事前学習が多かったためであることが考えられる.
習目標5の行動目標「病棟における看護管理者の役割を
また,看護チームの一員からチーム医療についてまで
見学を通して理解する」
「学んだことを他者に分かるよう
学んでもらいたいという考えから,担当教員の事前学
に発表できる」と,実習目標6の行動目標「学んだこと
習の指示がチーム医療を重視したものであったことが
を他者に分かるように発表できる」及び,実習目標7の
影響しているのではないかと考えられる.この要因以
行動目標「学んだことを,所定の用紙に記述し発表でき
外についても今後の研究にて明らかにしていく必要が
る」であった.これは,実習のプロセスや学びの全てが
ある.
入ったポートフォリオだからこそ≪学びの確認≫ができる
3)実習目標7「一勤務帯(日勤)すべてを体験し臨床
ため,事前学習をもとに実習で得た知識を活かして表現
の看護業務をイメージ化することができる」について
に使ったり,説明したりすることで≪学びの共有≫を行
ルーブリックによる自己評価の平均は,行動目標1「一
えたためではないか,ポートフォリオを活用し実習ができ
勤務帯のすべてを体験することで臨床勤務のイメージ
ていたため高い評価になったのではないかと考える.
化ができる」が 3.8 点,行動目標2「学んだことを所
定の用紙に記述し発表できる」が 4.4 点であった.ま
3.ポートフォリオを取り入れたことによる学生の
た,学生の半数以上がルーブリックの自己評価に当た
実習目的達成への影響
りポートフォリオを実践したことが影響したと答えた行
1)実習目標5「病棟における看護管理者の役割につい
動目標は,行動目標2「学んだことを所定の用紙に記
− 46 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
述し発表できる」だけであった.行動目標1「一勤務
響したとはいえない.しかし,ポートフォリオには実習の
帯のすべてを体験することで臨床勤務のイメージ化が
プロセスや学びが全て入っており,いつでも確認するこ
できる」については学生全員がポートフォリオを取り入
とができる.そのため実習で学んだことや考えの表現に
れたことによる影響はないとしている.このことから学
使ったり,説明したりすることにポートフォリオを活用す
んだことを記述し発表はできるが,臨床勤務のイメー
ることによって,ルーブリック評価による「発展的学習が
ジ化に関してはポートフォリオによる影響はないという
できた」につながっていることから考えると,直接的で
ことが分かった.この要因以外については今後の研
はないが実習目的達成に影響したと考えられる.今後は
究にて明らかにしていく必要がある.
明らかになったポートフォリオの影響を基に効果的な使
用を検討することが必要である.
Ⅵ.まとめ
文献
今回,看護統合実習においてポートフォリオを取り入
れたことにより,ポートフォリオが実習にどのように影響
1)厚生労働省:看護基礎教育の充実に関する検討会報告
しているのか,また,学生の実習目的達成への影響につ
いて明らかになった.
書.2009
2)鈴木敏恵:目標管理はポートフォリオで成功する.メ
ヂカルフレンド社;p44,2008.
1.ポートフォリオを実習に取り入れたことによる
影響について,次の4点が明らかになった.
1)ポートフォリオを効果的な事前学習として活用してい
る.
2)ポートフォリオにより主体的な学習を行い,学びを
確認している.
3)実習前,実習中,実習後とポートフォリオを活用し
断続的な学びを継続的に関連させて学んでいる.
2.看護統合実習においてポートフォリオを取り入れ
たことによる学生の実習目的達成への影響について,
実習目標に沿って分析した結果 次の3点が明らかに
なった.
1)実習目標5については,ポートフォリオを取り入れた
ことにより目標達成につながる.
2)実習目標6については,ポートフォリオを取り入れた
ことが実習目標達成に直接的には影響しない.
3)実習目標7については,ポートフォリオを取り入れた
ことが実習目標達成に直接的には影響しない.
Ⅶ.結論
看護統合実習(小児)にポートフォリオを用いたことに
より,実習前から実習終了後までポートフォリオを継続
的に活用し主体的な学びをしていた.看護統合実習(小
児)で主体的に学び自己教育力を高めるには適した実習
方法であると考えられる.ただ,実習目標達成への影響
からポートフォリオだけで,直接的に実習目的達成へ影
− 47 −
受理日:2016 年 2 月 8 日
ポートフォリオを用いた看護統合実習における学生の実習目的達成への影響
資料 1.看護統合実習(小児)評価の基準(ルーブリック)
評価項目
S
A
実 習 目 標 5
1.病棟における看護 病棟における看護管理 病棟における看護管理
管理者の役割を見学を から病院における看護 者の役割についてカン
管理へと発展した学習 ファレンスで発言するこ
通して理解する
とができ記録できる.
ができている.
2.学んだことを他者に 個人だけでなくグルー
分かるように発表できる プ間の学びとして視覚
的資料を用い発表でき
る.
B
C
病棟における看護管理 病棟における看護管理
者の役割についてカン 者の役割について発言
ファレンスで発言するこ できない.
とができる.
個人で視覚的な資料使 個人で視覚的な資料を 学んだことを口頭では
い,さらに学んだことか 使い学んだことを発表 発表できるが視覚的な
資料はない.
ら発展させて発表でき できる.
る.
実 習 目 標 6
看護スタッフと行動し看
護チームの一員としての
役割についてカンファレ
ンスで発言することがで
きる.
看護スタッフと行動して
いるが,看護チームの
一員としての役割につい
てカンファレンスでの発
言も記録することもでき
ない.
1.複数の患者を受け
持っている看護スタッフ
と共に行動(一部)する
ことで看護チームの一
員としての役割を理解で
きる
看護スタッフと行動し看
護チームの一員としての
役割からチーム医療に
ついて考えカンファレン
スで発言することがで
き記録できる.
看護スタッフと行動し看
護チームの一員としての
役割についてカンファレ
ンスで発言することがで
き記録できる.
2.複数の患者を受け
持っている看護スタッフ
と共に行動(一部)する
ことで優先順位を考え
た業務について学ぶこ
とができる
複数の患者を受け持っ
ている看護スタッフの行
動の理由を優先順位の
視点と看護チームの一
員としての視点から説明
できる.
複数の患者を受け持っ 複数の患者を受け持っ 複数の患者を受け持っ
ている看護スタッフの行 ている看護スタッフの行 ている看護スタッフの行
動の理由を優先順位の 動の理由を説明できる. 動について,何をして
いたかは説明できるが,
視点から説明できる.
その理由については説
明できない.
3.学んだことを他者に 個人だけでなくグルー
わかるように発表できる プ間の学びとして視覚
的資料を用い発表でき
る.
実 習 目 標 7
1.一勤務帯のすべて
を体験することで臨床
勤務のイメージ化がで
きる
個人で視覚的な資料使 個人で視覚的な資料を 学んだことを口頭では
い,さらに学んだことか 使い学んだことを発表 発表できるが視覚的な
資料はない.
ら発展させて発表でき できる.
る.
臨床勤務のイメージに 臨床勤務のイメージに 臨床勤務のイメージに 臨床勤務のイメージに
ついて体験から 5 つ以 ついて体験から 5 つ以 ついて体験から3つ~ ついて体験から 2 つ以
下しか言語化できな
4 つ言語化できる.
上言語化でき,働きた 上言語化できる.
い.
いと考えられる.
2.学んだことを所定 学んだことを発表し, 学んだことを発表し, 学んだことを発表し, 学んだことを発表でき
るが,記録用紙に記述
の用紙に記述し発表で 記録用紙に整理して記 記録用紙に整理して記 記録用紙に記述でき
できない.
る.
述することで自身の臨 述できる.
きる
床勤務を具体的に考え
られる.
※本学(小児看護学領域)における評価基準の点数化
S:5 A:4 B:3 C:2
− 48 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【実践報告】
看護大学で行う認知症カフェの成果と課題
-学生参加と大学の社会貢献の視点から-
Result and problem of the dementia cafe to carry out at a college of nursing
長谷川 真美 佐藤 光栄 柿沼 直美 泉 明美 平塚 久美子
野村 政子 永井 健太 大澤 久美枝 中島 富志子 今川 詢子
Naomi HASEGAWA Mitsue SATO Naomi KAKINUMA Akemi IZUMI Kumiko HIRATSUKA
Masako NOMURA Kenta NAGAI Kumie OSAWA Toshiko NAKAJIMA Junko IMAGAWA
要 旨
A大学では,平成 26 年 11 月より,B市,およびB市介護保険サポーターズと共催で認知症カフェを立ち上げ,これま
でに 11 回開催した.本報告の目的はこれまでの活動を振り返り,A大学で行われる認知症カフェおよび,A大学の社会
貢献のあり方を俯瞰し,今後の課題と展望について考察することである.各回 10 ~ 20 名程度の認知症を含めた参加者が
あり,3 名程度の新規参加者があること,および参加者の反応から,
「認知症の人と家族,認知症の理解を深めたい地域住民,
専門職等が参加でき,安心して集うことが出来る場とする」という目的は,ある程度達成されていると考えられた.また,
学生の反応や参加者の反応から学生参加が及ぼす効果についても確認できた.今後の課題として,参加者がより満足でき
る内容の工夫,地域住民への広報や社会への発信,大学の持つ人的物的資源の活用など大学で実施することの意味や強み
を生かした工夫など 3 者の協力体制を一層強化して取り組む必要性が確認された.
キーワード:認知症カフェ,看護大学,社会貢献,学生参加
Ⅰ.はじめに
等に対する支援」として,平成 25 年度以降認知症カフェ
(認知症の人と家族,地域住民,専門職等の誰もが参加
厚生労働省のデータによれば,認知症の人は 2012
でき,集う場)の普及が進められており,全国で多くの
年 462 万人で,2025 年には約 700 万人に増加すると
認知症カフェが誕生している.
推測されている.また,65 歳以上の高齢者を対象に
認知症の人と家族の会の報告 3)によると,認知症カ
試算した場合,65 歳以上の高齢者に占める認知症の
フェのもつ 7 つの要素は,
「認知症の人が,病気である
人の割合は 2012 年の 15%から,2025 年には 20%前
ことを意識せずに過ごせる」,
「認知症の人にとって,自
後となると予測されている.この状況に対応すべく,
分の役割がある」,
「認知症の人と家族が社会と繋がるこ
2015 年 1 月には省庁横断で取り組む総合戦略である
とができる」,
「認知症の人と家族にとって,自分の弱み
新オレンジプランが策定された.その基本方針は「認
を知ってもらえていて,かつそれを受け入れてもらえる」,
知症の人の意思が尊重され,出来る限り住み慣れた
「認知症の人とその家族が一緒に参加でき,それ以外の
地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることが出
人が参加・交流できる」,
「どんな人も自分のペースに合
来る社会の実現を目指す」である 1)2).
