DM REPORT 2016-No.4 米国DMA「&THEN」 年次大会参加報告 花井 優樹 ロサンゼルスで開催された DMA2016 年次大会の模様を本年もお伝えする。 2016 年 10 月 16 日(日)~18 日(火) DMA2016 「&THEN」年次大会&展示会 展示会場:米国カリフォルニア州ロサンゼルス ロサンゼルス・コンベンションセンター DMA年次大会は、大型のコンベンションセンターがある全米中の都市を廻りながら毎年 開催されている。今年開催のロサンゼルスは西海岸ということもあり日本からの直行便で 約9時間。またコンベンションセンターは、NBAが行われるステイプルズ・センターの隣 にあり、すぐ近くにはグラミー賞授賞式会場もあるなどエンターテインメントの雰囲気を どこかしこに感じられた。 DMA年次大会については、第一に、設立から99年を迎えたダイレクトマーケティング協 会(DMA)が「データ&マーケティング協会(Data& Marketing Association)」と名称 を変更することとなった。そして第二に「データスタンダード2.0」を来年までに発表する ということである。データベース、データドリブン、データアナリティクス等、データはマ ーケティングには必須となったが、同時にどのようなデータをどのように使うのか、生活者 からするとどのように使われるのかが一番気になるところである。これまでもDMAはデー タの取扱のガイドラインや個人情報保護について、法整備におけるロビー活動を進めてき た。こうしたガイドラインのアップデートを行い、今後新たに生まれてくる新しいデータに ついても触れていくという。今後もDMAのワシントンオフィスを中心に、ロビー活動が行 われ、革新、教育、人とのつながりという4つの軸が新DMAの活動の中心となる。またDMA のボードメンバーも若干変化があり、Facebook社やMicrosoft社が名を連ねた。年次大会の 名前が「&THEN」に変わって2年目、DMAが大きく変わろうとしているのが感じられた 大会であった。 会場となるセンター 会場入り口 -1- DM REPORT 2016-No.4 1.DMA 「&THEN」 基調講演 昨年より「&THEN」へと名称変更してからこれまで長く続いていた DMA の CEO か らのメッセージはなくなったが、今年も行われなかった。しかし今年の DMA のメッセー ジとして、名称変更のアナウンスに伴い、「データスタンダード 2.0」の発表を行った。 「&THEN」では、大量のデータを扱い、マーケティング活動を行う世界中のトップ達が 集結し、実施したキャンペーンの本質について、ビジネスの成長を牽引する新しいソリュ ーションやテクノロジーについて語られた。「&THEN2016」では講演者は数百名にもの ぼり、各自の成功方法について考えを展開し、多くの参加者は自らのマーケティングに活 用できるアイデアを多く学ぶことが出来たであろう。こうしたスタイルが「&THEN」な のだと感じた。ここでは DMA が発表した「データスタンダード 2.0」と基調講演につい て紹介する。 基調講演が行われた会場(約 3,000 人が聴講) (1) DMA “次世代“データ使用のマーケティング・スタンダードの発展 「大量データが生まれる時代を乗り越える DMA のデータスタンダード 2.0」 DMA は大量のデータが生み出される現代において、マーケティング業界の責任を統治する 新たな基準を作り、幅広い業界に先駆けてリリースすることを発表した。それは「データスタ ンダード 2.0」 と呼ばれ、 この新しい基準はマーケターにガイダンスとして発信される予定で、 テクノロジー革新により生み出される大量データの利用における許可や禁止事項についてま とめたものである。 「データスタンダード 2.0」は、新しいプロファイルデータや新興技術・テクノロジーから 生まれる新たなデータの課題や、今日のデータ活用事例における顧客との関連性を高めること にフォーカスされた DMA が独自にもつ従来の基本基準の更新についても取り組む。 DMA「データスタンダード 2.0」のイニシアティブは、Acxiom 社の Sheila Colclasure 氏 により発表された。同氏は、2017 年までのロードマップを示し、2017 年 DMA 年次大会であ る「&THEN2017」ニューオーリンズで最終的に発表するとした。今後数ヶ月内に、DMA メ ンバーや社会団体と共に情報提供とレビューを行い精査しつつ、2017 年 10 月に発表される 新基準の最終版が作成される。データとマーケティング業界が「データスタンダード 2.0」と いうコンプライアンスとともに進むよう、DMA は、各種の教育カリキュラムや認定資格モジ ュールに組み込む予定と発表した。 (2) GE |Beth Comstock 講演要約 -2- DM REPORT 2016-No.4 「緊急事態となる前に、常に新しい変化に対して備えよ」 GE 社の前 CMO、そして現副会長である Beth Comstock 氏は、20 年以上にわたり同社で 驚くほど多くの新興テクノロジーとトレンドを見続けてきた。「これは私が経験した“変化” ということに対して学んだ教訓です。