わせて参加できる」,
「『人』が繋がることを可能にする」
このプランを受けて,
「地域での日常生活・家族の支
である.また,認知症カフェの特徴として,認知症の人
援の強化」対策の 1 対策である「認知症の人やその家族
とその家族が「安心して過ごせる場」,
「何時でも気軽に
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
相談できる場」,
「自分たちの思いを吐き出せる場」,
「本
人と家族の暮らしのリズムを崩さずに利用できる場」,
「認
− 49 −
看護大学で行う認知症カフェの成果と課題
知症の人と家族の思いや希望が社会に発信される場」で
られることにより,介護相談やその後の社会資源の活用
ある.一般住民にとっては「認知症の人やその家族と出
にもつなげることが期待できる.
会う場」,
「認知症のことや認知症ケアについて知る場」
A大学で実施する認知症カフェ(以下,オレンジカフェ
であり,専門職にとっては,
「本人や家族と平面で出会い,
「A」)は,平成 26 年 11 月から毎月 1 回を開催し,平
本人家族の別の側面を発見する場」である.さらに運営
成 27 年 10 月までに 11 回開催した.
スタッフにとって「必要とされていること,やりがいを感
今回は立ち上げからこれまでの活動を振り返り,A大
じる場」であり,地域住民にとって
「『自分が認知症になっ
学で行われるオレンジカフェ「A」および,A大学の社
た時』に安心して利用できる場を知り,相互扶助の輪を
会貢献のあり方を俯瞰し,今後の課題と展望について考
形成できる場」であることが挙げられている.
察する.
「お料理のおいしい認知症カフェ」,
「まちのえんがわの
認知症カフェ」,
「デイサービスの場所での認知症カフェ」
Ⅱ.倫理的配慮
など特徴を持つ認知症カフェがメディア等で紹介されて
いるが,それらは認知症カフェのごく一部であり,その
論文中で使用するアンケート,意見・感想は無記名,
実態や正確な数は,取り組みが始まって未だ時間が経過
匿名化して扱い,個人が特定されないよう配慮した.ま
していないこともあり,十分把握されていないのが現状
た,内容の論文への掲載については,参加者及び学生
である.また,認知症カフェの運営母体も実施内容も様々
へは,以下の方法で周知し,了解を得た.
である.実施母体の主なものは家族会,社会福祉法人,
カフェの参加者および主催者グループに対してカフェ
市町村,NPO法人等であり,提供される実施内容もお
の場を借りて周知し,了承を得た.学生に対しては,1
茶を飲みながらの会話やゲーム,手芸や体操といったも
週間の掲示により周知し,辞退の申し出がない場合は同
のから本人家族への心理的支援,料理教室,宿泊まで
意と判断した.
様々である.
A大学では,大学所在地であるB市との5年間の包括
Ⅲ.運営の実際
協定を結び,協力して認知症カフェを立ち上げ,運営を
進めてきた.大学で実施する強みを考慮し,教員だけで
平成 26 年 5 月の包括協定に基づき,B市長寿福祉
なく,学生も参加する形で認知症カフェの運営を考えた.
課が声掛けをして立ち上げを進め,カフェの名称,目的,
学生が参加する認知症カフェは全国でも先駆的であり,
対象者,運営方法について 6 月から開催までに 5 回の
その動向が注目されている.
会議を開催し,3 者で協議を重ねた.その結果,下記
大学で開催することは,認知症カフェを利用する人に
のように決定した.立ち上げの経緯および認知症カフェ
とっては,普段あまり足を踏み入れることのない大学で
の概要は以下のとおりである.
実施されることにより市民の興味をひけること,教員とい
う専門知識を持った社会資源が存在すること,若い学
1.オレンジカフェ「A」の立ち上げの経緯および
生がそこにいて触れ合える可能性があること,また,大
カフェの開催状況
学の持つ教育施設としての施設設備を活用できることな
平成 26 年 5 月 大学所在地であるB市との5年間の包
どの利点がある.また,大学にとっては,①社会貢献の
括協定を結ぶ.
機会であり,今後の社会貢献の緒を見いだす重要な情
平成 26 年 6 月~ 11 月 A大学,B市長寿福祉課,B
報資源であり,同時に社会貢献できる大学として社会に
市介護保険サポーターズが協力して認知症カフェ
(オレン
発信する機会となる,②学生と市民とが交流する機会を
ジカフェ A)を立ち上げ準備.5 回の会議で検討.
設けることで教育的な意図を組み入れられる機会となる
平成 26 年 11 月 第 1 回オレンジカフェ「A」開催.
ことが期待できる.
平成 27 年 1 月~ 3 月 毎月 1 回開催し,平成 27 年
さらに,B市,およびB市介護保険サポーターズと協
3 月までに 4 回開催.
力することで,B市の広報力や企画力,組織力,B市介
平成 27 年 4 月~ 10 月 毎月 1 回,10 月に第 11 回オレ
護保険サポーターズのもつ「家族の話をじっくり聴き,家
ンジカフェ「A」を開催.
族の思いの表出を促す」ための話し合いをスムーズにす
すめるノウハウや地域包括支援センター職員の協力を得
− 50 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
2.オレンジカフェ「A」の概要
プログラムの内容:①介護者を中心とした話し合いを組
名称:オレンジカフェ「A」.
み入れる,②認知症の人向けのプログラムを組み入れる,
目的:認知症の方やその家族を地域の中で支援する
③体操や歌など全員で行うプログラムを組み入れる,
④ゲー
ことを目的に,認知症の人と家族,認知症の理解を深
ムなど全員で楽しめるプログラムを年に数回組み入れる.
めたい地域住民,専門職等が参加でき,安心して集うこ
表 1 はオレンジカフェ「A」の流れを示したもの
とが出来る場とする.
である.主として,体操,話し合い,創作活動,レ
開催場所:A大学食堂
クリエーションで構成している.カフェ終了後,担
運営:A大学,B市,B市介護保険サポーターズの 3 者
当者で評価会を行う.
で主催し,毎回,地域包括支援センターの協力を得てい
る.
3.オレンジカフェ「A」主催者の役割分担
対象:B市内在住者やその家族で,認知症が気にな
主催者側 3 者の役割分担は,以下のとおりである.
る人,認知症に関心のある人,以前に家族を介護し
介護保険サポーターズはプログラム内容①の話し合い
ていた人.
(表 1 参照),会計管理,茶菓の準備,参加者の記録管
開催日時:第 3 木曜日または金曜日 13:30 ~ 16:00(多
理を担当する.B市長寿福祉課は住民等への広報,B
くの学生の参加が見込めるため).
市との調整,その他の各種調整等を担当する.A大学
参加費等:参加者から参加費として,1 人 100 円を徴収
は場所の提供,プログラム内容②認知症の人向けのプ
する(これは認知症の人も一人の参加者として尊重する意
ログラム(表 1 参照)③体操や歌など全員で行うプログ
味合いを含ませた対応である).徴収した費用は,カフェ
ラム(表 1 参照)を主に担当する.プログラム内容④は
で提供する茶菓の購入に当てる.
3 者でその都度検討することとした.
表 1.オレンジカフェ「A」の流れ
− 51 −
看護大学で行う認知症カフェの成果と課題
Ⅳ.成果と考察
サポーターズメンバー 21 名,B市職員 12 名,地域包括
支援センター職員 6 名,見学者 6 名であった.
1.認知症カフェ参加者の状況(表 2 参照)
平成 27 年度は(7 回開催),延べ数で大学教職員 44
平成 26 年度は,11 月から 4 回開催し,参加者は 47
名,学生 83 名,B市介護保険サポーターズメンバー 43
名で,延べ 80 名を数えた.1 回の参加者は 20 名前後で,
名,B市職員 16 名,地域包括支援センター職員 9 名,
毎回 10 名程度のリピーターがあり,そのうち認知症の人
見学者 2 名であった.B市介護保険サポーターズおよび
は 3 名であった.平成 27 年度(10 月現在)の新規参加
B市担当者は毎回ほぼ同一のメンバーが参加しており,
者は 44 名,平成 26 年度からの継続参加者を含めて延
地域包括支援センターはB市にある 4 つのセンターから
べ参加者総数は 117 名であった.認知症の人の参加は,
交代で参加している.大学では,教職員は立ち上げ時
1 回あたり 2 ~ 6 名で,延べ 28 名の参加があった.こ
からかかわる固定した者に加えて,地域連携委員会メン
れは平成 27 年度には,B市内のグループホームからの
バーを中心に教員が任意で参加している.また,企画ご
参加者があることによるものである.
とに協力を要請していること,および教員参加を呼びか
また,主催者側の参加者は,平成 26 年度(4 回開催)
けたことにより,毎回の参加数は同じであっても,回ご
延べ数で大学教職員 24 名,学生 22 名,B市介護保険
とに新たな担当教員が加わるなどカフェに参加したこと
表 2-1.平成 26 年度 参加者の状況
表 2-2.平成 27 年度 参加者の状況
− 52 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
のある教員が徐々に増えてきている.学生については,
参加者の状況からみて,どのパターンにも一定数の参
平成 26 年度は参加を希望者のみとしていたが,平成 27
加者がおり,いづれか 1 つのパターンに参加者が偏重し
年度は 4 年生の必修科目の中に(「総合看護」の一部と
ている状況は伺えない.
して地域連携をテーマとした単元を設けて)カフェへの
プログラムについては,3 ヶ月分を予め参加者に提示
参加を組み入れ,かつ希望者の参加を受け入れたため,
しているほか,市の広報にも掲載をし周知を図っている.
各回 10 〜 20 名の学生が参加した.
3.参加者の反応
2.認知症カフェの実施内容(表 3 参照)
平成 26 年 11 月の開催当初の参加者アンケートでは,
表 3 はオレンジカフェ「A」で実施した内容を示した
カフェは「過ごしやすい雰囲気であった」,
「十分話がで
ものである.
きた」,
「また参加してみたい」とほぼ全員が回答した.
カフェでは,認知症の人へのプログラム(作業)およ
カフェへの参加動機は,
「参加者と話をしてみたいと思っ
び参加者による話し合いのプログラムは毎回組み入れて
た」と半数以上が答えた.このほか,
「気分転換ができ
いるが,
「話し合いの時間を長くし,話し合いを中心に
ると思った」
「
,相談したいこと,困っていることがあった」,
活動する回」,
「認知症介護者の体験を記した文献を題
「家族・友人・ケアマネージャーなどに勧められた」,
「認
材に意見交換を組み入れる回」,
「ゲームやコンサートな
知症のかたと家族が一緒に出かけられる場が欲しかっ
ど認知症の人と家族,参加者が一緒に楽しめる企画を
た」,
「どういうところか興味があった」,
「これからのため
組み入れる回」,
「講話を組み入れる回」の 4 つのパター
にと思った」,
「自分の知識のために」,
「見取りを終わり,
ンを組み合わせて内容に変化をつけている.
経験者として役立てればと思った」であった.
表 3.オレンジカフェ「A」の実施内容
1
2
2
− 53 −
看護大学で行う認知症カフェの成果と課題
希望する講座は,
「脳トレや制作など,認知症予防の
「まだ家族が認知症だと周りには言えないが,ここへ
プログラム」を半数以上が希望していた.
「認知症につ
は友達づくり,仲間づくりに来ている.そして,認知症
いての話」,
「介護者のストレス解消」,
「転倒予防などの
である家族(認知症の参加者)にも友だちをつくってあ
運動プログラム」の順で,そのほか,
「参加したグループ
げたいという思いで参加している」家族,
「家に帰って認
だけでなく他のグループの話も聞きたい」,
「介護して笑
知症である家族(参加者)が作った作品をみながら,話
えた話とか明るい話題も是非聞いてみたい」,
「声を出し
をしている」家族,
「お気に入りの学生ができ多くの学生
たり体を動かしたい」
「学生さんが司会して和やかに笑っ
,
に囲まれて学生との会話を毎回楽しんでいる」認知症の
たりできる企画がほしい」などの意見もあった.
参加者,
「作品作りは苦手と言いながらも学生たちに励まさ
その後アンケートなどは実施していないが,
「楽しい」,
れて感性豊かな作品を作り上げる」認知症の参加者など
「過ごしやすい」,
「学生がいるので元気になれる」
,
「話
の反応や行動が観察され,オレンジカフェ「A」が仲間づ
を聞いてもらえた」,
「気乗りせず来たが帰りには元気を
くりや話す楽しみを味わえる場,家族が新たな一面に気づ
もらった気がする」,
「介護相談ができた」などの意見が
く場として機能していることが伺える.これらのことは,認知
聞かれている.
症カフェに期待されている機能そのものである.
表 4.評価会における学生の感想の概観
− 54 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
4.学生の反応
はカフェの意味に対する気付きとなっていた.
第 1 回のカフェに参加した学生の感想は,
「話しをする
これらはあくまでも感想であり,研究的視点での分析
と症状のことがわかると同時に接し方の勉強になった」
,
は行っていないが,学生参加が参加した学生にとっても,
「介護の上での苦労や様々なケースの話を聞き,求めら
れる対応について勉強になることがたくさんあった」,
「介
また参加者にとっても効果的に機能しており,プログラム
も適切であると推察できる.
護の現状をきくことができた」,
「介護の生の声を聞き,
自分の中でどう関わっていくのが良いのか考えられた」,
Ⅴ.課題認識と将来展望
「参加者の会話が途切れず驚いた」,
「難しかった」,
「コ
ミュニケーション力がないのを実感した」,
「参加者の方々
1.オレンジカフェ「A」の総合的評価
とたくさん触れ合うことができ,楽しく過ごせた」などが
オレンジカフェ「A」の参加者は 10 ~ 20 名程度であ
あった.地域の人との交流については,
「地域の方と交流
り,参加が固定してきている参加者と毎回新規に参加す
してみて,良い体験となった」,
「皆さん優しかった」,
「もっ
る参加者とが混在している.これまでに資料等 3)で公表
と話したかった」などがあった.認知症や介護について,
されている他の認知症カフェの報告においても 10 ~ 20
「本人も介護者もつらい思いをしている」,
「本人も可哀想
名程度の参加者であることから,他の認知症カフェと遜
だが,家族の苦労も大きい」,
「ご本人もとてもつらいと
色ない参加者を得ている.また,参加者からの反応を踏
思う」,
「認知症のかたもとても元気で,症状がある以外
まえると,オレンジカフェ「A」は地域に定着しつつある.
は普通の人と変わらないと思った」,
「あまり理解できな
当初からの目的である「認知症の方やその家族を地域の
かった」などがあった.
中で支援することを目的に,認知症の人と家族,認知症
また,評価会での振り返りで聞き取った学生の感想を
の理解を深めたい地域住民,専門職等が参加でき,安
概観してみると,
「地域住民の方と嬉しさ楽しさを共有で
心して集うことが出来る場とする」はある程度達成でき
きた」,
「家族の気もちが理解できた」,
「カフェの必要性
ていると評価できる.ただし,参加人数のばらつきがあ
を感じた」,
「こちらの工夫一つで相手が変わる」,
「カフェ
ること,および動員されるスタッフ数を考慮すると,コン
をもっと知ってもらいたい」の大きく5つのカテゴリーに
スタントに 20 名程度の参加者が得られるように,内容
整理できた(表 4).
や広報の方法を工夫する必要がある.
「地域住民の方と嬉しさ楽しさを共有できた」では,
ところで,2013 年 3 月に認知症の人と家族の会によっ
自分が楽しく,地域住民の方にも楽しんでもらえた体験
てまとめられた「認知症カフェのあり方と運営に関する調
が含まれる.
「家族の気もちが理解できた」では,悩み
査研究事業報告書」3)によれば,認知症カフェの効果を
がわかった,悩みを共有できることで楽になれるなどが
「認知症の人と家族の両方への効果」,
「認知症の本人に
表現された.
「カフェの必要性を感じた」には,このよう
対する効果」,
「家族に対する効果」,
「地域住民への効
な場を設けることで悩みが話せる,患者と家族が離れて
果」,
「支援する医療・介護専門職への効果」
,
「支援す
お互いをみることができる,気分転換になるといった必
る市民ボランティアへの効果」,
「社会や地域への効果」
要性が認識された.
「こちらの工夫一つで相手が変わる」
に整理し 34 の効果を挙げている.同報告書 3)は,認
では,体操には関心を示さなかったが,関わりにより表
知症ケアにおける認知症カフェの意味について,①認知
情が和やかに変化した,菓子も話しのきっかけになった,
症の人が認知症の人として扱われるのでなく,一人の人と
声掛けで表情が良くなった,声掛けで楽しい雰囲気に
してその場を過ごすことにより,医療モデルでは引き出
なった,自分の笑顔が相手に楽しんでもらえる要素だと
せない本人(認知症の人)の持ち味(能力)を引き出せ
思ったなど自分も楽しみながら積極的にかかわることで
る場である.家族はこれまで知らなかった
(気づかなかっ
相手に良い変化をもたらすことを感じ取っていた.
「カフェ
た)本人の一面を見ることにより本人への認識が変化す
をもっと知ってもらいたい」には,ここに来ている人は幸
る.これにより,本人と家族の関係に変化を起こし,本
せだ,もっと情報提供すべきだなどがあった.学生たち
人と周囲との関係に良い方向の変化を生み出す,②認知
は最初緊張しながらも試行錯誤しながら参加者と関わり
症カフェは気軽に立ち寄れることで「敷居の低い医療や
を持つことで,相手が変化することを実感し,自分が楽
ケアの入り口」であり,状況に応じて「医療,福祉,行
しいと感じることが参加者をも巻き込んで気もちの共有
政に迅速につなぐ手段」であり,
「地域の中でそれまで
のある楽しい場となることを感じ取っていた.その体験
認知症につながりのなかった人を認知症につなげる・巻
− 55 −
看護大学で行う認知症カフェの成果と課題
き込む」と説明している.そして,認知症カフェに求め
3)A大学での社会貢献のあり方について
られることは「そこで過ごす時間の居心地の良さを保証
第 1 は効果が見えつつある教育的位置づけについてさ
すること」とも指摘している.
らに強化する必要がある.これまでの成果からオレンジ
この視点においてもオレンジカフェ「A」は一定の効
カフェ「A」への参加が学生に与える効果も,そして学
果を得ていると評価できる.
生がいることによってオレンジカフェ「A」参加者に及ぼ
また,オレンジカフェ「A」に対するA大学の期待は,
す効果も徐々に見えつつある.
①社会貢献の機会であり,今後の社会貢献の緒を見い
しかし,近年社会貢献活動への学生の意識低下がう
だす重要な情報資源であり,同時に社会貢献できる大
かがえる.A大学に寄せられる多くのボランティアの要
学として社会に発信する機会となる,②学生と市民とが
請に対して,参加を募るのに苦慮する事態となっている.
交流する機会を設けることで教育的な意図を組み入れら
教育内容や方法など学生の社会貢献活動への参加を促
れる機会となることであった.②は学生の反応から教育
す組織的対策を速やかに構築する必要がある.また,
的に組み入れる方向性と可能性が確認できる結果となっ
A大学が教育方針として,地域住民に積極的にかかわる
た,①についてはA大学の社会貢献として定着した位置
という意識を育てていく姿勢をうちたてることが今後の
づけとなりつつある.
継続にあたって問われている.
しかし,A大学で実施する公開講座の参加者が十分
第 2 点は,いまだ実質的な効果が実感できない社会
に得られない現状を鑑みると,情報資源,発信源として
貢献できる大学としての発信について,教員ひとりひとり
は十分とはいえない.さらに時間をかけて,地域の期待
が意識的に社会への還元の機会をもつこと,およびその
に応えられる大学であることをアピールし,社会への発
活用の場をつくり出すサポートが必要である.
信を続けていく必要がある.
また,学生と一体となって展開していける社会貢献を
目指すことも大学の特徴を踏まえると有効であろう.地
2.オレンジカフェ「A」の発展に向けて
域住民が集える場,健康について知識を得られる場と
1)参加者の確保について
して地域住民に位置づけられるよう地域住民のニーズに
固定的な参加者に対しては,参加者のニーズに合った
こたえられる大学となれるよう努力しなければならない.