新テクノロジーやトレンドがただ現れたときには、皆知 っている・聞いたことがある、くらいの感覚です。しかしその後、新しいテクノロジーがやが て何らかの形で目に見える存在になったときに突然、これまでの状況や環境が崩れるのです。」 この教訓を直接的に感じたのは Hulu の開発とリリースの管理を担当したときだという。同 氏は、ネットワークのリーダーシップは大部分がオンラインコンテンツによって変化するだろ うとプロジェクトで話したが当初は受け入れられなかったという。しかしお分かりの通り、最 後に笑ったのは Comstock 氏であった。変化に備え、消費者のトレンドを観測し、プロダクト オファーに適合させることで、このプロジェクトを成功へと導いたのだ。 (3) 作家・TEDxTalks|Simon Sinek 講演要約 「テクノロジーは人との交流に成り変わるものではなく、人々と共に歩むために用いるべ きだ」 TEDxTalks では第3位の視聴数を誇り、作家で世界的に有名なプレゼンター、Simon Sinek 氏は、衝撃的なテクノロジーを考察するためには、我々を、特に我々の脳を知るこ とだと話す。 ソーシャルメディアの利用は、アルコールやニコチンなどの物質によって生み出される のと同じようにドーパミンを生み出す、という。SNS は現実世界の関係性とバランスを持 って、節度を持って使用すべきだと警告した。 「テクノロジーは人々との関係性ある生活に寄り添うべきもので、人々との関係性に成 り変わるべきではない。」また、ミレニアル世代をブランドのファンに結びつける方法や、 インパクトあるアイデアにするにはどうすればよいか、ミレニアル世代の特徴について語 る。「ミレニアル世代は気短で、自分の好きなときに、かつリアルタイムにコンテンツを 欲している。マーケターはこうした予測を行う必要がある。」 テクノロジーによるテコ入れやデータによる予測決定によって、マーケターは今まさに 求められるブランドを提供することができる筈だと話した。 (4) Wunderman | Jamie Gutfreund/Quantifind | Josh Reynolds/Shante Bacon 講演要約 「右脳と左脳両方を使って、挑戦せよ」 革新的なマーケター達がパネラーとなり、新しいマーケティングの潮流、ブランドが変 化に対応するための方法について議論した。この議論を通じて、クリエイティブで他へ影 -3- DM REPORT 2016-No.4 響を与えるキャンペーンであるための共有事項は、「データを用いており、科学に基づい た洞察があること」と話された。また、こうしたキャンペーンは効果的なマーケティング になりうるということである。「顧客に対して新しいエクスペリエンス(経験)を生み出 すためには、こうした挑戦は、右脳と左脳を結びつけて両方の脳を使う必要がある」と Wunderman 社 CMO の Jamie Gutfreund 氏は話す。「右脳・左脳双方を使うことでブラ ンド努力は素晴らしい結果を出すことに繋がります。そして世界でもっとも強力な2つの アルゴリズムは、人間の好奇心と直感でしょう。」と Quantifind 社の Josh Reynolds 氏 は話す。また Shante Bacon 氏は「マーケティングは心理学の延長線上にある」と話した。 (5) Youtuber | Tyler Oakley 講演要約 「より真実味のあるメッセージであればあるほど、消費者と繋がりやすくなる」 近年、個人のコンテンツクリエイターがマーケティングや広告メッセージを消費者に届 けるために新たなブランドを作り始めている。Youtube で脅威の 800 万人がチャネル登 録した Tyler Oakley 氏は企業が取るべき戦術について話し、それは主として、状況を理 解するということであった。ブランドはエンゲージメントを求めてクリエイターやインフ ルエンサーのもとに来たとき、広告板として扱い、企業のアプローチ方法を取るよう求め る。「しかしその方法ではうまくいかないでしょう。オーディエンスは、メッセージがコ ンテンツクリエイターにとって本物であると感じているので、もしあきらかに広告的だと わかれば、オーディエンスやクリエイターはみな、そうした投稿には関与しなくなります。」 と同氏は話す。 (出典) 1.https://thedma.org/blog/marketing-conferences/5-powerful-lessons-2016s-inspirationspeakers/ 2.ブース見学と会場全体について ブースを出していた企業は主に以下の 3 業種、この業種自体は例年と大きな違いはない。 ○マーケティングエージェンシー、オムニチャネル施策運用会社 ○マーケティングソリューションツール会社(システムベンダー、リスト提供会社) ○DM 印刷、特殊印刷会社 ただ、今年のブース展示における大きな特徴としてあげるならば、エージェンシーはマーケ ティングシステム会社と提携を行っているか、自社開発のシステムやツールを保持しているこ と。またリスト会社や印刷会社も、マーケティングソリューションシステムを何らかの形で保 -4- DM REPORT 2016-No.4 持している点である。