内容が提供できているのか,今後の継続に向けてどのよ
オレンジカフェ「A」が,その実現に向けた第一歩となる
うな新たなニーズがあるのかなど確認していく必要があ
よう内容の充実に一層努力していきたい.
る.
また,毎回新規の参加者がおり,このような参加者に
文献
対して継続参加に繋げられるような働きかけや参加しや
すい雰囲気づくりなどが不可欠である.新規参加者のカ
1) 社会保障審議会介護保険部会(第 47 回)資料 認知症
フェへの参加の目的は様々であるが,話し合いやその他
施策の推進について,厚生労働省,平成 25 年 9 月 4 日,
の活動に参加し楽しかったと感じ,リピートしたいと思え
www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai.../0000021004.pdf
る環境やプログラムを整備することも必要である.
2) 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)厚生労
2)主催者のもつ資源の活用の可能性
働省,平成 27 年 1 月 27 日,
本オレンジカフェの特徴は大学での開催により学生が
www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou.../01_1.pdf
関わること,教員の知識の地域への還元といった特徴
3)認知症の人と家族の会:平成 24 年度老人保健事業推進
がある.また,B市介護保険サポーターズが培った「家
費等補助金 老人保健健康増進等事業 認知症カフェ
族の話をじっくり聴き,家族の思いの表出を促す」ため
のあり方と運営に関する調査研究事業報告書,2013.
の話し合いをスムーズにすすめるノウハウと,B市の地
域住民への広報能力や社会への発信力にも期待できる.
これらの特徴を効果的に活用できるよう工夫を重ね,研
究的視点での評価を行う必要がある.
評価を行った上で本学の社会貢献のあり方,今後の
本オレンジカフェの発展性も含めてノウハウをどのように
活用していくか考えねばならない.
− 56 −
受理日:2016 年 1 月 5 日
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【実践報告】
成人慢性疾患患者のセルフケア支援の理解を深める演習方法の検討
-グループワークによるレポートの記述内容を分析して-
Examination of the practice method to deepen understanding of the self-care support of
the adult chronic disease patient
-From the analysis of the group work report中村 織恵 1) 本谷 久美子 2) 中井 美鈴 1) 田道 智治 2)
内田 佳代 1) 柳澤 まゆみ 1) 今川 詢子 1)
Rie NAKAMURA Kumiko MOTOYA Misuzu NAKAI Tomoharu TAMICHI
Kayo UCHIDA Mayumi YANAGISAWA Junko IMAGAWA
要 旨
成人期にあるセルフケア支援を必要とする対象への看護ためのよりよい学内演習方法への示唆を得ることを目的に,成
人慢性腎不全患者の事例を用いて行った演習で記述されたレポート内容を分析した.その結果 248 のコードから,6 コア
カテゴリー【透析・治療導入の受け入れを整えるための支援】
,
【食事療法を実施するための工夫と知識の提供】
,【薬物療
法を実施するための工夫の提案】
,
【透析やシャント管理に関する知識・技術の提供】,
【通院や透析を継続するためのサポー
ト体制の構築・強化】
,
【療養生活を主体的に送るための支援】に分類された.慢性腎不全患者のセルフケア支援を大方捉
えることができていた.一方,成人期の特徴を捉えた視点での支援が不足していた.
以上より,学生が成人期の特徴を想起できる心理・社会的情報を事例に盛り込んで内容を洗練させていくととともに,
学生が対象をよりリアルに捉えられるような教育の工夫をしていく必要性が示唆された.
キーワード:成人期,慢性疾患患者,セルフケア支援,事例演習,レポート分析
Ⅰ.はじめに
アを生活の一部として受けとめ,その人なりの健康生活
を維持するのを支援するための能力の重要性について述
近年,生活習慣病の増加や医療技術の進展に伴い慢
べられている.慢性期看護では患者の全人的理解と療
性疾患患者が増加している.また平均在院日数の短縮,
養生活に必要な知識・技術の習得のみならず,患者個々
医療提供体制の整備などが進み,慢性疾患患者の療養
に不足するセルフケアを適切に見きわめ支援していけるよ
の場が病院から在宅へと拡大しつつある.それに伴い
うな能力の育成が求められており,各教育機関において
看護師の役割も疾病の治療・健康回復の支援から健康
患者のセルフケア支援をどのように教授していくかが課
維持・増進の支援へと多様化し,社会からは専門職者と
題となっている.
して質の高い看護実践が要請されている.
そこで,A 大学では成人期患者のセルフケア支援の
看護基礎教育においては,文部科学省(2004)の「看
理解をより深めるために,慢性腎不全患者の事例を用
護教育のあり方に関する検討会報告」1)で看護系大学の
いてグループワークの演習(以下,事例演習)の導入を
卒業時に必要な看護実践能力として慢性疾患をもつ人へ
試みた.事例演習は慢性疾患患者のセルフケアの支援
の療養生活支援があげられ,慢性疾患患者がセルフケ
に必要な情報を学生自らが収集し,患者に不足するセ
ルフケアを判断し具体的かつ個別的な援助内容・方法
1)
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
西武文理大学看護学部看護学科
2)
を導くことが可能であり,患者のセルフケア支援を理解
する上で有用であると考えた.先行研究では,実習の
− 57 −
成人慢性疾患患者のセルフケア支援の理解を深める演習方法の検討
受持ち患者を通じて慢性疾患をもつ患者の理解やイメー
2)
活のコントロールを必要とする患者と家族への看護を理
ジの形成に関するもの ,慢性期演習に SP(simulated
解する.成人期にあり,生涯に渡りセルフケアが必要な
patient)や TBL(team-based learning)を導入したも
人に対し,その人らしい生活を営むための援助ができる
の
3)4)
5)
,ロールプレイやビデオ教材,事例を用いた慢性
期看護過程の演習に関する報告などはあるが
6)
7)
8)
,慢
ために必要な知識・看護技術を事例や演習を通して学
ぶ』であった.
性疾患患者のセルフケア支援に焦点をあてた演習につい
なお,その後の学習進度は 2 年次後期「成人看護急
て報告したものはみあたらなかった.
性期援助論(2 単位 60 時間)」,3 年次後期「成人看護
本研究では,成人期にある慢性腎不全患者の事例か
回復期・終末期援助論(1 単位 30 時間)」3 年次後期「成
ら,学生がセルフケア支援をどのように捉えたか,その
人看護学実習Ⅰ(急性期・周手術期)」
「成人看護学実
内容を明らかにするとともに今後の演習方法への示唆を
習Ⅱ(慢性期・終末期)」であった.
得ることを目的に,
グループワークのレポート
(以下,
レポー
このような学習進度の中で本演習目標は,
「慢性腎不
ト)の記述内容を分析した.
全患者の事例をもとに,患者を身体的,心理・社会的に
捉え,セルフケア支援が説明できる」とした.同援助論
Ⅱ.研究目的
の「内部環境調節障害をもつ患者の看護」
(2 コマ 4 時
間)で慢性腎不全患者の看護について講義を行った後
成人期にある慢性腎不全患者の事例から学生が捉え
に,本演習を実施した.
たセルフケア支援の内容を明らかにし,今後の演習方法
2)事例の作成と課題の設定
への示唆を得ることを目的とした.
事例は成人期(60 歳代)にある慢性腎不全で血液透
析を導入する患者とし,患者の基本情報,生活背景や
Ⅲ.用語の定義
生活習慣,発症から入院までの経過,主な症状,検査
データ・所見,治療方針,入院後の様子,患者や家族
本研究では,セルフケア支援を「慢性腎不全患者が
の言動などの情報を経時的に盛り込んで作成した.事例
血液透析を継続し,その人なりの健康生活を維持してい
を慢性腎不全患者に設定した理由は,透析療法が必須
1)
の尿毒症期になると,頭痛や倦怠感,嘔気嘔吐,乏尿
く上で必要となる支援」 と定義する.
といった症状が顕著に表れ,身体面とともに心理・社会
Ⅳ.研究方法
的な側面への影響についても事例を描きやすいこと,ま
た食事療法・運動療法・薬物療法の他に,シャントや
1.対象者
透析合併症といった透析に関する管理,水分制限,体
A 看護大学 2 年次生 94 名.
重管理など,患者に必要とされるセルフケアを多面的に
思考することが可能であると考えたからである.
2.調査時期
課題は,
「セルフケアの視点から考えたとき,患者に
2013 年 7-8 月
どのような支援が必要か説明しなさい.」であった.
なお,事例の作成および課題の設定については教員
3.事例演習の概要
間で検討を繰り返し,加筆修正を行った. 1)本演習の位置づけと目標
3)本演習スケジュールおよび進め方
本演習は,2 年次前期の成人看護慢性期援助論(講
本演習は,オリエンテーション(10 分)・グループワー
義演習科目 2 単位計 60 時間)の最終回(2 コマ 4 時間)
ク(100 分)
・発表(30 分)・まとめ(40 分)で構成した.
で実施した.
事例と課題については演習の前々週に学生に配布し,各
A 大学の成人看護学に関連する主要科目は 1 年次後
自があらかじめ課題に取り組んだ上でグループワークに
期に「成人看護学総論(1 単位 30 時間)」が配置されて,
参加するようアナウンスした.演習グループは 5 ~ 6 名
学生は成人期にある対象の特徴の理解と,成人期にあ
編成とした.100 分のグループワーク時間内で討議し,
る対象の健康レベルに必要な看護の概念を学習した.2
その内容を学生間で記録し,討議内容発表時原稿並び
年次前期に配置された同援助論の授業目的は,
『生活習
に,演習レポートとして提出することとした.グループワー
慣病やがん,難病など慢性疾患により生涯にわたって生
クでの教員の関わり方であるが,討議内容に関する指
− 58 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
導・助言を控え,進行に関する助言のみ行った.またグ
ための支援,食事療法を実施するための工夫と知識の
ループワーク後に代表グループに討議内容を発表しても
提供,薬物療法を実施するための工夫の提案,透析や
らい,その後教員が資料を配布し演習のまとめを行った.
シャント管理に関する知識・技術の提供,通院や透析を
継続するためのサポート体制の構築・強化,療養生活を
4.データ収集方法
主体的に送るための支援,の 6 つであった.以下,本
本研究のレポートは演習中のグループ間討議(100 分)
文中にコアカテゴリーを【 】,カテゴリーを [ ] で示す.
にて抽出され,学生間で作成した記録を用いた.レポー
【透析・治療導入の受け入れを整えるための支援】
トデータ収集にあたり,演習終了時にレポートを回収し,
このコアカテゴリーは,[ 透析に対する受けとめ方・理
その後に本研究の目的と概要を口頭と文書で説明し協力
解度の把握 ][ 透析・治療に対する不安の軽減 ] の 2 つ
を求めた.研究協力への同意の求め方としては,学生個々
のカテゴリーと,2 つのサブカテゴリーから構成された.
に同意書を配布し,約 1 ヵ月間の期間を設け,同意する
透析や治療に対する患者の理解度や不安を観察するとと
場合は記名した上で学内所定の場所へ個別投函とした.
もに,必要な情報提供や話の傾聴などを通して患者の
レポートはグループ全員の同意が得られた場合のみ分析
不安を軽減させ,透析や治療の受け入れを整えるための
の対象とし,グループのうち 1 名でも同意が得られなかっ
支援を表していた.
た場合は分析対象から除外した.
【食事療法を実施するための工夫と知識の提供】
このコアカテゴリーは,[ 水分摂取の制限と工夫 ][ 塩
5.分析方法
分摂取の制限と工夫 ][ カリウム摂取の制限と工夫 ][ リン
レポートの記述内容を精読し,患者のセルフケア支援
摂取の制限と工夫 ][ タンパク質の適正摂取 ][ カルシウム
について記述された箇所を,文節または文脈単位で抽出
の適正摂取 ][ 間食の制限と工夫 ] の 7 つのカテゴリーと,
し,抽出した記述の意味を損なわないように,かつ内容
23 サブカテゴリーから構成された.水分・塩分・カリウ
が明瞭となるように表現を補足し,コードとした.コード
ム・リン・間食の制限やタンパク質・カルシウムの適正摂
の類似性に基づいてカテゴライズし,サブカテゴリーとし
取に関する知識の提供と,食事療法を遵守するための
た.カテゴリー・コアカテゴリーについても同様に,徐々
工夫などの看護を表していた.
に抽象度をあげながら分類し,それぞれの意味を表すよ
【薬物療法を実施するための工夫の提案】
うなタイトルをつけた.
このコアカテゴリーは,[ 薬の飲み忘れを防止するた
分析過程においては複数の研究者間で討議を重ね,
めの工夫 ] の 1 つのカテゴリーと,3 つのサブカテゴリー
意見の一致を原則とし,日を空けて分析を繰り返すこと
から構成された.薬の飲み忘れを防止するために,薬の
で妥当性を確保した.
ケースを使用したり,記録をするなどの工夫を表してい
た.
Ⅴ.倫理的配慮
【透析やシャント管理に関する知識・技術の提供】
このコアカテゴリーは,[ シャント管理の理解と手技の
対象者には研究の目的や方法,自由意思による参加,
獲得 ][ 透析後の入浴方法の理解 ][ 血液透析合併症とそ
プライバシー保護,対象者の不利益等について口頭と文
の対処法の理解 ] の 3 つのカテゴリーと,6 つのサブカ
書で説明し,同意書をもって同意を得た.なお,本研究
テゴリーから構成された.シャント肢を適切に管理し,
は研究者所属の倫理審査委員会で承認
(H2514)を得た.
圧迫・感染を予防するとともに,透析合併症とその対処
法について知識を提供するなどの看護を表していた.
Ⅵ.結果
【通院や透析を継続するためのサポート体制の構築・強化】
このコアカテゴリーは,[ 通院可能な病院の選択 ][ 家
グループワークに参加した 94 名のうち,92 名から同
族の支援要請 ][ 社会資源の活用 ] の 3 つのカテゴリーと,
意が得られ(97.8%),15 グループのレポートを分析対象
6 つのサブカテゴリーから構成された.通院可能な病院
とした.
を選択し,家族との調整を図りながら,必要な社会資源
分析した結果,248 のコードから,47 サブカテゴリー,
を選択・活用し通院や透析を継続するための支援を表し
19 カテゴリー,6 コアカテゴリーに分類された(表 1).
ていた.
コアカテゴリーは,透析・治療導入の受け入れを整える
− 59 −
成人慢性疾患患者のセルフケア支援の理解を深める演習方法の検討
Ⅶ.考察
【療養生活を主体的に送るための支援】
このコアカテゴリーは,[ 疾患や治療に関する知識の
獲得 ][ セルフモニタリングの実施 ][ 治療や療養生活に対
1.慢性腎不全患者の事例から学生がとらえたセルフ
する意欲・自信の獲得 ] の 3 つのカテゴリーと,7 つの
ケア支援の内容の検討
サブカテゴリーから構成された.看護の視点を病院から
本研究の結果から,学生は慢性腎不全患者のセルフ
在宅にシフトし,患者が疾患や治療に関する知識を習得
ケア支援を 6 つの柱で捉えていることが明らかとなった.
し,自分の体調をモニターしながら意欲や自信をもって
まず【透析・治療導入の受け入れを整えるための支援】
療養生活を送るための支援を表していた.
では,透析や治療に対する患者の受けとめ方・理解度を
表 1.血液透析をうける慢性腎不全患者のセルフケア支援のカテゴリー化 n= 248
− 60 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
実践報告
確認し,適切な情報提供や話の傾聴を通して不安の軽
て支援していく必要性を見出していた.
減を図ることを意味する.ここでは看護師が患者との信
以上のことから,学生は血液透析をうける慢性腎不全
頼関係の形成を土台としながら,コミュニケーションや
患者の身体的,心理・社会的な側面を理解し,患者が
観察の技術を自在に使いこなし支援する状況が示されて
セルフケアしていく上で必要な支援を多面的に捉えるこ
いると考える.
とができていた.
一般に,血液透析をうける慢性腎不全患者は,食事
療法において水分の管理,塩分の制限,リン・カリウム
2.今後の演習方法への示唆と課題
の制限に困難を感じていることが多い 9).
【食事療法を実
本演習では慢性腎不全によって透析療法を必要とする
施するための工夫と知識の提供】
【薬物療法を継続する
患者の理解を基に,特有のセルフケア支援を多面的に
ための工夫の提案】にあるように,学生は単に制限や遵
捉えられていたものの,分類されたカテゴリーの内容を
守を強いるだけでなく,それらの困難を見据えて長期的
みると不足している視点がいくつか考えられた.特に不
視点をもって患者が様々な生活状況にうまく対処しなが
足していた視点は,対象を『成人期』の発達段階特徴
ら継続していくための工夫について提案し支援していく
を踏まえた援助の視点である.成人期にある人々へのセ
方法を見出すことができていた.とくに食事療法に関し
ルフケア支援では「成人学習理論(アンドラゴジーモデ
ては,嗜好品を含めた食習慣,食事や水分に関する患
ル)」,
「エンパワーメント・モデル」
「自己効力」
「自己モ
者の主観的情報を事例の中に多く盛り込んでいたことか
ニタリング」などの概念が重要であり,看護基礎教育で
ら,具体的な支援について考えやすかったものと考える.
理解すべき内容である.
また【透析やシャント管理に関する知識・技術の提供】
【透析・治療導入の受け入れを整えるための支援】で
では,シャント肢の感染や閉塞の徴候の観察,日常生活
は,患者の受けとめ方の確認や不安の軽減といった支援
におけるシャント肢の注意事項,透析中の不均衡症候群
はあるが,患者自身が問題を発見するための支援は見当
への対処法に関する教育指導があげられた.これは透
たらず,成人学習理論においてセルフケアのための動機
析導入に伴いシャントを造設し,シャントの管理や日常生
づけとなる支援が不足していた.また,成人期にある人々
活の過ごし方に不安をもつ患者の様子を事例の中で色濃
の特徴である自立性並びに自律性を踏まえた透析や治
く描いたことにより,学生は講義内容や文献を活用しな
療に対するインフォームド・コンセントおよび意思決定に
がら具体的な教育指導を見出すことができたものと考え
至るまでの支援が不足していた.
る.
【通院や透析を継続するためのサポート体制の構築・
新谷は,
「透析患者が治療をうけたあとに送る生活を
強化】では家族構成員の特徴を捉えた患者のサポート
考えた場合,QOL を高めるには支援体制を強化するこ
として家族への支援要請の視点はあるものの,患者を支
とが重要である」
10)
と述べている.本研究の結果から
える家族への支援についての視点が不足していた.針金
も【通院や透析を継続するためのサポート体制の構築・
ら 11)は青年期にある学生は家族看護学の学習と様々な
強化】があり,ここでいうサポート体制とは家族などの
家族との関わりのあった実習を通して「患者の背景として
周囲の支援,医療費助成や介護保険などの経済的支援,
の家族」から「看護の対象として家族を理解する」に変
あるいは介護者の負担を軽減させる介護サービスの利
化したと報告している.2 年次にあり,実習の経験の乏
用を意味する.学生は演習前の講義内容をふまえ,透
しい状況では家族への支援の視点を持つことは困難で
析や療養生活の継続は患者個人の努力だけでは難しく,
あるが,今後講義内容を検討し,3 年次以降の実習の
家族の支援や社会資源の活用でサポート体制を構築す
前に家族への支援の方法について学習を深め,実習を
る必要性を捉えていた.
通して理解することは可能であると考える.
さらに,
【療養生活を主体的に送るための支援】では
さらに【療養生活を主体的に送るための支援】では,
慢性腎不全や治療に関する知識を習得し,患者自身が
患者が疾患や治療に関する知識を獲得し,意欲や自信
体調の変化を確認しながら,つねに自分の身体への関
をもって療養生活を送るための支援については捉えられ
心を高めていけるように支援することを意味する.グルー
ていたが,それがどのような支援であるのか,支援の具
プワークを通して,学生は療養生活の主体は患者であり,
体性に欠けていた.大浦らは 12),
「慢性腎不全患者のセ
生涯にわたって慢性腎不全と共生しながらその人らしい
ルフケア行動を促す支援については年齢や生活背景の自
生活が送れるよう入院中から退院後の生活を視野に入れ
己効力感への関連をふまえ十分な情緒的支援を行いな
− 61 −
成人慢性疾患患者のセルフケア支援の理解を深める演習方法の検討
がら進めていく必要がある」と述べている.家族や医療
スタッフが患者の情緒的サポートの役割を担い,患者の
紀要,第 12 号 , 37-45,2007.