一方システム会社は、マーケティングソリューションやコンサルに傾倒 し、システムベンダーであると同時にマーケターであると話している。3 年前はマーケティン グオートメーションのデモ機を用意するブースが多かったが昨年からそういったブースは少 なく、マーケティングオートメーションという言葉も使われなくなったと感じた。代わりにマ ーケティングクラウド、データクラウド、ソリューションクラウド、カスタマーエンゲージメ ントプラットフォーム、オムニチャネルプラットフォームなど名称は様々だ。機能としては大 きな差はほとんどなくなったのではないだろうか。自社データから顧客データのセグメンテー ション、メール配信や、メールやランディングページなどのコンテンツ作成、ダッシュボード は基本機能として搭載している。米国において特徴的な機能は、オーディエンス型 DMP から セグメンテーションを行い Web 広告配信ができ、各 SNS へのポストが可能となっているこ とだろう。各社 AI の導入も着実に進んでおり、スコアリングなどは AI が担うことになりそ うだ。まさに昨年感じたように、各ツールの機能差についての議論が一巡しきった結果として、 その先にある“顧客シナリオ”を、どう設計・構築するか、また自社データと他のオーディエン スデータとの連携から、新しいアイデアを生み出す、というところに、議論の焦点が移ってい るのではないだろうか。 3.DMA 2016 国際エコー賞授賞式 DMA 国際エコー賞とは DMA が主催する世界で最も権威のあるダイレクトマーケティング コンペティションである。他の広告賞とは異なり、受賞するためには、データ・ドリブンマー ケティングのもとに、クリエイティブ、マーケティング戦略、そして素晴らしい結果が得られ た作品である必要がある。「卓越した戦術」「難関を突破する制作物」「驚異的な結果」の 3 要素がすべて揃っているキャンペーンのみが国際エコー賞を受賞する。今年は受賞カテゴリー が増加した。通例のセクター部門(10 業界)に加え、チャネル部門(e メール、DM、ソーシ ャル、モバイル、動画)、クラフト部門(アートディレクション、コピーライティング、デー タと分析)、そしてスペシャル部門(統合マーケティングキャンペーン、中小エージェンシー、 カスタマーセントリック)となった。 DMA 国際エコー賞 2016 では、64 作品が受賞した。受賞キャンペーンは 21 種類のカテゴ リーにわけられており、その中からゴールド、シルバー、ブロンズとランキングされる。次点 作品には、ファイナリストとして表彰状が渡される。今年の DMA 国際エコー賞では、ニュー ジーランドの Colenso BBDO がグランプリ(ダイヤモンド賞)を受賞した。 DMA の CEO である Tom Benton 氏は「クリエイティブによるストーリーテリングとデー タサイエンスが組み合わさり、クライアントにとって重要な結果を残したものばかりで、どの 受賞作品も注目すべき成功したキャンペーンです。DMA 国際エコー賞は、心揺さぶるクリエ -5- DM REPORT 2016-No.4 イティブと計測可能な結果を生み出すデザインをもつ栄誉あるキャンペーンを求めています。 本日集まった皆さんは、データとマーケティング業界の最前線にいるのです。」と話す。 ◆DMA 国際エコー賞の審査基準について 基準となる<3 要素> 1. Brilliant Strategy <卓越した戦略> 卓越した戦略とは:戦略が本質的に優れていること。つまり、マーケティングコミュニケー ションの目的が明確であり、競争環境、社会問題、消費者の意識など「障壁」となる難問題 の中で、戦術的に立ち向かい、打開することができたか。 2. Breakthrough Creative<難関を突破する制作物> 難関を突破する制作物とは:新しい時代に即した改革性と第三者の目を捉える斬新さ、及び 特別な表現(外観的な表現だけでなくメッセージのオリジナリティも含め)が効果的に使用 されていること。 3. Phenomenal Result <驚異的な結果> 驚異的な結果とは:設定した目的に対してどのように優れた結果が数値的に証明できたか。 競争環境・市場状況の中で、その結果がどれだけ「驚異的」であったか。ROI(投資効率)、 RR(レスポンス率)、変換率、CPO(オーダー1件あたりのコスト)など、数値で示すこ とのできる結果が問われる。 ◆DMA 国際エコー賞の審査 DMA 国際エコー賞の審査は各国からそれぞれの専門分野で選び抜かれた審査員により厳 しく審査される。基準となる<3 要素>をすべて満たし、且つ総合的に成功した結果を説 明・証明できることが求められる。<3 要素>がバランスよく、すべて秀でた作品がエコー 賞受賞作品に選ばれる。ただしクラフト部門は、一部上記の配点が異なる。 エコー賞審査員パネル 授賞式会場 (出典) 2.https://thedma.org/news/dma-announces-2016-international-echo-awards- medalists-at-echo-gala/ 花井 優樹 フュージョン株式会社 プランニングチームマネージャ -6-
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