3) 堀美紀子・松村千鶴・淘江七海子:模擬患者を活用し
年齢や性格,これまでの治療経過を考慮して自己効力
た教育方法の検討 - 学生の評価能力の育成に向けて -,
感を高めていけるような支援を考えていくことは重要であ
香川県立保健医療大学紀要,第 1 巻 , 89-96,2004.
ると考える.
4) 高橋奈津子・庄村雅子・佐藤幹代 , 他:模擬患者(SP)
以上のことから,本演習が 2 年次生を対象にした演
を活用した成人看護学慢性期事例演習での学生の学
習であることを考慮すると,事例の中に患者の生活背景
び,東海大学健康科学紀要,14 号,47-54,2009.
や性格,家族の関係性,医師・看護師との対話場面な
5) 常盤文枝・鈴木玲子:看護学教育におけるチーム基盤
どの情報を盛り込んで内容を洗練させていくととともに,
型学習法(TBL)導入の試み,埼玉県立大学紀要,12 巻 ,
ロールプレイやビデオ教材を用いて学生が事例の対象を
137-142,2010.
よりリアルに捉えられるような教育の工夫をしていく必要
6) 浅井美千代・三枝香代子・白鳥孝子 , 他:慢性病患者
があると考える.また演習内容・方法の検討のみならず,
の看護における教育方法の検討(その 2),千葉県立衛
演習前の講義においても本研究の結果で不足していた発
生短期大学紀要,25 巻 , 1 号 , 39-47,2006.
達段階を踏まえた患者理解の視点とセルフケア支援の
7) 菊池明美・木村美代子・狐崎豊子 , 他:虚血性心疾患
視点を意識づけ強化していけるように,講義内容を見直
患者へ生活習慣を改善するために個別ビデオ学習を導
し組み立てていくことも今後の課題となった.
入した効果 JHLC の経時的変化から,日本看護学会
論文集成人看護Ⅱ,34 号 , 144-146,2004.
Ⅷ.結論
8) 佐藤栄子・小野千沙子:慢性期患者事例を用いた看護
過程演習の効果と課題 複数の患者事例導入の試み,
桐生大学紀要,24 号,117-125,2013.
1.血液透析をうける慢性腎不全患者のセルフケア支
援は,
【透析・治療導入の受け入れを整えるための支援】
9) 月田佳寿美・宮﨑徳子:血液透析を受けている慢性腎
【食事療法を実施するための工夫と知識の提供】
【薬物
不全患者の現状と認識に関する調査-福井県における
療法を実施するための工夫の提案】
【透析やシャント管
調査報告-,福井医科大学研究雑誌,第 2 巻 , 第 1 号 ,
理に関する知識・技術の提供】
【通院や透析を継続する
29-39,2001.
ためのサポート体制の構築・強化】
【療養生活を主体的
10) 新谷恵子・田村幸子:血液透析患者の QOL の構成要素,
新潟医療福祉学会誌,7(1), 57-59,2007.
に送るための支援】の 6 つで,慢性疾患患者への支援
は多面的に捉えることができていた.成人期にある患者
11) 針金佳代子・白井英子:青年期にある学生が家族看護
学を学ぶ意義 , 天使大学紀要 12,15-31,2012.
の特徴を踏まえた視点は不足していた.
2.事例演習の学習成果をより上げるためには,事例
12) 大浦まり子・田中輝和:保存期慢性腎不全患者のセル
の内容を洗練させていくとともにロールプレイやビデオ教
フケア行動に対する自己効力感とその関連因子,香川
材などを取り入れて事例の対象をより理解しやすいよう
県立保健医療大学紀要,第 3 巻 , 127-136,2006.
に工夫すること,また成人期の特徴の理解など,関連す
る講義内容の充実を図ることが今後の課題である.
受理日:2016 年 1 月 5 日
謝辞
本研究趣旨を理解し,快く学習成果のレポートを提供
をしてくださった学生の皆様に感謝申し上げます.
文献
1) 文部科学省:看護教育のあり方に関する検討会 , 2004
2) 宮堀真澄・永田美奈加・榊 紘子:患者の語りから看
護学生が捉えた慢性疾患を持つ人の看護-腎センター
実習記録内容の分析から-,日本赤十字秋田短期大学
− 62 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
【資料】
A 看護大学生の保健師国家試験受験資格取得と保健師
基礎教育に対する認識 第1報
Research about A nursing college students’ thought for a basic education and qualification method of public
health nursing. Part 1
永井 健太 平塚 久美子 市原 千里
Kenta NAGAI Kumiko HIRATSUKA Chisato ICHIHARA
要 旨
本研究は,A 大学の全学生が保健師国家試験受験資格(以下,保健師受験資格)を得ることができた統合カリキュラム
の学生を対象に,保健師受験資格や保健師基礎教育に関連した学習についての認識を明らかにし,今後の保健師基礎教育
への示唆を得ることを目的に質問紙調査を行った.結果,7 割以上の学生が A 大学入学時に保健師受験資格取得方法
を認識していなかった.5 割弱の学生がプリシード・プロシードモデルを保健師課程のみが学習することが望ましいと回
答し,看護師課程と共通して学習することが望ましい項目では,6 割の学生が離乳食と回答した.また,7 割以上が看護
師資格のみの取得であっても公衆衛生看護学を学ぶ必要性があると回答した.今後の保健師基礎教育の課題には,看護師
基礎教育と共通する学習項目について,他の看護学領域と連携し学習内容やカリキュラムの構築を図る必要があることが
示唆された.
キーワード:保健師国家試験受験資格,保健師基礎教育,統合カリキュラム
Ⅰ.はじめに
者サービスを提供できる知識が必要である.更に
2008 年の厚生労働省による医療費適正化計画による
これまで看護系大学における看護師基礎教育は,
と,地域全体で医療を提供していく「地域完結型医療」
入学者全員が看護師と保健師の教育科目を 4 年間で
が求められていることから,病院と地域とを結ぶコー
行う保健師看護師統合カリキュラムであった.しか
ディネート力や継続看護の視点を養うことができる
し,保健師基礎教育は,保健師助産師看護師法の一
公衆衛生看護学を学ぶことは大変意義がある.
部改正により平成 22 年から修業年限が 1 年以上の教
A 大学においても平成 24 年度入学生より選択制を
育となり,今後は看護師基礎教育のみとするか,保
導入することにし,保健師基礎教育課程のカリキュ
健師基礎教育を含めた教育課程(以下,統合カリキュ
ラム改訂(以下,新カリキュラム)を行い,患者を
ラム)とするか,あるいは希望する学生が保健師基
取り巻く時代背景を考慮に入れ,看護師課程の学生
礎教育を選択できる教育課程(以下,選択制)とす
でも保健師基礎教育関連の科目が履修できるように,
るかは,各大学が自身の教育理念・目標や社会のニー
看護師基礎教育課程との共通科目を増やすことにし
1)
ズに基づき選択できるものとなった .
た.しかし,看護師課程の学生からは,選択制にな
保健師基礎教育の選択制が導入される一方,近年
る以前には耳にすることがなかった「保健師の資格
の疾病構造の変化により,慢性疾患を抱えて地域で
はいらないのに」「保健師にあまり興味がないのに」
生活する人々は今後益々増加することが予測され,
と保健師基礎教育の学習について批判的な声も聞か
これからの看護師には,患者の住む地域で利用でき
れるようになった.
る社会資源や地域の文化など地域特性を踏まえた患
先行研究では,保健師の資格の在り方について検
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
討した研究はこれまで報告されているが,統合カリ
キュラムや選択制の学生の保健師国家試験受験資格
− 63 −
A 看護大学生の保健師国家試験受験資格取得と保健師基礎教育に対する認識 第1報
(以下,保健師受験資格)の取得や保健師基礎教育の
念モデル」「プリシード・プロシードモデル」
「保健
学習についての認識に焦点をあてた研究は少なかっ
指導」「健康教育」「関連法規」の 12 項目とした.演
た.そこで本研究では,これからの保健師基礎教育
習項目として「乳幼児計測」「保健指導」「健康教育」
について検討するにあたり,統合カリキュラムと選
の 3 項目を選び出し,5 段階(とてもそう思う,そう
択制の双方の学生の保健師基礎教育に対する認識を
思う,どちらといえない,あまりそう思わない,思
明らかにするため,第 1 段階として,統合カリキュ
わない)で調査を行った.
ラムにおいて保健師受験資格を全員得ることができ
看護師国家試験受験資格のみを取得する学生の公
る学生について実態調査を行ったので報告する.
衆衛生看護教育の必要性についても前項目同様に 5
段階で調査を行った.
Ⅱ.目的
(4)基本属性
性別,A 大学受験時の状況について調査を行った.
A 大学において全学生が保健師受験資格を得るこ
2)対象となる学生に,書面及び口頭にて趣旨を説明
とができた統合カリキュラムの学生を対象として,
し研究協力の依頼を行い,参加者を募り,質問紙に
保健師受験資格や保健師基礎教育に関連した学習に
記入後に回収箱に投函してもらった.
ついての認識を明らかにし,今後の保健師基礎教育
4.分析方法
への示唆を得る.
分析には,SPSS for Windows23.0 を用いて調査項
Ⅲ.方法
目ごとに記述統計を行なった.
1.研究デザイン
5.用語の説明
後ろ向き実態調査
1)看護師基礎教育と看護師課程
看護師基礎教育とは,保健師助産師看護師養成学
2.対象
校指定規則で定められている看護師国家試験受験資
本研究の対象は平成 25 年度 4 年次に在籍した学生
格を得るために必要な教育であり,看護師課程とは,
全員であり,本学生は統合カリキュラムによる保健
A 大学の選択制の学生において看護師国家試験受験
師教育課程を全て履修している.
資格のみを取得する教育課程とする.
2)保健師基礎教育と保健師課程
3.方法
1)先行研究
保健師基礎教育とは,保健師助産師看護師養成学
2)
を参考に質問紙を作成した.
校指定規則で定められている保健師国家試験受験資
(1)保健師国家試験受験資格に関して
格を得るために必要な教育であり,保健師課程とは,
「A 大学入学以前の保健師資格認識の有無」,「A 大
A 大学の選択制の学生において看護師国家試験受験
学の保健師国家試験受験資格取得方法の認識」,「受
資格と保健師国家試験受験資格を取得するための教
験において学校選択時に保健師国家試験受験資格取
育課程とする.
得可能かの考慮」,「A 大学入学時に取得を希望する
Ⅳ.倫理的配慮
資格」,「今後の保健師資格取得の希望」の 5 項目.
(2)保健師受験資格取得に関する調査項目
「保健師国家試験受験資格取得方法に対する考え」,
対象となる学生に書面を用いて趣旨を説明し研究
「望ましい保健師基礎教育機関」の 2 項目.
協力の依頼を行い,参加者を募った.参加者には,
(3)保健師基礎教育における学習に関して
研究への参加は自由意志であり研究の途中でも質問
保健師課程の学生のみが学習することが望ましい
紙の回答を中止できる権利があること,研究に参加
と考える項目について,公衆衛生看護学を専門とす
しなくてもこれからの教育について不利益を被るこ
る教員で検討を重ねた.その結果,講義項目として「予
とは一切ないことを説明した.また,質問紙は匿名
防接種」「離乳食」「乳幼児計測」「特定健診」「特定
とし,収集した質問紙は鍵のかかる場所に厳重に保
保健指導」「行動変容モデル」「自己効力感」「保健信
管し,研究終了後に破棄すること,結果の公表は個
− 64 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
資
料
人が特定されないことを保証し,説明を行ない,同
者は 85.3% であり,知らなかった者は 14.7% であった.
意が得られた場合のみ,質問紙に記入をしてもらっ
看護師養成学校選択時に保健師受験資格がある学校
た.研究者と参加者は,教師対学生関係がある.よっ
を優先的に選択したかの問いに対して,優先的に選
て,参加者が研究の参加を中止,拒否をしにくいこ
択したと回答した者は 49.5% で,優先的に選択はし
とが予測できる.よって,研究趣旨等の説明終了後は,
なかったと回答した者は 50.5% であった.A 大学の
速やかに席を外した.なお,本研究は研究計画書の
保健師受験資格取得方法について,認識していたと
段階で,東都医療大学倫理委員会の承認(承認番号:
回答した者は 23.2% で,認識していなかったと回答
H2624)を得た後に実施した.
した者は 76.8% であった.
A 大学に入学した時点での希望職種は,看護師
Ⅴ.結果
と回答した者が 84.2% と最も多く,次いで助産師が
11.6%,保健師が 4.2% であった.今後,保健師受験
対象者 104 名のうち 97 名より回答が得られた.97
資格取得を希望するかの質問について,一応取得し
名のうち回答に未記入があった 2 名を除き,95 名を
ておきたい回答した者が 40.0% と最も多く,次いで
有効回答とした.なお,回収率は 93.3%,有効回答率
将来保健師になる可能性があるので取得しておきた
は 97.9% であった.
いと回答した者が 23.2%,保健師になりたいので取得
を希望すると回答した者が 21.1%,保健師資格はいら
1.対象の属性
ないが 11.6%,その他が 4.2% であった.
対 象 95 名のうち, 性 別 比は男性 13.7%, 女 性は
86.3% であった.A 大学受 験 時の状況は,現役 生が
3.保健師国家試験受験資格取得方法の認識
87.4% と最も多く,次いで浪人生が 4.2%,高校以外の
保健師基礎教育機関に様々な教育機関があること
学校に通っていた者が 5.3%,その他が 3.2% であった.
についての質問について,様々な方法があってよい
と回答した者が 51.6% と最も多く,次いで問題ない
2.保健師国家試験受験資格の認識
と回答した者が 46.3%,不公平であるが 1.1%,その
A 大学入学以前に保健師という資格を知っていた
他が 1.1% であった.
表1.保健師国家試験受験資格について
表2.保健師国家試験受験資格取得方法についての考え
− 65 −
A 看護大学生の保健師国家試験受験資格取得と保健師基礎教育に対する認識 第1報
表3.保健師課程の学生のみが学習することが望ましいと考える講義項目
表4.保健師課程の学生のみが学習することが望ましいと考える演習項目
表5.看護師資格のみを取得する学生に対する公衆衛生看護を学ぶ必要性
保健師基礎教育を受けるうえで望ましいと考える
験資格のある学校を優先的に選択しなかった.また,
教育機関について,大学で選択制と回答した者が
入学した学校の保健師受験資格取得方法について,7
56.8% と最も多く,次いで大学全員保健師受験資格が
割以上の学生が認識していなかったと回答した.保
取得できると回答した者が 36.8%,1 年課程が 4.2%,
健師選択制の学生を対象とした先行研究では,入学
大学院が 2.1% であった.
した学校の保健師受験資格取得方法について,2 割の
者が認識していなかったと回答していた 2).
4.保健師基礎教育課程に必要な学習項目の認識
本研究の対象は全員が保健師受験資格を得ること
保健師基礎教育課程に必要な学習項目について,
ができる学生であり,対象が入学した平成 23 年度は,
保健師課程の学生のみが学習することが望ましい講
全国でも 2 割弱の看護系大学のみが選択制を導入し
義項目は,とてもそう思う,そう思うを合わせると
ていた 3).また,A 大学が所在する B 県では,選択
プリシード・プロシードモデルと回答した者が 48.4%
制を導入している看護系大学はなかった.近隣の看
と最も多く,次いで保健信念モデルと回答した者が
護系大学が選択制ではなく全員が保健師受験資格を
44.2%,行動変容モデルが 37.9% の順であった.演習
得ることができたことから,学生は,保健師受験資
項目は乳幼児計測,保健指導,健康教育ともに 4 割
格取得の方法について意識する必要性が少なからず
以上の者が看護師課程の学生も学習したほうがよい
なかったと考えられる.一方で,保健師受験資格の
と回答していた.
ある学校を優先的に選択した学生のなかには大学だ
看護師受験資格のみを取得する学生に対する公衆
けでなく,看護専門学校 3 年生課程も選択肢に考え
衛生看護学を学ぶ必要性について,とてもそう思う,
ていたことが推測できた.
そう思うを合わせると看護師受験資格のみの取得で
今回の研究結果から,入学時から保健師を希望し
あっても公衆衛生看護学を学ぶ必要性があると回答
ていた者は先行研究 2) の結果と同じく 1 割に満たな
した者は 70.5% であった.
かった.しかし,今後,保健師の資格を取得する希
望があるかの問いに,2 割りの学生が保健師になり
Ⅵ.考察
たいので取得を希望すると回答していた.下村らは
保健師の活動の展開方法や援助技術を学ぶためには,
1.保健師受験資格の認識
活動の場面を見学したり体験したりできる実習体験
看護師養成学校選択時に,5 割の学生が保健師受
が重要であると述べている 4).今回の対象は,保健師
− 66 −
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
資
料
基礎教育の学習を全て終えている 4 年生であること
等で経験した結果,保健師課程だけでなく看護師
から,臨床実習において地域で働く保健師の業務を
課程においても大切な学習項目であるという認識と
理解し保健師の活動の実際に触れたことから保健師
なったと考える.
の魅力を感じることができた.よって,将来,保健
看護師資格のみを取得する学生が公衆衛生看護を
師として働きたいと考えた学生が増えたと考えられ
学ぶ必要性について,7 割以上が看護師資格のみの取
る.
得であっても公衆衛生看護を学ぶ必要性があると回
答していた.つまり,看護職として公衆衛生看護学
2.保健師受験資格の取得方法の認識
を学ぶ意義が大きいと考えていることがわかった.
保健師基礎教育機関に様々な教育機関があること
について肯定的な考えを持っている者が 9 割以上を
4.今後の保健師基礎教育の課題
占めた.先行研究では,選択制の学生は 4 割以上の
今回の対象は,全員が保健師受験資格を得ること
者が不公平と思うと回答し,全員保健師受験資格を
ができるため,在学中の 4 年間で保健師への就職等
得ることができる学生は,2 割弱が不公平と思うと回
を考えることができた.調査結果でも,4 年生の段階
4)
答していた 。A 大学では今回の対象の 1 学年下の
で保健師になりたいものが 2 割と入学時に比べ増加
学年となる平成 24 年度から保健師選択制が導入され
していた.しかし,A 大学の保健師課程への選抜試
た.よって,A 大学においても選択制の学生の調査
験は 2 年生後期で実施される.綾部らによると,学
を行い,今回の調査結果と比較することが必要である.
生は保健師教育課程の入口で最も基本的な保健師や
保健師活動のイメージづくりが難しいと述べている 5).
3.保健師基礎教育に必要な学習についての認識
よって,選択制の学生は,保健師の活動について十
保健師基礎教育に必要な学習について,保健師課
分な知識が得られていない状況で保健師受験資格の
程のみが学習することが望ましい講義項目は,プリ
選択を行う必要がある.そのため,今後の保健師基
シード・プロシードモデルと回答した者が最も多く,
礎教育では,1 年生からの早い段階で保健師活動につ
次いで保健信念モデルであった.プリシード・プロ
いて理解してもらえるよう教授方法を検討する必要
シードモデルは,生活の質の向上や改善を目的にヘ
がある.
ルスプロモーションや保健プログラムの実践のため
また,看護師課程と保健師課程の双方が共通して
の企画,評価モデルである.また,保健信念モデルは,
学習することが望ましい項目は,小児看護学や母性
予防的健康行動の理論の 1 つであり,双方の項目と
看護学で学習する項目であった.保健師基礎教育で
もに,保健師が地域において保健活動を行う際に必
は,母子保健から高齢者保健まで生涯を通じた健康
要不可欠な知識である.今回の調査は,全員が保健
づくりに対応できる知識や技術が必要である.その
師受験資格のある学生であるため一概には言えない
ためには,看護師基礎教育における学習内容との重
が,保健センターなどの保健師の実習を通し,保健
複部分や,同じ学習項目であっても視点の違いを明
師にとって必要な知識が何かを理解できたと評価す
らかにし,公衆衛生看護学以外の看護学領域と連携
ることができる.
して,学習内容や今後のカリキュラムの構築をして
看護師課程と保健師課程が共通して学習すること
いくことが課題として示唆された.
が望ましいと考える講義項目では,離乳食が最も多
く,次いで予防接種,乳幼児計測が上位を占め,演
Ⅶ.研究の限界と意義
習項目でも乳幼児計測と回答した者が最も多かった.
大学における看護系人材養成の在り方に関する検討
今回の調査における対象が一施設であったことか
会による『学士課程においてコアとなる看護実践能
ら,結果は一般化できるものではない.しかし,統
力と卒業時到達目標』をみても,離乳食や予防接種,
合カリキュラムによる保健師教育課程を全て履修し
乳幼児計測は新生児・乳幼児と家族への看護援助方
ている学生における,保健師受験資格や保健師基礎
法として学習する項目である.また,今回の対象者
教育に関連した学習についての認識を把握すること
は看護師基礎教育課程における臨地実習も全て終了
ができたことは,今後の保健師基礎教育を検討する
していることから,小児看護学や母性看護学の実習
ための基礎調査としては意義があるといえる.
− 67 −
A 看護大学生の保健師国家試験受験資格取得と保健師基礎教育に対する認識 第1報
Ⅷ.結論
4)下村聡子,安田貴恵子,酒井久美子,御子柴裕子,柄澤
邦江他:地域看護実習での体験を通して得られた学生
本研究は,A 大学において全学生が保健師受験資
の学び-市町村および保健所における実習に焦点をあ
格を得ることができた統合カリキュラムの学生を対
てて-.長野県看護大学紀要.14;35-49,2012
象として,保健師受験資格や保健師基礎教育に関連
5)綾部明江 , 富岡実穂 , 木下由美子:保健師志望学生が望
した学習についての認識を明らかにし,今後の保健
む保健師教育のあり方-A大学 4 年生の意見を通して
師基礎教育への示唆を得ることを目的とした.その
-.茨城県立医療大学紀要.17;51-58,2012
結果,以下のことが明らかになった.
1.地域での臨地実習において保健師活動の実際に
触れたことから,保健師の業務を理解し,保健師に
魅力を感じることができた。よって,保健師受験資
格を取得したい学生が増加したことが考えられた.
2.保健師課程のみが学習することが望ましい講義
項目には,保健師が地域において保健活動を行う際
に必要不可欠な知識である項目が上位を占めた。こ
のことから,地域での臨床実習を通して,保健師に
とって必要な知識が何かを理解したと評価すること
ができた.
3.7 割以上が看護師資格のみの取得であっても公
衆衛生看護を学ぶ必要性があると回答した.このと
から,看護職として公衆衛生看護学を学ぶ意義は大
きいと考えていることがわかった.
4.今後の保健師基礎教育の課題として,1 年生か
らの早い段階で保健師活動について理解してもらえ
るよう教授方法を検討する必要がある.また,公衆
衛生看護学以外の看護学領域と連携して,学習内容
や今後のカリキュラムの構築することが必要である
と示唆された.
5.今後,選択制の学生の調査を行い,今回の調査
結果と比較することが必要である.
文献
1)大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会:
大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会
最終報告:2011
2)高橋郁子 , 嶋澤順子 , 久保善子他 : 看護系大学における
保健師教育に対する学生の認識- A 大学の保健師教育
課程選択制に関わる現状と課題-.東京慈恵医科大学
雑誌.128;99-107,2013
3)全国保健師教育機関協議会将来計画委員会:保健師選
択制ならびに大学院の選抜方法と教育内容に関する緊
急 調 査 結 果 .http://www.zenhokyo.jp/work/doc/h25iinkai-shourai-201311-2.pdf,2015.12.3
− 68 −
受理日:2016 年 1 月 5 日
東都医療大学紀要 第 6 巻第1号
東都医療大学紀要投稿要領
東都医療大学 研究・紀要委員会
【実践報告】 実践内容を報告することにより、ヒュー
1.目的
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科は、看
マンケアの向上や発展に寄与し、発
護学科の研究および活動の成果を発表するために「東
表価値が認められるもの。
【資 料】 有用な調査データや文献を用いるな
都医療大学紀要」を刊行する。その内容は、ヒュー
マンケアの向上および発展に寄与するものである。
ど、ヒューマンケアの向上や発展に
なお、他誌に発表されていないものに限る。
貢献できるもの。
5.原稿執筆の要領
2.投稿資格
1)本学の専任教員、または本学の非常勤講師で専
1)原稿は和文を原則とする。A 4 判 1,200 字詰め
任校をもたない者を原則とする。ただし、研究・
の横書き(ワープロは 40 字× 30 行)とし、当
紀要委員会が認める場合はこの限りではない。
用漢字、新かなづかいを用いる。句読点は , . を
用いること。
2)共同研究者は、他機関所属の者でも共同で執筆
上下左右の余白は、上端 30mm・下端 20mm・
することができる。
左端 22mm・右端 22mm とする。
2)論文の記述は、以下の順序とする。
3.著作権
著作権は東都医療大学に帰属する。研究・紀要委
原稿の構成は、はじめに、方法、結果、考察、
員会から提示する著作権譲渡同意書に著者全員が自
文献とする。
筆署名し、原稿と共に提出する。
原著には和文要旨(400 字以内)及び英文要旨
(200 Word 以内)をつけ、総説・研究報告・実
践報告には和文要旨(400 字以内)をつける。
4.論文の種類
a.総 説: 10 枚以内(12,000 字以内)
3)図表は、原稿末尾に添付し、図 1、表 1、写真 1
b.原 著: 15 枚以内(18,000 字以内)
などと番号をつけ、原稿の右側の欄外に挿入位
c.研究報告: 12 枚以内(14,400 字以内)
置を明示する。
4)測定単位は metric unit を用い、数字は算用数字
d.実践報告: 12 枚以内(14,400 字以内)
を用いる。
e.資 料: 10 枚以内(12,000 字以内)
5)文献は、論文に直接関係あるものにとどめ、引
用順に並べ、本文中には引用部位の右肩に文献
論文の種類の内容は以下のとおりである。
番号 1)2)…を付ける。著者名は 5 名までを明記し、
それ以上は「…ら」あるいは「…et al.」とする。
【総 説】 特定のテーマについて知見を多角的
に概観または文献を展望し、総合的
雑誌名の略称を使用する場合は、日本医学雑誌
に概説したもの。
略名表、Index Medicus に従う。
【原 著】 研究論文のうち、独創性が高く、新
しい知見が論理的に示され、研究論
(雑 誌)著者名:表題.雑誌名.巻:頁 - 頁,発行年
(西暦)
(単行本)著者名:表題.編者名.書名.発行地:発行
社名;頁 - 頁,発行年(西暦)
文として形式が整っているもの。
【研究報告】 研究論文のうち、内容・論文形式に
おいて原著論文にはおよばないが、
6.倫理的配慮
研究としての意義があり、発表の価
人および動物が対象である研究は、倫理的に配慮
値が認められるもの。
されている内容を本文中に必ず明記する。
− 69 −
東都医療大学紀要投稿要領
7.投稿手続き
2009 年 10 月 22 日 制 定
1) 投稿原稿(本文および表など)を 3 部、投稿用
2010 年 11 月 22 日 一部改正
表紙を 3 部、投稿原稿チェックリストを 1 部、
2013 年 2 月 15 日 一部改正
紀要投稿申込書を添えて、研究・紀要委員会に
2014 年 2 月 25 日 一部改正
提出する。本文には著者名、所属機関は記載し
2014 年 10 月 20 日 一部改正
ない。
2015 年 3 月 25 日 一部改正
2) 投稿用表紙には、①表題、②所属、③共著者
を含む著者名(以上は英文で併記し、姓名は
Masuyo MAEDA のように記述)、④希望する
論文の種類、⑤和文キーワード・欧文キーワー
ド各 5 語以内、⑥連絡者氏名及び連絡先(メー
ルアドレス、電話番号など)を記入する。
8.原稿の受付及び採否
1) 原稿の受け付け締め切りは毎年原則 10 月末とし、
原稿が到着し内容が確認された日を受付日とし
て、本誌に掲載する。
2) 原稿の採否および種類の決定は、査読を経て研究・
紀要委員会が決定する。査読者は研究・紀要委
員会が依頼する。
3) 受付および採否については、投稿者に電子メール
で通知する。投稿原稿は返却しない。
4) 研究・紀要委員会は、投稿原稿の加筆・修正を求
めることがある。著者は査読結果に基づき、原
稿を修正し、修正箇所の内容等について記載し
た回答文書と共に、指定された期日までに再提
出すること。原則として、期限は 4 週間以内と
する。
5) 最終原稿の提出時は、本文・図・表および写真
を保存した電子メディア(CD-ROM あるいは
USB メモリ)を添付し、氏名とファイル名を記
載する。
9.著者校正および編集
1) 査読を経て採択された原稿の著者校正は、原則
として 1 回とする。校正の際の加筆は認めない。
さらに、論文に掲載する責任著者の連絡先を指
定する。
2) 編集は、研究・紀要委員会が行う。
− 70 −
2015 年 6 月 12 日 一部改正
編集後記
50 数年ぶりの暖冬となりそうな今年の冬,1 月の中旬には公園の紅梅がほころび,秩父
の山々の雪化粧も心なしか少し寂しそうな様相です.今年度は,世界に目をむけてみれば
テロ事件や紛争が相次ぎました.日本においては 2020 年のオリンピック開催に向け準備
が進められているところです.夢を追い続けることが躊躇するような社会情勢ですが,そ
れでも,スポーツ界の若者の活躍はめざましく希望と勇気を与えてくれます.
東都医療大学は開学から 8 年が経過し,紀要は第 6 巻を 3 月に発行することができ,委
員一同安堵しているところです.今年度は総説 1 題,原著 1,研究報告 2,実践報告 4,
資料 1 の計 9 題を掲載するに至りました.学生の教育はさることながら,研究に多大な時
間を費やしご協力いただいた教員の皆様に深く感謝いたします.また,学部生も含め,今
後,さらに研究活動に力を注ぎ看護界を牽引できる人材を育成したいと考えております.
東都医療大学が,ますます発展することを願い編集後記とさせていただきます.
2016 年 1 月吉日
研究・紀要委員会 委員長
吉田 幸子
発行者
東都医療大学 ヒューマンケア学部 看護学科
研究・紀要委員会 委員長 吉田 幸子
〒366‐0052 埼玉県深谷市上柴町西 4 − 2 − 11
TEL(事務局)048−574−2500
FAX(事務局)048−573−3840
URL http://www.tohto.ac.jp
発行日 2016 年 3 月 24 日
印刷会社 神谷印刷株式会社
〒115‐0043 東京都北区神谷 1 − 20 − 8
TEL 03−3912−2571
URL http://www.kamiya-print.co.jp